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治療前のステロイド点眼使用歴による真菌性角膜炎の検討

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):100.104,2022c治療前のステロイド点眼使用歴による真菌性角膜炎の検討河内さゆり*1坂根由梨*2鳥山浩二*3原祐子*2白石敦*2*1愛媛県立中央病院眼科*2愛媛大学医学部眼科学教室*3松山赤十字病院眼科CReviewofFungalKeratitisinPatientsWithandWithoutTopicalSteroidAdministrationBeforeInitiatingTreatmentSayuriKouchi1),YuriSakane2),KojiToriyama3),YukoHara2)andAtsushiShiraishi2)1)DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospitalC目的:真菌性角膜炎について,治療前のステロイド点眼使用の有無による傾向を検討する.方法:対象はC2008年1月.2019年C12月に愛媛大学医学部附属病院で治療した真菌性角膜炎C30例C30眼.抗真菌薬の治療開始前にステロイド点眼が使用されていた使用群と非使用群について,起炎菌,発病から抗真菌薬治療開始までの期間,治療開始から軽快までの期間,治療的角膜移植数を検討した.結果:非使用群はC11眼,使用群はC19眼で,使用群のC14眼は角膜炎発病前から,5眼は発病後から使用していた.起炎菌は非使用群が全例糸状菌で,使用群は酵母様真菌C8眼,糸状菌C11眼であった.治療開始までの期間は,非使用群C9.4±10.3日に比べ使用群はC39.1±61.4日と有意に遅かった(p=0.002).軽快までの期間も非使用群C36.7±32.7日,使用群C53.4±32.2日と使用群は長期化していた(p=0.041).治療的角膜移植数は,非使用群がC11眼中C2眼,使用群がC19眼中C5眼で有意差はなかったが,使用群のみでは発病後から使用の症例はC5眼中C4眼と治療的角膜移植に至る割合が有意に高かった(p=0.006).結論:治療開始前にステロイド点眼を使用している患者では,所見がマスクされることで診断や治療開始が遅れ,治療が長期化する可能性がある.真菌性角膜炎発病後からのステロイド点眼使用は,治療的角膜移植に至る率を高めるため注意が必要である.CPurpose:ToCexamineCtheCcharacteristicsCofCtheCfungalkeratitis(FK)inCpatientsCwithCandCwithoutCtopicalCste-roidCadministrationCbeforeCinitialCtreatment.CSubjectsandmethods:ThirtyCpatientsCdiagnosedCwithCFKCatCEhimeCUniversityHospitalbetweenJanuary2008toDecember2019werereviewedandclassi.edintotwogroups:ste-roidCusegroup(GroupS:n=19Cpatients)andCsteroidCnon-usegroup(GroupCN:n=11patients).CBetweenCtheCtwoCgroups,wecomparedthecausativefungi,theperiodfromFKonsetCtomedicaltreatment,theperiodfrominitiatingCtreatmentCtoCimprovement,CandCtheCnumberCofCtheCcasesCthatrequiredCpenetratingCkeratoplasty(PKP).CResults:InCGroupCS,CtheCcausativeCfungusCwasCyeast-likeCfungiCinC8CpatientsCandC.lamentousCfungiCinC11Cpatients,CwhileCinCGroupCN,CtheCcausativeCfungusCwasC.lamentousCfungiCinCallC11patients.CTheCperiodCfromCFKConsetCtoCmedicalCtreat-mentCandCfromCinitiatingCtreatmentCtoCimprovementCwereCbothCsigni.cantlyClongerCinCGroupCSCthanCinCGroupCN.CTwoCpatientsCinCGroupN(18.2%)andC5CpatientsCinCGroupS(26.3%)underwentCPKP.CConclusion:PatientswithFKCwhoCuseCtopicalCsteroidsCmayChaveCaClongerCtreatmentCperiodCdueCtoCdelayedCdiagnosisCandCtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(1):100.104,C2022〕Keywords:真菌性角膜炎,ステロイド,酵母様真菌,糸状菌.fungalkeratitis,topicalsteroid,yeast-likefungi,.lamentousfungi.Cはじめにる重篤な症例も少なくない.真菌性角膜炎の原因としては,真菌性角膜炎は難治性であり,治療期間が長期にわたるこ植物などによる外傷,ステロイド点眼の使用,コンタクトレとも多く,最終的に治療的角膜移植など手術加療を必要とすンズの装用などがおもなものとしてあげられる1.4).とくに〔別刷請求先〕河内さゆり:〒790-0024愛媛県松山市春日町C83愛媛県立中央病院眼科Reprintrequests:SayuriKouchi,DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital,83Kasugamachi,Matsuyama-city,Ehime790-0024,JAPANCステロイド点眼は真菌性角膜炎を発病後も診断の遅れや診断の誤りから使用を継続されているケースがあり,角膜炎の重篤化につながり,治療に難渋することがある.日本眼感染症学会による真菌性角膜炎に関する多施設共同研究では,予後不良因子としてステロイドの使用は有意ではなかった5)が,別の報告では糖尿病またはステロイド点眼使用歴のある症例では手術加療に至ることが多かったという報告6)や,ステロイド点眼が真菌性角膜炎の重症度に関する因子の一つであったという報告7)がなされている.そこで,今回筆者らは愛媛大学医学部附属病院(以下,当院)で検鏡または培養検査で真菌性角膜炎と診断され治療した症例について,治療が開始されるまでのステロイド点眼使用の有無を調査し,それぞれの背景,使用されたステロイド点眼の種類と使用期間,起炎菌,発病から治療開始までの期間,軽快までの期間,治療的角膜移植数について検討した.CI対象および方法2008年C1月.2019年12月に当院で入院加療を行った,検鏡または培養検査で真菌性角膜炎と診断されたC30例C30眼(男性C9眼,女性C21眼,平均年齢C72.4C±11.6歳)を対象とした.基本的な治療方針としては,糸状菌ではボリコナゾール点眼とナタマイシン眼軟膏を併用し,全身投与としてボリコナゾールもしくはイトリコナゾールの内服・静注を行った.難治例ではミカファンギン点眼やアムホテリシンCB点眼など他の抗真菌薬点眼も併用した.酵母様真菌ではボリコナゾール点眼とナタマイシン眼軟膏の併用,もしくはボリコナゾール点眼またはミカファンギン点眼を単独使用し,重症例では全身投与としてボリコナゾールもしくはイトリコナゾールの内服・静注を行った.治療初期はC1.2時間ごとの頻回点眼を行い,所見の改善に伴って点眼回数を漸減し,ほぼ鎮静化した段階でC4回まで点眼回数を減らし,再燃がないことを確認して投薬終了とした.検討方法は,対象を抗真菌薬による治療が開始されるまでステロイド点眼を使用していた群(使用群)と使用していなかった群(非使用群)のC2群に分け,発病の背景,使用していたステロイド点眼の種類と,病後からステロイド点眼を中止するまでの期間,起炎菌,発病から抗真菌薬治療開始までの期間,治療開始から軽快までの期間,治療的角膜移植に至った症例数について検討した.軽快の定義は,前述の当院での治療方針から,抗真菌薬点眼がすべてC4回以下に減量されるまでとし,治療的角膜移植に至った症例は除外とした.CII結果対象のうち,ステロイド点眼非使用群はC11眼,使用群は19眼であった.性別は非使用群が男性C4眼,女性C7眼,使用群は男性C5眼,女性C14眼であり,平均年齢は非使用群74.7±10.6歳,使用群C71.0C±12.2歳であった.ステロイド点眼使用群のうちC14眼は角膜炎発病前からステロイド点眼を使用しており,5眼は発病後から使用を開始していた.発病の背景としては,非使用群は農作業中の外傷がC8眼ともっとも多く,コンタクトレンズ装用がC2眼,兎眼がC1眼であった.使用群では角膜炎発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,角膜移植後がC2眼,他の内眼手術後がC4眼と術後点眼として使用されていた症例が多く,他は周辺部角膜潰瘍がC2眼,Stevens-Johnson症候群がC1眼,円板状角膜実質炎C1眼,ぶどう膜炎C1眼,角膜内皮炎C1眼,睫毛乱生1眼,麦粒腫C1眼であった.発病後から使用開始していたC5眼では,外傷後の消炎目的がC2眼,ヘルペス性角膜炎疑いでの処方がC2眼,周辺部角膜潰瘍疑いでの処方がC1眼であった(表1).また,発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,14眼中C13眼で抗菌薬点眼が併用されていた.使用されていたステロイド点眼の種類は,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼(以下,BM)がC12眼,0.1%フルオロメトロン点眼(以下,FM)がC7眼で,真菌性角膜炎を発病してからステロイド点眼使用を中止するまでの期間は平均C30.9C±60.5日であった(表2).起炎菌の検討では,非使用群は全例が糸状菌であり,Fusarium属がC7眼ともっとも多く,ついでCColletotrichum属がC3眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例がC1眼であった.使用群では発病前からステロイド点眼を使用していた症例ではCCandidaalbicansが5眼,Candidaparapsilosisが3眼,Fusarium属1眼,Alternaria属1眼,Penicillium属1眼,Paecilomyces属1眼,Beauveria属C1眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例C1眼で,約半数が酵母様真菌であった.一方,発病後からステロイド点眼を開始していた症例は5眼とも糸状菌であり,Fusarium属がC2眼,Alternaria属1眼,Aspergillus属C1眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例がC1眼であった(図1).発病から抗真菌薬治療が開始されるまでの期間は,非使用群が平均C9.4C±10.3日であったのに比べ,使用群では平均C39.1±61.4日と治療開始が有意に遅かった(p=0.002,Wil-coxon順位和検定).使用群のうち発病前から使用していた症例と発病後からの症例では有意差はみられなかった(p=0.199,Wilcoxon順位和検定)(表3).治療開始から軽快するまでの期間は,非使用群は平均C36.7±32.7日,使用群は平均C53.4C±32.2日で,使用群のほうが有意に軽快までの期間が長かった(p=0.041,Wilcoxon順位和検定).使用群のうち発病前から使用の症例と発病後から使用の症例では,軽快までの期間に有意差はみられなかった(p=0.894,Wilcoxon順位和検定)(表4).また,使用されたステロイドの種類による軽快までの期間は,BM群が平均C47.4C±12.8日,FM群が平均C60.3C±46.8日で有意差は表1発病の背景非使用群(11眼)使用群(19眼)発病前から使用(14眼)発病後から使用(5眼)農作業中の外傷8眼コンタクト関連2眼兎眼1眼角膜移植後2眼内眼手術後4眼周辺部角膜潰瘍2眼Stevens-Johnson症候群1眼円板状角膜実質炎1眼ぶどう膜炎1眼角膜内皮炎1眼睫毛乱生1眼麦粒腫1眼農作業中の外傷2眼ヘルペス角膜炎疑い2眼周辺部角膜潰瘍疑い1眼表2ステロイド点眼の種類と使用期間ステロイド点眼の種類発病から使用中止までの期間0.1%BM12眼C30.9±60.5日(1.266日)0.1%FM7眼BM:ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム,FM:フルオロメトロン.表3発病から治療開始までの期間ステロイド点眼治療開始までの期間p値非使用群(11眼)C9.4±10.3日(3.39日)C0.002使用群(19眼)C39.1±61.4日(5.266日)発病前から(14眼)C41.8±72.4日(5.266日)C0.199発病後から(5眼)C32.0±14.1日(11.47日)Wilcoxon順位和検定.非使用群使用群(発病前から)使用群(発病後から)糸状菌(検鏡)Beauveria属糸状菌(検鏡)1眼Pencillium属1眼1眼1眼1眼図1起炎菌起炎菌は非使用群では全例が糸状菌であった.使用群では,角膜炎発病前からステロイド点眼を使用していた症例は,半数以上が酵母様真菌であったが,発病後から使用を開始した症例は全例糸状菌であった.表4治療開始から軽快までの期間ステロイド点眼軽快までの期間p値非使用群(9眼)C36.7±32.7日(7.112日)使用群(14眼)C53.4±32.2日(18.148日)C0.041発病前から(13眼)C53.3±33.7日(18.148日)C0.894発病後から(1眼)55日Wilcoxon順位和検定.みられなかった(p=0.866,Wilcoxon順位和検定).軽快後に再度悪化し,治療を強化した症例はなかった.発病から抗真菌薬治療開始までの期間と,治療開始から軽快するまでの期間には有意な相関(r=0.54,p=0.012,Spearman順位相関係数)がみられ,治療開始が遅れるほど軽快まで時間がかかっていることが示された(図2).発病からステロイド点眼を中止するまでの期間と軽快までの期間には,相関はみられなかった(r=.0.12,p=0.704,Spear-man順位相関係数).治療的角膜移植に至ったケースは,非使用群ではC11眼中2眼(18.2%),使用群ではC19眼中C5眼(26.3%)であり,非使用群と使用群に有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定)(図3).起炎菌は全例が糸状菌であった.使用群のうち角膜炎発病後から使用開始した症例と発病前か治療開始から軽快まで(日)160140120100806040200*p=0.012,Spearman順位相関係数図2治療開始までと軽快までの期間発病から抗真菌薬治療開始までの期間と,治療開始から軽快するまでの期間には有意な相関がみられた(r=0.54,p=0.012,Spearman順位相関係数).非使用群と使用群の治療的角膜移植数使用群内の治療的角膜移植数非使用群使用群使用群(発病前から)使用群(発病後から)治療的移植あり治療的移植なし1眼(7.1%)1眼(20.0%)図3治療的角膜移植数非使用群と使用群において,治療的角膜移植に至った症例の割合に有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定).使用群内のみで検討すると,発病前から使用していた症例より発病後からステロイド点眼を開始した症例では,治療的角膜移植に至る割合が有意に高かった(p=0.006,Fisher正確検定).ら使用していた症例を比較すると,発病前から使用していた症例で治療的角膜移植に至ったのはC14眼中C1眼(7.1%)だったのに比し,発病後から使用開始した症例ではC5眼中C4眼(80.0%)と,治療的角膜移植に至った割合が有意に高かった(p=0.006,Fisher正確検定)(図3).使用されたステロイド点眼の種類による治療的角膜移植の割合は,BM群が12眼中3眼(25.0%),FM群が7眼中2眼(28.6%)で有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定).CIII考按真菌性角膜炎には大きく分けて糸状菌によるものと,酵母様真菌によるものがあり,おもな誘因として糸状菌によるものは植物などによる外傷が,酵母様真菌によるものはステロイド点眼の使用による免疫力低下があげられ,石橋らは前者を「農村型」,後者を「都市型」と区分して考えることを以前から提唱している8).今回の検討でもステロイド点眼非使用群と,使用群のうち発病後からステロイド点眼を始めた症例は,全例が糸状菌による感染であり,発病の背景としても農作業中の外傷が最多であった.一方,使用群のうち発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,起炎菌の半数以上が酵母様真菌と都市型の病型を示し,またC14眼中C13眼で抗菌薬点眼が併用されていた.酵母様真菌は眼表面の常在菌の一つであり,ステロイド点眼による免疫力低下に抗菌薬点眼による結膜.の菌叢の変化が重なって,感染を惹起した可能性が考えられた.発病から抗真菌薬での治療が開始されるまでの期間を,非使用群と使用群で比較すると,使用群のほうが有意に治療開始まで時間がかかっており,ステロイド点眼の影響で充血や浸潤などの炎症所見がマスクされたことが,診断を困難にして治療を遅らせた可能性が考えられる.また,治療開始から軽快までの期間も,非使用群より使用群のほうが有意に長く,発病から治療開始までの期間と治療開始から軽快までの期間には相関がみられた.ステロイドを使用すると数日でも菌糸の発育が著明になるという報告9)もあり,ステロイド点眼の影響による診断の遅れが,治療開始の遅れと菌糸の発育をもたらし,治療期間が長期化したのではないかと考えられた.治療的角膜移植に至った症例の割合は,非使用群と使用群で有意差はみられず,ステロイド点眼の使用の有無による差はなかった.しかし,非使用群は酵母様真菌の症例がC19眼中C8眼あり,酵母様真菌は糸状菌に比べ薬剤感受性が良好であるという報告10)や,今回治療的角膜移植に至った症例の起炎菌は全例とも糸状菌であったことから,起炎菌の違いにより予後に差が出にくくなった可能性がある.使用群内のみで検討すると,発病前からステロイド点眼を使用していた症例は半数以上が酵母様真菌による感染であり,治療的角膜移植はC14眼中C1眼のみであったのに比べ,発病後から使用開始されていた症例は全例が糸状菌感染で,治療的角膜移植が5眼中C4眼と非常に予後不良で有意差がみられた.この発病後からステロイド点眼を使用開始されていたC5眼のうちC2眼は,外傷後の消炎目的で処方されており,安易なステロイドの処方が重篤な結果をもたらしたといえる.残りのC3眼はヘルペス角膜炎や周辺部潰瘍の診断のもとに治療をされており,真菌性角膜炎が比較的まれで一般的な診療ではなじみの少ない疾患であり,診断が困難なことが一因であったと考えられる.治療がなかなか奏効しない,治療に抵抗する角膜炎では,真菌性角膜炎の可能性も考慮するべきであり,ステロイド点眼を処方する際は注意が必要である.使用されていたステロイド点眼の種類は,BMとCFMのC2種類があった.BMはステロイドの力価が高く眼内移行性もよい11)ため,ステロイド点眼としては強めの効果があると考えられており,一方CFMは角膜への浸透性が低い12)ことから比較的弱めであるといわれている.しかし,両群の軽快までの期間や治療的角膜移植に至った割合に有意差はなく,発病からステロイド点眼を中止するまでの期間と軽快までの期間にも相関はみられなかった.以上の結果から,ステロイドの種類や投与期間にかかわらず,ステロイド点眼の使用にはリスクがある可能性が示唆された.また,今回の検討では重症度の指標として,軽快までの期間と治療的角膜移植の有無を用いており,各症例の病巣の範囲や深度,所見,治療経過などの面からは検討していない.今後さらに詳しく分析していくことで,新たな知見が得られるかもしれない.結論として,植物などの外傷やステロイド点眼と抗菌薬点眼が併用されている患者の角膜炎では,真菌性角膜炎を常に意識しておく必要がある.とくにステロイド点眼を使用している場合では,炎症所見がマスクされることで診断と治療開始が遅れ,結果として治療期間が長期化する可能性がある.感染後からのステロイド点眼使用は,重篤化し治療的角膜移植に至る可能性を高めるため,感染が疑われる場合の安易なステロイド処方は厳に避けるべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GalarretaCDJ,CTuftCSJ,CRamsayCACetal:FungalCkeratitisCinLondon:microbiologicalandclinicalevaluation.CorneaC26:1082-1086,C20072)GargP:Fungal,CMycobacterial,CandCNocardiaCinfectionsandtheeye:anupdate.EyeC26:245-251,C20123)UrseaCR,CLindsayCAT,CFengCMTCetal:Non-traumaticCAlternariakeratomycosisinarigidgas-permeablecontactClenspatient.BrJOphthalmolC94:389-390,C20104)YildizEH,HareshA,HammersmithKMetal:AlternariaandCpaecilomycesCkeratitisCassociatedCwithCsoftCcontactClenswear.CorneaC29:564-568,C20105)井上幸次,大橋裕一,鈴木崇ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究.患者背景・臨床所見・治療・予後の現況.日眼会誌120:5-16,C20166)山本昇伯,石井美奈,門田遊ほか:久留米大学病院における真菌性角膜炎の検討.臨眼67:1879-1883,C20137)DanCJ,CZhouCQ,CZhaiCHCetal:ClinicalCanalysisCofCfungalCkeratitisinpatientswithandwithoutdiabetes.PLoSOneC13:e0196741,C2018)石橋康久,徳田和央,宮永嘉隆:角膜真菌症のC2病型.臨眼51:1447-1452,C19979)金井淳,沖坂重邦:角膜真菌症の病理.眼科C25:651-660,C198310)砂田淳子,浅利誠志,井上幸次ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究.真菌の同定と薬剤感受性検査について.日眼会誌120:17-27,C201611)WatsonCFG,CMcGheeCCN,CMidgleyCJMCetal:PenetrationCoftopicallyappliedbetamethasonesodiumphosphateintohumanaqueoushumor.EyeC4:603-606,C199012)KupfermanCA,CLeibowitzHM:PenetrationCofC.uoro-metholoneintothecorneaandaqueoushumor.ArchOph-thalmolC93:425-427,C1975***

フサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisome® の使用経験

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):391.396,2012cフサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisomeRの使用経験佐々木香る*1樋口かおり*1加来裕康*2出田隆一*1田中住美*1*1出田眼科病院*2慶徳加来病院EffectofAmBisomeRagainstKeratomycosisCausedbyFusariumKaoruAraki-Sasaki1),KaoriHiguchi1),HiroyasuKaku2),RyuichiIdeta1)andSumiyoshiTanaka1)1)IdetaEyeHospital,2)Keitoku-KakuHospital緒言:リポソーマル化により副作用を軽減したアムホテリシンB(リポソーマル化AMPB;L-AmB)の全身・局所投与による治療を経験したので報告する.症例:74歳,女性.木の枝による左眼外傷後2日目受診.角膜後面プラーク,前房蓄膿を伴う角膜炎を認め,フサリウムが分離された.ボリコナゾール(VRCZ)の点滴,点眼,ミコナゾール(MCZ)点眼,ピマリシン軟膏にて加療開始したが,肝障害を生じ,L-AmBの点滴および点眼に変更した.投与後低カリウム血症が生じたが,肝機能は悪化しなかった.表層角膜所見は改善したが,前房蓄膿,角膜後面プラークが高度となったため,治療開始後8週間目に治療的角膜移植を施行した.結果:採取角膜の真菌培養は陰性であり,組織では断片化菌糸が観察された.感受性試験の最小発育阻止濃度(MIC)値はAMPB<VRCZ=MCZ<ミカファンギン(MCFG)であった.結論:各種検査の結果からL-AmBはフサリウムに有効であると推測された.しかし,その有効性ゆえに,破壊菌体による炎症を惹起し,角膜深層所見の悪化をきたす可能性も示唆された.また低カリウム血症への配慮も必須である.Purpose:TodescribethetreatmentofFusarium-causedkeratomycosiswithliposomalamphotericinB(AMPB;L-AmB),whichhaslesssideeffectthanamphotericinB.Case:Thepatient,a74-year-oldfemale,sufferedaninjurytohereyefromatwig.Twodaysaftertheinsult,retrocornealplaqueandhypopyonwereobservedbyslit-lampexamination.Fusariumwasisolatedfromhercornea.Voriconazole(VRCZ;eyedropsandintravenousinjection),miconazole(MCZ;eyedrops)andnatamycin(eyeointment)wereappliedasinitialtreatment.Liverdysfunction,however,soonnecessitatedachangeintreatment,fromvoriconazoletoL-AmB.Thischangecausedhypokalemia,butnotliverdysfunction.Althoughthesuperficialcornealpathogenicregionimproved,thedeepcornealregion,includingtheretrocornealplaqueandhypopyon,progressed.Ultimately,therapeuticpenetratingkeratoplasty(PKP)wasneeded,atweek8oftreatment.Result:Cultureoftheexcisedcorneawasnegative,andfractionalfilamentousfungiwereobservedbyhistologicalexamination.Theminimuminhibitoryconcentrations(MICs)ofthedrugswereinthisorder:AMPB<VRCZ=MCZ<micafungin(MCFG).Conclusion:TheresultsofseveralexaminationsindicatethatL-AmBiseffectiveforFusarium.However,thedrugmightinduceexcessiveinflammation,givenitsstrongmycocidaleffect,whichcouldbeobservedasdeepcornealinflammation.Hypokalemiamustalsobedealtwith.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):391.396,2012〕Keywords:フサリウム,角膜真菌症,アムホテリシンB,リポソーマル化アンホテリシンB,糸状菌.Fusarium,keratomycosis,amphotericinB,liposomalamphotericinB,filamentousfungi.〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-SasakiM.D.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincho,Kumamoto,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)391 はじめに角膜真菌症には,大きく分けて市中型といわれる酵母によるものと,農村型といわれる糸状菌によるものがある1).このうち糸状菌の起因菌の代表としてはアスペルギルスとフサリウムがあるが,いずれも予後不良であることが知られている.特にフサリウムは種々の抗真菌薬に抵抗性であるが,眼科臨床分離株を用いた検討ではアムホテリシンB(AMPB)が最小発育阻止濃度(MIC)が最も低値で効果が期待できる2).しかし,AMPBは全身投与した際,腎毒性が強く,添加されている胆汁酸による細胞毒性も強いため,眼科医には扱いにくい抗真菌薬である.したがって角膜炎の治療に対して前房内局所投与を推奨する報告もある3.6).近年この副作用を軽減するために,リポソームの脂質二重膜にAMPB分子をはめ込んだリポソーマル化AMPB(アンビゾームR,以下L-AmB)が開発された.この薬剤は真菌細胞膜であるエルゴステロールに特異性が高く,真菌と接触して初めてAMPB分子が取り込まれるため,副作用が少ないとされている7).フサリウムによる心内膜炎に対してL-AmBとボリコナゾール(VRCZ)の併用療法が有効であったという臨床報告もなされている8).角膜炎に対しては臨床使用の報告はなされているものの,症例の詳細な経過およびL-AmB投与に伴う全身状態の変化などについての報告はまだない.今回,他剤による治療中に肝障害をきたしたフサリウムによる角膜真菌症に対し,L-AmBの全身・局所投与を行ったので,詳細な経過とともに,その効果を報告する.I症例呈示患者:74歳,女性.既往歴:糖尿病を患っており,血糖降下剤にてコントロールされていた.経過:木の枝による外傷後2日目,充血および眼痛にて出田眼科を初診した.左眼角膜中央部に膿瘍を認め,角膜後面プラークが観察された(図1a).高度の毛様充血と前房蓄膿を伴っていた.視力は検査は疼痛のため施行できず,眼圧は測定不可能であった.なお,右眼には白内障を認めるのみであった.角膜擦過物のスメアを施行したところ,グラム染色およびファンギフローラY染色にて糸状菌を検出したため,同日,VRCZ400mg/日の点滴,1%VRCZ点眼1時間毎,1%ミコナゾール(MCZ)点眼1時間毎,ピマリシン(PMR)軟膏眠前塗入にて加療開始した.治療開始約1週間後,角膜膿瘍は減少し,毛様充血,前房蓄膿,角膜浸潤も改善した(図1b).そこで,局所投与は続行のうえ,VRCZの内服をイトラコナゾール(ITCZ)内服(100mg/日)に変更した.すると,治療開始2週間目に急激に前房蓄膿および膿瘍が悪化した.さらに初診時に採取した角膜擦過物の培養にてフサリウムが同定された.フサリウムはITCZに耐性であることが多いため,治療開始3週間目には治療を,1%VRCZ点眼,0.1%L-AmB点眼(各々1時間毎),PMR眼軟膏眠前塗入,VRCZ200mg内服に変更した.治療開始後4週目には角膜表層側の病変は混濁化し,上皮欠損も修復する一方で,角膜後面に花弁状の後面沈着物が出現し,病巣の内皮側への拡大が疑われた(図1c,d).この時点で原因不明の肝障害が出現し,グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)526(IU/l),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)417(IU/l)となった.内科で精査したところ,夜間転倒による肝裂傷および薬剤性の肝障害の併発と診断された.この肝障害によりVRCZ内服を中止した.病巣は依然として角膜内皮側で拡大するため,治療開始6週目よりVRCZ点眼,L-AmB点眼,PMR眼軟膏に加えて,L-AmBの点滴を開始した.点滴は150mgを添付文書に従い,フィルターを通してブドウ糖500mlに溶解して,2時間かけて点滴した.L-AmB点滴開始後,臨床所見は横ばいであった(図1e)が,約1週間で低カリウム血症を生じ,カリウム製剤投与目的で近医内科に転院となった.内科入院中も上記局所治療および点滴治療を続行し,眼科は往診とした.治療開始8週目には角膜後面プラークはやや増大し,明らかに前房蓄膿も高度になった(図1f).この時点で内科的加療は断念し,保存角膜を用いた治療的角膜移植を施行した(図1g).図1症例の治療経過a:初診時所見.角膜後面プラーク,軽度前房蓄膿を伴う角膜潰瘍を認めた.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.角膜後面プラークおよび潰瘍は軽減,縮小し,前房蓄膿も消失した.VRCZ点滴を中止し,ITCZ内服へ変更した.c:治療開始後4週間目.フサリウムと同定されたため,L-AmB点眼開始1週間後には,上皮欠損は治癒し,角膜浅層は浸潤が軽減し,混濁化した.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.スリット幅を広く倍率を拡大し,内皮面に焦点をあてると,反輝光にて角膜後面プラークが放射状に伸展したことが確認できた.e:治療開始6週間目.L-AmB点眼に加えて,内科転科にて低カリウム血症をコントロールしながら,L-AmB点滴を開始した.角膜上皮側の病変がほぼ瘢痕化しており,病変の主座は内皮側となった.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.内皮側の濃プラークはL-AmB点滴開始後,プラークが厚みを増した浸潤巣となり,前房蓄膿の増大を認め,充血も高度になった.この時点で治療的角膜移植を選択した.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.VRCZの点滴,点眼にて再燃なく,経過した.392あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(104) abcdefabcdef図1症例の治療経過a:初診時所見.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.c:治療開始後4週間目.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.e:治療開始6週間目.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.(図説明は前頁を参照)g(105)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012393 (mEq/l)高度血清K<2.0中程度2.0<血清K<3.0軽度3.0<血清K<3.5K点滴投与(30~100mEq/日)K内服投与(30~100mEq/日)図2L.AmBによる低カリウム血症に対する対処方法一般に血清カリウム値が3.5mEq/l未満で対処を開始する.カリウム値の下降程度別に,カリウム製剤の内服あるいは点滴を選択する.:角膜表層の所見臨床所見:角膜深層の所見悪化改善1週2週3週4週5週6週7週8週L-AMPB点眼L-AMPB点滴VRCZ点滴/内服低カリウム血症肝機能悪化図3L.AmB点滴,点眼およびVRCZ点滴と,臨床所見の関係経過途中,最も悪化した状態と最も軽快した状態を縦軸の下限,上限として,相対的な臨床所見の変動を表した.表層の所見としては,上皮欠損,角膜表層膿瘍を参考とした.深層の所見としては,前房蓄膿,角膜後面沈着物,角膜深層膿瘍を参考とした.点線は角膜表層側の臨床所見の重度,実線は角膜内皮側の臨床所見の重度を表す.L-AmB点眼開始後,上皮側の臨床所見は軽度となり,内皮側の所見は重度となった.VRCZ点滴により肝障害が出現し,L-AmB点滴に変更したのち,角膜内皮側所見はさらに重度となった.なお,カリウム投与は図2に従って投与した.術後は1%VRCZ点眼1日5回,PMR眼軟膏塗入1日1回とし,肝障害の軽快に伴い,VRCZ点滴投与し,角膜病変の再発なく,良好な経過であった.低カリウム血症は是正されたが,肝機能は術後のVRCZ点滴再開とともに少しずつ悪化したので,術後2週間で全身投与は中止した.約半年後に光学的角膜移植を施行し,矯正視力(0.4×cyl.4.0DAx90°)を得た.L-AmB点眼,点滴およびVRCZ点滴と臨床経過の推移の関係を図3に示す.L-AmB点眼投与開始とともに,上皮側所見は改善したが,内皮所見が悪化したことを示す.また,L-AmB全身投与とともに,前房所見がいっそう悪化したことを示す.394あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012図4採取角膜の薄切切片PAS(過ヨウ素酸Schiff)染色にて断片化された真菌をわずかに認めた.しかし,この角膜の培養からは真菌は検出されなかった.II摘出角膜および分離菌の検討1.摘出角膜の組織所見摘出した角膜の半割をホルマリン固定し,薄切切片を作製し,グラム染色を施行した.図4のように,菌糸は,断片化されており,染色性も不良であった.2.摘出角膜の培養結果残りの角膜をサブロー培地にて1カ月培養したところ,真菌は陰性であった.3.初診時に分離されたフサリウムの薬剤感受性試験結果MIC値はAMPB=1,VRCZ=8,MCZ=8(μg/ml)であり,AMPBが最も低値であった.III考按今回の結果からinvivo,invitroのいずれにおいても,AMPBおよびL-AmBはフサリウムに効果的であることが推測された.まず,invitroの効果として,感受性試験の結果,今までの報告2)と同様にAMPBはVRCZやMCZに比べてMICが1μg/mlと低く,効果が期待できる結果であった.L-AmBを用いた感受性試験はできなかったが,真菌エルゴステロールに結合し,薬剤が徐放されることが明らかであり,放出されたAMPBそのものは従来のものと同様の効果を示すと推測される.ただし,実際の角膜炎の臨床の場では,どの程度真菌と結合できていているかという不測の問題は残存している.しかし,すでに動物実験では炎症眼に対する静脈内反復投与にて,最高角膜内濃度2.38μg/g,最高前房濃度0.73μg/mlという報告があり9)AMPBそのものより眼内移行が良好であり10),角膜さらには前房に薬剤が到達することは示されている.したがって,AMPBの感受性結果(106) をL-AmBの感受性結果として推測できると思われた.つぎに,invivoの効果であるが,臨床所見上はL-AmB投与後,前房蓄膿や後面プラークが増大し,悪化したように観察されたが,実際に摘出角膜を検討したところ,組織では菌糸の断片化や染色性の低下を認め,さらに培養にて陰性であった.このことから,臨床所見とは異なり,実際にはL-AmBがフサリウムに対し,効果的であったことが推測された.この臨床所見と培養あるいは組織結果の解離については,L-AmB投与後に強い炎症を生じることが原因である可能性が示唆される.既報でもL-AmB投与後にfibrinoidinflammationを生じたことが特筆されており11),AMPBそのものでも,硝子体注射した際に前房内に一過性の炎症を強く惹起することが報告されている3).これは死菌に対する炎症反応か,薬剤そのものの惹起する炎症かは不明であるが,AMPBおよびL-AmBを使用する際に知っておくべき特徴ではないかと思われた.したがって,今回の症例において,L-AmB投与後に前房所見が悪化し治療的角膜移植を選択した時点で,前房洗浄を行うことも有用であった可能性があると思われた.治療初期に投与されたVRCZ局所,全身投与によりすでに菌が死滅していた可能性もあるが,少なくともL-AmB点眼投与後に,病巣が表層から深層へ移動したことから,L-AmBそのもののフサリウムに対する効果は推測された.L-AmB投与による利点としては上記の菌そのものに対する効果以外に,肝機能の保持があげられる.今回,VRCZ全身投与中に外傷性および薬剤性と診断された肝障害を併発し,GOT,GPTの上昇を認めたが,L-AmBへの変更後は順調に肝機能の正常化を認めた.これまでにも同様に肺アスペルギルスによる眼内炎に対しVRCZで加療中に肝障害を発生し,L-AmBに変更することで肝障害が改善し効果的であった報告がある11).0.5%L-AmBは溶解後,室温あるいは2.8℃で6カ月保存しても流動力学的に維持され,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にても製剤的安定性が保たれており,眼科用製剤として実現可能である12)ことや,結膜下注射として高濃度角膜へ移行することが報告されている13).さらに硝子体注射した場合,胆汁酸を含まないL-AmBは,AMPBに比して副作用が少ないとされており14),最も効果的と思われる投与方法も今後の検討項目である.今回は,L-AmB1瓶から点滴用と点眼用を調整したため,副作用も考慮して0.1%と低濃度の設定とした.角膜表層には十分効果があったが,0.5%点眼を使用した場合にはさらなる効果が認められた可能性もある.効果と副作用の面からL-AmBの至適濃度については,さらなる検討が必要と思われる.一方,L-AmBの欠点としては,低カリウム血症があげられる.本症例ではカリウム値は最低で2.3mEq/lとなった.低カリウム血症に対する対応として,毎朝K値測定を行い,その値によって図2のように,カリウム製剤を内服あるいは点滴投与するべきとされている.高カリウム血症は心機能に影響し,危険であるため,投与カリウム量は慎重に計算し,またゆっくりと点滴しなければならない.今回もアスパラK1アンプルを生理食塩水500mlに溶解して2時間かけて1日2回点滴した.さらに,L-AmBそのものも150mgを5%グルコース500mlに溶解して2時間かけて点滴する必要があるため,患者にとって1日6時間の点滴となり,留置針の設置を余儀なくされた.角膜真菌症の患者は通常,高齢の患者が多く,この留置針が心理的な負担となる可能性もあり,毎日のカリウム投与量の計算を含め,L-AmB使用の際には内科共観が望ましいと思われた.角膜真菌症のうち,フサリウムは急速に進行し,予後不良であることも多い.AMPBそのものは非常に効果的であり,そのリポソーム化製剤であるL-AmBは副作用も軽減され,ぜひとも治療に取り入れたい薬剤である.しかし,投与時に伴う全身管理や投与後の反応に関しての注意すべき点もあり,眼科医がうまくつかいこなせるためには,さらに症例報告を重ねていくべきだと思われた.文献1)石橋泰久:病原性真菌の今日的意味.眼科領域の真菌症.化学療法の領域21:5-10,20042)宇田高広,鈴木崇,宇野敏彦:真菌性角膜炎臨床分離株の薬剤感受性.あたらしい眼科23:933-936,20063)YoonKC,JeongIY,ImSKetal:TherapeuticeffectofintracameralamphotericinBinjectioninthetreatmentoffungalkeratitis.Cornea26:814-818,20074)SridharMS,SharmaS,GopinathanUetal:Anteriorchambertap:diagnosticandtherapeuticindicationinthemanagementofocularinfection.Cornea21:718-722,20025)KaushikS,RamJ,BrarGSetal:IntracameralamphotericinB:initialexperienceinseverekeratomycosis.Cornea20:715-719,20016)KuriakoseT,KothariM,PaulPetal:IntracameralamphotericinBinjectioninthemanagementofdeepkeratomycosis.Cornea21:653-656,20027)Adler-MooreJ,ProffittRT:AmBisome:liposomalformulation,structure,mechanismofactionandpre-clinicalexperience.JAntimicrobChemother49(Supple):21-30,20028)Guzman-CottrillJA,ZhengX,ChadwickEG:FusariumsolaniendocarditissuccessfullytreatedwithliposomalamphotericinBandvoriconazole.PediatricInfectDisJ23:1059-1061,20049)GoldblumD,RohereK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,2004(107)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012395 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