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スペクトラルドメイン光干渉断層計による裂孔原性網膜.離術後の視細胞内節外節接合部-網膜色素上皮間距離の経時的変化

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1070.1074,2014cスペクトラルドメイン光干渉断層計による裂孔原性網膜.離術後の視細胞内節外節接合部-網膜色素上皮間距離の経時的変化後藤克聡*1,2水川憲一*1今井俊裕*1山下力*1,3渡邊一郎*1三木淳司*1,3桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学教室*2川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻*3川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科TimeCourseofDistancebetweenPhotoreceptorInner/OuterSegmentJunctionandRetinalPigmentEpitheliumafterRhegmatogenousRetinalDetachmentSurgeryUsingSpectral-DomainOpticalCoherenceTomographyKatsutoshiGoto1,2),KenichiMizukawa1),ToshihiroImai1),TsutomuYamashita1,3),IchiroWatanabe1),AtsushiMiki1,3)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DoctoralPrograminSensoryScience,GraduateSchoolofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,3)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare目的:中心窩.離を伴う裂孔原性網膜.離(macula-offRRD)術後における視細胞外節の厚みを二次的に定量するために視細胞内節外節接合部(IS/OS)から網膜色素上皮までの厚み(TotalOS&RPE/BM)を定量し,経時的変化を検討した.対象および方法:対象はmacula-offRRD術後の30例30眼.方法は術前と術後1,3,6カ月のlogMARとスペクトラルドメイン(spectral-domain)光干渉断層計で中心窩下のTotalOS&RPE/BMを測定した.結果:IS/OSを連続的あるいは部分的に確認できた群の平均logMARは,術前0.77,術後1カ月0.14,3カ月0.02,6カ月.0.03と術後から有意な改善が得られた(p<0.000001).平均TotalOS&RPE/BMは術後1カ月65.2μm,3カ月77.1μm,6カ月81.8μmと術後1カ月(p<0.0001)と比べて術後3,6カ月(p<0.00001)で有意差があった.術後6カ月でのTotalOS&RPE/BMは,以前に筆者らが正常人で定量した値と同等であった.結論:TotalOS&RPE/BMは術後3カ月から有意な増加を認め,視細胞外節の再生による可能性が示唆された.Purpose:Toquantifythedistancebetweenphotoreceptorinner/outersegmentjunction(IS/OS)andretinalpigmentepithelium(TotalOS&RPE/BM)aftersurgeryformacula-offrhegmatogenousretinaldetachment(RRD).CasesandMethod:Examinedwere30eyesof30patientswithmacula-offRRD;logMARwasexaminedpreoperativelyandat1,3and6monthspostoperatively.TotalOS&RPE/BMunderthefoveawasalsoexaminedusingspectral-domainopticalcoherencetomography.Results:ThemeanlogMARinthecontinuousorirregularIS/OSlinegroupwas0.77preoperatively,0.14at1monthpostoperatively,0.02at3monthspostoperativelyand.0.03at6monthspostoperatively,asignificantimprovementfrompostoperatively(p<0.000001).ThemeanTotalOS&RPE/BMwas65.2μmat1monthpostoperatively,77.1μmat3monthspostoperativelyand81.8μmat6monthspostoperatively.TotalOS&RPE/BMat1monthpostoperativelyshowedsignificantdifferenceascomparedwith3and6monthspostoperatively(p<0.0001,p<0.00001,respectively).TotalOS&RPE/BMat6monthspostoperativelywasequaltothenormalvaluewepreviouslyreported.Conclusion:TotalOS&RPE/BMshowedsignificantincreaseafter3monthspostoperatively,possiblyduetorestorationofthephotoreceptoroutersegment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1070.1074,2014〕Keywords:裂孔原性網膜.離,視細胞外節,光干渉断層計,中心窩網膜厚,視力予後.rhegmatogenousretinaldetachment,photoreceptoroutersegment,opticalcoherencetomography,centralretinalthickness,visualacuityoutcome.〔別刷請求先〕後藤克聡:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学教室Reprintrequests:KatsutoshiGoto,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN107010701070あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(144)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY はじめに中心窩.離を含む裂孔原性網膜.離(macula-offrhegmatogenousretinaldetachment:RRD)では,手術により網膜が復位しても視力回復に時間を要す場合や改善が不良な症例をたびたび経験する.網膜復位後,視力不良例の多くに視細胞内節外節接合部(photoreceptorinner/outersegmentjunction:IS/OS)ラインの断裂が認められ,断裂部位に一致してマイクロペリメトリーによる網膜感度が低下することが報告されている1,2).また,macula-offRRD復位後の視力は修復したIS/OSラインの状態と相関し3),近年では外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)も術後視力の予測因子となることが示唆されている4,5).しかし,過去の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による報告では,術後視力と網膜外層の関連はIS/OSやELMの有無による定性的評価が主であり,定量的評価を行った検討は少ない6).視力の根源とされている視細胞外節の厚みを測定することは網膜層の自動セグメンテーションや解像度の問題から困難であり,定量するためにはhigh-speedultrahigh-resolutionOCT(UHR-OCT)7)が必要となる.そのため以前に筆者らは,視細胞外節の厚みを二次的に定量するために,spectral-domainOCT(SD-OCT)を用いてIS/OSから視細胞外節の代謝に重要である網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)までの厚み(TotalOS&RPE/BM7))を正常眼で定量した8).そこで今回,続発性の視細胞外節病であるmacula-offRRDに対して術後のTotalOS&RPE/BMを定量し,経時的変化および視力との関連を検討した.I対象および方法対象は2008年8月.2010年10月までに川崎医科大学附属病院眼科を受診し,RRDと診断された179例のうち,本研究に対してインフォームド・コンセントが得られ,macula-offRRDに対して初回手術を施行した30例30眼であった.男性21例,女性9例.平均年齢は56.3±15.5歳(15.86歳),術前平均屈折度数は.2.63±2.60D(+2.50..6.75D),術前平均眼軸長は25.07±1.43mm(22.76.28.13mm),平均黄斑部.離期間は6.4±4.2日(1.16日),平均経過観察期間は4.5±1.5カ月であった.術後にOCTが未施行であった症例,再.離例,残存中心窩.離や黄斑浮腫をきたした症例,増殖硝子体網膜症は除外した.術式の内訳は硝子体手術27眼(白内障手術併用19眼),強膜内陥術3眼であった.方法は術前と術後1,3,6カ月に視力を測定し,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)にて評価を行った.また,SD-OCT(RTVue-100R;Optovue社,Fremont,CA,USA)を用い,スキャンパターンとして6.0mmlinescanで測定した.本機の仕様は,解像度5.0μm,26,000A-scan/second,256.4,096A-scan/Frameである.中心窩を通る水平断面をスキャンし,術後1,3,6カ月における中心窩下のTotalOS&RPE/BMおよび中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁からRPE外縁,CRTは内境界膜からRPE外縁と定義し,同一検者がRTVue-100Rに内蔵されているソフトを用いてキャリパー計測を行った(図1).また,術後1カ月のOCT所見からIS/OSラインが連続して確認できるものをIS/OS(+),確認できるが一部断裂や不整なものをIS/OS(±),確認できないものをIS/OS(.)と定義した.OCTデータは,signalstrengthindexが50以上得られたデータとし,固視不良の場合は複数回の測定を行い,最も信頼性のあるデータを採用した.検討項目は,IS/OS(+)(±)群とIS/OS(.)群におけるlogMARの経過とCRTの推移,TotalOS&RPE/BMの推移,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量,視力とTotalOS&RPE/BMおよびCRTとの相関である.TotalOS&RPE/BMの検討については,術後1カ月のOCT所見からELMを認め,さらにIS/OS(+)(±)群のみを対象とした.TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量は,術後1カ月から3カ月,術後3カ月から6カ月,それぞれの厚みの増減を変化量とし,増加をプラス,減少をマイナスとして算出した.統計学的検討は,logMARの経過,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの推移については一元配置分散分析を行い,Scheffeによる多重比較で検定した.IS/OS(+)(±)群と図1TotalOS&RPE.BMおよびCRTのセグメンテーション上段:TotalOS&RPE/BMはIS/OS内縁.RPE外縁とした.下段:CRTは内境界膜.網膜色素上皮外縁とした.TotalOS&RPE/BMおよびCRTのセグメンテーションは,内蔵ソフトで計測した.TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み,CRT:centralretinalthickness,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Burchmembrane.(145)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141071 IS/OS(.)群における各項目,TotalOS&RPE/BMおよびCRTの変化量についてはMann-WhitneyUtestを用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は川崎医科大学倫理委員会の承認を得て行った.II結果1.IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるlogMARの経過とCRTの推移IS/OS(+)(±)群とIS/OS(.)群の患者背景は,両群で年齢と術前屈折度数に有意差がみられた(表1).平均logMARは,IS/OS(+)(±)群で術前:0.77,術後1カ月:0.14,術後3カ月:0.02,術後6カ月:.0.03,IS/OS(.)群で術前:1.20,術後1カ月:0.56,術後3カ月:0.54,術後6カ月:0.40であった.両群とも術後1カ月の早期から有意な改善が得られ,術後6カ月が最も良好であった〔IS/OS(+)(±)群:p<0.000001,IS/OS(.)群:p<0.01〕.また,両群間において,経過を通して有意差がみられた(術前:p=0.0366,術後1カ月:p=0.0003,術後3カ月:p=0.0002,術後6カ月:p=0.0273,図2).CRTは,IS/OS(+)(±)群で術後1カ月:243.0μm,術後3カ月:255.5μm,術後6カ月:264.0μm,IS/OS(.)群で術後1カ月:206.3μm,術後3カ月:219.4μm,術後6カ月:220.4μmで両群とも経過を通して有意な変化はなかった.両群間においては,経過を通して有意差がみられた(術後1カ月:p=0.0081,術後3カ月:p=0.0436,術後6カ月:p=0.0149,図3).2.IS.OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMの推移TotalOS&RPE/BMは術後1カ月:65.2μm,術後3カ月:77.1μm,術後6カ月:81.8μmと経時的に増加し,術後1カ月と比べて術後3,6カ月で有意差を認め,術後6カ月で最も厚かった(術後3カ月:p<0.0001,術後6カ月:p<0.00001)(図4).3.IS/OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMおよびCRTの変化量TotalOS&RPE/BMの変化量は術後1カ月から3カ月で表1IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群の患者背景IS/OS(+)(±)群(n=21)IS/OS(.)群(n=9)p値年齢(歳)50.5±13.769.9±10.20.0017黄斑部.離期間(日)6.5±3.86.4±5.20.7121術前屈折度数(D).3.35±2.49.0.57±1.610.0137術前眼軸長(mm)25.39±1.3224.30±1.400.1021IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction.11.7μm,術後3カ月から術後6カ月で2.76μm,CRTの変化量は術後1カ月から3カ月で10.8μm,術後3カ月から術後6カ月で2.47μmであった.術後1カ月から3カ月,術後3カ月から6カ月ともに両者の変化量に有意差はなかった(p=0.7146,p=0.5882)(図5).4.IS.OS(+)(±)群における視力とTotalOS&RPE.BMおよびCRTとの相関TotalOS&RPE/BMは,術後1カ月において視力と正の相関があった(r=0.5179,p=0.0162,図6).しかし,術後3,6カ月ではいずれも相関はなかった(術後3カ月:r=0.1335,p=0.5857,術後6カ月:r=0.2094,p=0.5136).CRTは,術後の経過を通して視力との相関はなかった(術後1カ月:r=0.1193,p=0.6065,術後3カ月:r=0.2662,p=0.2706,術後6カ月:r=0.4454,p=0.1105).III考按本研究では,SD-OCTを用いて術後のTotalOS&RPE/BMの測定を行うことで,網膜外層の回復過程を経時的に捉えることができた.そして,術後1カ月の早期のみ視力とTotalOS&RPE/BMが相関していたこと,ELMを認めたIS/OS(+)(±)群の視力はIS/OS(.)群よりも有意に良好な経過であったことから,IS/OSの修復後,術後早期ではTotalOS&RPE/BMの増加によりさらに視力が改善して(logMAR)-0.200.000.200.400.600.801.001.201.40******:IS/OS(+)(±)群:IS/OS(-)群術後1カ月3カ月6カ月***術前図2IS.OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるlogMARの経過IS/OS(+)(±)群は術前:0.77,術後1カ月:0.14,術後3カ月:0.02,術後6カ月:.0.03で,IS/OS(.)群は術前:1.20,術後1カ月:0.56,術後3カ月:0.54,術後6カ月:0.40で両群とも術後1カ月の早期から有意な改善が得られ,術後6カ月が最も良好であった.また,経過を通して両群間で有意差がみられた(術前:p=0.0366,術後1カ月:p=0.0003,術後3カ月:p=0.0002,術後6カ月:p=0.0273,Mann-WhitneyUtest).**:有意差あり(p<0.000001),*:有意差あり(p<0.01),one-wayANOVA.IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction,logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.1072あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(146) (μm)280260240220200(μm)14121086420図3IS/OS(+)(±)群とIS.OS(-)群におけるCRTの推移IS/OS(+)(±)群は術後1カ月:243.0μm,術後3カ月:255.5μm,術後6カ月:264.0μm,IS/OS(.)群は術後1カ月:206.3μm,術後3カ月:219.4μm,術後6カ月:220.4μmで,両群とも経過を通して有意な変化はなかった.また,経過を通して両群間で有意差がみられた(術後1カ月:p=0.0081,術後3カ月:p=0.0436,術後6カ月:p=0.0149,Mann-WhitneyUtest).IS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction,CRT:centralretinalthickness.:IS/OS(+)(±)群:IS/OS(-)群■3カ月6カ月術後1カ月p=0.7146:TotalOS&RPE:CRTp=0.5882術後1カ月→3カ月術後3カ月→6カ月図5IS/OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMおよびCRTの変化量術後1カ月から3カ月の変化量はTotalOS&RPE/BM:11.7μm,CRT:10.8μm,術後3カ月から術後6カ月の変化量はTotalOS&RPE/BM:2.76μm,CRT:2.47μmであった.両群の変化量に有意差はなかった(p=0.7146,p=0.5882,MannWhitneyUtest).くると考えられた.SD-OCT所見と術後視力との検討については,Shimodaら3)は網膜復位後にIS/OSが徐々に回復し,IS/OSの状態が視力と相関したと報告している.Wakabayashiら4)は,術後のIS/OSとELMシグナルの完全性は術後最高視力と相関し,術後ELMの状態から視細胞層の回復を予測できる可能性があるとしている.川島ら5)は,視力改善はIS/OS断裂の減少と強く相関し,ELM断裂の消失がIS/OS改善の前提であると述べている.また,Gharbiyaら6)はIS/OSやELMに加えて,外顆粒層厚やCOSTの状態が視力予後に最(147)(μm)9080706050***術後1カ月3カ月6カ月図4IS.OS(+)(±)群におけるTotalOS&RPE.BMの推移TotalOS&RPE/BMは術後1カ月:65.2μm,術後3カ月:77.1μm,術後6カ月:81.8μmで,術後1カ月と比べて術後3,6カ月で有意差を認め,術後6カ月で最も厚かった.**:有意差あり(p<0.00001),*:有意差あり(p<0.0001),one-wayANOVA.TotalOS&RPE/BM:視細胞内節外節接合部から網膜色素上皮外縁までの厚み,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Burchmembrane.(μm)30405060708090100-0.200.000.100.200.300.400.500.60(logMAR)y=-23.247x+68.434r=0.5179,p=0.0162-0.10図6IS/OS(+)(±)群における視力とTotalOS&RPE/BMの相関(術後1カ月)術後1カ月において,TotalOS&RPE/BMは視力と正の相関があった(r=0.5179,p=0.0162,Spearman順位相関係数).も重要であると報告している.このように,IS/OSやELMの状態は術後視力と相関し,視力予後を予測できる重要な因子であるため,網膜復位後における術後視力の改善にはELMおよびIS/OSの修復が必須であり,さらなる術後早期の視力改善にはTotalOS&RPE/BMの増加が関連していると考えられた.しかしながら,術後3カ月以降でTotalOS&RPE/BMと視力に相関がなかった理由として,今回の検討ではELM(+)およびIS/OS(+)(±)の網膜外層の形態が比較的良好な症例を対象としたため,視力は術後1カ月の早期から有意に改善し,視力の改善は頭打ちの状態に近づいていたことが影響したと考えられる.TotalOS&RPE/BMは,術後3カ月から有意な増加を認め,術後6カ月で最も厚かった.一方,CRTは経過を通しあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141073 て有意な変化はみられなかった.術後1カ月のTotalOS&RPE/BMは平均65.2μmと筆者らが正常人で報告した平均値81.3μm8)よりも薄く,術後6カ月では81.8μmとほぼ同じであった.よって,今回の結果は復位後に残存している視細胞内節から外節が徐々に再生されたことを意味していると考えられる.つまり,網膜復位後におけるTotalOS&RPE/BMの増加は,視細胞外節の再生過程を捉えている可能性がある.動物モデルやヒトの眼における実験的研究では,網膜.離後,急速に視細胞のアポトーシスを起こすことがわかっている9,10).Lewisら11)は,実験的網膜.離の復位直後において視細胞外節長が減少することを報告している.また,組織学的研究における視細胞外節の再生については,復位後3カ月で視細胞外節の長さはほぼ回復したという報告や正常な外節長の約70%まで達したという報告がある12,13).Guerinら14)の検討では,復位後5カ月での視細胞外節長は正常値と比べて統計的に差はみられなかった.今回の結果は,これらの組織学的な報告と同様の結果であり,TotalOS&RPE/BMを測定することで視細胞外節の再生過程を二次的に定量することができたと考えられる.また,SD-OCTを用いた本研究では,視細胞外節長の増加は復位後6カ月まで続いていることも明らかとなった.本研究の問題点としては,症例数の少なさ,復位後にIS/OSが確認できない症例や術後に網膜下液が残存している場合には,TotalOS&RPE/BMを定量することがむずかしいため症例が限定されることが挙げられる.今後は,症例数を増やしてさらに詳細な検討が必要であり,純粋な視細胞外節厚の定量方法が課題である.続発性の視細胞外節病であるmacula-offRRDに対して,術後の視細胞外節を含めたTotalOS&RPE/BMを定量し,視力との関連を検討した.その結果,経時的に網膜外層の回復過程を捉えることができ,TotalOS&RPE/BMは術後1カ月の早期のみ視力と相関した.また,ELMを認めたIS/OS(+)(±)群の視力はIS/OS(.)群よりも良好な経過であった.よって,術後早期においてはELMおよびIS/OSの修復を前提として,TotalOS&RPE/BMの増加によりさらに視力が改善してくると考えられた.また,TotalOS&RPE/BMは術後3カ月から有意な増加を認め,視細胞外節の再生が示唆された.今後は,TotalOS&RPE/BMの機能評価を併せての検討や侵達性の高いswept-sourceOCTを用いて検討する予定である.文献1)SchocketLS,WitkinAJ,FujimotoJGetal:Ultrahighresolutionopticalcoherencetomographyinpatientswithdecreasedvisualacuityafterretinaldetachmentrepair.Ophthalmology113:666-672,20062)SmithAJ,TelanderDG,ZawadzkiRJetal:High-resolutionFourier-domainopticalcoherencetomographyandmicroperimetricfindingsaftermacula-offretinaldetachmentrepair.Ophthalmology115:1923-1929,20083)ShimodaY,SanoM,HashimotoHetal:Restorationofphotoreceptoroutersegmentaftervitrectomyforretinaldetachment.AmJOphthalmol149:284-290,20104)WakabayashiT,OshimaY,FujimotoHetal:Fovealmicrostructureandvisualacuityafterretinaldetachmentrepair:imaginganalysisbyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:519-528,20095)川島裕子,水川憲一,渡邊一郎ほか:裂孔原性網膜.離復位後における視細胞外節の回復過程の検討.日眼会誌115:374-381,20116)GharbiyaM,GrandinettiF,ScavellaVetal:Correlationbetweenspectral-domainopticalcoherencetomographyfindingsandvisualoutcomeafterprimaryrhegmatogenousretinaldetachmentrepair.Retina32:43-53,20127)SrinivasanVJ,MonsonBK,WojtkowskiMetal:Characterizationofouterretinalmorphologywithhigh-speed,ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci49:1571-1579,20088)後藤克聡,水川憲一,山下力ほか:スペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼での視細胞内節外節接合部網膜色素上皮間距離の定量.あたらしい眼科30:17671771,20139)CookB,LewisGP,FisherSKetal:Apoptoticphotoreceptordegenerationinexperimentalretinaldetachment.InvestOphthalmolVisSci36:990-996,199510)ArroyoJG,YangL,BulaDetal:Photoreceptorapoptosisinhumanretinaldetachment.AmJOphthalmol139:605-610,200511)LewisGP,CharterisDG,SethiCSetal:Theabilityofrapidretinalreattachmenttostoporreversethecellularandmoleculareventsinitiatedbydetachment.InvestOphthalmolVisSci43:2412-2420,200212)今井和行,林篤志,deJuanEJr:網膜.離─復位モデルの作製と評価.日眼会誌102:161-166,199813)SakaiT,CalderoneJB,LewisGPetal:Conephotoreceptorrecoveryafterexperimentaldetachmentandreattach-ment:animmunocytochemical,morphological,andelectrophysiologicalstudy.InvestOphthalmolVisSci44:416425,200314)GuerinCJ,LewisGP,FisherSKetal:Recoveryofphotoreceptoroutersegmentlengthandanalysisofmembraneassemblyratesinregeneratingprimatephotoreceptoroutersegments.InvestOphthalmolVisSci34:175-183,1993***1074あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(148)

愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(109)8330910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):833837,2009cはじめに感染性角膜炎においては,病巣部より起炎菌を同定し,その起炎菌に感受性のある抗微生物薬を投与して治療することが求められる.しかし,実際には起炎菌の同定ができず,経験的な薬剤選択のもとに治療を開始し,その治療効果をみながら薬剤の変更を行うといった状況は少なくない.さらに第一線に立つ医療機関ですでに治療が開始された後に基幹病院に紹介されるような場合,細菌学的検査が治療開始後になることもある.近年,抗菌薬の開発と普及により,メチシリン耐性黄色ブ〔別刷請求先〕木村由衣:〒737-0046呉市中通2-3-28木村眼科内科病院Reprintrequests:YuiKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KimuraEyeandIntermedicalHospital,2-3-28Nakadori,Kure-shi,Hiroshima737-0046,JAPAN愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討木村由衣*1,2宇野敏彦*1山口昌彦*1原祐子*1島村一郎*1,3鈴木崇*1山西茂喜*1大橋裕一*1*1愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野*2木村眼科内科病院*3鷹ノ子病院眼科BacterialKeratitisTreatedatEhimeUniversityHospitaloverthePastFiveYearsYuiKimura1,2),ToshihikoUno1),MasahikoYamaguchi1),YukoHara1),IchiroShimamura1,3),TakashiSuzuki1),ShigekiYamanishi1)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KimuraEyeandIntermedicalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TakanokoHospital目的:愛媛大学医学部附属病院眼科において入院加療を行った細菌性角膜炎の臨床的特徴について検討する.方法:対象は2002年11月以降5年間に入院加療を行った48例49眼.発症誘因,培養結果,視力予後などにつきレトロスペクティブに検討した.結果:発症誘因では外傷・異物が15眼,コンタクトレンズ(CL)装用10眼などであった.CL装用者は誘因のない症例より視力予後が良好であった.培養検査を行った43眼のうち,細菌検出は26眼(60%)37株であり,その内訳はcoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)8株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methi-cillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)3株を含むStaphylococcusaureus6株,Pseudomonasaeruginosa5株などであった.培養検査時点で抗菌薬未使用の15眼のうち13眼(87%)が培養陽性であったが,使用例28眼では13眼(46%)であった.結論:細菌性角膜炎の主要起炎菌としてCNS,S.aureus,P.aeruginosaがあげられた.CL装用など,発症の誘因により起炎菌および視力予後に違いがあることが示唆された.WereviewedthecharacteristicsofbacterialkeratitiscaseshospitalizedatEhimeUniversityHospital.Thesub-jectscomprised48patients(49eyes)whowerehospitalizedandtreatedbetweenNovember2002andOctober2007.Retrospectivelyanalyzedparametersincludedinfectiontrigger,bacterialcultureresultsandvisualprognosis.Themajorfactorspredisposingtocornealinfectionwereinjury/foreignbody(15cases)andcontactlens(CL)use(10cases).ThevisualoutcomewasstatisticallybetterinCLwearers.Ofthe37casesinwhichculturingwasper-formed,19bacterialstrainswereisolatedfrom26cases(60%),including8strainsofCNS(7ofStaphylococcusepi-dermidis),6strainsofStaphylococcusaureus(3ofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA),and5strainsofPseudomonasaeruginosa.Ofthe15casesthathadnotreceivedtopicalantibiotictherapy,cultureresultswerepositivein13cases(87%).Incontrast,ofthe28casesthathadinitiatedtopicalantibiotictherapy,only13(46%)wereculturepositive.Incasesofbacterialkeratitis,themostcommonpathogenswereCNS,S.aureusandP.aeruginosa.Pathogensandvisualprognosismaybeinuencedbypredisposingfactors,suchasCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):833837,2009〕Keywords:細菌性角膜炎,発症誘因,培養検査,視力予後.bacterialkeratitis,triggersoftheinfection,bacterialculture,visualprognosis.———————————————————————-Page2834あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(110)ドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)を代表とする薬剤耐性菌の台頭が叫ばれて久しい.眼科領域でもニューキノロンを中心とした広域スペクトルの抗菌点眼薬の普及は,感染性角膜炎の起炎菌プロフィールに大きな影響を与えているものと考える.今回筆者らは愛媛大学医学部附属病院眼科(以下,当科)において過去5年間に入院加療を行った感染性角膜炎の症例について,細菌学的および臨床的特徴をレトロスペクティブに検討した.一定期間に加療した感染性角膜炎を集計し,全体の臨床像を把握することは今後の治療方針の参考となり,また病診連携のあり方を考えるうえで有益であると思われるので報告する.I対象対象は2002年11月から2007年10月までの5年間,当科にて入院加療を行った細菌性角膜炎48例49眼である.この診断は細菌学的検査に基づいたもののほかに臨床所見,治療に対する効果による臨床的診断を含んだものである.細菌培養検査を施行したものは全例角膜病巣の擦過物を検体としている.なお,当院における耐性の判断は臨床検査標準協会(ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:CLSI)のものに準じている.今回は,細菌性角膜炎と診断した症例につき,発症の誘因,前医における治療,当科での培養結果,当科における治療内容,視力予後などについて検討した.対象症例は平均年齢62.15歳(794歳),男性17例,女性31例であった.なお,視力予後あるいは視力改善度の判定には視力をlogMAR視力に換算ののちKruskal-Wallis検定において有意水準5%で判定した.II.結果1.発症の誘因・背景因子について感染の直接的な誘因および背景因子は対象の48例中39例(81%)に認められた(表1).直接的な原因と考えられる外傷および異物が15眼(例),コンタクトレンズ(CL)装用が10眼(例)(うちソフトCL装用者は7眼)であった.このほか,角膜移植術を中心とした眼科手術歴を有する症例,および眼表面疾患を有する症例が多いという結果であった.2.培養検査陽性率と検出菌の内訳培養検査結果では,検査未施行例の6眼を除く43眼中,培養検査陽性は26眼で60%であった.1症例から複数菌が検出されたものも含まれるため検出株の合計は37株であった.この内訳を表2に示す.多く検出された菌としてcoag-ulasenegativeStaphylococcus(CNS),Corynebacteriumsp.,MRSAを含めたStaphylococcusaureusなどがあげられた.培養陽性となった26眼のうちCL装用者は4眼であった.この4眼からは合計6株の細菌が検出され,その内訳はPseudomonasaeruginosa3株,CNS3株であった.これとは別に紹介元の眼科施設で行った細菌学的検査が陽性であったという報告が4眼について得られた.このうち1眼からはStaphylococcusaureusとa-Streptococcusの2株が,残りの3眼からはそれぞれStaphylococcusaureus,Streptococcuspneumoniae,Moraxellasp.が1株ずつ検出されていた.Streptococcuspneumoniaeが検出された1眼については当科でも同じ菌を検出したが,そのほかの3眼においては当科の細菌学的検査では培養陰性であった.3.抗菌薬処方の有無と培養検査結果表3に当科初診時点での抗菌点眼薬使用の有無と培養陽性表1誘因・背景因子<眼局所>外傷・異物15例コンタクトレンズ装用10例眼科手術既往12例(うち角膜移植術後7例)眼表面疾患(手術既往の症例を除く)4例<全身>アトピー性皮膚炎1例糖尿病7例重複してカウント.表3抗菌薬使用の有無と培養陽性率抗菌薬使用の有無培養有(28眼)無(15眼)陽性1313陰性152培養陽性率46%87%表2培養検査結果CNS8株(うちS.epidermidis7株)Corynebacteriumsp.7Staphylococcusaureus6(うちMRSA3株)Pseudomonasaeruginosa5Streptococcuspneumoniae2b-Streptococcus2Micrococcussp.1Streptococcuspyogenes1Enterococcusfaecalis1Klebsiella1GNF-GNR(glucosenon-fermentinggram-negativerod)1Bacillus1Nocardia1———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009835(111)率の関係を示す.当科受診時点で抗菌点眼薬を使用していた例は全例,紹介元の前医によって処方されたものであった.抗菌点眼薬使用中であった28眼のうち13眼(46%)が培養陽性であり,抗菌点眼薬未使用例15眼中13眼(87%)で培養陽性であった.前医で抗菌薬が処方されていた症例で,当科初診時点での培養陽性率が低いという結果となった.4.検出菌の薬剤感受性について検出された菌の薬剤感受性試験結果から,おもな薬剤に対する耐性率とその菌種についてまとめた(表4).検出された37株中,セファゾリン耐性株6株(16.2%),レボフロキサシン耐性株10株(27.0%),ゲンタマイシン耐性株11株(29.7%)であった.今回の検討対象となったMRSA3株はセファゾリンのみならずレボフロキサシン,ゲンタマイシンにも耐性を示していた.セファゾリン・レボフロキサシン・ゲンタマイシンのいずれかに耐性を示したものは合計19株であり,17眼から検出されていた.このうち9眼は前医にてすでに抗菌薬が処方されており,さらにそのなかの3眼は慢性結膜炎や角膜移植術などの眼科手術後,長期間抗菌点眼薬が使用されていた.5.培養検査結果による治療変更について日常臨床では培養検査で得られた菌種や薬剤感受性結果を受けて抗菌薬の変更を行うことも少なくない.今回の対象症例において抗菌点眼薬の変更がどの程度行われたのか検討した.培養検査が陽性であった26眼のうち,使用していた抗菌薬が検出菌に対し感受性を有していることが判明し,そのまま治療を続行したものが15眼(58%)であった.使用している抗菌点眼薬に対し耐性であっても治療効果がすでに得られていたために薬剤の変更を行わなかった例は4眼(15%)であった.薬剤感受性結果を受けて点眼薬の変更を行ったものは4眼(15%)であった.このうち2眼はMRSAを検出し,セフメノキシムをアルベカシン自家調整点眼に変更したものが1眼,さらにバンコマイシン自家調整点眼およびトブラマイシンを併用していた1眼でトブラマイシンを中止しアルベカシン自家調整点眼に変更していた.残りの3眼(12%)は当初角膜真菌症を疑い抗真菌薬を投与していたもので,培養検査で細菌を検出した時点で抗菌点眼薬による治療に変更している.6.初診時視力と最終視力の検討48例中6例は痴呆などにより視力検査が不能であったため,42例43眼につき検討を行った.視力は2段階以上の改善が18眼と全体の42%を占めており,不変例が21眼(49%),悪化例が4眼で全体の9%となった.視力予後にはどのような因子が影響しているのか検討を行った.図1は当科の培養検査における細菌検出の有無と視力予後についての結果である.培養陽性であり視力経過も追えた24眼のうち2段階以上の視力改善は13眼(54%),不変10表4主要な薬剤ごとの耐性率と菌種セファゾリン耐性株耐性率16.2%MRSA3*Pseudomonasaeruginosa2Streptococcuspneumoniae1*計6レボフロキサシン耐性株耐性率27.0%MRSA3*Corynebacteriumsp.4S.epidermidimis2*Nocardia1計10ゲンタマイシン耐性株トブラマイシン耐性株耐性率29.7%MRSA3*S.epidermidimis2*b-Streptococcus2Streptococcuspneumoniae2*Streptococcuspyogenes1Enterococcusfaecalis1計11*重複してカウント.1.00.10.01n.d.m.m.s.l.null0.1初診時視力最終視力1.00.01s.l.m.m.n.d.:培養陽性:培養陰性図1菌検出の有無と視力予後培養検査未施行の3眼を除く.1.00.10.01n.d.m.m.s.l.null0.1初診時視力最終視力1.00.01s.l.m.m.n.d.:抗菌点眼薬使用:抗菌点眼薬未使用図2初診時点での抗菌点眼薬使用の有無と視力予後———————————————————————-Page4836あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(112)眼(42%),2段階以上の悪化1眼(4%)であった.培養陰性例と比較したが,菌検出の有無が視力予後に明らかな影響を与えるとはいえなかった.当科初診時点ですでに前医で処方された抗菌点眼薬を使用していたか否かと視力予後の関係をみたものが図2である.視力を追えた抗菌点眼薬使用例28眼のうち視力改善が14眼(50%),不変12眼(43%),悪化2眼(7%)であった.視力が大幅に改善した例で初診時にすでに抗菌点眼薬を使用していたものが多い傾向にあったが,統計学的に有意な差を認めることはできなかった.つぎに感染に至った誘因と視力予後の関係について検討した.図3はこれら誘因別に視力予後を検討した結果である.外傷および異物が誘因であった症例の最終視力は比較的良好であったが,誘因の認められなかった症例の視力予後と統計学的に有意差は認められなかった.一方,CLが発症の誘因であった症例は誘因の認められなかった症例と比較し,視力予後は有意に勝っていた.III考察愛媛大学眼科において過去5年間に入院加療を行った細菌性角膜炎の症例について検討したところ,培養陽性率は60%であった.過去の報告16)における菌の検出率は39.083.3%と施設によりさまざまであるが,これらを平均すると51%との考察6)もあり,筆者らの結果もほぼこれに一致するものであった.培養陽性率がそれほど高くなかったおもな理由として当科初診時点ですでに抗菌点眼薬が処方され使用中であった症例が多いことがあげられる.これはこれまでの報告6,7)でも指摘されていることであるが,筆者らの検討でも抗菌点眼薬使用中での細菌培養陽性率は46%と低い結果となった.一旦抗菌薬の使用が開始されると,起炎菌の同定は困難となり,細菌性角膜炎の確定診断の障害になりうると考えられる.第一線の医療機関においても抗菌点眼薬による治療開始前に細菌学的検査を行い,この情報を紹介先にも伝えるといった病診連携の重要性を改めて再認識させられるものである.2003年Bourcierら8)は細菌性角膜炎の検出菌の65%はグラム陽性球菌であり,このうちCNSが多くを占めていた結果を報告している.中林らの報告5)や竹澤らの報告6)はともに筆者らの報告と同様に入院加療を行った症例についてのものであり,Staphylococcusaureus,CNS,Streptococcuspneumoniae,Pseudomonasaeruginosaなどが主体であった.筆者らの今回の検討における検出菌はStreptococcuspneu-moniaeが少ない傾向にあったが,中林らおよび竹澤らの報告5,6)とほぼ同様の傾向を示しており,わが国における比較的重症な細菌性角膜炎の一般的な起炎菌プロフィールと考えてよいと思われた.竹澤ら6)の報告によると,レボフロキサシン耐性株は21.2%(7/33株),ゲンタマイシン耐性株は27.3%(9/33株)認められている.また宮嶋ら4)もオフロキサシン耐性株は22.2%(2/9株)と報告している.筆者らの検討における耐性株の割合は,これら過去の報告と比較してやや高い傾向がみられた.薬剤耐性菌を検出した症例には前医にてすでに抗菌薬が処方されていた症例や長期間の抗菌点眼薬使用の履歴がある症例が多くみられた.起炎菌が耐性菌であったために治療に難渋し当科紹介に至った例や抗菌点眼薬の長期使用により薬剤耐性菌が誘導され角膜炎が発症した症例が含まれているためと考えられる.広域スペクトルをもつニューキノロン系薬剤の普及に伴い,さらなる耐性株の増加が危惧される.今回筆者らは視力予後にどのような因子が影響しているのか,検討を行った.菌を検出し,この薬剤感受性試験の結果を受けて薬剤の選択を行うのが基本であり,これが早期の治癒に貢献するものと考えられる.しかし,今回の検討では菌検出の有無は視力予後に影響を与えないという結果であった.この理由として,前医からの抗菌点眼薬による治療で菌量が減った時点で紹介を受けた,または,元来菌量の少ない症例であったなどの要因により培養陰性例でも比較的視力予後の良いものが多かったという解釈も成り立つが,詳細は不明である.Pachigollaら9)は菌を検出できなかった例(“ster-ilegroup”)では角膜穿孔や眼内炎など重篤な併発症が少なかったと報告している.培養検査で陰性になることは起炎菌同定ができないというマイナスの側面をもつのは確かであるが,同時に視力予後を含めた治療経過の見込みについてはプラスの面もありうると考えられる.Keayら10)は感染性角膜炎の発症誘因について考察している.この報告によると最も多かった誘因は外傷で全体の36.4%,続いてCL装用が33.7%であった.CL装用が誘因となっている症例は他の誘因によるものに比べ有意に年齢が低く,グラム陰性菌の頻度が高かったと報告している.筆者らの検討では直接的な誘因として外傷・異物が最も多く,続1.00.10.01n.d.m.m.s.l.null0.1初診時視力最終視力1.00.01s.l.m.m.n.d.:外傷・異物:コンタクトレンズ*:誘因なし**p0.05(Kruskal-Wallis検定)図3発症の誘因と視力予後———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009837(113)いてCL装用であった.CL装用者の過半数はソフトCL装用者であった.これはCL装用を誘因とする角膜感染症において,ソフトCL装用が誘因となる症例のほうが多かったという過去の報告13,11,12)と一致するものである.CL装用者の起炎菌としてはCNS,Pseudomonasaeruginosa,Serratiaspp.の頻度が高いとされている15).2003年の1年間,日本全国の24施設において感染性角膜炎の動向を把握する目的で全国サーベイランスが行われた13).このサーベイランスは入院・外来を含めた検討であるが,20歳代以下の症例の9割程度がCL装用者であったという.また従来型のソフトCLおよび2週間交換などの頻回交換ソフトCLではグラム陰性桿菌が検出菌として特に頻度が高いことが示されている.今回の対象症例のなかでCL装用者での培養陽性は4眼のみであったが,このうち3眼でPseudomonasaeruginosaが検出されていた.Pseudomonasaeruginosaが起炎菌である場合,短期間で重篤になりやすいと考えられているが,入院加療を条件とした今回の検討で本菌がCL装用者の主要検出菌であったことがきわめて妥当なものと思われた.なお,筆者らのレトロスペクティブの検討では使用していたCLの種類や消毒液の情報が収集できておらず,CLケアの観点での検討を行うことはできなかった.発症の背景因子として角膜移植を中心とした眼科手術歴,あるいは眼表面疾患をもつ症例が少なくないことが判明した.角膜上皮のバリア機能の低下,長期にわたる抗菌点眼薬使用による正常細菌叢の修飾,ステロイド点眼薬の使用による易感染性といったさまざまな要因が複合的に関与していると考えられた.全身的疾患としては糖尿病が数例認められた.しかし今回の検討では糖尿病の重症度・治療経過についての検討は行っておらず,糖尿病自体の有病率が高い点を考慮すると感染性角膜炎との関連性については慎重に判断する必要があるものと思われた.文献1)杉田美由紀,田中直彦,磯部裕ほか:細菌(真菌)性角膜炎の最近7年間の統計.臨眼41:629-633,19872)北川和子,浅野浩一,佐々木一之ほか:最近6年間に経験した細菌性角膜炎.眼科34:1259-1265,19923)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性角膜潰瘍の検討.あたらしい眼科15:223-226,19984)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去3年間の細菌性角膜潰瘍症例の検討.あたらしい眼科17:390-394,20005)中林條,美川優子,沖波聡ほか:佐賀医科大学における最近10年間の感染性角膜潰瘍の検討.眼紀53:368-372,20026)竹澤美貴子,小幡博人,中野佳希ほか:自治医科大学における過去5年間の感染性角膜潰瘍の検討.眼紀5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