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序説:眼形成手術の適応と選択─考える術者をめざそう!

2021年1月31日 日曜日

眼形成手術の適応と選択─考える術者をめざそう!IndicationsandOptionsforOculoplasticSurgery─AimBeathoughtfulSurgeon鎌尾知行*渡辺彰英**大橋裕一***形成外科は紀元前600~700年にインドで誕生したと考えられている.当時は刑罰の一つとして「鼻切り」や「耳切り」が行われており,刑罰後の欠損した鼻や耳の再建の必要性から,鼻や耳を作ることが行われるようになり,形成外科が誕生した.近代の形成外科は戦争とともに発展したといっても過言ではない.ソードやスピア,銃,大砲などさまざまな武器が開発されるとともに,さまざまな外傷が生じた.形成外科学はそれらの身体各部の損傷や欠損を治療するために発展し,外科学の一つとして確立したのである.そして第一次世界大戦以降,戦車と戦闘機が出現し,武器の性能が飛躍的に向上することで,死傷者数が著しく増加し,多数の戦傷者の治療を通して形成外科もまた大きく進歩した.それまで創傷は縫合するだけだったのが,治癒過程で瘢痕形成することが問題となり,元の形に復元すべく皮膚移植法などさまざまな方法が開発されたことで,再建外科的な治療としての形成外科が発展したのである.一方,わが国でも西洋の近代医学が流入し,形成外科学が誕生した.そして眼形成分野は形成外科学の一つとして派生した.当初の眼形成外科は眼科医だけでなく整形外科医,皮膚科医も担っていた.1897年に発刊された『日本眼科学会雑誌』の第1巻第1号には,当時の東京大学医学部眼科学教室教授である河本重次郎が先天眼瞼下垂症に対する手術の論文を投稿しており,切除した残余眼瞼皮膚を用いた前頭筋吊り上げ術が報告されている.現在では筋膜や縫合糸,人工材料を用いるようになり,美しく機能的な治療を行うことが可能となっているが,100年以上前の当時でも素晴らしい眼形成手術がわが国の眼科医により行われていたことがわかる(図1).この第1巻第1号には合計88題の論文が寄せられているが,そのうち11題(12.5%)が眼形成関連の演題であり,眼形成外科学が眼科において重要な位置を占めていたことがわかる.しかし,その後は医療技術の進歩とともに内眼手術が脚光を浴びるようになり,眼形成分野に興味をもつ眼科医が徐々に減少してしまい,わが国では眼形成外科が下火となってしまった.そのため眼形成分野が着実に進歩しているにもかかわらず,その成果がわかりにくく,一般眼科医にとってとっつきにくい分野になってしまっていることは否定できない.2011年に日本涙道涙液学会が,2013年に日本眼形成再建外科学会が発足し,着実に学会員数を増やす中で,眼形成外科分野が徐々に裾野を広げている.それに伴い,多くの手術テキストが刊行され,*TomoyukiKamao:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学**AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学***YuichiOhashi:愛媛大学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)1図1切除した眼瞼皮膚を用いた先天眼瞼下垂症に対する前頭筋吊り上げ術左写真2枚が左側の先天眼瞼下垂術前後,右写真2枚が右側の先天眼瞼下垂術前後写真である.(河本重次郎:眼瞼下垂症手術.日眼会誌1:61-64,1897,図2より引用)講演会なども各地で開催され,眼形成手術について学ぶ機会が増えてきた.しかし,たとえば眼瞼下垂手術についても,挙筋腱膜短縮術や挙筋群短縮術,前頭筋吊り上げ術,経皮的・経結膜的Muller筋タッキングなどさまざまな手術術式が報告されており,治療法の選択に苦慮することがある.各手術にはそれぞれ特色があり,病態に応じた手術の選択が望ましいが,すべての術式に精通して治療を選択するのは至難の業であり,この術式の多さが眼形成手術が敬遠される一つの要因になっている.そこで本特集のテーマを「眼形成手術の適応と選択―考える術者をめざそう!」と定め,一般的な眼形成疾患を中心に,さまざまな術式がどのような病態に対する手術なのか,どのような時期にすればもっとも効果があるのか,どのようにすれば再発・合併症を低く抑えることができるか,美的再建のみならず機能再建にどの程度寄与するか,などについて深く掘り下げ,明日からの臨床の術式選択の一助となるよう企画した.エキスパートの先生方の眼形成の考え方のエッセンスに触れることで,読者の先生方が一歩先に進んだ眼形成手術が行える特集になれば幸いである.2あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021(2)

Vol.38 No.01(2021年1月号)

2021年1月31日 日曜日