マイクログリアと網膜神経節細胞死アストロサイトと網膜神経節細胞死アストロサイトは中枢神経系に存在するグリア細胞の一種であり,周囲の神経細胞の恒常性維持を担っています.一方で組織損傷時には反応性アストロサイトとして活性化しますが,組織障害にかかわるのか,それとも組織修復の役目をもつのか,その機能については未だに議論が続いています.反応性アストロサイトの一種であるCA1アストロサイトは補体の古典的経路に関連する遺伝子群が高発現することから,組織障害を促進するサブタイプであることが示唆されていました.近年,視神経挫滅時の網膜において,A1アストロサイトが網膜神経節細胞死を誘導すること,またその直接的な要因はCA1アストロサイトから放出される飽和脂肪酸であることがあいついで報告されました1,2).また,正常アストロサイトからCA1アストロサイトが誘導されるメカニズムとして,マイクログリアから産生される炎症性サイトカインのTNFやCIL-1Ca,補体系のCC1qがトリガーとなることが培養実験から示されています1).しかし,疾患モデル動物を用いた網膜マイクログリアの挙動や分子的特徴については不明な点が多く残されておりました.網膜マイクログリアの活性化機構マイクログリアは不均一な集団であり,マウス脳では発生期から成熟期にかけてきわめて動的にそのクラスターが変動することが知られています.また,Alzheimer病などの脳疾患発症時には疾患特異的なマイクログリアの集団が発生し,その病態に関与することも報告されています.しかし,網膜内におけるマイクログリアの割合はきわめて少ないために,これまで解析が困難でありましたが,近年のシングルセル視神経挫滅Rhoキナーゼ活性化佐藤孝太東北大学大学院医学系研究科視覚先端医療学寄附講座RNA-seq解析のような微量検体解析技術の飛躍的な向上により,このハードルを越えることが可能となってきました.筆者らは視神経挫滅マウスをモデル動物として網膜内マイクログリアのサブクラス同定を試み,その結果,TNFとCIL-1aを高発現する特定のクラスターが存在すること,またこのクラスターが中鎖脂肪酸受容体であるCGPR84をマーカーとして発現することを見出しました.さらに,Rhoキナーゼ阻害薬であるリパスジルの投与により,GPR84陽性のマイクログリアが減少することを明らかにしました3).これらの結果から,視神経障害により生じる神経障害性マイクログリアへの誘導にはCRhoキナーゼの活性化が重要であることが示されました(図1).今後の展望緑内障はわが国における中途失明原因の第一位であり,視神経障害時における網膜神経節細胞死の病態解明は新たな治療法開発の基盤となります.これまでの眼圧下降治療に加えて,アストロサイトやマイクログリアを標的とした新たな神経保護治療のアプローチが期待されます.文献1)LiddelowSA,GuttenplanKA,ClarkeLEetal:Neurotox-icCreactiveCastrocytesCareCinducedCbyCactivatedCmicroglia.CNature541:481-487,C20172)GuttenplanCKA,CWeigelCMK,CPrakashCPCetal:NeurotoxicCreactiveCastrocytesCinduceCcellCdeathCviaCsaturatedClipids.CNatureC599:102-107.C20213)SatoK,Ohno-OishiM,YoshidaMetal:TheGPR84mol-eculeisamediatorofasubpopulationofretinalmicrogliathatCpromoteCTNF/IL-1aexpressionCviaCtheCrho-ROCKCpathwayCafterCopticCnerveCinjury.CGliaC71:2609-2622,C2023CIL-1a,TNF-aアストロサイト活性化RGC変性GPR84陽性静止期マイクログリア活性化マイクログリア図1視神経障害による網膜マイクログリアの活性化(文献C3より改変引用)(73)あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C14570910-1810/24/\100/頁/JCOPY