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ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(87)543《原著》あたらしい眼科28(4):543.548,2011c〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPANジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用七條優子篠宮克彦勝田修中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryActionofDiquafosolTetrasodiumonMucin-likeGlycoproteinSecretioninRabbitConjunctivalTissuesYukoTakaoka-Shichijo,KatsuhikoShinomiya,OsamuKatsutaandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.ジクアホソルナトリウムの眼表面からのムチン分泌促進機序についてコムギ胚芽由来(WGA)レクチンを用いた酵素免疫法(enzymelinked-lectinassay:ELLA)にて検討した.WGAレクチンは,ウサギ結膜組織上皮層の杯細胞内の粘液に結合し,ウサギ結膜培養上清液中の200kDa以上の分子と高い親和性を示し,ムチン様糖蛋白質に対して高い特異性を有することが示唆された.WGAレクチンを用いたELLAにおいて,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌を濃度依存的に上昇させた.また,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ培養結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度を濃度依存的に上昇させ,カルシウムイオン濃度の上昇作用を抑制する濃度のカルシウムキレート剤は,ウサギ結膜組織からのジクアホソルナトリウムによるムチン様糖蛋白質の分泌促進作用を抑制した.したがって,ジクアホソルナトリウムは,結膜杯細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して,ムチン様糖蛋白質分泌を促進すると考えられた.Thisstudyinvestigatedthestimulatoryactionofdiquafosoltetrasodium(P2Y2receptoragonist)onmucin-likeglycoproteinsecretioninrabbitconjunctivaltissues,usingenzyme-linkedlectinassay(ELLA)withwheatgermagglutinin(WGA)lectin.Inhistochemicalanalysis,mucusinthegobletcellsshowedpositivereactivitytostainingwithWGAlectin.Lectin-blotanalysisshowedthatthemolecularweightsofmostWGA-bindingglycoproteinsinculturedsupernatantsofconjunctivaltissueswerelargerthan200kDa.TheseresultssuggestedthatWGAlectinmightbehighlyspecifictomucin-likeglycoproteinsinconjunctiva.Theadditionofdiquafosoltetrasodiumtoculturedrabbitconjunctivaltissuesresultedinaconcentration-andtime-dependentincreaseinthesecretionofmucin-likeglycoproteins.Diquafosoltetrasodiumincreasedtheintracellularcalciumconcentrationintheconjunctivalepithelialcellsinaconcentration-dependentmanner.Inaddition,thisstimulatoryactionofdiquafosoltetrasodiumonmucin-likeglycoproteinsecretionwasinhibitedbypretreatmentwiththecalciumchelatingagent,atthesamedosethatdecreasedtheintracellularcalciumconcentrationincreasebydiquafosoltetrasodium.Theseresultssuggestthatdiquafosoltetrasodiumstimulatesthesecretionofmucin-likeglycoproteinsfromrabbitconjunctivaltissueviatheintracellularcalciumpathway,afterbindingtoP2Y2receptorsontheconjunctivalgobletcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):543.548,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,ムチン様糖蛋白質分泌,細胞内カルシウム,ウサギ結膜組織.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,mucin-likeglycoproteinsecretion,intracellularcalcium,rabbitconjunctivaltissues.544あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(88)はじめにムチンとは,多数のO-グリカンと結合した20万以上の分子量を示す高分子糖蛋白質の総称である.眼表面におけるムチンには,角結膜上皮細胞膜に存在している膜結合型ムチンと,結膜杯細胞から分泌される分泌型ムチンの2つに大別される.分泌型ムチンは,涙液3層(油層,水層,ムチン層)のうち,ムチン層の主成分であり,膜結合型ムチンと協働し,眼表面の保湿・保水作用,非接着分子として閉瞼時の眼瞼結膜上皮と角膜上皮の癒着防止作用,感染防御および拡散障壁作用など,重要な役割を果たしている1).渡辺2)は,涙液が眼表面上で広がるためには,分子量が大きく粘性の高い分泌型ムチンの存在が必要であり,分泌型ムチンの減少は,眼表面上皮層のどこかにムチン層でカバーしきれない部分を生じさせ,水層の表面張力の低下による涙液の安定化が損なわれ,涙液層破壊時間の短縮,ひいては角結膜上皮障害を誘導すると報告している.また,角結膜上皮障害を伴うSjogren症候群患者では,健常人に比して結膜上皮における分泌型ムチン(MUC5AC)の発現量が減少していることも報告されている3).さらに,ドライアイ患者に精製ムチン溶液を点眼することで,角結膜上皮障害が改善することも報告されている4).したがって,ドライアイ治療には,分泌型ムチンを涙液のムチン層へ補充することが効果的であると考えられる.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するジヌクレオチド誘導体である5).アカゲザルにおいて,P2Y2受容体は,結膜上皮細胞(杯細胞を含む)での発現が確認されており6),Fujiharaら7,8)は,invivoにてジクアホソルナトリウムが正常ウサギおよび正常ラットの結膜組織から糖蛋白質(ムチン)の分泌を促進することを報告している.本研究では,ウサギ結膜組織から分泌された糖蛋白質を定量的に評価できる系,enzyme-linkedlectinassay(ELLA)を用いてジクアホソルナトリウムの結膜組織からの糖蛋白質分泌促進作用およびその機序について検討した.I実験方法1.ジクアホソルナトリウム溶液の調製ヤマサ醤油にて製造されたジクアホソルナトリム(ジクアホソル)は,各試験に用いる溶媒,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR;111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMd-glucose)およびMaullem’sbuffer(140mMNaCl,5mMKCl,10mMTrisbase,10mMHEPES,1.5mMCaCl2・2H2O,1mMMgCl2・6H2O,5mMd-glucose,5mMpyruvicacid,0.1%ウシ血清アルブミン)にて溶解した.2.ウサギ結膜摘出日本白色ウサギにネンブタール注射液(大日本住友製薬)を静脈注射にて全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.ケイセイ替刃メスを用いて眼窩周囲に切り込みを入れ,眼窩との結合組織を.離させ,ハサミを用いて外眼筋および視神経を切断し,眼球が付いた状態で結膜を分離・摘出した.なお,本研究は,「動物実験倫理規程」,「動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.ウサギ結膜組織片作製眼瞼周囲の皮膚組織をハサミで切除し,結膜組織を広げ,4mm径トレパン(貝印)で打ち抜いて結膜組織片を作製した.BR中に,結膜組織片を入れ,5%CO2,37℃にて30分間安定化させた後,ムチン様糖蛋白質の解析あるいは定量に用いた.4.コムギ胚芽由来(WGA)レクチンの特異性a.組織学的検討WGAレクチンと結合する糖蛋白質の結膜上皮層での局在について組織学的に検討した.周囲の余分な脂肪,筋組織を除去した結膜組織を10%中性緩衝ホルマリン(pH7.2.7.4)にて室温で浸漬固定した.パラフィン包埋を行った後,約3μmの連続切片を薄切した.定法に従って過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色およびビオチン化標識WGAレクチン(Vector)とホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識アビジン(DAKO)を用いたWGAレクチン染色を行った.陰性対照には,WGAの特異的結合糖であるChitin(WAKO)の飽和溶液でWGAを吸収させた溶液を用いた.b.レクチンブロットWGAレクチンと結合する糖蛋白質の分子量を検討する目的で,ウサギ結膜組織培養上清液をSDS(sodiumdodecylsulfate)ゲルにて電気泳動し,レクチンブロットを実施した.すなわち,安定化させた結膜組織片を新たなBR中に入れ,5%CO2,37℃の条件で24時間培養した.セントリコン(Millipore)にて濃縮したサンプルをLaemmliSampleBuffer(BioRad)と混合し,95℃,5分間加熱処理した後,電気泳動し,PVDF(ポリビリニデンジフルオライド)膜にブロッティングした.洗浄液〔TBS(Tris-bufferedsaline)含有0.1%Tween20〕,ブロッキング液(1%ウシ血清アルブミン含有洗浄液)処理後,ビオチン化標識WGAレクチンおよびHRP標識アビジンを反応させた.最後に,ECL(enhancedchemiluminescent)westernblotdetectionreagent(Amersham)に浸して反応させ,Filmに感光して現像した.なお,陽性対照としてウシ顎下腺ムチン(Sigma)を用いた.(89)あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115455.Enzymelinked.lectinassay(ELLA)によるムチン様糖蛋白質濃度測定安定化させた結膜組織片を各濃度の被験薬中に入れ,5%CO2,37℃の条件で所定の時間培養した.96穴マイクロプレートに検量線用のムチン(ウシ顎下腺ムチン)溶液および組織片培養上清液を添加し,固相化した.ビオチン化標識WGAレクチン,HRP標識アビジンに続き,tetramethylbenzidine溶液(Sigma)と反応させた後,マイクロプレートリーダーにて波長450nmの吸光度を測定した.カルシウムキレート剤の影響を検討する際は,1,2-bis-(o-aminophenoxy)ethane-N,N,N¢,N¢-tetraaceticacidtetra-(acetoxymethyl)ester:(BAPTA-AM:Calbiochem)をジクアホソルの添加前に60分間反応させ,培養上清液の回収は,ジクアホソル添加90分後に行った.6.結膜上皮細胞の単離結膜上皮細胞内のカルシウム濃度を測定する目的で,ウサギ結膜組織を摘出し,上皮細胞を単離した.すなわち摘出したウサギ結膜組織を約5mm四方に細切した後,1.2U/mLディスパーゼIIにて処理をした.結膜上皮層をコリブリ鑷子で回収し,トリプシン/EDTA(エチレンジアミン四酢酸)処理をした後,培養培地(15%FBS,5μg/mLinsulin,10ng/mLhumanEGF,40μg/mLgentamicininDMEM/F-12)にて,37℃,5%CO2の条件下で培養した.7.細胞内カルシウムイオン濃度測定単離2.4日後の結膜上皮細胞の培養培地をMaullem’sbufferに置換し,Kageyamaら9)の方法に従い,細胞内のカルシウムイオン濃度を測定した.すなわち,結膜上皮細胞は,5μMFura-2AM(WAKO)溶液にて30分間以上,37℃,5%CO2にて培養した.その後,再びMaullem’sbufferに置換し,被験薬を添加した後のFura-2の蛍光(340nmおよび380nm)強度を測定し,MetaFlourver.6.0.1を用いて,340nm/380nmの比を指標に細胞内のカルシウムイオン濃度を算出した.カルシウムキレート剤の影響を検討する際は,ジクアホソルの添加前にBAPTA-AMを60分間反応させた.8.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,5%を有意水準として解析した.2群比較の場合は,薬剤無添加群に対するStudentのt検定,3群以上の比較には,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定を実施した.II結果1.WGAレクチンの特異性WGAレクチンと特異的に結合する糖蛋白質の局在を知る目的で,ウサギの結膜組織を用いて,WGAレクチンと反応する部位を組織学的に検討した.図1に示すように,PAS(図1a)およびWGA(図1b)陽性部位が,結膜の杯細胞中の粘液に認められた.また,WGAの反応は,特異的結合糖(N-acetyl-glucosamine)のポリマーであるChitinによって阻害された(図1c).したがって,WGAレクチンは,結膜杯細胞中の糖蛋白質と特異的に反応することが明らかになった.ウサギの結膜組織を培養した上清液に含まれるWGAレクチンと結合する糖蛋白質の分子量を明らかにする目的で,WGAレクチンによるレクチンブロットにて解析した.図2に示すように,陽性対照であるウシ顎下腺ムチンと同様,結膜組織培養上清液においても大部分が200kDa以上であった.したがって,WGAレクチンは高分子糖蛋白質,すなわちムチン様糖蛋白質に特異的に結合することが示唆された.2.摘出結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用ムチン様糖蛋白質濃度を測定できるWGAレクチンを用いたELLAで,ジクアホソルの結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用について検討した.図3に示すように,ジabc図1ウサギ結膜組織のPASおよびWGAレクチン染色像a:PAS染色,b:WGA染色,c:Chitin処理後のWGA染色.546あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(90)クアホソルの添加により,作用時間に依存して,培養上清中のムチン様糖蛋白質濃度は上昇した.また,その上昇作用は,いずれの培養時間においても薬剤無添加群に比し有意であった(図3a).濃度依存性の検討では,培養時間90分間の条件で,ジクアホソルによるムチン様糖蛋白質分泌は,濃度依存的に促進された(図3b).その効果は,ジクアホソル無添加群に比し10μM以上で有意であった.3.結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度上昇作用ジクアホソルの結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度に及ぼす影響について検討した.図4aに示すように,1.1,000μMジクアホソル溶液は,結膜上皮細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を濃度依存的に上昇させ,100μMでほぼ最大反応であった.また,その上昇作用は,10μM以上の濃度でジクアホソル無添加群に比して有意であった.一方,図4bに示すように,100μMジクアホソル溶液による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇作用は,3,10あるいは30μMBAPTA-AMの前処理により,濃度依存的に抑制された.また,その抑制作用は,10μM以上のBAPTA-AMの処理(kDa)12250150100755037図2ウサギ結膜組織培養上清中のWGAレクチン結合糖蛋白質の分子量分布レーン1:ウシ顎下腺ムチン.レーン2:ウサギ結膜組織培養上清液.培養時間(分)3001101001,0004.03.02.01.00.03.02.01.00.06090120ムチン様糖蛋白質濃度(μg/mL)ムチン様糖蛋白質濃度(μg/mL)ジクアホソル(μM)ab######□:薬剤無添加■:100μMジクアホソル******図3ウサギ結膜組織におけるジクアホソルのムチン様糖蛋白質分泌促進作用―作用時間(a)および濃度依存性(b)a:各値は3あるいは4例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,薬剤無添加群との比較(Studentのt検定).b:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.ジクアホソルは,90分間反応させた.##:p<0.01,ジクアホソル無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定).ジクアホソル(μM)細胞内カルシウムイオン濃度(nM)細胞内カルシウムイオン濃度(nM)BAPTA-AM(μM)00310301101001,0001,00080060040020001,0008006004002000####******ab図4ウサギ培養結膜上皮細胞におけるジクアホソルによる細胞内カルシウムイオン濃度上昇作用(a)およびカルシウムキレート剤の影響(b)a:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,ジクアホソル無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定)b:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,100μMジクアホソル添加前に60分間反応させた.##:p<0.01,BAPTA-AM無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定)(91)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011547により,BAPTA-AM無添加群に比して有意であった.4.ムチン様糖蛋白質分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響ジクアホソルによる摘出結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用の機序を解明する目的で,カルシウムキレート剤の影響について検討した.表1に示す変化率は,各濃度のBAPTA-AM群において,100μMジクアホソル添加群によるムチン様糖蛋白質濃度をジクアホソル無添加群によるムチン様糖蛋白質濃度で除した値である.ジクアホソルの添加により,上清中のムチン様糖蛋白質濃度は約2.7倍上昇した.また,その上昇作用は,BAPTA-AMの前処理により濃度依存的に抑制され,その抑制作用は,10μMBAPTA-AM以上でBAPTA-AM無処理群に比して有意であった.III考按これまでに,Fujiharaら7,8)は,ウサギあるいはラットにジクアホソルを点眼することで,結膜上皮組織からのPAS陽性糖蛋白質(ムチン)の分泌が促進されることを組織学的な検討により報告している.しかし,その評価系は,invivoの試験であり,かつ手順が煩雑であるため,ジクアホソルのムチン分泌促進作用機序の検討を困難にしていた.Jumblattら10)は,ヒト結膜組織から分泌されたムチン量をレクチンによるドットブロットにて定量的に測定することを可能にした.そこで,Jumblattらの方法を参考に,今回筆者らは,被験サンプルをマイクロプレートに固相化させ,O-グリカン(N-acetyl-glucosamine)と特異的に結合するWGAレクチンを用いたELLA法で被験サンプル中のWGAレクチン結合性糖蛋白質濃度を定量的に測定する系を用いた.また,本ELLAの特異性を検討する目的で,WGAレクチンによるELLAにて検出される糖蛋白質の解析を行った.組織学的検討結果により,WGAレクチンと結合する糖蛋白質の局在は,結膜上皮組織中の杯細胞内であり,PAS陽性部位に一致していることが示された.また,レクチンブロットの結果,WGAレクチンと結合する蛋白質の分子量は,陽性対照の顎下腺ムチンと同様200kDa以上であった.したがって,WGAレクチンは,結膜杯細胞内の200kD以上の糖蛋白質,すなわちムチン様糖蛋白質に特異性が高いことが示された.つぎに,本ELLAを用いてジクアホソルのムチン分泌促進作用について検討した.ウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質は,ジクアホソルの添加により,濃度依存的かつ時間依存的に増加した.Darttら11)は,ラット結膜組織からのムチン分泌は,細胞内のカルシウムイオン濃度に依存することを報告している.また,ヒト鼻腔粘膜上皮細胞において,P2Y2受容体作動薬により上昇した分泌型ムチン量は,カルシウムキレート剤により抑制することが報告されている12).そこで,ジクアホソルの結膜上皮細胞における細胞内カルシウムイオン濃度に及ぼす影響を検討した.その結果,10μM以上のジクアホソルにより,細胞内カルシウムイオン濃度は濃度依存的に上昇した.つぎに,ジクアホソルによるウサギ結膜上皮組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用への細胞内カルシウムイオン濃度の関与について検討した.その結果,ジクアホソルにより上昇した細胞内カルシウムイオン濃度を抑制できる濃度のBAPTA-AM処理により,ジクアホソルによるムチン様糖蛋白質濃度の上昇は抑制された.以上より,ジクアホソルの結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用にも,細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇が関与していることが明らかとなった.これまでに報告されているヒト線維芽細胞におけるP2Y2受容体を介した細胞内カルシウムイオン濃度の上昇説13)を基に結膜組織からのムチン様糖蛋白質の促進機序を考察すると,ジクアホソルが,結膜上皮細胞(杯細胞)上のP2Y2受容体に結合し,G蛋白を介してホスホリパーゼCを活性化し,イノシトール3リン酸を生成した結果,細胞内小胞体からのカルシウムイオンの放出を誘導し,分泌顆粒内に貯蔵されているムチンを分泌すると考えられた.ドライアイに伴う角結膜上皮障害に対する治療には,現在日本では,おもにヒアルロン酸ナトリウム点眼液が使用されている.ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の薬理作用は,角膜上皮伸展促進作用および保水作用である.今回,ジクアホソルは,結膜杯細胞上のP2Y2受容体を介して細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることにより,ムチン様糖蛋白質の分泌を促進することが明らかになった.この作用機序は,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液には認められないものであり,ジクアホソル点眼液は,新規作用機序を有するドライアイ治療薬としてヒアルロン酸ナトリウム点眼液では効果不十分であった病態に対しても治療効果を示すことが期待される.謝辞:本研究に協力いただきました村上忠弘博士,堂田敦義博士に深謝いたします.表1ウサギ摘出結膜組織におけるジクアホソルによるムチンン様糖蛋白質分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響BAPTA-AM(μM)変化率(%)031030272.8±12.5242.7±9.9153.3±2.6**123.6±3.0**各値は4例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,ジクアホソル添加前に60分間反応させた.培養上清液は,ジクアホソル添加90分後に回収した.**p<0.01,BAPTA-AM無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定).548あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011文献1)GovindarajanB,GipsonIK:Membrane-tetheredmucinshavemultiplefunctionsontheocularsurface.ExpEyeRes90:655-663,20102)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19973)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20024)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,20025)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:SynthesisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinucleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett11:157-160,20016)KompellaU,KimK,LeeVL:Activechloridetransportinthepigmentedrabbitconjunctiva.CurrEyeRes12:1041-1048,19937)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20028)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20019)KageyamaM,FujitaM,ShirasawaE:Endothelin-1mediatedCa2+influxdosenotoccurthroughL-typevoltagedependentCa2+channelsinculturedbovinetrabecularmeshworkcells.JOcularPharmacol12:433-440,199610)JumblattMM,McKenzieRW,JumblattJE:MUC5ACmucinisacomponentofthehumanprecornealtearfilm.InvestOphthalmolVisSci40:43-49,199911)DarttDA,RiosJD,KannoHetal:RegulationofconjunctivalgobletcellsecretionbyCa2+andproteinkinaseC.ExpEyeRes71:619-628,200012)ChoiJY,NamkungW,ShinJHetal:Uridine-5¢-triphosphateandadenosinetriphosphategammaSinducemucinsecretionviaCa2+-dependentpathwaysinhumannasalepithelialcells.ActaOtolaryngol123:1080-1086,200313)FineJ,ColeP,DavidsonJS:Extracellularnucleotidesstimulatereceptor-mediatedcalciummobilizationandinositolphosphateproductioninhumanfibroblasts.BiochemJ263:371-376,1989(92)***

ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)261《原著》あたらしい眼科28(2):261.265,2011cはじめに眼表面における分泌型ムチンの一種であるMUC5ACは,結膜上皮組織内の杯細胞において生合成・貯蔵される高分子糖蛋白質であり,豊富なシステイン残基をもつ4つのドメインと大量の糖鎖と結合しているtandemrepeatドメインから成っている.大量の糖鎖は,ブラシ状にコア蛋白質に結合〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPANジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用七條優子阪元明日香中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターEffectofDiquafosolTetrasodiumonMUC5ACSecretionbyRabbitConjunctivalTissuesYukoTakaoka-Shichijo,AsukaSakamotoandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.結膜組織からの分泌型ムチン(MUC5AC)量に及ぼすP2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの影響を検討する目的で,MUC5ACに特異的なenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)を確立し,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5AC量に及ぼすジクアホソルナトリウムの影響を検討した.また同時に,ヒアルロン酸ナトリウムのMUC5AC分泌に対する作用についても検討した.今回のELISA法に用いた抗MUC5AC抗体(Clone45M1抗体)は,過ヨウ素酸シッフ反応と同様に結膜杯細胞で陽性反応を示し,結膜組織に存在する250kDa以上の蛋白質と親和性の高いことが示された.また,本ELISA法において,結膜組織培養上清液中のMUC5AC量と反応最終検出値との相関性は高く(相関係数0.99),非特異的反応は認められなかった.さらに,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ結膜組織からのMUC5ACの分泌を濃度依存的に促進したが,ヒアルロン酸ナトリウムは影響しなかった.以上の成績から,ウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌量は,抗MUC5AC抗体を用いて定量的に測定できることが明らかとなった.また,ジクアホソルナトリウムは,結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用を有するのに対し,ヒアルロン酸ナトリウムは本作用を示さなかった.ToinvestigatetheeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumonthesecretorymucin(MUC5AC)secretionbyconjunctivaltissues,weestablishedtheenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)forMUC5AC.WethenexaminedtheeffectofdiquafosoltetrasodiumonMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctiva.Inaddition,westudiedwhetherhyaluronicacidinducedMUC5ACsecretion.Glycoproteininrabbitconjunctivalgobletcellsshowedpositivereactivityforstainingwithanti-MUC5ACantibody(Clone45M1antibody),aswellasforPeriodicacid-Schiffstaining.ThemolecularweightoftheClone45M1antibody-bindingproteinsintheconjunctivaltissuewasgreaterthan250kDa.OntheELISAsystem,MUC5ACconcentrationwashighlycorrelatedwiththefinalreactionvalue(correlationfactor=0.99),andnon-specificreactionwasnotobserved.Theadditionofdiquafosoltetrasodiumtoculturedrabbitconjunctivaltissuesresultedinaconcentration-dependentincreaseinMUC5ACsecretion;theadditionof0.1%hyaluronicaciddidnot.Fromtheseresults,weestablishedamethodofusingELISAtoquantitativelymeasureMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctivaltissues,usingtheClone45M1antibody.Furthermore,diquafosoltetrasodiumhadastimulatoryeffectonMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctiva,buthyaluronicaciddidnot.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):261.265,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,MUC5AC分泌,ELISA,ウサギ結膜組織.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,MUC5ACsecretion,ELISA,rabbitconjunctivaltissues.262あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(108)し,ブラシ状部位の一つ一つがジスルフィド結合で重合しているため,MUC5ACは,非常に粘性の高い糖蛋白質であり,膜結合型ムチンと協働して眼表面の涙液保持などに対して重要な役割を担っている1).ドライアイ症状を示すSjogren症候群2)や炎症が強いアレルギー性結膜炎3)のように炎症が慢性化している症例では,結膜上皮におけるMUC5ACの発現が低下しており,MUC5ACの蛋白質レベルでの減少が眼表面の涙液保持の低下,強いては涙液層破壊時間を短縮していると考えられている4).また,ドライアイ患者に精製ムチン溶液を点眼することで,角結膜上皮障害が改善することも報告されている5).したがって,ドライアイ症状の一つである眼表面の涙液保持の低下を改善するためには,眼表面にMUC5ACを補給する必要があると考えられる.ヒアルロン酸ナトリウムは,その薬理作用(角膜上皮伸展作用および保水作用)により,角結膜上皮障害改善薬として幅広く使用されてきた.しかし,ムチンの被覆度が低下している症状に対しての効果が弱いと考えられている6).P2Y2受容体作動薬であるアデノシン三リン酸(ATP)あるいはウリジン三リン酸(UTP)は,ヒト結膜組織からのムチン分泌を促進することが報告されており7),UTPと同程度のP2Y2受容体作動作用を示すジクアホソルナトリウムも,正常ウサギ8)および正常ラット9)の結膜組織から糖蛋白質の分泌を促進することが報告されている.そこで,今回,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5ACを定量的に評価できる系(enzyme-linkedimmunosorbentassay:ELISA)を構築し,その系を用いてジクアホソルナトリウムの結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用について,ヒアルロン酸ナトリウムと比較検討した.I実験方法1.被験溶液の調製法ジクアホソルナトリム(ジクアホソル,ヤマサ醤油)およびヒアルロン酸ナトリウム(キューピー)は,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR:111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMD-glucose)にて溶解した.2.ウサギ結膜摘出雄性日本白色ウサギ(北山ラベス)にネンブタール注射液(大日本住友製薬)を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.ケイセイ替刃メスを用いて眼窩周囲に切り込みを入れ,眼窩との結合組織を.離させ,ハサミを用いて外眼筋および視神経を切断し,結膜およびその周辺組織部分を分離・摘出した.なお,本研究は,「動物実験倫理規程」,「動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.抗MUC5AC抗体(Clone45M1)の特異性a.組織学的検討摘出した結膜組織を10%中性ホルマリン(pH7.2.7.4)にて室温で浸漬固定した.パラフィン包埋を行った後,約3μmの連続切片を薄切した.過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色および抗MUC5AC抗体(Clone45M1:マウス抗ヒトMUC5AC抗体,NeoMarkers),ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG(免疫グロブリンG)抗体(DAKO)およびジアミノベンチジン(DAKO)を用いて高分子ポリマー法による免疫組織化学的染色を行った.免疫染色の特異性は,陰性対照抗体として抗マウスIgG抗体(DAKO)を反応させて確認した.b.ウェスタンブロット摘出した結膜組織に組織溶解液(10mMTris,1mMEDTA,1%蛋白分解酵素阻害剤)を加え,ホモジナイズし,遠心(5,000rpm,2分)操作により,上清(ウサギ結膜組織溶解液)を回収した.ウサギ結膜組織溶解液をlaemmlisamplebuffer(Bio-Rad)と混合し,95℃,5分間加熱処理した後,4.20%ポリアクリルアミドゲル(第一化学)にて電気泳動し,PVDF膜にブロッティングを行った.洗浄液(0.05%Tween20含有TBS),ブロッキング液(イムノブロックR:DSファーマバイオメディカル),抗MUC5AC抗体およびHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(ThermoScientific)によりウェスタンブロットを行った.最終,ECLTMwesternblotdetectionreagent(GEHealthcare)に浸して反応させ,Filmに感光して現像した.4.MUC5ACELISA法96穴マイクロプレートに検量線用サンプルおよび被験薬を作用させたウサギ結膜組織培養上清液を添加し,固相化した.その後,Arguesoらの方法2)を参考に,抗MUC5AC抗体,HRP標識ヒツジ抗マウスIgG抗体(GEHealthcare)に続き,tetramethylbenzidine溶液(Sigma)と反応させた後,マイクロプレートリーダーにて波長450nmの吸光度を測定した.なお,検量線用サンプルとして,ウサギ結膜組織を24時間培養した上清液を1,000AU/mLとした2倍公比の希釈列サンプルを用いた.5.ウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌量の測定ウサギより摘出した眼瞼結膜周囲の皮膚組織をハサミで切除し,結膜組織を広げ,4mm径トレパン(貝印)で打ち抜いて結膜組織片を作製した.BR中に,結膜組織片を入れ,5%CO2,37℃にて30分間安定化させた.被験溶液が入った48穴プレートに安定化させた組織片を入れ,5%CO2,37℃,90分間培養した.培養上清液中のMUC5AC量は,「4.MUC5ACELISA法」にて測定した.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112636.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,ジクアホソルの作用は,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定法,ヒアルロン酸ナトリウムの作用は,薬剤無添加群とのStudentのt検定法にて,5%を有意水準として解析した.II結果1.抗MUC5AC抗体の特異性抗MUC5AC抗体(Clone45M1)が反応する蛋白質の結膜組織での局在および蛋白質分子量分布を検討する目的で,ウサギ結膜組織をClone45M1抗体を用いた免疫染色,ウサギ結膜組織溶解液をウェスタンブロットにて解析した.図1に示すように,PAS染色(図1a)およびClone45M1抗体を用いた免疫染色(図1b)での陽性部位は,結膜の杯細胞中の粘液に認められた.また,陰性対照標本では,陽性部位が認められなかった(図1c).図2に示すように,ウサギ結膜組織中で,Clone45M1抗体と反応する蛋白質の分子量は,250kDa以上であった.2.MUC5ACのELISA法の特異性本ELISA法における抗MUC5AC抗体(Clone45M1)の特異性について,ウサギ結膜組織培養上清液から調製した検量線用サンプルを用いて検討した(図3).検量線用サンプル中のMUC5AC濃度に依存してELISA法における免疫反応および酵素基質反応により検出される吸光度(反応最終検出値)は上昇し,二者間に良好な相関性が認められた(相関係数=0.99).一方,抗MUC5AC抗体を反応させない場合は,高濃度のMUC5ACを含有しているサンプルにおいても,吸光度の上昇は認められなかった.3.ジクアホソルのウサギ結膜組織におけるMUC5AC分泌促進作用-ヒアルロン酸ナトリウムとの比較-図4に示すように,ジクアホソルの添加により培養時間90分の条件で,MUC5ACの分泌は濃度依存的に促進され,その作用は,10μM以上のジクアホソルで薬剤無添加群に比べて有意であった.一方,0.1%ヒアルロン酸ナトリウムabc図1結膜上皮組織のPAS染色および抗MUC5AC抗体による免疫染色像a:PAS染色.b:抗MUC5AC抗体(Clone45M1)による免疫染色.c:抗マウスIgG抗体による免疫染色(陰性対照).○:抗MUC5AC抗体(+)□:抗MUC5AC抗体(-)MUC5AC(AU/mL)吸光度(450nm)2.521.510.501101001,000図3ウサギ結膜組織由来MUC5ACと吸光度の回帰曲線各値は2例の平均値を示す.12kDa2501501007550図2ウサギ結膜組織中の抗MUC5AC抗体と親和性を示す蛋白質の分子量分布レーン1:マーカー,レーン2:ウサギ結膜組織溶解液.264あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(110)はまったく影響を及ぼさなかった.III考按今回,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5AC量を定量的に測定できるELISA法を確立した.ELISA法に用いた抗MUC5AC抗体(Clone45M1抗体)は,ウサギ結膜組織を用いた免疫染色の検討により,PAS陽性部位と同様にウサギ結膜上皮組織の杯細胞内糖蛋白質と結合し,結膜組織溶解液を用いたウェスタンブロットの検討により,250kDa以上の高分子蛋白質と特異的に結合することが明らかとなった.したがって,Clone45M1抗体は,ウサギ結膜組織内のMUC5ACに特異性が高いと考えられる.つぎに,本ELISA法の反応性を確認したところ,MUC5AC含有サンプルとELISA最終検出値間に良好な相関性が得られ,Clone45M1抗体を除く,他の要因による非特異的反応性も認められなかった.したがって,本ELISA法は,MUC5ACに特異性が高く,かつ定量評価可能であると考えられた.さらに,本ELISA法を用いて,ジクアホソルのMUC5AC分泌に対する作用を検討した結果,ジクアホソルは,ウサギ結膜組織からのMUC5ACの分泌を濃度依存的に促進し,その反応性は,10μM以上で薬剤無添加群に比べて有意であった.ジクアホソルのムチン分泌促進作用の反応は,ヒト結膜組織を用いたATPおよびUTPの反応性にほぼ類似しており7),ヒトとウサギ間の種差はほとんどないと考えられる.また,Fujiharaらは,ジクアホソルの点眼がウサギドライアイモデルにおける角膜上皮障害を改善することおよび本改善作用には,結膜上皮層からのPAS陽性蛋白質の分泌促進が関与している可能性を報告している8).したがって,ジクアホソルは,MUC5ACの分泌促進作用を介してドライアイ患者に認められる涙液安定性の低下,ひいては涙液保持の低下などの眼表面の異常を正常化し,角結膜上皮障害の改善作用を示すと考えられる.ヒアルロン酸ナトリウムは,三次元的な網目構造を形成し,大量の水分を保持できることより眼表面での保水性10)およびフィブロネクチンとの結合を介した角膜上皮細胞の接着,伸展作用11)により,ドライアイ患者に対する治療効果も認められ12),角結膜上皮障害の治療薬として汎用されている.しかし,今回の結果からも明らかにされたが,ヒアルロン酸ナトリウムには,ムチン分泌を促進する作用が認められず,眼表面にムチンが被覆していないドライアイ患者では,満足した治療効果を得ることができない可能性が考えられる.今回,ジクアホソルが,ヒアルロン酸ナトリウムでは認められないウサギ結膜杯細胞からのMUC5ACの分泌を促進することを明らかにした.このことは,ジクアホソル点眼液が新規作用機序により,現在ヒアルロン酸ナトリウム点眼液では,効果不十分とされている症例に対しても有効性を示す可能性があり,新規のドライアイ治療薬としての効果が期待される.謝辞:本研究に協力いただきました堂田敦義博士,勝田修博士,篠宮克彦氏に深謝いたします.文献1)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19972)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20023)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandMUC5ACalterationsinatopicpatientswithcornealshieldulcers.CurEyeRes30:897-908,20054)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20085)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,20026)ShimmuraS,OnoM,ShinozakiKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,19957)JumblattJE,JumblattMM:RegulationofocularmucinsecretionbyP2Y2nucleotidereceptorsinrabbitandhumanconjunctiva.ExpEyeRes67:341-346,19988)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20020110MUC5AC(AU/mL)ジクアホソル(μM)1001,0000.1HA(%)*****NS4003002001000図4ウサギ結膜組織からのジクアホソルおよびヒアルロン酸ナトリウム(HA)のMUC5AC分泌に及ぼす影響各値は4例の平均値±標準誤差を示す.ジクアホソルおよびHAは,90分間反応させた.*:p<0.05,**:p<0.01,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).NS:有意差なし,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Studentのt検定)(111)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112659)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200110)NakamuraM,NishidaT,HikidaMetal:Combinedeffectsofhyaluronanandfibronectinoncornealepithelialwoundclosureofrabbitinvivo.CurrEyeRes13:385-388,199411)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,199312)YokoiN,KomuroA,NishidaKetal:Effectivenessofhyaluronanoncornealepithelialbarrierfunctionindryeye.BrJOphthalmol81:533-536,1997***