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DSAEK術後長期経過後の角膜真菌症

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):538.541,2018cDSAEK術後長期経過後の角膜真菌症奥村峻大*1田尻健介*1吉川大和*1清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院眼科CFungalKeratitisafterLong-termDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyTakahiroOkumura1),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),KazuhiroShimizu1,2)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiHospital目的:角膜内皮移植術(DSAEK)長期経過後に角膜真菌症をきたしたC2症例を報告する.症例:症例1は77歳,男性.右眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C32カ月に遷延性の角膜上皮びらんを認めた.術後C37カ月にソフトコンタクトレンズを装用させたところ.3週間後に角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.症例C2はC84歳,女性.両眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C11カ月間,部分的な角膜浮腫が遷延した.術後C8カ月より右眼の充血と眼痛の訴えがあり,術後C15カ月に右眼の角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.掻爬した角膜上皮より塗抹培養検査でそれぞれCCandidaCparapsilosisおよびCCandidaCalbicansが同定された.結論:DSAEK術後で角膜上皮びらんや角膜浮腫を認めた症例では角膜真菌症も鑑別診断の一つとして念頭においておく必要がある.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCofCfungalCkeratitisCafterClong-termCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK).CCaseReports:CaseC1CinvolvedCaC77-year-oldCmaleCwhoCunderwentCDSAEKCforCbullouskeratopathy(BK)inChisCrightCeye.CAtC32CmonthsCpostoperatively,CpersistentCcorneal-epithelialCerosionCwasCobserved.CAtC37-months,Cmedical-soft-contact-lensCwearCwasCinitiated.CThreeCweeksClater,CwhiteCin.ltratesCwereCobservedonthecornealsurface.Case2involvedan84-year-oldfemalewhounderwentDSAEKforbilateralBK.PartialCcornealCedemaCwasCprolongedCforC11monthsCpostoperatively.CAtC8CmonthsCpostoperatively,Cright-eyeCcon-junctivalhyperemiaandocularpainoccurred.At15months,whitein.ltrateswereobservedonherright-eyecor-nealsurface.Ineachofthesecases,CandidaparapsilosisCandCandidaalbicansCwereidenti.edfromsmearmicros-copyCandCbacterialCcultureCofCcornealCepithelium.CConclusion:FungalCkeratitisCmayCbeCselectedCasCaCdi.erentialCdiagnosiswhencornealerosionandcornealedemaareobservedonthecornealsurfacepostDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):538.541,C2018〕Keywords:DSAEK,角膜真菌症,カンジダ,角膜びらん,角膜浸潤.Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),fungalkeratitis,Candida,cornealerosion,cornealin.ltration.Cはじめに水疱性角膜症に対する治療として従来は全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)が行われていたが,近年は角膜内皮移植術のなかでも,とくにCDSAEK(DescemetstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty)が主流となってきている1,2).PKPと比較したCDSAEKの利点は,①術中のオープンスカイがないため駆逐性出血のリスクが低い,②外傷に強い,③術後の視力改善が早い,④術後の不正乱視が少ない,⑤角膜移植片の縫合はない場合が多く,感染など縫合糸関連の合併症が少ない,⑥拒絶反応が少ないなどがあげられる2).DSAEK術後の角膜感染症はCinterfaceCinfection(host-graft創間の感染)が問題となるものの,角膜移植片の縫合はない場合が多いため,表層からの角膜感染症のリスクは一般にCPKPに比べ低いと考えられる.さらにCDSAEK術後の角膜表層からの感染と考えられる角膜真菌症は報告例が少なく,比較的まれであると考えられる.今回,筆者らは,DSAEK施行後,良好な視力経過をたどっている症例に角膜表層から感染した角膜真菌症を経験したので報告する.〔別刷請求先〕奥村峻大:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakahiroOkumura,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki-City,Osaka569-8686,JAPAN538(120)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(120)C5380910-1810/18/\100/頁/JCOPYI症例〔症例1〕77歳,男性.眼科既往歴:1994年C1月に右眼の白内障に対して水晶体.外摘出術+眼内レンズ挿入術(ECCE+IOL),1995年C11月に左眼に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)を他院で施行された.その後,両眼とも緑内障を発症し,2001年C1月に左眼,2001年C2月に右眼に対して線維柱体切除術(trabeclectomy)が施行された.現病歴および経過:2010年C8月中旬より右眼の視力低下を自覚し近医受診.右眼矯正視力は(0.4)と低下しており,虹彩切除部より.外固定された眼内レンズ支持部の前房内への脱出と角膜内皮細胞密度の減少を認めた.同年C9月精査・加療目的に大阪医科大学眼科(以下,当科)紹介受診となったが,水疱性角膜症となり右眼視力はC0.02(矯正不能)まで低下した.2012年C2月に右眼のCDSAEKを施行し,手術は明らかな合併症なく終了した.術後はC0.3%ガチフロキサシン点眼およびC0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C4回/日で治療した.徐々に角膜の透明性は回復し,術後C9カ月に矯正視力は(0.6)に改善した.しかし,術直後より鼻側下方に角膜浮腫が遷延しており,スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度は測定困難であった.術後C32カ月に角膜下方にびらんを生じ,矯正視力は(0.1)に低下した(図1a).角膜浮腫はやや範囲が広がったような印象で,角膜後面沈着物を認めた.5カ月間,オフロキサシン眼軟膏,レバミピド点眼で加療するも改善がみられず,角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ(SCL)装用を開始した.装用開始からC2週間後,角膜びらんはやや改善しているように思われたが,眼脂を認め,右眼矯正視力は(0.06)と低下した(図1b).さらにCSCL装用を継続したところ,1週間後の受診の際に眼痛の訴えがあり,角膜浸潤を生じていた.そのためベタメタゾン点眼およびCSCL装用を中止し,角膜掻爬のうえC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.前回受診の際に採取した眼脂と角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.1カ月の治療で炎症は鎮静化した(図1c).現在,右眼矯正視力は(0.1)で,角膜びらんや角膜浮腫,眼痛の再発は認めずに経過している.〔症例2〕86歳,女性.現病歴および経過:2004年より白内障で近医にて経過観察されていた.経過中に視力低下を認めたため,2013年C7月に白内障手術目的に当科紹介受診された.当科初診時,白内障に加えて角膜内皮細胞密度が右眼C559/mmC2,左眼測定不能と両眼とも低下していたため,白内障手術後に水疱性角図1症例1の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C37カ月.角膜上皮びらんは改善を認めず.角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ装用を開始した.Cb:ソフトコンタクトレンズ装用開始後C3週間.角膜浸潤を認める.角膜上皮の塗抹鏡検,培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.Cc:治療開始後C4週間.角膜上皮びらんは治癒した.角膜真菌症は瘢痕治癒を認めた.C膜症となるリスクを説明したうえでC2013年C8月C30日に右眼に対してCPEA+IOLを施行した.術後いったん視力は改善したが,その後水疱性角膜症が発症し右眼の矯正視力が(0.2)まで低下した.2013年C11月C19日に右眼に対して(121)Cあたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C539図2症例2の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C4カ月.術後部分的にCgraftの接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫が遷延している.Cb:DSAEK術後C15カ月.角膜実質浅層に浸潤があり,衛星病巣を認める.Cc:治療開始後C3カ月.角膜は瘢痕治癒した.CDSAEKを施行し,明らかな合併症なく手術は終了した.術後はC0.1%ベタメタゾン点眼C4回/日を含む点眼加療を開始した.術直後よりChost角膜とCdonorCgraft間に部分的な接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫を認めた(図2a).術後C8カ月に異物感と軽度の充血が出現した.術後C10カ月に眼圧が上昇したためC0.1%ベタメタゾン点眼をC0.1%フルオロメトロン点眼C2回/日に変更した.術後C11カ月にはhost角膜とCdonorgraftは接着し,遷延していた角膜上皮浮腫も改善したものの,同部の角膜実質浅層に混濁が残存した.術後C15カ月に同部の角膜表層に浸潤を認めたが角膜上皮欠損は認めなかった.感染が強く疑われ精査を勧めたが,矯正視力は(0.7)で改善傾向が続いており,家庭の事情もあり慎重な経過観察を希望された.1カ月後に再診し,角膜浸潤の増大と角膜上皮欠損を認めた(図2b).矯正視力は(0.8)であったが,異物感と充血が続いており,説得して角膜.爬を施行した.角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaalbicansが検出された.フルオロメトロン点眼は中止しC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.治療開始後C3カ月で瘢痕治癒した(図2c).治療開始以降,異物感の訴えは認めない.現在矯正視力は(1.2)である.角膜内皮細胞密度は術前のCdonorCgraftでC2,625/mmC2であり,術後は測定困難が続き術後C27カ月でC1,407/mmC2,術後C42カ月でC1,156/mmC2であった.CII考按角膜移植後の角膜感染症の危険因子としては,角膜縫合糸のゆるみや断裂,遷延性上皮欠損,コンタクトレンズ装用,局所のステロイド点眼および抗菌薬点眼の併用などがあげられている3).DSAEKは角膜表層への侵襲が少ないこと,角膜縫合糸を使用しない場合が多いことから,PKPと比較して術後感染症は少ない可能性が考えられる.PKPとCDSAEKそれぞれの術後角膜感染症を疫学的にみてみると,MarianneらはCCorneaDonorStudyに基づいて,角膜移植術後の角膜感染症の発症頻度についてC3年間経過観察し,DSAEK173例で0%,PKP術後C1,101例で2%認めたと報告している4).NuhmanらはCDSAEK術後のCinterfaceinfectionを,8年間経過観察したC1,088眼でC0.92%に認めたと報告しており,内訳はC0.53%が細菌性,0.39%が真菌性であったとしている5).これに対して,脇舛らはCPKP術後の558例についてC6年間で,細菌感染症をC1.4%,真菌感染症を2%認めたと報告している6).上記の報告からはCDSAEK術後の角膜感染症はCPKPに比較すると少なく,真菌性は細菌性よりも頻度は低いと考えられるが,海外の報告ではグラフト汚染に起因した角膜真菌症の報告が多い7.19).グラフト汚染に起因した角膜真菌症は術後C3カ月以内(術後C7日.3カ月)で発症し7.19),移植したdonorgraftとChost角膜の層間に沿って真菌が増殖し,予後不良の転帰をたどることもある10,13),このため術後のグラフト自体に浸潤性の病変が生じていないか慎重に経過観察することが重要である.診断にはコンフォーカルマイクロスコープが有用であるとする報告もみられる12,13).グラフト作製後に残った強角膜片の培養をあらかじめ施行しておくことも有効である9.12).原因菌は今回の症例と同じCCandida属が多い.治療には抗真菌薬の点眼を施行するが,保存的治療だけ(122)で完治は困難でありグラフト抜去9,13)や治療的角膜移植8,10.12)が有効なようである.症例C1は術直後より部分的な角膜浮腫が遷延していたため,角膜真菌症と診断されるまでC37カ月間C0.1%ベタメタゾン点眼が継続されていた.術後C32カ月の時点で難治性の角膜びらんを発症したが,経過中に眼痛や視力など自覚症状および診察所見に大きな変化がなく,角膜浸潤が明らかになり角膜真菌症が診断されたのはCSCL装用を開始したC3週間後であった.本症例ではステロイド点眼の長期継続に加えて,遷延する角膜浮腫と角膜びらんが発症の一因となっていた可能性があり,SCL装用が増悪因子となったと考えられるが,どの時点で角膜感染が生じていたかは明らかでない.症例C2も術直後より角膜浮腫が遷延していた.眼圧上昇を認めたため術後C9カ月でベタメタゾン点眼をフルオロメトロンに変更したものの,変更前より異物感と充血を認めていた.術後C11カ月に角膜浮腫の消退した部位に上皮下混濁を認めており,さらにC4カ月後に角膜真菌症を発症した.本症例でも角膜浸潤が明らかになるより以前に角膜感染が生じていた可能性が考えられるが,どの時点かは明らかでない.発症時期についての検討だが,PKP,表層角膜移植術の角膜感染症の発症時期は,術後早期では細菌感染症が,3年以降の晩期では真菌感染症が多いと報告されている4).ArakiらはCDSAEK術後C2年に発症したCgraft汚染によらない角膜真菌症を報告している14)が,今回のC2症例の発症時期はそれぞれ術後C38カ月とC15カ月であり,DSAEK術後のCgraft汚染によらない角膜真菌症の発症時期についてはCPKPに準ずる可能性があると考えられた.また,2症例とも角膜浮腫が遷延しており,浮腫のあった部分に真菌感染を生じている.視力経過が比較的良好な症例でも角膜上皮浮腫や角膜びらんなど角膜上皮にトラブルのある症例では角膜感染のリスクがあると考えられる.角膜移植後は拒絶反応を予防するためにステロイド点眼が併用されるが,DSAEKはCPKPと比較して拒絶反応のリスクが低いとされており,比較的早期に投与量を減量されることが多いと考えられる.今回のC2症例では,角膜浮腫が遷延していたため,ベタメタゾン点眼を他の症例に比べて長期に使用した傾向がある.岡宮ら15)は白内障術後に角膜びらんが遷延し,ステロイド点眼をC7カ月使用していた症例にCCandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を発症した症例を報告しており,今回のC2症例と総合すると,遷延する角膜浮腫やそれに続発する眼痛や角膜びらんは,CandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を示唆する所見であると考えられる.以上,DSAEK術後の視力経過が比較的良好な症例でも,角膜浮腫の遷延する症例に眼痛や角膜びらんを生じてきた場合,角膜真菌症を鑑別診断の一つとして念頭に置いておく必(123)要があると考えられた.文献1)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurgC21:339-345,C20052)中川紘子,宮本佳菜絵:角膜内皮移植の成績.あたらしい眼科C32:77-81,C20153)藤井かんな,佐竹良之,島.潤:角膜移植後の角膜感染症.あたらしい眼科31:1697-1700,C20144)PriceCMO,CGorovoyCM,CPriceCFWCJrCetCal:DescemetC’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCthree-yearCgraftCandCendothelialCcellCsurvivalCcomparedCwithCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmologyC120:246-251,C20135)NahumY,RussoC,MadiSetal:InterfaceinfectionafterdescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty:CoutcomesCofCtherapeuticCkeratoplasty.CCorneaC33:893-898,C20146)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,C20047)YamazoeCK,CDenCS,CYamaguchiCTCetCal:SevereCdonor-relatedCCandidaCkeratitisCafterCDescemet’sCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplasty.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC249:1579-1582,C20118)HolzCHA,CPirouzianCA,CSudeshCSCetCal:SimultaneousCinterfaceCcandidaCkeratitisCinC2ChostsCfollowingCdescemetCstrippingCendothelialCkeratoplastyCwithCtissueCharvestedCfromCaCsingleCcontaminatedCdonorCandCreviewCofCclinicalCliterature.AsiaPacJOphthalmolC1:162-165,C20129)KitzmannAS,WagonerMD,SyedNAetal:Donor-relat-edCCandidaCkeratitisCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty.CorneaC28:825-828,C200910)KoenigSB,WirostkoWJ,FishRIetal:CandidakeratitisafterCdescemetCstrippingCandCautomatedCendothelialCkera-toplasty.CorneaC28:471-473,C200911)TsuiE,FogelE,HansenKetal:Candidainterfaceinfec-tionsafterDescemetstrippingautomatedendothelialker-atoplasty.CorneaC35:456-464,C201612)LeeWB,FosterJB,KozarskyAMetal:Interfacefungalkeratitisafterendothelialkeratoplasty:aclinicopathologi-calCreport.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC42Online:Ce44-48,C201113)Ortiz-GomarizCA,CHigueras-EstebanCA,CGutierrez-OrtegaARCetCal:Late-onsetCCandidaCkeratitisCafterCDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:clinicalandconfocalCmicroscopicCreport.CEurCJCOphthalmolC21:498-502,C201114)Araki-SasakiK,FukumotoA,OsakabeYetal:ThecliniC-calCcharacteristicsCofCfungalCkeratitisCinCeyesCafterCDes-cemet’sCstrippingCandCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CClinOphthalmolC8:1757-1760,C201415)岡宮史武,宇野敏彦,鈴木崇ほか:ステロイド長期点眼中に発症したCCandidaparapsilosis角膜真菌症のC2例.あたらしい眼科C18:781-785,C2001あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C541

健康成人の片眼に発症した内因性真菌性眼内炎

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(135)135《原著》あたらしい眼科29(1):135?138,2012cはじめに内因性真菌性眼内炎は経中心静脈内高カロリー輸液(intravenoushyperalimentation:IVH)留置,または悪性腫瘍,臓器移植後,あるいは免疫抑制薬の長期投与など,免疫能の低下を招く基礎疾患を背景に発症することが広く知られている.約78%が両眼性発症であり1),片眼性は少ない.今回筆者らは,上述する発症因子のみられない健康成人の片眼に発症し,診断・治療に苦慮したが,最終的に硝子体手術検体の鏡検で確定診断がついた真菌性眼内炎の1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕宇野友絵:〒060-8638札幌市北区北15条7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:TomoeUno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN健康成人の片眼に発症した内因性真菌性眼内炎宇野友絵*1,2南場研一*1加瀬諭*1齋藤航*1北市伸義*3,4大野重昭*4石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2函館中央病院眼科*3北海道医療大学個体差医療科学センター眼科*4北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座ACaseofUnilateralCandidaEndophthalmitisinaHealthyFemaleTomoeUno1,2),KenichiNamba1),SatoruKase1),WataruSaito1),NobuyoshiKitaichi3,4),ShigeakiOhno4)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,HakodateCentralGeneralHospital,3)DepartmentofOphthalmology,HealthSciencesUniversityofHokkaido,4)DepartmentofOcularInflammationandImmunology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:健康成人に発症した片眼性真菌性眼内炎の1例について報告する.症例:69歳,女性.眼および全身に既往歴はない.初診時の視力は右眼0.9で,右眼に線維素析出を伴う前房炎症および一部塊状の硝子体混濁がみられた.ステロイド薬の局所治療を行ったが,強膜充血,前房蓄膿の形成,硝子体混濁の増強および斑状網膜滲出斑が出現した.ステロイド薬全身投与後にさらに増悪したため,硝子体切除術を施行した.硝子体液の培養および血清中b-d-グルカンは陰性であったが,硝子体液中のb-d-グルカン濃度は711.6pg/mlと高値を示し,硝子体細胞診のperiodicacidSchiff(PAS)染色で多数のカンジダ菌糸が確認された.結論:非典型的な内因性真菌性眼内炎の診断には,血中だけではなく,硝子体液中のb-d-グルカン測定や切除検体の組織学的検査が有用である.Purpose:Toreportacaseofunilateralfungalendophthalmitisinahealthyfemale.Case:A69-year-oldhealthyfemalewithconjunctivalrednessandocularpainof6days’durationinherrighteyewasseenataneyeclinic.Sincecorticosteroideyedropshadnoeffect,shewasreferredtotheDepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityHospitalatonemonthafteronsetofsymptoms.Historyofoculartraumaorsurgerywasneverreported.Severeanterioruveitiswithfibrinandposteriorsynechia,andvitreoushazewereobservedinherrighteye.Visualacuitywas0.9,righteye.Despitetreatmentwithlocalandsystemiccorticosteroids,theocularinflammationandvitreoushazegraduallyworsened.ChestandbodyX-ray,andbloodtestresultswerenormal.Serumb-d-glucanwasnegative.Sixmonthslater,vitrectomywasperformedonherrighteye.Theb-d-glucanvaluewaselevatedto711.6pg/mlinthevitreousfluid.VitreouscytologydisclosedCandidawithperiodicacid-Schiffstaining.Conclusion:Indiagnosingatypicalfungalendophthalmitis,vitreousfluidb-d-glucandeterminationandvitreouscytologyareusuful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):135?138,2012〕Keywords:真菌性眼内炎,b-d-グルカン,硝子体手術,カンジダ,periodicacidSchiff(PAS)染色.fungalendophthalmitis,b-d-glucan,vitrectomy,Candida,periodicacid-Schiffstain(PASstain).136あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(136)I症例患者:69歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛.現病歴:2008年7月19日右眼に充血,眼痛が出現した.改善がみられないため7月25日近医を初診した.右眼に線維素析出,虹彩後癒着を伴う前房炎症がみられ,ステロイド薬の点眼治療で改善がみられないため,発症から約1カ月後の8月18日に北海道大学病院眼科を紹介され初診した.既往歴:1998年に大腸癌で大腸部分切除術を受けているが,その後再発や転移はみられていない.内眼手術や眼外傷の既往はない.初診時眼所見:視力は右眼0.9(矯正不能),左眼0.3(0.8×+1.25D),眼圧は右眼14mmHg,左眼21mmHgであった.右眼に線維素析出,虹彩後癒着を伴う前房炎症,そしてびまん性,一部塊状の硝子体混濁がみられた(図1).一方,網膜滲出斑,出血,網膜血管の白鞘化はみられなかった.また,左眼に異常はみられなかった.検査所見:血液検査,尿検査では血清b-d-グルカンを含め異常はみられず,胸部X線写真でも異常所見はなかった.加えて全身的に真菌感染症を疑う所見はなく,この時点でぶどう膜炎の原因同定には至らなかった.経過:2008年8月から2009年2月までの経過を図2に示す.初診時からステロイド薬の点眼治療のみで経過をみていたが,前房炎症・硝子体混濁は持続した.炎症悪化時にはデキサメタゾン結膜下注射やトリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射を適宜施行したが,反応は乏しかった.図1初診時の右眼眼底写真びまん性および一部塊状の硝子体混濁がみられる.前房炎症前房蓄膿硝子体混濁視力トリアムシノロン40mg後部Tenon?下注射デキサメタゾン4mg結膜下注射プレドニゾロン30mg内服2008年8月9月10月11月12月2009年1月10.80.60.40.20図22008年8月から2009年2月までの右眼視力と炎症所見の推移図32008年10月時の右眼前眼部写真右眼視力は0.01(矯正不能)に低下し,強い強膜充血と前房蓄膿の形成がみられる.図42009年2月時の右眼眼底写真硝子体混濁は増悪し雪土手状滲出性病変が出現している.(137)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20121372008年10月右眼炎症所見が増悪し,右眼矯正視力は0.01に低下した.強膜充血,前房蓄膿の形成(図3),硝子体混濁の増強および斑状網膜滲出斑が出現した.プレドニゾロン内服を開始したが右眼炎症所見は改善しなかった.その後,耳側網膜周辺部に円周状の白色混濁が集積した雪土手状滲出性病変が出現し,硝子体混濁も増悪した(図4).再び原因検索のため,前房水を採取してpolymerasechainreaction(PCR)検査を行ったが,水痘帯状ヘルペスウイルス,単純ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスのいずれのDNAも検出されなかった.血液中のb-d-グルカン値,カンジダ抗原,トキソカラ抗体(enzyme-linkedimmunosorbentassay:ELISA法)検査もいずれも陰性であった.この時点で診断的硝子体手術を考慮したが患者の同意が得られなかった.積極的に感染症を疑う根拠に乏しく,炎症性疾患を考えてステロイド薬治療を継続し,改善・悪化がみられず経過した.しかし,ステロイド薬への反応が乏しいこと,病状の進行が比較的緩やかであること,雪土手状滲出性病変の存在から真菌性眼内炎を疑い,2009年2月19日から抗真菌薬(ミカファンギン)の点滴を開始し,2月22日,患者の同意が得られたため右眼硝子体切除術を施行した.採取された硝子体液の培養検査では菌の発育はなかったが,硝子体液中のb-d-グルカンの濃度は711.6pg/mlと高値を示した.また,硝子体細胞診のperiodicacidSchiff(PAS)染色標本に多数のカンジダ菌糸が確認され(図5),真菌性眼内炎と診断した.手術翌日の2月23日からボリコナゾール点滴に変更したが,3月2日に右眼は網膜全?離に至り,3月3日に再度硝子体手術を行った.術中,網膜の全面にわたって線維血管増殖膜形成を伴う網膜?離がみられたため,増殖膜を除去しシリコーンオイルタンポナーデを行った.その後再?離したが,患者は積極的治療を望まないため,経過を観察している.ボリコナゾール投与は38日間行い,前房,硝子体中の炎症所見は消失した.現在,右眼視力は眼前手動弁で炎症の再燃はない.II考按健康成人の片眼に発症した非典型的な内因性真菌性眼内炎の1例を経験した.内因性真菌性眼内炎は,通常IVH留置や免疫低下を招く基礎疾患を背景に血行性に発症する.診断の確定には,前房水あるいは硝子体液からの真菌の検出が必要であるが,実際に眼内組織から真菌が分離,培養される頻度は30?50%と低い2?5).一方,一般的に他臓器もしくは全身性の真菌感染症が先行するため血中b-d-グルカン値の測定が診断に有用である.実際Takebayashiら1)は,真菌性眼内炎における血中b-d-グルカンの陽性率は95%と報告しており,感度の高い検査といえる.しかしながら,本症例のように血中b-d-グルカンの上昇を伴わない内因性真菌性眼内炎の報告もある.表1に示すように,健康成人に発症した内因性真菌性眼内炎は本症例を含めて9例6?11)報告されている.Schmidらの報告6)では,片眼,両眼の記載がなく詳細は不明であるが,その他の報告では7例のうち6例が片眼性であり,健康成人に発症する真菌性眼内炎は片眼性が多い.また,藤井ら10)や岩瀬ら11)の報告例,および本症例では血中b-d-グルカンは陰性であった.したがって片眼性の症例では,外因性の真菌感染を疑う必要があるが,本症例では内眼手術および眼外傷の既往がなく,表1健康成人に発症した真菌性眼内炎の報告症例数片眼or両眼血中b-d-グルカン硝子体液中b-d-グルカン文献Schmidら2例不明(培養のみ)(培養のみ)Infection,19916)Kostickら1例片眼(培養のみ)(培養のみ)AmJOphthalmol,19927)酒井ら2例片眼片眼(培養のみ)(培養のみ)(培養のみ)(培養のみ)臨眼,19978)板野ら1例片眼++眼臨,20069)藤井ら1例片眼?+臨眼,200910)岩瀬ら1例両眼?+あたらしい眼科,201011)本症例1例片眼?+図5硝子体液のPAS染色標本PAS陽性のカンジダ菌糸が多数検出された.138あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(138)角膜,結膜,強膜,虹彩,水晶体に外傷の痕跡はなかった.最近,硝子体液中のb-d-グルカンが真菌性眼内炎の診断に有用であることが示唆されている.真保ら12)は真菌性眼内炎2例を含む26症例について硝子体液中のb-d-グルカン値を測定し,硝子体液中b-d-グルカンの基準値は10.0pg/ml以下とした.b-d-グルカン値の測定は培養検査よりも真菌に対して感度が高く簡便であるため,真菌性眼内炎の診断をするうえでの適切な指標となりうると報告している7).前述した健康成人に発症した真菌性眼内炎の報告のなかで,硝子体液中のb-d-グルカンの測定値についても記載があり,板野らの報告9)では血中および硝子体液中のb-d-グルカンがともに陽性であった(表1).一方,藤井らや岩瀬らの報告および本症例では血中b-d-グルカンは陰性であるが硝子体液中のb-d-グルカンは陽性を示しており,血中よりも有用であることが示唆される.したがって,真菌感染症を疑わせる背景のない患者で眼所見から内因性真菌性眼内炎が疑われる場合や,外因性(外傷,術後)眼内炎で真菌が原因である可能性がある場合には,硝子体液中b-d-グルカン値の測定が有用であると考えられる.一般に内因性真菌性眼内炎は血行感染であり,結果として両眼性が多いが,健康成人の片眼に発症する真菌性眼内炎は一般的な真菌性眼内炎とは発症経路が異なる可能性が考えられる.Kostickらの報告7)では,片眼の真菌性眼内炎を発症した健康成人の腟および爪からカンジダが検出されており,その発症となんらかの関連があることが示唆されている.しかし,その感染経路の詳細については言及されていない.本症例でも感染経路の特定はできなかった.本症例は真菌性眼内炎に特徴的な発症因子がなく,血清b-d-グルカンが陰性であったこと,加えて本人が手術に消極的であったことが真菌性眼内炎の診断が遅れる結果となった.真菌の侵入経路はいまだに不明であるが,内因性真菌性眼内炎が健康成人の片眼に生じうる可能性を認識しておくべきである.眼所見から真菌性眼内炎が疑われる症例では積極的に硝子体切除術を行い,眼内液の培養以外にも硝子体液中b-d-グルカンの測定,硝子体液の細胞診を行うことが大切である.文献1)TakebayashiH,MizotaA,TanakaM:Relationbetweenstageofendogenousfungalendophthalmitisandprognosis.GraefesArchClinExpOphthalmol244:816-820,20062)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状.日眼会誌95:369-376,19913)金子尚生,宮村直孝,沢田達宏ほか:内因性眼内炎の予後.眼紀44:469-474,19934)川添真理子,沖波聡,齊藤伊三雄ほか:内因性真菌性眼内炎に対する硝子体手術.臨眼48:753-757,19945)久保佳明,水谷聡,岩城正佳ほか:真菌性眼内炎の硝子体手術による治療.臨眼48:1867-1872,19946)SchmidS,MartenetAC,OelzO:Candidaendophthalmitis:Clinicalpresentation,treatmentandoutcomein23patients.Infection19:21-24,19917)KostickDA,FosterRE,LowderCYetal:EndogenousendophthalmitiscausedbyCandidaalbicansinahealthywoman.AmJOphthalmol113:593-595,19928)酒井理恵子,川島秀俊,釜田恵子ほか:健常者に発症した真菌性眼内炎の2症例.臨眼51:1733-1737,19979)板野瑞穂,植木麻理,岡田康平ほか:血中b-D-グルカン測定が診断に有用であった健常者発症真菌性眼内炎の1例.眼臨100:758-760,200610)藤井澄,岡野内俊雄:硝子体液中b-D-グルカンおよび真菌PCRが眼内炎の診断・治療に有用であった1例.臨眼63:69-73,200911)岩瀬由紀,竹内聡,竹内正樹ほか:健康な女性に発症した両眼性の真菌性眼内炎の1例.あたらしい眼科27:675-678,201012)真保雅乃,伊藤典彦,門之園一明ほか:硝子体液中b-D-グルカン値の臨床的意義の検討.日眼会誌106:579-582,2002***

アムビゾーム® とブイフェンド® による治療を行った角膜真菌症の1例

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)1483《原著》あたらしい眼科28(10):1483?1489,2011cはじめに角膜真菌症は,ステロイド製剤や広域抗菌薬の局所投与の濫用,アトピー性皮膚炎の患者数やコンタクトレンズ装用者数の増加などにより,近年増加傾向にあるといわれている1?3).角膜真菌症に対する治療として,抗真菌薬の点滴療法を併用する場合があるが,抗真菌薬の眼内移行性の問題や腎障害や肝障害といった全身的副作用の問題がある.わが国で眼局所投与が可能な抗真菌製剤は,5%ナタマイシン(ピマリシンR)点眼液と1%ナタマイシン(ピマリシンR)眼軟膏のみであるが,副作用として角膜上皮障害やアレルギー性〔別刷請求先〕平山雅敏:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasatoshiHirayama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANアムビゾームRとブイフェンドRによる治療を行った角膜真菌症の1例平山雅敏*1大口剛司*2松本幸裕*1手島ひとみ*1上遠野保裕*3村田満*3川北哲也*1榛村重人*1坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*3慶應義塾大学病院中央臨床検査部ACaseofKeratomycosisTreatedwithAntifungalAgentsAmBisomeRandVfendRMasatoshiHirayama1),TakeshiOhguchi2),YukihiroMatsumoto1),HitomiTeshima1),YasuhiroKatouno3),MitsuruMurata3),TetsuyaKawakita1),ShigetoShimmura1)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofMicrobiology,KeioUniversityHospitalFusariumsolaniとCandidaalbicansによる混合感染が原因と考えられた角膜真菌症に対して,アムホテリシンBリポソーム製剤(アムビゾームR)とボリコナゾール(ブイフェンドR)にて治療を行った1例を経験したので報告する.症例は,75歳,男性で,右眼の角膜潰瘍と診断され,慶應義塾大学病院を紹介受診となった.初診時の視力は,右眼手動弁(矯正不能)で,感染性の角膜潰瘍が疑われた.生体レーザー共焦点顕微鏡検査にて,角膜実質に多数の糸状の像を認め,真菌培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansが同定され,角膜真菌症と診断した.ミカファンギン点眼にて治療を開始するも,角膜穿孔を生じ,治療的角膜移植術を施行した.術前および術後には,アムビゾームRとブイフェンドRの点眼および点滴による治療を行った.術後の角膜の上皮化は良好であり,感染の再発も認められなかった.アムビゾームRとブイフェンドRによる治療は,角膜真菌症に対する治療の選択肢の一つになりうると考えられた.WereportacaseofkeratomycosiscausedbyFusariumsolaniandCandidaalbicansthatwastreatedwithliposomalamphotericinB(AmBisomeR)andvoriconazole(VfendR).Thepatient,a75-year-oldmale,hadpreviouslybeendiagnosedwithcornealulcerinhisrighteyeataneyeclinic.Visualacuityintheeyewashandmotion.Confocalmicroscopyrevealedmanyfilamentousstructures.FusariumsolaniandCandidaalbicanswereisolatedfromcultureofthecornealscrapingsandconfirmedbyDNAanalysis.Wediagnosedkeratomycosisandcommencedtreatmentwithtopicalmicafungin;however,theulcerworsenedandperforated.Wethenperformedtherapeuticcornealtransplantation,followedwithantifungalagentsincludingtopical/systemicAmBisomeRandVfendR.Nopersistentcornealepithelialdefectorinfectionrecurrencewereobserved.CombinedtreatmentwithAmBisomeRandVfendRseemstobeanoptionforkeratomycosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1483?1489,2011〕Keywords:アムホテリシンB,ボリコナゾール,角膜真菌症,フサリウム,カンジダ.amphotericinB,voriconazole,keratomycosis,Fusariumsolani,Candidaalbicans.1484あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(116)結膜炎を生じやすく,症例によっては使用しにくいという欠点がある.わが国では,1962年より使用されているアムホテリシンB(amphotericineB:AMB)の点滴製剤である,アムホテリシンBデオキシコール酸製剤(amphotericinBdeoxycholate:D-AMB,ファンギゾンR)は,抗菌スペクトルが広く,真菌に殺菌的に作用し,耐性真菌の発現がきわめて少ない薬剤であるが,腎障害などの副作用が問題となっていた.角膜真菌症に対しては,自家調整された0.15%ファンギゾンR点眼の有効性が示唆されているが,角膜上皮障害などの副作用の出現が問題となっている4).しかし,2006年には,その副作用を軽減するための薬剤として開発された,アムホテリシンBリポソーム製剤(liposomalamphotericinB:L-AMB,アムビゾームR)が登場することとなり,その薬剤の安全性を高めたことで,ファンギゾンRに代わる薬剤として,その有用性が期待されている.2005年より使用可能となったボリコナゾール(voriconazole:VCZ,ブイフェンドR)においては,それを自家調整した1%ブイフェンドR点眼が,Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対して有効かつ安全である,と報告されている5?8).今回,FusariumsolaniとCandidaalbicansによる混合感染が原因と考えられた角膜真菌症に,自家調整した0.1%アムビゾームR点眼および1%ブイフェンドR点眼を使用し,有用であった症例を経験したので報告する.I症例患者:75歳,男性.主訴:右眼の眼痛,充血,視力低下.既往歴:高血圧(+),糖尿病(?),その他の全身疾患(?),眼外傷歴(?).現病歴:平成21年2月23日に,右眼の視力低下を主訴に近医を受診し,右眼細菌性角膜潰瘍を疑われ,0.5%モキシフロキサシン(ベガモックスR)点眼,0.3%トブラマイシン(トブラシンR)点眼,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインR)点眼を処方されるも改善なく,その後,角膜ヘルペスを疑われ,バラシクロビル(バルトレックスR)内服,プレドニゾロン(プレドニンR)内服,3%アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏にて加療されたが,症状の増悪を認めたために,同年5月15日に,精査加療目的にて慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼手動弁(矯正不能),左眼0.3(0.8×sph?2.25D(cyl?0.15DAx90°),眼圧は右眼20mmHgであった.前眼部所見は,右眼に結膜および毛様充血,角膜中央部に8mm×8mmの角膜上皮欠損と角膜浸潤巣,前房内炎症を認めた(図1A).左眼は軽度の白内障を認めた.生体レーザー共焦点顕微鏡検査(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModule:HRTII-RCM,HeidelbergEngineering社,ドイツ)を施行し,右眼の角膜実質に糸状の像を認めた(図2).角膜擦過物の真菌培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansが同定された(図3).また,同時に,各々の真菌について抗真菌ACB図1細隙灯顕微鏡検査A:当院初診時において,結膜充血,毛様充血,角膜上皮欠損と角膜浸潤巣を認めた.B:当院初診より18日後において,角膜上皮欠損の拡大と,角膜中央の菲薄部に穿孔(矢印)を認めた.C:治療的角膜移植後には,角膜の実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めるものの,角膜上皮欠損は改善した.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111485薬に対する薬剤感受性試験を行った.その結果,最小発育阻止濃度(minimuninhibitoryconcentration:MIC)については,Fusariumsolaniではミカファンギン(micafungin:MCFG)が0.25μg/mL,AMBが1μg/mL,VCZが0.5μg/mLであり,CandidaalbicansではMCFGが0.06μg/mL,AMBが0.5μg/mL,VCZが<0.015μg/mLであった(表1).以上の結果より,右眼角膜真菌症と診断し,自家調整した0.1%MCFG(ファンガードR)点眼と0.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼による治療を開始した.しかし,5月30日に,角膜上皮欠損は角膜全体に広がり,角膜浸潤の増悪とともに角膜中央部に菲薄化を認めた.0.1%ファンガードR点眼を中止し,自家調整した1%ブイフェンドR点眼(作製方法については表2を参照),ブイフェンドR内服(300mg/日)に変更したが,6月2日に,角膜上皮欠損の拡大,角膜浸潤の増悪,角膜中央の菲薄部に穿孔を認めたため(図1B),加療目的にて同日当院に入院となった.入院後経過:入院後,0.3%セフメノキシム(ベストロンR)AB図2生体レーザー共焦点顕微鏡検査A:角膜実質層に糸状の構造物が認められた.B:後日,糸状の構造物が断裂している像が認められた.??????????Candidaalbicans??????????FusariumsolaniAB図3真菌培養検査A:胞子の存在と仮性菌糸の形成が認められた.B:新月形の大型分生子を形成する菌糸が認められた.1486あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(118)点眼,1%ブイフェンドR点眼,自家調整した0.1%アムビゾームR点眼(作製方法については表2を参照),ブイフェンドR内服(300mg/日),アムビゾームR点滴(2.5mg/kg/日)による治療を開始したが,角膜の菲薄化および穿孔は改善しなかったため,6月13日に,右眼に対して,保存角膜を用いた治療的角膜移植術を施行した.術中,特記すべき合併症を認めなかった.術後も引き続き,0.3%ベストロンR点眼,1%ブイフェンドR点眼,0.1%アムビゾームR点眼,ブイフェンドR内服(300mg/日),アムビゾームR点滴(2.5mg/kg/日)を継続し,1%アトロピン(アトロピンR)点眼,0.5%トロピカミド+0.5%フェニレフリン(ミドリンPR)点眼を追加した(図4).血液検査では,入院時の血中尿素窒素(bloodureanitrogen:BUN)は22.4mg/dL,血中クレアチニン(creatinin:Cr)は1.4mg/dL,血中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartateaminotransferase:AST)は15IU/L,血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanineaminotransferase:ALT)は8IU/Lであったが,点滴施行中,BUNは35.4mg/dL,血中Crは2.2mg/dL,血中ASTは36IU/L,血中ALTは22IU/Lまで上昇した(図5).点滴開始から2週間後のクレアチニンクリアランス値は57.6mL/minであった.AMBの血中濃度測定では,6月19日,6月22日,6月25日と3回測定して,平均22.98±3.94μg/mLであった.術後,角膜の実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めたが,角膜上皮欠損は徐々に改善した(図1C).前房はやや浅く,下方に虹彩前癒着,瞳孔には虹彩後癒着を認めたが,感染所見の再燃を認めず,6月26日にアムビゾームR表2点眼液の作製方法0.1%アムビゾームR点眼液1.注射用アムビゾームRを1バイアル(50mg/0.5mL換算)中に,注射用水12.0mLを加えた後,ただちに振盪し,均一な半透明な液になるまで激しく振り混ぜる(計12.5mLとなる)2.この溶解した本剤12.5mLをシリンジ(20mL)にてすべて採取する3.シリンジにフィルターを取り付ける4.採取した溶解薬液12.5mLを,フィルター濾過しながら,5%ブドウ糖注射液37.5mLに加え,0.1%アムビゾームR点眼液とする(計50mLとなる)5.0.1%アムビゾームR点眼液を点眼瓶に分注する(注)本剤は溶解しにくい.また,溶解にあたっては注射用水を使用すること1%ブイフェンドR点眼液1.注射用ブイフェンドRを1バイアル(200mg/1.0mL換算)中に,注射用水19.0mLを加えた後,均一な液となるまで振盪し溶解する(計20.0mLとなる)2.この溶解した本剤20.0mLをシリンジ(20mL)にてすべて採取する3.シリンジにフィルターを取り付ける4.採取した溶解薬液20.0mLを,フィルター濾過しながら,点眼瓶に分注し,1%ブイフェンドR点眼液とする上記にて作製した点眼液は1週間を期限として,4℃で保存する表1薬剤感受性試験薬剤名MIC(μg/mL)FusariumsolaniCandidaalbicansアムホテリシンB10.55-フルシトシン>641フルコナゾール>640.25イトラコナゾール>80.25ミコナゾール40.125ミカファンギン0.250.06ボリコナゾール0.5<0.015MIC:最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration).20095/15初診時5/306/2穿孔6/136/27角膜移植10/111/1720101/120.1%ミカファンギン点眼30分毎0.5%レボフロキサシン点眼1日8回1%ボリコナゾール点眼30分毎ボリコナゾール内服300mg/日0.3%セフメノキシム点眼1日8回0.1%アムホテリシンB点眼30分毎アムホテリシンB点滴2.5mg/kg/日0.5%(トロピカミド+フェニレフリン点眼)1日2回1%硫酸アトロピン点眼1日2回2時間毎2時間毎0.5%レボフロキサシン点眼1日8回図4治療経過初診時より,ミカファンギン(ファンガードR)点眼にて治療を開始するも効果がなかったために,ボリコナゾール(ブイフェンドR)点眼に変更した.その後,アムホテリシンB(アムビゾームR)点眼を追加した.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111487点滴を中止し,6月27日に退院となった.退院後経過:退院後も引き続き,0.3%ベストロンR点眼,1%ブイフェンドR点眼,0.1%アムビゾームR点眼,1%アトロピンR点眼,ミドリンPR点眼,ブイフェンドR内服(300mg/日)を継続した.7月7日に,角膜縫合糸の一部に緩みを認めたため,抜糸した.術後3カ月経過した時点で,移植片に実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めたが,角膜の上皮化は良好であった.血液検査では,BUN,血中Cr,血中AST,および血中ALTの数値は改善傾向であったが,再び血中ASTと血中ALTの数値の上昇を認めたため,10月1日に,ブイフェンドR内服を中止した.その後は,血中ASTと血中ALTの数値は正常化した.平成22年1月12日に,0.1%アムビゾームR点眼を中止とした.現在,術後1年を経過しているが,これまでに感染の再発を認めていない.II考察AMBは,ポリエン系のマクロライドであり,真菌細胞膜の主要なステロールであるエルゴステロールに結合し,膜の透過性を変化させて細胞死をひき起こす.D-AMBは,真菌に対して,殺菌的に作用する強力な薬剤であるが,組織透過性が悪く,また,有害な副作用のために十分な治療量を投与できないことがあった9).L-AMBは,D-AMBをリポソームとよばれる脂質小胞の脂質二分子膜中に封入することにより,D-AMBの真菌に対する作用を維持しながら生体細胞に対する傷害性を低下させた製剤である.Invitroにおける抗真菌活性の評価では,L-AMBは,D-AMBと同様に,Aspergullus属,Candida属,Cryptcoccus属などを含む各種真菌に対し幅広い抗真菌スペクトルを有する.その抗真菌活性は最高血中濃度(maximumdrugconcentration:Cmax)/MICに相関するとされ10),大部分の菌株でL-AMBはD-AMBと同等であったと報告されている11,12).発熱性好中球減少患者において,D-AMBとL-AMBを比較した二重盲検比較試験では,全体的な改善率は両者間で差がなく,腎機能障害,投与時の発熱,悪寒についてはL-AMBで有意に減少していた13).このため,L-AMBは,深在性真菌症に対して有用な薬剤として使用されている.L-AMBの眼局所療法に関しては,動物を用いた研究において,サルに対する硝子体内注射やウサギに対する結膜下注射による眼毒性は,D-AMBによる治療と比べ軽減したと報告されている14,15).Goldblumらは,ウサギ眼において,L-AMBの点眼療法は,L-AMBの点滴療法の併用により角膜への薬剤浸透が高まると報告する16)など,L-AMBの眼局所療法の有効性が示唆されている.角膜真菌症の診断では,培養検査において,病原体の検出までに時間を要することが多く,病原体が検出されないことも少なくないが,角膜真菌症においては,HRTII-RCM検査により,酵母様真菌の仮性菌糸や糸状真菌の観察が可能であり,角膜真菌症の早期の診断補助に有用であることが報告されている17,18).本症例においても,HRTII-RCM検査により,早期よりCandidaalbicansの仮性菌糸もしくはFusariumsolaniの菌糸が,角膜実質内の糸状の構造物として観察されたものであると推測される.HRTII-RCM検査における,角膜内の糸状構造物の断裂は,薬剤によって,菌体が崩壊している像を反映しているとされ,角膜真菌症における治療効果の判定にも有用であると報告されている19)が,本症例においても,同様の所見を観察することが可能であった.本症例においては,角膜潰瘍擦過物の培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansによる角膜真菌症と診断した.Fusarium属による角膜真菌症は,他の糸状菌感染に比べ進行が速く,薬剤の効果も低いため,治療が困難となる場合が多い.現在,薬剤の抗真菌効果を比較する指標としてMICが用いられているが,臨床分離株による抗真菌薬のMICのデータのレトロスペクティブな検討によると,Fusarium属に関しては,抗真菌作用が最も期待できる薬剤はAMBであり,細胞毒性を抑えたL-AMBは今後期待できる薬剤と考えられている20).眼科的には,Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対して,VCZが奏効したという報告がある5,7,8)が,Fusariumsolaniによる真菌性眼内炎に対しては,L-AMBの点滴療法の有効性も示唆されてい0102030405060BUN,Cr(mg/dL),AST,ALT(IU/L):BUN:血中Cr:血中AST:血中ALT2009/6/26/259/1512/15図5臨床検査値の変動アムビゾームR点滴中に軽度の肝機能障害と腎機能障害を認めたが,アムビゾームR点滴の中止により両者ともに改善した.また,ブイフェンドR内服中に再び軽度の肝機能障害を認めたが,ブイフェンドR内服の中止により改善した.BUN:血中尿素窒素(bloodureanitrogen),Cr:クレアチニン(creatinin),AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartateaminotransferase),ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanineaminotransferase).1488あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(120)る21).抗真菌薬の併用療法は,治療の選択肢の一つとなりうるが,全身的投与において抗真菌薬の併用による薬物間の協調作用は理論的に証明されておらず,一般的には行われていない.しかしながら,invitroでの抗真菌作用の検討では,MCFGはフルコナゾールやVCZとの併用により相乗効果があったと報告され22),臨床においても,慢性壊死性肺アスペルギルス症に対して,L-AMBとイトラコナゾールの併用療法の有用性が示唆されている23).イトラコナゾールとD-AMBの併用では,侵襲性肺アスペルギルス症の82%に有効であり,D-AMB単剤の治療より有効率が高かったといった報告がされるなど24),今後,難治例を中心に併用療法の試みは広がっていくと考えられる.Fusarium属による真菌感染症に対するL-AMBの併用療法に関してもすでに報告があり,invitroにおいては,L-AMBとVCZの相乗作用が示唆され25),invivoにおいて,Fusariumsolaniに感染した免疫不全のネズミを用いた報告では,L-AMBとVCZの併用療法の有効性が示唆されている26).臨床においても,Fusarium属による深在性真菌症では,L-AMBとVCZによる併用療法が有効であったと報告されており27,28),Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対しては,0.5%L-AMB点眼と,VCZの点滴による併用療法が奏効したと報告されている29).角膜真菌症の治療においては,真菌により薬剤感受性が異なるため,起因菌に対応した薬剤の選択が重要であるとされている20).本症例では,薬剤感受性試験において,AMBは,Fusariumsolaniに対して,MICにて1.0μg/mL,Candidaalbicansに対して,MICにて0.5μg/mL,また,VCZは,Fusariumsolaniに対して,MICにて0.5μg/mL,Candidaalbicansに対して,MICにて<0.015μg/mLと,いずれも高い感受性を示した.しかしながら,点眼や点滴による加療にもかかわらず,角膜の菲薄化や穿孔は改善を認めず,治療的角膜移植術が施行された.その理由として,感染源における菌量,角膜における薬剤浸透率,薬剤の投与量,点眼のコンプライアンスの問題などが考えられる.治療的角膜移植術では,感染部位の角膜を直径8.0mmにて全層切除したが,周辺角膜の一部に角膜の浸潤巣を残すこととなり,角膜移植術施行後には,感染の再発が危惧されたが,アムビゾームRの点眼や点滴,ブイフェンドRの点眼や内服などの治療により良好な結果を得ることができた.本症例では,L-AMBの点滴療法を施行しているなかで,軽度の腎機能障害と肝機能障害を認めたが,L-AMBの点滴の中止とともにそれらは改善した.その後,再び軽度の肝機能障害を認めたが,ブイフェンドRの内服の中止とともに肝機能は正常化した.また,L-AMBの点眼を用いた本症例では,頻回点眼にもかかわらず,D-AMBの点眼においてみられるような角膜上皮障害や炎症反応を認めなかったことは,アムビゾームR点眼による抗真菌治療の安全性という面において注目すべき点であった.問題点として,点眼薬作製後の薬剤の安定性に関して不明な点が多いことがあげられる30,31).本症例では,0.1%アムビゾームR点眼を自家調整し,作製後は冷蔵庫にて保管し,1週間ごとに作製して処方したが,現在に至るまで特に問題は生じていない.FusariumsolaniとCandidaalbicansの混合感染による角膜真菌症により生じた角膜穿孔に対して,治療的角膜移植術を施行し,アムビゾームRとブイフェンドRにて治療を行った1例を報告した.今回の症例では,アムビゾームRとブイフェンドRによる治療が,角膜真菌症に対する治療の選択肢となりうることが示唆されるとともに,アムビゾームRの点眼投与での有用性と安全性が示唆されたものと考えられる.アムビゾームRの点眼は,ブイフェンドRの点眼と同様に,難治性の角膜真菌症に対する新しい治療の選択肢となる可能性が推察された.今後は,アムビゾームR点眼の単独治療が角膜真菌症に有効であるかを検討する必要があると考えられる.謝辞:本稿を終えるにあたり,ご指導いただきました,昭和大学医学部臨床感染症学講座吉田耕一郎先生に深謝いたします.なお,本稿の要旨については,第34回角膜カンファランス(仙台)にて発表した.文献1)三井幸彦:フサリウム感染.眼科33:1333-1339,19912)井上須美子:角膜真菌症の変遷.あたらしい眼科7:123-125,19903)三井幸彦:角膜真菌症にフザリウム感染が増加した原因.あたらしい眼科7:127-130,19904)PleyerU,LegmannA,MondinoBJetal:UseofcollagenshieldscontainingamphotericinBinthetreatmentofexperimentalCandidaalbicans-inducedkeratomycosisinrabbits.AmJOphthalmol113:303-308,19925)小松直樹,堅野比呂子,宮﨑大ほか:ボリコナゾール点眼が奏効したFusariumsolaniによる非定型的な角膜真菌症の1例.あたらしい眼科24:499-501,20076)松下博文,鈴木由布子,藤田昌弘ほか:Fusariumsolaniによる角膜真菌症の1例.あたらしい眼科16:95-99,19997)ReisA,SundmacherR,TintelnotKetal:Successfultreatmentofocularinvasivemoldinfection(fusariosis)withthenewantifungalagentvoriconazole.BrJOphthalmol84:932-933,20008)PolizziA,SiniscalchiC,MastromarinoAetal:EffectofvoriconazoleonacornealabscesscausedbyFusarium.ActaOphthalmolScand82:762-764,20049)GallisHA,DrewRH,PickardWWetal:AmphotericinB:30yearsofclinicalexperience.RevInfectDis12:308-329,199010)TakemotoK,YamamotoY,UedaY:EvaluationofantifungalpharmacodynamiccharacteristicsofAmBisome(121)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111489againstCandidaalbicans.MicrobiolImmunol50:579-586,200611)BekerskyI,FieldingRM,DresslerDEetal:Pharmacokinetics,excretion,andmassbalanceofliposomalamphotericinB(AmBisome)andamphotericinBdeoxycholateinhumans.AntimicrobAgentsChemother46:828-833,200212)竹本浩司,柏本茂樹,金澤勝則:接合菌類,黒色真菌類およびフサリウム属に対するリポソーム化amphotericinBの抗真菌活性.臨床と微生物34:759-765,200713)WalshTJ,FinbergRW,ArndtCetal:LiposomalamphotericinBforempiricaltherapyinpatientwithpersistentfeverandneutrophia.NEnglJMed340:764-771,199914)KajiY,YamamotoE,HiraokaTetal:ToxicitiesandpharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofliposomalamphotericinB.GraefesArchClinExpOphthalmol247:549-553,200915)BarzaM,BaumJ,TremblayCetal:OculartoxicityofintravitreallyinjectedliposomalamphotericinBinrhesusmonkeys.AmJOphthalmol100:259-263,198516)GoldblumD,RohrerK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,200417)BrasnuE,BourcierT,DupasBetal:Invivoconfocalmicroscopyinfungalkeratitis.BrJOphthalmol91:588-591,200718)近間泰一郎,西田輝夫:角膜真菌症─初期診断での生体共焦点顕微鏡の有用性.臨眼61:1152-1155,200719)野田恵理子,白石敦,坂根由梨ほか:生体レーザー共焦点顕微鏡(HRTII-RCM)が診断,経過観察に有用であった角膜真菌症の1例.あたらしい眼科25:385-388,200820)宇田高広,鈴木崇,宇野敏彦ほか:真菌性角膜炎臨床分離株の薬剤感受性.あたらしい眼科23:933-936,200621)GoldblumD,FruehBE,ZimmerliSetal:TreatmentofpostkeratitisFusariumendophthalmitiswithamphotericinBlipidcomplex.Cornea19:853-856,200022)NishiI,SanadaA,ToyokawaMetal:Invitroantifungalcombinationeffectsofmicafunginwithfluconazole,voriconazole,amphotericinB,andflucytosineagainstclinicalisolatesofCandidaspecies.JInfectChemother15:1-5,200923)清川浩,中島瑠美子,高藤繁ほか:LiposomalamphotericinBとitraconazoleの二剤併用が有効だった慢性壊死性肺アスペルギルス症の1例.日呼吸会誌46:448-454,200824)PoppAI,WhiteMH,QuadriTetal:AmphotericinBwithandwithoutitraconazoleforinvasiveaspergillousis:Athree-yearyearretrospectivestudy.IntJInfectDis3:157-160,199925)SpaderTB,VenturiniTP,CavalheiroASetal:InvitrointeractionsbetweenamphotericinBandotherantifungalagentsandrifampinagainstFusariumspp.Mycoses54:131-136,201126)Ruiz-CendoyaM,MarineM,GuarroJ:CombinedtherapyintreatmentofmurineinfectionbyFusariumsolani.JAntimicrobChemother62:543-546,200827)HoDY,LeeJD,RossoFetal:Treatingdisseminatedfusariosis:amphotericinB,voriconazoleorboth?Mycoses50:227-231,200728)StanzaniM,VianelliN,BandiniGetal:SuccessfultreatmentofdisseminatedFusariosisafterallogenichematopoieticstemcelltransplantationwithcombinationofvoriconazoleandliposomalamphotericinB.JInfect53:243-246,200629)TouvronG,DenisD,DoatMetal:SuccessfultreatmentofresistantFusariumsolanikeratitiswithliposomalamphotericinB.JFrOphtalmol10:721-726,200930)PleyerU,GrammerJ,PleyerJHetal:AmphotericinB─bioavailabilityinthecornea.StudieswithlocaladministrationofliposomeincorporatedamphotericinB.Ophthalmologe92:469-475,199531)MorandK,BartolettiAC,BochotAetal:LiposomalamphotericinBeyedropstotreatfungalkeratitis:Physico-chemicalandformulationstability.IntJPharm344:150-153,2007***