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消毒薬による角膜化学外傷が誘因と考えられた 周辺部角膜潰瘍の1 例

2022年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科39(5):672.676,2022c消毒薬による角膜化学外傷が誘因と考えられた周辺部角膜潰瘍の1例三原顕細谷友雅岡本真奈松岡大貴五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofPeripheralUlcerativeKeratitisafterExposuretoAntisepticSolutionsAkiraMihara,YukaHosotani,ManaOkamoto,TaikiMatsuokaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC消毒液の誤用が誘因と考えられた周辺部角膜潰瘍のC1例を報告する.45歳,男性.全身疾患の既往はない.左眼に鉄粉が飛入し,近医で処置時に誤ってクロルヘキシジンC20%液で洗眼された.同日から眼痛,充血,視力低下を自覚したが点眼加療によりいったん改善した.受傷からC2カ月後に再度眼痛が生じ当院を受診し,角膜上皮欠損,実質浮腫,内皮細胞数の減少を認めた.ステロイド点眼,抗菌薬点眼,治療用ソフトコンタクトレンズで加療するもC4週後に眼痛が悪化.角膜上皮欠損の拡大,輪状膿瘍,前房蓄膿を生じたため感染を疑い,ステロイド点眼を中止し抗菌薬点眼を強化したが,所見の悪化を認めた.周辺部角膜潰瘍を疑い,ステロイドの試験内服をしたところ所見が改善したため,免疫抑制治療を強化して消炎したが,角膜混濁が残存し全層角膜移植待機中である.本症例は消毒薬により変性した角膜組織が抗原として認識され,周辺部角膜潰瘍が発症したと考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCperipheralCulcerativekeratitis(PUK)triggeredCbyCexposureCtoCantisepticCsolu-tions.CaseReport:A45-year-oldmalewithnosystemicdiseasepresentedwithacornealforeignbodyinhislefteye.CItCwasCaccidentallyCwashedCwithCchlorhexidine20%Csolution.CHeCexperiencedCpain,Credness,CandCdecreasedCvisionCinCthatCeye,CyetCthoseCsymptomsCtemporarilyCimprovedCwithCeye-dropCinstillation.CThreeCmonthsClater,CtheCpaininthateyereoccurred,andwesuspectedinfectionduetoenlargementofthecornealepithelialdefect,cornealringCabscess,CandChypopyon.CAlthoughCtheCsteroidCeyeCdropsCwereCdiscontinuedCandCantibacterialCeyeCdropsCwereCincreased,CtheCconditionCworsened.CWeCsuspectedCPUK,CandCimprovementCwasCachievedCbyCadministrationCofCstrengthenedsteroideyedropsandimmunosuppressants.However,thecornealopacityremained,andthepatientiscurrentlyscheduledtoundergopenetratingkeratoplasty.Conclusion:Inthiscase,cornealtissuedenaturedbyantisepticsolutionswasidenti.edasanantigen,whichappearstohaveresultedinthedevelopmentofPUK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):672.676,C2022〕Keywords:周辺部角膜潰瘍,クロルヘキシジン,消毒薬,眼化学外傷,誤用.peripheralulcerativekeratitis,chlorhexidine,antisepticsolution,ocularchemicalinjury,misuse.Cはじめにグルコン酸クロルヘキシジンは,消毒薬としてさまざまな状況で使用される薬剤である.眼手術時にはC0.02.0.05%で結膜.の洗浄に使用される1).しかし,誤使用により高濃度で使用した結果,軽症例では軽度の角膜障害のみで点眼治療で改善するものの,重症例では角膜障害だけではなく,持続する前眼部炎症により白内障や続発緑内障を生じ,手術加療が必要になった症例報告も散見される2,3).周辺部角膜潰瘍は角膜周辺部に特徴的な形態を呈する難治性潰瘍で,眼痛を伴う結膜充血,流涙,羞明が特徴的な症状で,角膜組織に対する自己免疫反応によって生じると考えられている4).重篤な場合,急速に進行し,角膜穿孔をきたす〔別刷請求先〕三原顕:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkiraMihara,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC672(122)症例もあり注意を要する.アルカリ外傷後に周辺部潰瘍を生じた報告5)はあるものの,消毒薬を誘因として生じた周辺部潰瘍は筆者らが文献を渉猟した限りではみられなかった.今回消毒薬の誤用による化学外傷が誘因となったと考えられる周辺部角膜潰瘍を経験したので報告する.CI症例患者:45歳,男性.主訴:左眼の疼痛,視力低下.現病歴:作業中に左眼に鉄粉が飛入し,近医での処置時に誤ってクロルヘキシジンC20%液で洗眼された.すぐに生理食塩水で洗浄したが,直後から左眼の疼痛,充血,視力低下を自覚し他院を受診した.受診時に左眼の角膜上皮欠損を認め,ヒアルロン酸C0.1%点眼液,レボフロキサシンC1.5%点眼液,プラノプロフェン点眼液を処方されいったん改善した.受傷C1カ月後に,結膜浮腫・Descemet膜皺襞を認めたため,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼液が追加され経過観察となった.受傷C63日後に,再度左眼の眼痛が生じ,角膜障害を認めたため当院紹介となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C1.0(1.5C×sph+0.75D(cylC.0.50DAx60°),左眼0.09p(矯正不能),眼圧は右眼19mmHg,左眼C19CmmHgであった.右眼前眼部に異常所見はなかった.左眼は角膜実質の炎症細胞浸潤と浮腫,Des-cemet膜皺襞,結膜充血,角膜上皮欠損,欠損部上皮周辺の上皮接着不良を認めた(図1a).両眼ともに中間透光体,眼底に異常はなかった.角膜内皮細胞数は,右眼C3,165個/Cmm2,左眼の中央部は測定不能で,上方は観察可能であったがC1,661個/mmC2と減少を認めた.消毒薬による角膜内皮機能不全と考え,前医で処方中であったレボフロキサシンC1.5%点眼液,ベタメタゾンC0.1%点眼液,ヒアルロン酸C0.1%点眼液各左眼C1日C3回に,オフロキサシン眼軟膏C1日C1回を追加した.受傷C77日後に角膜上皮欠損の拡大と,上皮欠損部に付着物を認めた.付着物の培養同定検査結果は陰性であったので,上皮保護目的で治療用ソフトコンタクトレンズ装用を開始した.受傷C92日後に左眼痛が悪化し,結膜充血の悪化,前房蓄膿,角膜周辺部と中央部の実質細胞浸潤,角膜上皮欠損の拡大を認めた(図1b).前房内炎症が生じており,細菌感染を合併したと考え,ベタメタゾンC0.1%点眼液とコンタクトレンズ装用を中止し,レボフロキサシンC1.5%点眼液とセフメノキシム塩酸塩C0.5%点眼液をC2時間ごとの点眼に変更して抗菌薬治療を強化し,入院加療とした.入院C2日目(受傷C93日後)に,周辺部の輪状浸潤が増加し,上皮欠損の拡大を認めたことから,グラム陰性桿菌感染の可能性を考え,セフメノキシム塩酸塩C0.5%点眼をトブラマイシンC0.3%点眼C2時間おきに変更し,イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム点滴治療も開始した.入院C6日目(受傷C97日後)には,さらなる周辺部の輪状浸潤の拡大を認めた.上皮欠損は広範囲であったが,中央部に一部島状図1前眼部写真(上段:細隙灯顕微鏡写真,下段:フルオレセイン染色)a:初診時.角膜実質の炎症細胞浸潤と浮腫,Descemet膜皺襞,結膜充血,角膜上皮欠損,欠損部上皮周辺の上皮接着不良を認める.Cb:受傷C77日後.結膜充血が悪化し,前房蓄膿,角膜周辺部と中央部の実質細胞浸潤,角膜上皮欠損の拡大を認める.Cc:受傷C99日後.周辺部の輪状浸潤拡大と角膜上皮欠損の拡大を認める.中央部に島状の上皮残存部位がある(.).レボフロキサシン1.5%点眼トブラマイシン点眼トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩液オフロキサシン眼軟膏フルオロメトロン0.1%点眼液リン酸ベタメタゾン点眼液プレドニゾロン錠ベタメタゾン錠シクロスポリン錠ステロイド開始1日3日5日11日20日27日62日88日受傷後100日102日104日110日119日126日161日287日図2プレドニゾロン開始後の投薬内容の推移図3受傷1年2カ月後の所見a:前眼部写真.角膜周辺部の菲薄化は改善したが,角膜混濁を認める.Cb:前眼部光干渉断層計による角膜形状解析.高度の角膜形状変化を認める.c:前眼部光干渉断層像.角膜周辺部の菲薄化を認め,中央部は高輝度を呈している.虹彩前癒着は認めない.表1消毒薬の誤用で生じた化学外傷性歳原因薬剤主病変治療方針合併症最終視力文献男C37ポリヘキサメチレンビグアニド上皮障害点眼治療C–8女C0塩化ベンザルコニウムC10%輪部疲弊培養角膜上皮移植結膜侵入角膜混濁C0.4C2男C61クロルヘキシジンC0.5%上皮欠損点眼治療上皮下混濁内皮減少C0.5C9女C50クロルヘキシジンC1%内皮減少C0.9C10男C86実質混濁全層角膜移植実質混濁C0.05C0.15C33男C44クロルヘキシジンC5%実質浮腫上皮混濁点眼治療,ソフトコンタクトレンズ装用C男C47実質浮腫全層角膜移植水疱性角膜症C1.0C3男C50クロルヘキシジンC20%上皮欠損輪部疲弊培養角膜輪部上皮移植,白内障手術,線維柱帯切除,全層角膜移植緑内障白内障C0.01C15Ccm指数弁C22女C16内皮障害強角膜移植,全層角膜移植,白内障手術,結膜輪部自家移植,毛様体光凝固,線維柱帯切除Cに上皮が残存していた.抗菌薬点眼による角膜上皮障害の可能性を考慮し,レボフロキサシンC1.5%点眼液とトブラマイシンC0.3%点眼をC1日C6回に減量した.入院C8日目(受傷C99日後)も,所見の改善はなかった(図1c).何度か眼脂培養同定検査をするもすべて陰性で病原微生物が検出されなかったこと,上皮欠損の形状が輪状で,通常の感染としては非典型的であったこと,ステロイド中止後にさらに悪化したことから,自己免疫性の周辺部角膜潰瘍を疑い,プレドニゾロン錠C5Cmgを試験内服した.ステロイド内服開始からC3日目には眼脂が減少し,周辺部角膜浸潤と角膜透見性の改善を認めたことから,ステロイドが著効すると考え,フルオロメトロンC0.1%点眼液C1日C3回を追加投与し,ステロイド開始C5日目には治療強化目的でプレドニゾロン錠をベタメタゾン錠C1.0Cmgに変更した.前房蓄膿の改善と角膜透明性の改善を認めベタメタゾン錠をC0.5Cmgに漸減し退院とした.受傷C119日目には角膜透明性は改善したが,上皮欠損は残存しており,局所ステロイド治療の強化目的でフルオメトロン点眼液からベタメタゾン点眼液C1日C3回に変更した.受傷C126日目には上皮欠損は経度認めるも改善傾向を認め,急性期の炎症は落ち着いてきたので,ベタメタゾン錠からプレドニゾロン錠C5Cmgに漸減し,受傷C161日目には角膜上皮化を得られた.今後は,長期に免疫抑制したほうがよいと考え,ステロイドの副作用を踏まえた結果,内服をステロイドからシクロスポリン錠C200Cmgに変更した.受傷C287日後には角膜混濁の改善を認めたので,シクロスポリン錠をC1カ月ごとにC50Cmgずつ漸減し,受傷後C1年かけ内服終了となった(図2).受傷C1年C2カ月後には角膜周辺部の菲薄化は改善したが,角膜形状変化と角膜混濁は高度で,ハードコンタクトレンズの装用を試しても左眼視力C0.01(0.1C×HCL)までしか得られなかった(図3).眼圧上昇や視野異常は認めておらず,緑内障の合併は認めなかった.今後,全層角膜移植術を予定している.CII考按角膜は眼表面にあるため,外界からの物理的・化学的侵襲を受けやすい.また,眼化学外傷は,重度の合併症と視力低下を生じるリスクがあり,迅速かつ集中的な治療が必要な緊急疾患である.20.40代の男性にもっとも多く,障害は慢性的になり生涯にわたる可能性もある6).また一般的に,アルカリ性物質は,細胞膜の脂質を鹸化し組織蛋白質の融解を生じた後,組織に深達して,眼表面から水晶体の構造を変性させ,重症になりやすい.対照的に酸性の物質は,上皮で蛋白質の凝固を引き起こし,眼内の浸透を抑制することが知られている7).クロルヘキシジングルコン酸塩液は酸性で,さまざまな場面で消毒薬として使用されているが,眼科では0.02.0.05%であれば眼科手術時の結膜.の消毒に使用可能である1).しかし,高濃度では,酸性であっても界面活性剤が含まれているため,界面活性剤による角膜上皮傷害が生じ,バリア機能が破綻することで,クロルヘキシジングルコン酸が角膜表面から徐々に内部に浸透し,前房内にも炎症が生じると考えられており,多種多様な障害が生じる2).消毒薬による眼化学外傷の報告は多数あり,薬剤の濃度によって重症度や治療内容は異なり,濃度が濃いほど重篤である2,3,8.10)(表1).Shigeyasuらは,クロルヘキシジングルコン酸C20%の誤使用で,曝露後に数カ月.数年の経過を得て,角膜障害,輪部疲弊,白内障,続発緑内障などが生じ,複数回の手術加療が必要になった症例を報告している2).また,中村らは,クロルヘキシジングルコン酸C20%の誤使用で水疱性角膜症を生じ,発症C5カ月後に全層角膜移植術を施行した症例を報告している3).本症例では,適正使用の約C1,000倍の濃度の消毒薬に曝露され,角膜上皮障害はいったん改善を認めたが,病状が進行し,最終的に全層角膜移植術が必要な状態になった.このように,消毒薬による化学外傷は長期にわたりさまざまな病態を呈し進行することもあるため,長期の経過観察が必要である.特発性周辺部角膜潰瘍は,一般的には非感染性で進行性の角膜潰瘍である.角膜抗原に対する自己免疫反応と考えられ,外傷,手術などの機械的刺激や,C型肝炎ウイルスや寄生虫感染が関連する報告を認める11,12).Alfonsoらは,眼アルカリ外傷が誘因となって生じた周辺部潰瘍を報告しており,変性した角膜抗原が自己免疫応答を誘発した結果,受傷から数カ月.数年後に周辺部潰瘍を発症すると述べている5).これまで消毒薬で特発性周辺部角膜潰瘍を生じた報告は,筆者らが文献を渉猟した限りみられなかった.本症例では上皮,内皮の直接的な障害も認めたが,高濃度の薬剤で角膜組織変性が生じ,その変性した角膜を抗原と認識して周辺部角膜潰瘍が生じたと考えた.実際にステロイド治療を強化することで,病変の改善を認めたため,自己免疫性の機序であったと考えられる.しかし,今回は膠原病の否定は問診のみで,膠原病関連自己抗体の採血検査は行っておらず,より正確な診断のためには採血検査が必要であったと考えられる.周辺部角膜潰瘍の初期は,周辺部の角膜実質浅層に細胞浸潤を認め,進行すると病変部の角膜上皮欠損と角膜実質の菲薄化が生じる4).症例の経過を振り返ると,受傷C97日後の炎症増悪時に角膜周辺部の一部に細胞浸潤を生じており(図1b),これが周辺部潰瘍の初期病変だった可能性が高い.前房蓄膿を生じたことから,感染を発症したと考えステロイドを中止したが,角膜中央部の上皮残存も感染としては非典型的であった.早期に自己免疫性の周辺部角膜潰瘍を鑑別疾患としてあげることができていれば,ステロイド治療開始が早まり,組織破壊は軽減できたのではないかと考える.増悪時の所見をみると前房蓄膿や角膜中央部の上皮欠損,浮腫性混濁を伴っており,炎症所見が高度で典型的な周辺部角膜潰瘍ではなかった.受傷早期に十分な抗炎症療法が施されておらず,炎症が遅延していた可能性や角膜内皮障害,眼内炎症など他のさまざまな要素が関係してこのような病型となり,最終的に全層角膜移植が必要になったと考えた.今回の症例のように薬剤の誤用による角膜障害は医原性であり,インシデントやアクシデントなどのリスク管理が必要になる事例である.事前に防止するには的確な指示,口頭指示の解釈間違い事例の分析を多職種で実施し,お互いの伝え方のスキルを磨くトレーニングの実施などの未然防止対策があげられ13),多職種間でのコミュニケーションや,事前にシミュレーションを行うことがアクシデント予防に必要と考える.謝辞:本症例の加療に際し,京都府立医科大学眼科学教室の稲富勉先生に多大なご助言をいただきました.ここに深謝いたします.文献1)GreenCK,CLivingstonCV,CBowmanCKCetal:ChlorhexidineCe.ectsoncornealepitheliumandendothelium.ArchOph-thalmolC98:1273-1278,C19802)ShigeyasuCC,CShimazakiJ:OcularCsurfaceCreconstructionCafterCexposureCtoChighCconcentrationsCofCantisepticCsolu-tions.CorneaC31:59-65,C20123)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒薬による医原性化学腐蝕のC4例.臨眼52:786-788,C19984)小泉範子:Mooren潰瘍.角膜疾患外来でこう診てこう治せ(木下茂編),改訂第C2版,p120-121,メジカルビュー社,C20155)AlfonsoI,SeemaA,JohnK:Late-onsetperipheralulcer-ativeCsclerokeratitisCassociatedCwithCalkaliCchemicalCburn.CAmJOphthalmolC158:1305-1309,C20146)Baradaran-Ra.CA,CEslaniCM,CHaqCZCetal:CurrentCandCupcomingCtherapiesCforCocularCsurfaceCchemicalCinjuries.COculSurfC15:48-64,C20177)草野雄貴,山口剛史:外傷と輪部.眼科C62:437-445,C20208)中村葉:消毒液,洗浄液による角膜障害.あたらしい眼科25:443-447,C20089)木全奈都子,高村悦子:腹臥位での全身麻酔下手術において消毒薬が原因と思われる角膜障害をきたしたC1例.眼臨紀9:120-124,C201610)冨山浩志,那須直子,下地貴子ほか:腹臥位での全身麻酔手術後に重篤な角膜障害をきたしたC1例.臨眼C74:485-489,C202011)後藤周,外園千恵,稲富勉ほか:特発性周辺部角膜潰瘍の発症および臨床経過に関する検討.日眼会誌C122:C287-292,C201812)WilsonS,LeeW,MurakamiCetal:Mooren-typehepati-tisCCCvirus-associatedCcornealCulceration.COphthalmologyC101:736-745,C199413)石川雅彦:第C84回口頭指示の“解釈間違い”に関わるアクシデント事例の未然防止!─事例の発生要因から考えるトレーニング企画のポイント─.月刊地域医学C34:844-855,C2020(126)

アカントアメーバ角膜炎治療薬の基礎的検討

2016年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(11):1641?1644,2016cアカントアメーバ角膜炎治療薬の基礎的検討川添賢志*1宮永嘉隆*1中林夏子*2野口敬康*2堀貞夫*1井上賢治*3*1西葛西・井上眼科病院*2わかもと製薬相模研究所*3井上眼科病院BasicConsiderationofanAcanthamoebaKeratitisCurativeKenjiKawazoe1),YoshitakaMiyanaga1),NatsukoNakabatyashi2),TakayasuNoguchi2),SadaoHori1)andKenjiInoue3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.,3)InouyeEyeHospital目的:現在アカントアメーバ角膜炎に対して使用されている薬剤について,抗アカントアメーバ活性測定用培地を調製し,disc法またはカップ法を用いてそれらの阻止円を検証することにより,どのような治療効果が期待できるかを検討した.方法:培養したAcanthamoebacastellaniiに対し,アムホテリシンB,フルコナゾール,ミカファンギン,カスポファンギン,クロルヘキシジンさらにラクトフェリン,ポリビニルアルコールヨウ素を作用させ,その阻止効果を検討した.結果:Acanthamoebacastellaniiに対する抗アカントアメーバ活性は,0.05%以上のクロルヘキシジンのみに認められ抗真菌薬は無効であった.結論:アカントアメーバ角膜炎の治療において0.05%以上のクロルヘキシジンの有効性が示唆された.Purpose:WeexaminedtheeffectofthezoneofinhibitiontestonAcanthamoeba.Methods:Weassessedantifungaldrugs(amphotericinB,fluconazole,micafunginandcaspofungin),chlorhexidinegluconate,lactoferrinandpolyvinylalcoholiodineonAcanthamoebacastellaniiusingthezoneofinhibitiontest.Results:Onlychlorhexidinegluconatemorethan0.05%exhibitedanti-Acanthamoebaactivity.Conclusion:Useofmorethan0.05%chlorhexidinegluconateisrecommendedforAcanthamoebakeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1641?1644,2016〕Keywords:Acanthamoebacastellanii,クロルヘキシジン,disc法,阻止円.Acanthamoebacastellanii,chlorhexidinegluconate,zoneofinhibitiontest.はじめにアカントアメーバ角膜炎は1988年にわが国で報告されて以来1),すでに約25年が経過している.角膜ヘルペスや角膜真菌症と類似した所見を呈することが多く,病変の進行は緩徐ではあるが炎症反応が強く,また角膜深層へ進展することもあり,治療が遅れると高度の視力低下を残すこともある.治療としては抗真菌薬内服,病巣掻爬,クロルヘキシジン点眼が発表され2),現在ではこれらの3者併用療法が基本的な治療となった3).コンタクトレンズケアの啓発による発症例の減少,さらに眼科医の初期における診断力の向上により角膜炎の重症化は減少傾向にあると思われる.しかし,一度発症してしまうと治療に難渋することが多く,現在臨床上使用されている治療薬がどのような機序で奏効しているのか明確でないところが多々ある.今回,今まで治療薬として使われてきたいくつかの抗真菌薬と消毒薬およびアカントアメーバに効果があると報告された薬剤について,抗アカントアメーバ活性をdisc法またはカップ法で確認して,今後のアカントアメーバ角膜炎に適応すべき薬剤の可能性について検討した.I目的現在アカントアメーバ角膜炎に対して使用されている薬剤について抗アカントアメーバ活性測定用培地を調製し,disc法またはカップ法を用いてその薬剤の阻止円を検証することにより,どのように治療上効果を発揮しているかを検討することを目的として下記の実験を行った.II材料と方法1.抗アカントアメーバ活性測定用培地の調製Escherichiacoli(ATCC8739)をSCD寒天培地(日本製薬)に培養し,滅菌水に浮遊させた.60℃1時間処理した後,OD660=0.5に調製した.1.5%寒天培地に0.3ml塗布し,乾燥させた.その培地に血球計算盤で計測したAcanthamoebacastellanii(ATCC30011)を1×108個塗布して25℃で1?3日間培養した.2.対象とした薬剤①0.02%アムホテリシンB(LifeTechnologies)②0.2%フルコナゾール(富士製薬工業)③0.25%ミカファンギン(アステラス製薬)④カスポファンギン(MSD)⑤クロルヘキシジン(山善製薬)0.02%,0.05%,0.5%⑥ラクトフェリン(和光純薬工業)⑦ポリビニルアルコールヨウ素(日本点眼薬研究所)3.抗アカントアメーバ活性の測定抗アカントアメーバ活性測定用培地上で抗真菌薬(①?④),クロルヘキシジン,ポリビニルアルコールヨウ素についてはdisc法,ラクトフェリンについてはカップ法により,阻止円を検討した.①?③は抗真菌薬として承認されているので,流通している近似濃度により検討した.それ以外のクロルヘキシジンを含む薬剤は,推奨される薬剤濃度が不詳だったため,いくつかの濃度を設定し検討した.III結果1)濃度を変えたクロルヘキシジンと抗真菌薬による阻止円の検討(図1)では,0.5%クロルヘキシジンによる阻止円が著明に陽性で,0.05%でも陽性であったが0.02%では陰性であった.アムホテリシンB,フルコナゾールおよびミカファンギンは陰性であった.2)0.5%クロルヘキシジンを基準薬としたカスポファンギンの各濃度の阻止円の検討(図2)では,各濃度のカスポファンギンによる阻止円はすべて陰性であった.3)0.5%クロルヘキシジンを基準薬としたラクトフェリンの各濃度の阻止円の検討(図3)では,各濃度のラクトフェリンによる阻止円はすべて陰性であった.4)0.5%クロルヘキシジンを基準薬としたポリビニルアルコールヨウ素の各濃度の阻止円の検討(図4)では,各濃度のポリビニルアルコールヨウ素による阻止円はすべて陰性であった.IV考按現在アカントアメーバ角膜炎治療に使用されている抗真菌薬やクロルヘキシジンが,どの程度の抗アカントアメーバ活性を示すかについて,視覚的に判断可能であるためMIC法に比べて判定が容易なdisc法またはカップ法で検討した.disc法が抗生物質同様に消毒薬を均等に拡散するかについては不明であったが,クロルヘキシジンにより阻止円が認められたことから,消毒薬も同様にdisc法にて判定できると判断した.また,臨床的には使用されていないが,抗アカントアメーバ活性をもつとされるカスポファンギン4)やラクトフェリン5),手術時に消毒薬としておもに用いられているポリビニルアルコールヨウ素6)の抗アカントアメーバ活性も検討した.その結果,現在のアカントアメーバ角膜炎治療に使用されている抗真菌薬や抗アカントアメーバ活性をもつとされるカスポファンギン,ラクトフェリン,ポリビニルアルコールヨウ素では,阻止円による抗活性は認められなかった.一方,抗真菌薬と同様に治療薬として使用されているクロルヘキシジンでは,0.02%では認められなかったが,0.05%以上の濃度であれば抗活性が認められた.クロルヘキシジンは0.02%で使用されている報告3)があり,Sunadaらは0.02%で効果があると報告している7).今回の結果では0.02%クロルヘキシジンは効果を認めなかったことから,0.02%はアメーバの増殖を抑制できる濃度ではないと考えられるため,角膜などの生体への副作用が認められないならば,0.05%クロルヘキシジンに近い濃度での使用がより効果的であると示唆される.抗真菌薬のアカントアメーバ角膜炎に対する効用については,さらなる検討が必要と考える.クロルヘキシジンの角膜に対する影響については,福田ら8)の報告がある.ウサギ角膜上皮細胞による検討ではあるが,50%細胞増殖阻止濃度は希釈液がリン酸緩衝液の場合,クロルヘキシジン濃度は0.05%,蒸留水の場合では濃度は0.02%であった.また,希釈液のみの場合の培養角膜上皮細胞の平均生存率を100%とした場合,0.02%クロルヘキシジンはリン酸緩衝液では88%,蒸留水では41%.0.05%クロルヘキシジンはリン酸緩衝液では41%,蒸留水では10%とクロルヘキシジンの濃度の違いが角膜上皮に及ぼす影響について報告している.今回,筆者らの実験では抗アカントアメーバ活性などについてdisc法またはカップ法で判定しており,日本コンタクトレンズ学会が消毒効果テストの際に実施したSpearman-Karber法9)とは判定方法が異なっている.今後は0.03%や0.04%クロルヘキシジンの濃度も加え,Spearman-Karber法での検討も必要と考える.また,抗真菌薬についても判定方法を変えての再検討が必要と考える.今回用いたAcanthamoebacastellaniiは土壌中に多いが,同様に土壌中に広く分布するAcanthamoebapolyphagaについても角膜炎の原因としての報告があるので10),Acanthamoebapolyphagaについても同様の実験が必要である.さらにアカントアメーバを分離するとパラクラミジア属菌などのあらゆる種類の存在が認められているので11),アカントアメーバが単独で増殖が可能かどうかも興味深いところである.また,近年アカントアメーバ角膜炎の症状悪化には共存状態にあるグラム陰性菌が関与していると報告されている12).わが国では最初に飯島12)が報告したアカントアメーバ角膜炎も緑膿菌との関係を示唆している.したがって,今後こういった菌との関係についても検討が必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科5:1689-1696,19882)坂本麻里,藤岡美幸,椋野洋和ほか:角膜上皮掻爬と0.02%クロルヘキシジン点眼が奏効したアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:841-844,20043)丸尾敏夫,本田孔士,臼井雅彦:眼科学第2版.文光堂,p107-108,20114)BouyerS,ImbertC,DaniaultGetal:EffectofcaspofunginontrophozoitesandcystsofthreespeciesofAcanthamoeba.JAntimicrobChemother59:122-124,20075)鈴木智恵,矢内健洋,野町美弥ほか:ラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性に及ぼすリゾチームおよびムチンの影響.あたらしい眼科32:551-555,20156)小浜邦彦,末廣龍憲:PVP-Iodineのアカントアメーバに対する効果.日本災害医学会会誌44:689-693,19967)SunadaA,KimuraK,NishiIetal:InvitroevaluationsoftopicalagentstotreatAcanthamoebakeratitis.Ophthalmology121:2059-2065,20148)福田正道,村野秀和,山代陽子ほか:グルコン酸クロルヘキシジン液の培養角膜上皮細胞に対する影響.眼紀56:754-759,20059)ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─.独立行政法人国民生活センター発表資料,200910)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎28例の臨床的検討.あたらしい眼科27:680-686,201011)Marciano-CabralF,CabralG:Acanthamoebaspp.asagentsofdiseaseinhumans.ClinicalMicrobiolRev16:273-307,200312)川口浩一,鈴木泰子,中本博直ほか:コンタクトレンズ装用により発生したアカントアメーバ角膜炎の3例.和歌山県臨衛技38:6-9,201113)飯島千津子,笹井幸子,宮永嘉隆:コンタクトレンズ付属器より分離されたAcanthamoeba緑膿菌性角膜潰瘍患者症例から.眼科30:1389-1392,1988〔別刷請求先〕川添賢志:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:KenjiKawazoe,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(103)1641図1各種薬剤の抗アカントアメーバ活性5%だけではなく,0.05%クロルヘキシジンにおいても阻止円が認められる.??が阻止円(5%クロルヘキシジンのdisc周りの白い円は薬剤による円であり,阻止円はその白い円の周りの黒く抜けて見える部分)である.Negativecontrolは,Acanthamoebacastellaniiを塗布していない抗アカントアメーバ活性測定用培地を用いて,抗アカントアメーバ活性の測定と同様に行った結果である.また,図1?4のすべてに認めるシャーレ内の白点は大腸菌であり,試験そのものには関係ない1642あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(104)図2カスポファンギンの各濃度の阻止円の検討濃度を高めてもカスポファンギンに抗アカントアメーバ活性は認めなかった.図3ラクトフェリンの各濃度の阻止円の検討濃度を高めてもラクトフェリンに抗アカントアメーバ活性は認めなかった.図4ポリビニルアルコールヨウ素の各濃度の阻止円の検討濃度を高めてもポリビニルアルコールヨウ素に抗アカントアメーバ活性は認めなかった.(105)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616431644あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(106)