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テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(85)11310910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11311133,2008cはじめに涙管チューブ挿入術においては,単一管腔にチューブを挿入することが術後成績を向上させるために必要不可欠である.しかし,チューブに専用ブジーを装着して涙点から押し込んでいく従来の挿入方法では,チューブ挿入の大半は指先の感覚に頼った盲目的操作であり,直視下で行えるのは鼻内視鏡により観察可能な鼻涙管下部開口付近に限られる.筆者は,一方の涙点から挿入した涙道内視鏡による観察下で,他方の涙点からチューブを挿入する双手法を推奨してきた1,2)が,手技が複雑なため初回挿入の際の標準術式とはなりえなかった.双手法を用いることなくチューブを涙道内視鏡直視下で正確に挿入するために,シース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP)3)を発展させ,テフロン製外筒(シース)を装着した涙道内視鏡により閉塞部を開放した後,涙道内視鏡のみ抜去し,残したシースをチューブ挿入のためのガイドとして使用した(シース誘導チューブ挿入法,sheath-guidedintubation:SGI).術後チューブ留置中に行った涙道内視鏡検査の結果をもとに,本法を用いて行ったチューブ挿入の正確性について検討した.I対象対象は2007年8月から12月の間に流涙もしくは眼脂を主訴に,筆者の施設を受診した症例のうち,涙管通水検査で通水がなく,涙道内視鏡検査により総涙小管閉塞もしくは鼻涙管閉塞が確認された症例とした.広範囲の涙小管閉塞を伴う症例,涙内癒着を伴う症例,鼻科的手術および外傷などによる骨性閉塞の症例は除外した.総涙小管閉塞の症例は〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011玉野市宇野1-14-31井上眼科Reprintrequests:YasushiInoue,M.D.,InoueEycClinic,1-14-31Uno,Tamano,Okayama706-0011,JAPANテフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術井上康医療法人眼科康誠会井上眼科NewMethodofLacrimalPassageIntubationUsingTeonSheathasGuideYasushiInoueInoueEyeClinic新しいチューブ挿入方法であるシース誘導チューブ挿入法(sheath-guidedintubation:SGI)を総涙小管閉塞および鼻涙管閉塞の症例に対して試みた.89側にテフロン製外筒(シース)を装着した涙道内視鏡により閉塞部を開放した後(シース誘導内視鏡下穿破法,sheath-guidedendoscopicprobing:SEP),シースを涙道内に一時的に残し,チューブを挿入するためのガイドとして使用した.全側でSGIを用いたチューブ挿入を行うことができた.SEPとSGIを併用すれば,チューブ挿入の際の盲目的操作がなくなり,涙管チューブ挿入術の全過程が内視鏡直視下に行えるようになる.Sheath-guidedintubation(SGI),anewmethodoflacrimalpassageintubation,wastriedincasesofcommoncanaliculusobstructionandnasolacrimalductobstruction.Afterwideningtheblockedportionwiththedacryoendo-scopeequippedwithaTeonsheath(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP),thesheathwastemporarilyretainedinthelacrimalpassageandusedasaguidefortubeinsertion.ThetubecouldbeinsertedusingSGIinallcases.TheuseofSEPandSGIincombinationmakesitpossibletocarryoutalllacrimalpassagereconstructionproceduresunderdacryoendoscopicobservation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11311133,2008〕Keywords:涙管チューブ挿入術,シース誘導チューブ挿入法.lacrimalpassageintubation,sheath-guidedintubation(SGI).———————————————————————-Page21132あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(86)30例30側,年齢1286歳(平均68.1±13.9歳),鼻涙管閉塞の症例は54例59側,年齢3586歳(平均69.5±10.7歳)であった.対象例の内訳を表1に示す.II方法1%塩酸リドカイン(キシロカインR)による滑車下神経ブロック,4%キシロカインRによる涙内麻酔,4%キシロカインR,0.1%エピネフリン(ボスミンR)混合液による鼻粘膜表面麻酔の後,16倍希釈ポビドンヨード(イソジンR)による涙洗浄を行った.シースを装着した涙道内視鏡(涙道ファイバースコープR:ファイバーテック社)を涙点から挿入しSEPを行い,鼻腔にシースの先端が達したら,シースは残したまま涙道内視鏡のみを抜去した.つぎに涙点側のシース端とPFカテーテルR(PF:東レ社)を連結し(図1a),鼻内視鏡下で鼻涙管開口部から出たシース先端を極小麦粒鉗子(永島医科器械)により引き出した.PFはシースに引かれてSEPで開放したスペースに正確に挿入された.シースとPFの連結を外した後(図1b),対側の涙点からのSEPによりシースを留置し,同様の操作でPF挿入を行った.すでに挿入されているPFと涙道内視鏡の間に粘膜がかみ込んで粘膜ブリッジを形成しないよう十分に注意を払った(図2).一連の手技のシェーマを図3に示す.シースは外径1.1mm,内径0.9mm,長さ45mmのテフロン製チューブ(ZEUS社,USA)を使用した3).またPFの留置状態は術後34週目に涙道内視鏡検査を行い確認した.表1症例の内訳総涙小管閉塞(30例30側)鼻涙管閉塞(54例59側)平均年齢(歳)68.1±13.969.5±10.7男女内訳男性8例8側女性22例22側男性15例18側女性39例41側*図2粘膜bridgeを形成しないように行う2回目のSEP:フルオレサイトで染色したチューブ.:先行したテフロン製シース.SEPシースにチューブを連結する鼻腔から引き出す図3Sheathguidedintubation(SGI)の手順ab図1Sheathguidedendoscopicprobing(SEP)a:シースの涙点側とチューブを連結する.b:鼻腔よりシースを引き出し,チューブとの連結を外す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081133(87)III結果全例でSGIを用いてPF挿入を行うことができた.術後に行った涙道内視鏡検査で粘膜ブリッジ形成を認めた症例は,鼻涙管閉塞の症例において54例59側中2例2側(3.4%)であった.総涙小管閉塞の症例においては粘膜ブリッジ形成を認めなかった.内訳を表2に示す.粘膜ブリッジを認めた2側においては不適切に挿入された側のPFを抜去した後,再度SEPを行い単一管腔に再挿入することができた.シースによりSGIを行えばPFの修正は容易であった.粘膜ブリッジ形成に対するSGIのシェーマを図4に示す.IV考按涙道内視鏡を用いた涙管チューブ挿入術は,閉塞部の開放とチューブ挿入という2つのステップから成り立っている.内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing)による閉塞部の開放は涙道内視鏡直視下手術としての第一歩であった1).さらにSEPを用い,先行したシースと内視鏡先端の間にスペースを作ることで,閉塞部の開放を直視下にて行うことができるようになった.しかし,もう一方のステップであるチューブ挿入に関しては,双手法によるチューブ挿入は手技的に複雑であり,全例に適応することは困難であった.SEPに使用したシースをそのままチューブを引き出すガイドとして使用することで,連続性のなかった閉塞部の開放およびチューブ挿入という2つのステップに連続性をもたせることができ,本手術の手技はより無駄のない正確なものとなったと考えられる.涙道閉塞に対して,チューブ挿入を予定した症例数のうち,チューブ留置が完了した症例数の割合(手術完了率)は96%であったと報告されている1).SGIを用いた今回の結果は100%と良好であるが,全体としては大きな差はない.しかし,鼻涙管閉塞に関しては手術完了率78.1%との報告に対し4),今回の結果では100%と高い手術完了率を得ることができた.また,チューブ挿入直後もしくは後日行った涙道内視鏡検査で確認された粘膜ブリッジの形成率においても,自験例では21.5%であった5)が,SGIを用いた今回の結果では3.4%と大きく改善している.さらに粘膜ブリッジに対しても,従来行ってきた手技の複雑な双手法によるチューブ再挿入は不用になり,SGIで対応することが可能になった.今回の結果からも,本法を用いればさまざまな症例,特に鼻涙管閉塞の症例に対し,確実かつ正確にチューブ挿入を行うことができ,チューブ挿入時や挿入後の不具合の修正も容易になると考えられる.V結論SGIは,従来の専用ブジーを装着した状態でチューブを涙点から押し込んでいくというチューブ挿入の常識を根本から変える手技である.SEPとSGIを併用することで,チューブ挿入の際の盲目的操作がなくなり,涙管チューブ挿入術の全過程が内視鏡直視下に行えるようになる.したがって,今後新しい涙管チューブ挿入法として普及するものと期待している.文献1)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).眼科手術16:485-491,20032)井上康,杉本学,奥田芳昭ほか:慢性涙炎に対する涙道内視鏡を用いたシリコーンチューブ留置再建術.臨眼58:735-739,20043)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20074)鈴木亨,野田佳宏:鼻涙管閉塞症のシリコーンチューブ留置術の手術時期.眼科手術20:305-309,20075)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:シリコーンチューブ挿入術による仮道形成とその対策.臨眼59:635-637,2005表2Sheathguidedintubationによる粘膜bridge形成率総涙小管閉塞(30例30側)鼻涙管閉塞(54例59側)粘膜bridge形成数(側)02粘膜bridge形成率(%)03.4粘膜bridge形成率合計(%)2.2挿入を確認挿入側のチューブを抜去し,再度SEPSGIにてチューブ再挿入図4粘膜bridgeに対するSGI***