‘ジクアホソルナトリウム点眼薬’ タグのついている投稿

角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果

2014年11月30日 日曜日

1692あたらしい眼科Vol.4101,211,No.3(00)1692(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1692.1696,2014cはじめに角膜移植術後は,涙液動態の変化に伴いドライアイを高率に発症する.角膜知覚神経が切断されると反射性涙液分泌が低下し1.3),角結膜上皮のムチン発現の低下,結膜杯細胞の減少,涙液クリアランスの低下,上皮バリア機能の障害,眼表面の炎症が引き起こされると報告されている3).また,宿主角膜とドナー角膜の接合部には浮腫や縫合による凸状の角膜形状変化が生じ,その内側に異所性の涙液メニスカスが形成され,ドナー角膜中央部の涙液層は菲薄化する4,5).そのため,角膜移植術後のドライアイには,涙液量の減少と涙液〔別刷請求先〕堀田芙美香:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Reprintrequests:FumikaHotta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushimacity770-8503,JAPAN角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果堀田芙美香江口洋仁木昌徳EnkhmaaTserennadimid三田村さやか宮本龍郎三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野EffectofDiquafosolTetrasodiumOphthalmicSolutiononTreatmentforDryEyefollowingKeratoplastyFumikaHotta,HiroshiEguchi,MasanoriNiki,EnkhmaaTserennadimid,SayakaMitamura,TatsuroMiyamotoandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool角膜移植術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼薬の効果について検討した.角膜移植術後のドライアイ症例10例10眼において,Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較した.角膜内皮細胞密度と角膜厚は,投与前3カ月以内,投与後3カ月以内に測定可能であった症例で,投与前後の値を比較した.Schirmer値には有意差はなかったが,BUTは有意に上昇し,スコアは有意に減少した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の平均値に著変はなかった.視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.角膜移植術後のドライアイに対してジクアホソルNa点眼薬投与は有効であると考えられた.Weinvestigatedtheefficacyofdiquafosoltetrasodiumophthalmicsolutionforthetreatmentofpatientswithdryeyefollowingkeratoplasty.Tenpatientswithdryeyewhohadundergonekeratoplastywereevaluatedbeforeandat1monthafteradministrationastoSchirmer’stestresults,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceincornealandconjunctivalstainingscore(Score),andclinicalcourse.Inmeasurablecases,bothendothelialdensityandcornealthicknessmeasurementsobtainedwithin3monthsbeforeadministrationwerecomparedtotherespectivevaluesobtainedwithin3monthsafteradministration.BUTandScoreimprovementswerestatisticallysignificant;Schirmer’stestresultswerenot.Cornealendothelialdensityandcornealthicknessvaluesobtainedbeforeandafteradministrationwerealmostunchanged.Nosubjectsdevelopeddecreasedvisualacuity,cornealgraftrejectionorinfectionafteradministration.Diquafosoltetrasodiumophthalmicsolutioniseffectivefordryeyefollowingkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1692.1696,2014〕Keywords:ドライアイ,角膜移植,ジクアホソルナトリウム点眼薬.dryeye,keratoplasty,diquafosoltetrasodiumophthalmicsolution.(00)1692(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1692.1696,2014cはじめに角膜移植術後は,涙液動態の変化に伴いドライアイを高率に発症する.角膜知覚神経が切断されると反射性涙液分泌が低下し1.3),角結膜上皮のムチン発現の低下,結膜杯細胞の減少,涙液クリアランスの低下,上皮バリア機能の障害,眼表面の炎症が引き起こされると報告されている3).また,宿主角膜とドナー角膜の接合部には浮腫や縫合による凸状の角膜形状変化が生じ,その内側に異所性の涙液メニスカスが形成され,ドナー角膜中央部の涙液層は菲薄化する4,5).そのため,角膜移植術後のドライアイには,涙液量の減少と涙液〔別刷請求先〕堀田芙美香:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Reprintrequests:FumikaHotta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushimacity770-8503,JAPAN角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果堀田芙美香江口洋仁木昌徳EnkhmaaTserennadimid三田村さやか宮本龍郎三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野EffectofDiquafosolTetrasodiumOphthalmicSolutiononTreatmentforDryEyefollowingKeratoplastyFumikaHotta,HiroshiEguchi,MasanoriNiki,EnkhmaaTserennadimid,SayakaMitamura,TatsuroMiyamotoandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool角膜移植術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼薬の効果について検討した.角膜移植術後のドライアイ症例10例10眼において,Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較した.角膜内皮細胞密度と角膜厚は,投与前3カ月以内,投与後3カ月以内に測定可能であった症例で,投与前後の値を比較した.Schirmer値には有意差はなかったが,BUTは有意に上昇し,スコアは有意に減少した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の平均値に著変はなかった.視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.角膜移植術後のドライアイに対してジクアホソルNa点眼薬投与は有効であると考えられた.Weinvestigatedtheefficacyofdiquafosoltetrasodiumophthalmicsolutionforthetreatmentofpatientswithdryeyefollowingkeratoplasty.Tenpatientswithdryeyewhohadundergonekeratoplastywereevaluatedbeforeandat1monthafteradministrationastoSchirmer’stestresults,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceincornealandconjunctivalstainingscore(Score),andclinicalcourse.Inmeasurablecases,bothendothelialdensityandcornealthicknessmeasurementsobtainedwithin3monthsbeforeadministrationwerecomparedtotherespectivevaluesobtainedwithin3monthsafteradministration.BUTandScoreimprovementswerestatisticallysignificant;Schirmer’stestresultswerenot.Cornealendothelialdensityandcornealthicknessvaluesobtainedbeforeandafteradministrationwerealmostunchanged.Nosubjectsdevelopeddecreasedvisualacuity,cornealgraftrejectionorinfectionafteradministration.Diquafosoltetrasodiumophthalmicsolutioniseffectivefordryeyefollowingkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1692.1696,2014〕Keywords:ドライアイ,角膜移植,ジクアホソルナトリウム点眼薬.dryeye,keratoplasty,diquafosoltetrasodiumophthalmicsolution. 表1症例の背景情報症例年齢・性別眼術式期間*原疾患ドライアイ治療薬†164女左表層移植1年2カ月RA‡関連ドライアイ,角膜潰瘍,角膜穿孔ヒアルロン酸ナトリウム,ピロカルピン塩酸塩,自己血清点眼258男左表層移植1年3カ月GVHD§,ドライアイ,角膜穿孔自己血清点眼3||72女左全層移植1年7カ月水疱性角膜症ヒアルロン酸ナトリウム463男左全層移植9年水疱性角膜症ヒアルロン酸ナトリウム5||,¶46男右全層移植1年11カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム6||,¶42男左全層移植1年10カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム7||,¶,**81男右全層移植3カ月原因不明の角膜実質混濁ヒアルロン酸ナトリウム859男右全層移植10カ月角膜穿孔後移植片機能不全ヒアルロン酸ナトリウム**,¶940男左全層移植10カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム10**27男右全層移植3年円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム*:角膜移植術後からジクアホソルNaを追加するまでの期間,†:ジクアホソルNaを追加する前に使用していた薬剤,‡:rheumatoidarthritis関節リウマチ,§:graft-versus-hostdisease移植片対宿主病,||:角膜内皮細胞密度を測定できた症例,¶:角膜厚を測定できた症例,**:両眼とも角膜移植術を施行している症例.安定性の低下の双方が関与していると考えられる.従来から,角膜移植術後のドライアイに対しては,人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムの点眼,自己血清点眼,涙点プラグなど一般的なドライアイと同様の治療が行われてきた.しかし,角膜移植術後はすでに複数の点眼薬を使用されていることが多く,点眼薬のさらなる追加は,薬剤性角膜上皮障害の観点からも慎重に判断すべきである.ジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼液は,結膜上皮細胞と杯細胞膜上のP2Y2受容体に作用し,細胞内のカルシウム濃度を上昇させることで,水分とムチンの分泌を促進する新しいドライアイ治療薬である6,7).また,角膜上皮細胞における膜型ムチンの発現を促進するという報告もある8).ムチンは眼表面で涙液を保持する役割をもち,結果として涙液の安定性維持に寄与する.近年,種々のドライアイに対するジクアホソルNa点眼薬の効果が報告されており9,10),角膜移植後のドライアイへの効果も期待される.そこで,今回筆者らは角膜移植術後のドライアイ症例に対してジクアホソルNa点眼薬を投与し,その効果について検証した.I対象および方法1.対象徳島大学病院で2011年2月から2013年2月にかけて,角膜移植術後のドライアイに対してなんらかの点眼治療中の症例に,ジクアホソルNa点眼薬を追加投与し1カ月以上経過観察できた10例10眼(男性8例8眼,女性2例2眼)である.年齢は27.81歳(平均55.2±16.3歳),右眼4例,左眼6例,全層角膜移植術後8例8眼,表層角膜移植術後2例2眼であった.患者の背景情報やジクアホソルNa投与前の治療の詳細は,表1に示す.両眼とも角膜移植術を施行さ(127)れている症例(症例No.7,9,10)については,後に移植された片眼を対象とした.2.方法Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),フルオレセイン染色による角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア;2006年ドライアイ診断基準11)に準ずる),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較検討した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の推移は,測定可能であった症例において,投与前後3カ月以内の値を採用し比較検討した.なおBUTは,1人の検者がフルオレセイン試験紙(フローレスR眼検査用試験紙0.7mg,昭和薬品化工)に最小量の生理的食塩水をつけて下眼瞼結膜に軽く触れるようにして染色し,十分に瞬目させて染色液を眼表面に行き渡らせた後,開瞼から角膜のどこかにドライスポットが現れるまでを細隙灯顕微鏡に備え付けの動画ソフトウェアで撮影し,診察時にモニターのカウンターで一旦判定・記録した.同日の全診療終了後にモニター上のカウンターで再判定し確定した.スコアは,1人の検者が診療時に判定し一旦記録し,同時に静止画を撮影した.同日の全診療終了後に画像を再度閲覧しスコアの妥当性を判定し,必要に応じて改変した.角膜内皮細胞密度および角膜厚の推移の観察は,ジクアホソルNa投与前3カ月以内,および投与後3カ月以内に非接触型角膜内皮細胞撮影装置(コーナンスペキュラーマイクロスコープ.,コーナン・メディカル,西宮)で撮影および測定し比較した.臨床経過は,視力の推移,ドナー角膜移植片の浮腫・混濁の出現,および感染症発症の有無について観察した.統計処理はWilcoxon符号付き順位和検定(SPSS11.0JforWindows)を用いた.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141693 (mm)2012015105(n=10)0投与前1カ月後図1涙液分泌量の変化(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与前後で有意な変化はない.†4321†p=0.03(n=10)0投与前1カ月後図3角結膜上皮障害染色スコア(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与1カ月後は有意に減少している.(μm)800700600500400300200100(n=4)0投与前投与後3カ月以内図5角膜厚の変化各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与後の平均値はわずかに薄くなっている.II結果1.Schirmer値(図1)ジクアホソルNa投与前9.1±7.5mmであったのが,投与(分)*65432*p=0.031(n=10)0投与前1カ月後図2涙液層破壊時間の変化(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与1カ月後は有意に延長している.(cells/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,000500(n=4)0投与前投与後3カ月以内図4角膜内皮細胞密度の変化各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与後の平均値はわずかに軽減している.1カ月後には11.5±7.9mmに増加したが,投与前後で有意差はなかった(p=0.18).2.BUT(図2)ジクアホソルNa投与前1.5±0.8秒であったのが,投与1カ月後には3.3±2.3秒に有意に延長した(p=0.03).3.スコア(図3)ジクアホソルNa投与前2.3±1.3であったのが,投与1カ月後には1.8±1.0に有意に減少した(p=0.03).スコアを角膜と結膜で分けて検討すると,角膜のスコアは投与前1.7±0.7であったのが,投与1カ月後には1.1±0.6に有意に減少した(p=0.03).結膜のスコアは投与前0.6±1.1であったのが,投与1カ月後には0.7±0.8に増加したが,投与前後で有意差はなかった(p=0.66).4.角膜内皮細胞密度(図4)撮影可能であった4例(症例No.5,6,7,9)において,ジクアホソルNa投与前の内皮細胞密度の平均は2,436±569cells/mm2であったのが,投与後は平均2,199±471cells/mm2となった.(128) ジクアホソルNa投与前投与1カ月後図6症例7(右眼)ジクアホソルNa投与前の角膜上皮障害は,投与1カ月後に軽減した.5.角膜厚(図5)測定可能であった4例(症例No.3,5,6,7)において,ジクアホソルNa投与前の角膜厚の平均は602±66μmであったのが,投与後は平均523±5μmとなった.6.臨床経過点眼投与を契機に,視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.7.代表症例(症例7,図6)81歳,男性.原因不明の角膜実質混濁に対して全層角膜移植術を施行してから3カ月が経過した時点でジクアホソルNaを投与開始した.投与1カ月後には,投与前よりもSchirmer値は増加し(13mmが15mmに),BUTは延長し(2秒が4秒に),スコアは低下した(2点が1点に).III考按本研究において,ジクアホソルNa点眼薬の投与後,Schirmer値とBUTの平均値は上昇し,スコアの平均値は減少した.これは,ジクアホソルNaの作用により涙液安定性が改善し涙液貯留量が増加した結果と考えられる.一方で,Schirmer値が低下した症例が3例(症例2,3,10)あった.このうち2例(症例2,3)ではBUTが延長し,スコアが減少あるいは不変であった.このことは,症例2が表層移植後ゆえに角膜知覚神経は部分的にしか切断されていないこと,症例3は全層移植後1年7カ月経過していたため,すでに角膜知覚神経が回復していたと思われることから,双方の症例ともムチン分泌の増加に伴い涙液安定性が改善し,反射性の涙液分泌が減少したことを表していると思われる.症例10では,BUTが不変であるにもかかわらずスコアは減少しており,上記と同様の傾向にあるものの,ムチン分泌の増加がBUT延長に反映されるまでには至っていなかったのかもしれない.また,症例1ではBUTが短縮している.その原因は不明だが,Schirmer値は増加し,スコアは減少してい(129)ることから,症例1ではムチン分泌増加よりも水分泌増加が角結膜上皮障害改善に寄与していたと思われる.角膜と結膜では,ジクアホソルNa投与後のスコアの変化に差があった.原疾患にドライアイのある症例1,2を除いて,結膜上皮障害はジクアホソルNa投与前からないか,あっても少なく,投与後もほとんど変化しなかった.一方,角膜上皮障害は有意に減少した.角膜移植術後は結膜よりも角膜に上皮障害を起こしやすく,ジクアホソルNaは角膜移植術後の角膜上皮障害の軽減に有効である可能性が示唆された.ただし本研究の限界として,正常対照群がないため,上皮障害がジクアホソルNaの追加投与により減少したのか,点眼回数が増えたことで単に水分の補充回数が増えたため減少したのかが判断できないことが挙げられる.今後は,人工涙液などで水分補充のみを行う正常対照群を設け,症例数を増やして検討する必要がある.角膜移植後の角膜透明性にかかわる重要な因子として角膜内皮細胞の機能がある.今回の研究では,ジクアホソルNa投与後に視力低下をきたした症例や,拒絶反応や感染症の所見は出現しなかったが,本来ならば,ジクアホソルNa投与前後に全例で測定し比較検討すべきである.しかし,角膜移植後は眼表面が不正のため,非接触型スペキュラマイクロスコープでの角膜内皮の観察が困難であり,全例には実施できていない.同じ機器での角膜厚の測定も,同様に困難であった.症例数が少ないため,現時点で角膜内皮細胞への影響について断言はできないが,角膜内皮細胞密度が測定可能であった症例の平均値は,投与前後でわずかに減少しているものの,角膜厚はむしろ減少している.それらを臨床経過と合わせて判断すると,ジクアホソルNaが角膜移植後の角膜内皮細胞の機能を損傷していた可能性は低いと推察される.以上のことから,角膜移植後には,ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬をはじめとする,既存のドライアイ治療薬だけでは十分な角結膜上皮障害が改善しない場合,ジクアホソルNaあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141695 点眼薬の追加を検討して良いと思われる.文献1)木下茂,大園澄江,浜野孝ほか:角膜移植片の知覚回復について.臨眼39:466-467,19852)RaoGN,JohnT,IshidaNetal:Recoveryofcornealsensitivityingraftfollowingpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology92:1408-1411,19853)SongXJ,LiDQ,FarleyWetal:Neurturin-deficientmicedevelopdryeyeandkeratoconjunctivitissicca.InvestOphthalmolVisSci44:4223-4229,20034)山田潤,横井則彦,西田幸二ほか:角膜移植後の角膜形状と角膜上皮障害との関連.臨眼49:1769-1771,19955)山田潤,横井則彦,西田幸二ほか:角膜移植後の角膜上皮障害と涙液BreakupTimeの関連.あたらしい眼科13:127-130,19966)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,20117)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20118)七條優子,中村雅胤:培養角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,20119)KohS,IkedaC,TakaiYetal:Long-termresultsoftreatmentwithdiquafosolophthalmicsolutionforaqueous-deficientdryeye.JpnJOphthalmol57:440-446,201310)Shimazaki-DenS,IsedaH,GogruMetal:EffectsofdiquafosolsodiumeyedropsontearfilmstabilityinshortBUTtypeofdryeye.Cornea32:1120-1125,201311)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,2007***(130)