‘ドルゾラミド塩酸塩/ チモロールマレイン酸塩配合点眼液’ タグのついている投稿

ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):261.264,2013cドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験早川真弘澤田有阿部早苗渡部広史石川誠藤原聡之吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座EfficacyofSwitchingtoFixedCombinationofDorzolamide-TimololMasahiroHayakawa,YuSawada,SanaeAbe,HiroshiWatabe,MakotoIshikawa,ToshiyukiFujiwaraandTakeshiYoshitomiDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:多剤併用療法中の緑内障点眼をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた経験の報告.対象および方法:原発開放隅角緑内障16例16眼において,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤とチモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の2剤併用を,PG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合と,PG製剤,CAI,チモロールの3剤併用をPG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合の眼圧変化を調べた.結果:2剤併用からの切り替えでは有意な眼圧下降が得られ,3剤併用からの切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧上昇するものがみられた.結論:ドルゾラミド/チモロール合剤は,成分単剤点眼でさらなる眼圧下降が必要な場合,単剤併用にてアドヒアランスの向上が目的の場合のいずれの切り替えにおいても有用であるが,アドヒアランスが良好な症例では切り替えによって眼圧下降効果の減弱が起こる可能性がある.Purpose:Toreportanexperienceofswitchingtothefixedcombinationofdorzolamide-timolol(FCDT)fromconcomitantuseofitscomponentsmedications.SubjectsandMethods:Insubjectscomprising16eyesof16casesofprimaryopenangleglaucoma,theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofFCDTwasevaluatedintwogroups:onewasusing2medications:prostaglandin(PG)andtimololorcarbonicanhydraseinhibitors(CAI),andswitchedtoPGandFCDT;theotherwasusing3medicationsofPG,CAI,andtimolol,andswitchedtoPGandFCDT.Results:Whentheswitchwasfrom2medications,IOPwassignificantlylowered.Whentheswitchwasfrom3medications,IOPdidnotstatisticallychanged,althoughitelevatedinsomecases.Therewasnodifferenceinsafetyaspectbetweenbeforeandafterswitching.Conclusion:SinceIOPmayelevateafterswitching,stayingwiththecurrentregimencouldbeanoptionwhenadherenceisgoodwiththreemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):261.264,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,切り替え試験,アドヒアランス,眼圧下降効果,安全性.fixedcombinationofdorzolamide-timolol,switchtest,adherence,intraocularpressureloweringeffect,safety.はじめに緑内障診療では目標眼圧を達成するために多剤併用を必要とすることがあるが,患者負担の増大によるアドヒアランスの低下が懸念され1),配合剤はその解決策の一つとして注目されている2).ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,ドルゾラミド/チモロール合剤)は,欧米では1998年に承認されており,10年以上の使用経験からその有効性と安全性についてすでに多数の報告がある3).わが国でも2010年よりドルゾラミド/チモロール合剤が使用可能となった.今回筆者らは,原発開放隅角緑内障で多剤併用療法を受けている症例において,ドルゾラミド/チモロール合剤へ点眼を切り替えた症例を複数経験し,その眼圧〔別刷請求先〕澤田有:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:YuSawada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)261 下降効果と安全性について若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,秋田大学附属病院で多剤併用療法を受けている原発開放隅角緑内障患者16例16眼で,その内訳は,男性9例9眼,女性7例7眼である.平均年齢は63.6±11.6歳で,狭義原発開放隅角緑内障は7例7眼,正常眼圧緑内障は9例9眼であった.ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えは休薬期間を設けずに行われ,切り替え前の治療によりつぎの2通りに分けられた.一つは,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤と,0.5%チモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)(ドルゾラミドまたはブリンゾラミド)の2剤を併用していて,さらなる眼圧下降が必要な場合である(切り替えA).もう一つは,すでにPG製剤,CAI,チモロールの3剤を併用しているが,アドヒアランス向上の目的でCAIとチモロールをドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合である(切り替えB).対象数は,切り替えAが9例9眼,切り替えBが7例7眼であった.PG製剤の内訳はラタノプロスト5例,トラボプロスト5例,タフルプロスト4例,ビマトプロスト2例であり,切り替え前後でPG製剤の変更はなかった.これらの2つの場合について,切り替え4週後,12週後の眼圧をGoldmann圧平眼圧計で測定し,切り替え前の眼圧と比較した.また,点眼の副作用について,角膜上皮障害と結膜充血の程度を調べ,これらを切り替え前後で比較した.角膜上皮障害の程度はびまん性表層角膜炎の重症度A-D(area-density)分類に基づいて評価した4).角膜上皮障害の判定は,点眼麻酔の前にフルオレセインペーパーを生理食塩水で湿らせ点入し,判定した.結膜充血の程度は,結膜の血管が容易に観察できる(.),結膜に限局した発赤が認められる(1+),結膜に鮮赤色が認められる(2+),結膜に明らかな充血が認められる(3+)を基準として評価した.統計解析は,評価方法が同じ対象に対して4週,12週後に眼圧を調べる反復性測定なため,二元配置分散分析を用い,切り替え後の眼圧変化が有意かどうか調べた.II結果各症例について,切り替え前,切り替え4週後,12週後の眼圧と,角膜上皮障害,結膜充血の程度を表にて提示し表1切り替えA(PG+b.blockerまたはCAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後女性男性女性男性男性男性女性女性女性765071766650714646TaBTaDBTTaBToBTaDLTToBToT22161514141517149201818182018141415181413151516201716000000000000A1D1A1D1A1D1000A1D1A1D1A1D100000001+0001+000000000000000000000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,Ta:タフルプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2切り替えB(PG+b.blocker+CAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後男性男性男性男性男性男性男性69487375506961LTDLTDBTBLTDToTDLTDToTD201618211418151817131420181821151521161722000000000A1D1000000000000000000001+1+000001+1+000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.262あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(128) た.表1は切り替えA,表2は切り替えBの結果である.平均眼圧の変化は,切り替えAでは切り替え前17.6±2.1mmHgから切り替え4週後15.8±2.2mmHg,12週後15.0±2.7mmHgで,切り替え後の眼圧下降は有意であった(p=0.0197).切り替え後の時期でみると,4週後に眼圧下降傾向がみられ,12週後には有意な変化となった(p=0.0230).切り替えBでは,切り替え前の眼圧は16.1±2.5mmHg,切り替え4週後15.9±1.9mmHg,12週後18.4±3.0mmHgで,切り替え前後で眼圧に有意な変化はみられなかった(p=0.0961)が,個々の症例をみると,切り替え後に眼圧が上昇したものがみられた(表2).副作用は,切り替え前に軽度の角膜上皮障害がみられたものがあったが,切り替え後もその程度は同等であった.充血は,切り替えAでCAIを点眼していた症例において,切り替え後チモロールが加わることで充血が軽減したものがあった.III考按今回のドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験では,チモロールまたはCAIの単剤をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合は眼圧が有意に下降していた.チモロールとCAIの単剤併用を合剤に切り替えた場合は,切り替え後に有意な眼圧変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧が上昇したものがみられた.角膜上皮障害と結膜充血の程度は切り替え前後でほぼ同等であった.緑内障の治療において,眼圧下降は唯一エビデンスが示されている治療法であり5),目標眼圧を達成するために多剤併用が必要となる場合も多い.薬剤の数が増えて点眼方法が複雑になるとアドヒアランスの低下が問題となる1)が,配合剤はこれを解決する手段となることが期待されている2).配合剤に期待される利点は,点眼方法の単純化(点眼回数の減少や,点眼に要する時間の短縮),あとに点眼した薬剤による先に点眼した薬剤の洗い流しの回避,点眼薬に含まれる防腐剤による角膜上皮障害の軽減,患者の経済的負担の軽減などで,これらが改善することにより患者の利便性が増し,アドヒアランスが向上することが期待される.わが国では2010年にドルゾラミド/チモロール合剤,ラタノプロスト/チモロール合剤,トラボプロスト/チモロール合剤が相ついで発売された.ドルゾラミド/チモロール合剤は欧米では10年以上前から使用されており,その治療成績についてはすでに多数の報告がある3).チモロールまたはドルゾラミドの単剤とドルゾラミド/チモロール合剤の眼圧下降効果を比較した報告では,合剤は成分単剤と比較して有意に眼圧を下降させたという8).また,ドルゾラミド/チモロール合剤1日2回点眼と,チモロール1日2回とドルゾラミド1日3回点眼の単剤併用の効果を比(129)較した無作為化コントロール研究では,合剤と単剤併用の眼圧下降効果および安全性は,3カ月の点眼にてほぼ同等であったという3).単剤併用から合剤に休薬期間なしに切り替えた,より実際の診療に近い設定で施行された研究でも,1年の経過観察期間で,合剤の眼圧下降効果は単剤併用と同等であったという3).一方,切り替え試験のなかには,切り替え後に眼圧は有意に下降したという報告もあり6.8),その原因として点眼方法の単純化による患者のアドヒアランスの向上があげられている.今回の筆者らの経験では,単剤からの切り替えでは有意な眼圧下降がみられた.チモロールとCAIの単剤併用からドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,個々の症例のなかには切り替え後に眼圧が上昇したものがあった.これは,合剤に切り替えたことで単剤併用時よりも点眼回数が減って,3剤を確実に点眼していた場合には眼圧下降効果の減弱が起こる可能性があることを示唆している.このため,アドヒアランスが良く,3剤併用で眼圧下降が良好な場合には,合剤に切り替えずにそのままの治療を継続することも選択肢の一つであると思われる.また,角膜への影響については,ドルゾラミド/チモロール合剤はpHが5.5.5.8と酸性で点眼時に刺激感があり,チモロールによる涙液分泌低下の影響も加わって,角膜上皮障害を起こしやすいことが考えられる.今回の経験では角膜上皮障害を生じた症例は少なかったが,切り替え前から緑内障薬を多剤併用していたことを考え合わせると,実際はもっと高い頻度で障害が生じていた可能性がある.このことから,角膜上皮障害の判定方法について再度検討する必要があると思われた.以上,ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験について報告した.今回の経験では症例数が少なかったため,今後は症例数を増やし,同剤の効果をさらに検証していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GreenbergRN:Overviewofpatientcompliancewithmedicationdosing:Aliteraturereview.ClinTher6:592-599,19842)KaisermanI,KaisermanN,NakarSetal:Theeffectofcombinationpharmacotherapyontheprescriptiontrendsofglaucomamedications.Glaucoma14:157-160,20053)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013263 thalmology105:1936-1944,19984)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)SchulzerM,TheNormalTensionGlaucomaStudyGroup:Intraocularpressurereductioninnormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology99:1468-1470,19926)ChoudhriS,WandM,ShieldsMB:Acomparisonofdorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantdrugs.AmJOphthalmol130:832-833,20007)GugletaK,OrgulS,FlammerJ:ExperiencewithCosopt,thefixedcombinationoftimololanddorzolamide,afterswitchfromfreecombinationoftimololanddorzolamide,inSwissophthalmologists’offices.CurrMedResOpin19:330-335,20038)BacharachJ,DelgadoMF,IwachAG:Comparisonoftheefficacyofthefixed-combinationtimolol/dorzolamideversusconcomitantadministrationoftimololanddorzolamide.JOculPharmacolTher19:93-96,2003***264あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(130)