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1%ブリンゾラミド点眼液点眼後の霧視に影響する要因

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1007.1012,2012c1%ブリンゾラミド点眼液点眼後の霧視に影響する要因亀井裕子*1山田はづき*1吉原文乃*1吉川啓司*1,2松原正男*1*1東京女子医科大学東医療センター眼科*2吉川眼科クリニックInfluencesonBlurredVisionafterBrinzolamideInstillationYukoKamei1),HazukiYamada1),AyanoYoshihara1),KeijiYoshikawa1,2)andMasaoMatsubara1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2)YoshikawaEyeClinicブリンゾラミド点眼後に発生する霧視の程度と持続時間を,眼科的な疾患を認めなかった51名(男性39名,女性12名,平均年齢:36.4±8.9歳)を対象とし,サンプル画像を用いて調べた.対象におけるtearfilmbreakuptime(BUT)は「拭き取りあり」の際の霧視スコアの高スコア群(5.10±2.62秒)で低スコア群(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値(p<0.0304)を示し,霧視持続時間も同様であった(長時間群:5.00±2.63秒,短時間群:6.51±2.55秒p=0.0419).しかし,綿糸法,DR-1R,クリアランステストは両群間に有意差を認めず,ブリンゾラミド点眼後の霧視の程度と持続には涙液の不安定性も関連することが考えられた.また,霧視スコアと霧視持続時間を点眼後の「拭き取りあり」と「拭き取りなし」の比較が可能であった44例では「拭き取りあり」は「拭き取りなし」に比べ霧視スコア(1.70±1.00vs3.07±0.93),霧視持続時間(22.0±22.6秒vs76.3±53.5秒)ともに有意に(p<0.001)低値を示し,ブリンゾラミド点眼後の拭き取りの重要性が確認された.Thoughtearfilmbreakuptimeinthehighscoregroup(5.10±2.62sec.)andthelongerdurationofblurringgroup(5.00±2.63sec.)wassignificantlylonger(p=0.0304,p=0.0419,respectively)incomparisontothelowscoregroup(6.72±2.51sec.)andtheshorterdurationgroup(6.51±2.55sec.),nosignificantdifferencewasobservedinDR-1Rortearfilmclearancebetweenthegroups.Itispostulatedthattearfilminstabilitymayplayaroleinblurringafterbrinzolamideinstillation.Scoreddegree(score)anddurationofblurringafterbrinzolamideinstillationwerestudiedin51healthyvolunteers,usingcomputer-derivedsamplepictures.Sincescoreanddurationofblurringweresignificantlylower(p<0.001)ineyeswipedafterinstillation(score:1.70±1.00,duration:22.0±22.6sec.)thanineyesnotwipedafterinstillation(score:3.07±0.93,duration:76.3±53.5sec.),wipingafterinstillationisthoughttobeimportantforimprovingbrinzolamide-inducedblurring.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1007.1012,2012〕Keywords:ドルゾラミド点眼液,霧視,点眼薬の点眼後拭き取り,涙液層破壊時間.brinzoramideophthalmicsolution,blurredvision,wipingoffophthalmicsolutionfromeyelids,tearfilmbreakuptime.はじめに緑内障点眼薬は角膜を透過し前房中に達した後に奏効するため,点眼薬の角膜透過性は眼圧下降効果に関連する1).炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)は角膜透過性が不良なため2.4),ゲル化あるいは懸濁化3)などの製剤上の工夫を施し,点眼薬の鼻涙管からの初期排出を抑制することにより薬剤の前房中への移行を確保している.反面,ゲル化製剤であるドルゾラミド点眼液(以下,ドルゾラミド,MSD,東京)では点眼時の強いべたつき感や味覚異常や灼熱感を生じやすい5,6).一方,懸濁化製剤であるブリンゾラミド点眼薬(以下,ブリンゾラミド,アルコン,東京)は点眼後に霧視が発生しやすい.これらの緑内障治療薬点眼時に生じる局所的な副作用は,点眼アドヒアランスや緑内障治療効果にも影響し得る7).さて,ブリンゾラミド点眼後の霧視には涙液の白濁化だけではなく,涙液層の不安定化が関連する10,11).実際には,霧視の頻度は1.7.20%に及び,霧視の消失には点眼後3.5分を要することが報告されている8,9).しかし,これらの報〔別刷請求先〕亀井裕子:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:YukoKamei,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishiogu,Arakawa-ku,Tokyo116-8567,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(131)1007 告はいずれもブリンゾラミド点眼後に睫毛や眼瞼に付着した薬剤の拭き取りを施行しない条件下での検討である.そこで,今回,涙液動態のブリンゾラミド点眼後の霧視への影響を調べ,さらに,点眼後に「拭き取り」を行ったうえで発生した霧視の程度およびその消失までの時間を「拭き取り」を行わなかった場合のそれと比較したので報告する.I対象および方法自由意思による本研究への参加者を募集した.参加者の年齢は20歳以上,等価球面度数が.8D以内,眼圧が21mmHg以下で,かつ,フルオレサイトR(アルコン,東京)を大塚生食注R(大塚製薬,東京)で希釈してその濃度が2%になるようあらかじめ調整した2%フルオレセイン液を点眼後,自然瞬目20分後に涙三角にフルオレセインが残留しないことを確認(フルオレセイン残留試験12))することで,明らかな導涙機能の異常がないと判断した参加者を被検者とし,文書により本研究への同意を得たうえで,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.なお,調査日のコンタクトレンズ装用例,点眼薬の使用例,あるいは,本調査の内容の理解やインタビューへの回答が困難,その他担当医が不適切と判断した参加者は被検者から除外した.眼科専門医である検者が被検者に,すべてのサンプル画像(図1)を検査開始前にあらかじめ供覧し,霧視の程度の指標とすることを説明した.さらに検者が被検者に矯正眼鏡を装用のうえ,片眼ずつ遮閉しサンプル画像のうち基本画像(図1,スコア0)を眼前50cmの距離で呈示し,被検者がより明確に見える側を被検眼とした.ブリンゾラミドを被検眼に点眼後,被検者は閉瞼し,一方,検者は被検眼側の涙.部を30秒間圧迫し,その後眼瞼および睫毛に付着した点眼液を,清潔綿を用いて鼻側から耳側に向かって拭き取った.拭き取りの直後に被検者は開瞼し,その時点での「見え方」を記憶し,さらに,自然瞬目を開始,点眼前の「見え方」に回復した時点を挙手で検者に知らせた.その後に,被検者は開瞼直後に記憶した「見え方」をサンプル画像の評価スケール(図1)上に矢印で記入し,これを霧視スコアとした.また,開瞼開始後から霧視を被検者が挙手で知らせるまでの時間を,ストップウォッチを用いて計測し,霧視持続時間(秒)とした.以上の検査終了後,少なくとも3時間の間隔を開け,被検者をエアコンディショナーの噴出口付近を避けて位置させたうえで,涙液油層観察装置DR-1R(以下,DR-1,興和,東京)を用いて涙液油層を観察した.DR-1の映像は片眼につき2回撮影し,八田らの分類13)に従い,Grade1からGrade4の4段階に分けた.涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)は,フローレスR眼検査用試験紙0.7mg(昭和薬化工,東京)で涙液を染色し,染色された涙液が破綻するスコア0スコア1スコア2スコア3スコア4スコア5012345評価スケール図1サンプル画像サンプル画像は基本となる写真(基本画像)をパソコンに取り込み,画像ソフト(AdobePhotoshopver.5)のぼかしツールを用いて,ピクセル数の変化によりガウス変換してサンプル画像を作成した.さらに,「かすまない」をスコア0(基本画像,加工なし)とし,順にスコア1(+10ピクセル),スコア2(+20ピクセル),スコア3(+40ピクセル),スコア4(+80ピクセル),スコア5(+160ピクセル)と設定した.点眼,30秒閉瞼,拭き取り後,開瞼した時点での「見え方」を調査用画像の評価スケール上に矢印で記入し,これを霧視スコアとした(図に示す矢印の位置は2.6).1008あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(132) までをCCDカメラを通してビデオレコーダに記録し,これを検査後にビデオテープのタイムレコードで調べた.なお,涙液の破綻が10秒を超えても観察できない場合は評価時間を10秒とした.続いて,点眼麻酔を行わず,ゾーンクイックR(メニコン,愛知)を用い,その先端3mmを外眼角に置き,自然瞬目で15秒経過した後に綿糸をはずし,ただちに先端から糸の変色部位までの長さを定規で計測した(綿糸法).この計測後,フルオレサイトRを混和してその濃度が0.5%になるようあらかじめ調整したベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬,大阪)を,マイクロピペットで10μL滴下して点眼麻酔を行い,5分後にシルメル試験紙R(メニコン,愛知)を外眼角に置き,5分間の閉瞼後,試験紙を外し希釈の標準表と照合し,色調が最も近い数値を希釈倍率として記録し(クリアランステスト14)),涙液が結膜.からwashoutされる効率をみることで涙液の質的評価を行った.なお,各検査は同一の眼科専門医が施行し,結果の情報は担当医師間ではマスクした.諸検査施行後,2週以内に,同意が得られた被検者にはブリンゾラミド点眼後,被検者の涙.部を30秒間圧迫し,点眼液の拭き取りは行わず,その直後の「霧視スコア」と,自療が開始された2名と調査日に人工涙液以外の点眼の使用が確認された2名を除外し,51名が被検者となった.対象の内訳は男性39名,女性12名,平均年齢は36.4±8.9歳(23.55歳)であった.霧視スコアは平均1.67±0.99(0.3)であり,霧視持続時間は平均25.2±30.4秒(0.171秒,中央値:13秒)であった.霧視スコアと霧視持続時間の間に有意に正の相関を認めた(霧視持続時間=.4.1995+17.6049×霧視スコア,p<0.0001)が得られた(図2).DR-1はGrade1が最も多く28眼(54.9%)を占め,Grade2(19眼:37.3%),Grade3(4眼:7.8%)がこれに続いた.BUTは平均5.8±2.7秒(2.10秒),綿糸法は平均18.2±7.3mm(7.35mm)であった.クリアランスでは水準32が最多(16眼:31.3%)であり,水準16(14眼:27.4%),水準64(7眼:13.7%),水準128(6眼:11.8%)が続(n=51)150r=-4.1995+17.6049霧視持続時間(秒)10050然瞬目後,被検者の霧視が消失するまでの「霧視持続時間」を測定した.直接,検査に関わらなかった1名の眼科専門医(YK)が被検眼を解析対象とし,統計解析ソフトウェアはJMP(Ver8.0,SAS,東京)を用いて,c2検定,Fisherの直接確率法,t検0定,対応のあるt検定,回帰分析および単変量ロジスティッ-0.500.511.522.533.54ク回帰分析を行った.統計的な有意水準は5%とした.霧視スコアII結果図2霧視スコアと霧視持続時間との関連霧視スコアと持続時間には正の相関があった(実測時間=参加者は55名であった.しかし,同意後に全身疾患の治.4.1995+17.6049×霧視スコア,p<0.0001).10(n=51)BUT(秒)1099(n=51)111144332211低スコア群高スコア群13以下群14以上群図3霧視スコアおよび霧視持続時間とBUT(tearfilmbreakuptime)a:霧視スコアとBUTとの関連.霧視スコアの平均値1.67を基準にして高スコア群と低スコア群とを比較した.高スコア群(5.10±2.62秒)は低スコア群(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値(p<0.0304)を示した.b:霧視持続時間とBUTとの関連.霧視持続時間の中央値13秒を基準にして,長時間群と短時間群とを比較した.長時間群(5.00±2.63秒)は短時間群(6.51±2.55秒)に比べ有意に低値(p=0.0419)であった.88BUT(秒)776655(133)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121009 いたが,水準256(3眼:5.9%),水準512(2眼:3.9%),水準8(2眼:3.9%),水準4(1眼:2.0%)はいずれも10%以下に留まった.霧視スコアの平均値である1.67を基準にして高スコア群(n=29)と低スコア群(n=22)に分け涙液検査との関連を検討した.BUTは高スコア群(5.10±2.62秒)で低スコア群(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値(p<0.0304)を示した(図3a).しかし,綿糸法は高スコア群(19.1±7.5mm)と低スコア群(18.0±7.1mm)の間に明らかな差はなかった(p<0.3179).DR-1は高スコア群ではGrade1が最も多く29眼中16眼(55.2%)を占め,Grade2(10眼:34.5%),Grade3は3眼(10.3%)であった.低スコア群でもDR-1はGrade1が22眼中12眼(54.6%),Grade2が9眼(40.9%),Grade3は1眼(4.5%)であり,高スコア群と低スコア群の間にDR-1の比率に明らかな差はなかった(c2=0.676,p=0.7132).クリアランステストでも同様に高スコア群と低スコア群の間に明らかな差はなかった(c2=4.315,p=0.7429).同様に,拭き取りありの際の霧視持続時間の中央値である13秒を基準にして長時間群(n=24)と短時間群(n=27)に分け,同様にDR-1,BUT,綿糸法,クリアランスとの関連を検討した.BUTは長時間群(5.00±2.63秒)で短時間群(6.51±2.55秒)に比べ有意に(p=0.0419)低値であった(図3b).しかし,綿糸法は両群(長時間群:19.0±8.0mm,短時間群:17.6±6.7mm)の間に明らかな差がなかった(p=0.5125).霧視持続の長時間群,短時間群ともにDR-1はGrade1〔長時間群:24眼中14眼(58.3%),短時間群:27眼中14眼(51.9%)〕,Grade2〔長時間群:24眼中12眼(50.0%),短時間群:27眼中7眼(29.25%)〕,Grade3〔長時間群:24眼中3眼(12.5%),短時間群:27眼中1眼(3.7%)〕であり,両群の間にDR-1の比率に明らかな差はなく(c2=2.417,p=0.3419),クリアランステストでも同様に明らかな差はなかった(c2=4.315,p=0.7429).霧視スコアを目的変数として,一方,BUTを説明変数として単変量ロジスティック回帰分析を行うと,モデルは有意となり(c2=4.7616,p=0.0291),オッズ比は1.27であった(1.0242.1.6106).同様に,目的変数を霧視持続時間とした際にも(説明変数:BUT)モデルは有意となり(c2=4.3198,p=0.0377),オッズ比は1.26であった(1.0129.1.6120).被検者51例中44例(86.2%)では同意と来院が得られ,拭き取りなしの際の霧視スコア(3.07±0.93,1.5)と霧視持続時間(76.3±53.5秒,5.241秒)が測定可能であった.比較ができた44例での拭き取りなしの霧視スコアは拭き取りありによる霧視スコア(1.70±1.00,1.3)に比べ有意に高値を示した(対応のあるt検定,t=1.221,p<0.001)(図4a).拭き取りなしの霧視持続時間も拭き取りありのそれ(22.0±22.6秒,0.87秒)に比べ有意に高値を示した(対応のあるt検定,t=6.1104,p<0.001)(図4b).III考察ブリンゾラミド点眼薬の点眼後の霧視に涙液の不安定性が影響し,その把握にはBUTが有用であった.さらに,拭き取りを行ったうえで調べた霧視スコアと霧視持続時間は,拭き取りなしのそれに比べて有意に低値であった.CAI点眼は元来,角膜透過性が不良である.そこで,ブリンゾラミドはカルボキシビニルポリマー(carbomer)を主剤に結合させ懸濁液とする製剤上の工夫により,眼表面での滞留性を高め,角膜透過性を確保して眼圧下降効果を得てい拭き取りなし(秒)5(n=44)43210050100150200250300拭き取りなし(秒)(n=44)012345050100150200250300拭き取りあり(秒)拭き取りあり(秒)図4拭き取りの有無と霧視スコアおよび霧視持続時間a:霧視スコア.霧視スコアは拭き取りありでは1.70±1.00であり,拭き取りなしのそれ(3.07±0.93)に比べ有意に低値(p<0.0001)を示した.b:霧視持続時間.霧視持続時間は拭き取りありでは22.0±22.6秒で,拭き取りなしの76.3±53.5秒に比べ有意に低値(p<0.001)を示した.1010あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(134) る15).このため,点眼後に霧視が発生しやすい.同様のCAIであるドルゾラミドでは粘稠化剤(ヒドロキシエチルセルロース)を添加して滞留時間を確保しているが,点眼後の味覚異常や灼熱感が発生しやすく16),その対策として点眼時の涙.部圧迫(nasolacrimalocclusion:NLO)が推奨されている17).一方,ブリンゾラミドでは点眼後の霧視の軽減には睫毛や眼瞼に付着した薬剤の拭き取りが効果的であると考えられている.これまでブリンゾラミド点眼後の霧視の発生頻度や持続時間については報告があり9,11),点眼直後では霧視の発生は60%を超えるとされるがいずれも拭き取りを行った結果ではない.そこで,今回,点眼後に拭き取りを施行したうえで霧視の程度やその持続時間を調べた.なお,今回,拭き取りによる霧視への影響の評価を目的としたため,点眼薬の鼻涙管からの排出を最少化することも必要と考え,拭き取りに先だって30秒間のNLOを施行した.霧視の客観的評価法は確立されていないが,今回,霧視の程度はサンプル画像を用いて調べた.従来の報告では実用視力11)が霧視の評価に用いられてきた.ここで,実用視力は遠方の「見え方」を評価する指標であり,霧視について近方視での評価はこれまでされていない.しかも,ブリンゾラミド処方前には眼科医は霧視に関しての説明と1滴点眼後の「見え方」の確認を行うが,その際には眼科医は自分の顔など比較的近方視を促すことが多い.そこで,今回,被検者が比較的若年者であったことも併せて,サンプル画像による近方視による霧視を評価することとした.さて,畑田らは画像と視覚情報の関連性を体系化し,画像処理の理論や具体的評価法を指摘している18).そこで,これに準じて,デジタル写真を画像用ソフトを用いてぼかしの加工を施し0.5までの6段階に分けて作成し,サンプル画像として実験に供した.なお,サンプル画像はAdobePhotoshopR(アドビシステムズ,東京)を用い,コンピュータ処理により作成した.AdobePhotoshopRに備えられた画像のコントラストや境界線とその周辺のピクセルを平均化させることでカラーの移行を滑らかにする「ぼかしフィルター」を用いると,もや(4)(4)がかかった画像を作成できるからである.すなわち,サンプル画像を用いた霧視の評価は半定量的ではあるが,ブリンゾラミド点眼後の臨床的な霧視の状況を反映しうるものと考えた.さらに,被検者にあらかじめサンプル画像を供覧したうえで,検査内容を十分に説明し,霧視の程度を画像チャート上に記載を求めただけでなく,霧視が解消した時点を被検者自身の挙手による合図により持続時間を調べたため,時間ずれ(4)(4)は最少化しうるものと考えた.その結果,霧視の平均スコアは1.67±0.99であり,持続時間は25.2±30.4秒であり,両者の間には正の相関があった.日常臨床でブリンゾラミドを処方する際に,拭き取りの励行を説明した場合の患者申告による霧視の程度はQOV(qualityofvision)を損なわない程度であり,また,霧視の消失までの時間も一過性であることが多い.すなわち,筆者らの検討結果は,その臨床的印象とよく一致するものと考えた.さらに,対象中の一部で調べえた拭き取りなしでの霧視スコア(3.07±0.93)ならびに霧視持続時間(平均76.3±53.5秒)は,拭き取りありの際の霧視スコア(1.70±1.00)ならびに霧視持続時間(22.0±22.6秒)に比べ明らかに高値を示し,ブリンゾラミド点眼後の薬剤の拭き取りは霧視を最少化するうえで重要であることが確認された.つぎに,ブリンゾラミド点眼後の霧視には涙液の白濁化が影響し,すなわち,涙液動態が霧視の程度に関連することが報告されている8,9)が,ブリンゾラミド点眼後に薬液を拭き取ったうえでの検討ではない.しかし,筆者らの結果で拭き取りを行っても霧視持続時間は5.241秒と個人差が大きかった.そこで,霧視への直接的・間接的な涙液動態の影響が否定できず10,11),改めて拭き取りした条件下での涙液動態を調べ,霧視スコアや持続時間への影響も検討した.涙液検査は多岐にわたるが,今回の被検者に対しては結膜.に貯留する涙液量を反映するとされる綿糸法と,涙液の安定性を反映するとされるBUTとを調べた.さらに,涙液が結膜.からwashoutされることが涙液中に存在する点眼液の希釈にかかわると考え,涙液クリアランスを調べた.涙液油層の厚みおよび安定性を調べるDR-1は,涙液の蒸発を把握するのに有用であるため検査に追加した.さて,涙液関連検査の結果は広い範囲に分布し綿糸法,クリアランス,DR-1などは霧視スコアや持続時間との間に有意な関連を認めなかった.しかし,霧視スコアおよび霧視持続時間を高値群と低値群,長時間群と短時間群に分けて涙液検査との関連を検討すると興味深い結果を得た.すなわち,綿糸法,クリアランス,DR-1では明らかな関連を認めなかったが,霧視スコアの高値群でのBUT(5.10±2.62秒)は,霧視スコアの低値群のそれ(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値を示し,霧視持続時間の長時間群のBUT(5.00±2.63秒)も短時間群のそれ(6.51±2.55秒)に比べ明らかに低値であった.BUTは涙液の不安定性を代表している涙液検査であり,ブリンゾラミド点眼後の霧視の発生とその持続には点眼液だけでなく,元来の涙液の性状が影響していることが示唆された.なお,BUTを説明変数として単変量ロジスティック回帰分析を行ったところ,オッズ比が有意となったことも,霧視に涙液の不安定性の影響があることを支持する結果と考えた.緑内障は一般に高齢者に多く,ドライアイなどの基礎疾患も併存し,さらに,多剤点眼例も50%近くに及び19,20),涙液層の不安定化要因は少なくない.涙液の客観的評価法として,BUTは一般臨床でも可能な検査であり,ブリンゾラミド開始に先立ち,個々の症例の涙液の不安定性の把握に際して有用であると考えた.(135)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121011 緑内障点眼薬は長期にわたり使用が求められるが,にもかかわらず,薬剤の局所副作用はアドヒアランスを阻害するとされる7).今回の結果からブリンゾラミド使用時には,あらかじめ涙液に関しての情報提供と点眼時の拭き取りの重要性が強く示唆され,アドヒアランスの確保に向けての対策の第一歩として位置づけられると考えたので報告した.文献1)MarenTH,JankowskaL,SanyalGetal:Thetranscornealpermeabilityofsulfonamidecarbonicanhydraseinhibitorsandtheireffectonaqueoshumorsecretion.ExpEyeRes36:457-480,19832)EdelhauserHF,MarenTH:Permeabilityofhumancorneaandscleratosulfonamidecarbonicanhydraseinhibitors.ArchOphthalmol106:1110-1115,19883)SilverLH,theBrinzolamidePrimaryTherapyStudyGroup:Clinicalefficacyandsafetyofbrinzolamide(AzoptTM),anewtopicalcarbonicanhydraseinhibitorforprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol126:400-408,19984)DonohueEK,WilenskyJT:Trusopt,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor.JGlaucoma5:68-74,19965)原岳,立石衣津子,原玲子ほか:抗緑内障点眼薬の点眼時刺激と容器の使用感.眼臨紀1:9-12,20086)高橋現一郎,山村重雄:薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査.あたらしい眼科25:1285-1289,20087)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrentOpinOphthalmol17:190-195,20068)MichaudJE,FrirenB,InternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzolamide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:235-243,20019)石橋健,森和彦:二種類の炭酸脱水酵素阻害点眼薬投与に伴う霧視について.日眼会誌113:689-692,200610)HiraokaT,DaitoM,OkamotoFetal:Contrastsensitivityandopticalqualityoftheeyeafterinstillationoftimololmaleategel-formingsolutionandbrinzolamideophthalmicsuspension.Ophthalmology117:2080-2087,201011)野口毅,川崎史朗,溝上志朗ほか:ブリンゾラミド点眼後の霧視の発生機序.日眼会誌114:369-373,201012)長嶋孝次:流涙症とその診断・治療.眼科診療─卒後研修のために─(弓削経一編),金原出版,197513)八田葉子,横井則彦,西田幸二ほか:ドライアイにおける涙液油層の観察.臨眼49:847-851,199514)小野真史,坪田一男,吉野健一ほか:涙液のクリアランステスト.臨眼45:1143-1147,199115)BartlettJD,JaanusSD:ClinicalOcularPharmacology.Fifthedition,ButterworthHeinemann,StLouis,200816)BarnebeyH,KwokS:Patient’sacceptanceofaswitchfromdorzolamidetobrinzolamideforthetreatmentofglaucomainaclinicalpracticesetting.ClinTher22:1204-1212,200017)FlachAJ:Theimportanceofeyelidclosureandnasolacrimalocclusionfollowingtheocularinstillationofglaucomamedicines,andtheneedfortheuniversalinclusionofoneofthesetechniquesinallpatienttreatmentsandclinicalstudies.TransAmOphthalmolSoc106:138-148,200818)畑田豊彦,三橋俊文:視覚光学とは波面解析による評価.眼科50:635-653,200819)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200320)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学付属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼60:1679-1684,2006***1012あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(136)