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薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1545.1549,2018c薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例飯田将元子島良平小野喬森洋斉野口ゆかり岩崎琢也宮田和典宮田眼科病院CACaseofKeratitiswithNocardiaasteroidesHighlyResistanttoLevo.oxacin(LVFX)InVitro,butShowingGoodResponsetoTopicalLVFXInVivoCMasaharuIida,RyoheiNejima,TakashiOno,YosaiMori,YukariNoguchi,TakuyaIwasakiandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC症例はC63歳,男性.2週間前に右眼に土が飛入した後,疼痛・視力低下が出現し当院を受診した.右眼に淡い浸潤を伴う角膜潰瘍を認め,角膜塗抹標本のグラム染色で糸状のグラム陽性菌を検出した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの頻回点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の結膜.点入を開始したが,眼所見は改善せず,第C4病日の塗抹標本には糸状のグラム陽性菌が多数残存していた.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼を追加したところ,角膜病巣は縮小し,以後,再発なく経過した.角膜病変からはCNocardiaasteroidesが分離され,LVFX高度耐性を示した.本症例では,起炎株の薬剤感受性と臨床経過に乖離があった.抗菌点眼薬の選択に際しては総合的に判断することが重要と考えられる.CAC63-year-oldCmaleCvisitedCourChospitalCdueCtoCrightCeyeCpainCwithCdecreasedCvisualCacuity,CtwoCweeksCafterCsoilexposure.Slit-lampexaminationdisclosedpatchycornealulceroftherighteye.Gram-stainedsmearofcornealscrapingCshowedCtheCpresenceCofCmanyCGram-positiveC.laments.CFrequentCtopicalCinstillationCofCcefmenoximeCandCerythromycin/colistinCwasCstarted.CHowever,CocularClesionsCdidn’tCbecomeCsmallCandCmanyC.lamentousCbacteriaCremainedonthecornealsmearobtainedonthe4thclinicalday.Wethereforeaddedtopical1.5%LVFXandthecorneallesionshealed.CNocardiaasteroideswasisolatedandshowedhighresistancetoLVFX.ThiscaseillustratestheCdiscrepancyCbetweenClaboratoryCantibiogramCandCclinicalCe.ectivenessCinCocularCinfection.CSelectionCofCtopicalCantibioticsmustbebasedonintegratedinformationfrompatients,laboratorydataandliterature.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1545.1549,C2018〕Keywords:ノカルジア,感染性角膜炎,薬剤耐性,レボフロキサシン.Nocardia,infectiouskeratitis,drugresis-tance,levo.oxacin.Cはじめにノカルジア属細菌は土壌中に生息し,グラム陽性に染色される菌糸体を形成する.日常診療では,病変の擦過検体は塗抹上では最初に放線菌群として認識され,分離結果に基づき最終同定されている.本菌は健常人の皮膚などの体表面感染症ならびに,免疫抑制状態の患者における肺炎,脳膿瘍を生じる.眼科領域のノカルジア感染として角膜炎,強膜炎,眼内炎が報告されているが1,2),わが国におけるノカルジア角膜炎例の報告は少ない3.5).ノカルジア角膜炎の治療には抗菌点眼薬が用いられる.ニューキノロン系抗菌薬に対する感受性は菌種・菌株で大きく異なり1,6.9),初期治療としては選択しにくい.今回,分離株が薬剤感性試験でレボフロキサシン(LVFX)に高度耐性であったにもかかわらず,臨床的にCLVFX感受性を示したノカルジア感染を伴った角膜炎のC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕飯田将元:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:MasaharuIida,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(97)C1545cdef図1前眼部病変と擦過塗抹標本a:初診時の前眼部写真.結膜充血および角膜傍中心領域の潰瘍を認める.Cb:病巣部の拡大.膿瘍の形成(.),辺縁部の浸潤病変(.)を認める.Cc:初診時のフルオレセイン染色細隙灯顕微鏡検査.病巣に一致した上皮欠損を認める.Cd:初診時の角膜擦過物の塗抹検鏡.グラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認める.Ce:治療開始C40日目の細隙灯顕微鏡検査.強い角膜上皮浮腫,実質浮腫を認める.Cf:治療開始C54日目の細隙灯顕微鏡検査.角膜上皮浮腫,実質浮腫の消失を認める.CI症例現病歴:2016年の夏期,草刈り中に右眼に土が飛入した後,徐々に霧視,充血,疼痛,視力低下が進行し,受傷から患者:63歳,男性.約C2週後に当院を受診した.主訴:右眼の視力低下.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.7C×cyl.3.0DAx70°),左既往歴:内科的基礎疾患はなく,定期的内服はない.右眼眼C1.0(1.5×+0.50D(cyl.1.5DAx100°)であった.右眼ヘルペス性角膜実質炎にて当院外来通院.には結膜の充血,角膜傍中心部に膿瘍を形成する角膜潰瘍,表1分離菌の薬剤感受性試験結果Nocardiaasteroides分離株コアグラーゼ陰性CStaphylococcus分離株抗菌薬CMIC判定CMIC判定CcefmenoximeC2C8CRCceftriaxone>2CtobramycinCvancomycinCerythromycinCmoxi.oxacinC128C128C18CRCRC64C2C>6C4C64CRCSCRCRCgati.oxacinClevo.oxacinC8C64CR128C>C128CRCRClinezolid<2CS<2CSCimipenemminocyclinC<C0.25C4CSSC<2C8CSCRMIC:minimuminhibitoryconcentration(μg/ml).S:susceptible.R:resistant.潰瘍周辺部の淡い浸潤巣を(図1a~c),前房内に軽度の炎症細胞を認めた.角膜知覚は右眼C20Cmm,左眼C60Cmmと右眼で低下していた.チェックメイトCRヘルペスアイ(わかもと)を用いたイムノクロマト法および,ヘルペス(1・2)FA「生研」,VZV-FA「生研」(デンカ生研)を用いた蛍光抗体法で,単純ヘルペスウイルスC1型・2型,水痘帯状疱疹ウイルス抗原は陰性であった.超音波CBモード断層検査では後眼部の異常は指摘できなかった.経過:所見から感染性角膜炎を疑い,角膜擦過物の塗抹検鏡と培養検査を行った.塗抹標本のグラム染色ではグラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認めた(図1d).ファンギフローラ染色では真菌は検出せず,放線菌群細菌とグラム陽性球菌による複合感染と診断し,セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンのC1時間毎点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の就寝前C1回,ST合剤内服を開始した.上記点眼を開始するも角膜潰瘍は改善しなかったため,第4病日に再度角膜擦過を行った.塗抹検鏡でグラム陽性球菌はほとんどみられなくなったが,放線菌群菌体は依然として多数残存していた.再度,問診を行ったところ,右眼受傷後に自己判断で手持ちのCLVFXを点眼し,LVFXがなくなり,症状が悪化したため当院を受診したという事実が判明した.同日よりC1.5%CLVFXの毎時点眼を追加後,徐々に潰瘍底は浅くなり,潰瘍周辺部の浸潤巣も消退傾向を認めた.初診時の擦過検体から,Nocardiaasteroidesとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaph-ylococcus:CNS)が分離された.LVFXの最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)は両菌とも高値であったが,点眼追加後に角膜所見が改善していることから点眼継続とした(表1).第C27病日には上皮欠損の消失を認めたが,結膜充血,実質浮腫,上皮浮腫は遷延していた.第40病日には実質浮腫,上皮浮腫により右眼視力C20Ccm指数弁と低下したが(図1e),角膜細胞浸潤は軽微であり感染は終息していると考え,消炎を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼C4回を追加した.点眼追加後に実質浮腫,上皮浮腫の消退傾向を認め,第C54病日には右眼視力C0.06(0.3C×.5.0D)と改善を認めた(図1f).発症後C9カ月が経過し,角膜病巣3.0D)で角膜炎の再燃C×.5p.は瘢痕化し,右眼視力0.3p(0はなく経過している.CII考按本症例は,角膜へルペスの既往があるものの,全身的な基礎疾患のない成人男性の右眼に,土が飛入した後に発症した細菌性角膜炎のC1例である.角膜病変の擦過標本では,放線菌群の菌とグラム陽性球菌を検出し,細菌培養ではCN.Caster-oidesとCCNSが分離され,当初はこの両者の複合感染による角膜炎と診断した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼と軟膏,ST合剤の内服により,第C4病日にはグラム陽性球菌はほとんど消失するも,角膜所見はほとんど改善せず,塗抹でも多数の放線菌の残存を認め,角膜病変の主たる起因菌はノカルジアと判断した.ノカルジア分離株はCLVFX高度耐性であったが,病歴より効果があると判断しCLVFXの点眼を開始,潰瘍は縮小した.ノカルジア角膜炎は植物との接触を伴う外傷3,5),コンタクトレンズ装用4),角膜屈折矯正手術2,10)に関連した症例が報告されている.本例では,農作業中の土の飛入が発症の契機となっているが,角膜ヘルペスによる角膜知覚低下のため外傷を認識していなかった可能性もある.これまで報告されているノカルジア角膜炎の眼所見は,上皮欠損を伴うリース状,斑状の角膜細胞浸潤を呈し,真菌性角膜炎に類似しているため,真菌性角膜炎として治療が開始されていた症例が多い1,3,5,8).本例でも草刈り後に発生しており,塗微生物学的検査をもし行わなければ,真菌性角膜炎として治療されてしまう可能性があった.角膜病変の診断と治療においては,微生物学的検査,とくに塗抹検査が重要である.ノカルジア角膜炎を引き起こすノカルジア属細菌は複数報告されているが,とくにCN.asteroidesはノカルジア角膜炎のC19.93%で分離され,原因菌種として占める割合が大きい1,6,7,9).しかし,N.asteroidesの薬剤感受性試験で,ペニシリン系,セファロスポリン系,ニューキノロン系,ST合剤に対して,株間で感受性のばらつきが大きく,N.Casteroi-desは薬剤感受性結果に基づき,さらに細分類されている11).本例の分離株は感受性検査でリネゾリド・イミペネムに感受性を有し,フルオロキノロンに耐性を示したことより,狭義のCN.asteroidesあるいはCN.novaに近い菌種と考えられる.本症例では,臨床的に有効性が期待されたセフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼では角膜病変は改善せず,高度耐性と判定されたCLVFX点眼が有効であった.わが国の既報においても,薬剤感受性試験で有効性が期待されていた抗菌薬で角膜所見が改善せず,点眼変更を余儀なくされた症例が報告されている3,5).薬剤感受性試験と臨床経過の乖離の原因として,Sridharらは培地のCpHや寒天の種類による変化が一因であると考察している7).また,眼科領域の感染症治療では,抗菌点眼薬が全身投与と比較し非常に高濃度であるため,感受性検査で耐性を示すにもかかわらず臨床的に有効性を示す可能性が指摘されている12,13).感染症の治療では,臨床所見や検鏡の結果から起因菌を類推し,効果があると考えられる抗菌薬を投与するCempirictherapyから開始し,起因菌の同定後は,薬剤感受性結果に基づき,抗菌薬を変更するspeci.ctherapyを行うことが一般的である.しかし,眼科領域では,先に述べたように高濃度製剤を局所投与することより,本例のように臨床上の効果と薬剤感受性試験の結果が乖離することも多い.分離株のCMICのみを根拠として抗菌薬を変更するのでなく,自覚症状や角膜所見の変化を考慮し,抗菌薬変更の必要性について総合的に判断する必要がある.また本例では,実質混濁,角膜上皮浮腫の遷延に対して,感染が終息した後にフルオロメトロンの点眼を追加した.角膜感染症に対するステロイド点眼の併用は,実質融解や新生血管の抑制による角膜混濁の軽減といった利点がある一方,上皮化の抑制や感染の増悪といった問題点がある.細菌性角膜炎に対するステロイド点眼併用のランダム化比較試験では,ノカルジア角膜炎に対する初期からのステロイド点眼の併用は最終的な角膜混濁のサイズを有意に増大させ,視力改善にも関連しない一方,ノカルジア以外の細菌性角膜炎では,ステロイド点眼の併用は最終視力を有意に改善させ,角膜混濁の増加も認めないと報告されている9,14).したがって,ノカルジア角膜炎においては通常の細菌性角膜炎のように,初期からのステロイド点眼の併用を行うことは好ましくないと思われる.しかし,本報告のように感染が終息したと判断し,消炎を目的にステロイドを点眼し,角膜浸潤,実質浮腫の改善を認めたノカルジア角膜炎の報告もあり3),角膜所見の悪化に十分注意する必要はあるものの,治療の終盤に消炎を目的にステロイド点眼を使用することは瘢痕の拡大を防ぐ点で有効である可能性がある.CIII結語今回,分離株の薬剤感受性試験では耐性であったCLVFXが著効したノカルジア角膜炎のC1例を経験した.ノカルジア角膜炎では,分離株の薬剤感受性試験の結果と臨床的な薬剤有効性に乖離がみられることがあり,抗菌薬選択に際しては感受性試験の結果だけで判断せず,注意深く臨床所見を観察し,総合的に判断することが重要である.文献1)DeCroosFC,GargP,ReddyAKetal:Optimizingdiagno-sisCandCmanagementCofCNocardiaCkeratitis,Cscleritis,Candendophthalmitis:11-yearmicrobialandclinicaloverview.OphthalmologyC118:1193-1200,C20112)LalithaP,SrinivasanM,RajaramanRetal:NocardiaCker-atitis:ClinicalCcourseCandCe.ectCofCcorticosteroids.CAmJOphthalmolC154:934-939,C20123)菅井哲也,竹林宏,塩田洋:ノカルジアによる角膜潰瘍の1例.眼臨C91:1708-1710,C19974)竹内弘子,近間泰一郎,西田輝夫:ノカルジアによる角膜放線菌感染症のC1例.眼科C41:301-304,C19995)越智理恵,鈴木崇,木村由衣ほか:NocardiaCasteroidesによる角膜炎のC1例.臨眼C60:379-382,C20066)FaramarziA,FeiziS,JavadiMAetal:BilateralCNocardiaCkeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomy.CJCOphthalmicCVisResC7:162-166,C20067)SridharMS,SharmaS,ReddyMKetal:Clinicomicrobiol-igicalCreviewCofCNocardiaCkeratitis.CCorneaC17:17-22,C19988)SridharMS,SharmaS,GargPetal:Treatmentandout-comeofCNocardiaCkeratitis.CorneaC20:458-462,C20019)PatelNR,ReidyJJ,Gonzalez-FernandezF:Nocardiaker-atitisCafterClaserCinCsitukeratomileusis:clinicopathologicCcorrelation.JCataractRefractSurgC31:2012-2015,C200510)LalithaCP,CTiwariCM,CPrajnaCNVCetal:NocardiaCKerati-tis;species,CdrugCsensitivities,CandCclinicalCcorrelation.CCorneaC26:255-259,C200711)Brown-ElliottCBA,CBrownCJM,CConvilleCPSCetal:ClinicalCandClaboratoryCfeaturesCofCtheCNocardiaCspp.CbasedConCcurrentmoleculartaxonomy.ClinMicrobiolRevC19:259-282,C200612)AiharaM,MiyanagaM,MinamiKetal:AcomparisonofC.uoroquinoloneCpenetrationCintoChumanCconjunctivalCtis-sue.JOculPharmacolTherC24:587-591,C200814)SrinivasanCM,CMascarenhasCJ,CRajaramanCRCetal:The13)TouN,NejimaR,IkedaYetal:Clinicalutilityofantimi-steroidsCforCcornealCulcerstrial(SCUT):SecondaryC12-crobialCsusceptibilityCmeasurementCplateCcoveringCformu-monthCclinicalCoutcomesCofCaCrandomizedCcontrolledCtrial.ClatedCconcentrationsCofCvariousCophthalmicCantimicrobialCAmJOphthalmolC157:327-333,C2014Cdrugs.ClinOphthalmolC10:2251-2257,C2016***