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長期治療が奏効した重症ノカルジア強膜炎の1 例

2026年8月31日 月曜日

《第61回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科43(8):1003.1007,2026c長期治療が奏効した重症ノカルジア強膜炎の1例新井陽介戸所大輔秋山英雄群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学CACaseofNocardiaScleritisthatwasSuccessfullyTreatedYosukeArai,DaisukeTodokoroandHideoAkiyamaCDepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicineC目的:重症化し治療に難渋したが治癒に至ったノカルジア強膜炎を経験したので報告する.対象と方法:76歳,男性.近医で左眼強膜炎および周辺部角膜潰瘍の診断で抗菌薬とステロイド点眼を処方されたが,改善しないため群馬大学医学部附属病院眼科へ紹介された.左眼の強膜膿瘍,眼脂の付着を認めた.非感染性強膜炎を疑いステロイド点眼を継続したが反応が悪かった.眼脂培養でノカルジアが発育し,強膜擦過物の塗抹鏡検で分枝するグラム陽性桿菌を認め,ノカルジアによる感染性強膜炎と診断した.レボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)内服,イミペネム点滴,アミカシン結膜下注射を開始した.虹彩ルベオーシスから前房出血を生じたが炎症は徐々に改善し,ステロイド点眼はC5カ月,抗菌薬はC7カ月かけて中止した.結論:初期に非感染性強膜炎と診断し重症化したが,抗菌薬の長期投与により治癒が得られた.多量の眼脂を認める強膜炎では感染性強膜炎の可能性を考える必要がある.CPurpose:WeCexperiencedCaCcaseCofCNocardiaCscleritisCthatCprogressedCtoCsevereCcomplications.CPatientsandMethods:AC76-year-oldCmanCwasCseenCatCanCoutsideCclinicCwithCocularCdischargeCandCdiscomfortCinChisCleftCeye,CandCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourCdepartmentCatCGunmaCUniversityCHospital.CUponCexamination,ChisCleftCeyeCexhibitedCscleralCinjectionCandCthinningCofCtheClimbalCscleraCandCperipheralCcorneaCwithCdischarge.CNoninfectiousCscleritiswassuspected,yetmultipleabscessesdevelopedonthenasalsclera1monthlater.AcultureoftheoculardischargerevealedthegrowthofNocardiaCspecies.Microscopicexaminationofscleralscrapingsrevealedbranch-ingCgram-positiveCbacilli,CleadingCtoCaCde.nitiveCdiagnosisCofCinfectiousCscleritisCdueCtoCNocardia.CTreatmentCwithCtopicalClevo.oxacinCandCcefmenoxime,CoralCstromalCcombination,CintravenousCimipenemCdrip,CandCsubconjunctivalCamikacinCinjectionCwasCinitiated.CHyphemaCfromCirisCrubeosisCdeveloped,CyetCspontaneouslyCresolved.CSignsCofCin.ammationgraduallyimproved,andthetopicalsteroidsandantibioticsweregraduallytaperedovera7-monthperiod.CThereCwasCnoCrecurrence,CandCcataractCsurgeryCwasCperformed.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisCcaseCrevealedthatthepossibilityofinfectiousscleritismustbeconsideredwhencopiousoculardischargeispresent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(8):1003.1007,C2026〕Keywords:ノカルジア,強膜炎.Nocardia,scleritis.はじめに強膜炎は感染性と非感染性に分類され,多くは非感染性であり,感染性強膜炎は強膜炎全体のC5.10%とまれである.ほとんどが緑膿菌をはじめとする細菌性であり,ノカルジア強膜炎は希少である1).ノカルジア強膜炎は,発症初期には特異的な症状がなく診断が困難であり,培養にも時間を要する.また,確立された治療法はなく,治療に難渋し重症化すると強膜壊死を起こし,眼球摘出を余儀なくされることもある2).今回筆者らは,重症化し治療に難渋したが最終的に治癒に至ったノカルジア強膜炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:76歳,男性.主訴:左眼の眼脂,違和感.既往歴:慢性心不全,心房細動,慢性腎臓病,本態性高血〔別刷請求先〕新井陽介:〒C371-8511群馬県前橋市昭和町C3-39-15群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学Reprintrequests:YosukeArai,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicine,3-39-15Showa-machi,Maebashi,gunma371-8511,JAPANC図1左眼の前眼部写真a:初診時.下鼻側の輪部強膜に膿瘍を認める.Cb:24病日.強膜膿瘍が鼻側上方および下方へ拡大した.Cc:54病日.虹彩ルベオーシスにより前房出血を生じた.Cd:103病日.前房出血,強膜膿瘍が減少し,強膜が菲薄化した.e:229病日.強膜膿瘍,充血が消失し,炎症は鎮静化した.Cf:1年C2カ月.白内障術後.圧,2型糖尿病,高コレステロール血症,高尿酸血症.生活歴:趣味で園芸を行っていた.近医で緑内障および白内障の点眼治療を受けていた.現病歴:左眼の眼脂,違和感のため前医を受診し,左眼強膜炎,辺縁角膜潰瘍の診断で,レボフロキサシン点眼とリン酸ベタメタゾン点眼を処方された.改善がないため群馬大学医学部附属病院眼科(以下,当科)へ紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.05(0.7pC×sph.5.00D),左眼0.2(0.3pC×cyl.2.75DAx55°),眼圧は右眼11mmHg,左眼C13mmHgであった.左眼鼻下側の輪部付近の強膜に膿瘍があり,眼脂も伴っていた(図1a).眼底にはとくに異常はみられなかった.自己免疫性の角膜潰瘍および強膜炎を疑い,点眼をガチフロキサシンC3回,リン酸ベタメタゾンC6回へ変更した.しかし,ステロイド治療に反応が悪く,感染性を疑い病変部の擦過を行った.塗抹鏡検では細菌は検出されなかった.腎臓リウマチ内科へ紹介したが,関節リウマチや膠原病は否定された.初診からC21病日,前房にフィブリンが析出し悪化があり,脈絡膜.離も出現した.網膜血管炎,硝子体混濁,網膜滲出斑はみられなかった.眼脂培養からノカルジア属が検出されたため,再度強膜擦過物を鏡検したところ分枝するグラム陽性桿菌がみられ(図2),ノカルジアによる感染性強膜炎と診断した.薬剤感受性試験(微量液体希釈法)の結果を表1に示す.入院のうえC1.5%レボフロキサシン点眼C6回,セフメノキシム点眼C6回およびC0.1%フルオロメトロン点眼C3回,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)4,000Cmg/800Cmg/日の内服を開始した.鼻側上方および下方に新たな強膜膿瘍が出現したため(図1b),イミペネム水和物C1Cgおよびアミカシン硫酸塩C400Cmgの点滴を開始した.その後も改善はみられず,23病日に結膜切開術,デブリドマンを試みた.強膜膿瘍部を結膜切開したが液状の膿は排出されず,強膜自体が膨化,黄色化している状態であった.術後,アミカシン硫酸塩(30Cmg/0.3Cml)図2強膜擦過物の塗抹鏡検(グラム染色,1,000倍)分枝するグラム陽性桿菌がみられる().結膜下注射を開始した.注射は結膜下膿瘍の付近を標的に行った.徐々に炎症性の虹彩ルベオーシスが出現した.31病日,四肢体幹に皮疹があり,ST合剤を被疑薬と考えて内服を中止とした.33病日に虹彩ルベオーシスが減少し,アミカシン硫酸塩点滴を中止した.ST合剤の減感作療法を行い,2,000mg/400mgから内服を再開した.その後C4,000mg/800Cmgまで内服可能となったため,40病日にイミペネム水和物点滴とアミカシン硫酸塩の点滴および結膜下注射を中止した.42病日に退院とした.16CSribosomalRNA遺伝子解析から菌種はCNocardiaarthritidisと同定した.52病日に前房出血を起こしたが,強膜炎の悪化はなかった(図1c).その後前房出血は徐々に自然吸収され,強膜炎も鎮静化傾向であった.103病日に鼻側の強膜菲薄化は進行したが,炎症は低下し鼻下側の膿瘍のみ残存し,前房出血は消失した(図1d).134病日に鼻下側の膿瘍が消失し,144病日にCST合剤の内服を中止した.229病日に充血はほぼ消失し,その後抗菌点眼薬を漸減中止したが再燃はなかった(図1e).広範な虹彩癒着,強膜の菲薄化を残した.白内障が進行したため,初診からC1年C1カ月に白内障手術を施行した.合併症はなく経過し,再発もみられず視力はC0.7まで改善した(図1f).治療経過を図3に示した.CII考按本症例では,初診時には非感染性強膜炎を疑いステロイド点眼を行った.しかし,ステロイド治療への反応が悪いことと眼脂が多いことから感染性強膜炎を疑った.眼脂の培養と塗抹鏡検からノカルジア強膜炎と診断し,分離菌株はポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法によりCN.arthritidisと同定した.角膜炎の所見は乏しく,強膜炎から波及したと考えられる前房内のぶどう膜炎もみられ表1薬剤感受性試験(微量液体希釈法)薬剤名MIC(μg/mCl)判定CPCGC2CICABPCC2CNTCACV/AMPCC0.5CNTCCTMC<=0.5CSCCTXC<=0.12CSCCTRXC<=0.12CSCCFPMC<=0.5CSCCZOPC0.25CNTCCDTRC0.25CNTCMEPMC1CRCLVFXC1CNTCEMC<=0.12CSCAZMC0.5CNTCCLDMC0.25CSCMINOC<=0.5CNTCVCMC>1CNTCSTC<=0.5CSCRFPC<=1CSCCPC16CNTS:感受性,I:中間,R:耐性,NT:適応外.PCG:ペニシリンCG,ABPC:アンピシリン,ACV/AMPC:クラブラン酸C/アモキシシリン,CTM:セフォチアム,CTX:セフォタキシム,CTRX:セフトリアキソン,CFPM:セフェピム,CZOP:セフォゾプラン,CDTR:セフジトレンピボキシル,MEPM:メロペネム,LVFX:レボフロキサシン,EM:エリスロマイシン,AZM:アジスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,VCM:バンコマイシン,ST:スルファメトキサゾール・トリメトプリム,RFP:リファンピシン,CP:クロラムフェニコールC.た.入院のうえレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,アミカシン結膜下注射,ST合剤内服,イミペネム点滴,アミカシン点滴による治療を開始した.炎症が強いことからステロイド点眼はすぐに中止せず,約C5カ月間かけて漸減中止した.一時期眼球摘出も検討されたが,約C7カ月の治療を経て鎮静化させることができた.ノカルジアは土壌や水中に分布しており,易感染状態やステロイド,免疫抑制薬を使用中の患者に発症しやすく,呼吸器系や中枢神経系,皮膚に病変を形成することが多い.80種以上の菌種が存在することが知られており,菌種の同定にはC16SribosomalRNA遺伝子解析が有用である.ノカルジア強膜炎の起炎菌としてはCN.asteroides,続いてCN.Cnovaの頻度が高い1).ノカルジア強膜炎は過去の眼外傷,眼手術歴やステロイド(錠)43ST合剤210アミカシン点滴800mg/日アミカシン結膜下注射30mg/日イミペネム1g/日ガチフロキサシン1.5%レボフロキサシンセフメノキシムアジスロマイシンベタメタゾンリン酸エステル(回)320.1%フルオロメトロン10入院退院前房出血消失膿瘍消失充血消失培養判明|膿瘍減少050100150200(日)図3治療経過チャート入院後C1.5%レボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,ST合剤の内服,アミカシン結膜下注射,イミペネムおよびアミカシン点滴を開始した.ST合剤による薬疹が出現したが,減感作療法により内服を再開した.点滴,注射の終了時点で退院とした.虹彩ルベオーシスの病勢に応じてステロイド点眼を継続した.充血の減少に伴いレボフロキサシン,セフメノキシム点眼を最終的に終了した.使用歴がリスクとなる.まれに眼外傷や手術歴がなくても発症することもあると報告されている.わが国ではまれだが,インドにおいては感染性強膜炎のC20%を占めており,土壌に曝露する機会が多い農業国であるためと考えられている3).初期症状は慢性眼痛,充血が多く,そのほか霧視,羞明,流涙などがある.臨床的な所見として結節性・多巣性強膜膿瘍や潰瘍性強膜炎がみられるが,非特異的である.そのため診断までに時間を要してしまうことが多く4),診断が判明するまで非感染性として長期のステロイド治療を開始される可能性がある.野々村らはノカルジア強膜炎から眼球内容除去へ至った症例を報告し,初診時の培養検査で菌が検出されず,ステロイド投与を機に状態が悪化したと述べている5).塗抹鏡検では,細長く分枝したフィラメント状のグラム陽性桿菌として観察される.弱抗酸性を呈するため,検出にはZiehl-Neelsen染色やCKinyoun染色も有用である.白色粉状の小さなコロニーを形成するが生育が遅く,最低C48.72時間を要する6).治療法としてはCST合剤を使用することが多いが,確立された治療法はなく,抗菌レジメンの選択は疾患の重症度,感染部位,患者の免疫状態に基づいて行う必要がある.また,薬剤感受性は菌種により異なるため,培養による同定が重要である.ノカルジア属はC80種以上存在するが,ヒトへの疾患と関連しているのは.N.asteroides,N.farcinica,N.Cbrasilien-sis,N.nova,N.otitidiscaviarum,N.transvalensisといった少数種に限定されている7).N.arthritidisは,2004年に関節リウマチ患者から初めて特定された新しい菌種である8).現状ではCN.arthritidisによる強膜炎の報告は少なく,治療法については個々の感受性試験に基づくべきである.今回の虹彩ルベオーシスの発症については,少数だが強膜炎からぶどう膜炎を生じる例があると報告されている3).前房内にぶどう膜炎が生じると,炎症性サイトカインにより房水の血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)濃度が上昇すると考えられており9,10),虹彩ルベオーシスが生じたと考えられた.本患者は趣味で園芸をしており,枝,葉,土などが眼に入るケースが年に数回あるとの生活歴があること,基礎疾患として糖尿病があり易感染性があることがノカルジア症発症に起因したと思われた.発症から治癒まで約C7カ月を要したことから,ノカルジア強膜炎は長期的な治療が必要であることを再認識した.一方で,本症例は虹彩ルベオーシスの抑制を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼を長期的に使用した.治療を長引かせる要因となった可能性も否定できないが,眼圧上昇や前房出血の悪化を軽減し,眼球内容除去を阻止できた要因と考えた.CIII結論ノカルジアによる感染性強膜炎の治療に難渋したが,約C7カ月の薬物により治癒を得ることができた症例を経験した.ステロイド点眼に反応しないことおよび眼脂が多いことから感染性強膜炎の可能性を考慮し,塗抹鏡検,培養検査を行ってノカルジアによる強膜炎と診断した.薬剤感受性試験の結果に基づいた集中的な抗菌薬投与が有効だった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SharmaCS,CShethCJU,CMurthySI:Infectiousscleritis:aCreviewCofCetiologies,CclinicalCfeatures,CandCmanagementCstrategies.CFrontOphthalmol(Lausanne)C5:1493831,C2025C2)FrancisC,PrashantG,AshokKetal:Optimizingdiagno-sisCandCmanagementCofCNocardiaCkeratitis,Cscleritis,Candendophthalmitis:11-yearCmicrobialCandCclinicalCover-view..OphthalmologyC118:1193-1200,C20113)SomasheilaIM,SabhapanditS,BalamuruganSetal:Scle-ritis:di.erentiatingCinfectiousCfromCnon-infectiousCenti-ties..IndianJOphthalmolC68:1818-1828,C20204)CunhaLP,JuncalV,CarvalhaesCGetal:Nocardialscle-ritis:acasereportandasuggestedalgorithmfordiseasemanagementbasedonaliteraturereview..AmJOphthal-molC10:1-5,C20185)野々村美保,福岡秀記,山下耀平ほか:眼球内容除去に至ったCNocardia感染症の1例.日眼会誌C128:775-782,C20246)西村恵子:ノカルジア属菌―Nocardiaspp.検査と技術.49:286-289,C20217)CheronisCN,CCarrCD,CBhanotN:CutaneousCNocardiaCarthritidisinfectioninanorthotopiclivertransplantrecipi-ent..IDCasesC18:e00623,C20198)KageyamaCA,CTorikoeCK,CIwamotoCMCetal:NocardiaCarthritidisspnov,anewpathogenisolatedfromapatientwithCrheumatoidCarthritisCinCJapan.CClinCMicrobiolC42:C2366-2371,C20049)GulatiCN,CForooghianCF,CLiebermanCRCetal:VascularCendothelialCgrowthCfactorCinhibitionCinuveitis:aCsystem-aticreview..BrJOphthalmolC95:162-165,C201110)前田有紀,原佑妃,松本牧子ほか:ぶどう膜炎に続発した血管新生緑内障C2症例の前房内CVEGF濃度と治療経過.臨眼C72:787-793,C2018***

薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1545.1549,2018c薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例飯田将元子島良平小野喬森洋斉野口ゆかり岩崎琢也宮田和典宮田眼科病院CACaseofKeratitiswithNocardiaasteroidesHighlyResistanttoLevo.oxacin(LVFX)InVitro,butShowingGoodResponsetoTopicalLVFXInVivoCMasaharuIida,RyoheiNejima,TakashiOno,YosaiMori,YukariNoguchi,TakuyaIwasakiandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC症例はC63歳,男性.2週間前に右眼に土が飛入した後,疼痛・視力低下が出現し当院を受診した.右眼に淡い浸潤を伴う角膜潰瘍を認め,角膜塗抹標本のグラム染色で糸状のグラム陽性菌を検出した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの頻回点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の結膜.点入を開始したが,眼所見は改善せず,第C4病日の塗抹標本には糸状のグラム陽性菌が多数残存していた.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼を追加したところ,角膜病巣は縮小し,以後,再発なく経過した.角膜病変からはCNocardiaasteroidesが分離され,LVFX高度耐性を示した.本症例では,起炎株の薬剤感受性と臨床経過に乖離があった.抗菌点眼薬の選択に際しては総合的に判断することが重要と考えられる.CAC63-year-oldCmaleCvisitedCourChospitalCdueCtoCrightCeyeCpainCwithCdecreasedCvisualCacuity,CtwoCweeksCafterCsoilexposure.Slit-lampexaminationdisclosedpatchycornealulceroftherighteye.Gram-stainedsmearofcornealscrapingCshowedCtheCpresenceCofCmanyCGram-positiveC.laments.CFrequentCtopicalCinstillationCofCcefmenoximeCandCerythromycin/colistinCwasCstarted.CHowever,CocularClesionsCdidn’tCbecomeCsmallCandCmanyC.lamentousCbacteriaCremainedonthecornealsmearobtainedonthe4thclinicalday.Wethereforeaddedtopical1.5%LVFXandthecorneallesionshealed.CNocardiaasteroideswasisolatedandshowedhighresistancetoLVFX.ThiscaseillustratestheCdiscrepancyCbetweenClaboratoryCantibiogramCandCclinicalCe.ectivenessCinCocularCinfection.CSelectionCofCtopicalCantibioticsmustbebasedonintegratedinformationfrompatients,laboratorydataandliterature.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1545.1549,C2018〕Keywords:ノカルジア,感染性角膜炎,薬剤耐性,レボフロキサシン.Nocardia,infectiouskeratitis,drugresis-tance,levo.oxacin.Cはじめにノカルジア属細菌は土壌中に生息し,グラム陽性に染色される菌糸体を形成する.日常診療では,病変の擦過検体は塗抹上では最初に放線菌群として認識され,分離結果に基づき最終同定されている.本菌は健常人の皮膚などの体表面感染症ならびに,免疫抑制状態の患者における肺炎,脳膿瘍を生じる.眼科領域のノカルジア感染として角膜炎,強膜炎,眼内炎が報告されているが1,2),わが国におけるノカルジア角膜炎例の報告は少ない3.5).ノカルジア角膜炎の治療には抗菌点眼薬が用いられる.ニューキノロン系抗菌薬に対する感受性は菌種・菌株で大きく異なり1,6.9),初期治療としては選択しにくい.今回,分離株が薬剤感性試験でレボフロキサシン(LVFX)に高度耐性であったにもかかわらず,臨床的にCLVFX感受性を示したノカルジア感染を伴った角膜炎のC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕飯田将元:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:MasaharuIida,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(97)C1545cdef図1前眼部病変と擦過塗抹標本a:初診時の前眼部写真.結膜充血および角膜傍中心領域の潰瘍を認める.Cb:病巣部の拡大.膿瘍の形成(.),辺縁部の浸潤病変(.)を認める.Cc:初診時のフルオレセイン染色細隙灯顕微鏡検査.病巣に一致した上皮欠損を認める.Cd:初診時の角膜擦過物の塗抹検鏡.グラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認める.Ce:治療開始C40日目の細隙灯顕微鏡検査.強い角膜上皮浮腫,実質浮腫を認める.Cf:治療開始C54日目の細隙灯顕微鏡検査.角膜上皮浮腫,実質浮腫の消失を認める.CI症例現病歴:2016年の夏期,草刈り中に右眼に土が飛入した後,徐々に霧視,充血,疼痛,視力低下が進行し,受傷から患者:63歳,男性.約C2週後に当院を受診した.主訴:右眼の視力低下.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.7C×cyl.3.0DAx70°),左既往歴:内科的基礎疾患はなく,定期的内服はない.右眼眼C1.0(1.5×+0.50D(cyl.1.5DAx100°)であった.右眼ヘルペス性角膜実質炎にて当院外来通院.には結膜の充血,角膜傍中心部に膿瘍を形成する角膜潰瘍,表1分離菌の薬剤感受性試験結果Nocardiaasteroides分離株コアグラーゼ陰性CStaphylococcus分離株抗菌薬CMIC判定CMIC判定CcefmenoximeC2C8CRCceftriaxone>2CtobramycinCvancomycinCerythromycinCmoxi.oxacinC128C128C18CRCRC64C2C>6C4C64CRCSCRCRCgati.oxacinClevo.oxacinC8C64CR128C>C128CRCRClinezolid<2CS<2CSCimipenemminocyclinC<C0.25C4CSSC<2C8CSCRMIC:minimuminhibitoryconcentration(μg/ml).S:susceptible.R:resistant.潰瘍周辺部の淡い浸潤巣を(図1a~c),前房内に軽度の炎症細胞を認めた.角膜知覚は右眼C20Cmm,左眼C60Cmmと右眼で低下していた.チェックメイトCRヘルペスアイ(わかもと)を用いたイムノクロマト法および,ヘルペス(1・2)FA「生研」,VZV-FA「生研」(デンカ生研)を用いた蛍光抗体法で,単純ヘルペスウイルスC1型・2型,水痘帯状疱疹ウイルス抗原は陰性であった.超音波CBモード断層検査では後眼部の異常は指摘できなかった.経過:所見から感染性角膜炎を疑い,角膜擦過物の塗抹検鏡と培養検査を行った.塗抹標本のグラム染色ではグラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認めた(図1d).ファンギフローラ染色では真菌は検出せず,放線菌群細菌とグラム陽性球菌による複合感染と診断し,セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンのC1時間毎点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の就寝前C1回,ST合剤内服を開始した.上記点眼を開始するも角膜潰瘍は改善しなかったため,第4病日に再度角膜擦過を行った.塗抹検鏡でグラム陽性球菌はほとんどみられなくなったが,放線菌群菌体は依然として多数残存していた.再度,問診を行ったところ,右眼受傷後に自己判断で手持ちのCLVFXを点眼し,LVFXがなくなり,症状が悪化したため当院を受診したという事実が判明した.同日よりC1.5%CLVFXの毎時点眼を追加後,徐々に潰瘍底は浅くなり,潰瘍周辺部の浸潤巣も消退傾向を認めた.初診時の擦過検体から,Nocardiaasteroidesとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaph-ylococcus:CNS)が分離された.LVFXの最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)は両菌とも高値であったが,点眼追加後に角膜所見が改善していることから点眼継続とした(表1).第C27病日には上皮欠損の消失を認めたが,結膜充血,実質浮腫,上皮浮腫は遷延していた.第40病日には実質浮腫,上皮浮腫により右眼視力C20Ccm指数弁と低下したが(図1e),角膜細胞浸潤は軽微であり感染は終息していると考え,消炎を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼C4回を追加した.点眼追加後に実質浮腫,上皮浮腫の消退傾向を認め,第C54病日には右眼視力C0.06(0.3C×.5.0D)と改善を認めた(図1f).発症後C9カ月が経過し,角膜病巣3.0D)で角膜炎の再燃C×.5p.は瘢痕化し,右眼視力0.3p(0はなく経過している.CII考按本症例は,角膜へルペスの既往があるものの,全身的な基礎疾患のない成人男性の右眼に,土が飛入した後に発症した細菌性角膜炎のC1例である.角膜病変の擦過標本では,放線菌群の菌とグラム陽性球菌を検出し,細菌培養ではCN.Caster-oidesとCCNSが分離され,当初はこの両者の複合感染による角膜炎と診断した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼と軟膏,ST合剤の内服により,第C4病日にはグラム陽性球菌はほとんど消失するも,角膜所見はほとんど改善せず,塗抹でも多数の放線菌の残存を認め,角膜病変の主たる起因菌はノカルジアと判断した.ノカルジア分離株はCLVFX高度耐性であったが,病歴より効果があると判断しCLVFXの点眼を開始,潰瘍は縮小した.ノカルジア角膜炎は植物との接触を伴う外傷3,5),コンタクトレンズ装用4),角膜屈折矯正手術2,10)に関連した症例が報告されている.本例では,農作業中の土の飛入が発症の契機となっているが,角膜ヘルペスによる角膜知覚低下のため外傷を認識していなかった可能性もある.これまで報告されているノカルジア角膜炎の眼所見は,上皮欠損を伴うリース状,斑状の角膜細胞浸潤を呈し,真菌性角膜炎に類似しているため,真菌性角膜炎として治療が開始されていた症例が多い1,3,5,8).本例でも草刈り後に発生しており,塗微生物学的検査をもし行わなければ,真菌性角膜炎として治療されてしまう可能性があった.角膜病変の診断と治療においては,微生物学的検査,とくに塗抹検査が重要である.ノカルジア角膜炎を引き起こすノカルジア属細菌は複数報告されているが,とくにCN.asteroidesはノカルジア角膜炎のC19.93%で分離され,原因菌種として占める割合が大きい1,6,7,9).しかし,N.asteroidesの薬剤感受性試験で,ペニシリン系,セファロスポリン系,ニューキノロン系,ST合剤に対して,株間で感受性のばらつきが大きく,N.Casteroi-desは薬剤感受性結果に基づき,さらに細分類されている11).本例の分離株は感受性検査でリネゾリド・イミペネムに感受性を有し,フルオロキノロンに耐性を示したことより,狭義のCN.asteroidesあるいはCN.novaに近い菌種と考えられる.本症例では,臨床的に有効性が期待されたセフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼では角膜病変は改善せず,高度耐性と判定されたCLVFX点眼が有効であった.わが国の既報においても,薬剤感受性試験で有効性が期待されていた抗菌薬で角膜所見が改善せず,点眼変更を余儀なくされた症例が報告されている3,5).薬剤感受性試験と臨床経過の乖離の原因として,Sridharらは培地のCpHや寒天の種類による変化が一因であると考察している7).また,眼科領域の感染症治療では,抗菌点眼薬が全身投与と比較し非常に高濃度であるため,感受性検査で耐性を示すにもかかわらず臨床的に有効性を示す可能性が指摘されている12,13).感染症の治療では,臨床所見や検鏡の結果から起因菌を類推し,効果があると考えられる抗菌薬を投与するCempirictherapyから開始し,起因菌の同定後は,薬剤感受性結果に基づき,抗菌薬を変更するspeci.ctherapyを行うことが一般的である.しかし,眼科領域では,先に述べたように高濃度製剤を局所投与することより,本例のように臨床上の効果と薬剤感受性試験の結果が乖離することも多い.分離株のCMICのみを根拠として抗菌薬を変更するのでなく,自覚症状や角膜所見の変化を考慮し,抗菌薬変更の必要性について総合的に判断する必要がある.また本例では,実質混濁,角膜上皮浮腫の遷延に対して,感染が終息した後にフルオロメトロンの点眼を追加した.角膜感染症に対するステロイド点眼の併用は,実質融解や新生血管の抑制による角膜混濁の軽減といった利点がある一方,上皮化の抑制や感染の増悪といった問題点がある.細菌性角膜炎に対するステロイド点眼併用のランダム化比較試験では,ノカルジア角膜炎に対する初期からのステロイド点眼の併用は最終的な角膜混濁のサイズを有意に増大させ,視力改善にも関連しない一方,ノカルジア以外の細菌性角膜炎では,ステロイド点眼の併用は最終視力を有意に改善させ,角膜混濁の増加も認めないと報告されている9,14).したがって,ノカルジア角膜炎においては通常の細菌性角膜炎のように,初期からのステロイド点眼の併用を行うことは好ましくないと思われる.しかし,本報告のように感染が終息したと判断し,消炎を目的にステロイドを点眼し,角膜浸潤,実質浮腫の改善を認めたノカルジア角膜炎の報告もあり3),角膜所見の悪化に十分注意する必要はあるものの,治療の終盤に消炎を目的にステロイド点眼を使用することは瘢痕の拡大を防ぐ点で有効である可能性がある.CIII結語今回,分離株の薬剤感受性試験では耐性であったCLVFXが著効したノカルジア角膜炎のC1例を経験した.ノカルジア角膜炎では,分離株の薬剤感受性試験の結果と臨床的な薬剤有効性に乖離がみられることがあり,抗菌薬選択に際しては感受性試験の結果だけで判断せず,注意深く臨床所見を観察し,総合的に判断することが重要である.文献1)DeCroosFC,GargP,ReddyAKetal:Optimizingdiagno-sisCandCmanagementCofCNocardiaCkeratitis,Cscleritis,Candendophthalmitis:11-yearmicrobialandclinicaloverview.OphthalmologyC118:1193-1200,C20112)LalithaP,SrinivasanM,RajaramanRetal:NocardiaCker-atitis:ClinicalCcourseCandCe.ectCofCcorticosteroids.CAmJOphthalmolC154:934-939,C20123)菅井哲也,竹林宏,塩田洋:ノカルジアによる角膜潰瘍の1例.眼臨C91:1708-1710,C19974)竹内弘子,近間泰一郎,西田輝夫:ノカルジアによる角膜放線菌感染症のC1例.眼科C41:301-304,C19995)越智理恵,鈴木崇,木村由衣ほか:NocardiaCasteroidesによる角膜炎のC1例.臨眼C60:379-382,C20066)FaramarziA,FeiziS,JavadiMAetal:BilateralCNocardiaCkeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomy.CJCOphthalmicCVisResC7:162-166,C20067)SridharMS,SharmaS,ReddyMKetal:Clinicomicrobiol-igicalCreviewCofCNocardiaCkeratitis.CCorneaC17:17-22,C19988)SridharMS,SharmaS,GargPetal:Treatmentandout-comeofCNocardiaCkeratitis.CorneaC20:458-462,C20019)PatelNR,ReidyJJ,Gonzalez-FernandezF:Nocardiaker-atitisCafterClaserCinCsitukeratomileusis:clinicopathologicCcorrelation.JCataractRefractSurgC31:2012-2015,C200510)LalithaCP,CTiwariCM,CPrajnaCNVCetal:NocardiaCKerati-tis;species,CdrugCsensitivities,CandCclinicalCcorrelation.CCorneaC26:255-259,C200711)Brown-ElliottCBA,CBrownCJM,CConvilleCPSCetal:ClinicalCandClaboratoryCfeaturesCofCtheCNocardiaCspp.CbasedConCcurrentmoleculartaxonomy.ClinMicrobiolRevC19:259-282,C200612)AiharaM,MiyanagaM,MinamiKetal:AcomparisonofC.uoroquinoloneCpenetrationCintoChumanCconjunctivalCtis-sue.JOculPharmacolTherC24:587-591,C200814)SrinivasanCM,CMascarenhasCJ,CRajaramanCRCetal:The13)TouN,NejimaR,IkedaYetal:Clinicalutilityofantimi-steroidsCforCcornealCulcerstrial(SCUT):SecondaryC12-crobialCsusceptibilityCmeasurementCplateCcoveringCformu-monthCclinicalCoutcomesCofCaCrandomizedCcontrolledCtrial.ClatedCconcentrationsCofCvariousCophthalmicCantimicrobialCAmJOphthalmolC157:327-333,C2014Cdrugs.ClinOphthalmolC10:2251-2257,C2016***