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白内障術後眼内炎由来コアグラーゼ陰性ブドウ球菌12株の細菌学的特徴

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1776.1780,2017c白内障術後眼内炎由来コアグラーゼ陰性ブドウ球菌C12株の細菌学的特徴鳥飼智彦*1鈴木崇*1,2宮本仁志*3白石敦*1*1愛媛大学医学部眼科学教室*2いしづち眼科*3愛媛大学病院検査部CBacteriologicalPro.leofCoagulase-negativeStaphylococciIsolatedfromEndophthalmitisTomohikoTorikai1),TakashiSuzuki1,2),HitoshiMiyamoto3)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)IshizuchiEyeClinic,3)ClinicalLaboratory,EhimeUniversityHospital2003.2014年まで愛媛大学病院で治療を行った白内障術後眼内炎症例の眼内液から分離されたコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)のC12株の細菌学的特徴について調査した.MALDICTOF-MSを用いた菌種同定,DiversiLabsystem(DL)による遺伝子相同性,ディスク拡散法,微量液体希釈法を用いた薬剤感受性,バイオフィルム形成能をプレート法により確認した.分離CCNS株はCS.Cepidermidis(9株),S.Chominis(2株),S.Cwarneri(1株)と同定された.DLによる解析では,2組(1組C2株)においてC95%以上の遺伝子相同性を認めた.すべての分離株はメチシリンとセフタジジムに耐性であり,レボフロキサシンにはC3株が中間耐性,6株が耐性であった.分離株はすべてバンコマイシン,リネゾリド,ミノサイクリンに感受性があった.バイオフィルム形成能をC12株中C7株で認めた.WeCinvestigatedCtheCmicrobiologicalCpro.lesCofC12Ccoagulase-negativeCstaphylococci(CNS)isolatesCtakenCfromCaqueousorvitreoushumorinpatientswithpostoperativeendophthalmitisbetween2003and2014.Toidentifytheisolates,Cmatrix-assistedClaserCdesorptionCionizationCtime-of-.ightCmassCspectrometry(MALDI-TOFCMS)wasCper-formed.CIsolatesCwereCtypedCusingCtheCDiversiLabCtypingCsystem(DL);CdrugCsusceptibilityCtestCwasCcheckedCbyCagardiscandmicrodilutionmethods.Bio.lmformationwascheckedusingmicrotiterplateassay.Theisolateswereidenti.edasS.epidermidis(9strains),S.hominis(2strains)andS.warneri(1strain).DLdemonstratedthattwopairCofCS.CepidermidisCisolatesChadCgeneticCsimilarityCofCmoreCthanC95%.CAllCisolatesCwereCresistantCtoCmethicillinandCceftazidime,CandCwereCsusceptibleCtoCvancomycin,ClinezolidCandCminocycline;3CandC6CisolatesCwereCintermedi-atelyresistantandresistanttolevo.oxacin,respectively.Ofthe12isolates,11hadbio.lm-formingability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(12):1776.1780,C2017〕Keywords:白内障術後眼内炎,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,遺伝子相同性,薬剤感受性,バイオフィルム形成能.postoperativeendophthalmitis,coagulase-negativestaphylococci,geneticallysimilarity,drugsusceptibility,Cbio.lmformation.Cはじめに白内障術後眼内炎は発症頻度こそ低いものの発症すると,高度の視力低下や失明の可能性もあるため,もっとも重篤な術後合併症であると考えられている.そのため,迅速に診断し,早期に治療を開始することが望ましい.白内障術後眼内炎は,発症時期によって,術後数日.1週間以内に発症する急性(亜急性)眼内炎と術後C1カ月以上後に発症する遅発性眼内炎に分けられる.急性(亜急性)眼内炎は,著明な前房内フィブリン形成,前房蓄膿,硝子体混濁など急性の炎症反応を生じるのに対して,遅発性眼内炎では軽微な前房炎症細胞,角膜後面沈着物,水晶体.混濁を生じることなど比較的軽微な炎症所見を呈することが多い.急性(亜急性)眼内炎の原因菌としてはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCstaphylococci:CNS),黄色ブドウ球菌,腸球菌,〔別刷請求先〕鳥飼智彦:〒791-0204愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TomohikoTorikai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0204,JAPAN1776(138)連鎖球菌などのグラム陽性球菌が,遅発性眼内炎の起因菌としてはCPropiobacteriumCacnesが多いとされ,原因菌によって臨床所見ならび術後から発症までの日数,視力予後は異なることが考えられている.そのため,眼内炎の治療においては正確な原因菌の同定が重要であり,原因菌に対してもっとも抗菌効果が高い抗菌薬を使用して治療することが望ましい.CNSはC31種あるが,ヒトから分離されるCCNSはC14種あり,なかでも検出される頻度が高いのがCS.epidermidisである.CNSの種の同定は,生化学性状を用いて行われるが,一般的には時間やコストもかかるため,種の同定まで行わないことも多い.一方,質量分析によって細菌の蛋白質重量を測定して,細菌を同定する手法が開発され,臨床検査室にも導入されつつある.今回,菌種同定に使用したCMALDI-TOFCMSは,質量測定の対象物にレーザー照射し,この衝撃に対しても対象物を壊すことなく真空管の中を飛行させ,その飛行時間の違いをもって対象物の質量を測定可能とする方法である.培地上のコロニーから数分で菌腫を同定することが可能であり,16SrRNAシークエンスを用いた同定法に限りなく近い精度も得られる.Mellmannらはブドウ糖非発酵菌対して,MALDI-TOFCMSによる菌種同定法と16SrRNAシークエンスを用いた菌種同定法を行い比較検討した結果,78株中C67株(85.9%)で属もしくは種レベルまで同定可能であったと報告した1).CNS臨床株のなかにはバイオフィルムを産生する株が存在する.バイオフィルムを産生すると眼内レンズなどのマテリアルに強固に接着し,抗菌薬や免疫細胞の攻撃から回避することが可能となる.とくにブドウ球菌においては,PIA(polysaccharideCintercellularadhesion)とよばれるCE-1,6-N-アセチルグルコサミン多糖を産生することによって生体内ポリマーに付着してバイオフィルムを形成することが知られている2).そのため,眼内炎において,原因であるCCNSがバイオフィルム形成能を有するかは治療反応にも影響する可能性がある.現在,術後眼内炎の治療としては,抗菌薬投与とともに,前房洗浄,硝子体切除,レンズ抜去などの外科的加療を迅速に行うことが望まれる.使用される抗菌薬としては,グラム陽性球菌からグラム陰性桿菌まで抗菌スペクトラルをカバーする目的にバンコマイシン,セフタジジムの眼内投与が使用されることが多く,CNSによる術後眼内炎の治療反応性はよいとされる3).しかしながら,CNSのメチシリン耐性を指摘する報告もあり,抗菌薬の選択には検出された眼内炎分離株の薬剤感受性や細菌学特徴を考慮する必要がある3,4).さらに,耐性菌の場合,遺伝子学的に類似した株が拡散することも多く,遺伝子学的類似性を確認することも重要と考えられる.今回筆者らは,白内障術後眼内炎症例から分離されたCNSの細菌学的特徴(菌種同定,遺伝子相同性,薬剤感受性,バイオフィルムの形成能)について調査した.CI対象および方法1.臨床分離株2003.2014年までに愛媛大学病院で治療した白内障術後眼内炎症例の眼内液から分離されたCCNSのC12株を使用した.C2.菌.種.同.定CNSの菌種の同定をCMALDI-TOFCMS(matrixCassistedClaserCdesorption/ionization-timeCofC.ightCmassCspectrome-try)(Bruker社)を用いて質量分析を用いて行った.C3.遺伝子相同性菌株間のゲノム配列の相同性を確認するためCDiversiLabCmicrobialCgenotypingCsystem(以下,DiversiLab,CBioMereiux社)を用いた.菌のCDNAを抽出後,キットを使用しCrepeti-tive-sequenced-basedCpolymeraseCchainCreaction(rep-PCR)増幅を行い,Ajilent2100バイオアナライザーを用いてCDNALabChipによる増幅断片の分離と検出を行った.検出された電気泳動結果はCDiversiLabソフトウェア(version3.4)を用い,Pearson相関係数による系統樹を作成してクラスター分類を行った.C4.薬剤感受性CNSに対するメチシリン耐性の判定にはCPCR法にてmecA遺伝子を検出し,mecA遺伝子保有CCNSをCmethicillinresistantCCNS(MR-CNS),mecA非保有株CCNSをCmethi-cillin-susceptibleCCNS(MS-CNS)と定義した.薬剤感受性の判定には,ディスク拡散法,微量液体希釈法を用いた.オキサシリン(MPIPC),セフォキシチン(CFX)のC2薬剤においてはディスク拡散法を用い,セフタジジム(CAZ),イミペネム(IPM),アルベカシン(ABK),バンコマイシン(VCM),テイコプラニン(TEIC),リネゾリド(LZD),ミノサイクリン(MINO),レボフロキサシン(LVFX),リファンピシン(RFP),サルファメトキサゾール,トリメトプリム合剤(ST)のC10薬剤においては微量液体希釈法を用い,ClinicalCandCLaboratoryCStandardsCInstitute(CLSI)のブレークポイントに準じて,耐性(R),中間耐性(I),感性(S)の三つに分類した.C5.バイオフィルム産生能バイオフィルム産生能の定性をコンゴレッド寒天培地法にて行った.Brainheartinfusionbroth(37Cg/l),スクロース(36Cg/l),Agar(15Cg/l),コンゴレッド色素(0.8Cg/l)の構成でコンゴレッド寒天培地を作製し,作製した培地上に菌株を塗布し,37℃でC24時間培養したのちに,室温で一晩培養した.バイオフィルム陽性の株は,培地上で黒色のコロニーを形成し,バイオフィルム陰性の株は赤色のコロニーを形成することにより,バイオフィルム産生能を定性的に判定した5).バイオフィルム産生能の定量は,マイクロプレート法で行った.まず,細菌株をC0.25%グルコース添加CTripcaseSoyCBroth(TSB)10Cmlに植菌し,37℃にて一晩,揺動培養を行った.この培養液にグルコースを添加したCTSBでC100倍に希釈し,96ウエルマイクロタイタープレートに分注した後に,好気的環境下C37℃で一晩静置培養した.ウエルを蒸留水でC3回洗浄し,0.2%サフラニンで染色したのちに吸光度(570Cnm)の測定を行い,バイオフィルム形成量を定量化した6).Christensenらの報告に従い,カットオフ値をC0.5として,それ以上を陽性と定義した7).CII結果1.菌.種.同.定MALDI-TOF/MSによる質量分析にて菌種同定を行ったところ,12株中C9株(75%)がCS.Cepidermidisであり,ついでCS.hominisが2株,S.warneriがC1株検出された(表1).C2.遺伝子相同性S.Cepidermidisと同定されたC9株を対象にCrep-PCRによる遺伝子相同性解析を実施した結果を図1に示す.遺伝学的系統樹は塩基配列を二つずつ総当たりで比較,スコアリングしたうえで,もっとも近縁な配列から逐次的に配列される.パーセンテージが高ければ高いほど比較した二つの菌株の塩基配列は遺伝子相同性が高いといえる.眼内炎発症時期が異なるにもかかわらず,1組C2株のC2組でC95%以上の遺伝子相同性を示した.また,90%以上の遺伝子相同性を示したものもC1組C5株,1組3株のC2組あった.C3.薬剤感受性菌種ごとの薬剤感受性を表2に示す.9株(75%)がCmecA遺伝子を保有しており,全体のC75%がCMR-CNSであった.Cbラクタム系薬剤では,ペニシリン系のCMPIPCがC9株(75%),セフェム系のCCFXがC7株(58%),CAZはすべての株において耐性を認め,とくに術後眼内炎で広く用いられているCCAZで高い耐性を認めた.また,カルバペネム系であるIPMはすべての株で感性であった.Cbラクタム系薬剤以外の薬剤では,術後眼内炎治療で用いられるCVCMのほか,アミノグリコシド系のCABK,オキサゾリゾノン系のCLZD,テトラサイクリン系のCMINO,RNAポリメラーゼ阻害薬のCRFP,サルファ剤の合剤であるCSTはすべての株において感性であった.グリコペプチド系のCTEICはC5株(42%)で耐性であ表1菌種同定菌種株数割合(%)CS.epidemidis9株75%CS.hominis2株17%CS.warneri1株8%合計割合(%)図1白内障術後眼内炎より分離されたS.epidermidis9株の遺伝子相同性95%以上の相同性を認めた場合,遺伝子の類似性が高いと考えられる.表2菌種ごとの薬剤感受性菌名CMecACMPIPCCCFXCCAZCIPMCABKCVCMCTEICCLZDCMINOCLVFXCRFPCSTCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCSCRCSCSCSCSCSCSCICSCSCS.epidermidisC.SCSCRCSCSCSCRCSCSCSCSCSCS.epidermidis+RCSCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCRCSCSCS.hominis+RCRCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCRCSCSCS.hominisC.SCSCRCSCSCSCSCSCSCSCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCICSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCICSCSCS.warneriC.SCSCRCSCSCSCSCSCSCSCSCS※CLSIのブレークポイントに準じて,R:耐性,I:中間,S:感性.MecA:mecA遺伝子,MPIPC:oxacillin,CCFX:cefoxitin,CCAZ:ceftazidime,CIPM:imipenem,CABK:arbekacin,CVCM:vancomycin,TEIC:teicoplanin,LZD:linezolid,MINO:minocycline,LVFX:levo.oxacin,ST:sulfamethoxazole-trimethoprim.バイオフィルム形成量(OD570nm)1.210.80.60.40.201362784926136567189029891,1031,1041,1411,167CNS12株図2CNS分離株のバイオフィルム産生能分離されたCCNS株のバイオフィルム産生の定量を示す.カットオフ値をC0.5と定義した.0.5以上はC7株認められた.Cったが,術前,術後抗菌点眼で広く用いられているCLVFXはC9株(75%)において耐性もしくは中間耐性であり高い耐性率を認めた.C4.バイオフィルム産生能コンゴレッド寒天培地法による定性的検討では,12株中11株が黒色コロニーを認め,バイオフィルム産生能を認めた.さらに,マイクロプレート法を用いた定量的検討では,吸光度C570Cnmの平均値はC0.5989C±0.0547であった.バイオフィルム産生量C0.5をカットオフ値として産生能を検討すると,0.5以上を示したものがC12株中C7株であり,吸光度の平均値はC0.7096C±0.0727であった(図2).CIII考按わが国における白内障術後細菌性眼内炎の原因菌としてCNSがもっとも多く,日本眼科手術学会眼内炎スタディグループの報告によると約半数近くを占めるとされる4).当院においてもC2004.2013年のC10年間で眼内炎症例からC15株細菌が分離されたうちC12株(80%)がCCNSであった.術後眼内炎から同定されたCCNSの内訳に関して,既報でCS.Cepi-dermidisが約C8割を占めている3).今回,筆者らが行った検討でもCS.CepidermidisがC9株(75%)と同様に多く検出されたが,数は少ないながらも,S.Cepidermidis以外の株(S.hominis2株,S.warneri1株)が検出された.術後眼内炎の原因菌の由来に関しては,①患者の結膜.常在細菌叢,②手術器具や術者の手指,③手術室の浮遊細菌などおもに三つの可能性が考えられる.Speakerらは術後眼内炎原因菌と僚眼や鼻腔から分離した常在菌の遺伝子を比較検討し,17例中C14例(82%)で遺伝子相同性があったとし,結膜.常在細菌叢が術後眼内炎のプロフィールをよく反映していることを報告しており8),患者の結膜.常在細菌が術中もしくは術後に眼内に感染したと推測される.丸山らは,白内障術前患者における結膜.常在菌叢を調査し,CNSが1,012検体中C398検体(39.3%)とCCorynebacteriumについで高い検出率を示した9).さらに,白内障術前の結膜.分離株に関する星らの検討では,CNS366株のうちCMR-CNSは136株(37%)であり,抗菌薬点眼として使用頻度が高いLVFX耐性はC366株中C92株(25%)であった.また,MR-CNSではCMS-CNSと比較してフルオロキノロン耐性化率が有意に高かった10).すなわち,白内障術前患者の結膜.においてCCNSの保菌率は高く,メチシリン耐性やCLVFX耐性をもった薬剤耐性株も半数近くに認められると考えられる.今回の検討では前述のように白内障術後眼内炎の原因菌としてCS.Cepidermidisを中心としたCCNSが多く検出され,MR-CNSはC9株(75%),LVFX耐性はC9株(75%)と既報の白内障術前結膜.から分離した株に関する検討と比較しても,薬剤耐性株の割合を多く認めた.さらに,発症時期が菌株によって大きく異なるにもかかわらず,遺伝子相同性の高い株を多く認めた.遺伝子相同性が高くなる原因の一つに,薬剤耐性獲得が考えられる.ブドウ球菌はCgryA,parCとよばれるキノロン耐性決定領(quinolone-resistance-determin-ing-region:QRDR)を段階的に変異させることによってキノロン耐性を獲得することや,ブドウ球菌カセット染色体(StaphylococcalCcassetteCchromosomeCmec:SCCmec)とよばれる外来性のCDNA断片を挿入することでメチシリン耐性を獲得することが知られている.そのため,抗菌薬点眼使用によって多様な遺伝型をもった結膜.常在菌叢における耐性菌選択圧が増大し,薬剤耐性遺伝子を高確率に含む分子疫学的に近縁な株が術後眼内炎起炎菌株から多く認められた理由の一つであると考える.すなわち,抗菌点眼薬から回避した耐性CCNSが眼内炎を生じた可能性が高い.Suzukiらは健常者の顔面皮膚と結膜.よりCS.epidermidisのみを分離培養し,それぞれについてバイオフィルム形成能をCicaA遺伝子の検出率およびコンゴレッド寒天培地法,マイクロプレート法にて比較したところ,結膜.より分離培養された株のバイオフィルム産生能が有意に高かったと報告した11).その理由として,涙液中にはライソゾームやラクトフェリンなどの抗微生物ペプチドが豊富に存在しており,結膜.常在菌がバイオフィルム産生を行うことでその防御システムから逃れているのではないかと推測している11).今回の検討でもバイオフィルム産生株が多く認められた.バイオフィルム産生能を有する結膜常在CCNSが,バイオフィルム形成することで抗菌薬や消毒薬から回避し,術後眼内炎を発症したと考えられる.現在,白内障術後急性眼内炎が疑われた場合の早期治療として抗菌薬の硝子体注射があり,薬剤耐性菌を含むグラム陽性球菌に効果のあるバンコマイシンとグラム陰性菌にスペクトラムをもつセフタジジムとを組み合わせて投与することが多い.今回,術後眼内炎の原因菌として頻度の高いCCNSに対してバンコマイシンはすべて感受性があり,セフタジジムはすべての株で耐性があった.CNS原因の眼内炎症例に対して,バンコマイシンは治療効果をもつも,セフタジジムの治療効果はそれほど高くない可能性があると考えられた.一方,カルバペネム系のイミペネムはすべての株に感受性があった.術後眼内炎から分離培養されたCCNSに関する検討で,イミペネムは半数程度の株に効果があったとする報告12)もあり,さらなる検討は必要ではあるが,イミペネムはCCNSに対してある一定の効果はあると考えられる.イミペネムはセフタジジム同様グラム陰性菌にもスペクトラムをもつことが知られており,感染性眼内炎治療において有用である可能性が高いと考えられた.しかしながら,眼内投与における網膜毒性においては検討を重ねる必要がある.今回の検討で白内障術後眼内炎から分離されたCCNSにおいては薬剤耐性化が進んでおり,またバイオフィルム産生能も高いことがわかった.細菌学的特徴をさらに検討し,有効な予防法,治療法を構築する必要があると考えられた.文献1)MellmannA,CloudJ,MaierTetal:Evaluationofmatrix-assistedClaserCdesorptionCionization-time-of-.ightCmassCspectrometryCinCcomparisonCtoC16SCrRNACgeneCsequenc-ingCforCspeciesCidenti.cationCofCnonfermentingCbacteria.CJClinMicrobiolC46:1946-1954,C20082)RohdeH,FrankenbergerS,ZahringerUetal:Structure,functionCandCcontributionCofCpolysaccharideCintercellularadhesin(PIA)toCStaphylococcusCepidermidisCbio.lmCfor-mationCandCpathogenesisCofCbiomaterial-associatedCinfec-tions.EurJCellBiolC89:103-111,C20103)EndopthalmitisCVitrectomyCStudyCGroup:ResultsCofCtheCEndophthalmitisViterctomyStudy.ArandomizedtrialofimmedeateCvitrectomyCandCofCintravitreousCantibioticsCforCthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmolC113:1479-1496,C19954)日本眼科手術学会眼内炎スタディグループ:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,C20065)ArciolaCR,CampocciaD,GamberiniSetal:DetectionofslimeCproductionCbyCmeansCofCanCoptimizedCCongoCredCagarplatetestbasedonacolourimetricscaleinStaphylo-coccusepidelmidisclinicalisolatesgenotypedforicalocus.BiomaterialsC23:4233-4239,C20026)PedersenCK:MethodCforCstudyingCmicrobialCbio.lmsCinC.owing-watersystems.ApplEnvironMicrobialC43:6-13,C19827)ChristensenCGD,CSimpsonCWA,CYoungerCJJCetCal:Adher-enceCofCcoagulase-negativeCstaphylococciCtoCplasticCtissuecultureplates:aquantitativemodelfortheadherenceofstaphylococciCtoCmedicalCdevices.CJCClinCMiclobiolC22:C996-1006,C19858)SpeakerCMG,CMilchCFA,CShahCMKCetCal:RoleCofCexternalCbacterialC.oraCinCtheCpathogenesisCofCacuteCpostoperativeCendophthalmitis.OphthalmologyC98:639-649,C19919)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜.内常在菌.あたらしい眼科C18:646-650,C200110)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科C27:512-517,C201011)SuzukiT,UnoT,OhashiYetal:PrevalenceofStaphyloC-coccusCepidermidisCstrainsCwithCbio.lm-formingCabilityCinCisolatesCfromCconjunctivaCandCfacialCskin.CAmCJCOphthal-molC140:844-850,C200512)ChiquetC,MaurinM,AltayracJetal:CorrelationbetweenclinicalCdataCandCantibioticCresistanceCinCcoagulase-nega-tiveStaphylococcusspeciesisolatedfrom68patientswithacuteCpost-cataractCendophthalmitis.CClinCMicrobiolCInfectC21:592.Ce1-8,C2015