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アレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(83)15530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15531556,2008cはじめにアレルギー性結膜炎は,アレルゲンが結膜に侵入にすることに起因するⅠ型アレルギー反応である.免疫グロブリンE(IgE)抗体を介してマスト細胞からメディエーター(ヒスタミン,セロトニン,ロイコトリエンなど)が遊離することによりひき起こされる一連の炎症性疾患である.日本における〔別刷請求先〕小木曽光洋:〒108-8329東京都港区三田1-4-3国際医療福祉大学三田病院眼科Reprintrequests:TeruhiroOgiso,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital,1-4-3Mita,Minato-ku,Tokyo108-8329,JAPANアレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─小木曽光洋高野洋之川島晋一藤島浩国際医療福祉大学三田病院眼科ClinicalEcacyofOlopatadineHydrochlorideOphthalmicSolutionforAllergicConjunctivitis:ComparisonWithCombinationTherapyUsingAnti-HistamineandMastCellStabilizerOphthalmicSolutionsTeruhiroOgiso,YojiTakano,ShinichiKawashimaandHiroshiFujishimaDepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital2006年に発売された塩酸オロパタジン点眼液(パタノールR)にはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが示されている.今回,筆者らは,塩酸オロパタジン点眼液のアレルギー性結膜炎に対する臨床効果をH1拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬の併用療法と比較検討したので報告する.眼痒感が中等度以上のアレルギー性結膜炎の患者27例を対象として,塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群と塩酸レボカバスチン(リボスチンR)点眼液・クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)点眼液の併用投与群に無作為に分け,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回,7日間投与し,経時的に両群比較検討した.両群ともに自覚症状,他覚所見の有意な改善を認めた.点眼1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.また,両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.塩酸オロパタジン点眼液は早期に2つの作用で痒を抑制していると考えられた.Olopatadineophthalmicsolutionreportedlyhasbothanti-histamine-andmastcell-stabilizingactions.Wecom-paredtheclinicalecacyofolopatadineophthalmicsolutionforallergicconjunctivitiswithacombinationofH1receptorantagonist-andmastcell-stabilizingeyedrops.Subjectsofthisprospectiverandomizedclinicalstudycom-prised27patientswithallergicconjunctivitiswithmorethanmoderateitching.Thesubjectsweredividedintotwogroups:onegroupwasinstilledwitholopatadineophthalmicsolutionandarticialteardrops;theothergroupwasinstilledwithlevocabastineophthalmicsolutionandcromoglicateophthalmicsolution(fourdosesdaily,1-2drops/dose,for7days).Symptomsandclinicalsignsweresignicantlyimprovedinbothgroupsaftertreatment.At1dayaftercommencementoftreatment,olopatadinewasfoundtobemoreeectivethancombinationtherapyinreduc-ingitching.Nosignicantdierencesbetweenthegroupswereobservedinobjectivendings,comfortorsatisfac-tion.Exacerbationofcornealepitheliallesionswasnotobservedineithergroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15531556,2008〕Keywords:塩酸オロパタジン,アレルギー性結膜炎,ヒスタミンH1受容体拮抗作用,メディエーター遊離抑制作用,併用療法.olopatadinehydrochloride,allergicconjunctivitis,H1-selectivehistamineantagonist,anti-allergicagent,combinationtherapy.———————————————————————-Page21554あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(84)アレルギー性結膜炎の罹患率は疫学調査によると全人口の1520%と報告されている1).治療薬としては抗アレルギー薬とステロイド点眼薬が中心に用いられている.ステロイド点眼薬には即効性や強力な抗アレルギー作用があるが,眼圧上昇などの副作用の発現の危険性があるため,一般的には抗アレルギー点眼薬が第一選択として用いられる2).抗アレルギー点眼薬は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬に大別される.これまで日本で承認されているヒスタミンH1受容体拮抗薬は塩酸レボカバスチン(リボスチンR)とフマル酸ケトフェチン(ザジテンR)のみであったが,2006年10月に塩酸オロパタジン(パタノールR)が追加された.塩酸オロパタジンは選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用3),化学伝達物質遊離抑制作用4,5)の両作用を有するが,その経口薬であるアレロックR錠は日本では2001年より発売され,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,皮膚疾患に伴う痒に対して用いられている.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として,両作用を有するといわれている塩酸オロパタジン点眼液単剤治療とヒスタミンH1受容体拮抗薬/メディエーター遊離抑制薬の併用療法の臨床効果を比較検討したので報告する.I対象および方法本試験は飯田橋眼科クリニック,市川シャポー眼科,品川イーストクリニック,藤島眼科医院,谷津駅前あじさい眼科の5医療施設により実施された.1.対象中等度以上の眼痒感を有するアレルギー性結膜炎と診断される患者のうち,表1の基準を満たすものを対象とした.2.試験方法0.1%塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群(以下,P+A群)と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液・クロモグリク酸ナトリウム点眼液の併用投与群(以下,L+I群)の2群に,封筒法による無作為化を実施し,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回(朝・昼・夕および就寝前),7日間投与した.なお,試験期間中の副腎皮質ステロイド薬,非ステロイド性抗炎症薬,血管収縮薬,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬の使用は禁止とした.3.観察項目a.患者背景試験薬投与開始前に,患者の性別,年齢,合併症,既往歴,併用禁止薬の使用歴,眼手術歴について調査した.b.臨床症状第1回来院時(0日目)と第2回来院時(7日目)に他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害)および使用感(0=大変満足している10=全く満足してない),患者満足度(0=大変満足している10=全く満足してない)について評価した.c.アレルギー日記患者にアレルギー日記を配布し,毎日,痒感の程度,点眼状況を記録させ,7日後に回収した.d.統計・解析法他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害),使用感および満足度に関してはpairedt-testにて,眼痒感スコアに対してはmulti-variateanalysisにて解析を施行した.II結果1.対象患者の構成本試験では,38例(P+A群:20例,L+I群:18例)が登録され,1週間後に来院しなかった症例が9例(P+A群:3例,L+I群:6例)あった.再来院しなかった症例のうち,P+A群2例,L+I群3例ではアレルギー日記も回収できなかった.アレルギー日記回収症例は33例(P+A群:18例,L+I群:15例)で,プロトコール逸脱は3症例(P+A群:2例,L+I群:1例)であった.逸脱理由は全症例とも併用禁止薬を使用したためであった.2.患者背景表2に本試験の患者背景を示した.患者は年齢1980歳表1選択基準および除外基準[選択基準]1年齢:13歳以上2性別は問わない3全ての指導に従い,規定の来院日に来院できる患者4試験期間中に併用禁止薬の投与を中止できる患者5Ⅰ型アレルギー反応(結膜浸潤好酸球の同定,血清抗原特異的IgE測定,皮膚テスト)のいずれかが陽性の患者[除外基準」1アレルギー性結膜炎以外の疾患により,薬効評価に影響を及ぼす眼掻痒感および充血を有している患者2本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者3眼感染症(細菌,ウイルス又は真菌など),重症ドライアイ,再発性角膜びらんがある患者43カ月以内に持続性副腎皮質ステロイドの結膜下注射による治療を受けた患者53カ月以内にステロイド薬の全身投与を受けた患者6免疫療法(脱感作療法,変調療法など)を受けた患者7試験期間中に手術の予定がある患者8コンタクトレンズの装用を中止できない患者9妊婦,授乳婦10担当医師が試験参加は不適当と判断した患者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081555(85)で,アレルギー性結膜炎の原因はスギ花粉が23例,スギ花粉以外が7例であった.P+A群,L+I群の両群間において,性別,年齢,スギ花粉症の有無,合併症の有無で有意差は認めなかった.3.有効性他覚所見については点眼開始後7日目において,P+A群,L+I群の両群ともに,眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼瞼結膜浮腫(図1)のスコアを有意に改善したが,両群の間には有意な差は認めなかった.両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.点眼開始後7日目における点眼薬の使用感(図2),満足度(図3)は両群ともおおむね良好であったが,両群間において有意な差は認めなかった.眼痒感については,点眼開始後1日目においてP+A群がL+I群に比べ有意に眼痒感スコアを抑制した(図4).表2患者背景P+AL+ITestp値性別男性女性7959c2検定0.6540年齢(歳)20未満2029303940495059606970以上04701221231421U検定0.5935MinimumMaximum21801971平均±SD(歳)41.3±19.245.2±16.3アレルゲンスギ花粉非スギ花粉115122c2検定0.2731合併症アトピー性皮膚炎ドライアイ鼻側ポリープ100021c2検定0.1353**:p<0.01(vs.Baseline)*:p<0.05(vs.Baseline)Paired?-testMean±SD:眼瞼結膜充血P+A:眼瞼結膜充血L+I:眼球結膜充血P+A:眼球結膜充血L+I:眼球結膜浮腫P+A:眼球結膜浮腫L+I:角膜上皮障害P+A:角膜上皮障害L+I**********3210-1スコア0日目(n=16)(n=11)7日目(n=16)(n=11)P+AL+I図1投与後の各所見のスコアスコア+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図2点眼薬の使用感(0=大変満足している,10=全く満足していない)876543210スコアP+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図3点眼薬の満足度(0=大変満足している,10=全く満足していない)*:p<0.05(vs.L+I)Multi-variateanalysisMean±SD0-1-2-3-4-5-6-7-8-9スコアの変化量P+A(n=14)L+I(n=13)0日目(n=14)(n=13)1日目(n=14)(n=11)2日目(n=14)(n=11)3日目(n=14)(n=12)4日目(n=14)(n=11)5日目(n=14)(n=11)6日目(n=12)(n=10)7日目:P+A:L+I*図4眼痒感スコアの推移———————————————————————-Page41556あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(86)本試験中に両群とも副作用はみられなかった.III考察筆者らはすでにヒスタミンH1受容体拮抗薬単独よりもメディエーター遊離抑制薬との併用療法のほうが有意にアレルギー炎症を軽減することを報告している8).このことから両治療薬を同時に使用するほうがアレルギー性結膜炎に対しより効果的であると考えられる.塩酸オロパタジンにはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが非臨床試験において示されている.そこで,今回筆者らは両作用をもつ塩酸オロパタジン点眼液を投与した場合と,ヒスタミンH1受容体拮抗作用をもつ塩酸レボカバスチン点眼液およびメディエーター遊離抑制作用をもつクロモグリク酸ナトリウム点眼液を併用投与した場合において,臨床的に他覚所見,痒感,使用感,満足度について比較検討してみた.結果としては,他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.唯一,点眼開始後1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感を抑制した.眼痒感は三叉神経終末のヒスタミンH1受容体を介して伝達されるため,点眼開始後1日目においての痒感に対する効果の差は塩酸オロパタジンが塩酸レボカバスチンよりも多くのヒスタミンH1受容体に結合したためだと考えられる.実際,非臨床試験において塩酸オロパタジンはヒスタミン受容体のH1受容体選択性が塩酸レボカバスチンより高いことが示されている3).今回の試験では日本で承認されている濃度で実施したため,塩酸オロパタジンの濃度が0.1%であるのに対し塩酸レボカバスチンは0.025%であるため(米国では塩酸レボカバスチンは0.05%で承認され販売されている),両者の濃度の違いも効果に影響していると思われる.大野らは無症状期の花粉症患者を対象に0.1%塩酸オロパタジン点眼液と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液の有効性を結膜抗原誘発試験にて比較検討しているが,塩酸オロパタジン点眼のほうが塩酸レボカバスチン点眼よりも痒感の抑制に有効であり,点眼後のレスポンダーの割合も高いことを報告している.この塩酸オロパタジン点眼のレスポンダーの割合の高いことも,点眼開始後1日目における痒感に対する効果の差につながったと思われる.点眼開始後27日目において両群間において痒感に有意差が生じなかった.また,7日目における他覚所見でも両群間において有意差が認められなかった.非臨床試験において,塩酸オロパタジンは濃度依存性にヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制したり4),ヒト結膜上皮細胞からIL(インターロイキン)-6,IL-8の遊離を抑制したり10)することなどが示されており,これらのメディエーター遊離抑制作用ももつことが両群間において差が生じなかったことに関連していると思われた.今回の検討で点眼1日目において塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.痒みに対する即効性が期待される疾患において早期に有意差が出たことは,本剤が臨床的にも有用であることを示していると思われる.文献1)東こずえ,大野重昭:アレルギー性眼疾患.1概説.NEWMOOK眼科6,p1-5,金原出版,20032)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班業績集,日本眼科医会,19953)SharifNA,XuSX,YanniJM:Olopatadine(AL-4943A):ligandbindingandfunctionalstudiesonanovel,longact-ingH1-selectivehistamineantagonistandanti-allergicagentforuseinallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher12:401-407,19964)YanniJM,MillerST,GamacheDAetal:Comparativeeectsoftopicalocularanti-allergydrugsonhumancon-junctivalmastcells.AnnAllergy79:541-545,19975)CookEB,StahlJL,BarneyNPetal:OlopatadineinhibitsTNFareleasefromhumanconjunctivalmastcells.AnnAllergy84:504-508,20006)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20067)UchioE,KimuraR,MigitaHetal:Demographicaspectsofallergicoculardiseasesandevaluationofnewcriteriaforclinicalassessmentofocularallergy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:291-296,20088)FujishimaH,FukagawaK,TanakaMetal:TheeectofacombinedtherapywithahistamineH1antagonistandachemicalmediatorreleaseinhibitoronallergicconjunctivi-tis.Ophthalmologica222:232-239,20089)大野重昭,内尾英一,高村悦子ほか:日本人のアレルギー性結膜炎に対する0.1%塩酸オロパタジン点眼液の有効性と使用感の検討─0.025%塩酸レボカバスチン点眼液との比較─.臨眼61:251-255,200710)YanniJM,WeimerLK,SharifNAetal:Inhibitionofhis-tamine-inducedhumanconjunctivalepithelialcellresponsesbyocularallergydrugs.ArchOphthalmol117:643-647,1999***