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ブリモニジン点眼薬とブナゾシン点眼薬の多剤併用治療における追加効果の比較

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):735〜740,2016©ブリモニジン点眼薬とブナゾシン点眼薬の多剤併用治療における追加効果の比較中谷雄介*1杉山和久*2*1厚生連高岡病院眼科*2金沢大学眼科ComparisonofTopicalBrimonidineversusBunazosinHydrochlorideasAdjunctiveTherapyinPatientswithGlaucomaYusukeNakatani1)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:多剤治療中の緑内障眼に対しブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を投与し,眼圧下降効果についてプロスペクティブに検討した.対象および方法:プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,および炭酸脱水酵素阻害薬を単剤または多剤点眼中の60例84眼を対象に,ブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を無作為に追加投与し,1,2,3カ月後の眼圧について検討した.結果:ブリモニジン追加群(40眼),ブナゾシン追加群(44眼)とも追加前眼圧より有意に低下した(ブリモニジン:追加前14.7±3.5mmHg,3カ月後12.1±2.6mmHg,ブナゾシン:追加前14.8±4.3mmHg,3カ月後13.4±3.8mmHg).3剤併用例では,ブナゾシン群(16眼)では有意な低下はみられなかったが,ブリモニジン群(21眼)では1,3カ月で有意に低下していた.両群の比較では追加1カ月目にブリモニジンがブナゾシンより眼圧下降率が大きかった.結論:ブリモニジン点眼はブナゾシン点眼より追加効果で優れている可能性がある.Purpose:Weperformeda3-month,randomized,open-labelstudyinpatientswithglaucomatocomparetheintraocularpressure(IOP)-loweringeffectsof0.1%brimonidineversus0.01%bunazosinhydrochlorideophthalmicsolutionasanadjunctivetherapy.ObjectandMethod:Patientswererandomlyassignedtoreceivetopicalbrimonidin(n=40)ortopicalbunazosin(n=44)asadjunctivetherapy.IOPmeasurementsinthe2groupswererecordedonday0(baseline)andat1to3months.Results:BrimonidinereducedthemeanIOPby1.3-2.6mmHgat1to3months(p<0.0001forall).BunazosinreducedthemeanIOPby0.6-2.3mmHgat2and3months(p<0.01).Asfourthadjunctivetherapy,whilebrimonidinereducedIOPat1and3monthsby2.1-2.5mmHg(p<0.01),bunazosinshowednosignificantreduction.Incomparisonofthe2groups,brimonidineshowedagreaterIOPreductionratethanbunazosin,evenasfourthadjunctivetherapy.Conclusion:BrimonidinereducedIOPmorestronglythandidbunazosinasadjunctivetherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):735〜740,2016〕Keywords:ブリモニジン点眼液,ブナゾシン点眼液,追加投与.brimonidine,bunazosin,adjunctivetherapy.はじめに緑内障に対しては通常プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬を第1選択としさらに単剤での治療効果が不十分の際,2剤目あるいは3剤目としてb遮断薬(bblocker)あるいは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)を選ぶことが多い.わが国ではこれら以外に作用機序の異なる点眼としてa2刺激薬ブリモニジン(アイファガン®)やa1遮断薬塩酸ブナゾシン(デタントール®)がある.ブリモニジンは,a2受容体を選択的に刺激することから,a1受容体刺激時に発現する散瞳や口腔内乾燥感などの副作用の頻度は低い.眼圧下降機序は,房水産生抑制に加え,ぶどう膜強膜経由の房水排出促進が関与している1).ブナゾシンはアドレナリン受容体a1,a2受容体のうちa1に対する遮断薬であり,a1作用による毛様体筋収縮を阻害することによりぶどう膜強膜流出を増加させ眼圧を下降させる2).これらの位置付けは第2,第3あるいは第4の追加点眼における選択薬とされている.そこで,今回多剤使用症例に対して,ブリモニジンまたはブナゾシン点眼薬の追加による眼圧下降効果について,オープンラベルによるプロスペクティブスタディで比較検討した.I対象および方法対象は平成25年7月〜平成26年7月に厚生連高岡病院に通院中の緑内障患者で,PG,b-blocker,CAIのいずれか,または多剤併用治療を3カ月以上行っているにもかかわらず,眼圧下降効果が不十分あるいは視野障害が進行している69例93眼を対象とした.ブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を無作為に追加投与し,1,2,3カ月後の眼圧について検討した.また,追加前に3剤併用されていた症例(4剤目としてブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を追加)をサブ解析した.両眼点眼追加した例はすべて左右同じ点眼を追加した.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.点眼追加前,追加後1カ月後,2カ月,3カ月後に眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定した.眼圧は午前中の外来診療における時間帯に同一検者が測定した.配合剤は2剤として分類した.点眼追加後1,2,3カ月後の眼圧下降率(%)はそれぞれ(追加前眼圧-追加1,2,3カ月後の眼圧)/追加前眼圧×100とした.本研究は厚生連高岡病院倫理委員会の承認を事前に受けた.解析方法はMedcalc®,version11.1.1.0を用いて投与前と投与1,2,3カ月後の眼圧の比較にはRepeatedANOVA,Post-hoctestとしてBonferroni法を用いた.ブリモニジン点眼群,ブナゾシン点眼群間の眼圧の比較には眼圧下降率を用いunpairedt-testで比較した.点眼前の眼圧値と追加3カ月目における眼圧下降率の相関関係をPearsonの相関係数によって検討した.追加前点眼数と追加3カ月目眼圧下降量をプロット表示した.危険率5%以下を有意な差ありとした.II結果全症例の内訳は,男性34例,女性33例,93眼であった.年齢は74.4±8.9(平均値±標準偏差)歳であった.病型は,原発開放隅角緑内障(広義)78眼,落屑緑内障10眼,続発緑内障5眼である.67例93眼中,6例9眼が脱落,理由は1例が痒みで中断(ブナナゾシン),3眼は経過観察中に緑内障手術施行で中断,5眼は点眼忘れで中断した.最終的に61例84眼を対象とした.対象の内訳はブリモニジン点眼群40眼(75.6±7.9歳,男性21眼,女性19眼,追加前点眼:1剤;9眼,2剤;15眼,3剤;16眼),ブナゾシン点眼群44眼(75.2±9.1歳,男性23眼,女性21眼,追加前点眼:1剤;17眼,2剤;6眼3剤;21眼)であった(表1).年齢,性別に有意な差はなかった.全症例を対象にした比較において眼圧値はブリモニジン群では追加前14.7±3.5mmHg(平均値±標準偏差),1カ月後12.2±2.8mmHg,2カ月後12.5±2.9mmHg,3カ月後12.1±2.6mmHgで,追加前に比較して追加後はすべて有意に低下していた(p<0.0001)(図1).ブナゾシン群では追加前14.8±4.3mmHg,1カ月後14.2±4.1mmHg,2カ月後13.4±3.4mmHg,3カ月後13.4±3.8mmHgで,追加前に比較して2,3カ月で有意に低下していた(p=0.24,0.0026,0.0013)(図2).4剤目として点眼追加した場合,ブリモニジン群では追加前14.8±4.1mmHg,1カ月後12.7±3.4mmHg,2カ月後12.7±2.9mmHg,3カ月後12.3±2.9mmHgで,追加前に比較して1,3カ月で有意に低下していた(p=0.0036,0.15,0.01)(図3).ブナゾシン群では追加前15.5±5.2mmHg,1カ月後15.5±4.8mmHg,2カ月後14.3±3.5mmHg,3カ月後14.9±4.2mmHgで追加後に有意な低下はみられなかった(p=1.0,0.16,1.0)(図4).眼圧下降率によるブリモニジン追加群とブナゾシン追加群の比較では全症例では追加1カ月目にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった(p=0.0003)(図5).4剤目として点眼追加した場合でも,追加1カ月目にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった(p=0.01)(図6).追加前眼圧値と追加3カ月目における眼圧下降率の相関では,ブリモニジン,ブナゾシン群とも追加前眼圧値と眼圧下降率の間にはほぼ同等の相関関係が認められ(ブリモニジン:r=0.4823,p=0.0016,ブナゾシン群:r=0.412,p=0.0054),追加前眼圧が高いほど眼圧下降率も大きい傾向にあった(図7).追加前点眼数と追加後眼圧下降量についてのプロット図からブリモニジン点眼で5例,ブナゾシン点眼で9例,とくに4剤併用において5例に追加後眼圧下降量が0mmHg未満の症例がみられた(図8).副作用の内訳は,ブリモニジン点眼45例中霧視1例,点状表層角膜炎の悪化2例,ブナゾシン点眼48例中点状表層角膜炎の悪化1例,眼掻痒感1例であった.III考按ブリモニジン点眼は追加効果においてブナゾシン点眼より有意な眼圧下降率を示し,4剤目の追加としても有用であった.ブリモニジン点眼は追加効果として3カ月目まで平均1.3〜2.6mmHgまで下降し,4剤目の追加処方としても1,3カ月目で2.1〜2.5mmHgの有意な低下を維持した.一方ブナゾシン点眼も2,3カ月目まで0.6〜2.3mmHgまで有意に下降したが,4剤目としては有意な下降はみられなかった.わが国においてこれらの追加効果について直接比較した検討はない.ブリモニジンについての報告は単剤ではチモロールと比較したものとしてピークで6.7mmHg,トラフで4.3mmHg低下し,ピークではチモロールより下がっていたとされる3).追加効果としては平均17.9%(4.26mmHg)の眼圧下降効果があり,追加前にラタノプロストを含む場合,15.5%から20.1%(3.63〜6.62mmHg)の眼圧低下効果があるとされ4,5),各種PGに対しては平均3mmHg前後の追加効果が得られたとされる6).海外での4剤目としての報告では4.6mmHg(20%)7)や6.62mmHg(20.1%)下がった8)などの報告がある.経時的変化をみたものでは,1週目,1カ月,3カ月の順に15.2,12.6,12.7,12.8mmHgと有意に眼圧は下降し,今回の結果と同程度の下降値であった9).また,治療前ベースライン眼圧が15mmHg以下の症例は,16mmHg以上の症例より眼圧下降効果は少なかったとあり追加前眼圧が高いと下降率が大きいという同様の結果であった.わが国で4剤目としてブリモニジンを追加した場合の報告に19.5mmHgから16.3mmHgへと下降したとあり10),眼圧下降値が本報告より大きいが,追加前眼圧が異なり単純に比較はできない.一方,ブナゾシンの報告では,単剤では2%ドルゾラミドと同等だが0.5%チモロールよりは劣るとされている11).追加効果ではラタノプロストに併用した場合1.6〜2.8mmHg降下したとする報告12,13)や,チモロールに追加した場合2.8mmHg13)降下したとする報告などがある.わが国では1.3〜2.7mmHgの追加効果を認め,投与開始時眼圧値が高いほど眼圧変化値は大きかった14,15)などや眼薬数に反比例して眼圧下降率が減少する16)などがある.これらは本報告と傾向が一致する.4剤目としてブナゾシン点眼薬を追加した報告では,3.5mmHg15)下降したとするものがあり,本報告と比べ下降しているが,本報告では追加前点眼数と追加後眼圧下降量の関係からブナゾシン点眼は4剤目で下降率0%未満の症例が多くみられ,フル点眼においてブナゾシン点眼は追加による反応が少ないことが一因かと思われた.副作用ではブリモニジン点眼,ブナゾシン点眼ともアレルギー性結膜炎,充血,点状表層角膜炎などの報告がみられるが,今回はブナゾシン点眼1例のみ掻痒感で中断したが,全体的に軽度であり,どちらも安全に使用できると思われた3,16,17).今回の報告では症例数が限られており,併用点眼薬の種類による眼圧下降効果の違いについては検討できなかった.また,緑内障病型による追加効果についても検討できなかった.また4剤目の追加として検討した場合,アドヒアランスの低下が問題となる場合があり18),今回の検討にも影響している可能性があると思われたが詳細な検討は行わなかった.以上,ブリモニジン点眼,ブナゾシン点眼は多剤併用において眼圧下降効果があり,追加点眼薬として検討する価値があると考えられた.さらにブリモニジン点眼は4剤目としての追加効果もあり,デタントールより優れている可能性があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmoll28:8-14,19992)NishimuraK,KuwayamaY,MatsugiTetal:Selectivesuppressionbybunazosinofalpha-adrenergicagonistevokedelevationofintraocularpressureinsympathectomizedrabbiteyes.lnvestOphthalmolVisSci34::1761-1766,19933)KatzLJ:Brimonidinetartrate0.2%twicedailyvstimolol0.5%twicedaily:1-yearresultsinglaucomapatients.BrimonidineStudyGroup.AmJOphthalmol127:20-26,19994)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20015)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20126)LeeDA,GornbeinJ,AbramsC:Theeffectivenessandsafetyofbrimonidineasmono,combination,orreplacementtherapyforpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension:aposthocanalysisofanopenlabelcommunitytrial.GlaucomaTrialStudyGroup.JOcularPharmacolTher6:3-18,20007)ThoeSchwartzenbergGW,BuysYM:Efficacyofbrimonidine0.2%asadjunctivetherapyforpatientswithglaucomainadequatelycontrolledwithotherwisemaximalmedicaltherapy.Ophthalmology106:1616-1620,19998)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20019)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,201410)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方.あたらしい眼科31:1059-1062,201411)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)TsukamotoH,JianK,TakamatsuMetal:Additiveeffectofbunazosinonintraocularpressurewhentopicallyaddedtotreatmentwithlatanoprostinpatientswithglaucoma.JpnJOphthalmol47:526-528,200313)KobayashiH,KobayashiK,OkinamiS:Efficacyofbunazosinhydrochloride0.01%asadjunctivetherapyoflatanoprostortimolol.JGlaucoma13:73-80,200414)樋口直子,宮本悦代,神田佳子ほか:ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントール®0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討.あたらしい眼科26:405-412,200915)花輪宏美,佐藤由紀,末野利治ほか:抗緑内障点眼薬多剤併用患者に対する塩酸ブナゾシン点眼薬の短期効果.あたらしい眼科22:525-528,200516)館野泰,柏木賢治:塩酸ブナゾシン点眼薬の併用眼圧下降効果.あたらしい眼科25:99-101,200817)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:塩酸ブナゾシン点眼の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:389-392,200518)DjafariF,LeskMR,HarasylnowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,2009表1対象症例の内容症例数年齢(歳)女性男性追加前点眼1剤追加前点眼2剤追加前点眼3剤ブリモニジン点眼40眼75.6±7.919眼21眼PG:6眼PG+b-blocker:6眼PG+b-blocker+CAI:16眼b-blocker:2眼PG+CAI:7眼CAI:1眼CAI+b-blocker:2眼ブナゾシン点眼44眼75.2±9.121眼23眼PG:12眼PG+b-blocker:1眼PG+b-blocker+CAI:21眼b-blocker:1眼PG+CAI:4眼CAI:4眼CAI+b-blocker:1眼平均値±標準偏差.PG:prostaglandin,CAI:carbonicanhydraseinhibitor.図1全症例を対象にブリモニジンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後1,2,3カ月後で有意に低下していた.図2全症例を対象にブナゾシンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後2,3カ月後で有意に低下していた.図34剤目としてブリモニジンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後1,3カ月後で有意に低下していた.図44剤目としてブナゾシンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後有意な眼圧低下はみられなかった.図5全症例を対象に追加した場合の眼圧下降率比較追加1カ月目に有意にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった.図64剤目として追加した場合の眼圧下降率比較追加1カ月目に有意にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった.図7追加前眼圧値と眼圧下降率の相関ブリモニジン,ブナゾシン群とも追加前眼圧値と眼圧下降率の間にはほぼ同等の相関関係が認められ,追加前眼圧が高いほど眼圧下降率も大きい傾向にあった.図8追加前点眼数と眼圧下降量についてのプロット図ブナゾシン群で追加後眼圧量が0mmHg未満の症例が多くみられた.〔別刷請求先〕中谷雄介:〒933-8555富山県高岡市永楽町5-10厚生連高岡病院眼科Reprintrequests:YusukeNakatani,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,5-10Eirakucho,Takaoka,Toyama933-8555,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(111)735736あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016737738あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(114)(115)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016739740あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(116)

ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1063.1066,2014cブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討俣木直美*1,2齋藤瞳*2岩瀬愛子*1*1たじみ岩瀬眼科*2公立学校共済組合関東中央病院AdjunctiveEffectonIntraocularPressureandOcularandSystemicSideEffectsofTopical0.1%BrimonidineinOpen-AngleGlaucomaNaomiMataki1,2),HitomiSaito2)andAikoIwase1)1)TajimiIwaseEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachersブリモニジン点眼液を60例60眼の多剤併用薬使用中の開放隅角緑内障(広義)に追加処方し3カ月後までの眼圧下降作用と安全性を検討した.追加前眼圧,1週目,1カ月,3カ月の順に15.2±4.1,12.6±3.5,12.7±3.7,12.8±3.0mmHgと有意に眼圧は下降していた.治療前ベースライン眼圧が15mmHg以下の症例は,16mmHg以上の症例より眼圧下降効果は少なかった.経過中の副作用は,眠気3例,充血2例,結膜蒼白1例,ふらつき・倦怠感1例,肩の圧迫感1例,蕁麻疹1例,顔面皮疹1例であった.皮疹出現の2例は両例ともに皮内テストによる確定診断を希望しなかったため,臨床的診断として全身性接触皮膚炎の可能性があると考えた.欧米では全身に起こる皮疹の副作用報告はないが重篤な副作用につながる可能性もあり,ブリモニジン使用にあたっては既往歴の問診と使用開始後の注意深い観察が必要と考える.Theintraocularpressure(IOP)reductionofadjunctiveuseof0.1%brimonidineeyedropswithotherglaucomaeyedropswasretrospectivelystudiedin60open-angleglaucomapatientsduringa3-monthperiod.IOPbeforeandat1week,1monthand3monthsafterbrimonidineadditionwas15.2±4.1,12.6±3.5,12.7±3.7and12.8±3.0mmHg,respectively,withsignificantIOPreductionatalltimeperiods.(p<0.01,n=60).InthegroupwithbaselineIOP.15mmHg,IOPreductionat3monthswasnotsignificant.Side-effectsobservedduringthefollow-upperiodwasdrowsiness(3/60),conjunctivalhyperemia(2/60),conjuctivalpaleness(1/60),systemicfatigue(1/60),oppressionoftheshoulders(1/60),andurticaria(2/60).Urticariaaftertopicaluseofbrimonidinehasnotbeenreportedpreviously,andmaydeservespecialattention.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1063.1066,2014〕Keywords:ブリモニジン点眼液,眼圧下降効果,副作用,全身性接触皮膚炎,蕁麻疹.brimonidineeyedrops,adjunctiveeffect,sideeffect,systemiccontactdermatitis,Urticaria.はじめに緑内障は日本の失明原因の上位疾患と報告されており1),早期発見,早期治療,治療継続が重要である.緑内障の治療では眼圧下降治療に唯一エビデンスがあり,薬物治療においては目標眼圧を設定し視野異常の経過を確認しながら,必要に応じて加療(薬剤の変更・追加)が行われる.一方,眼圧下降薬に対する反応に個人差があることや,既存の薬剤で可能な限り眼圧を下降させても視野障害が進行する症例も存在するため,新たな作用機序の薬剤が望まれている.ブリモニジン酒石酸塩点眼液はアドレナリンa2受容体作動薬で米国では緑内障・高眼圧症治療薬として1996年に米国食品・医薬品局(FDA)に承認され,現在まで多くの国と地域で使用されている2.4).日本では2012年5月に0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(製品名:アイファガンR点眼液0.1%,以下,ブリモニジン点眼液)が発売された.本剤の眼圧下降効果はb遮断薬と比較して最少効果時には劣るものの最高効〔別刷請求先〕岩瀬愛子:〒507-0033多治見市本町3-101-1クリスタルプラザ多治見4Fたじみ岩瀬眼科Reprintrequests:AikoIwase,M.D.,Ph.D.,TajimiIwaseEyeClinic,Crystal-PlazaTajimi4F,3-101-1Honmachi,Tajimi,Gifu507-0033,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(137)1063 果時にはチモプトールとは有意差がなく2),既存の緑内障治療薬と作用機序が異なることから,他剤との併用による眼圧下降効果が期待されている.筆者らは,日本の緑内障患者における本剤の有効性と安全性を臨床使用の実態下で確認することを目的にレトロスペクティブに評価を行った.I対象および方法2012年5月から2013年5月までの間に,たじみ岩瀬眼科および関東中央病院を受診した正常眼圧緑内障(NTG)または原発開放隅角緑内障(POAG)患者のうち,医師がさらなる眼圧下降が必要と判断しブリモニジン点眼液を追加投与された症例を今回のレトロスペクティブな研究対象とした.対象患者には本試験について十分に説明を行い,文書にて同リックな比較を実施し,有意水準は5%とした.II結果対象となった60例で有効性と安全性を評価した.その背景因子として性別は男性27例,女性33例,年齢は67.0歳±9.9歳(41.84歳),緑内障病型はNTG30例,POAG30例であった(表1).ブリモニジン点眼液追加前の使用薬剤数は1剤:3例,2剤:19例,3剤:32例,4剤:6例であった(配合剤は2剤とした)(表2).ブリモニジン点眼液追加前,1週後,1カ月後,3カ月後の眼圧(平均値±標準偏差)は追加前眼圧値15.2±4.1mmHgから12.6±3.5mmHg(眼圧下降率:.15.7±15.0%),12.7意を得た.25投与期間3カ月での有効性と安全性を以下のように評価した.有効性評価眼は点眼追加前の眼圧が高いほうの眼とし,同じ場合は右眼を対象とした.対象としたのは多剤併用例への追加症例のみとし,評価期間中変更のないものとした.眼圧降下解析にあたっては,経過中副作用による投与中止例については投与している期間を解析の対象とした.また,レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術の既往を有する眼は対象から除外した.有効性評価としてブリモニジン点眼液追加投与前と点眼1週後,1カ月後,3カ月後の眼圧値を比較した.安全性評価として前眼部所見ならびに医師による問診・診察により副作用の有無を確認した.統計解析は多重比較Steel検定を用いて投与開始前とのノンパラメト表1背景因子年齢67.0±9.9歳(41.84歳)性別男性27例女性33例緑内障病型POAG30例NTG30例眼圧値(mmHg)眼圧値(mmHg)201510512.6(n=60)p=0.0010**15.2(n=60)12.7(n=56)p=0.0019**12.8(n=53)p=0.0043**0投与1W1M3M開始前投与期間**:p<0.01(Steel検定)図1平均眼圧推移グラフ(全例,n=60)252015105011.1(n=28)p=0.135410.6(n=30)p=0.0494*10.4(n=32)p=0.0116*12.1(n=32)投与1W1M3M開始前投与期間*:p<0.05(Steel検定)薬剤数(例数)成分内訳1剤(3例)PGb-blocker2例1例2剤(19例)PG+b-blockerPG+CAIb-blocker+CAI12例3例4例3剤(32例)PG+b-blocker+CAI32例4剤(6例)PG+b-blocker+CAI+a1-blockerPG+b-blocker+CAI+交感神経刺激薬PG+b-blocker+CAI+副交感神経刺激薬1例4例1例図2平均眼圧推移グラフ(追加前眼圧15mmHg以下,表2ブリモニジン点眼液追加前の使用薬剤n=32)眼圧値(mmHg)252015105014.8(n=25)p<0.0001**15.1(n=26)p<0.0001**15.1(n=28)p=0.0001**18.7(n=28)投与1W1M3M開始前投与期間**:p<0.01(Steel検定)PG:プロスタグランジン関連薬,b-blocker:b受容体遮断薬,CAI:炭酸脱水素酵素阻害薬,a1-blocker:a1受容体遮断薬.図3平均眼圧推移グラフ(追加前眼圧16mmHg以上,※配合剤は2剤とした.n=28)1064あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(138) ±3.7mmHg(.14.8±16.5%),12.8±3.0mmHg(.13.1±14.9%)とすべての観察日で眼圧は有意に下降した(p=0.0010,0.0019,0.0043)(図1).また,病型別ではNTG群では追加前眼圧値12.9±3.2mmHgから10.8±2.5mmHg(.14.3±18.1%),10.9±2.5mmHg(.13.8±18.8%),11.4±2.3mmHg(.9.8±16.5%)と1週後,1カ月後で眼圧は有意に下降し(p=0.0279,0.0377),POAG群では追加前眼圧値17.4±3.6mmHgから14.4±3.6mmHg(.17.2±11.0%),14.7±3.8mmHg(.16.0±13.9%),14.3±2.9mmHg(.16.6±12.3%)とすべての観察日で眼圧は有意に下降した(p=0.0049,0.0042,0.0082).また,ブリモニジン点眼液追加前眼圧が15mmHg以下の症例(32例)では追加前眼圧値12.1±2.3mmHgから10.4±2.1mmHg(.12.6±16.9%),10.6±2.4mmHg(.10.3±18.3%),11.1±2.1mmHg(.6.7±14.8%)と,1週後,1カ月後に眼圧は有意に下降し(p=0.0116,0.0494),3カ月後は有意ではなかったものの(p=0.1354),眼圧変化値は.1mmHgであった(図2).ブリモニジン点眼液追加投与前眼圧が16mmHg以上の症例(28例)では追加前眼圧値18.7±2.5mmHgから15.1±3.2mmHg(.19.3±11.7%),15.1±3.6mmHg(.20.0±12.6%),14.8±2.4mmHg(.20.2±11.6%)とすべての観察日で眼圧は有意に下降し(p=0.0001,p<0.0001,p<0.0001),3カ月後の眼圧変化値は.3.9mmHgであった(図3).副作用は60例中10例に認められ,内訳は眠気3例,充血2例,結膜蒼白1例,ふらつき・倦怠感1例,肩の圧迫感1例,蕁麻疹1例,顔面皮疹1例であった.10例のうち,眠気を訴えた症例のうち2例はブリモニジン点眼液の投与を継続したが症状は軽快した.その他の副作用症例8例は症状出現直後に投与を中止し,全例症状は回復した.また,点眼開始後に1例が転院した.III考按緑内障では点眼薬を使用しても視野障害が進行している症例には手術を検討するが,さまざまな理由により手術を実施できない症例もある.そのような場合は既存治療に点眼薬をさらに追加または既存薬を変更し,さらなる眼圧下降を試みるが,すでに多剤併用中の患者では追加可能な薬剤が少なく,治療薬の選択に苦慮することがある.今回,既存薬複数剤ですでに治療中の患者にブリモニジン点眼液を追加することにより,さらなる眼圧下降が得られることが確認できた.対象となった全例の平均眼圧下降幅は2.3.2.6mmHgであり,病型別ではNTG群で1.6.2.1mmHg,POAG群では2.9.3.1mmHgであった.また,追加前眼圧が16mmHg以上の症例では3.6.3.9mmHgと大きな眼圧下降が得られ,追加前眼圧が15mmHg以下の患者では追加の眼圧下降が得られにくい場合が多いが,今回の検討では1.0.1.7mmHg(139)の眼圧下降が得られた.対象となった症例のうちすでに3剤以上使用していた症例が38例(63%)あり,このような患者に追加する薬剤の選択肢が少ないなか,今回のように眼圧下降効果が得られたことで,緑内障治療薬を追加もしくは変更する際にブリモニジン点眼液は有力な選択肢となりうることが確認できた.ブリモニジン点眼液の国内臨床試験での特徴的な副作用としては,眼アレルギー,めまい,眠気などが報告されており4),今回経験した副作用はすでに報告されているものがほとんどであった.一方,皮疹については海外での使用実績が長いにもかかわらず,海外の添付文書には記載されていない副作用で,海外での臨床報告,国内臨床試験でも報告がない副作用である.今回の評価期間中に生じた症例は2例で,いずれも眼局所の充血・掻痒感などはなく眼周囲以外の皮膚の掻痒感と皮疹出現のみであった.この皮疹例は,1例目は投与開始後1週間目の診察時の問診から発見し,患者からの自発的な訴えはなかった.この症例では投与2日目の夜間就寝時から全身のかゆみが出現し,その後数時間で消失する「蕁麻疹様皮疹」が継続することに気づいたが,点眼との因果関係に思い至らず1週間目の受診時まで点眼を継続した.医師の問診・診察により初めて因果関係を疑い点眼を中止したところ,皮疹の出現が止まり以後再発をしていない.この症例には過去に薬剤内服による薬疹(降圧薬と鎮痛薬)・寒冷蕁麻疹などの既往歴があるとのことであったが,点眼開始から1週間の期間内にそれらの薬剤の使用はなかった.2例目は点眼開始後3カ月間は無症状で経過したが,3カ月目の眼圧測定日の直後より顔面から頸部に生じた発赤を伴う皮疹を主訴に受診した.眼局所には充血・掻痒感などの症状はなかった.点眼は中止し,ただちに皮膚科受診し治療が行われた.ブリモニジン点眼液によるこうした皮疹の報告は過去にはない.しかし,明らかに両例ともに点眼開始以降に症状が出現し中止したことで皮疹の再発はなく,その間に他の薬剤などの変更がないことから,ブリモニジン点眼液との関連が強く疑われる.皮疹出現時期の症状で眼局所のアレルギー症状がほとんどないことから,点眼による感作が原因の「全身性接触皮膚炎」の可能性が考えられる5,6).「全身性接触皮膚炎」はこれまでにも他の点眼薬での報告があり7),局所からの感作が成立した後に全身に症状が出て投与部位には症状が出ないこともあることから,点眼薬の使用が原因であると気づかれにくいこともあるため点眼投与部位以外にも有害事象が出ていないかを確認することが必要であると考えられた.ただし,今回の症例では患者の同意を得られずパッチテストなどでのブリモニジン点眼液との因果関係を十分に確認できていないことから,あくまでも筆者らの臨床判断によるものである.2例の既往歴に共通するものは「寒冷蕁麻疹」「蕁麻疹」であった.こうした既往歴のある患者への投与では,(,)慎重なあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141065 投与が必要かもしれない.また,ブリモニジン点眼液では神経保護作用を有することが基礎研究で多数報告されており8.10),2011年に米国にて0.2%ブリモニジン点眼液で眼圧下降効果に依存しない視野維持効果の報告がある3).視野障害がかなり進行しておりすでに眼圧下降が十分得られていると考えられる症例で,ブリモニジン点眼液追加でさらなる眼圧下降効果が得られなくても副作用の発現や眼圧の上昇がない場合は,眼圧下降を介さない神経保護効果の可能性があることも考慮に入れ,ブリモニジン点眼液を継続して経過観察するという選択肢もあるかもしれない.今後,本剤の神経保護作用に関しては,さらなる臨床試験での評価が待たれる.IV結論ブリモニジン点眼液は他の緑内障治療薬と作用機序が異なり,既存治療薬との併用によりさらなる眼圧下降効果が期待できる.また,眼アレルギーなどのすでに報告されている副作用のほかに眼局所以外の副作用にも注意が必要であると考える.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:13541362,20062)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Low-PressureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20114)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20125)池澤優子,相原美智子,池澤善郎:医薬品による接触皮膚炎の臨床と原因抗原.アレルギー・免疫16:1748-1755,20096)日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会:接触皮膚診療ガイドライン.日皮会誌119:1757-1793,20097)KlugerN,GuillotB,Raison-PeyronN:Systemiccontactdermatitistodorzolamideeyedrops.ContactDermatitis58:167-168,20088)AhmedFA,HegazyK,ChaudharyPetal:Neuroprotectiveeffectofa2agonist(brimonidine)onadultratretinalganglioncellsafterincreasedintraocularpressure.BrainRes913:133-139,20019)Vidal-SanzM,LafuenteMP,Mayor-TorroglosaSetal:Brimonidine’sneuroprotectiveeffectsagainsttransientischaemia-inducedretinalganglioncelldeath.EurJOphthalmol11:36-40,200110)WoldeMussieE,RuizG,WijonoMetal:Neuroprotectionofretinalganglioncellsbybrimonidineinratswithlaser-inducedchronicocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci42:2849-2855,2001***1066あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(140)

プロスタグランジン薬,βブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1059.1062,2014cプロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方松浦一貴*1寺坂祐樹*1佐々木慎一*2*1野島病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学教室BrimonidineasAdjunctiveTherapyinUncontrolledPatientsUsingCombinationofProstaglandin,b-BlockerandCarbonicAnhydraseInhibitorKazukiMatsuura1),YukiTerasaka1)andShinichiSasaki2)1)DepartmentofOphthalmology,NojimaHospital,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity目的:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用中にブリモニジン点眼液を追加した場合の眼圧変化と安全性を検討した.対象および方法:対象は3剤併用でコントロール不十分な21例35眼.ブリモニジン点眼液を追加した前後の眼圧および副作用の有無につき検討した.結果:ブリモニジン点眼液の追加によって眼圧値は19.5±3.5mmHgから16.3±2.3mmHgへと減少した(pairedt-test,p<0.001).灼熱感にて早期に点眼を中止した1例を認めたものの局所的,全身的に重篤な合併症を認めなかった.結論:3剤併用症例においてもブリモニジン点眼液を追加することで,相加的な降圧効果が期待できる.ブリモニジン追加処方による重篤な合併症の危険性は大きくないと思われる.Purpose:Toassesstheintraocularpressure(IOP)reductionandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyinuncontrolledpatientsevenafterusingacombinationofprostaglandin,b-blockerandcarbonicanhydraseinhibitor(fullmedication).ObjectandMethod:Theexaminationinvolved35eyesof21casesinwhomIOPwasnotsufficientlycontrolledbyfullmedication;theaimwastoassessIOPreductionandadverseeffectoccurrencebeforeandafterbrimonidineaddition.Results:IOPsignificantlydecreasedfrom19.5±3.5mmHgto16.3±2.3mmHg(pairedt-testp<0.001).Althoughparticipationwasterminatedinonecasebecauseofhotflashes,noseriouscomplicationswereobservedintheremainingparticipants.Conclusion:BrimonidinewasabletolowerIOPadditively,eveninthecaseoffullmedication.Ittheseemsthattheadditionalprescriptionofbrimonidinewouldneverleadtoserioussideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1059.1062,2014〕Keywords:ブリモニジン点眼液,追加投与.brimonidine,adjunctivetherapy.はじめに現在,日本での緑内障点眼薬処方のシェアをみても明らかなように,プロスタグランジン薬(PG薬),あるいはbブロッカーが第1,第2選択となり,適宜炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)が追加されるのが点眼コントロール不十分な症例に対する一般的な処方の順番である.そしてPG薬,bブロッカー,CAIの3剤を2ボトルで使用するのが最も一般的なfullmedicationであると思われるが,2012年5月よりこれらの主要3剤と薬理作用の異なる降眼圧薬であるブリモニジン点眼液が使用可能となった.そこで今回,従来の一般的なfullmedicationであるPG薬,bブロッカー,CAIの3剤併用でコントロール不良な症例に対してブリモニジン点眼液が追加処方された場合の眼圧下降効果と,おもに角膜上皮に対する副作用の検討を行った.〔別刷請求先〕松浦一貴:〒682-0863倉吉市瀬崎町2714-1野島病院眼科Reprintrequests:KazukiMatsuura,DepartmentofOphthalmology,NojimaHospital,2714-1Sezakimachi,Kurayoshi682-0863,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(133)1059 I対象および方法平成25年1月.6月の間に野島病院(以下,当院)を受診した広義の開放隅角緑内障患者のうち,PG薬,bブロッカー,CAIの3剤併用でコントロール不十分と考えられたためブリモニジン点眼液が追加処方された23症例39眼を対象とした.眼圧は通常の外来診療における任意の時間帯(9:00.15:00)にGoldmann式眼圧計を用いて測定した.個々の症例での眼圧測定はほぼ一定の時間帯に行われていた.定期的な2週間から2カ月ごとの経過観察中の患者において,ブリモニジン点眼液追加直前3.5回の平均眼圧値に対して追加後3.5回の平均眼圧値を診療録をもとにレトロスぺクティブに調査し比較した.また角膜上皮障害,充血など自覚的,他覚的な合併症についても検討した.当院では緑内障点眼治療中の角膜合併症を評価するために日常的にarea-density(AD)分類1)を記載している.そこで角膜上皮障害の検討は添田らの報告2)に習い,A(area)をA0.3,D(density)をD0.3の4段階にそれぞれ分類し,A(0.3)+D(0.3)でスコア化した.眼圧値の有意差検定はpairedt-test,角膜上皮スコアの有意差検定にはWiscoxonsignedrank検定を用いた.本研究に際し,野島病院倫理審査委員会の承認を受けて実施した.II結果1例2眼において灼熱感のため点眼中止となったが,症状は点眼直後の一時的なものであった.また1例2眼において点眼によるコントロール不可能と判断し,線維柱帯切開術が施行された.これら2例を除いた21例35眼(平均年齢67.9±12.2歳:男性14人,女性7人)において眼圧値および副作用の検討を行った.緑内障病型の内訳は原発開放隅角緑内障(広義)29眼,落屑緑内障3眼,ぶどう膜炎続発緑内障3眼であった.ブリモニジン点眼液の追加前の眼圧は15*p<0.001*25mmHg未満が2眼,15.18mmHgが9眼,18.21mmHgが11眼,21mmHg以上が13眼であった.ブリモニジン点眼液の追加によって眼圧値は19.5±3.5mmHgから16.3±2.3mmHgへと減少した(図1).今回対象となった全症例において2ボトル3剤の処方が行われていたが,PG薬および1%ドルゾラミド+0.5%チモロール配合点眼液群(11例17眼:PG薬の内訳は,タフルプロスト6眼,トラボプロスト3眼,ラタノプロスト2眼)は18.7±4.2mmHgから15.8±2.3mmHgへ低下,トラボプロスト+0.5%チモロール配合点眼液およびブリンゾラミド(10例18眼)は20.2±2.4mmHgから16.8±2.2mmHgへ低下し,3mmHg以上低下したのは全35眼中16眼であった.有効例のなかには10mmHg(変更前眼圧の約40%)近く降圧する場合もあった.3mmHg以上眼圧が上昇した症例はなかった.ブリモニジン点眼液の追加後に明らかな角膜上皮障害(図2),充血の増悪や掻痒感を訴える症例はなかった.III考察ブリモニジン点眼液は選択的a2受容体作動薬であり,房水産生抑制とぶどう膜強膜流出経路を介した房水流出促進作用を持つ3).ブリモニジン点眼液単独での降圧効果はPG薬とは同等あるいは若干劣るとされるが4,5),bブロッカーとほぼ同等な良好な降圧効果を示すことが報告されている6).房水産生抑制とぶどう膜強膜流出経路を介した房水流出は従来の点眼薬と共通の作用機序であるが,これらの薬剤に対して付加的に眼圧を低下させることが確認されており,すでにPG薬,bブロッカーやCAIなどが処方されている症例においても相加的な効果が期待できる7.14).本検討におけるコントロール不十分の定義は,単純な眼圧値や眼圧降下率によるものでなく,視野の進行度や残存する視機能から判断してさらなる眼圧下降が望ましいと主治医が判断した症例である.今回は,症例が少ないため両眼を検討*p=0.59350追加前追加後0*追加前追加後図1点眼追加後の眼圧値(平均値±標準偏差)図2点眼追加後の角膜上皮スコア(平均値±標準偏差)点眼追加により有意に眼圧は低下した角膜上皮所見の明らかな変化を認めなかった.1060あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(134)眼圧(mmHg)2021510AD分類スコア1 した.わが国ではPG薬に追加投与したときの降圧幅は1mmHg強程度であるとの報告もあるが15),海外ではPG薬に追加投与した場合,2.7.5.9mmHg程度の降圧効果が得られたとされている7,8).またbブロッカーに追加処方された場合,3.6.4.9mmHgの降圧効果が得られたとされている7,9,10).ブリモニジン点眼液は現時点ではCAIのように第2,第3番目の処方として選択されることが多いが,CAIと併用された場合にも相加的な作用がある11,12).複数の点眼使用中の患者にブリモニジン点眼液が追加された報告は少ないが,Schwartzenbergら14)は1.4剤(平均2.81剤)使用中の患者に追加処方された場合,4.68mmHgの眼圧下降を得たとしている.またLeeら13)は1.3剤使用中の554例に追加して平均4.01mmHgの眼圧下降を得たとしている.そのなかでPG薬,bブロッカー,CAIの3剤を使用していた11例の平均眼圧下降値は5.18mmHgであった.今回の結果からすでに3剤の点眼(PG薬,bブロッカー,CAI)が処方されているにもかかわらず十分なコントロールが得られていない患者にブリモニジン点眼液が追加処方された場合にさらなる降圧効果が期待できることが確認された.ブリモニジン点眼液は全身的,眼局所的にも重篤な副作用の頻度は高くない特徴を持つ6,7).今回は全身的な副作用については検討していないが,本剤はa2受容体の選択性が高いためバイタルサインに臨床上問題となるような変動を認めにくく,呼吸器や循環器系のリスクのためb遮断薬の使用が躊躇される症例への適応があるとされている5,6,16,17).ただし,めまいや傾眠の報告や血圧低下の傾向が認められるため,予備能力の低い高齢者,低体重や生理機能の低下した患者には注意を促す記載もある18).局所的な副作用としてはアレルギー結膜炎,アレルギー眼瞼炎の頻度が高いことがいわれている.比較的長期投与によって発症するとされるが,アレルギーを発症しても半数以上は1年間の継続投与が可能であったとの報告がある19).今回は,アレルギー関連の副作用は認めなかった.ブリモニジン点眼液は防腐剤として塩化ベンザルコニウムを含んでおらず,PuriteR(亜塩素酸ナトリウム)を使用している.亜塩素酸ナトリウムは動物実験において高濃度塩化ベンザルコニウムよりも角膜障害性が低いことが報告されている19,20).今回も追加投与後に特に角膜上皮所見の明らかな悪化を認める症例はなかった.またブリモニジン点眼液は眼圧下降によらない神経保護作用を持つとの報告もあり21),20mmHg未満の症例に対する効果も興味深い.今回のような症例にブリモニジン点眼液を追加すると3ボトル4剤での点眼となるため患者の点眼の負担は増加するものの,多くの症例で重篤な副作用はなく相加的な降圧効果が認められた.ブリモニジン点眼液は緑内障手術に理解を得られない症例などのコントロール不十分例に対して新たな選択肢となる可能性があることがわかった.(135)文献1)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19942)添田尚一,宮永嘉隆,佐野英子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え.あたらしい眼科30:861-864,20133)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmol128:8-14,19994)LiuCJ,KoYC,ChengCYetal:Changesinintraocularpressureandocularperfusionpressureafterlatanoprost0.05%orbrimonidinetartrate0.2%innormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology109:2241-2247,20025)HodgeWG,LachaineJ,SteffensenIetal:TheefficacyandharmofprostaglandinanalogueforIOPreductioninglaucomapatientscomparedtodorzolamideandbrimonidine:asystemicreview.BrJOphthalmol92:7-12,20086)SchumanJS:Clinicalexperiencewithbrimonidine0.2%andtimolol0.5%inglaucomaandocularhypertension.SurvOphthalmol41(Suppl1):S27-37,19967)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20018)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrimonidine1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20089)SimmonsST;Alphagan/TrusoptStudyGroup:Efficacyofbrimonidine0.2%anddorzolamide2%asadjunctivetherapytobeta-blockersinadultpatientswithglaucomaorocularhypertension.ClinTher23:604-619,200110)ReisR,QueirosCF,SantosLC:Arandomized,investigator-masked,4-weekstudycomparingtimololmaleate0.5%,brimonidine1%,andbrimonidinetartrate0.2%asadjunctivetherapiestotravoprost0.004%inadultswithprimaryopen-angleglaucomaocularhypertension.ClinTher28:552-559,200611)WhitsonJT,RealiniT,NguyenQHetal:Six-monthresultsfromaPhaseIIIandomizedtrialoffixed-combinationbrimonidine+1%brimonidine0.2%versusbrinzolamideorbrimonidinemonotherapyinglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol7:1053-1060,201312)Baiza-DuranLM,Llmas-MorenJF,Ayala-BarajasC:Comparisonoftimolol0.5%+brimonidine0.2%+dorzolamide2%versustimolol0.5%+brimonidine0.2%inaMexicanpopulationwithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol6:1051-1055,201213)LeeDA,GornbeinJ,AbramsC:Theeffectivenessandsafetyofbrimonidineasmono-,combination,orreplacementtherapyforpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension:aposthocanalysisofanopen-labelcommunitytrial.GlaucomaTrialStudyGroup.JOcularPharmacolTher16:3-18,2000あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141061 14)ThoeSchwartzenbergGW,BuysYM:Efficacyofbrimonidine0.2%asadjunctivetherapyforpatientswithglaucomainadequatelycontrolledwithotherwisemaximalmedicaltherapy.Ophthalmology106:1616-1620,199915)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201216)CantorLB:Theevolvingpharmacotherapeuticprofileofbrimonidine,analpha2-adrenergicagonist,afterfouryearsofcontinuoususe.ExpertOpinPharmacother1:815-834,200017)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201218)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の降圧効果と安全性.臨眼67:597-601,201319)KatzLJ:Twelve-monthevaluationofbrimonidine-puriteversusbrimonidineinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma11:119-126,200220)NoeckerRJ,HerrygersLA,AnwaruddinR:Cornealandconjunctivalchangescausedbycommonlyusedglaucomamedications.Cornea23:490-496,200421)WheelerL,WoldeMussieE,LaiR:Roleofalpha-2agonistsinneuroprotection.SurvOpthalmol48(Suppl1):S47-S51,2003***1062あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(136)