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オミデネパグイソプロピル点眼開始後に虹彩炎を発症した1 例

2023年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(1):125.128,2023cオミデネパグイソプロピル点眼開始後に虹彩炎を発症した1例高田悠里*1河本良輔*2小嶌祥太*2田尻健介*2小林崇俊*2根元栄美佳*2照林優也*2前田美智子*2植木麻理*2,3杉山哲也*2喜田照代*2*1大阪回生病院眼科*2大阪医科薬科大学眼科*3永田眼科CACaseofIritisPostInitiatingInstillationofOmidenepagIsopropylOphthalmicSolutionYuriTakada1),RyohsukeKohmoto2),ShotaKojima2),KensukeTajiri2),TakatoshiKobayashi2),EmikaNemoto2),YuyaTerubayashi2),MichikoMaeda2),MariUeki2,3)C,TetsuyaSugiyama2)andTeruyoKida2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,3)NagataEyeClinicC目的:オミデネパグイソプロピル(エイベリス)はプロスタノイドCEP2受容体作動薬としてC2018年に承認された眼圧下降薬である.今回エイベリス点眼開始後に虹彩炎を発症したC1例を経験したので報告する.症例:55歳,性.初診時より静的視野検査で右眼の視野欠損を認めた.既往にC2型糖尿病があるが糖尿病網膜症は認めない.前眼部中間透光体は正常,隅角は両眼開放隅角であった.右眼はラタノプロスト,チモロール,ブリンゾラミド点眼でC16.19CmmHgの眼圧で推移していたが,視野の悪化を認めラタノプロスト点眼をエイベリス点眼に変更した.3週間後右眼の眼痛を自覚,結膜充血と著明な前房内フレアを認めた.エイベリス点眼を中止しベタメタゾンリン酸エステル点眼を開始し,3日後前房内炎症は改善した.ラタノプロスト点眼を再開するも虹彩炎の再燃はなかった.結論:エイベリス点眼開始後に虹彩炎を発症した症例であり,基礎疾患を有する例や多剤併用例では注意を要する.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCiritisCthatCoccurredCafterCinitiatingCinstillationCofComidenepagCisopropyl(EYBELIS),aselectiveprostanoidEP2receptoragonistapprovedin2018.Case:A55-year-oldfemalepresentedwiththeprimarycomplaintofavisual.elddefectinherrighteye.Shehaddiabetes,yetnodiabeticretinopathy.TreatmentCwithClatanoprost,Ctimolol,CandCbrinzolamideCwasCinitiated,CandCtheCintraocularCpressureCinCthatCeyeCwasCmaintainedCatC16-19CmmHg.CHowever,CtheCvisualC.eldCdeteriorated,CsoClatanoprostCwasCswitchedCtoCEYBELIS.CThreeweeksClater,CsheCcomplainedCofCocularCpain,CandCexaminationCrevealedCconjunctivalChyperemiaCandCanCanteriorCchamber.are.Thus,EYBELISinstillationwasdiscontinuedandbetamethasone-phosphatetreatmentwasinitiated.AfterC3Cdays,CtheCin.ammationCdisappeared,ClatanoprostCadministrationCwasCthenCresumed,CandCthereChasCbeenCnoCrecurrenceCofCiritis.CConclusions:TheC.ndingsCinCthisCcaseCrevealCthatCcareCmustCbeCtakenCwhenCprescribingCEYBELISinpatientswithunderlyingmedicalconditionsorthosewhoaretakingotherglaucomadrugs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):125.128,C2023〕Keywords:プロスタノイドCEP2受容体作動薬,オミデネパグイソプロピル,虹彩炎,前房内フレア.prostanoidCEP2receptoragonist,omidenepagisopropyl,iritis,anteriorchamber.are.Cはじめにオミデネパグイソプロピル(エイベリス)はプロスタノイドCEP2受容体作動薬としてC2018年に承認された眼圧下降薬である.プロスタノイドCFP,EP2受容体アゴニストは眼炎症を惹起する可能性があるため,使用の際には注意が必要である1,2).今回オミデネパグイソプロピル点眼開始後に虹彩炎を発症したC1例を経験したので報告する.I症例患者はC55歳,女性.2005年に糖尿病網膜症の精査目的に当院初診となった.初診時の視力は右眼C0.02(1.0C×sphC.6.00D(cyl.0.50DCAx155°),左眼C0.02(1.2C×sph.6.25CD(cyl.0.50DAx20°),眼圧は右眼23mmHg,左眼24mmHgであった.眼底検査で右眼の視神経乳頭陥凹拡大を〔別刷請求先〕高田悠里:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科Reprintrequests:YuriTakada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC図1虹彩炎時の右眼前眼部所見(a,b)および前眼部光干渉断層計(c)a:著明な結膜充血を認める.Cb:前房内フレアの出現を認める.Cc:前房内の輝度が上昇している.認めたため静的視野検査を施行したところ,右眼の緑内障性視野欠損を認めた.既往歴にC2型糖尿病があり初診時のHbA1c(JDS値)はC8.2%であった.前眼部,中間透光体は異常なく,眼底は糖尿病網膜症を認めず,右眼の視神経乳頭陥凹拡大を認めた.隅角所見は両眼開放隅角であったが,右図2虹彩炎時の眼底写真および光干渉断層計a:単純糖尿病網膜症.網膜症の悪化や後眼部の炎症所見は認めない.b:黄斑浮腫は認めない.眼は左眼と比較して色素沈着を強く認めた.右眼の緑内障性視野欠損を認めたため,ラタノプロスト,チモロール,ブリンゾラミド点眼で経過観察していた.その後C2019年に静的視野検査で右眼の視野狭窄の進行を認めた.また,眼圧はCRT16.19CmmHgとやや高めで推移しており,ラタノプロストに対するノンレスポンダーの可能性も考えられたため,ラタノプロスト点眼をオミデネパグイソプロピル点眼に変更した.点眼変更のC3週間後,右眼の眼痛を主訴に来院し結膜充血と著明な前房内フレアを認めた(図1a,b).眼圧は17mmHgであった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)にて右眼の前房内輝度の上昇を認めた(図1c).眼底所見は単純糖尿病網膜症で,糖尿病網膜症の悪化や後眼部の炎症所見は認めなかった(図2a).OCTでは黄斑浮腫を認めなかった(図2b).オミデネパグイソプロピル開始後の右眼のみに前眼部炎症が出現したことから,点眼薬の副作用と考え,オミデネパグイソプロピルを中止し,ベタメタゾンリン酸エステル点眼を開始した.3日後前眼部炎症所見は著明に改善した(図3).その後,ベタメタゾンリン酸エステル点眼を漸減,中止し,ラタノプロスト点眼を再開したが,炎症の再燃は認めなかった.また,前眼部炎症の発症時期の血糖コントロールはCHbA1c(NGSP値)7.5%程度で推移しており,糖尿病の増悪はなかった.発症から約C2年経過した現在,炎症の再燃はなく経過している.CII考按本症例は多剤併用中にラタノプロスト点眼をオミデネパグイソプロピル点眼に変更後,約C3週間後に右眼のみに非常に著明な前房内フレアと結膜充血を認めた.既往にC2型糖尿病があるが,当時の血糖値やCHbA1cの増悪はなかった.フィブリンの析出,虹彩後癒着や炎症細胞の出現などが糖尿病虹彩炎に特徴的な所見として知られている3)がこれらは認めなかった.本薬剤の開始以前から炎症惹起の原因となりうるようなぶどう膜炎も認めておらず,オミデネパグイソプロピル点眼追加による炎症と考えた.オミデネパグイソプロピルのプロドラッグであるオミデネパグは,プロスタグランジン骨格を有さず,EP2受容体に高選択性であり他のプロスタノイド受容体と結合しないため,従来のプロスタグランジン製剤でみられる副作用を伴わずに眼圧下降を得ることができる4,5).オミデネパグイソプロピルの作用機序は,毛様体筋と線維柱帯に発現するCEP2受容体に結合し,主としてぶどう膜強膜流出路からの房水流出促進に加え,線維柱帯からの房水流出も促進する6).プロスタノイドCEP2受容体アゴニストは炎症を惹起する可能性があるため,これら使用の際は炎症反応に注意が必要である2).本薬剤の臨床試験においては単剤使用,Cb遮断薬併用いずれでも眼炎症の報告がある.単剤使用での報告は,オミデネパグイソプロピルの第CII相試験において虹彩炎をC2例(オミデネパグ濃度C0.0012%,0.003%)に認めた.このC2症例は点眼開始C3日後とC5日後に前房に炎症細胞が出現し,薬剤中止後C8.10日で改善を認めたとしている7).また,ラタノプロスト非反応例に対してオミデネパグイソプロピルを投与した群のC2症例では,14日間およびC49日間,前房に炎症細胞が継続したと報告している8).b遮断薬との併用での報告は,本薬剤の第CIII相試験でチモロールとの併用例でC2例に前房内細胞が出現,1例に虹彩炎を認めたとしている9).また,taprenepagCisopropylなど他のCEP2受容体アゴニストでも第CII相試験においてC7.5%の症例で虹彩炎の発症を認めている.虹彩炎の発症機序は不明だが,EP2は炎症誘発のメディエーターに反応して白血球浸潤に関与する影響が考えられている10,11).また,EP2,FP2Caなどのプロスタノイド受容体は内因性のCPG産生に関与しており,これらの受容図3オミデネパグイソプロピル点眼中止後の前眼部写真(a,b)および前眼部光干渉断層計(c)a:結膜充血の改善を認める.Cb:前房内フレアの消失を認める.Cc:前房内輝度の低下を認める.体を過度に刺激することによって眼炎症や一過性眼圧上昇を惹起する可能性が報告されている1).オミデネパグイソプロピルとタフルプロストが併用禁忌であることや,複数のCFP受容体作動薬の併用は禁忌であることから,FP2Ca,EP2受容体の過度の刺激には注意が必要である.本症例はオミデネパグイソプロピル併用後,約C3週間後に著明な炎症が出現した.炎症所見として前房内細胞を明らかには認めず,著明なフレアを認めた点は既報とは異なるが,b遮断薬であるチモロールを含む多剤併用例であり炎症惹起の原因の一つと考えられる.また既往に本症例は糖尿病があるため,眼血管柵の破綻が背景にあったことも炎症を惹起した可能性としてあげられる.既報のように,オミデネパグイソプロピルの副作用として出現する虹彩炎は発症時期,前房内炎症所見が多彩であるため,新規で本薬剤を使用する際には長期にわたって眼炎症の出現に注意する必要があると考えられる.また,多剤併用例での副作用の出現の報告については,今後の症例の蓄積による長期観察が必要と考える.なお,本症例は第C31回日本緑内障学会にて発表した.文献1)Yamagishi-KimuraCR,CHonjoCM,CAiharaM:ContributionCofprostanoidFPreceptorandprostaglandinsintransientin.ammatoryocularhypertension.SciRepC8:11098,C20182)JiangJ,DingledineR:ProstaglandinreceptorEP2inthecrosshairsCofCanti-in.ammation,Canti-cancer,CandCneuro-protection.TrendsPharmacolSciC34:413-423,C20133)渡邊交世:糖尿病虹彩炎.眼科57:809-813,C20154)KiriharaCT,CTaniguchiCT,CYamamuraCKCetal:Pharmaco-logicCcharacterizationCofComidenepagCisopropyl,CaCnovelCselectiveCEP2CreceptorCagonist,CasCanCocularChypotensiveCagent.InvestOphthalmolVisSciC59:145-153,C20185)BreyerCRM,CBagdassarianCCK,CMyersCSACetal:Pros-tanoidreceptors:subtypesCandCsignaling.CAnnuCRevCPharmacolToxicolC41:661-690,C20016)FuwaM,TorisCB,FanSetal:E.ectsofanovelselec-tiveEP2receptoragonist,omidenepagisopropyl,onaque-oushumordynamicsinlaser-inducedocularhypertensivemonkeys.JOculPharmacolTherC34:531-537,C20187)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:PhaseC2,Crandomized,Cdose-.ndingCstudiesCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cagonist,CinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularChypertension.CJCGlaucomaC28:375-385,C20198)AiharaM,RopoA,LuFetal:Intraocularpressure-low-eringe.ectofomidenepagisopropylinlatanoprostnon-/Clow-responderCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularhypertension:theCFUJICstudy.CJpnCJCOph-thalmolC64:398-406,C20209)相原一:プロスタノイド受容体作動薬.眼科C61:1043-1048,C201910)SchacharRA,RaberS,CourtneyRetal:Aphase2,ran-domized,dose-responsetrialoftaprenepagisopropyl(PF-04217329)versuslatanoprost0.005%inopen-angleglau-comaCandCocularChypertension.CCurrCEyeCResC36:809-817,C201111)BiswasCS,CBhattacherjeeCP,CPatersonCCACetal:OcularCin.ammatoryCresponsesCinCtheCEP2CandCEP4CreceptorCknockoutCmice.COculCImmunolCIn.ammC14:157-163,C2006C***