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インターフェロンとリバビリンの併用療法中に網膜中心静脈閉塞症を発症した1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page11592あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)原著あたらしい眼科25(11):15921594,2008cはじめにインターフェロン(IFN)はウイルス性肝炎や各種の腫瘍など多くの疾患の治療に利用されている.これはINFの抗ウイルス作用や抗腫瘍作用によるものである.しかし使用例が増えるにつれ種々の副作用が報告されており,全身的には発熱や倦怠感,食欲不振,白血球の減少,抑うつなどが報告されている1).眼合併症としてはIFN網膜症があり,網膜表層の出血や軟性白斑の出現が特徴的である.このほか網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の発症も報告されている2,3).最近ではC型慢性肝炎に対してペグインターフェロンa-2b(PEGIFN)と抗ウイルス薬であるリバビリン(ribavirin)の併用療法が認可されたが,この併用療法を行った際の眼合併症としてCRVOの発症が報告されている3).今回IFN・リバビリン併用療法中にCRVOを発症した症例で網膜無灌流域が8カ月後まで残存した症例を1例経験したので報告する.I症例60歳の男性が2005年10月初めから倦怠感,腰痛,食欲低下を訴え手稲渓仁会病院(以下,当院)消化器科を受診した.GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)95U/l,GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)151U/l,gGTP(gグルタミル・トランスペプチダーゼ)485U/l,HBs(B型肝炎表面)抗原陰性,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体陽性でC型肝炎と診断された.2006年1月中旬から当院消化器科でPEGIFN週1回10mg,リバビリン〔別刷請求先〕坂口貴鋭:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野Reprintrequests:TakatoshiSakaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15-Nishi7,Kita-ku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8638,JAPANインターフェロンとリバビリンの併用療法中に網膜中心静脈閉塞症を発症した1例坂口貴鋭*1横井匡彦*1勝田聡*1高橋光生*1佐藤克俊*1北明大洲*1加瀬学*1大野重昭*2*1手稲渓仁会病院眼科*2北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野ACaseofCentralRetinalVeinOcclusionduringInterferonandRivabirinTreatmentTakatoshiSakaguchi1),MasahikoYokoi1),SatoshiKatsuta1),MitsuoTakahashi1),KatsutoshiSato1),HirokuniKitamei1),ManabuKase1)andShigeakiOhno2)1)DepartmentofOphthalmology,TeinekeijinkaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicineインターフェロン・リバビリン併用療法中の60歳の男性に発症した網膜中心静脈閉塞症を経験した.フルオレセイン蛍光眼底造影で黄斑部付近の網膜動脈や毛細血管の灌流障害が疑われた.このため併用療法を中止した.8カ月後に視力や視野は改善しなかったが,網膜出血や黄斑浮腫,軟性白斑は消失した.一部に無灌流域が残存していた.Wereporta60-year-oldmalewithcentralretinalveinocclusion(CRVO)inhisrighteyeduringinterferon(IFN)andrivabirintreatment.Fluoresceinangiography(FA)revealedthatretinalarteriolesorcapillariesaroundthemaculawereocculuded.Thetreatmentwasthereforeimmediatelyterminated.Eightmonthslater,visualacu-ityandvisualeldwerenotimproved,butretinalhemorrhage,macularedemaandwhitepatcheshaddisappeared,exceptforsomeoccludedvessels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15921594,2008〕Keywords:インターフェロン,リバビリン,網膜中心静脈閉塞症.interferon,rivabirin,centralretinalveinocclusion.1592(122)0910-1810/08/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081593(123)800mg/日投与によるIFN・リバビリン併用療法を開始した.治療開始時の検査ではGOT115U/l,GPT172U/l,gGTP356U/l,白血球数5,630/μl,赤血球数526×104/μl,血小板数13.7×104/μlであり,糖尿病,高血圧,腎疾患はみられなかった.治療開始2週後に突然右眼に視蒙感が生じ,その約1週間後に眼科を初診した.視力は右眼0.01(矯正不能),左眼1.2(矯正不能)で,眼圧は右眼7.9mmHg,左眼13.8mmHgであった.白内障がみられたほかは前眼部,中間透光体には特記すべき異常はみられなかった.眼底検査では右眼に網膜静脈の拡張と蛇行,火炎状や点状,しみ状の網膜出血がみられた(図1a).乳頭周囲には多数の軟性白斑があったほか,黄斑周囲および乳頭黄斑束を含む領域の網膜が淡く白濁,腫脹していた.このほか両眼の視神経乳頭で陥凹が拡大〔C/D(陥凹乳頭比)=0.8〕し篩板孔が観察された.蛍光眼底造影検査(FA)では腕網膜循環時間が28秒と延長しており,網膜静脈に灌流遅延がみられ造影後期には色素漏出があった.視神経乳頭周囲にみられた軟性白斑に一致して造影剤の流入遅延があったほか,淡く白濁していた黄斑部周囲には限局的な無灌流領域と流入遅延領域が混在していた(図2a,b).光干渉断層計(OCT)では右眼の中心窩網膜厚は333μmと肥厚し漿液性網膜離があったほか,黄斑部周囲に高輝度反射の領域がみられた(図3a).静的視野検査では左眼の下方に弓状暗点がみられ,右眼は中心10°以内と下方領域の感度低下が著明であった(図4).右眼は相対性瞳孔求心路障害(RAPD)が陽性であった.白血球数は2,630/μl,赤血球数は480×104/μl,血小板数は6.2×104/μl,HCV核酸量は発症前後の2週間に4,500KIU/mlから2,300KIU/mlへと低下していた.以上より右眼のCRVOと両眼の正常眼圧緑内図1初診時および8カ月後の右眼眼底a:初診時.網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,火炎状網膜出血がみられ,黄斑部周囲の網膜に淡い白濁がみられる.視神経陥凹拡大(C/D=0.8)もみられた.b:8カ月後.網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,網膜出血は消失したが,nerveberbundledefect様の色調がある.abacbd2初診時および8カ月後の右眼FAa,b:初診時のFA.流入遅延,無灌流領域がみられる.網膜血管透過性亢進もみられた.a:50秒後,b:10分後.c,d:8カ月後のFA.黄斑部周囲は低蛍光であり,限局的な無灌流領域がある.c:50秒後,d:9分後.ab3初診時および3カ月後の右眼黄斑部OCT所見a:初診時.中心窩網膜厚は333μmであり,網膜内層に高輝度反射がある.b:3カ月後.中心窩網膜厚は136μmである.図4初診時の静的視野検査所見右眼は中心10°以内と下方の感度低下,左眼は下方の弓状暗点がみられる.左眼右眼———————————————————————-Page31594あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(124)障(NTG)と診断した.CRVOの発生はIFN・リバビリン併用療法の副作用の可能性が疑われたので同療法を中止のうえ,NTGに対し眼圧下降薬を両眼に開始し経過を観察した.3カ月後の眼底検査では網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,出血などが減少し,OCTでは中心窩網膜厚が136μmと改善していた(図3b).初診から8カ月後には右眼視力は0.04(矯正不能)と少し改善し,眼底所見では網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,出血などは消失していた.しかし視神経乳頭の耳下側にはnerveberbundledefect(NFLD)様の色調がみられた(図1b).FAでは右腕網膜循環時間はまだ延長していた.右黄斑部周囲は低蛍光であり,限局的に無灌流域がみられた(図2c,d).静的視野は,初診時に比較して右眼の上方の感度は改善していたが,下方に著明な感度低下が残っていた.右眼のRAPDは陽性のままであった.II考按今回筆者らはIFN・リバビリン併用療法中に比較的重症なCRVOを発症した症例を経験した.今回の症例はCRVO発症前から両眼にNTGがあったと考えられた.緑内障はCRVO発生の危険因子という報告もあることから4),緑内障がCRVO発症に関与した可能性はある.しかし本症例ではIFN・リバビリン併用療法開始後に発症したことから,同併用療法がCRVOを発症した誘因の一つであったことが推測される.本症例では初診時のFAで無灌流領域が10乳頭径以内であったため非虚血型CRVOと考えられる5).しかし黄斑部周囲にみられた淡い白濁領域には,FAで流入遅延と無灌流領域が混在しており,OCTでも高輝度反射がみられて中心窩網膜厚が肥厚していたこと,9カ月後のFAでも黄斑周囲は低蛍光であったことから,中心窩毛細血管床閉塞があったことが推測された.IFN網膜症の発症機序としては,血小板減少や貧血6),遊出した肝炎ウイルスに対する免疫反応の結果形成された免疫複合体の血管壁への沈着7),IFNによる血管攣縮もしくは白血球塞栓の形成8)などがあげられており,網膜動脈や毛細血管の閉塞病変もひき起こす可能性が高いと考えられる.発症時の血液検査をみると赤血球数480×104/μl,血小板数は6.2×104/μlと低下していたが,この値からは貧血や血小板減少を本例の病態を惹起した原因として積極的に支持することはできない.発症時にHCV核酸量の急激な減少がみられた点は免疫複合体の沈着の可能性を推測させるが,その後の経過中に眼底所見が改善を呈していた時期にも一過性のHCV核酸量の減少がみられたことから発症の原因としては考えにくい.さらに発症時に白血球数の低下がみられ併用療法中止後には5,000/μl以上へと改善していたことから,IFNが白血球に影響を及ぼしていたと推測され,白血球塞栓の形成が今回の症例の原因である可能性が高いと考えられた.しかしながら,本例では単に網膜中心静脈閉塞のみが起こったのではなく,IFN・リバビリン併用療法の結果,末梢の網膜動脈や毛細血管の灌流障害も発生していたことから,複数の病因が関与してひき起こされたと推測された.このために8カ月後に眼底所見は改善したが,視力や視野は改善しなかったものと考えられた.現在IFN・リバビリン併用療法はC型慢性肝炎の患者に広く行われているが,過去の報告ではIFN単独投与に比べ網膜症発症のリスクが高い可能性が示唆されている.IFN網膜症の発症機序は諸説さまざまであり,今後も検討が必要である.IFN・リバビリン併用療法時には事前の眼科受診は重要と考えられた.本併用療法はときに重症の合併症を生じ視力予後不良となる症例があるため,事前に患者によく説明のうえ,インフォームド・コンセントを得る必要があることが示唆された.文献1)三宅和彦:インターフェロン療法─副作用とその対策.肝胆膵43:915-922,20012)中島理幾,大木隆太郎,米谷新ほか:C型慢性肝炎のインターフェロン治療に合併する網膜症とその背景因子.臨眼58:1445-1448,20043)井口俊太郎,鈴木聡志,谷口重雄ほか:新しいリバビリンとシクロスポリン併用インターフェロン療法とインターフェロン網膜症.眼臨98:851-853,20045)野崎実穂,小椋祐一郎:網膜中心静脈閉塞症の治療戦略:放射状視神経切開術(2)─視力予後からの評価.あたらしい眼科22:37-43,20014)大沼郁子:網膜静脈分枝閉塞症・網膜中心静脈閉塞症の疫学─危険因子などを中心に.あたらしい眼科22:9-11,20056)池辺徹,中塚和夫,後藤正雄ほか:インターフェロン投与中に視力障害をきたした1例.眼紀41:2291-2296,19907)宮本和久,須田秩史,本倉雅信ほか:インターフェロンa投与中にみられた網膜血管障害の検討.あたらしい眼科10:497-500,19938)中柄千明,梅津秀夫,柳川俊博ほか:インターフェロン網膜症と免疫複合体.あたらしい眼科18:817-820,2001***