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当院でのアカントアメーバ角膜炎の検討

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1390あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)390(108)0910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):390394,2009cはじめに最近アカントアメーバ角膜炎が急増を示している1).わが国では8590%2,3)がコンタクトレンズ(CL)装用者に発症するといわれている.アカントアメーバは土壌や水道水など身近な所に生息しており,季節性はなく4),CLの保存ケースからもしばしば発見され,CL関連の角膜炎のなかでも予後不良なものとして問題となっている.今回筆者らの施設で経験したアカントアメーバ角膜炎を検討したところ,若干の知見を得たので報告する.I症例1.対象対象は20032008年の間に当院を受診したアカントアメーバ角膜炎患者12例14眼,男性8例9眼,女性4例5眼で,年齢は1756歳(平均33.3歳),CL使用者は14眼中13眼で92.9%を占めていた.そのうち,ソフトCL(SCL)が10例12眼(85.7%),ハードCL(HCL)が1眼(7.1%)で,SCLの内訳は,頻回交換型SCL(FRSCL)6眼,定期交換型SCL2眼,非含水性SCL1例2眼,従来型SCL1例2〔別刷請求先〕野崎令恵:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西井上眼科病院Reprintrequests:NorieNozaki,M.D.,Nishikasai-InouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN当院でのアカントアメーバ角膜炎の検討野崎令恵宮永嘉隆西葛西井上眼科病院ExaminationofAcanthamoebaKeratitisinOurHospitalNorieNozakiandYoshitakaMiyanagaNishikasai-InouyeEyeHospital目的:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過より対策を検討すること.対象:20032008年の間に当院を受診したアカントアメーバ角膜炎12例14眼,男性8例9眼,女性4例5眼で,年齢は1756歳(平均33.3歳),コンタクトレンズ(CL)使用者は14眼中13眼(92.9%)で,そのうちソフトCL(SCL)が12眼,SCLの中では頻回交換型SCLが半数を占めていた.残り1眼はCL・外傷の既往はなかった.アカントアメーバ角膜炎と診断し,治療は三者併用療法(病巣掻爬,抗真菌薬および消毒薬や抗原虫薬の局所点眼,抗真菌薬の全身投与)を行った.結果:2段階以上視力が改善したものは8眼(57.1%)で,不変5眼(35.7%),2段階以上低下したものは1眼(7.1%)であった.低下した1眼はCL装用歴・外傷の既往がなく,速い経過をたどり予後不良であった.結論:アカントアメーバ角膜炎に三者併用療法は有効である.In14eyesof12Acanthamoebakeratitispatientswhoconsultedaphysicianatourhospitalbetween2003and2008,weexaminedmeasuresfromtheclinicalcourseforAcanthamoebakeratitis.Thepatientsconsistedof8males(9eyes)and4females(5eyes)(agerange:17to56years;average:33.3years).Contactlenses(CL)wereusedin13ofthe14eyes(92.9%);especiallysoftCL(SCL)wereusedin12eyes,halfofthosebeingfrequentreplace-mentSCL(FRSCL).TheremainingeyedidnothaveahistoryofCLuseorinjury.ItwasdiagnosedwithAcan-thamoebakeratitis,andreceivedthree-combinationtreatment.Eyesightimprovedmorethantwostagesin8eyes(57.1%),therewasnochangein5eyes(35.7%)andeyesightdecreasedmorethantwostagesin1eye(7.1%).TheeyewithnohistoryofCLuseorinjurywasatracingbadprognosisunlikeanotherasforearlypassage.Three-combinationtreatmentiseectiveagainstAcanthamoebakeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):390394,2009〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,三者併用療法,感染性角膜炎.Acanthamoebakeratitis,three-combinationtreatment,infectiouskeratitis.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009391(109)眼であった.既往にCL装用歴のない1眼(7.1%)は外傷の既往がなく,診断が困難であった.2.初診時所見・治療経過初診時に石橋分類2,3)にて初期のものが8例8眼で視力0.061.2,移行期は3例3眼で視力0.010.3,完成期は3例3眼でいずれも視力は指数弁であった.なお,初期に点状表層角膜炎や樹枝状角膜炎を認め,角膜ヘルペスを疑われ加療されたが治療に奏効せず,難治性の角膜炎として当院へ紹介されたものがほとんどであった.臨床所見ならびに角膜擦過物の検鏡よりアカントアメーバ角膜炎と診断し,治療は石橋らの提唱する三者併用療法2,3)(①病巣掻爬,②抗真菌薬および消毒薬や抗原虫薬の点眼,③抗真菌薬の全身投与)に加えて補助療法として抗菌薬,角膜保護薬,散瞳薬,ステロイド薬の各点眼液を適宜使用した.3.結果病期ごとによる加療後の視力は初期では2段階以上改善5眼,不変3眼,移行期では改善2眼,2段階以上低下1眼,完成期では改善1眼,不変2眼であった(表1).全体では改善したものが8眼(57.1%)で,不変5眼(35.7%),低下1眼(7.1%)と,三者併用療法は有効であった.低下したのはCL装用歴・外傷のない症例の1眼のみであった.初診時完成期であったが改善した例(症例1)と,唯一低下した1例(症例2)を以下に示す.II代表例呈示〔症例1〕37歳,女性.非含水性SCL(ソフィーナR)使用.2003年9月両眼の視力低下を自覚.近医にてレボフロキサシン(クラビットR)点眼,フルオロメトロン(フルメトロンR)点眼,アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏にて加療するも改善せず,約2週間後に前医紹介となった.臨床所見よりアカントアメーバを疑い,グラム染色で確認したが真菌,アメーバともに検出されなかった.フルコナゾール(ジフルカンR)の点眼・内服にて多少の改善をみたものの,右眼の中央に上皮欠損が生じ,5日後には前房蓄膿が出現,その後も悪化傾向にあったため前医初診ab図1症例1の前眼部写真右眼(a)は完成期,左眼(b)は移行期.表1全症例の治療前後の視力症例治療前治療後CLの種類初期35歳・男性17歳・男性19歳・男性23歳・男性18歳・女性17歳・女性19歳・女性53歳・男性*1.20.30.50.060.41.20.31.01.20.71.21.01.01.21.01.0FRSCL定期交換型SCL定期交換型SCLFRSCLFRSCLFRSCLFRSCL従来型SCL移行期53歳・男性*37歳・女性**53歳・男性0.010.050.30.71.2光覚弁従来型SCL非含水性SCLCLなし完成期37歳・女性**52歳・男性56歳・男性指数弁指数弁指数弁0.9指数弁指数弁非含水性SCLHCLFRSCL*,**はそれぞれ同一人物.CL:コンタクトレンズ,SCL:ソフトCL,HCL:ハードCL,FRSCL:頻回交換型SCL.———————————————————————-Page3392あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(110)時より8日後,当院紹介となった.初診時視力は右眼指数弁,左眼0.04(0.05×5.0D(cyl3.0DAx130°),角膜組織の培養検査にてアメーバのシストを確認し,アカントアメーバ角膜炎と診断した(図1).右眼は完成期,左眼は移行期であった.入院のうえ,三者併用療法として病巣掻爬,フルコナゾール(ジフルカンR)・0.04%クロルヘキシジン点眼1時間ごと,フルコナゾール(ジフルカンR)100mgもしくはミカファンギン(ファンガードR)150mg点滴を行った.それに加えて抗菌薬のレボフロキサシン(タリビッドR)点眼3/day,角膜保護薬のヒアルロン酸(0.3%ヒアレインRミニ)点眼と血清点眼3/day,散瞳薬のアトロピン点眼1/day,ステロイドのベタメタゾン(リンデロンRA)点眼02/dayを使用した.ステロイド点眼は消炎と角膜透明度の改善のために,厳重な経過観察のもと使用した.経過中両眼ともに前房蓄膿が出現し,難治性であり,病巣掻爬は合計右眼15回,左眼7回施行した.退院後も通院加療を続け,発症より8カ月経過したところでフルコナゾール(ジフルカンR)とクロルヘキシジン(クロルヘキシジンR)の点眼を中止した.その後は状態をみながら角膜保護薬や抗菌薬の点眼を使用している.視力は治療開始約5カ月後に左眼0.4(1.2×+9.0D),右眼0.4(0.5×+4.5D)と改善し,約4年4カ月後には右眼(0.9×+1.5D(cyl2.0DAx50°),左眼(1.2×+7.0D(cyl2.5DAx100°)となった.治療開始約10カ月後の前眼部写真を図2に示す.〔症例2〕53歳,男性.CL装用歴,外傷の既往なし.2004年4月トイレの不潔な水で洗眼し,こすった翌日に右眼痛発症.前医で角膜ヘルペスと診断され加療したが改善せず,2日後に当院紹介受診.視力は右眼0.8p(1.2×+1.5D),左眼0.3p(0.3×+0.5D(cyl2.0DAx70°).当院でも当初は角膜ヘルペスと考えてアシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏を右眼5/dayやバラシクロビル(バルトレックスR)1,000mg分2内服などで加療を開始した(図3).しかし発症より1週間後に前房蓄膿が出現.アカントアメーバ角膜炎を疑い検査したところ,アメーバのシストを確認し三者併用療法に加え,症例1と同様に治療を開始した.真菌,糸状菌,一般細菌,肺炎球菌,緑膿菌,嫌気性菌は入院中3回検査したが陰性であった.三者併用療法にも奏効せず,発症より5週間後に角膜穿孔を起こし(図4),大学病院へ紹介となり強角膜片移植を施行ab図2症例1の発症より11カ月後の前眼部写真(a:右眼,b:左眼)図3症例2の前眼部写真CL装用歴や外傷の既往がなく診断が困難であった.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009393(111)された(図5).移植後の視力は光覚弁であった.III考按アカントアメーバ角膜炎が初期の段階で発見され治療を開始したものでは比較的良好な予後が得られる5,6)ことは当然だが,移行期,完成期のものでも良好な視力が得られたものもあった.アカントアメーバ角膜炎の治療に三者併用療法は有効と思われる.また,両眼同時期に発症したものであっても,病期や経過は一様ではない7)ことが,今回筆者らの経験した症例からも言える.オルソケラトロジーレンズ811)や毎日交換型SCL12,13)での発症も報告があり,どんなレンズでもアカントアメーバ角膜炎は発症するが,なかでもFRSCLの発症が多く発表されている2).これにはユーザーの数が多いことも一つの原因としてあげられるかもしれないが,2週間であればそれほど長期でないために患者がCLのケアを怠ったり,連続装用したりするような心理環境に陥りやすいのかもしれない.また,現在のマルチパーパスソリューション(MPS)ではアメーバの発育は阻止できないため,患者にこすり洗いを必ず行うように指導することが必要であるが,適切なケアを行っていても感染した事例が報告されており14),注意が必要であると思われる.前述のとおり日本では,アカントアメーバ角膜炎患者の8590%がCL装用者で,残りの1015%は外傷によるものと考えられている2,3).欧米でも同類の報告がみられる1517)が,インドではアカントアメーバ角膜炎にCLが占める割合は68%程度で,外傷や不潔な水が眼球に接触することで発症するものが多いという18).CL装用歴や外傷の既往がなくとも臨床所見や症状によってはアカントアメーバ角膜炎を念頭に置いて考える必要があると思われた.今回筆者らの経験したCL装用歴・外傷の既往のない1眼は,5週間という速い経過で角膜穿孔をきたし,他とは明らかに経過が異なるため,筆者らの施設では形態学的,遺伝子学的分類を施行していなかったため不明であるが,感染したアカントアメーバの株が異なる可能性が示唆された.今後はアカントアメーバの株によって臨床所見が異なるものか否かを多施設において検討することが,アカントアメーバ角膜炎の病態の解明と対策につながるのではないかと考える.稿を終えるにあたり,御指導いただきました東京女子医科大学東医療センターの高岡紀子先生に感謝いたします.文献1)IbrahimYW,BoaseDL,CreeIA:FactorsaectingtheepidemiologyofAcanthamoebakeratitis.OphthalmicEpi-demiol14:53-60,20072)大石恵理子,石橋康久:アカントアメーバについて教えてください.あたらしい眼科23(臨増):94-97,20063)石橋康久:2.角結膜3)感染症b.真菌性(含:アカントアメーバ).眼科47:1551-1558,20054)ManikandanP,BhaskarM,RevanthyRetal:Acan-thamoebakeratitis─AsixyearepidemiologicalreviewfromatertiarycareeyehospitalinSouthIndia.IndJMedMicrobiol22:226-230,20045)ThebpatiphatN,HammmersmithKM,RochaFNetal:Acanthamoebakeratitis:aparasiteontherise.Cornea26:701-706,2007図5大学病院での強角膜片移植後の所見図4症例2の発症より5週間後の所見角膜穿孔を起こし,大学病院に紹介となった.———————————————————————-Page5394あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(112)6)ClearhoutI,GoegebuerA,VanDenBroeckCetal:DelayindiagnosisandoutcomeofAcanthamoebakerati-tis.GraefesArchClinExpOphthalmol242:648-653,20047)渡辺敬三,妙中直子,福田昌彦ほか:両眼性に発症したアカントアメーバ角膜炎の一例.日本眼感染症学会誌2:53,20078)WongVW,ChiSC,LamPS:GoodvisualoutcomeafterprompttreatmentofAcanthamoebakeratitisassociatedwithovernightorthokeratologylenswear.EyeContactLens33:329-331,20079)福地裕子,西田幸二,前田直之ほか:オルソケトロジー装用者に認められたアカントアメーバ角膜炎の一例.眼紀58:503-506,200710)WilhelmsKR:Acanthamoebakeratitisduringorthokera-tology.Cornea24:864-866,200511)LeeSJ,JeongHJ,LeeJSetal:MolecularcharactizationofAcanthamoebaisolatedfromamebickeratitisrelatedtoorthokeratologylensovernightwear.KorJParasitol44:313-320,200612)NiyadurupolaN,IllingworthCD:Acanthamoebakeratitisassociatedwithmisuseofdailydisposablecontactlens.BrJContactLensAssoc29:269-271,200613)堀由紀子,望月清文,波多野正和ほか:ワンデーディスポーザブルソフトコンタクトレンズ装用中に生じたアカントアメーバ角膜炎の一例.あたらしい眼科21:1081-1084,200414)中川尚:アカントアメーバ角膜炎とコンタクトレンズ.日コレ誌49:76-79,200715)JoslinCE,TuEY,McMahonTTetal:EpidemiologicalcharacteristicsofaChicago-areaAcanthamoebakeratitisoutbreak.AmJOphthalmol142:212-217,200616)TzanetouK,MiltsakakisD,DroutsasDetal:Acanth-amoebakeratitisandcontactlensdisinfectingsolutions.IntJOphthalmol220:238-241,200617)ButlerTK,MalesJJ,RobinsonLPetal:Six-yearreviewofAcanthamoebakeratitisinNewSouthWales,Austra-lia:1997-2002.ClinExpOphthalmol33:41-46,200518)ErtabaklerH,TurkM,DayanirVetal:AcanthamoebakeratitisduetoAcanthamoebagenotypeT4inanon-con-tact-lenswearerinTurkey.ParasitolRes100:241-246,2007***