‘乳頭回転角’ タグのついている投稿

日本人健常者における視神経乳頭サイズと乳頭回転角の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1183.1186,2015c日本人健常者における視神経乳頭サイズと乳頭回転角の検討小田莉恵*1,2森和彦*2吉井健悟*3池田陽子*2上野盛夫*2吉川晴菜*2丸山悠子*2小泉範子*1,2木下茂*2*1同志社大学生命科学部医工学科*2京都府立医科大学眼科学教室*3京都府立医科大学基礎統計学OpticDiscRotationAngleandClinicalFeaturesinNormalJapaneseEyesRieOda1,2),KazuhikoMori2),KengoYoshii3),YokoIkeda2),MorioUeno2),HarunaYoshikawa2),YukoMaruyama2),NorikoKoizumi1,2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofBiomedicalEngineering,DoshishaUniversityofLifeandMedicalSciences,DoshishaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofMedicalStatistics,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine健常日本人における視神経乳頭回転角と臨床パラメータとの関連性について検討した.対象は2005年6月.2008年12月に京都府立医科大学病院正常ボランティア外来にて緑内障専門医が正常と判断した症例のうち,信頼性に足る眼底写真撮影が可能であった588例(男性220例,女性368例)である.画像解析ソフトImageJを用いて乳頭形状パラメータを計算し,HRT-2による乳頭解析,IOLマスターによる眼軸長測定,レフケラトメーターによる屈折値,ケラト値測定を行った.得られたデータの相互相関を検討し,乳頭回転角を目的変数,楕円率,DM/DD比,乳頭中心窩角,眼軸長,ケラト値,年齢,性別,左右を説明変数として重回帰分析を行った.全症例の乳頭回転角,離心率,DM/DD比の平均は18.5±33.3°,0.43±0.16,2.73±0.33であった.重回帰分析の結果,乳頭回転角の有意な説明変数として眼軸長(p=0.003)が選択された.以上より乳頭回転角は眼軸長と関連性が高いことが確認された.Inthisstudy,weinvestigatedtherelationshipbetweentheopticdiscrotationangle(DRA)andclinicalfeaturesin1012eyesof588normalJapanesesubjects(220malesand368females).Inclusioncriteriaincludedsubjectswho1)visitedourclinicbetweenJune2005andDecember2008,2)werediagnosedbyglaucomaspecialistsasnormalbasedonophthalmicexaminations,andinwhom3)reliablediscphotographscouldbeobtained.DRAwascalculatedusingimageprocessingsoftware(ImageJ)andopticdiscareawasanalyzedbyretinaltomography(HRT-II).Theclinicalfeaturesofrefractiveerror(RE),cornealradius(CR),andaxiallength(AL)werealsomeasured.Usingthesedata,crosscorrelationwasexaminedandvalidparameterswereselected.Multivariatelinearregressionanalysiswasperformed,regardingDRAasanobjectivevariable,andaveragedradiusoftheellipse,discmacula:discdiameterratio,AL,CR,andsubjectageandsexasexplanatoryvariables.LinearregressionanalysisresultsshowedthatAL(p=0.003)wasasignificantexplanatoryvariableforDRA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1183.1186,2015〕Keywords:視神経乳頭サイズ,乳頭回転角.opticdiscsize,rotationangle.はじめに視神経乳頭の形状は個別にも経時的にも種々のバリエーションが存在する.これまで緑内障眼における視神経乳頭形状は詳細に検討されてきているが,正常眼について検討した報告は少ない.さらに緑内障眼においてスペクトラルドメインOCT(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による視神経乳頭の断面画像解析を用いた垂直的傾きについての報告はあるが1),乳頭回転角(discrotationangle:DRA)についての報告は少ない.今回,多数例の日本人健常者の乳頭形状パラメータ〔DM/DD比(thediscmaculatodiscdiameterratio),離心率,楕円率,乳頭中心窩角,乳頭回転角〕の分布を調べるとともに,これらの値とHRT(Heidelbergretinatomography)パラメータ〔乳頭面積,陥凹面積,C/D比(cupareatodiscarearatio)〕,眼球〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMoriMD.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajiicho,KawaramachiHirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(117)1183 形状パラメータ(屈折度,眼軸長,ケラト値)および対象者データ(性別,年齢,左右)との関連性を検討した.今回の検討では諸岡らが採用した眼底写真より乳頭中心(楕円の長軸と短軸の交点)と中心窩を結ぶ線を基線として乳頭回転角を計測する方法を用いた2).I対象および方法対象は2005年6月.2008年12月に京都府立医科大学病院(以下,当院)正常ボランティア外来において,緑内障専門医が正常と判断した症例のうち,信頼性に足る眼底写真撮影(TRC-NW200,トプコン)が可能であった588例(男性220例,女性368例)である.この正常ボランティア外来とは,緑内障の遺伝子研究の正常対照を集めるために行っている外来で,参加者は一般募集したボランティアである.参加者には当院の緑内障専門外来で行っている複数の緑内障精密検査(眼底写真,FDT,OCTなど)を行い,最終的に複数の緑内障専門医が正常かどうかを決定した(京都府立医科大学医学倫理審査委員会承認RBMR-G-143-4).両眼が対象右眼/中心窩がx軸より下方の場合a:g0:b:g0:長軸が中心窩に近づく場合長軸が中心窩から遠ざかる場合│b’│:中心窩:乳頭中心:x軸と楕円長軸がなす角:乳頭中心窩角(b0):乳頭回転角(g=90-a-b→g=90-│a│+│b│)│a││b││g│ABABabg│a││b││b’││g│AB右眼/中心窩がx軸より上方の場合a:g0:b:g0:長軸が中心窩に近づく場合長軸が中心窩から遠ざかる場合│││b’b’│:中心窩:乳頭中心:x軸と楕円長軸がなす角:乳頭中心窩角(b0):乳頭回転角(g=90-a-b→g=90-│a│-│b│)│a││b││g│ABABabg│a││g││b│AB図1乳頭形状パラメータの計測方法の場合には無作為に片眼を採用した.対象者には同時にHRT-2(HeidelbergEngineering)による乳頭解析,IOLマスター(モデル500,カールツァイスメディテック)による眼軸長測定,レフケラトメーター(RKT7700,ニデック)による屈折値,ケラト値測定を行った.眼底写真を画像解析ソフトImageJ(ver.1.48q)に取込み,乳頭を楕円で近似することで,楕円の回転角(a:楕円長軸とx軸のなす角,0.180°),中心座標,長軸と短軸を計測した.併せて中心窩の座標を計測し,これらの値から,乳頭中心窩角(b),乳頭回転角(g),DM/DD比,離心率,楕円率を求めた.乳頭中心窩角(b:.90.+90°)は乳頭中心と中心窩の座標から三平方の定理より算出し,右眼において乳頭中心に対し中心窩が下方に位置した場合に負,上方に位置した場合に正の値(図1)となるように設定した.また乳頭回転角(g:.90.+90°)は諸岡らの方法に準じて,乳頭中心(楕円の長軸と短軸の交点)と中心窩を結ぶ線を基線として,式g=90-a-bで算出し,楕円の長軸が中心窩に近づく方向を負,遠ざかる方向を正とした(図1).また,左眼においては回転方向が逆となるため乳頭中心窩角(b)と乳頭回転角(g)の正負を逆転させた.ただし,上記計算を行った結果,乳頭回転角(g)が90°を越える場合には180-gで置換した.DM/DD比は乳頭中心.中心窩間距離と楕円長軸および短軸の平均半径との比からを求めた.以上の得られたデータを用いて,相互の相関関係を調べ,パラメータ間に強い相関を認めた場合には目的変数との決定係数R2(0<R2<1)がより1に近い因子を採用し,統計解析ソフトのRver.3.02を用い,目的変数を乳頭回転角(g),説明変数を楕円率,DM/DD比,乳頭中心窩角(b),眼軸長,ケラト値,年齢,性別,左右としてp値を用いた.II結果1.パラメータの相互相関対象のパラメータの内訳を表1に示す.各パラメータの相関結果(表2)として,眼軸長と屈折値,離心率と楕円率,HRT-2による乳頭解析データ(乳頭面積,陥凹面積,C/D比)とDM/DD比が,それぞれ相関係数r=.0.76,r=.0.94,r=.0.62,r=.0.48,r=.0.37となり,すべて有意確率p<0.05で相互に強い相関を認めた.また,乳頭回転角(g)と眼軸長,屈折値,離心率,楕円率,HRT-2による乳頭解析データ(乳頭面積,陥凹面積,C/D比),DM/DDとの決定係数R2(0<R2<1)はそれぞれR2=0.36,R2=.0.17,R2=0.06,R2=.0.18,R2=.0.05,R2=0.02,R2=.0.04,R2=0.31であった.重回帰分析の際,強い相関のある因子が存在するとき目的変数との決定係数R2がより1に近い因子を採用するため,屈折値,離心率,乳頭面積,陥凹面積,C/D比を説明変数から除き,眼軸長,楕円率,DM/DD比1184あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(118) を採用した.また,眼軸長と年齢に強い負の相関(r=.0.56,p<0.05)を認め,眼軸長とDM/DD比に強い正の相関(r=0.35,p<0.05)を認めた.DM/DD比と離心率の間には弱い正の相関(r=0.19,p<0.05)を認め,DM/DD比と乳頭回転角(g)の間に弱い負の相関(r=.0.15,p<0.05)を認めた(表2).2.重回帰分析重回帰分析の結果として,楕円率,年齢,性別,DM/DD比,左右,乳頭中心窩角(b),ケラト値の順に除外され,最終的に眼軸長のみ(p=0.003)が有意な説明変数として選択された.重回帰式はy=.4.874x+132.717となり,偏回帰係数,標準偏回帰係数,重相関係数,寄与率はそれぞれQ=.4.87,q=.0.21,R=0.60,R2=0.36となった.III考按各パラメータの相互相関を解析した結果,眼軸長と屈折値は相関係数.0.76の強い相関を示した.これまで屈折度が増加するほど眼軸長が延長する傾向があることが報告されており3.4),今回の結果も既報と同様の結果を示したといえる.また,眼軸長とDM/DD比の相関についても,OliveiraらはDM/DD比が大きいほど眼軸長は延長する傾向を報告しており5),今回の検討でも相関係数が0.35となり同様の結果を示した.DM/DD比と乳頭回転角(g)には明らかな相関を認めなかったことから,DM/DD比と乳頭回転角には関連性がなく,DM/DD比と離心率には弱い正の相関を認めたことから,正円に近いほどDM/DD比が小さくなる弱い傾向があることが,それぞれ示された.ステップワイズ変数選択(減数法)による重回帰分析を行った.重回帰分析を行う際,説明変数間に強い相関があると解析が不可能であったり,信頼性が低いものとなりやすいので,目的変数とそれぞれの因子との決定係数R2(0<R2<1)を算出し,より1に近い因子を採用した.これまで緑内障眼における強度近視と視神経乳頭の傾きとの関連が報告されている6.7).強度近視の緑内障眼では非近視眼と比べて乳頭黄斑線維束における網膜視神経節細胞の消失をきたしやすく8),視神経乳頭の傾斜はさまざまな病態生表1パラメータの分布meanminmaxDM/DD比2.73±0.331.804.26離心率0.43±0.160.000.75楕円率0.89±0.070.661.00乳頭中心窩角7.37±4.68.15.2237.05乳頭回転角18.5±33.3.89.389.9乳頭面積1.92±0.470.624.07陥凹面積0.48±0.330.002.25C/D比0.46±0.160.000.94眼軸長23.97±1.4520.9228.47ケラト値7.73±0.296.589.16屈折値.1.41±2.86.12.887.88年齢51.4±14.219.088.0表2パラメータの相互相関DM/DD比離心率楕円率乳頭中心窩角乳頭回転角乳頭面積陥凹面積C/D比眼軸長ケラト値屈折値年齢乳頭形状パラメータDM/DD比1.00離心率0.191.00楕円率.0.23.0.941.00乳頭中心窩角0.04.0.030.041.00乳頭回転角.0.15.0.030.100.071.00HRTパラメータ乳頭面積.0.62.0.170.17.0.030.031.00陥凹面積.0.48.0.130.13.0.01.0.010.721.00C/D比.0.37.0.080.090.050.020.490.871.00眼球形状パラメータ眼軸長0.350.10.0.18.0.01.0.17.0.09.0.19.0.251.00ケラト値0.07.0.01.0.02.0.01.0.180.130.070.030.521.00屈折値.0.33.0.110.180.150.090.150.190.22.0.76.0.081.00対象者データ年齢.0.130.010.050.160.090.070.160.19.0.56.0.290.501.00(119)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151185 理学的異常につながるとされている9).緑内障眼における視野欠損と視神経乳頭の傾きとの相関関係に関しても報告6)があるが,いずれもさらなる検討が必要であるとされている.また,視神経乳頭変形と耳側乳頭周囲網脈絡膜萎縮の形成に関する報告では,視神経乳頭は鼻側に位置するために,眼軸長延長に伴い耳側が後方に牽引され,視神経乳頭は傾斜し,鼻側の視神経線維束が隆起し全体として小型化する.その際に眼球の回旋とともに乳頭も回旋し,乳頭周囲に網脈絡膜萎縮が生じると報告されている10).今回の検討では,正常眼において乳頭回転角(g)と関連のある因子について検討した.その結果,乳頭回転角(g)と眼軸長に強い相関関係を認めた.また,重回帰式より右眼において楕円の長軸が中心窩に近づく方向を負としているため,眼軸長が延長するほど視神経乳頭の中心窩方向への回転が大きいことが明らかとなった.眼軸長の延長は近視傾向を意味し,以上の結果より正常眼において近視傾向があれば視神経乳頭の中心窩方向への回転が大きいことが示唆された.今後,視野情報を組み合わせるなどして緑内障眼について検討するにあたり,中心窩方向への回転が大きい視神経乳頭は近視傾向にあるという前提が得られた.さらなる課題として,乳頭回転角の加齢に伴う変化の解明や,将来的にはゲノム情報を組み合わせることにより,乳頭コロボーマ,視神経乳頭低形成などの視神経乳頭形成過程における異常の解明,視神経乳頭の脆弱性,圧感受性などの解明が考えられる.利益相反:森和彦(カテゴリーP:参天製薬株式会社),池田陽子(カテゴリーP:参天製薬株式会社),上野盛夫(カテゴリーP:参天製薬株式会社,千寿製薬株式会社),木下茂(カテゴリーP:参天製薬株式会社,千寿製薬株式会社)文献1)TakasakiH,HigashideH,TakedaHetal:Relationshipbetweenopticdiscovalityandhorizontaldisctiltinnormalyoungsubjects.JpnJOphthalomol57:34-40,20132)諸岡諭,板谷正紀,野中淳之ほか:視神経乳頭回転角と等価球面度数および視野との関連,第22回日本緑内障学会抄録集,122,20113)保坂明郎,高橋正孝,村上喜三雄ほか:近視に関する2,3の所見,とくに硝子体腔の変化について,日眼紀34:2808-2817,19834)神谷貞義,西信元嗣,魚里博ほか:新しい視点からみた学校近視の解析,その5.超音波による眼球構成要素とくに,眼軸と水晶体の成長について,眼紀36:2052-2060,19855)OliveiraC,HarizmanNGirkinCAetal:Axiallengthandopticdiscsizeinnormaleye.BrJOphthalmol91:37-39,20076)TayE,SeahSK,ChewSJetal:Opticdiskovalityasanindexoftiltanditsrelationshiptomyopiaandperimetry.AmJOphthalmol139:247-252,20057)ParkKA,ParkSE,OhSY:Long-termchangesinrefractiveerrorinchildrenwithmyopictiltedopticdisccomparedtochildrenwithouttiltedopticdisc.InvestOphthalmolVisSci54:7865-7870,20138)KimuraY,HangaiM,MorookaSetal:Retinalnervefiberlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:6472-6478,20129)HosseiniH,NassiriN,AzarbodPetal:Measurementoftheopticdiscverticaltiltanglewithspectral-domainopticalcoherencetomographyandinfluencingfactors.AmJOphthalmol156:737-744,201310)KimTW,KimM,WeinrebRNetal:Opticdiscchangewithincipientmyopiaofchildhood.Ophthalmology119:21-26,2012***1186あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(120)