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近赤外分光法を用いた新生児の他覚的視機能検査装置の開発

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):749〜754,2016©近赤外分光法を用いた新生児の他覚的視機能検査装置の開発岩田遥*1池田哲也*2半田知也*3石川均*2,3庄司信行*2,3清水公也*2*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2北里大学病院眼科*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学DevelopmentofObjectiveVisualFunctionTestDeviceforNewborns,UsingFunctionalNear-infraredSpectroscopyYoIwata1),TetsuyaIkeda2),TomoyaHanda3),HitoshiIshikawa2,3),NobuyukiShoji2,3)andKimiyaShimizu2)1)Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,3)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthScience,KitasatoUniversity新生児用近赤外分光法(fNIRS装置)を新たに開発し,新生児8名に対し他覚的視機能検査を試みた.プローブ数は2つであり,後頭結節を基準に左右両側3cmの位置に設置した.波形安定後,光刺激を10秒間与え,光刺激1秒前から光刺激5秒後までの合計16秒間,酸素化および脱酸素化ヘモグロビン濃度変化を測定した.被験者8名中5名(被験者1~5)は安定した波形を得ることができ,光刺激を与えた際に左右両側ともに有意な酸素化ヘモグロビン濃度の上昇(平均±標準偏差:0.12120±0.00721mMol-mm)を認めた(p<0.01).また,5名のうち被験者1および3の右半球,被験者5の左右両側を除き,それぞれの被験者は光刺激を与えた際に有意な脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少(平均±標準偏差:0.00243±0.00285mMol-mm)を認めた(p<0.01).他の3名(被験者6~8)は啼泣のため安定した波形を得られなかった.新生児用fNIRS装置は新生児の視機能評価に有用である可能性が示唆された.Wehavenewlydevelopednear-infraredspectroscopy(fNIRS)equipmentfornewborns,andtriedobjectivevisualfunctiontestingof8newborns.Weplacedtwoprobesontherightandleftsides(3cm)oftheprimaryvisualcortex,basedontheoccipitalprotuberanceofthenewborn.WemeasuredchangeinoxyanddeoxyHbconcentrationfor16seconds(beforelightstimulusfor1second,withstimulusfor10secondsandafterstimulusfor5seconds).Fiveofthe8subjects(subjects1-5)yieldedastablewaveform.SignificantriseinoxygenationHbconcentration(mean±standarddeviation:0.12120±0.00721mMol-mm)wasobservedonbothrightandleftsideswheneachofsubjects1-5receivedlightstimulation.SignificantdeclineindeoxygenationHbconcentration(mean±standarddeviation:0.00243±0.00285mMol-mm)wasobservedonbothrightandleftsideswheneachofsubjects1-5receivedlightstimulation.Theother3subjectswerecrying,sostablewavepatternscouldnotbeobtained.ItissuggestedthattheNeonatalfNIRSdeviceispotentiallyusefulforvisualfunctionevaluationinnewborns.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):749〜754,2016〕Keywords:他覚的視機能検査,近赤外分光法.objectivevisualfunctiontest,functionalnear-infraredspectroscopyはじめに新生児の視機能をできるだけ早期に評価することは重要である.新生児は自覚的応答ができないため,視機能を評価するにはpreferentiallooking法やoptokineticnystagmus法などの他覚的手法が用いられる.そのなかで,視覚反応を脳から直接捉える装置としてvisualevokedpotential(VEP)がある1~3).VEPは視覚刺激を与えることで大脳皮質視覚野に生じる微小な電位の変化を捉えることにより,視神経から第一次視覚野までの異常の有無を検査することができる.しかしながら,VEPはわずかな体動や静電気などのノイズの影響を受けやすく,ベッドサイドでの測定は困難な状況が多い.そのため,新生児に対してVEPを施行する際は鎮静剤を投与する必要がある.近年,大脳の非侵襲的な脳機能測定法として近赤外分光法(functionalnear-infraredspectroscopy:fNIRS)が開発され,眼科領域において用いられるようになってきた4~6).fNIRSは局所の脳活動変化に伴う脳血流の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン濃度変化を,生体を透過することができる700~900nmの近赤外光を用いて捉えることにより脳機能活動を間接的に評価することができる.fNIRSはノイズの影響が少なく,また神経活動時の変化を高い時間分解能(サンプリングレート)で詳細に検討することができる7).しかしながら,現状のfNIRS装置が大型のものが多く,設置にも時間がかかるため,臨床的な検査装置としてはむずかしい.そこで今回筆者らは,新生児の視機能評価に特化した小型のfNIRS装置を新たに開発し,新生児の他覚的視機能検査を行った.I対象対象は北里大学病院新生児特定集中治療室(NeonatalIntensiveCareUnit:NICU)に入院中の新生児8名(平均胎生週数39.9±2.5週)である.本研究は北里大学病院倫理委員会の承認を受けている(B14-40).II方法新生児に対し新たに開発したfNIRS装置(ADVANTEST社,東京都)を用いて酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン濃度変化を測定した.本装置の外観を図1aに示す.新生児用fNIRS装置はNICUのスペースを考慮した小型仕様であり,1つの近赤外線照射用LEDと4つの光子検出用のPINフォトダイオードからなるプローブが搭載されている(図1b).PINフォトダイオードは近赤外線照射用LEDの四方に配置している(距離は2cm).プローブ数は2つである.プローブ接着部はスポンジ構造であり,被験者の体動に影響されにくく,またどの被験者の頭部にもフィットする仕様となっている(図1b).それぞれのプローブに770nmおよび840nmの2波長発光型のLEDを使用し,2つの近赤外線の照射位置はほぼ同じになるよう設定されている.PINフォトダイオードの出力(微弱電流)は直後のアンプで電圧値に変換され本体へ送信される.プローブからの信号を受けた本体では最大34dBまでの増幅ゲインをもった可変ゲインアンプで信号を増幅する.増幅された信号は分解能16bitのanalogtodigital変換器(ADコンバータ)に取り込まれ,デジタルデータに変化する.プローブから本体への接続ケーブルを減らすため,各プローブからの4つのPINフォトダイオード出力は4:1のセレクタを通してリアルタイムに切り替えながら1本の信号として本体へ送信される.ADコンバータのコントロール,変換されたデジタルデータの処理,プローブ出力セレクト制御,近赤外線照射用LEDの照射タイミングなどは組み込み型のマイクロコントローラ(以下,マイコン)で制御されている.マイコンではノイズ成分の除去のためデジタル信号処理によりローパスフィルタ演算を行っている.ローパスフィルタのカットオフ値は10Hzである.デジタル信号処理されたデータは100ms間隔でBluetooth接続されたタブレット端末へ送信される〔見かけの測定間隔は100ms(10Hz)である〕.端末ではmodifiedLanbert-Beer則8)に則り,酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン濃度変化を計算している.近赤外線照射用LEDは照射OFF・770nm,照射・840nmを順番に繰り返している.マイコンは4つのPINフォトダイオード,2つのプローブで測定タイミングが重ならないよう,順番を制御している.一連のシーケンス動作は約400μs(サンプリングレート2,500KHz)で実行されている.PINフォトダイオードでの光量測定の際は,近赤外線照射用LEDOFF時の背景光量を測定し,近赤外線照射用LEDON時の測定値から差し引いている(差分データ).新生児用fNIRS装置は測定開始時に自動的にCALIBRATIONを実行する.測定開始時に新生児用fNIRS装置は近赤外線照射用LEDOFF時とON時の差分データがアナログ・デジタル変換のデジタルデータで0×1,500~0×2,000(16進)=5,376~8,192(10進)になるように可変ゲインアンプのゲインを設定する.アナログ・デジタル変換のデジタル値は−32,768~32,767(10進)=0×8,000~0×7FFF(16進)が全範囲である.この値は各PINフォトダイオードにデジタルデータとして保持され,測定中は対応するPINフォトダイオードにより可変ゲインアンプのゲインデータをリアルタイムに切り替える.プローブは新生児の後頭結節を基準に左右両側3cmの位置に設置した.視覚刺激は波形の安定後,ベッドサイドで半暗室において,非鎮静下かつ閉瞼状態で行った.室内照度は20ルクス(lx)である.視覚刺激は光刺激(白色光,400lx)であり,刺激時間は前レスト(1秒間:光刺激を行わない)→タスク(10秒間:光刺激を行う)→後レスト(5秒間:光刺激を行わない)の合計16秒間である.それぞれの被験者の前レストからタスクへの酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量を左右半球に分けて解析した.測定外観を図2に示す.統計解析にはpairedt-testを用い,有意水準1%以下を有意差ありとした.III結果すべての被験者の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン濃度変化の波形を図3に示す.被験者8名中5名(被験者1~5)は安定した波形を得ることができた.被験者1~5の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量を表1に示す.被験者1~5は平均±標準偏差で0.12120±0.00721mMol-mmの酸素化ヘモグロビン濃度の上昇,0.00243±0.00285mMol-mmの脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少を認めた.被験者1~5はそれぞれ,前レストから光刺激を与えた際に左右両側ともに有意な酸素化ヘモグロビン濃度の上昇を認めた(p<0.01).左右両側ともに酸素化ヘモグロビン濃度の上昇が認められた5名中2名(被験者2,4)はそれぞれ,前レストから光刺激を与えた際に有意な脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少を認めた(p<0.01).しかしながら,被験者1および3の左半球はそれぞれ脱酸素化ヘモグロビン濃度の有意な減少を認める(p<0.01)が,右半球はそれぞれ脱酸素化ヘモグロビン濃度の有意な減少を認めず,また被験者5は左右半球ともに脱酸素化ヘモグロビン濃度の有意な減少を認めなかった.残りの3名の被験者(被験者6~8)は啼泣しており,測定中の体動が大きいため安定した波形を得ることができなかった.IV考按今回,新たに開発したfNIRS装置を用いてベッドサイドでの新生児の視機能を他覚的に評価できる可能性が示唆された.安定した波形が得られた症例において,視覚刺激を与えた際に酸素化ヘモグロビン濃度の上昇および脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少が認められたが,被験者間およびプローブ間に波形の大小が観察された.これは,新生児の胎生週数の違いによる骨の厚みや毛髪の量の違いや,また国際10-20法9,10)に従わず,後頭結節を素早く確認しその位置にプローブを当てていることから,プローブ接着位置に若干の位置ずれがあったことなどが原因であると考えられる.過去の新生児の視覚野に対する先行研究においても,視覚刺激に対する第一次視覚野の酸素化ヘモグロビン濃度の上昇および脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少が報告されており4,6,11),今回の筆者らの研究においてもプローブを接着できた症例では同様の結果が得られた.fNIRSは脳の神経活動を間接的に評価している.今回の結果における酸素化ヘモグロビン濃度の上昇および脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少は光刺激に対する視覚野の活動を捉えることができたと推察する.従来のfNIRS装置は脳のすべての範囲を測定できるよう,プローブ数が多いため装置が大型で装着に時間がかかった.今回の試作装置は新生児の視覚反応を素早く手軽に捉えることを目的としており,プローブの設置を簡易的にし,装置も小型にしているため,NICUに持ち込んで保育器のベッドサイドで測定することができた.さらに,新生児を鎮静化させることなく,わずかな体動であればノイズを抑えることができ,安定した波形を取得することができた.しかしながら,測定前から啼泣しており体動が大きく,測定できない症例もあった.新生児はとくに授乳前に啼泣し,授乳後はおとなしい傾向がみられた.新生児は空腹や眠気,および痛みなどさまざまな原因によって啼泣することが知られている12).今後,測定時間も考慮することにより,さらに安定した結果が得られる可能性があると考えられる.今回の筆者らの研究では新生児用fNIRS装置を新生児の視機能を他覚的に測定することに用いたが,本機器は新生児のみならず,他の自覚的応答が困難な患者や,心因性視覚障害,詐病などの評価にも応用できると考えられる.今後のfNIRSのさらなる応用が期待される.文献1)McCullochDL,OrbachH,SkarfB:Maturationofthepattern-reversalVEPinhumaninfants:atheoreticalframework.Visionres39:3673-3680,19992)McDonaldCG,JoffeCL,BarnetABetal:Abnormalflashvisualevokedpotentialsinmalnourishedinfants:anevaluationusingprincipalcomponentanalysis.ClinNeurophysiol118:896-900,20073)KaraśkiewiczJ,LubińskiW,PenkalaK:Visualevokedpotentialsinadiagnosisofavisualpathwaydysfunctionofachildwithanarachnoidcyst.DocOphthalmol130:77-81,20154)WatanabeH,HomaeF,TagaG:Activationanddeactivationinresponsetovisualstimulationintheoccipitalcortexof6-month-oldhumaninfants.DevPsychobiol54:1-15,20125)MikiA,NakajimaT,TakagiMetal:Near-infraredspectroscopyofthevisualcortexinunilateralopticneuritis.AmJOphthalmol139:352-356,20056)LiaoSM,GreggNM,WhiteBRetal:Neonatalhemodynamicresponsetovisualcortexactivity:high-densitynear-infraredspectroscopystudy.JBiomedOpt15:026010,20107)福田正人:精神疾患の診断・治療のための臨床検査としてのNIRS測定.MEDIX10:4-10,20038)DelpyDT,CopeM,vanderZeePetal:Estimationofopticalpathlengththroughtissuefromdirecttimeofflightmeasurement.PhysMedBiol33:1433-1442,19889)KlemGH,LüdersHO,JasperHHetal:Theten-twentyelectrodesystemoftheInternationalFederation.TheInternationalFederationofClinicalNeurophysiology.ElectroencephalogrClinNeurophysiolSuppl52:3-6,199910)OkamotoM,DanH,SakamotoKetal:Three-dimensionalprobabilisticanatomicalcranio-cerebralcorrelationviatheinternational10-20systemorientedfortranscranialfunctionalbrainmapping.Neuroimage21:99-111,200411)ShibataM,FuchinoY,NaoiNetal:Broadcorticalactivationinresponsetotactilestimulationinnewborns.Neuroreport23:373-377,201212)荒川薫:乳幼児泣き声の定量的解析と啼泣原因推定.電子情報通信学会基礎・境界ソサイエティ.FundamentalsReview1:221-225,2007〔別刷請求先〕岩田遥:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:YoIwata,CO,Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN図1新生児用fNIRS装置外観(a)とプローブ外観(b)スポンジ構造となっている.図2測定外観便宜上,明室での撮影となっている.図3各被験者の結果実線が酸素化ヘモグロビン,点線が脱酸素化ヘモグロビン濃度変化を示す.時間軸の二重線は光刺激を与えた時間を示す.表1各被験者の酸素化および脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(125)749750あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(126)(127)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016751752あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016753754あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(130)