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細菌性角膜炎臨床分離株に対するFractional Inhibitory Concentration Indexを用いた抗菌薬併用効果の検討

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(91)15610910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15611565,2008cはじめに細菌性角膜炎は,日常臨床においてよく遭遇する疾患で,近年,コンタクトレンズ装用者に急増している.初期例を取り扱うことの多い第一線の診療現場では,臨床所見と的確な問診,起炎菌リスト(コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎を含む感染性角膜炎の原因菌を調査した全国サーベイランスの結果が役立つ1))などから,初診時におおよその原因菌を予測し,有効と考えられる抗菌点眼薬を投与しているのが実情〔別刷請求先〕鈴木崇:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakashiSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,JAPAN細菌性角膜炎臨床分離株に対するFractionalInhibitoryConcentrationIndexを用いた抗菌薬併用効果の検討鈴木崇大橋裕一愛媛大学医学部眼科学教室EectofAntibioticCombinationagainstBacteriaIsolatedfromKeratitisUsingFractionalInhibitoryConcentrationIndexTakashiSuzukiandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicineEhimeUniversity細菌性角膜炎の治療においては,抗菌スペクトルを補う目的で複数の抗菌点眼薬をしばしば併用するが,他方,副次効果として,併用によって互いの薬剤の抗菌力が増強する可能性も考えられる.今回,細菌性角膜炎からの臨床分離株(ブドウ球菌属22株,レンサ球菌属5株,グラム陰性桿菌7株)に対して,レボフロキサシン(LVFX)+セフメノキシム(CMX),LVFX+トブラマイシン(TOB),LVFX+エリスロマイシン(EM),LVFX+クロラムフェニコール(CP)の併用効果をinvitroにおいて検討した.チェッカーボード法により,併用抗菌薬の単独使用時の最小発育阻止濃度(MIC)と併用時のMICを測定し,fractionalinhibitoryconcentrationindex(FICindex)=[併用時のMIC(a)/単独時のMIC(a)]+[併用時のMIC(b)/単独時のMIC(b)]を算出したところ,ブドウ球菌属・レンサ球菌属に対してはLVFX+CMXの平均FICindexが最も低く,グラム陰性桿菌に対してはLVFX+TOBのFICindexが最も低かった.これらの結果は,細菌性角膜炎に対して通常われわれが行っているempirictherapy(グラム陽性球菌→LVFX+CMX,グラム陰性桿菌→LVFX+TOB)の合目的性をさらに高めるものである.Infectiouskeratitisisusuallytreatedwithabroadcombinationofantibacterialeyedrops,inordertocovertheentireantibacterialspectrum.Combinationsofantibacterialagentsmayresultinincreasedantibacterialactivity.Totestthispossibility,weinvestigatedtheeectofcombinationsoflevooxacin(LVFX)withcefmenoxime(CMX),tobramycin(TOB),erythromycin(EM)andchloramphenicol(CP)oninfectiouskeratitisbacterialisolates(22iso-latesofStaphylococcussp.,5isolatesofStreptococcussp.and7isolatesofgram-negativerods).Acheckerboardmicrotitrationmethodwasusedtodeterminetheminimuminhibitoryconcentration(MIC)andfractionalinhibitoryconcentration(FIC)index(FIC=[MICofcombination(a)/MICofdrug(a)alone]+[MICofcombination(b)/MICofdrug(b)alone]).ThelowestaverageFICindexesoccurredwithLVFX+CMXinStaphylococcussp.andStrep-tococcussp.,andwithLVFX+TOBingram-negativerods.TheseresultsindicatethatLVFX+CMXandLVFX+TOBcombinationsareeectivefortreatmentofkeratitiscausedbygram-positivecocciandgram-negativerods,respectively〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15611565,2008〕Keywords:細菌性角膜炎,FICindex,最初発育阻止濃度,併用効果.bacterialkeratitis,FICindex,themini-muminhibitoryconcentration,theeectofcombinations.———————————————————————-Page21562あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(92)である.細菌性角膜炎の治療,特にempirictherapyでは,抗菌点眼薬が併用される場合が多い.おもな目的は,抗菌スペクトルを広げ,できるだけ多くの菌種をカバーする点にある2)が,抗菌点眼薬の併用にさらなる付加価値があるか否かは明らかにされていない.近年,抗菌薬の併用効果の指標として,fractionalinhibitoryconcentrationindex(FICindex)がよく用いられている3).そこで今回,細菌性角膜炎から分離された臨床株に対する汎用抗菌点眼薬のFICindexを算出し,抗菌薬の併用増強効果について比較検討した.I方法対象は,20022006年の間に愛媛大学医学部付属病院眼科で加療した細菌性角膜炎患者から分離された細菌34株である(表1).検討薬剤の軸はニューキノロン系抗菌薬のlevooxacin(LVFX)とし,その併用薬として,cefmenoxi-me(CMX),tobramycin(TOB),erythromycin(EM),およびchloramphenicol(CP)を選択した.抗菌薬の最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)ならびにFICindexの測定は,CLSI(ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute)4,5)およびASM(TheAmericanSocietyforMicrobiology)6)に準じた微量液体希釈法を用い,チェッカーボード法にて実施した.LVFXと各種併用薬剤を種々の濃度に組み合わせた液体培地(cation-adjustedMueller-Hintonbroth:CAMHB,レンサ球菌属はCAMHB+2.5%ウマ溶血液を使用した)に菌液を接種し,35℃で好気培養した.1624時間の培養後に,菌の発育が認められないwellの最小の薬剤濃度をMICとし,FICindexを下記の計算式に従い算出した.FICindex= 併用時のMIC(a)/単独時のMIC(a)+併用時のMIC(b)/単独時のMIC(b)FICindexは小数点以下4桁目を四捨五入して小数点以下3桁で表記した.また,得られたFICindexから,FICindex≦0.5を相乗作用,0.5<FICindex≦1を相加作用,1<FICindex≦2を不関,FICindex>2を拮抗作用と判定した.II結果1.LVFXとの併用によるFICindex全34株の菌種別のFICindexの平均値±標準偏差と,上記評価基準に基づいた分類を表2に示す.ブドウ球菌属(22株)のFICindexは,LVFX+CMXで1.05±0.48と最も優れており,つぎにLVFX+TOBが1.38±0.59で続いた.LVFX+CMX,LVFX+TOBの組み合わせにおいて相加作用を示した菌株の割合は,それぞれ82%,55%であったのに対し,LVFX+EM,LVFX+CPでは,それぞれ,9%,5%ときわめて少なかった.また,レンサ球菌属(5株)に対するFICindexの平均値±標準偏差は,LVFX+CMXで1.05±0.33と,ブドウ球菌属と同じく,最も良好な結果となり,つぎにLVFX+CPが1.20±0.45で続いた.一方,グラム陰性桿菌(7株)におけるFICindexは,LVFX+CMX,LVFX+TOBが,それぞれ1.04±0.44,1.04±0.46と良好な数値を示した.本試験では,すべての菌種に対して相乗作用を示した併用薬剤の組み合わせ,または,拮抗作用を示した併用薬剤の組み合わせは認められなかった.2.併用によるMICの変化ブドウ球菌属において,FICindexの良好であったLVFX+CMX,LVFX+TOBの併用時のMICの変化をMIC累積曲線(図1)とMIC80(表3)で示す.LVFXの感受性は単独では0.12128<μg/mlであったが,CMXあるいはTOBとの併用時には,それぞれ0.015128<μg/ml,0.015128<μg/mlへと高度耐性株を除いて,2倍から8倍程度,MIC累積曲線が感性側へシフトした.また,LVFX単独時表1対象とした臨床分離株菌名株数Methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus(MSSA)6CoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)16Streptococcuspneumoniae3StreptococcusspeciesotherthanS.pneumoniae2Pseudomonasaeruginosa5Klebsiellaoxytoca1Serratiamarcescens1合計34表2菌種別のFICindexと評価FICindex評価の割合(%)Mean±SDRange相加不関ブドウ球菌属LVFX+CMX1.05±0.480.56328218LVFX+TOB1.38±0.590.50825545LVFX+EM1.91±0.291.02.0991LVFX+CP1.95±0.211.02.0595レンサ球菌属LVFX+CMX1.05±0.330.7528020LVFX+TOB1.73±0.610.62522080LVFX+EM1.35±0.600.7526040LVFX+CP1.20±0.451.02.08020グラム陰性桿菌LVFX+CMX1.04±0.440.7528614LVFX+TOB1.04±0.460.53128614LVFX+EM1.20±0.570.6252.07129LVFX+CP1.17±0.590.752.07129———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081563(93)のMIC804μg/mlが,CMX併用時およびTOB併用時ともに2μg/mlとなり,2倍の抗菌力増強効果を示した.一方,CMXにおいても,LVFXとの併用により,CMXのMIC累積曲線は左方へシフトした.また,CMX単独時のMIC802μg/mlが,LVFX併用時には1μg/mlと2倍の抗菌力増強効果を示した.TOBの場合には,LVFXとの併用によるMIC累積曲線の変化はみられなかった.表4に,レンサ球菌属において,FICindexの良好であったLVFX+CMXの併用におけるMICの変化を示す.Strep-tococcuspneumoniaeの1株を除き,LVFX+CMXの併用下では,LVFXあるいはCMX単独時よりも,それぞれの抗菌力が24倍に増強していた.図1ブドウ球菌属における各種抗菌薬の単独使用時,併用時のMIC累積曲線LVFXのMIC累積曲線CMXのMIC累積曲線TOBのMIC累積曲線:LVFX単独:LVFX(TOB併用下):LVFX(CMX併用下):CMX単独:CMX(LVFX併用下):TOB単独:TOB(LVFX併用下)0.0150.030.060.120.250.51248163264128128<0.030.060.120.250.5124811010090807060504030201000.0150.030.060.120.250.512481632表5グラム陰性桿菌に対するLVFX,CMX,TOBの単独使用時,併用時のMICの変化菌名MIC(μg/ml)LVFXCMXTOB単独CMX併用下TOB併用下単独LVFX併用下単独LVFX併用下P.aeruginosa0.50.250.25840.50.25P.aeruginosa0.50.120.251680.50.25P.aeruginosa10.50.516810.03P.aeruginosa0.50.120.2516810.5P.aeruginosa0.50.120.2516810.5K.oxytoca0.030.030.030.030.030.50.5S.marcescens0.250.120.120.120.060.50.12表4レンサ球菌属に対するLVFX,CMXの単独使用時,併用時のMICの変化菌名MIC(μg/ml)LVFXCMX単独併用単独併用1S.pneumoniae10.250.50.252S.pneumoniae110.0080.0083S.pneumoniae10.50.120.034Streptococcusspp.*0.50.250.0150.0045Streptococcusspp.*0.50.250.0150.008*StreptococcusspeciesotherthanS.pneumoniae.表3ブドウ球菌属における各種抗菌薬の単独使用時,併用時のMIC80MIC80(μg/ml)LVFX単独4LVFX(CMX併用下)2LVFX(TOB併用下)2CMX単独2CMX(LVFX併用下)1TOB単独4TOB(LVFX併用下)2———————————————————————-Page41564あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(94)表5に,グラム陰性桿菌に対してFICindexの良好であったLVFX+CMX,LVFX+TOBの併用下におけるMICの変化を示す.Klebsiellaoxytocaの1株を除いて,LVFX+TOBの併用により,LVFXおよびTOBの抗菌力は単独時に比べて232倍に増強した.また,同じくK.oxytocaの1株を除いて,LVFX+CMXの併用により,LVFXの抗菌力はLVFX単独時よりも24倍増強した.CMXの抗菌力も,CMX単独時に比較してLVFX併用により2倍増強したが,グラム陰性桿菌に対するCMXのMICがもともと高値のため,抗菌作用は低いレベルにとどまった.III考察細菌性角膜炎の治療においては,原因菌の同定後,最も感受性の良好な薬剤を集中投与するのが理想的である.しかしながら,ときに重症化し,瘢痕形成などで視力低下をきたす場合もある点で,当初のempirictherapyにおいては複数の抗菌点眼薬を使用するケースが多い.近年行われた眼感染症学会の疫学調査によれば,コンタクトレンズ装用者を中心に,ブドウ球菌属,レンサ球菌属などのグラム陽性球菌と,緑膿菌やセラチア属を代表とするグラム陰性桿菌が,細菌性角膜炎の原因菌の大部分を占めているため1),受診時にどちらのタイプの感染かをある程度想定し,治療を開始するのが実際的である.臨床的には,グラム陽性球菌が単発で円形もしくは楕円形の細胞浸潤を,グラム陰性桿菌が輪状膿瘍や不整形の浸潤を示すこと,また,場合によっては角膜擦過物の塗抹検査結果などから,おおよその原因菌推測が可能であるが,原因菌に感受性が高いと思われる抗菌薬点眼を単独で使用すべきか,別の系統を併用すべきかについての議論は抗菌スペクトルの拡大という論点以外にはなかったといえる.今回,筆者らが行ったFICindexの検討より,抗菌薬点眼の併用が,原因菌に対する幅広いスペクトルのカバーに加えて,互いの薬剤の抗菌力増強という副次効果を生む可能性が示された.具体的には,ブドウ球菌属・レンサ球菌属に対してはLVFX+CMXの併用が,グラム陰性桿菌に対してはLVFX+TOBの併用が最もFICindexが低く,また,併用されたどちらの薬剤についても,単独時よりも併用時においてMICが低くなることが明らかとなった.すなわち,臨床所見や病歴などからグラム陽性球菌かグラム陰性桿菌のいずれであるかを類推し,前者の場合にはLVFX+CMXを,後者の場合にはLVFX+TOBを投与するのが合目的的といえる.ブドウ球菌属においては,LVFX+CMXの組み合わせが最も優れていたが,LVFX+TOBの併用でも,相加作用を示す株が55%と比較的多くを占めた.TOB自体のMICはLVFXによって変化しなかったが,LVFXのMICはTOBの存在下で,単独時よりも低下し,また,LVFX単独では比較的MICの高い株が,TOBの併用によって低くなる傾向もみられたのは注目に値する.実際,TOBが外眼部の感染症に第一選択として使用される頻度はほとんどないため,ブドウ球菌属に対する感受性は逆に回復する傾向にある.この意味で,LVFX+TOBの組み合わせは,ブドウ球菌角膜炎の治療において,意外に有効なオプションとなる可能性もある.なお,今後は,増加しつつあるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)に対する併用効果について検討する必要があるであろう.一方,株数が5株と少ないため十分な検討はできなかったが,レンサ球菌属に関してはLVFX+CMXおよびLVFX+CPの組み合わせに併用効果が認められた.特に,CMXとの併用によって,レンサ球菌属に比較的低感受性のLVFXの抗菌力が向上する点は,大きなメリットと考えられる.グラム陰性桿菌に関しては,LVFX+TOB,LVFX+CMXのFICindexが良好であった.興味深いことに,Pseudomonasaeruginosaの5株に対するLVFXのMICは,CMXあるいはTOBとの併用により単独時よりも低下していた.特に,CMXの存在下にLVFXのMICが1/4にまで低下している株が5株中3株もあり,併用により,むしろTOBよりもLVFXの抗菌力を増強させる傾向が認められた.もちろん,CMX自体のグラム陰性桿菌に対する抗菌力が強くないため,第一選択薬とはなりえないが,LVFXの抗菌力を増強させる点において,グラム陰性桿菌に対してもLVFX+CMXの併用が有用である可能性は十分にある.細菌性角膜炎に対する抗菌薬投与の指標としては,MIC以外にpostantibioticeect(PAE)などがよく知られている7).これらに加えて,FICindexは薬剤間の併用効果を評価しうる有益な指標であり,その結果は,複数の抗菌点眼薬を併用することの多い角膜炎の診療を考えるうえで重要である.FICindexの有用性は他科領域においても細菌性髄膜炎などの治療方針に有効であると報告されており,実際,難治性MRSA感染症に対して,FICindexが良好な薬剤を併用したところ,良好な治療効果が得られたとの報告もある8,9).ニューキノロン系の抗菌点眼薬は外眼部感染症の第一選択薬として長年汎用されており,徐々に感受性の低下も認められる.したがってinvitroでの結果ではあるが,今回の知見は,ニューキノロン系と他系統の抗菌点眼薬の併用がより優れた治療効果をもたらす期待をわれわれに抱かせるものである.今後とも,対象菌株を増加させるとともに,併用抗菌薬のバリエーションも拡大し,検討を重ねていく必要がある.謝辞:本検査についてご協力いただいた三菱化学メディエンス・化学療法研究室の松崎薫様,雑賀威様,佐藤弓枝様に御礼申し上げます.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081565(95)文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)日本眼感染症学会:特集・感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20073)渋谷泰寛,大野高司,伊東紘一:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するvancomycinとcephem系薬の併用効果.日本化学療法学会雑誌51:621-625,20034)Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;Seventeenthinformationalsupplement(CLSIM100-S17,2007)5)Methodsfordilutionantimicrobialsusceptibilitytestsforbacteriathatgrowaerobically;Approvedstandard─seventhedition(CLSIM7-A7,2006)6)Clinicalmicrobiologyprocedureshandbook;secondedi-tion(ASM,2004)7)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibiticeectの比較.日眼会誌110:773-983,20068)相沢治朗,石和田稔彦,黒木春郎ほか:細菌性髄膜炎の初期治療における臨床細菌学的検討.日本化学療法学会雑誌51:115-119,20039)大塚喜人,島村由起男,吉部貴子ほか:TEICとCMZの併用が著効した心臓大血管術後のMRSA感染症の2例.TheJapaneseJournalofAntibiotics56:55-60,2003***

正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の36 カ月間の効果

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(129)7050910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):705709,2008cはじめに緑内障治療の目標は残存視野を維持することである.視野維持に対して眼圧下降のみが高いエビデンスを得ている1).眼圧下降のために第一選択として抗緑内障点眼薬を用いることが多い.まず単剤点眼を行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は,点眼薬の変更や作用機序の異なる薬剤の併用が必要となる.これら併用療法における長期的な眼圧下降効果の検討は十分に行われていない.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の36カ月間の効果井上賢治*1塩川美菜子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AdditiveEfectofBunazosinHydrochloridefor36MonthsinPatientswithNormal-TensionGlaucomaKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬による単剤点眼治療中の正常眼圧緑内障患者26例に2剤目として塩酸ブナゾシン点眼を1日2回追加投与し,36カ月間の経過観察を行った.追加投与前,投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧,副作用を調査した.さらに投与前と投与12,24,36カ月後の視野障害度を比較した.塩酸ブナゾシン追加前の使用薬剤はb遮断薬が14例,プロスタグランジン関連薬が12例,眼圧は16.7±1.6mmHgであった.塩酸ブナゾシン投与後の眼圧は36カ月にわたり14.115.0mmHgで有意に下降した(p<0.0001).さらにa1b遮断薬,(狭義)b遮断薬,ラタノプロスト使用例に分けて眼圧を検討したが,(狭義)b遮断薬とラタノプロスト使用例では塩酸ブナゾシン追加投与により眼圧が有意に下降した(p<0.0001)が,a1b遮断薬使用例では眼圧下降率が弱かった.投与前と投与36カ月後までのHumphrey視野のmeandeviation値は同等であった.副作用として軽度の点状表層角膜炎,結膜充血が合計6例7件に出現した.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を2剤目として併用することは眼圧および視野維持効果の点から36カ月間にわたり有効であった.Westudiedtheclinicalusefulnessofcombinedtherapywiththeadjunctionofbunazosinhydrochloridein26patientswithnormal-tensionglaucomawhohadbeentreatedwithb-blocker(14patients)orprostaglandin-related(12patients)ophthalmicsolution.Thepatientsweretreatedwithbunazosinhydrochlorideasthesecondagent;intraocularpressureexaminationandadverseeectsweremonitoredbeforeandat6,12,18,24,30and36monthsafteradministration.Visualelddefectwasmonitoredandcomparedbeforeandat12,24and36monthsafteradministration.Meanintraocularpressuresignicantlydecreasedto14.115.0mmHgat6,12,18,24,30and36monthsafteradministration(p<0.0001),comparedto16.7±1.6mmHgbeforeadministration.Meanintraocularpressurealsodecreasedsignicantlyafteradministrationinpatientstreatedwithbothb-blockerandlatanoprost(p<0.0001).Visualelddefectsweresimilarbeforeandat12,24and36monthsafteradministration.Adverseeectssuchassupercialpunctatekeratitisandhyperemiawereobservedin6patients(7cases).Bunazosinhydrochlorideisdeemedeectiveforadditionaltreatmentofnormal-tensionglaucomapatientsfor36months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):705709,2008〕Keywords:塩酸ブナゾシン,眼圧,視野障害,正常眼圧緑内障,併用効果.bunazosinhydrochloride,intraocularpressure,visualelddefect,normal-tensionglaucoma,combination.———————————————————————-Page2706あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(130)の場合は右眼を解析眼とした.投与前と投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)および多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.a1b遮断薬,(狭義)b遮断薬,ラタノプロストの眼圧下降率の比較にはANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.投与前と投与12,24,36カ月後のHumphrey視野のMD値の比較にはANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果全症例の眼圧は,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.6±1.4mmHg,14.6±1.5mmHg,15.0±1.9mmHg,14.6±1.4mmHg,14.3±1.5mmHg,14.1±1.2mmHgで,投与後は投与前に比べ有意に下降していた(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図1).塩酸ブナゾシン追加投与前からの眼圧変化量は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれ2.1±1.4mmHg,2.0±1.0mmHg,1.8±1.6mmHg,2.1±1.3mmHg,2.5±1.1mmHg,2.6±1.6mmHgであった.眼圧下降率は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれ12.3±8.0%,12.5±5.5%,10.2±10.3%,12.1±7.3%,14.7±6.2%,14.9±9.1%であった.投与36カ月後の眼圧下降率は,5%未満が2例,510%が3例,1015%が7例,1520%が5例,20%以上が9例であった.塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別の眼圧は,a1b遮断薬では投与前が16.7±2.2mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.8±1.0mmHg,15.3±2.0mmHg,16.8±1.1mmHg,15.0±1.3mmHg,14.6±2.2mmHg,15.2±1.0mmHgであった.(狭義)b遮断薬では投与前が17.4±1.1mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.9±1.0mmHg,14.8±1.0mmHg,15.1塩酸ブナゾシンは選択的交感神経a1受容体遮断作用によりぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進することにより眼圧を下降させる点眼液である2).さらに視神経乳頭周囲血管や脈絡膜,網膜の血流増加作用もあると報告されている3,4).塩酸ブナゾシン点眼の正常人や緑内障患者への単剤使用310)や他の緑内障点眼薬との併用使用1124)の報告では,おおむね良好な眼圧下降効果が示されている.これらの報告の対象はおもに原発開放隅角緑内障や高眼圧症の患者が多く820),正常眼圧緑内障の患者は比較的少ない57,2124).正常眼圧緑内障患者を対象に塩酸ブナゾシン点眼を使用した報告は単剤投与57),2剤目2123)や23剤目24)として追加投与したものである.2剤目として追加投与した報告は投与期間が2週間21)あるいは12週間22)と短期であった.そこで筆者らはb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼を単剤で使用している正常眼圧緑内障患者を対象に塩酸ブナゾシンを2剤目として12カ月間投与した際の眼圧下降効果,視野維持効果および副作用を報告した23).今回はさらに塩酸ブナゾシンの投与期間を36カ月間に延長して再検討した.I対象および方法平成16年2月から9月までの間に井上眼科病院に通院中の正常眼圧緑内障患者で,(広義)b遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼による単剤治療を1カ月以上行っているにもかかわらず,眼圧下降効果が不十分あるいは視野障害が進行している26例を対象とした.男性6例,女性20例,年齢は4178歳,59.7±9.1歳(平均±標準偏差)であった.塩酸ブナゾシン追加投与前の眼圧は16.7±1.6mmHg(1319mmHg)であった.Humphrey視野中心30-2プログラムのmeandeviation(MD)値は9.1±6.3dB(24.11.3dB)であった.使用中の点眼薬は(広義)b遮断薬が14例(ニプラジロール4例,マレイン酸チモロール4例,ゲル化マレイン酸チモロール3例,塩酸レボブノロール2例,塩酸ベタキソロール1例),プロスタグランジン関連薬が12例(ラタノプロスト10例,イソプロピルウノプロストン2例)であった.内眼手術,レーザー手術の既往例は除外した.使用中の点眼薬はそのまま継続し,2剤目として塩酸ブナゾシン点眼(1日2回朝夜点眼)を追加し,投与前,投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧を調査した.各来院時に副作用,投与12,36カ月後に点眼状況を調査した.使用中の点眼薬をa1b遮断薬6例(ニプラジロール+塩酸レボブノロール),(狭義)b遮断薬8例(マレイン酸チモロール+ゲル化マレイン酸チモロール+塩酸ベタキソロール),ラタノプロスト10例に分けて,眼圧と眼圧下降率を検討した.投与12,24,36カ月後にHumphrey視野中心30-2プログラムを行った.両眼投与症例では投与前眼圧が高いほうを,同値図1ブナゾシン点眼追加投与前後の眼圧***p<0.0001:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法.眼圧(mmHg)08101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月******************n=26n=26n=26n=24n=24n=26n=26投与後———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008707(131)副作用は6例7件で出現し,結膜充血が4件,点状表層角膜炎が3件であったが,いずれも塩酸ブナゾシン点眼治療を中止するほど重篤ではなかった.点眼状況は,12カ月後には全例で毎日きちんと点眼していた.36カ月後には塩酸ブナゾシン点眼は週に一度程度忘れる1例,月に一度程度忘れる5例,毎日きちんと点眼する20例,プロスタグランジン関連薬あるいはb遮断薬は月に一度程度忘れる2例,毎日きちんと点眼する24例であった.III考按塩酸ブナゾシン点眼の単剤使用は(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者に対して,短期投与では眼圧下降幅および眼圧下降率は,それぞれ4週間投与で3.0mmHgと12.7%9),3.0mmHgと12.9%10),6週間投与で1.5mmHgと6.9%11)と報告されている.長期投与では52週間投与で投与前眼圧23.2±1.6mmHgが52週間にわたり18.219.6mmHgに有意に下降していた8).正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を単剤で投与した際の眼圧下降効果は,12週間投与で眼圧が17.7±1.8mmHgから0.9mmHg下降したが差はなかった4),48週間投与で眼圧が15.8±2.7mmHgから12.4±1.9mmHgに有意に下降した5)との報告があり,一定の見解は得られていない.塩酸ブナゾシン点眼の併用使用に関しては,(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症への2剤目としてマレイン酸チモロールあるいはラタノプロストに短期的に追加投与した報告がある1215).マレイン酸チモロールに追加投与した際の眼圧下降幅および眼圧下降率は,4週間投与(投与前眼圧23.7±1.8mmHg)で2.33.1mmHgと9.713.1%15),12週間投与(投与前眼圧22.5±3.5mmHg)で2.62.8mmHgと11.612.4%13)であった.今回の(狭義)b遮断薬の結果(2.33.1mmHgと15.119.6%)は,眼圧下降幅はほぼ同等で,眼圧下降率は投与前眼圧(17.4±1.1mmHg)が低いため良好であった.ラタノプロストに追加投与した際の眼圧下降幅および眼圧下降率は,8週間投与(投与前眼圧18.2±3.4mmHg)で1.11.6mmHgと6.08.8%14),12週間投与(投与前眼圧22.3±3.0mmHg)で1.12.8mmHgと5.312.0%13),12週間投与(投与前眼圧21.4±2.2mmHg)で1.23.3mmHgと4.715.8%12)であった.(広義)原発開放隅角緑内障への2剤目としてラタノプロストに6週間追加投与した際(投与前眼圧17.4mmHg)の眼圧下降幅は0.7mmHg,眼圧下降率は4.0%であった11).一方,(広義)原発開放隅角緑内障への2剤目としてウノプロストンに24週間追加投与した際に,眼圧が15.0±3.6mmHgから13.3±3.4mmHgに有意に下降し,眼圧下降幅および眼圧下降率は1.7mmHgと11.0%であった20).今回のラタノプロストの結果(2.13.0mmHgと15.419.8%)は過去の報告より良好±1.1mmHg,15.1±1.1mmHg,14.7±1.0mmHg,14.3±1.3mmHgであった.ラタノプロストでは投与前が16.5±1.4mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.4±1.7mmHg,14.3±1.4mmHg,14.4±1.7mmHg,14.3±1.3mmHg,13.8±1.3mmHg,13.5±0.9mmHgであった.(狭義)b遮断薬,ラタノプロストでは投与後すべての観察時で眼圧が投与前に比べ有意に下降した(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図2).a1b遮断薬では投与6,24,30,36カ月後では眼圧が投与前に比べ有意に下降した(p<0.05,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法).塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別の眼圧下降率は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれa1b遮断薬が12.3±12.0%,8.8±5.8%,0.1±11.6%,11.3±13.6%,15.6±10.5%,7.7±13.4%,(狭義)b遮断薬が17.1±7.7%,18.0±5.5%,16.3±7.3%,15.1±6.8%,19.6±6.9%,17.9±6.1%,ラタノプロストが15.5±11.8%,15.7±7.8%,15.4±11.3%,15.8±10.1%,19.8±8.3%,17.8±6.4%であった.投与12カ月後にa1b遮断薬と(狭義)b遮断薬間に,投与18カ月後にa1b遮断薬と(狭義)b遮断薬間,a1b遮断薬とラタノプロスト間に有意差を認めた.Humphrey視野のMD値は,投与12,24,36カ月後はそれぞれ9.9±7.1dB,9.2±6.2dB,10.0±7.2dBで,投与前と同等であった(ANOVA).図2ブナゾシン追加投与前に使用していた点眼薬別の眼圧変化**p<0.0001,*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法.0101214161820投与前カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月****(6)(6)(5)(6)(6)(5)(6)************************(8)(8)(8)(7)(8)(7)(8)(10)(10)(10)(10)(10)(10)(10)()内は,症例a1b遮断薬眼圧(mmHg)0101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月(狭義)b遮断薬眼圧(mmHg)0101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月ラタノプロスト眼圧(mmHg)———————————————————————-Page4708あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(132)12カ月間投与(33例)23)から今回(36カ月間投与)までに9例(25.7%)が脱落し,2例が新規に登録された.脱落例は理由なく来院が途絶えた4例,投与12カ月後に視野障害が進行したためウノプロストンをラタノプロストに変更した1例,投与18カ月後に充血で塩酸ブナゾシンを中止した1例,投与18カ月後に眼痛で塩酸ブナゾシンを中止した1例,投与24カ月後に眼圧が15mmHgから18mmHgに上昇したため塩酸ブナゾシンをラタノプロストに変更した1例であった.12カ月間以上の長期投与を行っている症例においても副作用が出現する可能性があり,副作用に対する注意深い経過観察が必要である.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼をb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬に追加投与することにより36カ月間にわたり眼圧の有意な下降がみられ,視野は維持された.しかし36カ月間に5例(16.1%)が副作用出現,視野障害進行,あるいは眼圧上昇で点眼中止を余儀なくされた.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)OshikaT,AraieM,SugiyamaTetal:Eectofbunazosinhydrochlorideonintraocularpressureandaqueoushumordynamicsinnormotensivehumaneyes.ArchOphthalmol109:1569-1574,19913)福島淳志,白柏基宏,八百枝潔ほか:健常眼における塩酸ブナゾシン点眼の視神経乳頭微小循環への影響.あたらしい眼科20:1173-1175,20034)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20035)杉山哲也,徳岡覚,守屋伸一ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン点眼の効果─眼脈流量を中心に.臨眼45:327-329,19916)中島正之,徳岡覚,菅澤淳ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン長期点眼の効果─その1:眼圧について─.あたらしい眼科11:1093-1096,19947)徳岡覚,東郁郎,中島正之ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン長期点眼の効果─その2:視野について─.あたらしい眼科11:1097-1101,19948)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の長期投与試験.あたらしい眼科11:631-635,19949)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の後期第二相臨床試験─多施設二重盲検比較試験─.あたらしい眼科11:423-429,199410)瀬川雄三,西山敬三,栗原和之ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の第三相臨であった.今回は正常眼圧緑内障症例での眼圧下降効果を検討したが,過去の(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症例より良好であった.その理由として,後者では追加点眼期間が424週間と短かったこと,今回は36カ月間の長期投与で,30カ月後や36カ月後に良好な眼圧下降を示したためと考えられる.塩酸ブナゾシン点眼はb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼に追加投与した際に長期的に眼圧下降が得られる可能性がある.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を2剤目として短期21,22)および長期23)に投与した報告がある.ラタノプロストを使用中で投与前眼圧16.8±1.7mmHgの症例に対し,塩酸ブナゾシン点眼を2週間追加投与した際に眼圧は有意に下降した21).b遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬を使用中で投与前眼圧16.8±1.7mmHgの症例に対し,塩酸ブナゾシン点眼を12週間投与22)した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.92.3mmHg,眼圧下降率は10.813.5%,12カ月間投与23)した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.72.2mmHg,眼圧下降率は10.212.8%であった.今回の全症例での眼圧下降幅1.82.6mmHgと眼圧下降率10.214.9%は過去の報告22,23)とほぼ同等であった.一方,正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を23剤目として52週間投与した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.72.5mmHgであった24).塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別に眼圧下降効果を比較したが,(狭義)b遮断薬とラタノプロストがa1b遮断薬に比べ良好であった.塩酸ブナゾシンが選択的交感神経a1受容体遮断作用を有するため,同じ作用を有するa1b遮断薬では眼圧下降効果が減弱する可能性が考えられる.塩酸ブナゾシン点眼による視野維持効果は,正常眼圧緑内障症患者に塩酸ブナゾシン単剤を48週間投与した報告がある7).Humphrey視野のMD値が投与前7.76±8.31dBが投与48週後に7.09±7.70dBとなり有意に改善した(p=0.035).正常眼圧緑内障症患者でb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬を使用中に塩酸ブナゾシン点眼を12カ月間投与した報告では,Humphrey視野のMD値は,投与前(10.1±6.2dB)と投与12カ月後(10.8±6.5dB)で変化がなかった23).今回の投与12,24,36カ月後のMD値は投与前に比べ改善はなかったが,悪化もせず,視野が維持できたと考えられる.塩酸ブナゾシン点眼の副作用は,結膜充血,異物感,刺激感,痒感,角膜びらん,点状表層角膜炎,ぼやける,しみる,頭重感などである1124).副作用の出現頻度は,041.7%と報告により差が大きいが,結膜充血が今回と同様に多く報告されている.今回は6例7件に結膜充血や点状表層角膜炎が出現したが,いずれも重篤なものではなかった.しかし———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008709(133)359-362,200418)尾辻剛,安藤彰,福井智恵子ほか:ラタノプロスト,b遮断薬併用例における塩酸ブナゾシン併用時の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科21:955-956,200419)橋本尚子,原岳,久保田俊介ほか:第3併用薬としての塩酸ブナゾシン点眼薬の眼圧下降効果.臨眼59:359-362,200520)佐々木満,風間成泰,嶋千絵子:原発開放隅角緑内障患者におけるイソプロピルウノプロストン点眼液に対する塩酸ブナゾシン点眼液の併用効果.あたらしい眼科24:1091-1094,200721)清水美穂,今野伸介,前田祥恵ほか:ラタノプロスト点眼中の正常眼圧緑内障患者に対する塩酸ブナゾシン点眼液の眼循環と眼圧における併用効果の検討.臨眼59:283-287,200522)塩川美菜子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の効果.あたらしい眼科22:991-994,200523)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の長期効果.あたらしい眼科23:669-672,200624)YoshikawaK,KatsushimaH,KimuraTetal:Additionoforswitchtotopicalbunazosinhydrochlorideinelderlypatientswithnormal-tensionglaucoma:aone-yearfol-low-upstudy.JpnJOphthalmol50:443-448,2006床試験─0.1%塩酸ジピベフリン点眼液との比較試験─.眼臨88:1386-1390,199411)MaruyamaK,ShiratoS,HanedaM:Evaluationoftheadditiveeectofbunazosinonlatanoprostinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol49:61-62,200512)仲村佳巳,仲村優子,酒井寛ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症のラタノプロスト点眼液に対する塩酸ブナゾシン点眼液の併用効果の検討.あたらしい眼科20:697-700,200313)KobayashiH,KobayashiK,OkinamiS:Ecacyofbunazosinhydrochloride0.01%asadjunctivetherapyoflatanoprostortimolol.JGlaucoma13:73-80,200414)TsukamotoH,JianK,TakamatsuMetal:Additiveeectofbunazosinonintraocularpressurewhentopicallyaddedtotreatmentwithlatanoprostinpatientswithglaucoma.JpnJOphthalmol47:526-528,200315)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液とマレイン酸チモロール点眼液の併用効果.あたらしい眼科19:261-266,200216)勝島晴美,吉川啓司,山林茂樹ほか:ラタノプロストとb遮断薬の併用患者における塩酸ブナゾシンの効果.あたらしい眼科21:675-677,200417)岩切亮,小林博,小林かおりほか:多剤併用時におけるブナゾシンのラタノプロストへの併用効果.臨眼58:***