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動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスの1例

2018年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(8):1148.1151,2018c動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスの1例平森由佳山本美紗古川真二郎寺田佳子原和之地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立広島市民病院眼科CACaseofSarcoidosiswithOculomotorNervePalsyYukaHiramori,MisaYamamoto,ShinjiroFurukawa,YoshikoTeradaandKazuyukiHaraCDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHiroshimaCitizensHospital目的:今回筆者らは動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスを経験したので報告する.症例:嚥下障害と尿閉,発熱に対して精査が行われていたC65歳,男性.複視を訴え精査のため当科を受診した.初診時所見は,矯正視力は両眼ともにC1.0,両眼とも周辺虹彩前癒着が散在し,右眼に雪玉状硝子体混濁を認めた.眼位・眼球運動検査でC45Δ以上の左外斜視,左眼の上転,下転,内転制限と眼瞼下垂を認め,複視は左動眼神経麻痺によるものと考えた.全身所見は両側の縦隔リンパ節腫脹と生検で非乾酪性類上皮肉芽種が認められた.呼吸器病変,眼病変および血液検査の結果と合わせてサルコイドーシスの診断が確定した.また,全身の神経学的異常所見から動眼神経,舌咽神経,迷走神経,自律神経の障害が疑われた.ステロイド治療により症状は改善し,これらの神経障害も同様にサルコイドーシスによるものと考えた.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCoculomotorCnerveCpalsyCsecondaryCtoCsarcoidosis.CCase:AC65-year-oldCmaleCwasCreferredCtoCusCbecauseCofCdiplopiaCdiagnosedCthroughCdetailedCexaminationCofCdysphagia,CanuresisCandCfever.CComprehensiveCophthalmicCexaminationCwasCperformed.CVisualCacuityCwasC1.0CinCbothCeyes.CPeripheralCanteriorCsynechiaCinCbothCeyesCandCsnowballCvitreousCopacityCinCtheCleftCeyeCwereCobserved.CLeftCocularCmovementCwasCrestrictedexceptforabductionandhisleftuppereyelidwasptotic,suggestingoculomotornervepalsy.Systemicwork-upCrevealedCbilateralChilarClymphadenopathyCandCnoncaseatingCepithelioidCcellCgranulomaCfromClymphCnodesCinthemediastinum,whichledtothediagnosisofsarcoidosis.Thediplopia,dysphagiaandanuresiswerecausedbyimpairmentCofCtheCoculomotorCnerve,CglossopharyngealCnerveCandCvagusCnerve,Crespectively.CCorticosteroidCimprovedthesymptoms.Sarcoidosiswasconsideredtobethecauseofhispolycranialneuropathies.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1148.1151,C2018〕Keywords:サルコイドーシス,神経サルコイドーシス,動眼神経麻痺,脳神経麻痺.sarcoidosis,Cneurosarcoid-osis,oculomotornervepalsy,cranialnervepalsy.Cはじめにサルコイドーシスは全身組織に非乾酪性類上皮肉芽腫を形成する原因不明の疾患である1).サルコイドーシスの障害部位は肺がもっとも多く,続いて眼,皮膚,心臓血管系などに認められる2.4).神経が障害される神経サルコイドーシスは中枢神経や末梢神経などの神経系組織を障害し,発症率はサルコイドーシス全体のC5.15%であると報告されている2.4).中枢神経ではおもに髄膜病変,脳や脊髄における実質性肉芽腫性病変,血管炎などが生じ,末梢神経では脳神経や脊髄神経障害が生じる1).脳神経障害では顔面神経と視神経がもっとも障害されやすく,眼球運動にかかわる脳神経障害は少ないと報告されている4,5).今回筆者らは,動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスのC1例を経験したので報告する.CI症例嚥下障害と尿閉,発熱に対して当院神経内科で精査が行われていたC65歳,男性.発熱精査目的で胸部CCTを施行したところ,肺野の粒状影(図1a)および両側肺門・縦隔リンパ節腫脹が認められた(図1b).胸部の画像所見からサルコイドーシスが疑われ,眼内精査目的のため当科を紹介初診した.〔別刷請求先〕平森由佳:〒730-8518広島市中区基町C7-33地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:YukaHiramori,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHiroshimaCitizensHospital,7-33Motomachi,Nakaku,Hiroshima730-8518,JAPAN1148(142)図1胸部CT画像a:治療前.肺野に粒状影を認めた.Cb:治療前.両側肺門リンパ節腫脹を認めた(.).Cc:治療後.両側肺門リンパ節腫脹は縮小した(.).C当科初診時所見:主訴は複視であった.矯正視力は右眼(1.0C×.1.25D(cyl.0.50DCAx40°),左眼(1.0C×.1.00D(cyl.0.50DCAx100°),眼圧は両眼とも12mmHgであった.瞳孔は正円同大,対光反射は直接反応,間接反応ともに迅速であり,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupil-larydefect:RAPD)は認められなかった.細隙灯顕微鏡検査では,両眼とも隅角全周に散在する周辺虹彩前癒着が認められ(図2),眼底検査で右眼に雪玉状硝子体混濁を認めた.これらの所見から眼サルコイドーシスが疑われた.眼位・眼図2両眼鼻側隅角両眼の隅角に散在する周辺虹彩前癒着を認めた.C球運動検査でC45CΔ以上の左外斜視,左眼の上転,下転,内転制限と眼瞼下垂を認め,複視の原因として左動眼神経麻痺が考えられた(図3).頭部CMRIでは明らかな異常は認められなかった.また,心電図,心エコーは正常であった.血液検査でCC反応性蛋白はC2.418Cmg/dl(正常値C0.2Cmg/dl以下)であり,血清可溶性インターロイキン-2(interleu-kin-2:IL-2)受容体はC2,450CU/ml(正常値C145.519CU/ml)と高値,血沈のC1時間値はC13Cmm(正常値C2.10Cmm)と軽度上昇を認めた.血清アンギオテンシン変換酵素の上昇は認められなかった.髄液検査で蛋白がC75Cmg/dl(正常値C10.40Cmg/dl)と上昇しており,細胞数はC4/μl(正常値C5以下)であった.気管支肺胞洗浄(bronchoalveolarClavageC.uid:BALF)検査では,リンパ球比率がC30%(正常値C10.15%)と増加しており,CD4/CD8比はC9.59(正常値1.3)と高値であった.縦隔リンパ節生検で非乾酪性類上皮肉芽種が認められ(図4),全身所見と合わせてサルコイドーシスの診断が確定した.眼球運動障害に加え,全身の神経学的異常所見として嚥下障害,嗄声,尿閉が認められた.それぞれ舌咽神経,迷走神経,自律神経の障害が疑われ,呼吸器病変および眼病変と同様にサルコイドーシスによるものと考えた.経過:ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000Cmg/日C×3日間)がC2クール施行された.初診よりC1カ月後,左眼の硝子体混濁は消失した.胸部CCTでは,両側肺門リンパ節腫脹の縮小が認められた(図1c).眼位はC8CΔ左外斜位,左眼の眼球運動障害は軽度内転制限のみとなり,複視と眼瞼下垂は消失した.また,嚥下障害,嗄声,尿閉も改善傾向であった.後療法としてプレドニゾロンC30Cmg内服で漸減療法が施行された.図39方向むき眼位写真左眼の眼球運動は外転のみ可能であった.図4縦隔リンパ節生検(HE染色C200倍)類上皮細胞の集簇像を認め,非乾酪性類上皮肉芽種と診断された(.).II考按本症例は,胸部CCTによる肺野の粒状影や両側肺門・縦隔リンパ節腫脹などの呼吸器病変に加え,隅角周辺虹彩前癒着および雪玉状硝子体混濁などの眼病変を認めた.また,血清可溶性CIL-2受容体の高値と,BALF検査によるリンパ球比率上昇およびCCD4/CD8比の上昇はサルコイドーシスに特徴的な臨床所見である.さらに,縦隔リンパ節生検において非乾酪性類上皮肉芽腫が認められ,臨床診断および組織診断ともにサルコイドーシスの診断基準を満たすと考えた.サルコイドーシスの障害部位は報告により差はあるものの,肺病変がC60.90%ともっとも多く,眼病変はC10.50%,皮膚病変はC9.37%,心臓血管系病変はC5.25%であると報告されている2.4).神経病変はC5.15%に生じ2.4),神経サルコイドーシスの報告は比較的まれである.神経サルコイドーシスは中枢神経や末梢神経などあらゆる神経を障害するとされている1).中枢神経ではおもに髄膜病変,脳や脊髄における実質性肉芽腫性病変,血管炎や静脈洞血栓症などの血管病変,水頭症や脳症を生じ,末梢神経では脳神経や脊髄神経障害を生じる1).本症例では,脳神経の動眼神経,舌咽神経および迷走神経に加え,自律神経の障害が認められた.既報によると,脳神経障害のなかでは顔面神経がC24%,視神経が21%ともっとも障害されやすく,動眼神経はC5%,舌咽神経・迷走神経は合わせてC4%に生じると報告されている4).本症例では顔面神経麻痺の所見は認められなかった.また,視力良好でありCRAPDが陰性であったことから,視神経の障害も否定的であると考えた.サルコイドーシスでは,形成された肉芽腫性炎症細胞による標的組織への機械的圧迫や,炎症および栄養血管の閉塞による虚血が障害を引き起こすと報告されている1).神経サルコイドーシスも同様の発症機序であり,過去にはサルコイドーシスによる脳神経の重複障害の症例や4,6),脳神経障害および自律神経障害を呈した症例の報告がある7).本症例では頭部CMRIで神経造影効果は認められず,神経生検は患者の希望がなく施行していない.しかし,眼病変と呼吸器病変からサルコイドーシスの診断が確定しており,ステロイド治療により全身所見の改善も認められている.明らかな感染症や自己免疫疾患は認められず,脳神経障害による眼球運動障害や嚥下障害,嗄声と,自律神経障害による尿閉もサルコイドーシスによるものと考えた.神経サルコイドーシスは自然寛解が認められる疾患である8).一次療法は副腎皮質ステロイドの内服であり1,4,8),治療を施行したC40.82%の症例で改善または安定性を示すと報告されている8).また,症状が深刻な症例に対してはメチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法の報告もある1,6).本症例では,複視に加え,嚥下障害や尿閉による日常生活動作(activityCofCdailyCliving:ADL)の低下から,ステロイドパルス療法が施行された.他覚所見,自覚症状ともに改善を認めたことから,ステロイドパルス療法は有用であったと考えた.今回筆者らは動眼神経麻痺を生じたサルコイドーシスのC1例を経験した.神経サルコイドーシスはあらゆる神経を障害する疾患であるため,眼科的にサルコイドーシスが疑われた際にはぶどう膜炎の他,眼位・眼球運動など神経学的所見にも注意が必要である.文献1)熊本俊秀:中枢神経サルコイドーシス:診断と治療.臨床神経学52:1237-1239,C20122)森本泰介,吾妻安良太,阿部信二ほか:2004年サルコイドーシス臨床調査個人票における組織診断群と臨床診断ならびに疑診群の比較.日サ会誌28:113-115,C20083)AI-KofahiCK,CKorstenCP,CAscoliCCCetCal:ManagementCofextrapulmonaryCsarcoidosis:challengesCandCsolutions.CTherClinRiskManagC12:1623-1634,C20164)FritzCD,CvanCdeCBeekCD,CBrouwerCMC:ClinicalCfeatures,treatmentCandCoutcomeCinCneurosarcoidosis:systematicCreviewCandCmeta-analysis.CBMCCNeurolC16:220-228,C20165)SachsCR,CKashiiCS,CBurdeCRM:SixthCnerveCpalsyCasCtheCinitialCmanifestationCofCsarcoidosis.CAmCJCOphthalmolC110:438-440,C19906)三上裕子,石原麻美,澁谷悦子ほか:ぶどう膜炎に多発性脳神経麻痺を合併したサルコイドーシスのC1例.臨眼C68:C457-462,C20147)藪内健一,岡崎敏郎,中村憲一郎ほか:著明な自律神経障害を呈した神経サルコイドーシスのC67歳,男性例.日サ会誌33:139-145,C20138)IbitoyeCRT,CWilkinsCA,CScoldingCNJ:Neurosarcoidosis:aCclinicalCapproachCtoCdiagnosisCandCmanagement.CJCNeurolC264:1023-1028,C2017***