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正常者における息止め時の眼圧測定

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):260.262,2014c正常者における息止め時の眼圧測定湯川英一*1,2浦野哲*3緒方奈保子*2*1ゆかわ眼科クリニック*2奈良県立医科大学眼科学教室*3うらの眼科クリニックIntraocularPressureMeasurementduringBreath-holdinginHealthySubjectsEiichiYukawa1,2),ToruUrano3)andNahokoOgata2)1)YukawaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity,3)UranoEyeClinic31例の正常被検者に対してiCareR眼圧計(以下,iCareとする)を用いて,安静を保った状態での眼圧(安静時眼圧とする)と可能な限り息を止めた状態での眼圧(息止め時眼圧とする)を測定した.さらに息をはき出してから1分後,3分後,5分後,10分後にもそれぞれ眼圧を測定し,眼圧がどのように変化するかを検討した.その結果,安静時眼圧(平均値±標準偏差)は13.1±3.0mmHgであり,息止め時眼圧は19.2±3.9mmHgであった.息止め中止から1分後は12.6±3.0mmHg,3分後12.4±2.7mmHg,5分後12.5±2.7mmHg,10分後12.3±2.7mmHgであり,息止め時眼圧は安静時眼圧とすべての息止め中止後眼圧に比べて有意に上昇した.また安静時と息止め時での動脈血酸素飽和度を測定したところ,最大では11%の低下がみられ,眼圧上昇幅と動脈血酸素飽和度の低下幅に有意な正の相関が認められた.In31healthysubjects,weusedaniCaretonometertomeasureintraocularpressure(IOP)atrest(restingIOP)andduringmaximumbreath-holding(breath-holdingIOP).Inaddition,IOPwasmeasuredat1,3,5,and10minutesafterexpiration,anditschangeswereevaluated.Asaresult,restingIOP(mean±standarddeviation)was13.1±3.0mmHg,andbreath-holdingIOPwas19.2±3.9mmHg.IOPat1,3,5,and10minutesafterdiscontinuationofbreath-holdingwas12.6±3.0,12.4±2.7,12.5±2.7,and12.3±2.7mmHg,respectively.Breath-holdingIOPwassignificantlyhigherthanrestingIOPandIOPateachtimepointafterdiscontinuationofbreath-holding.Arterialoxygensaturationwasalsomeasuredatrestandduringbreath-holding.Themaximumdecreasewas11%.TherewasasignificantpositivecorrelationbetweendegreeofIOPincreaseanddegreeofarterialoxygensaturationdecrease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):260.262,2014〕Keywords:息止め時眼圧,無呼吸,動脈血酸素飽和度,iCare眼圧計.breath-holdingintraocularpressure,apnea,arterialoxygensaturation,iCaretonometer.はじめに近年,睡眠時無呼吸症候群(sleepapneasyndrome:SAS)患者では緑内障の発症率が高いことが報告され1.4),健常者に比べて眼圧が高いことや5),またSAS患者にみられる眼血流障害が緑内障を発症する一因として推測されている6,7).一方で眼圧はさまざまな要因で変動することが知られており8.13),SAS患者では睡眠時に呼吸が停止することにより,眼圧が大きく変動している可能性がある.そこで今回,筆者らはまず正常被検者において意識的に呼吸を止めることによりどの程度の眼圧変化がみられるかを検討し,さらに眼圧変動と動脈血酸素飽和度との相関について検討したので報告する.I対象および方法対象はゆかわ眼科クリニックおよびうらの眼科クリニックのスタッフおよびその関係者で現在,全身的に継続的な加療を行っていない者のうち,これまでに眼圧検査をうけた経験があり,眼科的に屈折異常以外に異常を認めない31例とした.年齢は21.54歳(平均値±標準偏差:38.7±9.2歳),男性18例,女性13例である.〔別刷請求先〕湯川英一:〒635-0825奈良県北葛城郡広陵町安部236-1-1ゆかわ眼科クリニックReprintrequests:EiichiYukawa,M.D.,YukawaEyeClinic,236-1-1Abe,Koryo-cho,Kitakatsuragi-gun,Nara635-0825,JAPAN260260260あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(100)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY 測定方法は眼圧計としてTiolat社製iCareR眼圧計(以下,25iCareとする)を使用し,最初に座位にて安静を保った状態20での眼圧(安静時眼圧とする)を測定した.その後,被検者150*:平均値バーは標準偏差息止め中止息止め中止息止め中止息止め中止息止め時安静時眼圧値(mmHg)は最大呼吸後に息止めを開始し,可能な限り呼吸を止めておくようにした.息苦しさを感じてきた頃に被検者は右手をあげて合図を送り,そのときより息をはき出すまでの間,連続105的に眼圧測定を行った.そして最終的に息をはき出す直前の眼圧値を息止め時眼圧とした.その後,被検者は座位のまま再び安静を保ち,息をはき出してから1分後,3分後,5分後,10分後にそれぞれ眼圧を測定した.検査眼はすべて右眼とした.また安静時眼圧測定時と息止め時眼圧測定時に左図1息止め時眼圧と息止め後眼圧の推移手第2指に装着したColin社製パルスオキシメータBP-一元配置分散分析にて有意差を認め(p=3.43×10.19),多608EVRにて動脈血酸素飽和度を測定し,眼圧変動幅と動脈重比較検定(Tukey法)にて息止め時眼圧は安静時眼圧と血酸素飽和度の変動幅に相関がみられるかを検討した.被検すべての息止め中止後眼圧に比べて有意な上昇を認めた.者には今回の研究の主旨を説明し,口頭にてインフォーム14ド・コンセントを得たうえで測定を行った.統計学的な処理眼圧上昇幅(mmHg)12108642は危険率5%未満を有意とした.II結果安静時眼圧(平均値±標準偏差)は13.1±3.0mmHgであり,息止め時眼圧は19.2±3.9mmHgであった.息止め中止から1分後は12.6±3.0mmHg,3分後12.4±2.7mmHg,5分後12.5±2.7mmHg,10分後12.3±2.7mmHgであった.00246810一元配置分散分析にて6群間に有意差を認め(p=3.43×10.19),多重比較検定(Tukey法)にて息止め時眼圧は安静時眼圧とすべての息止め中止後眼圧に比べて有意な上昇を認めた(図1).また31例すべての症例で息止め時眼圧は安静時眼圧に比べて高くなり,眼圧上昇幅は最小で2mmHgであり,最大で13mmHgであった.動脈血酸素飽和度については最大では11%の低下がみられ,スピアマン(Spearman)順位相関係数検定にて眼圧上昇幅と動脈血酸素飽和度の低下幅に有意な正の相関が認められた(p=0.0129,相関係数r=0.462802)(図2).III考按今回の研究により息を止めることにより眼圧は上昇し,その後息を吐くことで眼圧は速やかに安静時と同様のレベルまで下がることが示された.実際に被検者が息苦しさを感じてから連続的に眼圧測定を行ったが,息をはき出すまで測定ごとに眼圧は上昇していく症例が多くみられた.そしてこれまでに体位変換により眼圧は速やかに変化することが報告されている14.16).たとえば仰臥位から座位に姿勢が変動した場合,仰臥位により上昇していた眼圧はわずか1分未満で座位のレベルに戻ってしまい16),この変化は今回の息を止めることを中止した後の眼圧下降の動きと類似している.そしてそ(101)動脈血酸素飽和度低下幅(%)図2動脈血酸素飽和度低下幅(安静時-息止め時)と眼圧変動上昇幅(息止め時-安静時)の相関Spearman順位相関係数検定にて動脈血酸素飽和度の低下幅と眼圧上昇幅に有意な相関が認められた(p=0.0129).相関係数r=0.462802.の原因として上強膜静脈圧の関与が考えられており14,16),今回の場合も息を止めることにより胸腔内圧が上昇し,中心静脈圧ひいては上強膜静脈圧が上昇することにより息止め時眼圧が上昇した可能性が考えられる.一方でSAS患者を考えた場合,「無呼吸」とは10秒以上の呼吸停止と定義され,成人の閉塞性SASに対して終夜睡眠ポリグラフ検査で無呼吸などが生じた回数が診断基準に含まれている17).しかし実際の閉塞性SAS患者では無呼吸により,常に胸腔内圧が上昇しているわけではなく,血行動態の観点からは気道閉塞の状態で呼吸をしようとするために胸腔内圧は陰圧になり,その結果,胸腔内の静脈血流の増加などにより心臓への負担が増えるとされている.このことからは静脈圧の大きな変動に伴って,眼圧も大きく変動している可能性が考えられる.そして少なくとも閉塞性SAS患者では動脈血酸素飽和度が低下していることを考えると,今回,眼圧上昇と動脈血酸素飽和度の低下に正の相関がみられたことは,やはりSAS患者においても睡眠時に眼圧が上昇していることが考えられる.あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014261 さらにはSAS患者では正常者と比べて息止め時での眼圧上昇の程度や息をはいた後の眼圧下降に差が生じている可能性もある.今後筆者らは今回の結果を踏まえ,SAS患者において重症度と今回の実験に対する危険度を考慮に入れたうえで仰臥位での息止め時眼圧を測定し,さらには眼圧上昇と動脈血酸素飽和度だけではなく,bodymassindexとの相関も調べることで,眼圧上昇の観点からSAS患者の緑内障発症につき検討を行う予定である.文献1)MojonDS,HessCW,GoldblumDetal:Highprevalenceofglaucomainpatientswithsleepapneasyndrome.Ophthalmology106:1009-1012,19992)MojonDS,HessCW,GoldblumDetal:Normal-tensionglaucomaisassociatedwithsleepapneasyndrome.Ophthalmologica216:180-184,20023)SergiM,SalernoDE,RizziMetal:Prevalenceofnormaltensionglaucomainobstructivesleepapneasyndromepatients.JGlaucoma16:42-46,20074)LinPW,FriedmanM,LinHCetal:Normaltensionglaucomainpatientswithobstructivesleepapnea/hypopneasyndrome.JGlaucoma20:553-558,20115)MoghimiS,AhmadrajiA,SotoodehHetal:Retinalnervefiberthicknessisreducedapneasyndrome.SleepMed14:53-57,20136)KargiSH,AltinR,KoksalMetal:Retinalnervefibrelayermeasurementsarereducedinpatientswithobstructivesleepapneasyndrome.Eye19:575-579,20057)FaridiO,ParkSC,LiebmannJMetal:Glaucomaandobstructivesleepapneasyndrome.ClinExperimentOphthalmol40:408-419,20128)LempertP,CooperKH,CulverJFetal:Theeffectofexerciseonintraocularpressure.AmJOphthalmol63:1673-1676,19679)HouleRE,GrantWM:Alcohol,vasopressin,andintraocularpressure.InvestOphthalmol6:145-154,196710)MehraKS,RoyPN,KhareBB:Tobaccosmokingandglaucoma.AnnOphthalmol8:462-464,197611)MaugerRR,LikensCP,ApplebaumM:Effectsofaccommodationandrepeatedapplanationtonometryonintraocularprssure.AmJOptomPhysiolOpt61:28,198412)HigginbothamEJ,KilimanjaroHA,WilenskyJTetal:Theeffectofcaffeineonintraocularpressureinglaucomapatients.Ophthalmology96:624-626,198913)BrodyS,ErbC,VeitRetal:Intraocularpressurechanges:theinfluenceofpsychologicalstressandtheValsalvamaneuver.BiolPsychol51:43-57,199914)FribergTR,SanbornG,WeinrebRNetal:Intraocularandepiscleralvenouspressureincreaseduringinvertedposture.AmJOphthalmol103:523-526,198715)BaskaranM,RamanK,RamaniKKetal:IntraocularpressurechangesandocularbiometryduringSirsasana(headstandposture)inyogapractitioners.Ophthalmology113:1327-1332,200616)原岳・橋本尚子:測定体位と眼圧変動の関係.臨眼63(増刊):34-36,200917)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008-2009年度合同研究班報告):循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン.CirculationJournal74(SupplII):1053-1084,2010***262あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(102)