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涙点閉鎖術時のジアテルミー使用により角膜熱傷を生じた1例

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):217?219,2020c涙点閉鎖術時のジアテルミー使用により角膜熱傷を生じた1例奥拓明*1,2脇舛耕一*1,2外園千恵*2木下茂*1,3*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3京都府立医科大学感覚器未来医療学ACaseofCornealBurnthatOccurredduetotheDiathermyProcedureAppliedforPunctalOcclusionHiroakiOku1,2),KoichiWakimasu1,2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,3)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineはじめに外眼部の手術あるいは処置に関係した医原性の眼表面あるいは眼内損傷の症例は多数報告されている.Shiramizuらは霰粒腫摘出時の局所麻酔で網膜内に麻酔薬の誤注入の症例を2例1),Chanらは球後麻酔時の眼内誤注射による症例を1例報告しており2),いずれも高度の視力低下を認めている.また,Luらは角膜異物除去時の灌流中にシリンジから針がはずれることで角膜穿孔に至った1例を報告している3).その他,処置時に消毒薬を誤点入したための角膜化学外傷4,5),美容形成術のヒアルロン酸ナトリウムの角膜内誤注射6)などの報告がある.通常,外眼部への手術,処置は手術後の視力に直接影響しないが,これらの報告のように,医原性の合併症により重篤な視力低下を生じる可能性がある.今回,手術時のジアテルミー使用による医原性の角膜熱傷で角膜実質混濁を生じ,角膜移植に至った1例を経験したので報告する.I症例患者:67歳,女性.〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN図2角膜移植後3年経過時の前眼部写真角膜の透明治癒が得られ,視力は0.6(1.2×sph+0.5D(cyl?3.0DAx120°)であった.図1初診時所見a:初診時の右眼前眼部写真.角膜中央部に角膜実質混濁を認める.b:初診時の右眼前眼部スキャッタリング像.角膜中央部の角膜実質混濁をより明確に把握できる.c:前眼部OCT画像.VisanteOCT(CarlZeissMeditec社)により得られた画像,角膜中央部の実質内に高輝度の反射像を認める.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:なし.現病歴:2008年4月に近医にて右眼ドライアイに対し,涙点閉鎖術を施行された.そのときにジアテルミーの熱遮断器具がはずれており,ジアテルミーの通電部分が角膜に触れ,角膜上皮障害を含む角膜熱傷を生じた.このため,ガチフロキサシンおよびリン酸ベタメタゾンを右眼に1日4回の点眼加療が行われたが改善が認められなかった.2008年8月,角膜混濁などの治療目的で京都府立医科大学眼科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.01(0.07×sph+15.0D(cyl?2.0DAx90°),左眼0.6(1.0×sph+0.25(cyl?1.0DAx85°),眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,右眼角膜中央部に角膜実質混濁を認めた(図1a,b).前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomog-raphy:OCT)(VisanteOCT,CarlZeissMeditec)断層像でも右眼角膜実質中央部に高輝度となる画像所見を認めた(図1c).スペキュラマイクロスコープ(TOMEY)で測定した右眼角膜内皮細胞密度は角膜中央部では測定不能であったが,角膜周辺部は2,520cells/mm2と正常範囲であった.また,角膜輪部構造は正常であり,角膜上皮幹細胞疲弊症は生じていなかった.経過:保存的加療による角膜混濁の改善を図るため,0.1%フルオロメトロンの1日3回点眼にて経過観察を行った.その後2014年7月の時点で,右眼視力は0.1(0.3×sph?4.0D)まで回復を認めた.矯正視力低下の原因として,角膜混濁のほか角膜不正乱視が考えられたため,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)装用を試行した.しかし,HCL装用下右眼視力(0.4)であり,視力改善を得られなかったため,2015年10月にフェムトセカンドレーザーによるzigzag切開を用いた全層角膜移植術と水晶体再建術の同時手術を施行した.術後,角膜移植片の透明治癒が得られ,右眼の手術1カ月後の視力は0.06(0.3×sph+9.0D(cyl?8.0DAx40°)となった.手術1年9カ月後に角膜移植片縫合糸の全抜糸を施行し(図2),手術3年後の右眼視力は0.6(1.2×sph+0.5D(cyl?3.0DAx120°)まで改善した.眼圧は9mmHgであった.経過観察期間中,重篤な角膜移植術後合併症を認めなかった.II考按保存的治療で改善しない重症ドライアイの治療法として,涙点プラグ挿入術や涙点焼灼術などの涙点閉鎖術は有効であり7),保険診療としても承認されている確立された術式であるが,本症例ではジアテルミーの熱遮断の部品が装着されないまま使用されたことにより,角膜上皮および実質に障害をきたした.その後保存的加療および全層角膜移植により視力回復を得ることができたが,このような報告は国内外ともに調べる限りではみられなかった.今回の症例では角膜混濁は実質にまで及んでおり,長時間ジアテルミーに接触していたことが考えられる.通常,涙点焼灼術などの外眼部の手術施行時は局所麻酔薬を使用するため患者の痛みの自覚がないことも発見が遅れた要因の一つであると考えられる.既報の美容形成術のヒアルロン酸ナトリウムの角膜内誤注射による角膜実質混濁をきたした症例でも局所麻酔薬による痛みの自覚を認めなかったと考察されている6).このように,外眼部の手術時には局所麻酔点眼薬による角膜表面の感覚遮断を行うため,手技中は患者,術者両者とも気がつかないまま予期せぬ箇所にも影響が及んでいる可能性があるということを常に念頭に置いて操作を行う必要がある.また,バイポーラピンセットの誤操作により口角部熱傷を生じることが指摘されている.絶縁体コーティングのないバイポーラピンセットでは他組織を侵襲するリスクが高く,絶縁体コーティングがあるピンセットの使用が推奨されている.しかし,絶縁体コーティングがあるピンセットでもコーティングの劣化により予期せぬ熱傷が生じる可能性がある.熱凝固を行う際には絶縁体型を使用するべきであるが,コーティングの劣化が判別しにくい場合があり,常に先端以外は周辺組織に触れないよう注意する必要がある.手術手技が確立された外眼部の手術であっても角膜や眼内組織を損傷する可能性がある.執刀医の手技の習得に加え,手術機器の知識や準備,確認を含めたコメディカルへの教育など,システム構築を行い,可能な限り医原性の合併症を回避する対策が必要であると考えられた.文献1)ShiramizuKM,KreigerAE,McCannelCAetal:Severevisuallosscausedbyocularperforationduringchalazionremoval.AmJOphthalmol137:204-205,20042)ChanBJ,koushanK,LiszauerAetal:Atrogenicglobepenetrationinacaseofinfraorbitalnerveblock.CanJOphthalmol46:290-291,20113)LuCW,HaoJL,LiuXFetal:Pseudomonasaeruginosaendophthalmitiscausedbyaccidentaliatrogenicocularinjurywithahypodermicneedle.JIntMedRes45:882-885,20174)PhinneyRB,MondinoBJ,HofbauerJDetal:Cornealedemarelatedtoaccidentalhibiclensexposure.AmJOphthalmol106:210-215,19885)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒液による医原性化学腐蝕の4例.臨眼52:786-788,19986)日野智之,上田真由美,木下茂ほか:美容外科において角膜実質内にヒアルロン酸ナトリウムが誤注入された1例.日眼会誌122:406-409,20187)YaguchiS,OgawaY,KamoiMetal:Surgicalmanage-mentoflacrimalpunctalcauterizationinchronicGVHD-relateddryeyewithrecurrentpunctalplugextrusion.BoneMarrowTransplant47:1465-1469,2012◆**

医原性化学腐蝕眼に対する全層角膜移植後16年間観察できた2症例

2015年12月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(12):1753.1756,2015c医原性化学腐蝕眼に対する全層角膜移植後16年間観察できた2症例北澤耕司*1,2,3中村葉*3外園千恵*3木下茂*2*1バプテスト眼科山崎クリニック*2京都府立医科大学感覚器未来医療学*3京都府立医科大学視覚機能再生外科学TwoCasesin16YearsafterPenetratingKeratoplastyforChemicalCornealBurnCausedbyMisuseofDisinfectantKojiKitazawa1,2,3),YoNakamura3),ChieSotozono3)andShigeruKinoshita2)1)BaptistYamasakiEyeClinic,2)DepartmentofFrontierMedicalTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:消毒液の誤用により生じた医原性の化学腐蝕眼に角膜移植術を行い,16年間経過観察した2症例を報告する.症例および経過:症例1は霰粒腫切除前の消毒時,高濃度ヒビテンRの洗眼により受傷し,京都府立医科大学附属病院を紹介受診.内科的治療を行ったが角膜実質浮腫が進行し,著明な視力低下をきたしたために全層角膜移植術を施行した.術後16年の経過において矯正視力0.6で角膜移植片は透明性を維持している.症例2は外傷性結膜裂傷に対する結膜縫合時にヒビテンアルコールRを洗眼時に誤用したため当院を紹介受診.最終的に角膜実質混濁の残存と水疱性角膜症による視力低下により全層角膜移植術を施行した.術後16年の経過において矯正視力は0.9で,角膜移植片は透明性を維持している.結論:消毒液を用いた洗眼による医原性の角膜化学腐蝕に対して全層角膜移植術を施行し,16年という長期にわたって角膜は透明性を維持し,再移植を要さず良好な視力を維持していた.Wereport2casesin16yearsafterpenetratingkeratoplastyforchemicalburncausedbyaccidentalexposuretohighconcentrationofchlorhexidinedigluconate(HibitaneR)orHibitaRalcoholatthetimeofmedicaltreatment.Thoughbothcaseswereimmediatelytreated,cornealstromascarringandcornealedemaremained,resultinginbullouskeratopathy.Penetratingkeratoplastywaseventuallyperformedinbothcases.Afterthesurgery,thepatients’correctedvisualacuityimprovedtoaround20/20andwaswellmaintained,evenafter16years.Therewerenorejectionsandnoelevationofintraocularpressure.Penetratingkeratoplastyforiatrogenicchemicalburnfromexposuretodisinfectantthusprovidedgoodvisionforaprolongedperiodoftime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1753.1756,2015〕Keywords:全層角膜移植術,化学腐蝕,医原性,消毒液,誤用.penetratingkeratoplasty,chemicalburn,iatrogenic,disinfectant,misuse.はじめに化学腐蝕は眼外傷の7.7%から18%を占め,ときに重篤な視力障害を引き起こす1)と報告されている.薬剤の接触時間,薬剤のpH,濃度,直後の処置の有無などにより眼表面への影響が異なり,角膜上皮障害の範囲と程度,とくに角膜輪部機能残存の有無が治療予後に大きく影響する2).一般的な化学腐蝕の原因としては,酸,アルカリ,尿素,有機溶媒などがあり,アルカリによるものが最大の原因であり3,4),労働災害と関係することが多い.一方で,化学腐蝕は高濃度の消毒液の誤用によって医原性に生じることもある5.8).角膜上皮幹細胞障害の有無が治療予後に大きく影響し,木下分類9)によるグレード3bを超える障害では,眼表面は瘢痕化し,上皮移植や培養粘膜上皮シート移植などの併施が必要となる6,10,11).一方で,グレード3aまでの障害では,ステロイド治療などの消炎によって多くの場合は改善するが,角膜混濁の進行および内皮機能不全による水疱性角膜症のため著明な視力低下に至り,全層角膜移植術を必要とすることもある7,8).また,このような化学腐蝕は眼処置時における医療〔別刷請求先〕北澤耕司:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科山崎クリニックReprintrequests:KojiKitazawa,M.D.,Ph.D.,BaptistYamasakiEyeClinic,12Kamiikedacho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(121)1753 過誤によって生じることもある.筆者らは以前に,消毒液による医原性化学腐蝕を起こした4例について報告した5).医原性の角膜腐蝕は医療訴訟に発展することもあるため,長期予後の知見が重要である.しかし,筆者らが知る限り,医原性の化学腐蝕眼に対する角膜移植後の長期経過報告はない.今回,医原性化学腐蝕眼に対して全層角膜移植術を行い,16年という長期にわたって経過観察できた2症例を経験したので報告する.I症例および経過〔症例1〕66歳,男性.1996年(47歳時),右眼霰粒腫術前の洗眼時,20%ヒビテンRを誤用.直後に生理食塩水で洗眼し,副腎皮質ステロイドを投与されたが,視力低下が進行したため当院紹介.初診時の右眼視力は裸眼0.03,矯正0.06であり,角膜実質浮腫を認め,木下分類による化学腐蝕の重症度はグレード3aであった.その後治療用ソフトコンタクトレンズを装用,4%高張生理食塩水の点眼およびステロイドの内服と点眼で経過観察した.しかし,最終的には白内障の進行および水疱性角膜症に至り(図1),受傷1年後に全層角膜移植術,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.術後は抗緑内障点眼の使用もなく,抗生物質点眼および低濃度ステロイドのみで経過観察することができた.視力は矯正で1.0を長期にわたって維持し,術後16年の現在,視力は裸眼0.3,矯正0.6,眼圧は17mmHg,角膜内皮細胞数は687cells/mm2で,移植片は透明性を維持していた(図1,3,4).〔症例2〕66歳,男性.1993年(44歳時),左眼外傷性結膜裂傷に対する眼処置前の洗眼時にヒビテンアルコールRを誤用した.瞬時に高度の角膜の混濁を生じたため生理食塩水で洗眼処置を行ったあと,副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与を行ったが,軽快しないため当院紹介受診.初診時視力は裸眼0.1,矯正0.3で角膜実質浮腫および下方の角膜混濁を認め,化学腐蝕の重症度は木下分類のグレード3aであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用し,抗生物質およびステロイドの点眼で経過観察したが,徐々に角膜実質混濁が進行した.最終的に角膜実質混濁の残存と角膜内皮機能不全による水疱性角膜症および白内障によって,視力は指数弁に低下したため(図2),受傷5年後に全層角膜移植術,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.その後は拒絶反応や眼圧上昇などの合併症を生じることなく視力は矯正1.0を維持した.術後16年時,裸眼視力0.2,矯正視力0.9,眼圧16mmHg,角膜内皮細胞数は642cells/mm2で角膜移植片は透明性を維持していた(図2,3,4).図1症例1左:手術前.角膜内皮機能不全により水疱性角膜症に至る.右:手術後16年.角膜移植片は透明性を維持している.図2症例2左:手術前.角膜実質混濁が残存し,角膜内皮機能不全による角膜浮腫を認める.右:手術後16年.角膜移植片は透明性を維持している.1754あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(122) 経過観察期間(年)矯正視力(logMAR)-0.500.511.522.5術前12345678910111213141516症例1症例2症例1症例205001,0001,5002,0002,5003,00012345678910111213141516経過観察期間(年)角膜内皮細胞密度(cells/mm2)症例1症例205001,0001,5002,0002,5003,00012345678910111213141516経過観察期間(年)角膜内皮細胞密度(cells/mm2)図3視力経過16年間という長期にわたって一定の視力を維持することができている.図5術後16年後の角膜内皮細胞左:症例1.右:症例2.II考按今回,高濃度ヒビテンRおよびヒビテンアルコールRの誤用による化学腐蝕眼に対して全層角膜移植術を行い,長期にわたって経過観察できた2症例を経験した.両症例とも拒絶反応および内皮機能不全による再移植,続発緑内障など発症することなく,16年という長期にわたって良好な視力を維持できた.化学腐蝕に対する治療には急性期治療および瘢痕期治療がある.急性期には,ただちに洗眼を行い原因物質の可及的な除去が必要である.また,原因物質の除去だけでなく,早期の消炎,上皮再生を促すための治療用ソフトコンタクトレンズの装用および二次感染の予防が重要である.輪部上皮の完全消失を示す木下分類のグレード3bになると,適切な初期治療が行われていても角膜上皮による再上皮化ができず,瘢(123)図4角膜内皮細胞密度の経過術後5年までは細胞密度の減少はしたが,その後は長期にわたり安定していた.痕治癒となる.化学腐蝕に対して全層角膜移植術を施行した場合,術後上皮欠損や血管新生を高頻度に発症し,移植片機能不全を生じやすく,他の疾患より予後が悪いとされる12).しかし,本症例では木下分類のグレード3aであったことから移植片の透明性を維持することができ,長期にわたって視力は良好であり,続発緑内障を生じることもなかった.両症例とも一部虹彩萎縮を認め,前房内への薬剤の浸透があったと思われるが,曝露直後に洗眼を行うことで最小限の障害にとどまったと考えられる.今回誤用された消毒液はいずれもグルコン酸クロルへキシジンが主成分である.動物実験では1%以下のクロルヘキシジンでは角膜上皮に影響を与えず13),むしろ,低濃度のクロルヘキシジンは殺菌薬としてアカントアメーバを含むさまざまな眼感染症に対して有効であると報告されている14.17).しかし,高濃度のクロルヘキシジンは角膜上皮バリアの破綻に伴い角膜実質に浸透し,角膜内皮機能不全を引き起こす18).また,アルコールも同様に濃度や種類により角膜に対する影響が変わる.20%アルコールはLASEK手術時,角膜上皮に塗布して上皮.離の処置の目的で使用することがある.一方,70%エタノールは一般的には手指の消毒液として使用されるが,誤用により眼表面に曝露されると強い上皮障害を引き起こすことが報告されている19).さらに,低級から高級アルコールになると水溶性から脂溶性になり,角膜への浸透度はさらに上がると考えられる.このように治療に使用する消毒液であっても誤用することで重篤な障害を引き起こすため注意が必要である.眼処置時に生じる化学腐蝕は医原性であるという性質から医療訴訟に発展する場合が多いが,両症例とも幸い医療訴訟に発展することはなく,最終的に和解に至っている.再発予防には,すでに希釈された消毒液を常備することが望ましいと考える.最近では注意喚起のために,製品の濃度表記が拡あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151755 大され,使用上の注意書きも変更されている.また,コメディカルを含めた医療従事者に対し,消毒液がこのような重篤な障害を引き起こす可能性についての十分な教育が必要と考える.再発予防が一番であるが,消毒液の誤用による化学腐蝕が生じた場合,全角膜上皮欠損があっても輪部上皮が残存していれば,全層角膜移植を行うことにより一定の視力を長期にわたって維持することが可能であった.文献1)PfisterRR:Chemicalinjuriesoftheeye.Ophthalmology90:1246-1253,19832)WagonerMD:Chemicalinjuriesoftheeye:currentconceptsinpathophysiologyandtherapy.SurvOphthalmol41:275-313,19973)RamakrishnanKM,MathivananT,JayaramanVetal:Currentscenarioinchemicalburnsinadevelopingcountry:Chennai,India.AnnBurnsFireDisasters25:8-12,20124)AkhtarMS,AhmadI,KhurramMFetal:EpidemiologyandoutcomeofchemicalburnpatientsadmittedinBurnUnitofJNMCHospital,AligarhMuslimUniversity,Aligarh,UttarPradesh,India:A5-yearExperience.JFamilyMedPrimCare4:106-109,20155)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒液による医原性化学腐蝕の4例.臨眼52:786-788,19986)ShigeyasuC,ShimazakiJ:Ocularsurfacereconstructionafterexposuretohighconcentrationsofantisepticsolutions.Cornea31:59-65,20127)PhinneyRB,MondinoBJ,HofbauerJDetal:CornealedemarelatedtoaccidentalHibiclensexposure.AmJOphthalmol106:210-215,19888)VarleyGA,MeislerDM,BenesSCetal:Hibiclenskeratopathy.Aclinicopathologiccasereport.Cornea9:341346,19909)木下茂:化学腐蝕,熱傷.角膜疾患への外科的アプローチ(真鍋禮三,北野周作監修),p46-49,メジカルビュー社,199210)KinoshitaS,ManabeR:Chemicalburns.BrightbillFSed:CornealSurgery.Mosby,StLouis,p370-379,198611)SotozonoC,InatomiT,NakamuraTetal:Visualimprovementaftercultivatedoralmucosalepithelialtransplantation.Ophthalmology120:193-200,201312)MaguireMG,StarkWJ,GottschJDetal:Riskfactorsforcornealgraftfailureandrejectioninthecollaborativecornealtransplantationstudies.CollaborativeCornealTransplantationStudiesResearchGroup.Ophthalmology101:1536-1547,199413)HamillMB,OsatoMS,WilhelmusKR:Experimentalevaluationofchlorhexidinegluconateforocularantisepsis.AntimicrobAgentsChemother26:793-796,198414)SealD:TreatmentofAcanthamoebakeratitis.ExpertRevAntiInfectTher1:205-208,200315)RahmanMR,JohnsonGJ,HusainRetal:Randomisedtrialof0.2%chlorhexidinegluconateand2.5%natamycinforfungalkeratitisinBangladesh.BrJOphthalmol82:919-925,199816)BaileyA,LongsonM:VirucidalactivityofchlorhexidineonstrainsofHerpesvirushominis,poliovirus,andadenovirus.JClinPathol25:76-78,197217)LampeMF,BallweberLM,StammWE:SusceptibilityofChlamydiatrachomatistochlorhexidinegluconategel.AntimicrobAgentsChemother42:1726-1730,199818)GreenK,LivingstonV,BowmanKetal:Chlorhexidineeffectsoncornealepitheliumandendothelium.ArchOphthalmol98:1273-1278,198019)小池彩,片岡卓也,三宅豪一郎ほか:誤って消毒用エタノール液で洗眼した医療事故の経緯.眼臨紀5:538-541,2012***1756あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(124)