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免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的治療により発症,遷延化した原田病様ぶどう膜炎

2019年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科36(7):957.961,2019c免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的治療により発症,遷延化した原田病様ぶどう膜炎立花亮祐水戸毅上甲武志白石敦愛媛大学医学部付属病院眼科CACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDisease-likeUveitisthatOccurredandProlongedduringAdministrationofImmuneCheckpointInhibitorsandTargetedAgentsRyosukeTachibana,TsuyoshiMito,TakeshiJokoandAtsushiShiraishiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversityC悪性黒色腫に対する新規癌治療薬である免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬の投与中に原田病様ぶどう膜炎を発症し遷延化した症例を報告する.64歳,男性,悪性黒色腫の加療中にベムラフェニブの投与から間もなく漿液性網膜.離を発症した.ステロイド薬全身投与量に応じて漿液性網膜.離の増減を認めベムラフェニブの中止により漿液性網膜.離は消失した.その後のニボルマブとイピリムマブによる治療中に皮膚白斑と白髪化,さらに脈絡膜の脱色素斑が出現した.ペムブロリズマブによる治療に変更後,両眼性の前房内炎症と硝子体混濁が出現し,ステロイド薬の全身投与と局所投与により速やかに所見の消失を得た.これらの新規癌治療薬は原田病様のぶどう膜炎を発症することがあるとされており,薬剤を変更しても遷延化することがあり留意する必要がある.CWereportapatientwhodevelopedVogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuveitisthatwasprolongedwithahis-toryCofCmetastaticCmelanomaCtreatedCbyCsequentialCimmuneCcheckpointCinhibitorsCandCtargetedCagents.CThisC64-year-oldmalehaddevelopedunilateralsubretinalC.uidsoonafterinitiatingvemurafenib.Thoughsystemiccor-ticosteroidCtherapiesCwereCe.ectiveCagainstCthisCsymptom,CrecurrenceCwasCseenCduringCtheCtaperingCofCcorticoste-roiddosage.Finally,clinicalimprovementoccurredwhenvemurafenibtherapywasdiscontinued.Afteradministra-tionCofCnivolumabCandCtheCfollowingCipilimumabChadCcommenced,Cvitiligo,CpoliosisCandCchoroidalCdepigmentationCoccurred.CSubsequentCtoChisCswitchingCfromCtheseCdrugsCtoCpembrolizumab,CbilateralCin.ammationCcellsCwereCobservedintheanteriorchamberandvitreous.Visualsymptomsimprovedrapidlywithoralandtopicalcorticoste-roidtherapy.PhysiciansshouldkeepinmindthepossibilityofdevelopingVogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuve-itisassociatedwithimmunecheckpointinhibitorsandtargetedagents,whichconditionmaybecomeprolongedintheeventofchangetootherdrugs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(7):957.961,C2019〕Keywords:免疫チェックポイント阻害薬,ペムブロリズマブ,ベムラフェニブ,原田病様ぶどう膜炎,悪性黒色腫.immunecheckpointinhibitor,pembrolizumab,vemurafenib,Vogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuveitis,malig-nantmelanoma.Cはじめに悪性黒色腫は生命予後不良の疾患であるが,近年は薬物療法のパラダイムシフトによってその治療成績は大幅に向上している.その中心となるのは新規癌治療薬である免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬でありわが国においては前者では抗CPD-1抗体(ニボルマブ,ペムブロリズマブ)と抗CCTLA-4抗体(イピリムマブ)が,後者ではCBRAF阻害薬(ベムラフェニブ,ダブラフェニブ)とCMEK阻害薬(トラメチニブ)が承認されている1).以前から海外ではこれらの薬剤の影響によると思われるぶどう膜炎の発症の報告が相ついでおり,とくに原田病様ぶどう膜炎の報告が散見される2,3).今回筆者らは低分子性分子〔別刷請求先〕立花亮祐:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部付属病院眼科Reprintrequests:RyosukeTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity,Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPANC標的薬の副作用により発症した原田病様ぶどう膜炎が免疫チェックポイント阻害薬への薬剤変更後により遷延・悪化をきたしたと考えられるC1例を経験したので報告する.CI症例患者:64歳,男性.主訴:なし(ベムラフェニブ投与前の眼科的評価目的).既往歴:糖尿病,糖尿病性腎症,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術後,眼内レンズ挿入眼.現病歴:2015年C3月頃,右耳介後部の黒色結節を指摘され増大傾向であったことから,9月上旬に近医皮膚科を受診した.悪性黒色腫が疑われたため愛媛大学病院皮膚科を紹介され,精査の結果,悪性黒色腫と診断された.病変部外科的切除および頸部リンパ節郭清後,後療法としてインターフェロンCb局所投与を施行された.しかしC2016年C2月にCPET-CTで新たに肝転移,右肺門部リンパ節転移がみつかり,BRAF変異陽性であったことから,ベムラフェニブでの治療に変更となった.ベムラフェニブ投与前の眼科的評価目的で当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.5(0.7C×sph.1.25D),左眼C0.4(1.2C×sph.1.0D(cyl.1.75DAx80°),眼圧は右眼20mmHg,左眼C18CmmHg.光干渉断層計(opticalCcoherentCtomogra-phy:OCT)では右眼に黄斑前膜を認めた.経過:2016年C2月中旬よりベムラフェニブ内服加療を開始したが,3月初旬に発熱・発疹が出現,腎機能の悪化から投与を一時中断し,ステロイド薬全身投与による全身状態の改善後,4月よりベムラフェニブを再開した.ベムラフェニブ投与中の眼科所見としては開始C2.3週間で右眼漿液性網膜.離が出現し約C1カ月間で消失が認められた(図1).その後C9月に右眼視力低下を主訴に受診した際,右眼漿液性網膜.離の再発を認めた.10月上旬にCCTで転移巣の拡大,増悪を認めたことからベムラフェニブ内服を中止.10月下旬のCOCTでは漿液性網膜.離は改善を認め,2017年C1月には完全に消失した.ベムラフェニブ中止後のC10月中旬よりニボルマブ投与を開始し,10クール投与するもCCTで転移巣の拡大を認めたことから,2017年C4月よりイピリムマブに変更となった.しかしイピリムマブC2クール終了後より肝障害が出現したことから中止となり経過をみていたが,8月中旬より全身に白斑が出現した(図2).8月下旬よりペムブロリズマブ投与が開始となったが,その後も白斑の拡大および白髪化を認めた.またペムブロリズマブ投与開始時点で脈絡膜の脱色素斑を認め,以後拡大傾向を示した(図3).ペムブロリズマブ投与開始からC4カ月が経過したC2018年1月下旬に右眼に軽度硝子体混濁が出現した.当初糖尿病網膜症からの硝子体出血と考えていたため経過をみていたが,前房内浮遊細胞も出現し両眼性の硝子体混濁となったことから原因検索目的に血液検査を実施した.可溶性CIL-2レセプターがC966CU/mlと高値であったが,内科的にはサルコイドーシスは否定的であった.同時にCHLA抗原を調べたところHLA-DR4が陽性であった.またフルオレセイン蛍光眼底造影検査を実施したところ,網膜血管炎および視神経乳頭炎の所見を認めた(図4).原因としてペムブロリズマブによる薬剤性の副作用が考えられたことから,ペムブロリズマブの中止とプレドニゾロン(predonisolone:PSL)10Cmg内服を開始し,両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を施行した.直後より硝子体混濁は改善傾向を示しCPSL5Cmgの投与を継続しペムブロリズマブを再開した.その後は硝子体混濁の再燃なく経過している(図5).CII考按初発の原田病では前眼部炎症は認めないこともあるが,遷延化すると前眼部炎症は強くなり眼底は夕焼け状,視神経乳図2白斑および白髪の経過a:2017年C9月.Cb:2018年C1月.Cc:2018年C5月.Cd:2018年C7月上肢写真.ペムブロリズマブ投与開始後より全身に白斑が出現し,投与後白斑の拡大および白髪化の進行を認めた.図3脈絡膜の脱色素斑の経過眼底写真a,b:2017年C1月(ベムラフェニブ投与後).c,d:2017年C8月(ニボルマブ,イピリムマブ投与後).e,f:2018年C9月(ペムブロリズマブ投与後).薬剤変更によっても脈絡膜斑状萎縮巣の進行,および拡大傾向を認めた.頭周囲の網脈絡膜萎縮,黄斑部の色素脱失と集積,周辺部には網脈絡膜萎縮による白斑がみられるようになり,さらに網膜血管炎,硝子体混濁を呈することもある.本症例は最初に投与されたベムラフェニブにより原田病様ぶどう膜炎を生じ,ステロイド薬全身投与,ベムラフェニブからニボルマブ,イピリムマブへの薬剤変更により漿液性網膜.離は消失するも,白斑の出現・白髪化,脈絡膜萎縮巣の拡大といった臨床所見から遷延化が示唆され,その後のペムブロリズマブへの薬剤変更により前房内炎症と硝子体混濁の出現など悪化をきたしたと考えられる症例である.低分子性分子標的薬は細胞の増殖・分化・生存にかかわるMAPKシグナル伝達経路(RAS-RAF-MEK-ERK)においてCBRAF遺伝子変異により異常増殖が生じている癌細胞の癌促進的なシグナルを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤である.BRAF阻害薬は副作用としてのぶどう膜炎の報告があるため,本症例は皮膚科から薬剤投与前のスクリーニング目的で紹介され,初診時には漿液性網膜.離や他のぶどう膜炎症状を疑う所見はみられなかったが,ベムラフェニブ投与後C1カ月経過して片眼の漿液性網膜.離を発症した.ほぼ同時期に慢性腎不全の増悪からステロイドミニパルス療法が開始され,結果的に一度は漿液性網膜.離は消失するもステロイド内服漸減中に漿液性網膜.離が再発し,ベムラフェニブの中止後C2.3カ月で漿液性網膜.離は再度消失した.以上の経緯より漿液性網膜.離はベムラフェニブによる副作用と考えられた.Choeら4)によるとベムラフェニブ投与中にぶどう膜炎がC4%に生じるとされており,その発症までの期間は薬剤投与後C19日.7カ月であったとしている.発症の理由としては,悪性黒色腫の潜在性の脈絡膜転移巣に対するベムラフェニブによる直接的な攻撃的作用の結果生じるリンパ球の浸潤,あるいは脈絡膜のメラノサイトへの薬理作用に対する炎症性反応などが関与していると推察している.片眼のみの発症となったのは発症眼に黄斑上膜を認め網膜牽引が影響している可能性や,あるいは発症前後のステロイド加療により反対眼の時間差の発症を予防できた可能性も考えられる.一方,免疫チェックポイント阻害薬はCTリンパ球に発現する免疫チェックポイント分子に結合し抗腫瘍免疫のブレーキを解除・活性化し抗腫瘍効果を得る薬剤であるが,国内ではニボルマブやイピリムマブ投与中の原田病様ぶどう膜炎の報告があり5.7),その発症には注意する必要がある.本症例では当初ニボルマブが約半年間投与されるも転移巣の拡大を認めたためイピリムマブへ変更となったが重篤な肝障害が出現しC1カ月で中止,4カ月間の中断期間の後にペムブロリズマブの投与が開始されている.その休薬期間中に全身の皮膚白斑と白髪が出現し以後進行した.また時期を同じくして眼底の脱色素斑も認められている.免疫チェックポイント阻害薬の投与中の白斑の出現や白髪化はよく知られており8),本症例もメラノサイト由来である悪性黒色腫に対する腫瘍免疫の増強に伴って毛髪や皮膚,網膜色素上皮や脈絡膜など全身のメラノサイトへの攻撃が顕在化したと考えられる.またHLA-DR4陽性であったことも原田病類似の症状を生じやすい素因となったと考えられる9).ペムブロリズマブ投与中のぶどう膜炎発症に関してわが国での報告はない.海外での報告によると両眼性の前房内炎症性細胞と角膜後面沈着物,硝子体混濁,網膜血管炎,視神経乳頭炎,.胞様黄斑浮腫が指摘されている10.12).ペムブロリズマブはニボルマブと同じ抗CPD-1抗体であるが,ニボルマブ投与中に生じなかった前房内炎症や硝子体混濁がペムブロリズマブ投与後に生じたことに関しては薬剤特性や有効性の違いなどが影響したことも考えられるが,その時点での患者の全身状態も関係してくるため一概に評価はできない.今回,汎ぶどう膜炎発症後は主治医と相談のうえ,ペムブロリズマブ国内臨床試験時に規定されていた対処法に則りペムブロリズマブ休薬とステロイド薬全身投与を開始した.ただしステロイド薬大量投与による悪性黒色腫の悪化を懸念し,全身投与は少量にとどめ両眼へのステロイドCTenon.下注射を併用したところ,速やかに前房内炎症と硝子体混濁は改善したため,ステロイド薬局所投与は有効であったと考えられた.これらの新規癌治療薬の休薬やステロイドの使用に関しては原病のこともあり主治医と連携して治療に努めるべきである.悪性黒色腫に対する新規癌治療薬としての免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬は承認薬剤が増えさらに生命予後が改善しているため,眼科医がこれらの薬剤が関与するぶどう膜炎に遭遇する機会は今後増えると予想される.抗腫瘍効果が不十分であったり,あるいは全身性の副作用の発現のため新規癌治療薬の変更が行われることは少なくないが,本症例のように新規癌治療薬の副作用として発症した原田病様ぶどう膜炎は薬剤を変更しても遷延化することがあり,注意深い経過観察や加療が必要である.文献1)山﨑直也,清原祥夫,宇原久ほか:悪性黒色腫(メラノーマ)薬物療法の手引.SkinCancerC32:1-5,C20172)WongRK,LeeJK,HuangJJ:Bilateraldrug(ipilimumab)C-inducedvitritis,choroiditis,andserousretinaldetachmentssuggestiveofVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.RetinCasesBriefRepC6:423-426,C20123)MatsuoCT,CYamasakiO:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCposteriorCuveitisCinCtheCcourseCofnivolumab(anti-PD-1antibody)C,interposedbyvemurafenib(BRAFinhibi-tor),formetastaticcutaneousmalignantmelanoma.ClinicalCCaseReportsC5:694-700,C20174)ChoeCCH,CMcArthurCGA,CCaroCICetal:OcularCtoxicityCinCBRAFmutantcutaneousmelanomapatientstreatedwithvemurafenib.AmJOphthalmolC158:831-837,C20145)水井徹,臼井嘉彦,原田和俊ほか:抗CprogrammedCcelldeath1抗体ニボルマブ投与中にぶどう膜炎と脱色素を生じたC1例.日眼会誌121:712-718,C20176)木下悠十,野田拓志,古川真二郎ほか:ニボルマブ投与後にCVogt-小柳-原田病に類似した汎ぶどう膜炎を発症したC1例.臨眼71:1019-1025,C20177)大西瑞恵,大西英之,堀内義仁ほか:イピリムマブ投与後に発症したCVogt-小柳-原田病の様相を呈する汎ぶどう膜炎の一例.眼臨紀11:819-823,C20188)KadonoT:Immune-relatedCadverseCeventsCbyCimmuneCcheckpointinhibitors.NihonRinshoMenekiGakkaiKaishiC40:83-89,C20179)雪田昌克,阿部俊明,高橋秀肇ほか:Vogt-小柳-原田病におけるCHLA-DRB1040501検出の頻度.あたらしい眼科C27:129-132,C201010)DiemCS,CKellerCF,CRueschCRCetal:Pembrolizumab-trig-gereduveitis:AnCadditionalCsurrogateCmarkerCforCrespond-ersCinmelanomaimmunotherapy?CJImmunotherC39:379-382,C201611)AbuSamraK,Valdes-NavarroM,LeeSetal:AcaseofbilateralCuveitisCandCpapillitisCinCaCpatientCtreatedCwithCpembrolizumab.EurJOphthalmolC26:e46-48,C201612)TaylorSC,HrisomalosF,LinetteGPetal:Acaseofrecur-rentCbilateralCuveitisCindependentlyCassociatedCwithCdab-rafenibCandCpembrolizumabCtherapy.CAmCJCOphthalmolCCaseRepC13:23-25,C2016***