‘囊外固定’ タグのついている投稿

眼内レンズの囊外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):213.216,2024c眼内レンズの.外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1例安次嶺僚哉力石洋平新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CACaseofSecondaryGlaucomaCausedbyExtracapsularFixationofIntraocularLensRyoyaAshimine,YoheiChikaraishi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:眼内レンズ(IOL)の.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験したので報告する.症例:45歳,男性.右眼水晶体再建術後に眼圧コントロール不良で紹介となった.初診時,右眼視力はC1.0,眼圧C60CmmHg,明らかなCIOL偏位はなく隅角に全周性色素沈着を認めた.色素緑内障と診断し線維柱帯切開術を施行した.術後一時的な眼圧下降を認めるも,再上昇をきたし線維柱帯切除術を施行した.眼圧は下降したが経過中に術眼を打撲,軽度浅前房と前房出血以外に異常所見なく経過観察とした.受傷C3日後に眼痛が出現し著明な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認め,前房形成術とCIOL整復術を施行した.術中所見はCIOL支持部の一方が.外固定であった.術後前房深度,眼圧ともに安定した.結論:IOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験した.水晶体再建術後の色素沈着を伴う続発緑内障では術後早期でもCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsecondaryCpigmentaryCglaucomaCcausedCbyCintraocularlens(IOL)dislocation.CCaseReport:A45-year-oldmalewasreferredtousduetopoorintraocularpressure(IOP)controlpostcataractsurgery.Uponexamination,hisright-eyevisualacuityandIOPwas1.0and60CmmHg,respectively.Hewasdiag-nosedaspigmentaryglaucomaduetohyperpigmentationinthetrabecularmeshwork,andtrabeculotomywasper-formed.Postsurgery,theIOPwaspoorlycontrolled,sotrabeculectomywasperformed.Aftertrabeculectomy,theIOPdecreasedandwaswellcontrolled.At5-dayspostoperative,theoperatedeyewasseverelyinjured,andat3daysCpostCinjury,CtheCanteriorCchamberCdepthCbecameCveryCshallowCandCirisCcaptureCofCtheCIOLCopticsCwasCobserved.CTheCIOLCwasCthenCsurgicallyCguidedCintoCtheCcapsuleCandCanteriorCchamberCdepthCbecameCdeepened.CIntraoperative.ndingsshowedthatonesideoftheIOLhapticswaslocatedoutofthecapsule.Conclusion:Sec-ondarypigmentaryglaucomaearlypostcataractsurgerymaybecausedbyIOLdislocation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):213.216,C2024〕Keywords:続発緑内障,眼内レンズ,.外固定.secondaryglaucoma,intraocularlens,extracapsular.xation.はじめに色素緑内障は,線維柱帯への色素沈着により眼圧上昇をきたす疾患である1).原因の一つとして,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)支持部と虹彩後部が接触することで,虹彩上皮から色素が過剰に遊離し,線維柱帯の流出路が障害されることにより生じると考えられている2).IOL.外固定による続発色素緑内障の発症時期は術後約C13カ月やC22カ月と,おおむね術後C1年以上と報告されている3,4).今回,筆者らは水晶体再建術後C9日目と比較的早期に発症した,IOL.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障のC1例を経験したため報告する.CI症例45歳,男性.家族歴や既往歴に特記事項なし.X年C3月に前医で右眼水晶体再建術(HOYAisert255,度数不明)を施行.術翌日の右眼眼圧がC42CmmHgと上昇,高張浸透圧薬の点滴および抗緑内障点眼治療にて下降した.術後C3日目の右眼矯正視力はC1.5,眼圧はC13CmmHgであった.術後C9日目に右眼の霧視と視力低下を主訴に前医受診,右眼矯正視力はC0.3,眼圧はC40CmmHg,角膜浮腫と前房内に虹彩色素を〔別刷請求先〕安次嶺僚哉:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:RyoyaAshimine,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC図1当院初診時の右眼前眼部写真角膜浮腫とCIOL上に色素沈着を認める.認めた.前述の点滴・点眼を使用するも眼圧コントロール不良のため,術後C10日目に琉球大学附属病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見はCVD=0.1(1.0C×sph.3.00D(cyl.1.00DAx160°),VS=0.03(1.0C×sph.4.75D(cylC.1.00DAx5°)であり,眼圧は右眼60mmHg,左眼18mmHgであった.右眼角膜浮腫とCIOL上の色素沈着を認めた.散瞳検査は未施行でありCIOL光学部までしか観察はできず,明らかなCIOL光学部の偏位や動揺はなかった(図1).隅角鏡検査にて右眼優位の線維柱帯への全周性色素沈着を認めた.周辺虹彩前癒着は認めなかった.眼底に特記所見は認めなかった.CII経過線維柱帯への高度な色素沈着と眼圧上昇より,術後早期の続発色素緑内障と診断し,受診日当日に線維柱帯切開術を施行した.術後眼圧はC20CmmHg以下に下降したが術後C5日目に右眼視力低下のため外来受診,右眼矯正視力はC0.08,眼圧はC55CmmHgと再上昇を認めた.炭酸脱水酵素阻害薬内服および抗緑内障点眼使用にても眼圧コントロール不十分であったため,線維柱帯切開術施行C10日後に線維柱帯切除術を施行した.術後眼圧はC15CmmHg程度にコントロールされた.線維柱帯切除術後C5日目,ベッドの手すりで右眼を打撲した.前房出血があり,右眼眼圧C7CmmHgとやや低下あるものの,中心前房深度はC3.4角膜厚と保持されていたため予定どおり退院とした.退院C3日後に眼痛,嘔気を主訴に予約外受診,眼圧はC12CmmHgであったが中心前房深度はC0.5角膜厚と高度な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認めたため,外来処置室にてオキシグルタチオン(BSS)を用いてCIOL光学部を虹彩後方に整復した.しかし,翌日診察時には再度浅前房およびCIOLの虹彩捕獲を認めた(図2).眼圧はC3CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査にて周辺虹彩切除部から前.上に図2打撲後,予約外診時の右眼前眼部写真a:高度な浅前房化を認める.Cb:IOL光学部の虹彩捕獲を認める.IOL支持部が観察された.この所見よりCIOL支持部.外偏位による続発色素緑内障と診断した.同日粘弾性物質を用いて,IOL支持部の水晶体.内への整復術と前房形成術を施行した.術中所見では連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorhexis:CCC)径はC7Cmm程度で上方支持部は.外に偏位しており,下方支持部は.内に固定されていた.術後,IOL偏位はなかったが中心前房深度はC2.3角膜厚と浅前房化しており,右眼眼圧はC4CmmHgと低眼圧であったため過剰濾過と判断し,IOL整復術後C5日目に強膜弁を追加縫合した.その後前房形成および眼圧コントロール良好で経過している.CIII考察Changら2)はCIOLを毛様溝に挿入後に発症した続発色素緑内障について,平均発症時期は初回水晶体再建術後C21.9C±17.1カ月と報告している.一方,Micheliら3)は.内固定されたCIOLの片側が経過中に.外へ脱出したことにより術後C27日目と比較的早期に続発色素緑内障を発症した症例を報告しており(表1),支持部が脱出した要因としてCCCCが表1水晶体再建術後に続発色素緑内障を発症した期間とIOLの種類UySHetal4)CChangSHetal2)CMicheliTetal3)本症例平均発症期間C13.0±9.6カ月C21.9±17.1カ月27日9日CIOLアクリル,1ピース9眼:アクリル,1ピース1眼:シリコーンアクリル,1ピースアクリル,1ピース症例数20眼10眼1眼1眼眼圧(mmHg)図3本症例の治療と眼圧の経過7Cmmと大きかったためとしている.本症例においてもCIOL整復術中の所見で,7Cmm程度と大きめのCCCCを認めており,既報と同様,水晶体再建術後早期に片側のCIOL支持部が.外偏位し,虹彩と接触することにより色素散布が起こり眼圧上昇した可能性が考えられた.しかし,前医からの追加情報として前医の術中灌流・吸引(I/A)ハンドピース抜去時にCIOLの下方支持部が虹彩上に脱出し,整復を施行したこと,および当院でのCIOL支持部の整復術中所見では上方支持部は.外,下方支持部は.内に固定されていた所見から,前医でのCI/A抜去時にCIOL支持部は上下ともに.外へ脱出し,整復の際にCIOL上方支持部が十分に.内に戻らず.外に固定されたままであった可能性も考えられた.また,.外固定と比較して片側のCIOL支持部が脱出した場合のほうが虹彩と支持部の接触する角度がついて,より色素散布が強く起こり,早期に眼圧が上昇する可能性が考えられた.IOL支持部の偏位時期に関しては,眼球打撲時の可能性も否定できないが,受傷後の診察でも明らかなCIOL支持部の偏位は認めなかったため打撲の影響ではなく前医の術中,もしくは術後早期のCIOL支持部の.外偏位の可能性が高いと考えられた.IOLによる続発色素緑内障は虹彩とCIOLの接触が原因であるため,治療は早期に虹彩とCIOLの接触を解除することである.その後も眼圧下降が不十分な場合はレーザー線維柱帯形成術や流出路再建術,濾過手術を施行する4,5).本症例では濾過手術とCIOL整復術後,眼圧の大きな変動はなく安定した.今回は未施行だったが,既報では超音波生体顕微鏡(UBM)での虹彩とCIOL前面の接触所見は診断に有用6)とあり,術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLが原因の可能性も考慮して,前眼部の画像検査が重要であると考えられた.CIV結論水晶体再建術後早期にCIOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障の症例を経験した.水晶体再建術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SugarCHS,CBarbourFA:PigmentaryCglaucoma;aCrareCclinicalentity.AmJOphthalmolC32:90-92,C19492)ChangCSH,CWuCWC,CWuSC:Late-onsetCsecondaryCpig-mentaryCglaucomaCfollowingCfoldableCintraocularClensesCimplantationCinCtheCciliarysulcus:aClong-termCfollow-upCstudy.BMCOphthalmolC13:Articlenumber22,20133)MicheliCT,CLeanneCMC,CSharmaCSCetal:AcuteChaptic-inducedCpigmentaryCglaucomaCwithCanCAcrySofCintraocu-larlens.JCataractRefractSurgC28:1869-1872,C20024)UyHS,ChanPS:Pigmentreleaseandsecondaryglauco-maCafterCimplantationCofCsingle-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCtheCciliaryCsulcus.CAmCJCOphthalmolC142:330-332,C20065)LeBoyerRM,WernerL,SnyderMEetal:Acutehaptic-inducedCciliaryCsulcusCirritationCassociatedCwithCsingle-pieceCAcrySofCintraocularClenses.CJCCataractCRefractCSurgC31:1421-1427,C20056)Detry-MorelML,AckerEV,PourjavanSetal:AnteriorsegmentimagingusingopticalcoherencetomographyandultrasoundCbiomicroscopyCinCsecondaryCpigmentaryCglau-comaCassociatedCwithCin-the-bagCintraocularClens.CJCCata-ractRefractSurgC32:1866-1869,C2006***