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ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜細胞に対する影響の検討

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)549《原著》あたらしい眼科28(4):549.552,2011c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜細胞に対する影響の検討福田正道矢口裕基藤田信之稲垣伸亮長田ひろみ柴田奈央子佐々木洋金沢医科大学眼科学EffectofSodiumHyaluronateEyedropsonCornealCellsMasamichiFukuda,HiromotoYaguchi,NobuyukiFujita,ShinsukeInagaki,HiromiOsada,NaokoShibataandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:市販のヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%の角膜上皮細胞に対する安全性を従来の培養家兎由来角膜細胞株(SIRC)による評価法(invitro)および角膜抵抗測定装置を用いた評価法(invivo)により評価した.方法:SIRCにヒアレインR点眼液0.1%(以下,ヒアレイン),アイケアR点眼液0.1%(以下,アイケア),ティアバランスR点眼液0.1%(以下,ティアバランス)およびベンザルコニウム塩化物0.02%溶液(以下,BAK)を0,5,10,15,30および60分接触した際の細胞数を測定し,各測定時点の細胞数から細胞生存率(%)を算出した.また,角膜抵抗測定法では家兎の結膜.内に各点眼液およびBAKを5分ごと5回点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗(CR)を測定した.結果:Invitroによる評価ではヒアレインは接触時間の増加に伴い,生存率は徐々に減少し,接触60分後では64.3%まで減少した.一方,アイケアでは接触60分後で89.2%,ティアバランスでは92.7%とほぼ同程度の生存率を示し,細胞障害性はほとんど認められなかった.なお,BAKでは接触8分後で24.2%まで生存率は減少した.Invivoで一般的に汎用されている角膜染色による障害性評価ではBAK以外のいずれの製剤にも障害性は認められなかった.角膜抵抗測定法(CR比)による評価においても点眼前に対するCR比はヒアレインでは105.4±5.0%,アイケアでは110.8±16.4%,ティアバランスでは110.8±2.1%,BAKでは67.0±10.3%であった.結論:今回,従来から汎用されている角膜染色による障害性評価およびCR比によるinvivoでの評価においてはBAK以外のヒアルロン酸点眼液で角膜障害性は認められなかったものの,invitro試験の結果から,ティアバランスとアイケアの角膜障害性はほとんどなく,角膜障害はBAK>ヒアレイン>ティアバランス=アイケアの順であった.Purpose:Theeffectofcommerciallyavailableeyedropscontaining0.1%sodiumhyaluronateoncornealepithelialcellswasevaluatedinvitrobyaconventionalmethodusingculturedstatensseruminstitutrabbitcornea(SIRC)cells,andinvivobycornealresistance(CR)measurement.Methods:CulturedSIRCcellswereincubatedwithHyaleinR0.1%eyedrops(Hyalein),EyecareR0.1%eyedrops(Eyecare),TearbalanceR0.1%eyedrops(Tearbalance)or0.2%benzalkoniumchloridesolution(BAK)for0,5,10,15,30and60min;thecellswerethencountedateachtimepointtocalculatethecellsurvivalrate(%).TomeasureCR,eachoftheeyedropsandBAKwereadministeredtotheconjunctivalsacsoftherabbits5timesevery5min;CRwasmeasured2minafteradministration.Results:TheinvitroevaluationshowedthatcellsurvivalratesgraduallydecreasedascellcontacttimewithHyaleinincreased.After60minofcellcontactwithHyalein,theratedecreasedto64.3%.Ontheotherhand,cellsurvivalratesafter60minofcontactwithEyecareandTearbalancewere89.2%and92.7%,respectively,almostcomparablerates;almostnocelldamagewasobservedaftercontactwithEyecareandTearbalance.Incontrast,BAKdecreasedthecellsurvivalrateto24.2%after8minofcontactwiththecells.Thecornealstainingexaminationwidelyusedforinvivoassessmentofcornealinjuriesdisclosednodifferencesbetweentheeyedrops,exceptingBAK.CRratio,asdeterminedbyCRmeasurementbeforeandaftereyedropadministration,was105.4±5.0%forHyalein,110.8±16.4%forEyecare,110.8±2.1%forTearbalanceand67.0±10.3%forBAK.Conclusion:Inthisstudy,cornealinjuryinvivoevaluationbywidelyusedconventionalcornealstainingandCRratiomeasurementdisclosednocornealinjuriescausedbysodiumhyaluronateeyedrops,exceptingBAK.TheresultsofinvitroexaminationindicatedthatTearbalanceandEyecaredidnotcausecornealcelldamage.Resultsshowedthatthe550あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(94)はじめにヒアルロン酸ナトリウム点眼液はSjogren症候群,Stevens-Johnson症候群,眼球乾燥症候群(ドライアイ)などの内因性疾患および術後,薬剤性,外傷,コンタクトレンズ(CL)装用などによる外因性疾患に伴う角膜上皮障害治療用点眼薬として,わが国では1995年から発売されている.その作用機序はヒアルロン酸ナトリウムが自身の保水性とともに,フィブロネクチンと結合し,その作用を介して上皮細胞の接着,伸展を促進するといわれている1~4).本剤の眼科臨床での貢献度は大きく,先発品のヒアレインRに加えて後発品が多数開発され市販されている.筆者らは先にヒアレインRおよび各後発品について培養家兎由来角膜細胞(SIRC)株による評価法(invitro)を用いて角膜上皮細胞に対する安全性を評価し,各点眼液に含まれる添加物の違いにより角膜上皮細胞に対する影響が異なることを確認している5).今回,SIRCによる評価法(invitro)に加え,角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,各ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜上皮への影響を検討した.I実験材料1.試験薬剤(表1)ヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%にはヒアレインR点眼液0.1%(以下,ヒアレイン)〔参天製薬(株)〕,アイケアR点眼液0.1%(以下,アイケア)〔科研製薬(株)〕,ティアバランスR点眼液0.1%(以下,ティアバランス)〔千寿製薬(株)〕および,ベンザルコニウム塩化物0.02%溶液(以下,BAK)〔東京化成(株)〕を使用した.2.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0~3.5kg,雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学動物使用倫理委員会の使用基準に従うとともにARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従い,動物への負担配慮を十分に行い施行した.3.使用細胞株使用細胞株はSIRC(ATCCCCL60),10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’smedium(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜電極は弯曲凹面に関電極および不関電極を同心円状に配設し,両電極が測定時に家兎の角膜表面に接するようにした.電気抵抗計装置から関電極および不関電極間に電流を通電し,その電気抵抗を測定することで角膜の電気抵抗を測定した6).角膜抵抗値(CR)の測定にはつぎのような筆者らが開発した角膜抵抗測定装置〔CRD(Cornealresistancedevice)Fukudamodel2007〕を用いた6).角膜CL電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,INC.USA)およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)を使用した.角膜CL電極はアクリル樹脂製でウサギ角膜形状に対応すcornealepithelialdamageobservedwas,intheorderofdecreasingseverity,BAK>Hyalein>Tearbalance=Eyecare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):549.552,2011〕Keywords:角膜抵抗,培養家兎由来角膜細胞株,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,角膜上皮障害,生体眼.cornealresistance,culturedstatensseruminstitutrabbitcorneacells,sodiumhyaluronateeyedrops,cornealepithelialdamage,livingeyes.表1試験製剤とその添加物製品名ヒアレインティアバランスアイケア(処方変更前)アイケア(処方変更後)添加物防腐剤ベンザルコニウム塩化物クロルヘキシジングルコン酸塩ベンゼトニウム塩化物クロルヘキシジングルコン酸塩液その他イプシロン-アミノカプロン酸,エデト酸ナトリウム,塩化カリウム,塩化ナトリウム,pH調節剤ホウ酸,ホウ砂,塩化ナトリウム,塩化カリウムリン酸二水素カリウム,リン酸水素ナトリウム水和物,塩化ナトリウム,エデト酸ナトリウム水和物,ポリソルベート80トロメタモール,pH調節剤,等張化剤pH6.0~7.06.5~7.56.0~7.06.8~7.8浸透圧比0.9~1.10.9~1.10.9~1.10.9~1.1製造販売元参天製薬㈱千寿製薬㈱科研製薬㈱科研製薬㈱(95)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011551る直径とベースカーブを有している.弯曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)は,それぞれ12mm,4.8mm,幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は,交流周波数:1,000Hz,波形:duration,矩形波:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.SIRCによる評価(invitro)SIRC(2×105cells)を35mmdishで10%FBS添加DME培地37℃,5%CO2下でコンフルエント状態になるまで5日間培養後,各点眼液(1,000μl)あるいはBAKを0~60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)(図1)成熟白色家兎の結膜.内に各点眼液あるいはBAKを5分ごと5回(1回50μl)点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗(CR)を測定した.1群に家兎4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)=(mV×10.3)/(100μA×10.6)CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分,30分,60分後に1%フルオレセインナトリウム溶液2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.4.統計学的処理検定法はStudent’st-testで行い,有意水準は0.05未満とした.III結果1.SIRCによる評価(invitro)ヒアレインでは接触時間の経過とともに,徐々に生存率は減少し,接触60分後では64.3%まで減少した.一方,アイケアでは接触60分後で89.2%,ティアバランスでは92.7%とほぼ同程度の生存率を示し,細胞障害性はほとんどみられなかった.薬剤と培養細胞の接触時間が30分以上経過するとヒアレインと2種点眼液の細胞障害の程度に有意な差が生じた(p<0.05).BAKの接触8分後では24.2%まで生存率は減少した(図2).2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法によるCR比は,ヒアレインが105.4±5.0%(平均±標準偏差)であったのに対して,アイケアでは110.8±16.4%,ティアバランスでは110.8±2.1%であった.3種点眼液間には有意差はなく,いずれも角膜抵抗測定法によるCR比の低下はなかった.BAKでは67.0±10.3%まで低下した(表2).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色によるAD分類では,どの点眼薬においても,A0D0であった.BAKでは溶液接触2分後ではA2D2程度の障害がみられた.IV考按ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は1995年にヒアレインが発売になり,その後後発品が多数発売されている.いずれの後発品も先発品のヒアレインとの生物学的同等性試験により表2角膜抵抗測定法による評価(invivo)試験製剤角膜抵抗(CR)比(%)アイケアR点眼液0.1%110.8±16.4ティアバランスR点眼液0.1%110.8±2.1ヒアレインR点眼液0.1%105.4±5.0ベンザルコニウム塩化物0.02%溶液67.0±10.3図1角膜抵抗測定装置(Current=±50μA,Frequency=1,000Hz)IsolatorPowerLabTrigger(Functiongenerator)ContactlenselectrodesComputer+-図2培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)100120806040200020406080生存率(%)時間(分)**:アイケア(0.1%):ヒアレイン(0.1%):ティアバランス(0.1%):BAK(0.02%)*:p<0.05%552あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(96)効果に差がないことは認められているが,主成分であるヒアルロン酸ナトリウム以外の添加物(防腐剤,溶解補助剤,界面活性剤,他)が異なるために,安全性,特に点眼液で重要な角膜障害性については同一とはいえない.そこで,すでに筆者らはSIRCに対する影響に関する検討を行い,先発品ヒアレインおよびヒアレインミニ,後発品(アイケア,ヒアール,ヒアロンサン,ティアバランス)のヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%の安全性を評価した結果,配合されている防腐剤の影響が大きく,ベンザルコニウム塩化物とベンゼトニウム塩化物は角膜障害性が大きく,エデト酸ナトリウムの関与が考えられ,クロルヘキシジングルコン酸塩やパラベン類の角膜への影響は比較的小さいものと考えられた5,8,9).今回使用したアイケアは前回使用のアイケア中の防腐剤であるベンゼトニウム塩化物をクロルヘキシジングルコン酸塩液に変更した.変更理由としては,アイケアが角膜上皮障害の治療薬であるため,点眼液に必要な保存効力を維持しながら,さらに,細胞障害性を軽減させることである.対照点眼液としてティアバランス,ヒアレインを用いて比較検討した.その結果,処方変更後のアイケアを接触させたときの細胞生存率はティアバランスとほぼ同等で,角膜上皮障害はほとんどみられなかった.処方変更後のアイケアとリン酸緩衝液を比較検討したところ,ほぼ同等の結果が得られた.さらにこの結果を,すでに筆者らが報告したベンゼトニウム塩化物を含む処方変更前のアイケアの結果と比較すると,有意に角膜障害性が軽減されていた.先発品であるヒアレインでは既報とほぼ一致する細胞障害性を示したことは,ベンゼトニウム塩化物やベンザルコニウム塩化物はクロルヘキシジングルコン酸塩に比べ細胞障害性が強いことを示すものであった5).Invivoの実験ではいずれの点眼液においても生体眼でのCR値の低下はみられず,フルオレセイン染色においても角膜上皮障害は確認されなかった.この点はinvitroの成績とは大きく異なり,invivoでは細胞障害を生じにくい傾向がみられたが,この原因は涙液や角膜上皮細胞の生理的条件が異なるためと推測している.しかし,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液はドライアイなどすでに角膜に障害がある患者に使用される薬剤であり,本実験で行った正常家兎眼での結果をそのまま適応して考えることはできない.ドライアイ患者などのハイリスク群では,添加剤の角膜障害性の影響はより大きくなることが予想されるため,十分注意が必要である.今回,市販の各種ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の角膜障害性をSIRC細胞で評価した結果,薬剤と培養細胞の接触時間が30分以上経過すると各点眼液の細胞障害の程度に有意な差が生じた.検討した点眼液の角膜障害性はクロモグリク酸ナトリウム点眼液やジクロフェナクナトリウム点眼液あるいはマレイン酸チモロール点眼液に比べて少なかった7,8)が,治療の対象となる疾患が角膜障害を有する点でこれらの薬剤での結果と同一レベルの安全基準で評価することはできない.ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の障害性は配合されている添加物,特にベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物などの第四アンモニウム塩による影響が大きいと考えられた.正常な生理的条件下であれば,これらの防腐剤を含むヒアルロン酸ナトリウム点眼液であっても角膜障害は発症しにくいと考えるが,涙液量が少なく角膜上皮の状態が悪い症例においては,より角膜障害を生じにくい薬剤の選択が重要であると考える.文献1)LaurentTC:Biochemistryofhyaluronan.ActaOtolaryngolSuppl442:7-24,19872)GoaKL,BenfieldP:Hyaluronicacid.Areviewofitspharmacologyanduseasasurgicalaidinophthalmology,anditstherapeuticpotentialinjointdiseaseandwoundhealing.Drugs47:536-566,19943)北野周作,大鳥利文,増田寛次郎:0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の重症角結膜上皮障害に対する効果.あたらしい眼科10:603-610,19934)NishidaT:Extracellularmatrixandgrowthfactorsincornealwoundhealing.CurrOpinOphthalmol4:4-13,19935)福田正道,山本佳代,佐々木洋:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の培養家兎角膜細胞に対する障害性.医学と薬学56:385-388,20066)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20077)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20098)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20099)福田正道,村野秀和,山代陽子ほか:グルコン酸クロルヘキシジン液の培養角膜上皮細胞に対する影響.眼紀56:754-759,2005***