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ラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(97)849《第30回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科28(6):849.854,2011c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討福田正道稲垣伸亮萩原健太矢口裕基佐々木洋金沢医科大学眼科学GenericVersionsofLatanoprostOphthalmicSolutionEvaluatedforSafetytoCornealEpithelialCellsMasamichiFukuda,ShinsukeInagaki,KentaHagihara,HiromotoYaguchiandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:11種類のラタノプロスト後発品点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する安全性を評価した.方法:SIRC(2×105cells)を10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’s(DME)培地37℃,5%CO2下でコンフルエントの状態で,12種のラタノプロスト点眼薬およびリン酸緩衝液(PBS)を0,4,8,15,30および60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.PBS接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出し,50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.一方,invivo試験では家兎眼に先発品と塩化ベンザルコニウム(BAK)を使用していない3種類の点眼薬を5分ごと5回点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗値(CR)を測定し,角膜抵抗率(CR[%])を算出した.結果:12種のラタノプロスト点眼薬の細胞生存率は接触時間の経過に伴い,徐々に減少し,接触30分後で30%以下に減少する群と50%以上を維持する2つの群に大きく分けられた.細胞生存率が30%以下の群ではCDT50(分)は≦15分,50%群以上の群ではCDT50(分)は>30分であった.一方,invivo試験ではCDT50(分)が≦15分の点眼液において,CR(%)が有意に減少した.結論:12種のラタノプロスト点眼薬の角膜細胞障害への影響は点眼薬中の添加物の種類と量により,2群に分類することができた.細胞障害の強い群においては添加物であるBAKの関与が考えられた.Purpose:Eleven(11)genericversionsoflatanoprostophthalmicsolutionwereevaluatedforsafetytoculturedrabbitcornealcells(SIRC).Methods:SIRCcells(2×105cells),inaconfluentstatein10%fetalbovineserum(FBS)-addedDulbecco’smodifiedEagle’s(DME)mediumat37℃with5%CO2,wereputintocontactwith12latanoprostophthalmicsolutionsandphosphatebufferedsalinefor0,4,8,15,30and60minutes.ThecellswerethencountedbytheCoulterCountermethod.Takingthenumberofcellsincontactwithphosphatebufferedsaline(PBS)toequal100,cellsurvivalrates(%)and50%celldeathtimes(CDT50[min])werecalculated.Fortheinvivoexperiments,eachophthalmicsolutionwasinstilledintorabbiteyes5timesatintervalsof5minutes.Cornealresistance(CR)wasmeasuredat2minutesafterinstillation,andcornealresistancerates(CR[%])werecalculated.Results:Whilethecellswereincontactwiththe12solutions,theirsurvivalratesdecreasedgraduallyovertime.Accordingtothecellsurvivalrateafter30minutesofcontact,thesolutionsweredividedintotwomajorgroups:onewithcellsurvivalratesdecreasingto30%orlower,andonewithratesremainingat50%orhigher.The30%orlowergrouphadCDT50≦15min,whilethe50%orhighergrouphadCDT50>30min.Intheinvivoexperiments,CR(%)decreasedsignificantlyintheCDT50≦15mingroupofsolutions.Conclusions:The12latanoprostophthalmicsolutionswereclassifiedintotwogroupsaccordingtotheclassandqualityoftheirpreservativesthatcouldpossiblyaffectcornealcells.Thegroupwithseverecelldamagemayexhibitapossibleassociationwiththeuseofbenzalkoniumchloride(BAK)aspreservative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):849.854,2011〕850あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(98)はじめに近年,プロスタグランジン関連点眼薬の新規の開発,配合剤の登場およびラタノプロスト点眼薬の後発品の発売など,緑内障治療点眼薬の開発はめざましく,緑内障治療の選択肢が広がった.その一方で,これらの点眼薬を適切に臨床応用するためには,個々の点眼薬の特徴を把握することが重要な事項である.特に,ラタノプロスト点眼薬の後発品は2010年5月に22品目が発売され,各後発品の特徴を把握することが重要になっている.後発品点眼薬の場合は先発品の場合と異なり,添加物の種類とその量が異なることがほとんどであり,必ずしも,先発品と後発品の有効性,安全性,安定性およびさし心地が同等とはいえないのが一般的である.これらの現状を踏まえて,筆者らはこれまでに,培養家兎由来角膜細胞による評価法(invitro)や角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,抗菌点眼薬,非ステロイド点眼薬,および抗緑内障点眼薬などの角膜上皮細胞に対する安全性を評価している1,2).本研究では先発品と11種類のラタノプロスト点眼薬(後発品)の角膜上皮への影響を評価した.I実験材料1.検討点眼薬検討点眼薬の添加物については表1に示した.キサラタンR点眼液0.005%(ファイザー㈱)(先発品):主成分はラタノプロスト〔塩化ベンザルコニウム(BAK)(0.02%)(プロスタグランジンF2a誘導体(以下,『キサラタン』と略す〕.後発品としては0.005%『コーワ』(興和㈱),0.005%『ニットー』(日東メディック㈱),0.005%『科研』(科研製薬㈱),0.005%『日医工』(日医工㈱),0.005%『ニッテン』(㈱ニッテン),0.005%『アメル』(共和薬品工業㈱),0.005%『AA』(バイオテックベイ㈱),0.005%『わかもと』(わかもと製薬㈱),0.005%『センジュ』(千寿製薬㈱),0.005%PF『日点』(㈱日本点眼液研究所),0.005%『NP』(ニプロファーマ㈱)の後発品11種類と先発品1種類を実験に使用した.また,塩化ベンザルコニウム(BAK)(0.0025%,0.005%,0.01%,0.02%)(東京化学工業㈱)についても同様の実験を行った.Keywords:ラタノプロスト点眼薬,培養家兎由来角膜細胞(SIRC),50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕,塩化ベンザルコニウム(BAK),角膜電気抵抗,家兎眼.latanoprostophthalmicsolution,culturedrabbitcornealcells(SIRC),50%celldeathtimes(CDT50[min]),benzalkoniumchloride(BAK),cornealresistances,rabbiteye.表112種類のラタノプロスト点眼薬の組成商品名防腐剤添加物キサラタン点眼液0.005%BAK◎リン酸水素Na,リン酸二水素Na,塩化Na,エデト酸Na水和物ラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」BAK○トロメタモール,クエン酸,塩酸,d-マンニトール,グリセリン,ポリソルベート80,ヒプロメロースラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」BAK○リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,ポリソルベート80,塩酸,水酸化Naラタノプロスト点眼液0.005%「科研」BAK◎リン酸水素Na水和物,無水リン酸二水素Na,モノステアリン酸ポリエチレングリコール,ステアリン酸ポリオキシル40,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」BAK○リン酸水素Na,リン酸二水素Na,塩化Na,ポリソルベート80,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」安息香酸Naホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」BAK△リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,ポリソルベート80,pH調整剤,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「AA」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,pH調整剤,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,塩化Na,エデト酸Na水和物ラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,塩化Na,塩酸,水酸化NaラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」BAK×ホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」BAK×ホウ酸,ホウ砂,プロピレングリコール,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリソルベート80塩化ベンザルコニウム(BAK)濃度◎:0.02%,○:0.01%,△:0.005%,×:0%.(99)あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118512.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0.3.5kg)(雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学の動物使用倫理委員会の使用基準に従い,そのうえ,実験はARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従って,動物に負担が掛らないように,配慮して行った.3.使用細胞株細胞株は家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60)(以下,SIRCと略す)を使用し,10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’s(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜抵抗値(以下,CRと略す)の測定には,角膜抵抗測定装置(Cornealresistancedevice,CRDFukudamodel2007)を用いた3).本装置は,角膜CL(コンタクトレンズ)電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,INC,USA)およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)から構成されている.角膜CL電極はアクリル樹脂製で家兎角膜形状に対応する直径とベースカーブとを有している.弯曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)はそれぞれ12mm,4.8mm,および幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は交流,周波数;1,000Hz,波形:矩形波,duration:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRC(2×105cells)をDME-10%FBS培地37℃,5%CO25日間培養後,12種類の各点眼薬(200μl)およびBAK溶液を0,4,8,15,30および60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.その後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(以下,CDT50)を算出した.CDT50(分)は生存率(%)をもとにして,2次方程式の解の公式,aX2+bX+c=0(≠0),X=.b±b2.4ac/2aにより求めた.Y軸値が50%となるときのX軸値を2次方程式から求め,これをCDT50(分)値とした.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)成熟白色家兎の結膜.内に0.005%『キサラタン』,0.005%『NP』,0.005%PF『日点』,0.005%『ニッテン』およびBAK溶液(0.01%,0.02%)のいずれかを5分ごと5回(1回50μl)を点眼し,点眼終了2分後のCRを測定した.家兎を8群に分けて1群に4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分後に1%fluoresceinsodium2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.染色の有無をみた.4.統計学的処理検定はStudent’st-testを行い,有意水準は5%とした.III結果1.培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)12種のラタノプロスト点眼薬の細胞生存率は接触時間の経過に伴い,徐々に減少し,接触30分後で30%以下に減少する群と接触30分後で50%以上を維持する2つの群に大きく分けられた(図1).また,細胞生存率が30%以下の群ではCDT50(分)は≦15分,50%群以上の群ではCDT50(分)は>30分であった.各種点眼薬のCDT50はキサラタン(先発品):7.2分,センジュ:9.3分,AA:10.1分,わかもと:生存率(%)時間(分)わかもとコーワニットー科研日医工アメルAA日点PFニッテンセンジュNPキサラタン1251007550250010203040506070図1培養家兎由来角膜細胞による評価(12種類のラタノプロスト点眼薬)(平均値±SD)(n=4.6)12010080604020001020時間(分)生存率(%)3040図2培養家兎由来角膜細胞による評価(BAK溶液)(平均値±SD)(n=4.6)◆:BAK(0.0025%),■:BAK(0.005%),▲:BAK(0.01%),×:BAK(0.02%).852あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(100)10.2分,科研:15分,日東:37.9分,コーワ:43.2分,日医工:46.3分,NP,アメル,ニッテンおよび日点PFは60分以上であった.BAK溶液のCDT50(分)は0.0025%BAK:50.4分>0.005%BAK:14.5分>0.01%BAK:8.1分>0.02%BAK:4.0分の順であった(図2,3).2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法による評価では点眼終了2分後でCR(%)はニッテン:110.9%,日点PF:99.1%およびNP:101.6%であり,有意な低下はみられなかったが,キサラタン:86.5%では有意な低下がみられた(p<0.001).BAK溶液のCR(%)では点眼終了2分後でBAK(0.01%)溶液では90.5%,BAK(0.02%)溶液では68.7%の有意な低下がみられた(p<0.001)(図4).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色による点状角膜症の評価ではキサラタン,BAK(0.01%),BAK(0.02%)溶液では点眼終了2分後に角膜の染色がみられた(n=4).一方,NP,ニッテン,および日点PFでは染色はみられなかった(n=4).IV考按ラタノプロスト点眼薬はわが国において,1999年にキサラタン点眼液(ファイザー㈱)が緑内障治療薬として初めて臨床応用が可能になった.この当時,眼圧下降薬物治療は交感神経b遮断薬,ab刺激薬,プロスタグランジン代謝物関連薬,縮瞳薬の点眼と経口炭酸脱水酵素阻害薬が主体であった.ラタノプロストが現在,広く用いられている理由の一つに既存の点眼液に比べて,眼圧下降作用が有意に優れており,かつ全身性副作用がきわめて少ないことが考えられている.このキサラタン点眼液の後発品が2010年5月から22品目発売され,現在臨床応用されているが,今後さらに品目数が増える予定である.いずれの後発品も先発品のキサラタン点眼液との生物学的同等性試験により効果に差がないことは認められているが,主成分であるラタノプロスト以外の添加物(防腐剤,溶解補助剤,緩衝剤など)が異なるため,角膜上皮に対する影響が問題視されている.今回の実験に使用した11種類のラタノプロスト後発品にはBAK含有とBAK非含有の点眼薬を選択した.実験の結果によると,BAK非含有点眼薬(NP,ニッテン,日点PF)ではCDT50(分)は60分以上であり,角膜障害はほとんどみられなかった.一7.29.310.110.21537.943.246.3>60>60>60>6048.114.550.4010203040506070CDT50(分)わかもとコーワニットー科研日医工アメルAA日点PFBAK(0.02%)BAK(0.01%)BAK(0.005%)BAK(0.0025%)ニッテンセンジュNPキサラタン図3培養家兎由来角膜細胞における各点眼薬およびBAK溶液のCDT50(分)点眼2分後のCR(%)*68.7*90.5*86.599.1101.6110.9*:p<0.001140120100806040200CR(%)日点BAK(0.02%)BAK(0.01%)ニッテンNPキサラタン図4角膜抵抗測定法による評価(invivo)(平均値±SD)(n=4)(101)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011853方,添加物であるBAK溶液で検討した結果,BAK溶液のCDT50(分)はBAK(0.0025%):50.4分>BAK(0.005%):14.5分>BAK(0.01%):8.1分>BAK(0.02%):4.0分の順となり,BAKの濃度に依存して細胞障害の発症がみられた.BAKの細胞障害性はBAK溶液単独のほうが他の添加物が含まれている点眼薬中でのBAKの細胞障害性よりも強くなる傾向がみられ,点眼薬中ではBAKの細胞障害性が緩和されるものと考えられた.BAKを含まないNPでも細胞生存率が薬剤接触直後から約40%の減少がみられたが,その後細胞生存率はほとんど減少しなかった.この早期の減少の原因については明白ではないが,細胞死によるものではなく,点眼薬中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60による細胞間の密着性の低下による細胞脱落が原因である可能性が高いと考えている4).しかしinvivoの実験においては,涙液の存在のために角膜上のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が希釈され,角膜上皮の構造が密で重層であることから影響が生じにくいものと思われる.筆者らはこれまでに,invitroの評価法に加えて,角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,種々の点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性を評価している3,4).本研究ではinvitroの実験結果を基にして,4種類のラタノプロスト点眼薬とBAK溶液を選択して,角膜上皮への影響をinvivoの実験系で評価した.その結果,角膜抵抗測定法によるCR(%)は,キサラタン点眼液とBAK(0.01%)溶液,およびBAK(0.02%)溶液で有意な低下がみられた(p<0.001)が,その他の点眼薬では有意な低下はみられなかった.以上の結果から,角膜障害性は点眼薬中のBAK濃度に大きく影響されることが今回の実験からも明らかになった(表2).一方,先発品(キサラタン)と後発品(11種類)の角膜障害性を比較すると,先発品とほぼ同等の群と,先発品に比べて明らかに軽減している群の大きく2群に分けられ,先発品と後発品では必ずしも,角膜障害性は同等ではないことが明らかとなった.このような結果をどのように,臨床応用に結びつけるかがわれわれ医療に関わる者の大きな課題である.筆者らは,一つの評価として,CDT50(分)が30分以上であれば角膜障害をひき起こす可能性は低く,15分以内であれば角膜障害をひき起こす可能性があり,0.5分以内であれば角膜障害の発症の確率が高いと予想した2).今回の結果をこの評価法に当てはめた場合,15分以内の群と30分以上の2群に分類して,これらの点眼液の安全性を推測してもよいと考えている.その一方で,眼圧下降作用の面を考えた場合,本当に先発品であるキサラタンの効果と同等であるか,問題の残るところである.これまで,眼圧下降薬の多くに防腐剤として使用されているBAKは,防腐効果以外にも可溶化剤,薬剤透過性の亢進効果も有しているため,BAKの眼圧下降作用に対する影響も否定できない.今後,点眼薬中BAK濃度が異なることで,主剤であるラタノプロストの眼内移行にどのように影響を与えるか,検討しなければならない事項の一つである.これらの結果を考慮したうえで,臨床応用に結びつけることが最も重要である.本研究から,先発品1種類と後発品11種類の計12種類のラタノプロスト点眼薬で角膜上皮への影響に差があることを改めて確認できた.正常な角膜に対する1日1回の通常の単剤点眼であれば,BAK含有点眼薬であっても,細胞障害をひき起こすことはほとんどないと考えられる.しかし,緑内障は比較的高齢者に多い疾患であり,そのうえ長期点眼が必要なため,角膜,結膜の疾患を抱えている患者が多く,角結膜染色,涙液層破壊時間,涙液分泌テストでも半数以上に角膜上皮障害などの所見があるとされている5).さらに,眼圧下降点眼薬の多くに防腐剤として使用されているBAKは,防腐効果,可溶化剤,薬剤透過性の亢進効果も有しているが,その一方で点状表層角膜症などをひき起こす6.9).このような理由からも,角膜が脆弱なあるいは他の点眼薬の併用が必要な緑内障患者では,できる限り角膜障害の少ない点眼薬を使用することが望まれる.文献1)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20092)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20093)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20074)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,20105)LeuugEW,MedeirosFA,WeinrebRN:Prevalenceofocularsurfacediseaseinglaucomapatients.JGlaucoma17:350-355,2008表24種点眼薬とBAK溶液のCR(%),AD分類およびCDT50(分)の関連性点眼液およびBAK溶液AD分類A:範囲D:密度点眼後(CR)/点眼前(CR%)(点眼終了2分後)SIRCのCDT50(分)BAK(0.02%)A2D268.74.0キサラタンA1D286.57.2BAK(0.01%)A1D190.58.1日点A0D099.1>60NPA0D0101.6>60ニッテンA0D0110.9>60854あたらしい眼科Vol.28,No.6,20116)HerrerasJM,PaslorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19927)高橋奈美子,旗福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19998)BaudouinC:Detrimentaleffectofpreservativesineyedrops:implicationsforthetreatmentofglaucoma.ActaOphthalmol86:716-726,20089)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,2008(102)***

ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(117)3990910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):399403,2009cはじめに点眼薬の製剤設計においては,薬効だけでなく①角膜透過性および組織内移行性を含めた有効性,②角結膜および眼組織に対する安全性,③薬物の配合変化などの安定性,④さし心地(点眼時の眼刺激性)の4つの条件が要求される.これらの条件を満たすために,通常,点眼薬には主成分となる主剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,防腐剤,可溶化剤,安定化剤,懸濁化剤,粘稠化剤などが含まれている1).これらの成〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,Daigaku1-1,Uchinada-machi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響福田正道佐々木洋金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)CytotoxicEfectsofNewQuinoloneAntibioticOphthalmicSolutionsandNonsteroidalAnti-InlammatoryOphthalmicSolutionsonCulturedRabbitCornealCellLineMasamichiFukudaandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する影響を比較検討した.方法:SIRC(2×105cells)を培養5日後に4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬〔0.5%LVFX(レボフロキサシン),0.3%GFLX(ガチフロキサシン),0.3%TFLX(トスフロキサシン),0.5%MFLX(モキシフロキサシン)〕および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬(ジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液0.1%)1mlを060分間接触させ,生存細胞数をCoulterカウンターで計測し50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.結果:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上と長く,細胞障害への影響は少なかった.2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬のCDT50はジクロフェナクナトリウム点眼液では1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分と,いずれも高度の細胞障害が認められ,両薬剤間で有意差を認めた(p<0.001,Studentt-検定).結論:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬の細胞障害への影響は少なかったのに対し,2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬は細胞障害性が強いことが示唆された.Weinvestigatedtheeectsof4newquinoloneantibioticophthalmicsolutions〔(0.5%LVFX(levooxacin),0.3%GFLX(gatioxacin),0.3%TFLX(tosuoxacin),and0.5%MFLX(moxioxacin)〕and2nonsteroidalanti-inammatoryophthalmicsolutions(0.1%diclofenacsodiumophthalmicsolutionand0.1%bromfenacsodiumhydrateophthalmicsolution)onaculturedrabbitcornealcellline(SIRC).CulturedSIRC(2×105cells)incubatedfor5dayswereexposedtothe6solutionsfor060min.SurvivingcellswerecountedbyaCoultercounter,and50%celldeathtime(CDT50;min)wascalculated.Cytotoxiceectsofthe4newquinoloneophthalmicsolutionswerealllowgrade(CDT50;>60min).Cytotoxiceectsof0.1%diclofenacsodiumophthalmicsolution(CDT50;1.16min)and0.1%bromfenacsodiumhydrateophthalmicsolution(CDT50;2.56min)werehighgrade;asignicantdierencewasnoted(p<0.001,Student’st-test).Theseresultssuggestthatthecytotoxiceectsofthe4newquinoloneophthalmicsolutionsarelessthanthoseofthe2nonsteroidalophthalmicsolutionstested.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):399403,2009〕Keywords:ニューキノロン系抗菌点眼薬,非ステロイド性抗炎症点眼薬,培養家兎由来角膜細胞(SIRC),防腐剤,ベンザルコニウム塩化物.newquinoloneantibioticophthalmicsolutions,nonsteroidalanti-inammatoryophthalmicsolutions,culturedrabbitcornealcellline(SIRC),preservative,benzalkoniumchloride.———————————————————————-Page2400あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(118)分はいずれもアレルギー反応などによって角結膜に障害をひき起こす可能性があるが,なかでも防腐剤は難治性の障害を起こしうることから特に注意が必要である2,3).現在,細菌性外眼部感染症や眼科周術期においては,幅広い抗菌スペクトルを有するニューキノロン系抗菌点眼薬や抗炎症作用を有する非ステロイド性抗炎症点眼薬などが汎用されているが,一定期間,反復点眼する必要があることを考えると安全性の確保も大きな関心事の一つである.本研究では4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する影響を比較検討した.I実験材料および方法〔実験材料〕検討した点眼液は,レボフロキサシン水和物(LVFX)点眼液0.5%(クラビットR点眼液0.5%:参天製薬),トスフロキサシントシル酸水和物(TFLX)点眼液0.3%(トスフロR点眼液0.3%:ニデック,オゼックスR点眼液0.3%:大塚製薬),ガチフロキサシン水和物(GFLX)0.3%点眼液(ガチフロR0.3%点眼液:千寿製薬),モキシフロキサシン塩酸塩(MFLX)点眼液0.5%(ベガモックスR点眼液0.5%:アルコン),以上4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,およびジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%(ジクロードR点眼液0.1%:わかもと製薬),ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液0.1%(ブロナックR点眼液0.1%:千寿製薬),以上2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬である.なお,TFLX点眼液0.3%は,2製品のうちトスフロR点眼液0.3%を使用した.各点眼薬の添加物については表1,2に示した.細胞は,DME(Dulbeccomodiedeagle)-10%FBS(fatalbovineserum)培地で37℃,5%CO2下で培養した家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60SIRC)を使用した.〔実験方法〕1.各種点眼薬のSIRCに対する影響SIRC(2×105cells)を35×10mm細胞培養ディッシュ(FALCONR)のDME-10%FBS培地で5日間培養後,コンフルエントになった状態で,前記4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬を各々1ml,0,2,4,8,15,30,60分間接触させた後,シャ表1ニューキノロン系抗菌点眼薬の有効成分と添加物クラビットR点眼液0.5%トスフロR点眼液0.3%*オゼックスR点眼液0.3%ガチフロR0.3%点眼液ベガモックスR0.5%点眼液有効成分(1ml中)レボフロキサシン水和物(LVFX)トスフロキサシントシル酸水和物(TFLX)ガチフロキサシン水和物(GFLX)モキシフロキサシン塩酸塩(MFLX)5mgトスフロキサシンとして2.04mgガチフロキサシンとして3mgモキシフロキサシンとして5mg添加物塩化ナトリウム硫酸アルミニウムカリウム塩化ナトリウムホウ酸pH調整剤ホウ砂塩酸等張化剤塩化ナトリウム水酸化ナトリウムpH調整剤2成分pH調整剤pH6.26.84.95.55.66.36.37.3浸透圧1.01.10.91.1(生理食塩水に対する比)0.91.1(0.9w/v%塩化Na液に対する比)0.91.1(0.9塩化Na液に対する比)*トシル酸トスフロキサシン(TFLX)は,2製品のうちトスフロR点眼液0.3%を使用した.表2非ステロイド性抗炎症点眼薬の有効成分と添加物ジクロードR点眼液(0.1%)ブロナックR点眼液(0.1%)有効成分ジクロフェナクナトリウム1mg/mlブロムフェナクナトリウム水和物1mg/ml添加物ホウ酸ホウ砂クロロブタノールポビドンポリソルベート80ホウ酸,ホウ砂,乾燥亜硫酸ナトリウムエデト酸ナトリウム水和物,ポビドンポリソルベート80ベンザルコニウム塩化物水酸化ナトリウムpH6.07.58.08.6浸透圧約1.0———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009401(119)ーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測し50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.CDT50は,得られた生存率を基にして,時間-細胞死の曲線が二次関数になると仮定し,最小近似法で二次関数を決定後,細胞死が50%になる時間を算出した.二次方程式の解の公式,ax2+bx+c=0(≠0),x=b±-4ac/2aを用いた.CDT50を基準に,①5分以内(高度障害),②530分(中度障害),③30分以上(低度障害)に分類した.2.塩化ベンザルコニウムのSIRCに及ぼす影響SIRC(2×105cells)をDME-10%FBS培地で5日間培養後,生理食塩水と各濃度のベンザルコニウム塩化物溶液(0.01%,0.002%,0.005%)を各々1ml,0,2,4,8,15,30分間接触させた後,シャーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測しCDT50を算出した.II結果1.各種点眼薬のSIRCに対する影響(図1,2)4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上で,細胞障害の程度は低く,角膜障害への影響は少ないと考えられた.2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬は接触時間の経過とともに細胞生存率が徐々に減少し,CDT50はジクロフェナクナトリウム点眼液では1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分と,いずれも高度の細胞障害が認められた.また,その影響はジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%で有意に大きかった(p<0.001,Studentt-検定).2.ベンザルコニウム塩化物のSIRCに及ぼす影響(図3)生理食塩液,0.002%および0.005%ベンザルコニウム塩化物溶液のCDT50はいずれも30分以上と長く,細胞障害への影響は少なかったが,0.01%溶液では8.1分であり中度の障害がみられた.III考按筆者らはこれまでにSIRCを用いて種々の点眼薬の角膜細胞への影響を評価している.このSIRCは米国の細胞バンクにある家兎の角膜由来の樹立細胞で,世界的にさまざまな分野の研究に用いられている.眼の角膜障害試験においても広く使用されており,筆者らはSIRCを用いた角膜障害の評価法を独自に開発し,これまでに数多くの薬物の評価を行っている1,9).また,未公開の成績であるが,予備実験において筆者らはSIRCで得た抗菌点眼薬の細胞障害の成績とヒト由来角膜上皮細胞株(HCE-T)を用いた成績では大きな差がないことを確認したうえで,SIRCを実験に用いている.今回は,有効成分が抗菌作用を示し添加物に防腐剤が含まれていないニューキノロン系抗菌点眼薬に着眼し,防腐剤を含む非ステロイド性抗炎症点眼薬との角膜細胞への影響の相理時間(分)生存率(%)20406080100012340*:p<0.001Student’st-testn=5~6*******:ブロムフェナクナトリウム2.56:ジクロフェナクナトリウム水和物1.16CDT50(分)図2非ステロイド系抗菌点眼薬のSIRCへの影響分=5~6CDT50(分)020406080100051525301020:ベンザルコニウム塩化物0%(生食)>30:ベンザルコニウム塩化物0.002%>30:ベンザルコニウム塩化物0.005%>30:ベンザルコニウム塩化物0.01%8.1図3ベンザルコニウム塩化物溶液のSIRCへの影響0分1分4分8分15分30分60分TFLX100.097.691.596.194.496.895.9GFLX100.092.587.392.295.189.975.8LVFX100.096.698.193.491.179.661.4MFLX100.086.289.680.076.567.552.8図1ニューキノロン抗菌点眼薬のSIRCへの影響=4~6生存率(%)処理時間(分)———————————————————————-Page4402あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(120)違を検討した.眼科医療に携わる者にとって,点眼薬の安全性を知ることは,臨床において大変重要な事項である.点眼薬による角膜上皮障害は主剤あるいは添加物による細胞毒性が直接かかわると考えられる3).添加物の一つである防腐剤には,ベンザルコニウム塩化物,クロロブタノール,パラオキシ安息香酸エステル類などが使用されているが,これらは難治性の角膜上皮障害をひき起こす可能性が報告されている3).認可市販されている点眼薬のうち,60%にベンザルコニウム塩化物が使用されているといわれており4),その濃度は0.0010.01%である5,6).高橋ら7)は,ヒト結膜上皮細胞を用いた細胞毒性試験においてベンザルコニウム塩化物は低濃度でも細胞に障害を認めるため,通常濃度としては0.00250.005%が妥当であるとしながらも,たとえ0.0025%でも頻回点眼により粘膜障害を生じる可能性があることを報告している.点眼薬の角膜細胞障害性の客観的評価方法についてこれまであまり検討されてこなかったが,筆者らはCDT50(分)を指標とする評価方法を考案し,活用している.今回もSIRCを5日間培養した後,各点眼薬を一定時間接触させてシャーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測して生存率(%)を算出し,培養細胞に接触してから細胞生存率が50%にまで減少した時点の時間で評価した.今回の検討では,薬剤接触後60分間測定を行ったが,4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上であり,細胞障害は低度であることが確認された.また,臨床的には05分までの点眼早期におけるCDT50が重要な意味をもつと考えているが,今回の成績では,いずれの点眼薬の早期の生存率も高く,角膜障害性が低いことが予想された.細胞障害性が低かった原因として,主剤そのものの細胞障害性が低いことに加え,防腐剤が含まれておらず,添加物の数も少なかったことが推察される.なお,点眼薬の接触時間とともにMFLX点眼液,LVFX点眼液,GFLX点眼液,TFLX点眼液の順で細胞生存率の減少がみられた.4薬剤間の有意差は検討していないが,TFLX点眼液における生存率減少カーブは緩やかであり,細胞障害への影響が最も少ない結果であった.この結果は,薬液添加後72時間培養後の細胞増殖に対する影響をみた櫻井ら8)の報告と異なるものとなったが,これは櫻井らが主剤の原末を溶解して使用したのに対して,本研究では臨床での影響を直接評価するために点眼液をそのまま用いたことなどが理由にあげられる.今回,家兎由来SIRC細胞で角膜障害性を評価したが,その一方で,多くの研究者によって角膜実質細胞に対しても評価が行われ,角膜上皮細胞との相違点が明らかにされている811).一方,非ステロイド性抗炎症点眼薬においては,防腐剤のベンザルコニウム塩化物が点眼による副作用として角膜上皮障害を起こすことが報告されている12).ジクロフェナクナトリウム点眼液においては,主剤とクロロブタノールとの相互作用により細胞障害が増加している可能性が高いことを,筆者らは確認している13).また,主剤である非ステロイド性抗炎症薬が角膜上皮障害を起こしうることも示唆されており,その原因としてシクロオキシゲナーゼ阻害によりリポキシゲナーゼが活性化され,生成されたさまざまなケミカルメディエーターにより炎症細胞の浸潤が起こる,細胞増殖抑制作用による,角膜知覚低下によるなどさまざまな説が提唱されている14).今回の検討において,ジクロフェナクナトリウム点眼液のCDT50は1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分であり,両薬剤ともに高度の細胞障害がみられた.ジクロフェナクナトリウム点眼液には防腐剤としてクロロブタノールが,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液にはベンザルコニウム塩化物が含まれており,角膜障害には主剤そのものの影響に加え,これら防腐剤の影響があったものと推察される.ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では,主剤以外に種々の添加物を含み,特にベンザルコニウム塩化物を含んでいることが障害の大きな原因ではないかと考えている.ベンザルコニウム塩化物を含まないジクロフェナクナトリウム点眼液において細胞障害が有意に強かったが,これは白内障術後の角膜上皮障害について検討した進藤ら11)の報告とも一致する.防腐剤を含めた添加物の濃度は各点眼薬により異なり,その種類も多いことから,ベンザルコニウム塩化物以外の添加物またはその濃度が複雑に角膜上皮に影響を及ぼしている可能性がある.したがって,主剤はもちろん防腐剤を含めた添加物の種類およびその濃度による影響については今後の検討課題である.いずれにしろ,今回検討したニューキノロン系抗菌点眼薬はいずれも角膜細胞への影響が少ないことがCDT50を用いた評価で確認された.客観的評価に基づく今回の結果は,細菌性外眼部感染症および眼科周術期におけるニューキノロン系抗菌点眼薬の有用性を細胞障害性,すなわち安全性の側面から裏付ける有意義な知見といえよう.文献1)福田正道,村野秀和,山本佳代ほか:クロモグリク酸ナトリウム点眼液の角膜細胞への影響.あたらしい眼科22:1675-1678,20052)小玉裕司:コンタクトレンズと点眼薬.日コレ誌49:268-271,20073)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,20084)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,19935)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,1989———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009403(121)6)島潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533-538,19917)高橋信夫,向井佳子:点眼用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19878)櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科23:1209-1212,20069)SeitzB,HayashiS,WeeWRetal:Invitroeectofami-noglycosidesanduoroquinolonesonkeratocytes.InvestOphthalmolVisSci37:656-665,199610)LeonardiA,PapaV,FregonaIetal:Invitroeectsofuoroquinoloneandaminoglycosideantibioticsonhumankeratocytes.Cornea25:85-90,200611)CutarelliPE,LassJH,LazarusHMetal:Topicaluoro-quinolones:antimicrobialactivituabdinvitrocornealepi-thelialtoxicity.CurrEyeRes1:557-563,199112)新城百代,仲村佳巳,酒井寛ほか:防腐剤を含まないb遮断薬による角膜上皮障害の改善.臨眼97:539-542,200313)福田正道,山代陽子,萩原健太ほか:ジクロフェナクナトリウム点眼薬の培養家兎角膜細胞に対する障害性.あたらしい眼科22:371-374,200514)進藤さやか,飯野倫子,大下雅世ほか:白内障術後の非ステロイド抗炎症薬による角膜上皮障害.眼紀56:247-250,2005***