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外来処置室の空気清浄度改善に対するエアーバリアーミニの有効性

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1474~1478,2017外来処置室の空気清浄度改善に対するエアーバリアーミニの有効性武田太郎*1,2鈴木崇*3,4小林武史*3浪口孝治*3白石敦*3*1愛媛大学医学部附属病院手術部*2愛媛大学医学部附属病院屈折矯正センター*3愛媛大学大学院医学系研究科眼科学*4いしづち眼科CE.cacyofAirBarrierMiniforImprovementofAirCleanlinessinOutpatientTreatmentRoomTaroTakeda1,2),TakashiSuzuki3,4),TakeshiKobayashi3),KojiNamiguchi3)andAtsushiShiraishi3)1)CentralSurgeryCenter,EhimeUniversityHospital,2)DepartmentofRefractiveSurgeryCenter,EhimeUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,4)IshizuchiEyeClinic目的:外来処置室において,硝子体注射や前房水採取などの眼内にアプローチする処置が増加している一方,外来処置室の空気清浄度については不安も多い.筆者らは,HEPAフィルターを内蔵した術野環境改善スポット式クリーンゾーン発生器(エアーバリアーミニ)を使用し,外来処置室の空気清浄度が向上するか確認した.方法:空気清浄度に対しては,パーティクルカウンターを用い,無作為なC3日において,処置室の空中浮遊塵埃数を継時的に測定し,エアーバリア.ミニの設置前後で比較した.結果:エアーバリアーミニ設置前における外来処置室(処置台周辺)の空中浮遊塵埃数は,処置の内容や患者の数,スタッフの出入りに大きく左右され,最高値はC167,960個/ft3,最低値はC33,820個/ft3であった.一方,エアーバリアーミニ設置後は,空中浮遊塵埃数は減少し,最高値C11,540個/ft3,最低値C150個C/ft3であった.結論:エアーバリアーミニは,外来処置室における空気清浄度改善に有効である可能性が示唆された.CPurpose:RecentlyCaCnumberCofCprocedures,CsuchCasCintravitrealCinjectionCandCaqueousChumorCtapping,CareCincreasinglybeingcarriedoutintheoutpatienttreatmentroom.However,thereisconcernregardingthecleanli.nessofoutpatienttreatmentroomair.Wecon.rmedthee.cacyofAirBarrierMiniforimprovingaircleanlinessintheoutpatienttreatmentroomusingtheAirBarrierMini,whichproducescleanair.owforthesurgical.eld.Methods:Tocheckaircleanlinessintheoutpatienttreatmentroom,thenumberofairborneparticlesintheroomwasmonitoredovertimeduring3randomdaysbyaparticlecounter.ResultswerecomparedbeforeandafterAirBarrierMiniinstallation.Results:ThenumberofairborneparticlesaroundthetreatmentstandintheoutpatienttreatmentroombeforeinstallationofAirBarrierMiniwasin.uencedbykindoftreatment,numberofpatientsandmovementCofCvariousCitems;maximumCandCminimumCairborneCparticleCcountsCwere167,960CandC33,820Cparticles/Cft3,Crespectively.CAfterCAirCBarrierCMiniCinstallation,CairborneCparticleCcountsCwereCreducedCtoC11,540(maximum)andC150(minimum)particles/ft3.Conclusions:AirCBarrierCMiniCwasCe.ectiveCinCimprovingCairCcleanlinessCinCtheCoutpatienttreatmentroom.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(10):1474~1478,C2017〕Keywords:エアーバリアーミニ,空気清浄度,外来処置室.Airbarriermini,aircleanliness,outpatienttreat.mentroom.Cはじめにらず,近視性黄斑変性,網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫,糖抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:尿病黄斑浮腫にまで使用することが可能になり,各疾患の治VEGF)抗体による治療は,加齢黄斑変性症に対してのみな療選択の一つとして注目されている.そのため,近年,抗〔別刷請求先〕武田太郎:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部附属病院手術部Reprintrequests:TaroTakeda,CentralSurgicalCenter,EhimeUniversityHospital,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,CJAPAN1474(136)図1エアーバリアーミニHEPAフィルターを介してパネルから術野に向けて送風する.VEGF薬の硝子体注射施行症例が増加していると考えられる.さらに,PCR(polymeraseCchainCreaction)による病原体CDNAの検出も可能になり,ぶどう膜炎症例において,前房水を採取する機会も増加している.硝子体注射や前房水採取は,眼内に注射針を挿入するため,処置後の眼内感染症などのリスクは少ないながらも存在する.そこで,これらの眼内へアプローチする処置に関しては,できるだけ手術室のような高い空気清浄度を保っている場所での施行が望ましい.しかしながら,処置数の増加により,手術室での対応が困難になる場合や外来において迅速に対応する必要があるなどの理由から,外来処置室で硝子体注射や前房水採取などが行われることも増加している.病院設備におけるクリーンルームのクラス分類および定義として,日本では米国連邦規格(Fed-Std-209D)が使用されてきた.これは,空気C1ftC3中に含まれるC0.5C.m以上の空中浮遊塵埃数をカウントするものであるが,現在では,国際標準化機構(InternationalCOrganizationCforCStandardiza.tion:ISO)規格への統一により,Fed-Std-209Dは廃止された.しかし,空中浮遊塵埃数をパーティクルカウンターで評価する際にはいまだにCFed-Std-209Dを指標として用いることが多い.日本の病院に求められる空調基準として,手術室で推奨される清浄度はCFed-Std-209D:クラスC1,000(粒子数C1,000個/ftC3以下)からCFed-Std-209D:クラス100,000(粒子数C100,000個/ftC3以下)の間1)とされている.外来処置室の空気清浄度に関しては,一般病室・診察室・手術回復室・材料部と同じ清浄度であるCFed-Std-209D:クラスC100,000に分類2)されているものの,眼内へアプローチする侵襲のある処置をする場合には,手術室に準じた環境であ図2レーザーガイドによる清潔エリアの確認レーザーガイドが清潔エリアを示している.ることが望ましい.眼科外来処置室の空気清浄度について過去に報告はなく,現状については不明な点も多い.さらには,空気清浄度は在室者数とその動作の多さに影響されるという報告1)もあることから,眼科外来処置室においても,場所や状況などの影響を受けずに高い空気清浄度を提供できるような設備が必要である.そこで,眼科外来処置室における空気清浄度の向上を目的に術野環境改善スポット式クリーンゾーン発生器(エアーバリアーミニ;AirBarrierMini:ABM,日科ミクロン)を使用した.(図1)本機器は,HEPAフィルターを介した20Ccm四方のパネルから術野に向けて送風することで術野からC25Ccm以内の空気清浄度をCFed-Std-209D:クラスC100まで改善させることが可能であるとされている.さらに,レーザー光を用いて,清浄なエリアを目視にて確認することができる(図2).今回,愛媛大学医学部附属病院眼科の外来処置室の空中浮遊塵埃数をパーティクルカウンターにて測定し,さらにABM設置後にも空中浮遊塵埃数を測定して比較することで,ABMの有効性を検討したのでここに報告する.CI方法空中浮遊塵埃数の測定に使用したパーティクルカウンターはリオン社製の光散乱式自動粒子計数機CKC-22A(定格流量はC2.83L/min)である.KC-22Aはクリーンルームおよび微粒子管理区域において,5段階の粒径区分(0.1C.m以上,0.2.m以上,0.3C.m以上,0.5C.m以上)の粒子数を計測することができ,本調査ではCFed-Std-209Dに準じてC0.5C.m以上の微粒子を対象として設定した.無作為に調査日をC3日選択し,眼科外来処置室における顕微鏡を用いた処置(硝子体注射,涙道洗浄,角膜擦過,トリアムシノロンCTenon.下注射)実施時の空中浮遊塵埃数をKC-22AにてC1日間測定した.空気サンプル採取場所として測定用のチューブを処置用顕微鏡に取りつけ,可能な限り術野に近づけることができるように工夫した(図3).パーティクルカウンターの測定値は,3回連続測定し平均値を出す方法が基本であるが,今回対象とした眼科処置に関しては,手技施行時間が短く,連続測定することができないため,すべて単回測定とした.また,手術室環境との比較を目的として,無作為に選んだ白内障手術C1例を施行中の手術室の空中浮遊塵埃数も測定した.CII結果ABM設置前の無作為なC3日間(計測日C1,2,3)において,処置時の浮遊塵埃数を測定した(図4).計測日C1の最低値は処置開始直後のC33,820個/ftC3,最高値はC4人目の処置時のC167,960個/ftC3,測定日C2の最低値は患者の少なくなった16時頃のC44,550個/ftC3,最高値はC13:30頃のC139,950個/Cft3であり,処置時によって清浄度は異なり,とくにC12~14図3硝子体注射時の空気清浄度の測定顕微鏡にパーティクルカウンター検出チューブ(矢印)を取り付け,術野の空中浮遊塵埃数を確認した.図4ABM設置前の空気清浄度処置ごとの処置時間,空中浮遊塵埃数を示す.IVB(intravitrealCbevacizumab):ベバシズマブ硝子体内注射,IVR(intravitrealCranibi.zumab):ラニビズマブ硝子体内注射,IVA(intravitrealCa.ibercept):アフリベルセプト硝子体内注射,STTA(subtenonCinjectionCoftriamcinoloneacetonide):トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.図5ABM設置後の空気清浄度処置ごとの処置時間,空中浮遊塵埃数を示す.IVB(intravitrealCbevacizumab):ベバシズマブ硝子体内注射,IVR(intravitrealCranibi.zumab):ラニビズマブ硝子体内注射,IVA(intravitrealCa.ibercept):アフリベルセプト硝子体内注射,STTA(subtenonCinjectionCoftriamcinoloneacetonide):トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.表1ABM設置前後の空中浮遊塵埃数(粒子数/ft3)CABM設置前計測日C1計測日C2計測日C3平均最高値最低値平均最高値最低値平均最高値最低値平均C167,960C33,820C87,392C139,950C44,550C85,278C57,820C51,350C55,215C77,655CABM設置後計測日C3計測日C4計測日C6平均最高値最低値平均最高値最低値平均最高値最低値平均C3,920C150C1,628C9,870C980C3,907C11,540C1,990C6,320C4,088時の処置時に高い値を示した.計測日C3は処置間の違いは少なく,最低値は,51,350個/ftC3,最高値はC57,820個/ftC3と横ばいであった.ABM設置後の無作為なC3日間(計測日4,5,6)における1日の処置時の浮遊塵埃数を図5に示す.処置間の清浄度に変化は少なく,最低値はC150個/ftC3,最高値はC11,540個/ftC3であった.ABM設置前後のC3日間における最高値,最低値,処置ごとの平均値を表1に示す.ABM設置前の平均値は77,655個/ftC3であり,設置後の平均値はC4,088個/ftC3と大幅に減少していた.いずれの処置後にも,眼内炎症などの合併症は認められなかった.また,愛媛大学医学部附属病院手術室における白内障手術1例を施行中の空中浮遊塵埃数の推移を図6に示す.浮遊塵埃数の最低値はC0個/ftC3で,最高値はC2,260個/ftC3であった.CIII考按眼内手術や硝子体注射などの眼内と眼外が交通する操作におけるもっとも重篤な合併症は,感染性の眼内炎症である.その原因菌としては,患者の外眼部や鼻腔内の常在細菌が眼内に汚染することで引き起こされることが多い3).しかしながら,硝子体注射においては,術者や薬剤師の口腔内細菌によって引き起こされることも報告されている4,5).さらに,空気中に存在する真菌による眼内炎の連続発症や創口内感染なども報告されており6,7),環境中の菌も眼内炎の原因菌となりうる.また,白内障術後において,強い眼内炎症を引き起こすCtoxicCanteriorCsegmentCsyndromeの原因となる無菌性物質には環境中の物質なども含まれると推測されている8).そのため,眼内操作を行うような処置においては,できる限り空気清浄度が高い状態で行うことが望ましい.今回,筆者らは外来処置室ならび手術室における空気清浄度の指標として空中浮遊塵埃数をモニタリングし,さらに,ABMの空気清浄度向上の効果について検討した.外来処置室において,ABM設置前では空中浮遊塵埃数の最高値平均はC121,910個/ftC3,最低値平均はC43,240個/ftC3であった.この空調レベル・空気清浄度は外来処置室における設備としてはクラスC100,000と同等であり,処置可能なレベルであると考えられる.しかしながら,浮遊塵埃数の値は非常に振れ幅図6眼科手術室の空気清浄度白内障手術時の患者入室から退室までの空中浮遊塵埃数を示す.が大きく,測定日や時間,処置内容によってもばらつきが多かった.とくに計測日C1ならびにC2では,12~13時に浮遊塵埃数が増加していた.通常,12~13時はもっとも外来での人数(医療従事者ならびに患者)が多い時間となり,外来処置室における人の出入りや動きがもっとも多くなっており,そのことで空気中の浮遊塵埃が多くなっている可能性が考えられる.愛媛大学医学部附属病院眼科外来にある処置室は,患者待ちスペースとカーテンをC1枚隔てた状態で,空気の密閉はできていないため,外来処置室の外の状態にも左右されると考えられる.一方,午前中やC15時以降では,浮遊塵埃数は低下していた.そのため,硝子体注射などの処置においては,なるべく人が少なく,外来処置室における人の出入りが少ない時間帯に行うのが望ましいと考えられた.また,参考として,眼科手術室における空中浮遊塵埃数を測定したところ,人の動きが比較的に多い,白内障手術開始時と退室時に若干向上したものの,手術中が浮遊塵埃数はきわめて低く,最高値は退室時のC2,260個/ftC3であるも,最低値は0個/ftC3であり,手術室の空気清浄度は高く維持されていることが確認できた.そのため,やはり,硝子体注射などの処置は,運用上可能ならば手術室において施行するほうが望ましいと思われる.また,外来処置室で行う場合は,その環境における空気清浄度のモニタリングを行ったうえで,もっとも空気清浄度が高い時間帯を選んで行ったり,機械や物の配置,エアーコンディショナーの風向なども検討したりする必要が考えられる.しかしながら,一般の臨床現場においては,迅速に処置が必要な場合もあり,常時良好な空気清浄度な状態での処置の施行は困難であると思われる.今回,外来処置室の空気清浄度向上を目的にCABMを設置し,その効果を確認したところ,ABMを使用した場合,最高値平均はC8,443個/ftC3,最低値平均はC1,040個/ftC3で,クラスC1,000~10,000に相当し,手術室環境と同等の空気清浄度まで向上した.ABM設置前において空気清浄度が低下した時間帯でも,ABM設置後は設置前のC1/10の浮遊塵埃数となっていた.このことは,人の多さや出入りに,それほど左右されない可能性が考えられる.そのため,迅速性を失うことなく処置することが可能であり,医療現場において,ABMが有用なツールとなりうると考えられる.さらに,ABMは一般外来処置室においても手術室とほぼ同レベルの環境を提供できる可能性もあり,外来処置室においても,前房洗浄や眼内レンズ整復など,より侵襲のある処置や手術が可能になる.さらに,発展途上国におけるアイキャンプや空調設備の整っていない環境でも,ABMを用いれば,ある程度空気清浄度が高い状態で処置や手術ができる可能性があり,その使用方法について,幅広い応用が期待できる.しかしながら,ABMを使用する過程で,いくつかのデメリットも感じられた.まず,コンパクトな機械ではあるが,設置するためにはある程度の場所が必要であり,顕微鏡や処置台の場所を考慮しながら,的確な設置場所を見つける必要があった.また,空気清浄度は,ABMの空気が出るパネルと術野の距離に左右される.その距離が近ければ近いほど,空気清浄度は高くなるが,処置の邪魔になる可能性もあり,適切な距離を設定するにはある程度の経験が必要になると思われた.さらに,ABMから中等度の音が発生し,やや威圧感が感じられる.そのため,設置初期は,パーティクルカウンターを使用しながら適切な位置を設定する必要がある.今回,外来処置室における空気清浄度をパーティクルカウンターで測定調査したところ,空気清浄度は時間帯や人の出入りに左右される可能性が示唆された.そのため,空気清浄度を定期的にモニタリングし,最適な時間帯で処置を行うことが望ましい.さらに,ABMを使用することで,外来処置室でも手術室と同等の空調環境を提供できるということが示された.利益相反:本研究は日科ミクロン株式会社との共同研究で行われた.文献1)井谷基,岩山幸子,繁田絵実ほか:手術室環境の維持と周術期の感染.日臨麻会誌35:61-66,C20152)病院設備設計ガイドライン:病院空調設備の設計・管理指針,HEAS-02-2013,日本医療福祉設備協会3)SpeakerCMG,CMilchCFA,CShahCMKCetCal:RoleCofCexternalCbacterialC.oraCinCtheCpathogenesisCofCacuteCpostoperativeCendophthalmitis.OphthalmologyC98:639-649,C19914)FrostCBA,CKainerCMA:SafeCpreparationCandCadministra.tionCofCintravitrealCbevacizumabCinjections.CNCEnglCJCMedC365:2238,C20115)ChenE,LinMY,CoxJetal:Endophthalmitisafterintra-vitrealCinjection:theCimportanceCofCviridansCstreptococci.CRetinaC31:1525-1533,C20116)TabbaraCKF,CalCJabartiCAL:HospitalCconstruction-associ.atedCoutbreakCofCocularCaspergillosisCafterCcataractCsur.gery.OphthalmologyC105:522-526,C19987)RoyCA,CSahuCSK,CPadhiCTRCetCal:ClinicomicrobiologicalCcharacteristicsCandCtreatmentCoutcomeCofCsclerocornealCtunnelinfection.CorneaC31:780-785,C20128)MamalisCN,CEdelhauserCHF,CDawsonCDGCetCal:ToxicCanteriorCsegmentCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC32:C324-333,C2006***