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大型黄斑円孔に対しての内境界膜翻転法術後の外境界膜の連続性

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1524?1528,2016c大型黄斑円孔に対しての内境界膜翻転法術後の外境界膜の連続性額田和之小堀朗蒔田潤清水悠介福井赤十字病院眼科ContinuityofExternalLimitingMembraneafterVitrectomywithInvertedInternalLimitingMembraneFlapTechniqueforLargeMacularHoleKazuyukiNukada,AkiraKobori,JunMakitaandYusukeShimizuDepartmentofOphthalomogyFukuiRedCrossHospital目的:大型黄斑円孔に対する内境界膜翻転硝子体手術成績の外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)連続性による検討.対象および方法:円孔径が400μm以上の大型黄斑円孔の17眼を後ろ向きに検討後のOCT所見からELM連続性あり群とELM連続性なし群に分け,年齢・術前の円孔サイズ・眼軸長・術前・術後視力の比較を行った.結果:黄斑円孔の閉鎖は17眼中16眼(閉鎖率:94.1%)であった.術後OCT所見で,ELMが回復していたものは9眼(52.9%)だった.2群間の比較で,円孔径はELM連続性あり群が491.11±117.52μm,ELM連続性なし群が728.57±124.83μm(p<0.01)と有意差を認めたが,円孔底径はELM連続性あり群が969.89±346.88μm,ELM連続性なし群が1,140.86±134.23μm(p=0.22)と有意差を認めなかった.結論:本法による術後視力はELMの連続性を得たものでよく,連続性の有無は黄斑円孔径に関連していた.Purpose:Toretrospectivelyinvestigatetheperformanceofvitrectomywithinternallimitingmembraneflaptechniqueforlargemacularholeinaccordancewithexternallimitingmembrane(ELM)continuity.Methods:Seventeeneyeswithlarge(>400μm)macularholethatunderwentthesurgeryweredividedintotwogroupsbasedonthepresenceofELMcontinuity.Wecomparedage,macularholesize,axiallengthandvisualacuitybetweenthegroups.Results:Themacularholeclosedin16ofthe17eyes(94.1%).OCTfindingsaftersurgeryshowedELMrecoveryin9eyes(52.9%).Macularholesizewas491.11±117.52μminthegroupwithELMcontinuityand728.57±124.83μminthegroupwithout(p<0.01).Macularholebottomsizewas969.89±346.88μminthegroupwithELMcontinuityand1140.86±134.23μminthegroupwithout(p=0.02).Conclusion:ThegroupwithELMcontinuityachievedbettervisualacuity,andcontinuitywasrelatedtomacularholesize.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1524?1528,2016〕Keywords:内境界膜翻転法,大型黄斑円孔,外境界膜.invertedinternallimitingmembraneflaptechnique,largemacularhole,externallimitingmembrane.はじめに現在,黄斑円孔に対する治療は,硝子体手術に内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)?離を併用し,眼内に充?物を満たすことが標準的な治療方法である.手術による治療は,1991年にKellyとWendelらにより初めて硝子体手術の報告がなされ1),その後,ILM?離を併用することで閉鎖率は向上させる報告がなされた2).さらに,インドシアニングリーン(ICG),ブリリアントブルー(BBG)などの使用によるILMの染色方法の確立で,?離部と非?離部の境界が明瞭になり,より確実なILM?離を施行できるようになった3?5).現在,特発性黄斑円孔の初回閉鎖率は,95%以上の閉鎖率を得ているが,円孔径が大きなものに限定して閉鎖率を調べると閉鎖率が下がることは知られている6).この大型黄斑円孔に対して,閉鎖率を向上させるために,Michaelwskaらが報告した7,8)ILM膜翻法がある.今回,筆者らは大型黄斑円孔に対してのILM翻転後の術後成績を術後OCT上での外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)の連続性から検討したので報告する.I対象および方法2011年11月?2015年3月に,福井赤十字病院眼科(以下,当科)にて,ILM翻転法併用硝子体手術を施行した症例中,円孔径が400μm以上のものが28眼あった.このなかから,発症から2年以上経過していた陳旧性の7眼,増殖糖尿病網膜症および黄斑浮腫を伴っていた2眼,近視性の網脈絡膜萎縮が顕著な2眼は除外し,残りの17眼(男性6眼,女性11眼)を対象とした.平均経過観察期間は12.66±9.30カ月であった.平均年齢は70.10±7.32歳(60?83歳),平均円孔径606.94±170.44μm(418?985μm),平均円孔底径1,039.29±273.15μm(433?1,526μm),眼軸長24.49±2.30mm(21.43?30.49mm),術前logMAR平均視力0.81±0.28であった.術前に光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の水平断画像をもとに,Kusuharaら9)に倣って円孔直径の最小となるところを円孔径,円孔底部の直径を円孔底径と定め測定を行った.術後OCTの観察は,HeidelbergEngineeringSpectralisを用いて行った.術後の黄斑円孔の閉鎖は,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の露出していないものに限り,閉鎖と判定した.つぎに,ELMと視細胞内節(ellipsoidzone:EZ)の回復を観察した.また,図1に示すとおりにELM連続性あり群とELM連続性なし群の2群に分けて,年齢・術前の円孔サイズ・眼軸長・術前視力・術後視力・経過観察期間の比較を行った.手術は,有水晶体眼である症例では白内障手術を同時に施行した.硝子体手術の手術装置は,コンステレーションRビジョンシステム(Alcon)またはアキュラスR(Alcon)を使用し,広角観察システムはResightR(Zeiss)を用いた.23Gシステムまたは25Gシステムを症例に応じて行った.まず中心部硝子体切除を行った後,後部硝子体?離を作製または確認を行った.続いて,強膜圧迫子にて周辺部圧迫しながら周辺部硝子体切除を行った.黄斑部はResightの60Dレンズまたはコンタクトレンズ(HOYA)を用いて操作を行った.ILM染色は,BBGまたはICGのいずれかを使用した.ICGを使用した症例は2例で,他の症例はBBGのみでILM染色を行った.ILM?離は,アーケード付近まで十分?離し,円孔縁全周にだけILMを残し翻転した.ILM翻転後,ILMのトリミングを施行した場合は,cutrateは5,000bpmを維持し,吸引圧を10mmHgまで落として適宜処理した.最後に,15?20%のSF6ガス,または術後うつむきが困難な症例にはシリコーンオイルを硝子体内腔に全置換した.統計学的解析はStatcel3を用いて行った.関連した2群間の比較は対応のあるt-testを,独立した2群間における比較で,Mann-WhitneyU-testを用いて検定した.p<0.05で有意差ありと判定した.本治療については,福井赤十字病院倫理委員会の承認を得て行った.II結果表1に全症例を円孔径が小さい症例から順次提示している.術前背景・手術内容・手術成績を示した.全症例の視力(logMAR値)は,術前0.89±0.40,術後1カ月が0.55±0.22,術後3カ月が0.47±0.35,術後最終視力が0.34±0.23で有意に改善が得られていた(表2).術前視力と術後最終視力の比較(図2)をしたところ,logMAR視力が0.2以上改善していたものは,17眼中14眼(82.4%)であった.黄斑円孔の閉鎖は17眼中16眼であった(閉鎖率:94.1%).術後OCT所見で,ELMが回復していたものは9眼(52.9%)で,EZが回復していたものは6眼(35.3%)であった.代表的な症例の術後OCT所見を図3,4に示す.図3に提示した症例4,5,6はELM連続性あり群の症例である.症例9,11,12はELM連続性なし群の症例である.図4の症例16は術後4カ月の時点でRPEが露出しており,非閉鎖である.ELM連続性あり群とELM連続性なし群の術前視力・術後視力・年齢・経過観察期間・術前の円孔サイズ・眼軸長の比較を表3に示す.ELM連続性あり群の術前視力(logMAR値)は0.75±0.24,術後最終視力は0.22±0.16(p<0.01).ELM連続性なし群の術前視力は0.93±0.32,術後最終視力は0.48±0.24(p<0.01)で,両群とも有意に改善していた.術前視力は,有意差は認めなかったが(p=0.22),術後最終視力を両群間で比較すると,ELM連続性あり群が有意によかった(p<0.05).年齢は,ELM連続性あり群が69.89±8.87歳,ELM連続性なし群が69.14±5.15歳(p=0.84)で有意差を認めなかった.眼軸長は,ELM連続性あり群が23.40±1.01mm,ELM連続性なし群が25.78±2.79mm(p<0.05)で有意差を認めた.経過観察期間は,ELM連続性あり群が11.83±5.49カ月,ELM連続性なし群が13.79±13.10カ月(p=0.69)で有意差を認めなかった.円孔径は,ELM連続性あり群が491.11±117.52μm,ELM連続性なし群が728.57±124.83μm(p<0.01)と有意差を認めたが,円孔底径はELM連続性あり群が969.89±346.88μm,ELM連続性なし群が1,140.86±134.23μm(p=0.22)で有意差を認めなかった.III考按今回筆者らは,大型黄斑円孔に対して,ILM翻転法併用硝子体手術を行い,術後視力・閉鎖率・術後OCT所見からの検討を行った.大型黄斑円孔の手術成績の過去の報告では,Michaelら6)がStage1,2の400μm以下の黄斑円孔が閉鎖率92%であるが,stage3,4では400μm以上の大型黄斑円孔の閉鎖率は56%に留まるとしている,Michalewskaら7)はILM翻転法を用いることで,flatopenな閉鎖が2%に留まり,閉鎖率が98%となることを報告している.今回の検討でも,17眼中16眼で閉鎖率が94.1%と良好な閉鎖率であった.1症例は閉鎖が得られなかったが,術後のOCT所見を検討するとflatopenの形で,術前の円孔よりも縮小していたが耳側の翻転したILMが?がれていることを確認した.この症例の手術ビデオを見返すと,翻転時は全周にILMが確認でき,その後粘弾性物質で翻転したILMを固定する手技も行っていた.ILM翻転法の問題点は,液-空気置換後に翻転したILMが元に戻ることや,?がれてしまうことである.粘弾性物質やパーフルオロオクタンの使用や翻転させるILMのトリミングの程度など,いろいろな手技の工夫で確実な翻転が検討されており,さらなる手術手技の発展が期待される.また,今回の検討では,術後OCT所見でELMの連続性に着目した.両群間の術後最終視力の比較では,連続性あり群が有意な改善をしていた.しかし,ELM連続性なし症例でもOCT所見に解離して視力が予想以上によいものも確認した(症例11,12,13).患者自身が固視点をうまく変えて視力をあげているのか,今後の経過観察の過程で,ELM・EZが回復してくるのか,今後の検討課題と考えられた.年齢での比較は有意差を認めなかったが,眼軸長についてはELM連続性なし群が有意に長かった.今回の検討した症例のなかに眼軸長27mm以上の症例が3眼含まれていた.これらの症例10,13,17はすべてELMの連続性は認めなかったため,有意差を認めたと考えた.円孔サイズの比較は,円孔底径でELM連続性あり群が969.89±346.88μm,ELM連続性なし群が1,140.86±134.23μm(p=0.22)と有意差を認めなかったが,円孔径は,ELM連続性あり群が491.11±117.52μm,ELM連続性なし群が728.57±124.83μm(p<0.01)と有意差を認めた.表1で,円孔径の小さい症例から順に症例を提示したが,400μm台の症例すべてELMの連続性を確認できた.既報で,IS/OSライン(EZ)の回復については,Hayasiら10)が,特発性大型黄斑円孔では43%で回復したとしている.全症例中,ELMが回復していたものは9眼(52.9%)であったが,500μm以上に限定してみると1眼のみに留まっていた.従来のILM?離後の円孔閉鎖における中心窩網膜外層の修復過程において,必ずELMの修復がEZに先行することが言われている11).ELMが連続して観察できるなら網膜が完全に伸展して閉鎖が得られているのではないかと考えた.黄斑円孔の閉鎖は,網膜の伸展性とグリア細胞の増殖遊走などによる創傷治癒が重要視されている12?14).翻転したILMは,この増殖・遊走の足場を提供しているのではないかと考えられている7).ELMの連続性ないものは網膜の伸展に加えて,グリア細胞の増殖したもので閉鎖を得ていると考えた.500μm以上の症例はILM翻転法を用いなければ,網膜の伸展が足りず閉鎖が得られない可能性が高いのではないかと考えられた.以上,大型黄斑円孔に対する手術成績を検討した.ILM翻転法は,円孔閉鎖率は向上させたが,視力予後・視機能については,さらなる症例の積み重ねと経過観察が必要と考えられた.ELMの回復程度は,術前の円孔径に関係していた.500μm以上の黄斑円孔は,ELMの連続性・回復を認めることが少ないが,閉鎖を第一に考えた場合にILM翻転を行うことが望ましいのではないかと考えた.文献1)KellyNE,WendelRT:Vitreoussurgeryforidiopathicmacularholes.Resultsofapilotstudy.ArchOphthalmol109:654-659,19912)BensonWE,CruickshanksKC,FongDSetal:Surgicalmanagementofmacularholes:AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology108:1328-1335,20013)KadonosonoK,ItohN,UchioEetal:Stainingofinternallimitingmembraneinmacularholesurgery.ArchOphthalmol118:1116-1118,20004)KimuraH,KurodaS,NagataMetal:Triamcinoneacetonide-assistedpeelingoftheinternallimitingmembrane.AmJOphthalmol137:172-173,20045)EnaidaH,HisatomiT,HataYetal:BrilliantblueGselectivelystainstheinternallimitingmembrane/brilliantblueG-assistedmembranepeeling.Retina26:631-636,20066)MichaelS,BakerBJ,DukerJSetal:Anatomicaloutcomesofsurgeryforidiopathicmacularholedeterminedbyopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol120:29-35,20027)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invertedinternallimitingmembraneflaptechniqueforlargemacularholes.Ophthalmology117:2018-2025,20108)MichalewskaZ,MichalewskiJ,CisieckiSetal:Highspeed,highresolutionspectralopticalcoherencetomographyaftermacularholesurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol246:823-830,20089)KusuharaS,TeraokaEscanoMF,FujiiSetal:Predictionofpostoperativevisualoutcomebasedonholeconfigurationbyopticalcoherencetomographyineyeswithidiopathicmacularholes.AmJOphthalmol138:709-716,200410)HayashiH,KuriyamaS:Fovealmicrostructureinmacularholesurgicallyclosedbyinvertedinternallimitingmembraneflaptechnique.Retina34:2444-2450,201411)WakabayashiT,FujiwaraM,SakaguchiHetal:Fovealmicrostructureandvisualacuityinsurgicallyclosedmacularholes:Spectral-domainopticalcoherencetomographicanalysis.Ophthalmology117:1815-1824,201012)TornambePE:Macularholegenesis:thehydrationtheory.Retina23:421-424,200313)OhJ,YangSM,ChoiYMetal:Glialproliferationaftervitrectomyforamacularhole:aspectraldomainopticalcoherencetomographystudy.GraefesArchClinExpOphthalmol251:477-484,201314)GreenWR:Themacularhole:histopathologicstudies.ArchOpthalmol124:317-321,2006〔別刷請求先〕額田和之:〒918-8501福井県福井市月見2丁目4番1号福井赤十字病院眼科Reprintrequests:KazuyukiNukada,M.D.,DepartmentofOphthalomogyFukuiRedCrossHospital,2-4-1Tukimi,Fukui918-8501,JAPAN0195120-41810/あ16た/図1ELM連続性の有無の判定黒矢印:ELM,白矢印:EZ.Aのように中心窩の外境界膜の回復がみられるものを連続性あり群に,BのようにELMの回復がみられず,ILMから増生したgliosisと思われる組織で閉鎖しているのをELM連続性なし群として判定した.(139)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161525表1術前背景・手術内容・成績表2術後視力図2術前後視力の視力変化●:ELM連続性あり群,▲:ELM連続性なし群.図3代表症例症例番号は表1に提示したもの.症例4,5,6はELM連続性あり群の症例で,翻転させたILMが観察できることが多い.症例9・症例11・症例12はELM連続性なし群の症例で,翻転させたILMからグリアと思われる組織で埋まり閉鎖を得ているが,網膜外層の回復を認めない.図4非閉鎖の症例術後4カ月の時点でRPEが露出しており,非閉鎖の症例(表1の症例16).Flatopenの形で術前の円孔よりも縮小していたが,耳側の翻転したILMが?がれている.表3ELMの連続性の有無による比較(141)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201615271528あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(142)