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帯状角膜変性への治療的角膜切除術後に発症した高度の 角膜上皮下混濁に対しマイトマイシンC を併用した治療的 角膜切除術が奏効した小児の1 例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1504.1508,2021c帯状角膜変性への治療的角膜切除術後に発症した高度の角膜上皮下混濁に対しマイトマイシンCを併用した治療的角膜切除術が奏効した小児の1例高原彩加稗田牧京都府立医科大学眼科学教室CARarePediatricCaseofSevereCornealOpacityPostPhototherapeuticKeratectomythatwasSuccessfullyTreatedwithPhototherapeuticKeratectomyandMitomycinCAyakaTakaharaandOsamuHiedaCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC症例はC10歳,男児.学校検診で視力低下を指摘され近医を受診し,虹彩炎を認めたため京都府立医科大学附属病院を紹介受診.両眼の虹彩炎,帯状角膜変性を認め点眼加療を開始,また不全型CBehcet病の診断で内服加療を開始した.右眼の帯状角膜変性が進行したため治療的角膜切除術(PTK)を施行したが,術後に右眼角膜中央部に上皮下混濁を生じ,ステロイド点眼にも反応なく増悪して高度な混濁となった.マイトマイシンCC(MMC)併用CPTKを行い,その後は軽度の角膜上皮下混濁を生じたものの明らかな増悪はなく,安定して経過している.低年齢で,帯状角膜変性へのCPTK後に高度の角膜上皮下混濁を呈したまれな症例であり,MMC併用によるC2度目のCPTKが混濁の改善,予防に有用であった.CAC10-year-oldCboyCwithCiridocyclitisCwasCreferredCtoCtheCDepartmentCofCOphthalmologyCatCKyotoCPrefecturalCUniversityofMedicineHospitalfromalocalphysicianafteraschoolexaminationrevealedvisionloss.Initialexami-nationCrevealedCbilateralCiridocyclitisCandCbandCkeratopathy,CandCheCwasCdiagnosedCwithCincompleteCBehcet’sCdis-ease.CEyeCdropsCandCoralCtreatmentCwereCinitiated,CyetCphototherapeutickeratectomy(PTK)wasClaterCperformedCdueCtoCtheCbandCkeratopathyCinChisCrightCeyeCprogressing.CPostCsurgery,CaCcornealChazeCdevelopedCthatCdidCnotCrespondtosteroidtreatment,whichultimatelyworsenedintoasevereopacity.PTKcombinedwithmitomycinC(MMC)wasthenperformed,andalthoughamildcornealhazedevelopedpostsurgery,itdidnotworsenandhasremainedstable.AlthoughthispediatriccaseofseverecornealhazefollowingPTKforbandkeratopathyisrare,asecondPTKwithMMCwase.ectiveforalleviationandstabilizationofthehaze.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(12):1504.1508,C2021〕Keywords:角膜上皮下混濁,治療的角膜切除術,マイトマイシンCC,小児,帯状角膜変性.cornealChaze,Cphoto-therapeutickeratectomy,mitomycinC,child,bandkeratopathy.Cはじめに治療的角膜切除術(phototherapeuticCkeratectomy:PTK)は,顆粒状角膜ジストロフィや帯状角膜変性といった表層性角膜混濁により視機能低下を呈する患者に対し,エキシマレーザーを照射することで沈着物や変性組織などを除去し,視機能の回復を図る手術方法である1).角膜ジストロフィと帯状角膜変性についてはC2010年より国内で保険収載されており,広く施行されている.PTK後には原疾患の再発や角膜上皮下混濁,感染といった合併症を生じることがあり,角膜上皮下混濁に対しマイト〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:OsamuHieda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCマイシンCC(mitomycinC:MMC)を使って再度照射するという報告がある1).帯状角膜変性の原因としては特発性のほかに緑内障,ぶどう膜炎,シリコーンオイル注入眼,外傷といったものがあげられるが,帯状角膜変性におけるCPTK後の予後は良好である.再発はC10%未満と少なく,視力低下を生じるような強い角膜上皮下混濁の報告は知る限りない2,3).また,未成年に対するCPTKの成績は良好であり,角膜上皮下混濁は生じても軽度で,治療反応性も良いとされている4,5).今回筆者らは,小児に発症した帯状角膜変性に対するPTK後に高度の角膜上皮下混濁が出現し,MMC併用でのPTKの施行が奏効したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:10歳,男児.既往歴に特記事項なし.祖母が関節リウマチで加療されている.2016年に学校検診で視力低下を指摘され同年C6月初旬に近医を受診.近医にて両眼のぶどう膜炎を指摘され,ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C1日C3回とトロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼両眼C1日C1回の点眼を開始し,同月に精査加療目的に京都府立医科大学附属病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.初診時の矯正視力は右眼がC0.9,左眼がC1.5であり,右眼優位の両眼の虹彩炎,右眼の虹彩後癒着と両眼の軽度の帯状角膜変性を認めた(図1).全身疾患を疑い当院小児科で精査を行い,口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍を認め,不全型Behcet病の診断でまずはイコサペント酸エチルによる治療を開始した.治療を行い,前眼部の炎症は初診からC1カ月ほどで軽減し,ベタメタゾンC0.1%点眼を漸減してC2017年C4月からはフルオロメトロンC0.1%点眼を両眼C1日C2回,トロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼を両眼C1日C1回でコントロールし,また眼圧の軽度上昇ありカルテオロール塩酸塩点眼両眼1日C1回も使用した.しかし,眼内炎症は軽減したものの残存し,右眼は徐々に虹彩後癒着が進行し,一時は.胞様黄斑浮腫の出現も認めた.小児科診察でも腸管病変を疑う症状が出現し,2017年C11月からはコルヒチンが追加された.右眼の帯状角膜変性が少しずつ進行し,瞳孔領を完全に覆い(図2)右眼矯正視力C0.1まで低下したため,2018年C10月,12歳時に右眼に対しCPTKを施行した.エキシマレーザー(VISXStarS4IR)を用いて角膜上皮ならびに角膜実質を合計C92Cμm切除した.術後右眼の投薬はガチフロキサシンC0.3%点眼C1日C4回,フルオロメトロンC0.1%点眼1日4回,トロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼C1日C1回,カルテオロール塩酸塩点眼C1日C1回とした.瞳孔領の角膜混濁は消失し,経過良好であったが,不全型CBehcet病による虹彩後癒着および白内障の進行があり,右眼矯正視力C0.08と視力の改善は得られなかった.術C3カ月後から右角膜中央部に角膜上皮下混濁を生じたため,角膜上皮下混濁治療目的にフルオロメトロンC0.1%点眼をベタメタゾンC0.1%点眼1日4回に変更した.しかし角膜上皮下混濁は角膜後面形状を変化させるほどに肥厚,悪化し,矯正視力C0.02まで低下した(図3).重篤な角膜混濁を生じたため,2019年C5月,13歳時に右眼の角膜上皮下混濁に対しCMMCを併用したCPTKを施行した.角膜上皮ならびに角膜実質を合計C151Cμm切除し,エキシマレーザー照射終了後にC0.02%CMMCをしみこませた円形スポンジを角膜中央部にC2分間接触させ,その後生理食塩水C200Cmlを用いて洗浄した.本症例に対するCMMCは適応外使用であるが,MMC使用のリスクを説明し,文書による患者本人および保護者の同意を得て使用した.術後はガチフロキサシンC0.3%点眼C1日C4回,フルオロメトロンC0.1%点眼C1日C4回を開始し,術C2カ月後までは明らかな角膜混濁の出現なく経過していたが,術C3カ月後から角膜C6時方向,12時方向に角膜上皮下混濁が出現した.しかし,初回手術後のように強い角膜混濁を呈することはなく進行も緩やかで,瞳孔領は保たれており視機能への影響は少ないと考えられ,ガチフロキサシンC0.3%点眼,フルオロメトロンC0.1%点眼をC1日C2回に減量した.右眼白内障の進行を認め,虹彩後癒着による瞳孔閉鎖も認めたため,経過中のC2020年C2月に右眼に対し白内障手術を施行し,術中に瞳孔閉鎖を解除した.術後は眼内炎症が強く,前房へのフィブリンの析出や,眼内レンズ上の沈着物を生じた.術後にC1日C4回使用していたベタメタゾンC0.1%点眼をC1日C6回に増量,またトロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼C1日C3回を追加してフィブリンは改善した.トリアムシノロンのCTenon.下注射を行ったところ,眼内レンズ上の沈着物は軽減したものの,現在に至るまで残存している.ほかには眼底所見に明らかな異常を認めず,瞳孔閉鎖も手術で解除したものの,2020年C5月の矯正視力は右眼がC0.08,左眼がC1.2と右眼は不良である.白内障手術後も角膜上皮下混濁の悪化や帯状角膜変性の再発を認めず,角膜所見は安定している(図4).CII考按本症例は小児のぶどう膜炎に続発した帯状角膜変性であったと考えられ,帯状角膜変性へのCPTK後に高度の角膜上皮下混濁を生じた.しかしCMMC併用による再CPTK後には瞳孔領の透明性が確保され,高度な角膜上皮下混濁の再形成を認めない.帯状角膜変性へのCPTKは一般的に予後良好であり,再発や合併症が生じることは少ない3,6).既報4,5)では,小児に対するCPTK後の角膜上皮下混濁の頻度はC0.約C20%であり,再発しても混濁は軽度で視機能には影響を及ぼさない.ステ図1初診時の前眼部写真図2初回PTK前の前眼部写真3時方向,9時方向の淡い帯状角膜変性,また虹彩後癒着帯状角膜変性が進行している.を認める.図3初回PTKから7カ月後a:前眼部写真.角膜中央部に強い白色の混濁を認める.Cb:前眼部COCT.高度の角膜上皮下混濁により角膜形状が変化している.図4MMC併用PTKから1年後a:前眼部写真.6時方向,12時方向に薄い角膜上皮下混濁の形成を認める.Cb:前眼部COCT.角膜中央部の角膜混濁は消失しており,角膜形状も保たれている.ロイド点眼への治療反応性がよく,術後C12.18カ月で角膜上皮下混濁は消失することが報告されている.本症例では経過中に角膜上皮下混濁の改善目的にベタメタゾンC0.1%点眼を使用した.点眼薬に含まれるリン酸塩添加物がカルシウム角膜沈着を招き,帯状角膜変性を再発させる可能性があった7).帯状角膜変性の再発はきたさなかったものの,点眼への反応は乏しく,視機能に影響を及ぼす高度の角膜上皮下混濁を生じた.PTKやレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractivekeratectomy:PRK)でのエキシマレーザー照射による角膜上皮切除は,サイトカイン放出を引き起こし,角膜実質細胞のアポトーシスを誘発する1).それに伴いコラーゲンやグリコサミノグリカンなどが生合成され,実質の再構築が行われるが,その際に細胞の過剰増殖が起こると,コラーゲンとグリコサミノグリカンが不規則な層状構造を形成して角膜実質に沈着し,強い角膜上皮下混濁を呈すると考えられている8,9).そのため角膜上皮治癒が遅延する症例では,術後の角膜上皮下混濁を形成するリスクが高くなる1,10).しかし,本症例では術後の上皮修復に問題を認めなかった.不全型Behcet病で眼内炎症の強い状態であったため,PTK後の上皮損傷に伴う炎症性サイトカインが賦活され,混濁形成に寄与した可能性があると考えられる.PTKやCPRK後の角膜上皮下混濁に対しては,細胞増殖抑制作用をもつCMMCを併用したエキシマレーザー照射が混濁の形成や再発予防に有効であると報告されており,海外ではとくにCPRK施行の際に広く併用されている.MMCを使用することで,角膜実質細胞の複製を阻害し,術後の角膜実質細胞密度ならびに細胞から生合成されるコラーゲン,プロテオグリカンの密度を減少させることにより,角膜上皮下混濁を予防できる11,12).MMCを使用すると角膜・強膜融解,角膜内皮細胞減少といった合併症を生じるリスクがあり,小児へのCMMCの使用はとくに慎重である必要がある.海外においてはCMMCを併用したエキシマレーザー手術が小児患者に対して施行されており,3歳児にCMMC併用CPRKを行いC1年の観察を行った報告13)や,11.81歳の患者に対しCMMC併用CPTKを施行し,平均C8.3カ月の観察を行ったという報告14)がある.いずれも手術は効果的であり,MMCの使用による重大な合併症も認めず安全であったと報告されている13,14).本症例においても安全に施行することができた.既報15)に基づいて角膜上皮下混濁をCgrade0.4(grade0:混濁なし,grade1:わずかな混濁,grade2:軽度混濁,Cgrade3:中等度混濁,grade4:高度混濁)にCgradingすると,MMC併用CPTK前はCgrade4に達していたが,術C1年後はCgrade2である.PTK後は初回,2回目ともに術後C3カ月ほどで角膜上皮下混濁が出現しはじめたが,初回CPTK角膜上皮下混濁のgrade432102018/102019/52019/112020/5初回PTKMMC併用PTK2019/12019/8図5角膜上皮下混濁のgradeの遷移grade0:混濁なし.grade1:わずかな網状の混濁.grade2:軽度混濁.grade3:中等度混濁,虹彩の詳細な観察が困難となる.Grade4:高度の混濁,肉眼でも観察できる.後には増悪が続き非常に高度な混濁を呈したのに対し,MMC併用CPTK後は混濁の進行は軽度で停止し,術後C1年を経過しても増悪を認めない(図5).既報ではCPTK,PRK後の高度の角膜上皮下混濁へのCMMC併用CPTKもしくはPRK後,約C50.80%の症例で軽度の角膜上皮下混濁の形成を認めたが,すべての症例において術前よりも混濁は軽減しており,視機能への影響を与えるほどの混濁は出現しなかったとされている9,16).本症例は既報の少ない低年齢で,PTK後に非常に強い角膜上皮下混濁を呈しており,膠原病による眼炎症のリスクもあった.MMCを併用したCPTKは角膜上皮下混濁の予防,軽症化に有用であり,今回のような危険性の高い症例に対しても安全な方法であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NagpalCR,CMaharanaCPK,CRoopCPCetal:PhototherapeuticCkeratectomy.SurvOphthalmolC65:79-108,C20202)HiedaCO,CKawasakiCS,CYamamuraCKCetal:ClinicalCout-comesCandCtimeCtoCrecurrenceCofCphototherapeuticCkera-tectomyinJapan.MedicineC98:27,C20193)O’BrartDP,GartryDS,LohmannCPetal:Treatmentofbandkeratopathybyexcimerlaserphototherapeutickera-tectomy:surgicaltechniquesandlongtermfollowup.BrJOphthalmolC77:702-708,C19934)AutrataCR,CRehurekCJ,CVodickovaK:PhototherapeuticCkeratectomyCinchildren:5-yearCresults.CJCCataractCRefractSurgC30:1909-1916,C20045)KolliasAN,SpitzlbergerGM,ThurauSetal:Photothera-peuticCKeratectomyCinCChildren.CJCRefractCSurgC23:703-708,C20076)StewartCOG,CMorrellAJ:ManagementCofCbandCkeratopa-thyCwithCexcimerphototherapeuticCkeratectomy:visual,Crefractive,CandCsymptomaticCoutcome.Eye(Lond)C17:C233-237,C20037)水野暢人,福岡秀記,草田夏樹ほか:難治なカルシウム沈着をきたしたCStevens-Johnson症候群のC1例.あたらしい眼科C37:627-630,C20208)LeeCYC,CWangCIJ,CHuCFRCetal:ImmunohistochemicalCstudyofsubepithelialhazeafterphototherapeutickeratec-tomy.JRefractSurgC17:334-341,C20019)ShalabyCA,CKayeCGB,CGimbelHV:MitomycinCCCinCpho-torefractivekeratectomy.JRefractSurgC25:93-97,C200910)SalahT,elMaghrabyA,WaringGO:Excimerlaserpho-totherapeuticCkeratectomyCbeforeCcataractCextractionCandCintraocularlensimplantation.AmJOphthalmolC122:340-348,C199611)NettoMV,ChalitaMR,KruegerRR:Cornealhazefollow-ingCPRKCwithCmitomycinCCCasCaCretreatmentCversusCpro-phylacticuseinthecontralateraleye.JRefractSurgC23:96-98,C200712)KaisermanCI,CSadiCN,CMimouniCMCetal:CornealCbreak-throughChazeCafterCphotorefractiveCkeratectomyCwithCmitomycinC:IncidenceCandCriskCfactors.CCorneaC36:C961-966,C201713)CrawfordCCM,CFrazierCTC,CTorresCMFCetal:PediatricPRK(photorefractiveCkeratectomy)withCmitomycinCC(MCC)forCpersistentCanisometropicCamblyopia.CACcaseCreport.BinoculVisStrabologQSimmsRomanoC27:233-234,C201214)AyresCBD,CHammersmithCKM,CLaibsonCPRCetal:Photo-therapeutickeratectomywithintraoperativemitomycinCtoCpreventCrecurrentCanteriorCcornealCpathology.CAmJOphthalmolC142:490-492,C200615)RamCR,CKangCT,CWeikertCMPCetal:CornealCindicesCfol-lowingCphotorefractiveCkeratectomyCinCchildrenCatCleastC5Cyearsaftersurgery.JAAPOSC23:149,Ce1-149.e3,C201916)PorgesCY,CBen-HaimCO,CHirshCACetal:PhototherapeuticCkeratectomywithmitomycinCforcornealhazefollowingphotorefractiveCkeratectomyCforCmyopia.CJCRefractCSurgC19:40-43,C2003***