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涙点プラグの付着物からの細菌の検出

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1493?1496,2016c涙点プラグの付着物からの細菌の検出柴田元子服部貴明森秀樹嶺崎輝海片平晴己熊倉重人後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野DetectionofBacteriafromPunctalPlugHolesMotokoShibata,TakaakiHattori,HidekiMori,TeruumiMinezaki,HarukiKatahira,ShigetoKumakuraandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity涙点プラグ挿入後ではプラグインサーター挿入口に白色の塊状物をみることがあり,バイオフィルムの形成や細菌による汚染が懸念される.そこで,この塊状物に病原微生物が存在するか否かを検討した.対象は上下左右いずれかの涙点に涙点プラグが挿入された22例(男性2例,女性20例),27眼,32涙点プラグである.プラグが挿入されたままの状態でインサーター挿入口から圧出された塊状物を細菌培養検査に提出した.全22例中,20例(90.9%)25眼(92.6%)29プラグ(90.6%)で細菌もしくは真菌が検出された.検出された36株の内訳は,Corynebacteriumsp.が18株ともっとも多く,Streptococcusa-Hemolyticstreptococciが5株,Staphylococcusaureusが3株,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌が3株,Staphylococcusepidermidisが2株,グラム陰性桿菌が2株,Coagulase-negativestaphylococciが2株,Pseudomonasaeruginosa,Aspergillussp.がそれぞれ1株ずつだった.以上から,一定期間挿入された涙点プラグには高率に細菌が付着していることが確認された.Ithasbeenclinicallyobservedthattheholesofpunctalplugsoftenaccumulatewhitematerial,indicatingbiofilmformationandbacterialinfectionofpunctalplugs.Weherestudiedwhetherwhitematerialfrompunctalplugscontainsmicroorganisms.Weexamined22patients(27eyes,including32punctalplugs).Thematerialcollectedfrompunctalplugswassubjectedtobacterialculture.Amongthe22patients,bacteriaorfungiweredetectedfrom20patients(90.9%)in25eyes(92.6%)and29plugs(90.6%).The36bacteriafoundincluded18ofCorynebacteriumsp.,5ofStreptococcusa-Hemolyticstreptococci,3ofStaphylococcusaureus,3ofnon-fermentinggramnegativerods,2ofStaphylococcusepidermidis,2ofgram-negativerods,2ofCoagulase-negativestaphylococciand1ofPseudomonasaeruginosaandAspergillussp.Itisconcludedthattherearebacteriainpunctalplugsplacedinthepunctumforacertainperiodoftime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1493?1496,2016〕Keywords:涙点プラグ,細菌,感染.punctalplug,bacteria,infection.はじめに涙点プラグは,点眼治療のみでは改善のみられない重症ドライアイ患者に対する安全で有効性の高い治療法として日常診療で使用されている1?5).涙点プラグ挿入の合併症として,プラグの脱落,肉芽形成,涙道内への迷入があり1?8),これらの欠点を補うべく新たな涙点プラグも開発されている.涙点プラグ挿入にはプラグそれぞれ専用のインサーターを使用して挿入するため,涙点プラグにはインサーター用の挿入口が設けられている.涙点プラグ挿入後,しばしばこのインサーター挿入口を中心にデブリスが貯留している症例に遭遇し,涙点プラグに細菌が付着していることが疑われる.しかし,涙点プラグへの細菌付着について検討した報告は少ない9,10).そこで本研究では,涙点プラグのインサーター挿入口から採取した白色塊に対して細菌培養検査を行い,菌の検出率,菌の種類について検討した.I対象対象は上下左右の涙点のいずれかに涙点プラグが挿入され,東京医科大学病院眼科で経過観察を行っていた22例(男性2例,女性20例),27眼,32涙点プラグである.平均年齢は69.0±13.1歳で,疾患の内訳はドライアイ15例,Sjogren症候群7例であった.Foxの診断基準11)によるSjogren症候群の確定例が7例で,涙液減少型ドライアイが15例であった.Sjogren症候群のうち,1例が関節リウマチを合併し,1例が全身性エリテマトーデスを合併していた.また,Sjogren症候群以外のドライアイ症例における全身疾患として,糖尿病が2例,骨髄移植を行っていない白血病が2例,関節リウマチが2例,原発性胆汁性肝硬変が1例であった.涙点プラグが挿入されていた期間は3?123カ月(平均45.5±38.4カ月)であった.プラグの種類はパンクタルプラグR14例,スーパーイーグルR3例,種類不明が5例であった.プラグ挿入後に使用していた点眼薬または眼軟膏は,副腎皮質ステロイドが3例,抗菌薬が5例であった.涙点プラグ挿入術の適応としては,点眼治療によっても症状および角膜上皮障害の改善がみられない患者で,点状表層角膜症の程度がフルオレセイン染色によるAD分類12)でA2D2以上の患者とした.II方法0.4%オキシプロカインを点眼した後に,患者の涙点にプラグが挿入されたままの状態でシャフト部分を鑷子で圧迫し,インサーター挿入口から圧出された白色塊を滅菌綿棒で擦過し,カルチャースワブにて当院微生物検査室に移送した.微生物検査室で血液寒天培地,クロムアガーオリエンテーション寒天培地を用いて直接分離培養を,GAM半流動高層培地で増菌培養を行った.直接分離培養で検出されたすべての分離菌に対するPCG(ペニシリンG),MPIPC(オキサシリン),ABPC(アンピシリン),CEZ(セファゾリン),CTM(セフォチアム),FMOX(フロモキセフ),IPM/CS(イミペネム/シラスタチン),GM(ゲンタシン),ABK(アベカシン),EM(エリスロマイシン),CLDM(クリンダマイシン),MINO(ミノサイクリン),TEIC(テイコプラニン),VCM(バンコマイシン),LVFX(レボフロキサシン),ST(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)のMICを微量液体希釈法で測定した.III結果1.培養結果32の涙点プラグインサーター挿入口に貯留している白色塊を採取し培養したところ,29検体(90.6%)とほぼすべての検体から何らかの細菌が検出された(表1).挿入期間が3カ月の検体で培養結果が陽性であったものもあれば挿入期間が48カ月の検体で培養結果が陰性となったものもあった.挿入期間の平均値(32カ月)で2群に分け培養陽性率を比較すると,32カ月以下で87.5%(16検体中14検体)の陽性率であり,32カ月以上で91.7%(12検体中11検体)の陽性率となった.プラグ挿入の部位では上涙点で87.5%(8検体中7検体),下涙点では90.0%(20検体中18検体)の陽性率であった.また,抗菌薬の使用有無について培養陽性率を検討したところ,抗菌薬使用群では72.7%(11検体中8検体),抗菌薬未使用群では100%(18検体中18検体)であった.さらに,副腎皮質ステロイドの使用有無について培養陽性率を検討したところ,副腎皮質ステロイド使用群では100%(7検体中7検体),副腎皮質ステロイド未使用群では86.4%(22検体中19検体)であった.2.検出菌の内訳細菌が35株,真菌が1株検出された(表2).挿入されていた涙点プラグ別に検出された菌を記載したものを表3に示した.Corynebacteriumsp.が18株ともっとも多く検出され,Streptococcusa-Hemolyticstreptococciが5株,Staphylococcusaureusが3株,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌が3株,Staphylococcusepidermidisが2株,菌種が同定できなかったグラム陰性桿菌が2株,Coagulase-negativestaphylococci,Pseudomonasaeruginosa,Aspergillussp.がそれぞれ1株ずつ検出された.また,薬剤感受性検査の行えた株のうち,7株中4株(57.1%)でレボフロキサシン耐性株がみられた.その内訳は,Staphylococcusepidermidisが2株,StaphylococcusaureusとCoagulase-negativestaphylococciがそれぞれ1株ずつであった(表4).4株のレボフロキサシン耐性株のなかでレボフロキサシン点眼薬を使用していたものは1株だった.また,4株のレボフロキサシン耐性株のなかで副腎皮質ステロイド点眼を使用している症例はなかった.3.臨床所見白色塊から検出された細菌により眼所見が悪化したと考えられた症例は1例のみであり,この症例は眼脂の増加のみで感染性角膜炎の所見や結膜充血など感染性結膜炎の所見はなかった.ほぼすべての症例は涙点プラグに細菌が存在していたにもかかわらず,眼表面に明らかな感染症としての所見は認めなかった.IV考按今回の検討により,涙点プラグのインサーター挿入部には,高率に細菌が存在していることが判明した.これまでも筆者らの結果と同様に,涙点プラグには高率に細菌が存在し,バイオフィルムが形成されていると報告されている9,10).本検討では以前の報告と比較して,涙点プラグ挿入後3カ月から約10年と比較的長期に挿入されていたプラグを対象としている.長期的に挿入されていても,以前の報告と比較して細菌の検出率,検出された菌の種類に大きな差はなかった.さらに,このように高率に涙点プラグから細菌が検出されていても,眼表面への感染を認めた症例はほとんど存在しなかった.涙点プラグには高率に細菌が存在するが,これらの菌が眼表面へ影響する可能性は少ないことが示唆された.検出された菌は,Corynebacteriumsp.が約半数と最も多く,Streptococcusa-Hemolyticstreptococci,Staphylococcusaureusと続いていた.Corynebacteriumsp.は以前の筆者らの報告でも白内障手術前患者の結膜?内に多く存在する常在菌として検出されており13),結膜?に存在していたCorynebacteriumsp.が直接涙点プラグに付着したと考えられる.一方,ドライアイ患者の結膜?内の細菌分布を検討した報告では,表皮ブドウ球菌が最も多く検出され,Corynebacteriumsp.は2%程度と低い検出率であることが報告されている14).結膜?の常在菌の分布と涙点プラグに付着した細菌の分布とに関連性があるか否かについては今後の検討が必要である.薬剤感受性試験を行うことのできた細菌のうち,約半数がレボフロキサシンに耐性であった.また,耐性菌が検出された患者のうち1例はレボフロキサシン点眼を使用していた.ドライアイ患者の結膜?内にはレボフロキサシン耐性菌が多く検出されるとの報告もあり14),涙点プラグ挿入後の抗菌薬点眼が薬剤耐性と関連性があるとは一概にいえないものの,安易に長期にわたって抗菌薬を投与することは避けるべきであろう.挿入された涙点プラグに高率に細菌が付着していたことが,涙点プラグを定期的に交換する必要性を示唆しているのか否かについては議論の余地がある.長期間涙点プラグが挿入されていても,感染性角膜炎などの重篤な眼表面の感染症を発症しておらず,眼表面には大きな影響を与えていない可能性もある.しかし,涙点プラグの約90%に細菌が付着している結果は無視できない事実であり,少なくとも涙点プラグ挿入後の定期的な経過観察は重要であり,眼脂の増加や涙点プラグの汚染状態によっては涙点プラグの交換を考慮すべきであると考えられる.文献1)FreemanJM:Thepunctalplug:evaluationofanewtreatmentforthedryeye.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol79:874-879,19752)WillisRM,FolbergR,KrachmerJHetal:Thetreatmentofaqueous-deficientdryeyewithrernovablepunctalplugs.Aclinicalandimpression-cytologicstudy.Ophthalmology94:514-518,19873)GilbardJP,RossiSR,AzarDTetal:EffectofpunctalocclusionbyFreemansiliconepluginsertionontearosmolarityindryeyedisorders.CLAOJ15:216-218,19894)太田啓雄,広瀬浩士,粟屋忍ほか:涙点栓子挿入による乏涙症の治療成績.臨眼48:628-629,19945)MurubeJ,MurubeE:Treatmentofdryeyebyblockingthelacrimalcanaliculi.SurvOphthalmol40:463-480,19966)小嶋健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,20027)那須直子,横井則彦,西井正和ほか:新しい涙点プラグ(スーパーフレックスプラグ⑧)と従来のプラグの脱落率と合併症の検討.日眼会誌112:601-606,20088)薗村有紀子,横井則彦,小室青ほか:スーパーイーグル⑧プラグにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌117:126-131,20139)YokoiN,OkadaK,SugitaJetal:Acuteconjunctivitisassociatedwithbiofilmformationonapunctalplug.JpnJOphthalmol44:559-560,200010)SugitaJ,YokoiN,FullwoodNJetal:Thedetectionofbacteriaandbacterialbiofilmsinpunctalplugholes.Cornea20:362-365,200111)FoxRI,RobinsonCA,CurdJGetal:Sjogren’ssyndrome.Proposedcriteriaforclassification.ArthritisRheum29:577-584,198612)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199413)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜?内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,200114)HoriY,MaedaN,SakamotoMetal:Bacteriologicprofileoftheconjunctivainthepatientswithdryeye.AmJOphthalmol146:729-734,2008〔別刷請求先〕熊倉重人:〒113-0024東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科医局Reprintrequests:ShigetoKumakuraM.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity.6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo113-0024,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(107)1493表1プラグ数,患者数,眼数における培養陽性数と培養陽性率培養陽性数培養陽性率プラグ数29/3290.60%患者数20/2290.90%眼数25/2792.60%表2検出された細菌の種類と検出率検出された細菌no(%)Corynebacteriumsp.18(50)Streptococcusa-Hemolyticstreptococci5(13.4)Staphylococcusaureus3(8.3)non-fermentinggram-negativerod3(8.3)Staphylococcusepidermidis2(3.0)gram-negativerod2(3.0)coagulase-negativestaphylococci(CNS)2(3.0)Pseudomonasaeruginosa1(2.8)Aspergillussp.1(2.8)1494あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(108)表3全症例のまとめ症例年齢(歳)性別プラグ挿入部位プラグ挿入期間(カ月)培養結果182女UR3Staphylococcusepidermidis2UL72女UL7(-)2LL72女LL7(-)3UL85男UL15Corynebacteriumsp.3LL85男LL15Corynebacteriumsp.475女LR16StaphylococcusaureusCorynebacteriumsp.574男LR18Corynebacteriumsp.6LL58女LL19non-fermentinggram-negativerodStreptococcusa-Hemolyticstreptococci6UL58女UL19non-fermentinggram-negativerod6UR58女UR19Staphylococcusaureus775女LL19Corynebacteriumsp.876女LL20Corynebacteriumsp.982女LR20Corynebacteriumsp.1079女LR20Corynebacteriumsp.1173女UR23Corynebacteriumsp.1245女LR30Corynebacteriumsp.1381女LL32StaphylococcusepidermidisStreptococcusa-Hemolyticstreptococci14LL60女LL40Streptococcusa-Hemolyticstreptococcigram-negativerod14LR60女LR39gram-negativerod1536女LL48(-)1663女LR54PseudomonasaeruginosaStreptococcusa-Hemolyticstreptococci1760女LL60Corynebacteriumsp.18LL67女LL71Corynebacteriumsp.18UR67女UR22Corynebacteriumsp.18LR67女LR60Corynebacteriumsp.Streptococcusa-Hemolyticstreptococci19UL71女UL89Corynebacteriumsp.19UR71女LR89Corynebacteriumsp.2087女UL98Coagulase-negativestaphylococciCorynebacteriumsp.Aspergillussp.2154女LR122Staphylococcusaureus22UL63女UL123Corynebacteriumsp.22LL63女LL123Corynebacteriumsp.22LL63女LL123Corynebacteriumsp.U:上涙点,L:下涙点,R:右眼,L:左眼.表4レボフロキサシン耐性であった株のまとめ症例培養結果使用していた点眼薬1Staphylococcusepidermidisレボフロキサシンレバミピド13Staphylococcusepidermidisヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム20Coagulase-negativestaphylococci生理食塩水21Staphylococcusaureus人工涙液ヒアルロン酸ナトリウム(109)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201614951496あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(110)