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成人斜視の手術成績と術後の満足度

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(127) 15670910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1567 1571,2009cはじめに斜視の存在が両眼視機能の喪失や複視など視機能に影響を及ぼすことや,眼精疲労,整容面での問題をひき起こすことは,広く知られている.これらに加えて,欧米では,斜視は自尊心や自信の喪失など心理学的に負の影響を与えるという報告1 4)や,他人から低く評価されやすく,雇用の機会においても不利な影響があり,斜視を有さない人と比較して平均年収が低いという報告もある5 7).一方,斜視手術を行うと,外見に対する自信の回復,精神的ストレスの軽減に効果があり,心理学的側面において改善がみられたという報告もあ る3,8).斜視に起因する機能面・整容面の問題は,患者の精神心理面のみならず社会経済学的側面にも悪影響を及ぼす可能性があり,斜視手術の効用は眼科的検査所見だけでなく,日常生〔別刷請求先〕藤池佳子:〒152-8902 東京都目黒区東が丘 2-5-1国立病院機構東京医療センター・感覚器センターReprint requests:Keiko Fujiike, C.O., National Institute of Sensory Organs, National Hospital Organization Tokyo Medical Center, 2-5-1 Higashigaoka, Meguro-ku, Tokyo 152-8902, JAPAN成人斜視の手術成績と術後の満足度藤池佳子勝田智子水野嘉信羽藤晋山田昌和国立病院機構東京医療センター・感覚器センターSurgical Results of Strabismus Surgery in AdultsKeiko Fujiike, Tomoko Katsuta, Yoshinobu Mizuno, Shin Hato and Masakazu YamadaNational Institute of Sensory Organs, National Hospital Organization Tokyo Medical Center2004 年 1 月から 2005 年 12 月に東京医療センターで斜視手術を施行した 16 歳以上の 52 例〔年齢:16 81 歳(平均 43.5±19.8 歳),性別:男性 23 例,女性 29 例〕を対象に,その手術成績と患者の満足度について評価を行った.症例の内訳は共同性外斜視 23 例,共同性内斜視 9 例,麻痺性斜視 16 例,機械的斜視 4 例であった.治癒判定は,手術目的により,他覚的斜視角が水平 15Δ・上下 10Δ以内または,第一位眼位または日常よく使う眼位での複視の消失とし,アンケート調査結果も含めて手術目的と術後の満足度について検討した.手術目的は「複視」27 例,「整容面」20例,「眼精疲労」5 例で,術後に治癒基準に達したのは 52 例中 39 例(75.0%)であり,一方で自覚的満足が得られたのは 42 例(80.7%)であった.治癒基準と自覚的満足の関係をみると 41 例(78.9%)では両者が一致したが,11 例(21.1%)では不一致となった.成人の斜視手術では,機能的効用とともに,精神的ストレスの軽減や性格面での変化など手術による精神心理的効用が大きいことが示唆された.We assessed the results of strabismus surgery and patient satisfaction in 52 adults who underwent corrective surgery at Tokyo Medical Center, Department of Ophthalmology, between January 2004 and December 2005. The patients comprised 23 males and 29 females, age 16 to 81 years(mean age:43.5±19.8 years), comprising 23 cases of exotropia, 9 of esotropia, 16 of paralytic squint and 4 of mechanical strabismus. On postsurgery we evaluated eye position and diplopia reduction. Deviation of postsurgery was within 15 prism diopters at horizontal and 10 prism diopters at vertical;the reduction of diplopia in the primary position was deemed a good result. We sent the patients a questionnaire regarding their satisfaction with the surgery, and examined the purpose and utility of strabismus surgery. The purposes of the surgery had been diplopia in 27 cases, cosmetic in 20 and asthenopia in 5. In 39 patients(75.0%), eye position and diplopia were improved;42 patients(80.7%)were satis ed. The objective evaluation of surgery did not match the subjective satisfaction in approximately 20% of cases. We show that stra-bismus surgery in adults not only improves visual function, but also confers psychosocial bene ts, such as stress reduction and emotional change.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1567 1571, 2009〕Key words:成人,日常生活機能,手術,斜視.adults, quality of life, surgery, strabismus.———————————————————————- Page 21568あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(128)活機能や精神心理面など患者側の視点からも評価されるべきと考えられる.今回,成人斜視症例の手術成績を後ろ向きに検討し,術後の手術成績と患者側の満足度との関係についても評価を試みたので報告する.I対象および方法1. 対象対象は 2004 年 1 月から 2005 年 12 月の間に東京医療センターで斜視手術を施行した 16 歳以上の斜視症例 52 例である.年齢は 16 81 歳(平均 43.5±19.8 歳)で,性別は男性23 例,女性 29 例であった.斜視のタイプの内訳は,共同性外斜視が 23 例と最も多く,ついで麻痺性斜視 16 例,共同性内斜視 9 例,機械的斜視 4例であった.共同性外斜視では間欠性外斜視が 16 例を占め,術後外斜視が 3 例,残余外斜視,廃用性外斜視が各 2 例であった.共同性内斜視では,後天性内斜視が 7 例,術後内斜視,廃用性内斜視が各 1 例であった.麻痺性斜視では,上斜筋麻痺が 11 例,動眼神経麻痺が 3 例,外転神経麻痺と上直筋麻痺が各 1 例で,機械的斜視では,網膜 離術後の癒着性斜視が 3 例,固定内斜視が 1 例であった.また,斜視手術の既往のある再手術症例は 52 例中 13 例であり,共同性外斜視 5 例,共同性内斜視 5 例,麻痺性斜視 3 例(上斜筋麻痺 2例,外転神経麻痺 1 例)であった.2. 方法術前術後の眼位・眼球運動などの検査所見や手術の内容,経過については診療録から後ろ向きに調査した.診療録の記載に基づき,手術を受けたおもな動機を,複視,眼精疲労,整容面の 3 つに大きく分け,術後の診療録から患者の満足度を評価した.術後の自覚的満足度については,診療録の記録を補完するために 2006 年 3 月に郵送によるアンケート調査を依頼し,手術を受けて良かったこと,良くなかったこと,手術を受けて日常生活で変化したことなどを自由記載で回答してもらい,郵送で回収した.手術からアンケートまでの期間は症例により異なっており,術後 3 26 カ月(平均 14.2±6.7 カ月)とかなりの幅が生じた.アンケートは,転居先不明などで配送できなかった例が 5 例あり,アンケートが回収できたのは 47 例中 24 例,回収率は 51.1%であった.術後 3 カ月の時点で検査所見からの治癒の判定を行った.治癒の基準は,日本弱視斜視学会による斜視の治癒基準9)に準拠し,手術の目的に応じて,整容面の改善または眼精疲労の軽減を手術目的とした症例では「他覚的斜視角が水平 15Δ・上下 10Δ以内」,複視の軽減,解消を手術目的とした症例では「第一眼位または日常よく使う眼位での複視の消失」とした.II結果1. 手術を受けた動機手術の目的は,複数の要因が存在する症例も少なくなかったが,診療録とアンケートの記載からおもな目的を判断し,いずれかに分類した.手術を受けた目的は「複視」が 27 例(51.9%)と最も多く,ついで「整容面」が 20 例(38.5%),「眼精疲労」が 5 例(9.6%)であった.眼精疲労を手術目的とする症例は 5 例中 4 例が男性であったが,「複視」では男性 11 例,女性 16 例,「整容面」では男性 8 例,女性 12 例で,女性がやや多い結果であった(表 1).年齢による手術目的は,30 歳未満の若年層では「整容面」が 19 例中 14 例(73.7%)で他の手術目的に比べ最も多かったのに対し,50 歳以上の症例では「複視」が 23 例中 17 例(73.9%)と圧倒的に多くみられた(図 1).30 歳未満の若年層で,「整容面」を手術目的とする 14 例は,男性,女性とも各 7 例で,性差はみられなかったが,50 歳以上の症例では「整容面」を目的とする 4 例はすべて女性であった.斜視のタイプ別にみた手術目的は,機械的斜視では 4 例中3 例(75.0%)が「複視」であり,麻痺性斜視でも「眼精疲労」を訴えた代償不全型の上斜筋麻痺の 1 例と,先天性動眼神経麻痺で「整容面」を目的とした 1 例を除き,16 例中 14表 1手術の目的手術の目的男性女性計複視11 例(21.1%)16 例(30.8%)27 例(51.9%)整容面 8 例(15.4%)12 例(23.1%)20 例(38.5%)眼精疲労 4 例(7.7%) 1 例(1.9%) 5 例(9.6%)計23 例(44.2%)29 例(55.8%)52 例(100%)16 2930 3940 49年齢層(歳):眼精疲労:整容面:複視例数50 5960 6970 861432121117383620151050図 1年齢による手術の目的20 歳代以下の若年層では「整容面」が 19 例中 14 例(73.7%)で他の手術目的に比べ最も多かったのに対し,50 歳代以上の症例では「複視」が最も多く 23 例中 17 例(73.9%)であった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091569(129)例(87.5%)が「複視」であった.それに対し,共同性外斜視では 23 例中 14 例(60.9%)が「整容面」で,他の手術目的に比較し多く,共同性内斜視では 9 例中 4 例(44.4%)が「整容面」で,共同性外斜視・内斜視症例を合わせると 32例中 18 例(56.3%)で,過半数を占めた.「眼精疲労」は 5例中 4 例が間欠性外斜視で,1 例は後天性上斜筋麻痺の症例であった(図 2).2. 手術成績(客観的治癒と自覚的満足度)手術後に眼位および複視,眼精疲労の状態が客観的な治癒基準に達した症例は,52 例中 39 例(75.0%)であった.客観的治癒に達しなかった 13 例(25.0%)の内訳は,麻痺性斜視が 5 例,ついで共同性外斜視 4 例,共同性内斜視 3 例,機械的斜視 1 例であり,斜視のタイプによる差はみられなかった.手術目的別にみると,「整容面」が 7 例と半数以上を占め,「複視」が 4 例,「眼精疲労」が 2 例であった.一方,手術後に自覚的満足が得られたと判定されたのは52 例中 42 例(80.8%)であった.「整容面」では 20 例中 16例(80.0%),「複 視」 で は 27 例 中 24 例(88.9%)と, 自 覚的満足が得られた症例の割合が多かったのに対し,「眼精疲労」では 5 例中 2 例(40.0%)のみで,「複視」「整容面」に比較して自覚的満足が得られにくい結果となった.自覚的満足と客観的治癒評価が一致した症例は 52 例中 41例(78.8%)で,このうち,客観的治癒が達成され,かつ自覚的満足が得られた症例は 35 例(67.3%)(表 2)に対し,自覚的な満足は得られたものの客観的治癒が達成されなかった症例が 7 例(13.5%),逆に客観的治癒が達せられたにもかかわらず自覚的満足が得られなかった症例が 4 例(7.7%)あり,合わせて 11 例(21.2%)の症例で自覚的満足と客観的治癒の判定結果が一致しない結果となった.自覚的満足と客観的治癒の判定結果が一致しなかった症例のうち,客観的治癒基準に達しないのに自覚的満足が得られた 7 症例は,手術目的が「整容面」の症例が 5 例,「複視」の症例が 2 例で,年齢や性別はさまざまであった.斜視のタイプについても,麻痺性斜視が 3 例(上斜筋麻痺 2 例,先天性動眼神経麻痺 1 例),廃用性斜視 2 例(内斜視 1 例,外斜視 1 例),後天性内斜視 1 例,術後内斜視 1 例で一定の傾向はなかった.一方,治癒基準に達しているのに自覚的満足が得られなかった 4 症例は,いずれも共同性外斜視で,整容面を手術目的とする症例が 2 例,複視と眼精疲労を手術目的とする症例が1 例ずつで,手術目的による差はみられなかった.整容面を目的とする 2 症例のうち,術後外斜視の症例では 8Δの上下斜視の残存を認め,残余外斜視の症例は術後に眼位はほぼ外斜位になったもののときどき外斜視が顕性化する症例であった.複視を手術目的とする間欠性外斜視の症例では,第一眼位での複視は消失したものの,側方視時に複視が残存し,眼精疲労を主訴とした間欠性外斜視の症例では眼精疲労自体は緩和されたものの,整容面がまだ気になると訴えた症例であった.3. 術後アンケートの結果術後アンケートの内容は,手術を受けて良かったこと,良くなかったこと,日常生活での変化について自由記載方式で回答してもらった.手術を受けて良かったことについては,アンケートの回収が可能であった 24 例中,複視の消失や軽減など視機能の改善をあげた例が 6 例(25.0%),車の運転や裁縫が可能になったと社会生活機能の改善をあげた例が 6例(25.0%),目の疲れの軽減をあげた例が 7 例(29.2%)あった.しかし,それ以上に最も多かった回答は,これらの機能面での効用ではなく,精神的ストレスが軽減したという例で 16 例(66.7%)にのぼった.また 7 例(29.2%)の症例が「気持ちが明るくなった」「積極的になった」などの性格面での前向きな変化を報告していた.表 2客観的治癒と自覚的満足度の関係客観的治癒(+)客観的治癒( )計自覚的満足(+)35 例(67.3%)7例(13.5%)42 例(80.8%)自覚的満足( )4例(7.7%)6例(11.5%)10 例(19.2%)計39 例(75.0%)13 例(25.0%)52 例(100%)客観的治癒基準:(1)他覚的斜視角が水平 15Δ,上下 10Δ以内.(2)第一眼位または,よく使う眼位での複視の消失.自覚的満足:診療録の記載とアンケートから総合的に判断.図 2斜視のタイプによる手術の目的斜視のタイプによる手術目的は,機械的斜視や麻痺性斜視では「複視」が多かったのに対し,共同性外斜視・共同性内斜視の症例では「整容面」が比較的多くみられた. (図中の数字は例数を示す):複視:整容面:眼精疲労0%20%40%60%80%100%514454141131共同性外斜視共同性内斜視麻痺性斜視機械的斜視———————————————————————- Page 41570あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(130)なお,手術を受けて良くなかったことについては,「複視の残存」をあげた例が 7 例(29.2%)で最も多く,ついで「整容的に不満足」,「手術時の痛み,恐怖感」と答えた例が各 2例(8.3%)みられた.III考察一般に,小児における斜視の手術は,主として正常な両眼視機能の獲得や保持を目的に,機能的な治癒を目指して施行され,将来的に正常両眼視機能の獲得,構築がなされれば,治療は奏効したといえる.これに対し,成人斜視においては,手術の目的も複視や眼精疲労の軽減,解消といった機能的側面から整容面での改善などの心理,社会的な側面まで多様である.また,多くの場合,患者自らが希望して手術治療が行われる点も小児とは大きく異なる点と思われる.したがって,いかに術前の主訴が改善されたかという患者の自覚的な満足度は治療の評価のうえで重要な事項と考えられる.今回の結果では,成人斜視患者の手術目的は,「複視」が全体の半数以上を占め最も多く,ついで「整容面」,「眼精疲労」の順であった.「複視」の症例では,麻痺性斜視や機械的斜視が多く,「眼精疲労」「整容面」の症例では共同性外斜視が多い傾向にあった.小花らは,成人斜視患者のうち,外斜視患者では整容的な改善を手術目的とする症例が最も多く,内斜視患者では複視が多いと報告し10),大淵らは成人外斜視患者で手術を受けた理由は「外見上」と「疲れる」が多かったと報告している11).今回の結果も共同性外斜視症例では同様で,23 例中 14 例(60.9%)が整容面での改善を手術目的とし,他の手術目的と比較し多く,共同性内斜視症例では 9 例中 5 例(55.6%)が複視の解消を目的としていた.今回の結果において,共同性外斜視症例で複視を主訴とするものが少なかったのは,23 例中 16 例(69.6%)が間欠性外斜視であったこと,逆に共同性内斜視症例で複視の訴えが多かったのは,廃用性内斜視の 1 例を除き,すべて後天性であったことが,その要因と推察された.共同性内斜視以上に複視の訴えが多くみられたのは麻痺性斜視であり,16 例中 14 例(87.5%)と大多数を占めていた.客観的治癒と自覚的満足との関係では,客観的治癒基準の達成が自覚的満足の獲得につながる症例が多い一方で,全体の約 2 割の症例では自覚的満足度と客観的治癒の判定が一致しない結果となった.篠原らは,成人斜視症例において眼位の改善率と自覚的満足は必ずしも一致せず,自覚的満足が得られるかどうかには複視の有無が大きく関与し,視方向により複視の残存する麻痺性斜視では自覚的満足が低かったと報告している12).今回の結果においても,自覚的満足が得られなかった 10 症例のうち,客観的治癒の達せられなかった 6例中 3 例は複視を主訴とする症例で,客観的治癒の達せられた 4 例は,いずれも術後に側方視時の複視を訴えた症例であり,複視の有無が自覚的満足に大きく寄与しているものと推察された.客観的治癒と自覚的満足が一致しなかった症例のうち,客観的治癒基準に達しないものの自覚的満足が得られた 7 症例は,年齢,性別,および手術目的はさまざまで,斜視のタイプについても,共同性内斜視,共同性外斜視,麻痺性斜視が混在しており,特徴的な傾向は認められなかった.客観的治癒基準に達しないのに自覚的満足が得られた理由として,先天性動眼神経麻痺の症例では,整容面の改善を目的として手術を受けたところ,複視も軽減し追加の効用があったことが推測された.廃用性斜視 2 例と後天性内斜視 1 例では,術前に 50Δ以上の大きな斜視角があり,術後に斜視角が半分以下に減少し,整容的にあまり目立たなくなったことが理由として考えられた.また,上斜筋麻痺の 2 例と術後内斜視の 1例では,斜視になってから治療に至るまでの期間が長く,手術を受けたこと自体への満足感,達成感が自覚的満足につながったものと推察された.逆に治癒基準を達成しているのに自覚的満足が得られなかった 4 症例は全例が共同性外斜視であった.外斜視は運動面と感覚面とで多彩な病態と自覚症状を呈するが,術後にもさまざまな愁訴を訴えることが多いため,自覚的満足が得られにくいことが推察された.術後アンケートによる,手術を受けて良かった点,日常生活での変化したことという観点からみた手術の効用は,複視の消失や立体感の獲得など視機能の改善,車の運転や裁縫などの社会生活機能の改善,眼の疲れの軽減という回答があった一方,最も多かった回答は精神的ストレスが軽減したという回答であり,また,明るくなった,積極的になった,など性格面での前向きな変化の報告が多くみられた.成人斜視に対する手術は機能面での改善以上に,精神心理面での効用が大きいことが示唆された.ただし,今回のアンケート調査は手術からの期間が症例により異なっており,術後 3 26 カ月とかなりの幅があった.転居などでアンケートが配送できなかった症例や回収できなかった症例がかなりあり,回収率は 51.1%にとどまった.自由記載という形式も患者の満足度の評価方法としては問題があると思われた.今後は,患者の満足度・不満足度の評価には,日常生活機能の調査票など定量性・妥当性が確立した一定のフォーマットを用い,術後の時期を合わせて検討する必要があると考えられた.文献 1) Satter eld D, Keltner JL, Morrison TL et al:Psychosocial aspects of strabismus study. Arch Ophthalmol 111:1100-1105, 1993 2) Paysse EA, Steele EA, McCreery KM et al:Age of the emergence of negative attitudes toward strabismus. J ———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091571(131)AAPOS 5:361-366, 2001 3) Menon V, Saha J, Tandon R et al:Study of the psychoso-cial aspects of strabismus. J Pediatr Ophthalmol Strabis-mus 39:203-208, 2002 4) Hatt SR, Leske DA, Kirgis PK et al:The e ects of stra-bismus on quality of life in adults. Am J Ophthalmol 144:643-647, 2007 5) Olitsky SE, Sudesh S, Graziano A et al:The negative psychosocial impact of strabismus in adults. J AAPOS 3:209-211, 1999 6) Coats DK, Paysse EA, Towler AJ et al:Impact of large angle horizontal strabismus on ability to obtain employ-ment. Ophthalmology 107:402-405, 2000 7) Uretmen O, Egrilmez S, Kose S et al:Negative social bias against children with strabismus. 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