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スーチャートラベクロトミー眼内法施行不能の2症例

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1109.1113,2018cスーチャートラベクロトミー眼内法施行不能の2症例真鍋伸一林研林眼科病院CTwoCasesofSurgicalFailureofSutureTrabeculotomyabinternoCShin-ichiManabeandKenHayashiCHayashiEyeHospital目的:スーチャートラベクロトミー眼内法(以下,iSLOT)を試みた症例で,施行不能症例の原因を探索すること.対象および方法:2014年C9月.2017年C5月にCiSLOTを試みた症例を後ろ向きに検討した.術前評価で適応外と判断し他手術が計画された症例は除外した.結果:手術を予定されたC211症例C239眼のうち,施行不能はC2眼あった.1眼は,白内障手術中破.による眼内レンズ亜脱臼を合併した落屑緑内障で,隅角切開後の逆流性出血で視認性確保ができなかったためにスーチャートラベクロトミー眼外法に変更した.1眼はCLASIK既往のある原発開放隅角緑内障眼で,術前隅角鏡検査では線維柱帯の同定ができたものの術中は困難であり,金属プローブによるトラベクロトミー眼外法に変更した.結論:術中前房圧保持が困難なために大量の逆流性出血を生じる症例や,軽度角膜混濁でCiSLOTが施行困難な症例では,適応外とするか他術式への変更を念頭に手術に臨むべきである.CPurpose:Toinvestigatecausesofsurgicalfailureofsuturetrabeculotomyabinterno(iSLOT)C.Methods:Cas-esthathadundergoneiSLOTfromSeptember2014toMay2017werereviewedretrospectively.Results:Among239eyesof211cases,iSLOTwasnotcompletedin2cases.Incase1,whichwassu.eringfromexfoliationglauco-maCcomplicatedCwithCIOLCsubluxation,CmassiveChyphemaCinterferedCwithCsurgicalCmanipulation,CandCiSLOTCwasCconvertedCtoCsutureCtrabeculotomyCabCexterno.CInCcaseC2,CwhichCwasCsu.eringCfromCprimaryCopen-angleCglaucomaCwithpasthistoryofLASIK,Schlemm’scanalwasnotdetectedbecauseofcornealopacity,andiSLOTwasconvert-edtotrabeculotomyabexterno.Conclusion:Casesinwhichmassivebloodre.uxisexpectedtooccurduringsur-gerybecauseoflowanteriorchamberpressure,andcaseswithcornealopacity,arecontraindicatedforiSLOTandshouldbeperformedwithpossibleconversiontoothersurgeriesinmind.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1109.1113,C2018〕Keywords:スーチャートラベクロトミー眼内法,手術不成功,角膜混濁,眼内レンズ脱臼,逆流性出血.sutureCtrabeculotomyabinterno,surgicalfailure,cornealopacity,intraocularlenssubluxation,bloodre.ux.Cはじめに近年,緑内障手術のなかでも侵襲の少ない低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery:MIGS)という概念が提唱され関心が高まってきている1).わが国におけるMIGSとしては,2010年にCTrabectomeR2)が認可されたのが最初であり,2018年C1月現在ではCsutureCtrabeculotomyabCinterno(以下,iSLOT)3),KahookCDualCBladeR4),Micro-hookCtrabeculotomy5),iStentR6)が施行可能である.これらの術式はすべて前房からCSchlemm管への流出抵抗を減弱させることで眼圧下降を達成する手術である.一方でわが国においては承認されていないが,Schlemm管をターゲットにしたCHydrusTM7)や,上脈絡膜腔にデバイスを挿入するCCypassR8)なども開発されている.手技的にはいずれも隅角鏡下での操作を要する点で共通しており,良好な術野確保が手術成否に大きく影響すると思われる.よって,すでに導入されている隅角鏡下手術の手技的な問題点を探ることは,将来導入が見込まれる隅角鏡下緑内障手術の適応を考えるうえでも重要な知見になると考える.本研究の目的は,隅角鏡下緑内障手術の一つであるCiSLOTを予定した症例での手術施行不能原因を探索することである.〔別刷請求先〕真鍋伸一:〒812-0011福岡県福岡市博多区博多駅前C4-23-35林眼科病院Reprintrequests:Shin-ichiManabe,M.D.,Ph.D.,HayashiEyeHospital,4-23-35Hakataekimae,Hakata-ku,Fukuoka812-0011,CJAPAN表1手術適応基準と除外基準表2患者背景適応基準(①②両条件を満たす)①病型と隅角所見(以下の両条件を満たす)1.開放隅角緑内障ただし,周辺虹彩前癒着があっても全周でCSchwalbe線に達していない場合は手術適応とする.2.隅角鏡検査で少なくとも鼻側隅角が観察できる②病状(1,2のいずれかを満たす)1.緑内障性視神経症を認め緑内障点眼治療中だが,さらに眼圧下降が必要2.緑内障点眼中の白内障手術適応症例で,以下いずれかの病態A)眼圧と視野コントロールが良好な開放隅角緑内障B)前視野緑内障C)高眼圧症除外基準(①.④いずれか一つでも当てはまる場合)①目標眼圧が低い症例末期緑内障進行した正常眼圧緑内障②全周でCSchwalbe線に達する周辺虹彩前癒着がある症例③活動性のあるぶどう膜炎合併症例④隅角鏡検査で視認性が悪い症例(例:角膜混濁)ただし,高眼圧による角膜浮腫のみが原因と思われる症例は除く.I対象および方法2014年C9月.2017年C5月に林眼科病院でCiSLOTを計画した症例を後ろ向きに検討した.検討項目は,年齢,緑内障病型,手術記録(含む動画)から手術の成否と不成功の場合はその原因,線維柱帯切開範囲(度)とした.手術の成否は,線維柱帯をC120°以上切開できた症例を施行症例,切開ができないかできてもC120°未満である症例を施行不能症例とした.後ろ向き研究であるが,単一施設で統一された手術適応基準,除外基準で診療しており表1に供覧する.診断と治療方針決定は緑内障診療ガイドラインに則って9),担当医の判断で行った.適応基準は,病型は開放隅角緑内障を対象としたが,炎症などで二次的に生じたと推測される周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorCsynechia:PAS)があっても全周Schwalbe線に達していなければ,隅角癒着解離術を併施することとして手術対象とした.病状としては,投薬加療中で緑内障性視神経症を認めさらに眼圧下降を要すると判断した症例に加え,緑内障点眼治療中の白内障手術適応症例のうち,視野コントロール良好な緑内障,前視野緑内障,高眼圧症いずれかを合併していて,口頭と文書によって緑内障同時手術の同意が得られた症例を対象とした.除外基準は,末期緑内障や進行した正常眼圧緑内障症例など目標眼圧が低い症例,全周にCSchwalbe線を越える高いCPASを認める症例,活動性のあるぶどう膜炎続発緑内障,角膜混濁などにより隅症例数214例239眼年齢C68.9±18.8(16.91)歳術前眼圧C29.4±9.4(14.63)mmHg病型原発開放隅角緑内障102眼落屑緑内障83眼その他54眼ぶどう膜炎23眼角膜移植後C6眼ステロイドC6眼発達C5眼白内障手術破.後C5眼混合緑内障C4眼硝子体手術後C2眼外傷性C2眼不明C1眼緑内障投薬数C3.8±0.9(1.5)剤角鏡検査で隅角視認性の悪い症例とした.ただし,高眼圧による角膜浮腫のみが原因で隅角視認性不良であると判断した症例は,術中の眼圧下降によって良好な視認性が得られるとの前提で除外基準からはずして手術適応とした.術式は既報に則して3),隅角鏡(SwanCJacobCgonioprismCR,OcularInstruments)で観察しながらC5-0ナイロン糸を用いて線維柱帯切開を施行し,白内障同時手術の場合は先にiSLOT施行することを基本とした.鼻側にCPASのある症例では,鼻側のみ隅角癒着解離術を施行して線維柱帯を露出し,隅角切開部からナイロン糸をCSchlemm管内に挿入した.他部位のCPASはナイロン糸による線維柱帯切開と同時に癒着が解除されることを確認した.CII結果iSLOTはC214例C239眼で手術適応となった.患者背景を表2に示す.年齢はC68.9C±18.8(16.91)歳,術前平均眼圧はC29.4C±9.4(14.63)mmHgであった.病型は原発開放隅角緑内障が最多のC102眼で,落屑緑内障C83眼と合わせると全体のC77%を占めた.実際に施行された術式を表3に示す.237眼(99.2%)で手術を施行した.そのうちC9眼では隅角癒着解離術も併施した.Schlemm管内壁の切開範囲はC319C±71.3(120.360)°であった.一方,iSLOTが施行できなかった症例はC2例(0.8%)であり,以下に臨床経過を提示する.〔症例1〕83歳,男性.右眼眼内レンズ亜脱臼を合併した落屑緑内障.現病歴は,3年前に近医で両眼白内障手術を施行された後,右眼眼圧上昇があり点眼加療受けるも,徐々に視野狭窄の進行と視力低下をきたし,セカンドピニオン目的で林眼科病院を受診した.緑内障点眼C4種と炭酸脱水酵素阻害薬内服の投薬を受け表3施行術式iSLOT施行症例237眼(C99.2%)iSLOT単独103眼iSLOT+PEA+IOL133眼iSLOT+IOL摘出+IOL毛様溝縫着1眼隅角癒着解離術併施9眼切開範囲C319±71.3°(C120.C360)iSLOT施行不能症例2眼(0C.8%)トラベクロトミー眼外法1眼スーチャートラベクロトミー眼外法+IOL縫着1眼iSLOT:sutureCtrabeculotomyCabCinterno,CPEA:phacoemulsi.cationCandCaspiration,IOL:intraocularlens.d図1症例1の臨床所見a:細隙灯顕微鏡による前眼部徹照像写真.眼内レンズは亜脱臼している.Cb:術前隅角鏡所見.視認性不良だが線維柱帯色素が観察される(→).c:Goldmann動的視野検査.Cd:術中写真.画面右端にある硝子体鉗子で把持したナイロン糸(.)をCSchlemm管切開部から挿入しようとしているが,出血(*)に覆われて詳細が見えない状態.Cていた.右眼視力C0.01(矯正不能)で,眼圧は右眼C47CmmHg浮腫のため詳細は不明であったが,開放隅角と推測される程(Goldmann圧平式眼圧計).前眼部中間透光体所見としては,度には視認された(図1b).Goldmann動的視野検査では右右眼角膜実質および上皮浮腫のため透明性が低下していた.眼は中心視野が消失していた(図1c).眼圧下降によって隅角膜内皮細胞密度は不明瞭な画像データからの算出であるが角視認性は速やかに改善すると判断し,iSLOTと眼内レン1,399個/mmC2であった.眼内レンズは残存前.上で耳下側ズ整復術を予定した.上方水晶体支持部をC12時強膜に縫着に偏位しており(図1a),水晶体後.を認めないことから白した後,iSLOTを試みた.角膜の透明性は縫着術施行中の内障手術時の破.症例と推測された.隅角鏡検査では,角膜約C20分で改善され,隅角視認性は良好となった.前房に粘弾性物質を満たして隅角切開を施行したところ,大量の逆流性出血で視認性不良となったためCiSLOT施行不可能となり(図1d),360°スーチャートラベクロトミー眼外法変法に術式変更をして手術を終えた.〔症例2〕52歳,女性.開放隅角緑内障.14年前に両眼CLASIKの既往歴がある.現病歴は,4カ月前から左眼霧視を自覚して近医を受診,左眼C52CmmHgの高眼圧を指摘されて点眼での治療が開始されるも良好な眼圧下降が得られず紹介受診となった.緑内障点眼C3種と炭酸脱水酵素阻害薬内服の投薬を受けていた.右眼視力C0.4(矯正不能)で,眼圧は右眼C53CmmHg(Goldmann圧平式眼圧計).前眼部中間透光体所見としては,左眼角膜は実質および上皮浮腫のため若干透明性が低下していたのに加えて,上皮下に広範囲な非常に淡い混濁を認めた.角膜内皮細胞密度は不明瞭な画像データからの算出であるがC2,571個/mmC2であった.隅角鏡検査では,角膜透明性低下のため細部は観察できないものの,開放隅角であることは確認された.Goldmann動的視野検査では左眼鼻下側C1/4象限の狭窄が認められた.治療方針としては,前房穿刺による眼圧下降によって角膜透明性が改善して良好な隅角視認性が得られると判断し,iSLOTを予定した.前房穿刺によって角膜浮腫は軽減したものの,広範囲の角膜上皮下混濁によると思われる隅角視認性不良により線維柱帯ならびにCSchlemm管内壁を同定することができず,金属プローブによるトラベクロトミー眼外法に術式変更して手術を終えた.CIII考按従来,わが国で施行されてきた金属プローブによる線維柱帯切開術はC120°切開であるので,本研究での施行達成基準をC120°以上に設定したが,iSLOT施行を予定した症例の99.2%と大多数の症例で施行可能であった.本研究対象は当該施設での手術導入期からの症例を含んでおり,手術に習熟していない状態で施行した症例を含んでの高い施行率である.適切な手順に基づいて施行すれば,iSLOTは初心者であっても高い確率で施行できる手技と考える.適応病型に関しては,一般的には開放隅角緑内障が前提であるが,今回の調査対象期間においてはCSchwalbe線に達しないCPASであれば隅角癒着解離術を併施する前提で手術対象として手術を予定し,9例全例で手術施行可能であった.眼圧下降効果の評価は今後必要であるが,線維柱帯切開が可能であるか否かという手技的な観点からは,PASがあるということをもってCiSLOT適応外とする必要はないと考える.施行不能であった最初の症例は,隅角切開後の逆流性出血により視認性確保ができなかったことが原因であった.iSLOTを含むCSchlemm管内壁を操作する手術では,逆流性出血が必発である.これは,術中前房圧低下によってCSch-lemm管より近位の房水静脈圧が前房圧を上回ったことで生じる血液逆流現象であり,血管壁を損傷して起きる血管破綻性出血とは異なる.すなわち,前房圧がある程度以上に維持されていれば逆流性出血を抑えることができる.しかしながら本症例では破.によって前後房隔壁が損なわれていたため,前房圧を維持するには,硝子体腔を含む前後房に相当量の粘弾性物質を注入するか,灌流ポートの設置が必要であったと思われる.大量粘弾性物質注入はその後の抜去を考えると侵襲が大きすぎるし,灌流ポート設置では隅角鏡操作時の水流によって操作性が低下するために手術施行は困難となることが予想される.以上から,本症例のような前後房隔壁の脆弱な症例や無水晶体眼は,iSLOT適応外としてもよいのではないかと筆者らは考えている.症例C2は,術前隅角鏡検査では比較的視認性が改善すると予想したものの,術中隅角鏡検査では良好な視認性が得られなかったことが原因で施行不能となった.術前隅角鏡検査には一面鏡(HAAG-STREITCR)を用い,術中隅角鏡にはSwan-JacobCgonioprismを用いた.本症例の角膜上皮下混濁自体は非常に軽微であったものの広範囲に及んでいたため,観察光路の若干異なる一面鏡とCSwan-Jacobgonioprismでは視認性に違いを生じたものと考えられる.実際に,術後に角膜浮腫が消失してから一面鏡を用いて隅角を観察すると,比較的良好な視認性が得られていた(データ供覧なし).以上から,症例C2のような淡いが広範囲な角膜上皮下や実質浅層混濁があるケースでは,術前よりも術中視認性が不良であることも想定して他術式への変更を念頭に手術に臨むべきであると考える.2症例の施行不能原因はいずれも術中視認性の問題であり,ナイロン糸挿入などの手技的な難度が原因となって施行不能となった症例はなかった.iSLOTを含む隅角鏡下で施行する手術においては,術中の良好な視認性確保が手術の成否に大きな影響を及ぼす.筆者らは,本研究結果が今後増加の見込まれる隅角鏡下で施行される各種CMIGSの手術適応を考えるうえで参考になるものと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SahebCH,CAhmedCII:Micro-invasiveCglaucomaCsurgery:CcurrentCperspectivesCandCfutureCdirections.CCurrCOpinCOphthalmolC23:96-104,C20122)MincklerCDS,CBaerveldtCG,CAlfaroCMRCetCal:ClinicalCresultsCwiththeTrabectomefortreatmentofopen-angleglauco-ma.OphthalmologyC112:962-967,C20053)GroverDS,GodfreyDG,SmithOetal:Gonioscopy-assist-edCtransluminalCtrabeculotomy,CabCinternoCtrabeculoto-my:techniqueCreportCandCpreliminaryCresults.COphthal-mologyC121:855-861,C20144)SeiboldLK,SoohooJR,AmmarDAetal:Preclinicalinves-tigationCofCabCinternoCtrabeculectomyCusingCaCnovelCdual-bladedevice.AmJOphthalmolC155:524-529Ce522,C20135)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetCal:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmolC94:e371-e372,C20156)SamuelsonCTW,CKatzCLJ,CWellsCJMCetCal:RandomizedCevaluationofthetrabecularmicro-bypassstentwithphaco-emulsi.cationCinCpatientsCwithCglaucomaCandCcataract.COphthalmologyC118:459-467,C20117)Pfei.erCN,CGarcia-FeijooCJ,CMartinez-de-la-CasaCJMCetal:ACrandomizedCtrialCofCaCSchlemmC’sCcanalCmicrostentCwithphacoemulsi.cationforreducingintraocularpressureinCopen-angleCglaucoma.COphthalmologyC122:1283-1293,C20158)HoehH,VoldSD,AhmedIKetal:Initialclinicalexperi-enceCwithCtheCCyPassCMicro-Stent:safetyCandCsurgicalCoutcomesCofCaCnovelCsupraciliaryCmicrostent.CJCGlaucomaC25:106-112,C20169)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:3-46,C2012***