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眼精疲労に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床効果 ─ CFF による検討─

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):271.274,2018c眼精疲労に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床効果─CFFによる検討─星合繁ほしあい眼科CEvaluatingClinicalE.ectsofYokukansankachimpihangeagainstEyestrain,UsingCFFShigeruHoshiaiCHoshiaiEyeClinicストレス社会の現代では眼精疲労の要因に心因的要因の関与が推察される.しかし,眼科での睡眠薬などの処方は患者への心理負担が懸念される.そこで神経症や不眠症に適応のある漢方薬を用い,眼精疲労に対する有用性を客観的評価法で検討した.精神神経症状を伴う眼精疲労患者に抑肝散加陳皮半夏を投与し,アンケート調査(眼症状・身体症状)およびCcritical.ickerfrequency(CFF)の測定を実施した.CFF値が正常下限以下(26.34CHz)の場合を対象とした.その結果,投与前と投与後C2.3週および投与後C4.6週を比較すると,投与後C4.6週の自覚症状(眼の疲労,首や肩のこり)およびCCFF値が有意に改善した.なお,本剤に起因する副作用は認められなかった.CPsychogenicfactorsarepresumedtorepresentaclassofcausativefactorsinvolvedineyestraininpeopleliv-ingCinCaChigh-stressCsociety.CHowever,CpsychologicalCburdenConCpatientsCalsoCrelatesCtoCtheCprescriptionCofCsleepCdrugssuchashypnoticdrugsprescribedbyophthalmologists.Inthisstudy,usingobjectivemethodsweevaluatedYokukansankachimpihange(Kampo)C,CprescribedCforCneurosisCandCinsomnia,CforCtheCtreatmentCofCeyestrain.CYoku-kansankachimpihangeCwasCadministeredCtoCpatientsCwithCeyestrainCassociatedCwithCneuropsychiatricCsymptoms;questionnaireCsurvey(eye/physicalCsymptoms)andCcriticalC.ickerCfrequency(CFF)measurementCwereCalsoCcon-ducted.Astoresults,scoresforsymptoms,eyestrainandsti.shoulder/neckweresigni.cantlydecreasedafter4-6weeksCofCadministration.CEyesCbelowCnormalCCFFCvalues(26-34CHz)recoveredCandCwereCsigni.cantlyCincreasedCafter4-6weeksadministration.Noadversee.ectsattributabletoYokukansankachimpihangewereobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):271.274,C2018〕Keywords:眼精疲労,抑肝散加陳皮半夏,CFF,精神神経症状.eyestrain,Yokukansankachimpihange,CFF,neuropsychiatricsymptoms.Cはじめにパソコンやスマートフォンの普及により眼精疲労は増加傾向にある.「平成C20年技術革新と労働に関する実態調査」(厚生労働省)によれば,労働者の約C7割が「眼の疲れ,痛み」などの身体的疲労症状を自覚していた.眼精疲労にはさまざまな要因があるが,自律神経系が乱れやすいストレス社会では心因的要因も推察される.しかし,眼科での抗不安薬や睡眠薬などの処方は,かえって患者に不安を与えかねない.そこで漢方薬の抑肝散加陳皮半夏に着目し,客観的指標を用いて有用性を検討した.CI対象および方法対象はC2014年C3月.2016年C6月に当院を受診した眼精疲労患者のうち,問診でイライラや不眠などの軽度な精神神経症状が確認され,調査に同意の得られたC24例.平均年齢C65.7±11.8歳,眼精疲労の分類は,調節性C11例,筋性C7例,神経性・混合性C13例(重複あり)である.遠方視,近方視に対して,生活に合わせた眼鏡による屈折矯正を行っている.抑肝散加陳皮半夏(KB-83クラシエ抑肝散加陳皮半夏エキス細粒R:以下,YKCH)1日C7.5Cg(分2)を原則C4週間〔別刷請求先〕星合繁:〒336-0967埼玉県さいたま市緑区美園C6-9-10ほしあい眼科Reprintrequests:ShigeruHoshiai,HoshiaiEyeClinic,6-9-10,Misono,Midori-ku,Saitama-shi,Saitama-ken336-0967,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(111)C271以上服用とし,内服のビタミンCBC12,レバミピド,アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物製剤,向精神薬および調査薬剤以外の漢方製剤は併用を禁止した.YKCH投与前,投与後2.3週および4.6週のタイミングで視力検査・アンケート調査・中心フリッカー(criticalC.ickerCfrequency:CFF)検査を行った.自覚症状は,眼症状(疲労,違和感,かすみ,乾燥,眼痛,充血,痙攣)および身体症状(首や肩のこり,頭痛,イライラ,不安,不眠,疲労感,めまい)の各症状に対してC4段階評価(3:とてもそのように感じる,2:少し感じる,1:ほぼない,0:まったくない)のアンケート調査を実施し,眼精疲労の客観的指標としてはCCFF値を測定した.今回の患者背景にCCFFへ影響する器質的疾患はなく,CFF値が要精査にあたる正常下限以下(26.34CHz)1)の場合を対象とした.CCFF検査高速点滅の場合,光は点滅光には見えないが,点滅速度が遅くなるにつれて光の点滅が判定できる.点滅を感じはじめたときの周波数がCCFF値であり,1秒間での点滅回数を表す.CFFは網膜神経節細胞から一次視覚野へのニューロンのインパルス伝達を反映すると考えられており2),疲労の蓄積とともに低下する.CFFを指標に眼精疲労の臨床研究が報告されている2,3).検査機はハンディフリッカCHF-II(ナイツ製)を使用,3色発光ダイオード(LED)の光源により降下法で左右眼を測定した.統計解析に関して,自覚症状はCFriedmanCtest後にCBon-ferroni/Dunn法,CFFはCrepeatedCmeasureCANOVA後にBonferroni/Dunn法を行い,有意水準は5%とした.CII結果1.患.者.背.景登録24例中13例(脱落6例,データ欠損3例,CFF正常C4例)を除外し,解析対象はCCFF異常C11例(18眼)とした(表1).またC11例中C2例にアンケート不備があり,自覚症状の解析対象はC9例とした.C2.自覚症状の推移症状スコアの推移を示す(図1).投与前と比較し投与後C4.6週にて「眼の疲労」および「首や肩のこり」のスコアが有意に低下した.C3.CFF値の推移CFF値の推移を示す(図2).18眼内C7眼が正常範囲内に改善した.CFF値(平均C±SD)は投与前C30.9C±2.6Hz,投与後C2.3週C32.2C±3.0CHz,投与後4.6週C33.1C±3.6CHzと推移し,投与前と比較し投与後4.6週で有意差が認められた.C4.安全性調査期間中,本剤に起因すると思われる副作用はみられなかった.CIII考按VDT作業者の眼精疲労は,不安状態や抑うつ状態を随伴する場合が多いとの報告がある4).YKCHは小児の夜泣きや疳の虫のために創薬された抑肝散に陳皮と半夏を加えた漢方薬である(表2).釣藤鈎や陳皮にはC5-HT神経系やグルタ表1患者背景性別男性C1例,女性C10例年齢C68.5±12.9歳(C42.C82歳)眼精疲労分類※調節性C5例,筋性C3例,神経性・混合性C6例視力-裸眼右眼C0.6C±0.4(C0.15.C1.2),左眼C0.8C±0.3(C0.1.C1.2)既往歴あり10例C※,なしC1例(白内障術後C5例,眼内レンズ挿入眼C2例,網膜裂孔C1例,網膜前膜の処置C1例,ドライアイC1例,糖尿病C1例,高血圧C1例)罹病期間C14.5±12.4カ月(2.3C8カ月)視力矯正あり(眼鏡)C10例,なしC1例VDT作業ありC6例,なしC4例,不明C1例治療歴あり(頓用含む)C6例C※,なしC5例(シアノコバラミン点眼液C5例,精製ヒアルロン酸CNa点眼液C2例,メコバラミン錠1例)併用薬あり(頓用含む)C10例C※,なしC1例(シアノメコバラミン点眼液C6例,精製ヒアルロン酸CNa点眼液C3例,モキシフロキサシン塩酸塩点眼液C2例,フルオロメトロン懸濁点眼液C1例,ブリモニジン酒石酸塩点眼液C1例,リパスジル塩酸塩水和物点眼液C1例)※重複あり.VDT作業とはCTVゲーム・パソコン・携帯電話などの連続操作(1時間以上)とした.272あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018(112)*眼の症状3210*3210ミン酸神経系の作用が報告されている5,6).イライラして怒りっぽい,眠れないなどの症状が処方目標であり,神経が高ぶる患者に用いられ,神経症および不眠症の適応症をもつ.アトピー性皮膚炎,めまい,眼瞼痙攣など精神的ストレスの関与が示唆される疾患でも有用性が報告されている.CFF値の低下は疲労研究領域では,一般に精神疲労の発現や大脳中枢の覚醒レベルの低下とも関係するといわれている.釣藤鈎はグルタミン酸および一酸化窒素供与体により誘導される神経細胞死への保護作用(inCvitro)7),陳皮はラット由来大脳皮質神経細胞にて神経毒性(ACb蛋白)で誘発される神経突起の萎縮や細胞生存率減少に対する抑制8)が報告されている.YKCHは神経保護作用により神経の信号伝達機能を改善し,疲労を回復させるのかもしれない.神経の疲労回復には一定の時間を要すると考えられることから,YKCHは少なくともC4.6週の継続投与が必要と考える.一方,自覚症状は,症例数が少ないものの「眼の疲労」および「首や肩のこり」で改善がみられ,血流障害の緩和が示唆された.不安や緊張は頭頸部領域での血流低下を引き起こすことが考えられる.不眠症や軽い精神症状の症例を対象に課題遂行時の脳酸素代謝の変化を検討した報告では,YKCH群表2抑肝散加陳皮半夏の処方構成抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)抑肝散釣藤鈎C3.0Cg柴胡C2.0Cg川.C3.0Cg陳皮3C.0Cg当帰C3.0Cg半夏5C.0Cg茯苓C4.0Cg白朮C4.0Cg甘草C1.5Cg本薬C1日量(7.5Cg)中,上記の混合生薬より抽出した抑肝散加陳皮半夏エキス粉末C5,000Cmgを含有する.は非投与群に比べて脳血流量が有意に高値を示した9).釣藤鈎には血管弛緩作用があり,抑肝散はウサギの短後毛様動脈血流量を増加し眼圧低下作用を示す報告がある10).これらのことから,YKCHは頭頸部領域での血流改善作用により,首や肩のこりを緩和し,眼精疲労を改善する可能性が示唆される.眼科の診察では精神神経症状を自発的に訴える患者は少ない.しかし,ストレスの多い現代では,眼精疲労の要因にイライラや睡眠障害などが潜在することもまれではない.C(113)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C273Hz454035302520151050投与前2~3週4~6週n=18,Bon.eroni/Dunn,**p<0.01図2CFF値CFF値の正常範囲(35CHz以上)をグレーの部分で示す.正常下限以下(26.34CHz)であったC18眼に対して抑肝散加陳皮半夏を投与した結果,CFF値が回復し,投与前と比較して投与後4.6週で有意差が認められた.投薬の心理負担をかけず症状を改善しうるCYKCHは,治療選択薬の一つとして有用ではないかと考える.文献1)岩崎常人:特集眼精疲労を科学する2.眼精疲労の測定方法と評価─CFFとCAA-1─.眼科51:387-395,C20092)OzawaCY,CKawashimaCM,CInoueCSCetCal:BilberryCextractCsupplementationCforCpreventingCeyeCfatigueCinCvideoCdis-playterminalworkers.JNutrHealthAging19:548-554,C20153)太田勝次,笛木慎一郎,鈴木直子ほか:西洋漢方融合型サプリメントの眼精疲労への影響.新薬と臨牀C62:146-157,C20134)端詰勝敬,坪井康次:心身症と眼精疲労.あたらしい眼科C14:1313-1317,C19975)五十嵐康:抑肝散の作用メカニズムの解明.GeriatrMed46:255-261,C20086)伊東彩,範本文哲:生薬陳皮の薬理作用─抗不安作用に関して─.Phil漢方46:26-28,C20147)ShimadaCY,CGotoCH,CTerasawaCK:ChotosanCandCcerebroC-vascularCdisorders:ClinicalCandCexperimentalCstudies.CJTraditionMedC23:117-131,C20068)渡部晋平,範本文哲:生薬陳皮の薬理作用―神経保護作用を中心に―.Phil漢方41:28-29,C20139)藤田日奈,吉田桃子,与茂田敏ほか:ランダム化比較オープン試験による抑肝散加陳皮半夏の認知機能に関する臨床的検討.精神科23:130-138,C201310)山田利津子:抑肝散内服後の家兎短後毛様動脈の血流動態の検討.漢方と最新治療20:175-178,C2011C***274あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018(114)