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抗緑内障配合点眼液の朝点眼と夜点眼による効果の比較

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):975.978,2012c抗緑内障配合点眼液の朝点眼と夜点眼による効果の比較石田理*1,2杉山哲也*1植木麻理*1小嶌祥太*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2大阪暁明館病院眼科ComparisonofMorningversusEveningDosingofTravoprostandTimololFixedCombinationOsamuIshida1,2),TetsuyaSugiyama1),MariUeki1),ShotaKojima1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaGyoumeikanHospitalb遮断点眼液とプロスタグランジン系点眼液の配合剤について,朝,夜いずれに点眼したほうがより効果的かを検討した.対象はb遮断点眼液およびプロスタグランジン系点眼液を3カ月以上併用している12例12眼.併用している2剤をトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に変更し4カ月間投与した(2カ月間ごとに朝点眼,夜点眼とし,順序は無作為に割り付けた).配合点眼液に切り替える前の眼圧は13.1±2.3mmHgで,切り替え後,朝点眼での眼圧は14.3±2.9mmHgと有意に高値であった(p=0.045).一方,夜点眼では13.7±3.3mmHgで切り替え前と有意差はなかった.また,朝点眼と夜点眼の眼圧は有意差を認めなかった.血圧や脈拍数は,朝,夜点眼で有意差はなかった.患者へのアンケートでは夜点眼希望が多数であった.以上より,トラボプロスト+チモロール配合点眼液は夜に点眼するほうがやや効果的と考えられた.Weevaluatedmorningversuseveningonce-dailytravoprostandtimololfixedcombinationtherapyinprimaryopenangleglaucomapatients.Subjectscomprising12patientswhohadbeenpersistentlygivenb-blockerandprostaglandinophthalmicsolutionwererandomizedtoeithermorningoreveningdosingoftravoprostandtimololfixedcombinationfor4months,withoutawashout.Morningandeveningdosingswereinterchangedatthetwo-monthpoint,inrandomlyassignedorder.Themainoutcomemeasurementwasmeanintraocularpressure(IOP),whichwasassessedthroughoutthemorning.MeanIOPrangedfrom13.1±2.3mmHgto14.3±2.9mmHginthemorning-treatmentgroup,andto13.7±3.3mmHgintheevening-treatmentgroup.Therewasasignificantincreaseinthemorning-treatmentgroupascomparedtobaseline(p=0.045).Whenthemorning-andevening-treatmentgroupswerecompareddirectly,however,nosignificantIOPdifferenceswereobserved;nordidbloodpressureandpulseratediffersignificantlybetweenthegroups.Asurveyofthepatientsrevealedthatmanypreferredtobedosedintheevening.Thisstudysuggeststhattravoprostandtimololfixedcombinationgivenoncedaily,intheevening,mightbemoreeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):975.978,2012〕Keywords:トラボプロスト,チモロール,抗緑内障配合点眼液,朝点眼,夜点眼.travoprost,timolol,fixedcombinationophthalmicsolution,morningdose,eveningdose.はじめに緑内障治療において持続性b遮断点眼液は朝に,プロスタグランジン系点眼液は夜に点眼することが一般的である.しかし,近年わが国において上市されたb遮断点眼液とプロスタグランジン系点眼液との配合剤の場合,いつ点眼するのがより効果的かについてはエビデンスに乏しい.そこで筆者らは,上記2種の緑内障点眼液を投与している症例に対し,それらを配合点眼液1剤に変更し,配合点眼液を朝,夜いずれに点眼したほうがより効果的かについて,無作為割付試験により,眼圧変化,血圧や脈拍数の変化,ならびにアドヒアランスの観点から検討した.〔別刷請求先〕石田理:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:OsamuIshida,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,TakatsukiCity,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)975 I対象および方法1.対象対象は大阪医科大学附属病院眼科および大阪暁明館病院眼科を受診した患者のうち,抗緑内障点眼液のうち,b遮断点眼液(チモロールないしはカルテオロール)およびプロスタグランジン系点眼液(ラタノプロスト,トラボプロストないしはタフルプロスト)を3カ月以上併用している原発開放隅角緑内障(広義)患者12例12眼である.その内訳は,男性6例,女性6例,平均年齢およびその標準偏差は65.5±12.1歳であった.投与しているb遮断点眼液の内訳は,持続性チモロール6例(0.5%チモプトールXER4例,リズモンTGR2例),持続性カルテオロール(2%ミケランLAR)5例,チモロール(0.5%チモプトールR)1例であり,プロスタグランジン系点眼液の内訳は,ラタノプロスト(キサラタンR)10例,トラボプロスト(トラバタンズR)1例,タフルプロスト(タプロスR)1例であった.なお,両眼に点眼している症例については右眼のみを対象とした.2.方法対象症例について,併用しているb遮断点眼液およびプロスタグランジン系点眼液2剤を0.004%トラボプロスト+0.5%チモロール配合点眼液(デュオトラバR)に変更し,4カ月間投与した.投与に際しては2カ月間ごとに朝点眼,夜点眼とし,順序は封筒法により無作為に割り付けた結果,朝点眼6例,夜点眼6例であった(図1).切り替え前および切り替え後1.4カ月の午前中に1カ月間隔で眼圧,血圧,脈拍数を測定し,副作用の有無を調べた.点眼時間,測定時間は個々の症例で一定とした.試験終了時にアンケートによる使用感調査を行った.なお,本研究は大阪医科大学倫理委員会ならびに大阪暁明館病院倫理委員会の承認を得たうえで,対象患者に本調査について口頭および書面にて説明を行い,書面による同意を得て施行した.検定についてはWilcoxon符号付順位和検定を用い,危険率5%未満をもって有意とした.II結果1.トラボプロスト+チモロール配合剤点眼時の眼圧変化b遮断点眼液およびプロスタグランジン系点眼液からトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に切り替える前の平均眼圧および標準偏差は13.1±2.3mmHgであった.切り替え後,朝点眼時の1,2カ月後の平均眼圧は14.3±2.9mmHgとWilcoxon検定を用いて切り替え前に比べ有意に高値であった(p=0.045).夜点眼時の切り替え1,2カ月後の平均眼圧は13.7±3.3mmHgと切り替え前よりやや上昇していたが,両者に有意差はなかった(p=0.26)(図2).さらに,朝点眼および夜点眼における1,2カ月後の眼圧平均値を比較976あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012既存PG製剤+b遮断薬デュオトラバR(朝点眼)デュオトラバR(夜点眼)無作為に2群に割り付け2カ月間デュオトラバR(夜点眼)2カ月間デュオトラバR(朝点眼)図1投与方法681012141618切り替え前朝点眼夜点眼眼圧(mmHg)p=0.04513.1±2.314.3±2.913.7±3.3図2切り替え前および切り替え1,2カ月後の平均眼圧(Mean±SD)すると,両者に有意差はなかった(p=0.37).2.平均血圧の変化切り替え前の平均血圧は110.6±16.4mmHgであった.切り替え1,2カ月後の平均では,朝点眼においては108.8±13.5mmHg,夜点眼においては108.1±14.1mmHgであった.切り替え前の平均血圧と切り替え後の平均血圧では,朝点眼群,夜点眼群とも有意差は認めなかった(p=0.37およびp=0.37).また,朝点眼群と夜点眼群の平均血圧を比較しても有意差を認めなかった(p=0.63).3.脈拍数の変化切り替え前の脈拍数は70.9±9.3回/分,切り替え1,2カ月後の脈拍数の平均は,朝点眼においては72.3±9.9回/分,夜点眼においては74.3±12.4回/分であった.切り替え前の脈拍数と切り替え後の脈拍数では,朝点眼群,夜点眼群とも有意差は認めなかった(p=0.50およびp=0.31).また,朝点眼群と夜点眼群においての脈拍数にも有意差を認めなかった(p=0.31).4.有害事象有害事象は軽度の点状表層角膜症を2例に認めた.いずれも,点眼薬の中止など有害事象についての対処を行う程度ではなかった.5.使用感アンケート配合点眼液へ変更前後の負担については,点眼薬が1本に減って負担が減少したとの回答が8名で最も多く,ついで楽になったが効果が不安という回答が3名にみられた.一方,(100) 今までのように2本がよいという意見はみられなかった.ついで,今までの2本と同じ効果が1本で可能になるとしたらどちらを選択しますかという設問については,早く1本に替えてほしいという回答が9名と最多で,ついで医師の指示どおりにするという回答が2名であった.薬代が安くなるなら1本にする,あるいは2本のままでよいとする回答はみられなかった.さらに,朝・夜いずれの時間に点眼しても効果が同じであると仮定した場合,朝・夜どちらの点眼を選びますかという設問では,夜1回との回答が8名と最も多く,その理由はおもに時間に余裕があるからであった.ついで朝・夜どちらでもよい(2名),朝1回(1名)の順で回答数が多かった.III考按b遮断点眼液とプロスタグランジン系点眼液との配合剤について,いつ点眼するのが最も適切かについては,エビデンスに乏しいと思われる.眼圧下降の面からプロスタグランジン系点眼液については夜の点眼が望ましいとされている1,2)が,両者の配合剤についてはまだ不明な点が多い.Konstasらは,トラボプロスト+チモロール配合点眼液における,washout後の朝点眼と夜点眼の比較を行い,夜点眼は朝点眼に比し有意な眼圧下降がみられたと報告している3).一方,Denisらは,朝点眼と夜点眼のいずれにおいても点眼前の眼圧に比べ有意に低下し,朝・夜点眼での眼圧下降には差がなかったと述べている4).しかし,いずれの報告でもwashoutを行った後に配合点眼液を投与している.今回,筆者らはwashoutを行わずに,併用している2剤をトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に変更した.そのため,変更前に比し変更後の眼圧がどのように変化したかについて,朝点眼と夜点眼での比較を行うことが可能であった.また,配合点眼液切り替え前の抗緑内障点眼液の種類はb遮断点眼液についてはチモロールまたはカルテオロールであり,持続性点眼薬とそうでないものの双方が含まれた.プロスタグランジン系点眼液ではラタノプロスト,トラボプロストないしはタフルプロストであった.このように点眼液は多種であるため種類により結果に差が生じる可能性があり,b遮断点眼液,プロスタグランジン系点眼液ともに1種類に絞ることがより正確ではあるが,各種b遮断点眼液については眼圧下降効果に差がないことがすでに示されており5.7),プロスタグランジン系点眼液についても同様である8,9).そのため,これら種々の点眼液をトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に変更し眼圧を比較することは可能であると考えられた.また,プロスタグランジン系点眼液については,症例をラタノプロスト点眼例のみに絞ると症例数が少ないこともあり結果として朝点眼での切り替え後平均眼圧が切り替え前と比較して有意差がなくなるものの,傾向としては同様であった.(101)本研究の結果として,朝点眼では配合点眼液切り替え後1,2カ月後の平均眼圧が切り替え前より上昇していた.さらに,朝点眼と夜点眼で1,2カ月後の平均眼圧に差はなかった.これら2点より,朝・夜点眼による眼圧下降効果の差は少ないものの,朝点眼はやや劣る可能性が示唆された.これに関して,配合点眼液の朝点眼と夜点眼の眼圧差ついては,測定時間が午前中であることも影響していると考えられた.プロスタグランジン系点眼液では点眼後12.24時間が効果のピークとされており,夜点眼が昼間の眼圧コントロールに効果的とされている1,2).本研究では測定時間を午前中としたため,点眼後2.3時間程度の朝点眼よりも点眼後12.15時間程度である夜点眼がプロスタグランジンの最大効果時間に近く,より眼圧下降効果が大きく測定された可能性がある.しかし,Konstasらがトラボプロスト+チモロール配合点眼液において夜点眼は朝点眼に比し日内変動が少なくピーク時の眼圧はより低い値であったと報告している3)ことより,本研究においても特に夜点眼では日内変動は少ないことが推測され,また一般に眼圧のピーク時と考えられる午前中の眼圧が本研究では夜点眼においてやや低いという結果より,どちらかといえば夜点眼が眼圧下降により効果的であることが推察された.さらに,2剤の点眼液投与時より配合点眼液投与時において眼圧が高値であった点については,b遮断点眼液について変更前は1日2回点眼ないしは持続性b遮断点眼液の1日1回点眼であったのに対し,変更後の配合点眼液に含まれるチモロールは持続性ではなく,1日1回点眼では効果が弱いことが理由として考えられた.一方,Gemmaらは,ラタノプロストとチモロールを併用している309症例について,トラボプロスト+チモロールの配合点眼液に切り替え後に眼圧が有意に低下したと述べており10),本研究の結果と異なる.この論文では眼圧が有意に低下した理由として患者のコンプライアンスが改善したことなどを推察している.本研究の症例においては切り替え前からコンプライアンスやアドヒアランスが良好であったと考えられるため,Gemmaらの報告と異なる結果になったと推察された.血圧,脈拍数については配合剤への変更前後で差はなく,朝点眼,夜点眼においても差がなかった.これにより全身状態への影響について,配合点眼薬は2剤点眼と相違がみられない可能性が示唆された.使用感アンケートでは配合点眼液のほうが患者の負担が少なく,2剤より1剤の点眼液を希望する患者が多かった.さらに,配合点眼液の朝点眼と夜点眼とでは,夜点眼の希望が多かった.これらのアンケート結果より,アドヒアランスについては配合点眼液の夜点眼が良好であると推察された.以上,本研究の結果を総合すると,トラボプロスト+チモロール配合点眼液は眼圧下降効果やアドヒアランスの点かあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012977 ら,夜に点眼するほうがやや効果的と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KonstasAG,MaltezosAC,GandiSetal:Comparisonof24-hourintraocularpressurereductionwithtwodosingregimentsoflatanoprostandtimololmaleateinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol128:15-20,19992)KonstasAG,NakosE,TersisIetal:Acomparisonofonce-dailymorningvseveningdosingofconcomitantLatanoprost/Timolol.AmJOphthalmol133:753-757,20023)KonstasAG,TsironiS,VakalisANetal:Intraocularpressurecontrolover24hoursusingtravoprostandtimololfixedcombinationadministeredinthemorningoreveninginprimaryopen-angleandexfoliativeglaucoma.ActaOphthalmol87:71-76,20094)DenisP,AndrewR,WellsDetal:Acomparisonofmorningandeveninginstillationofacombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolution.EurJOphthalmol16:407-415,20065)KonstasAG,MantzirisSA,MaltezosAetal:Comparisonof24hourcontrolwithTimoptic0.5%andTimoptic-XE0.5%inexfoliationandprimaryopen-angleglaucoma.ActaOphthalmolScand77:541-543,19996)ShibuyaT,KashiwagiK,TsukaharaS:Comparisonofefficacyandtolerabilitybetweentwogel-formingtimololmaleateophthalmicsolutionsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmologica217:31-38,20037)ScovilleB,MuellerB,WhiteBGetal:Adouble-maskedcomparisonofcarteololandtimololinocularhypertension.AmJOphthalmol105:150-154,19888)RichardKP,PaulP,Wang-PuiSetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure.AmJOphthalmol135:688-703,20039)HannuU,LutsEP,AuliR:Efficacyandsafetyoftafluprost0.0015%versuslatanoprost0.005%eyedropsinopen-angleglaucomaandocularhypertension:24-monthresultsofarandomized,double-maskedphaseIIIstudy.ActaOphthalmol88:12-19,201010)GemmaR,GianP,MaurizioBetal:Switchingfromconcomitantlatanoprost0.005%andtimolol0.5%toafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:a6-month,multicenter,cohortstudy.ExpertOpinPharmacother10:1705-1711,2009***978あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(102)