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境界型糖尿病や早期糖尿病における眼底病変のリスクファクターに関する検討

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):274.279,2017c境界型糖尿病や早期糖尿病における眼底病変のリスクファクターに関する検討佐野浩斎*1,2*1東京慈恵会医科大学内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科*2町立津南病院内科RiskFactorsAssociatedwithOcularLesionsattheStageofImpairedGlucoseToleranceandEarlyDiabetesHironariSano1,2)1)DivisionofDiabetes,MetabolismandEndocrinology,DepartmentofInternalMedicine,JikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofInternalMedicine,TsunanHospital目的:境界型糖尿病や早期糖尿病の段階での眼底病変を眼底検査により確認し,眼底病変の出現に関連するリスクファクターを検討する.対象および方法:糖尿病治療を受けていないHbA1C値(NGSP値)5.6.6.8%の1,075名を対象に単変量解析や多変量解析を行った.結果:黄斑上膜,高血圧性眼底,眼底出血,網膜萎縮を多く認めた.眼底病変は65歳以上の15.3%に認められ,40.64歳の7.7%に比べて有意に多かった.眼底病変の出現に影響したリスクファクターは,単変量解析では,40.64歳で収縮期血圧が,65歳以上でBMIが有意に関連し,多変量解析では,40.64歳で収縮期血圧が,65歳以上で収縮期血圧とBMIが有意に関連していた.結論:眼底病変は加齢とともに有病率が増し,その増加には,40.64歳では収縮期血圧,65歳以上では収縮期血圧とBMIが関連している可能性が示唆された.Purpose:Ocularlesionswereassessedusingfunduscopyatthestageofimpairedglucosetoleranceandearlydiabeteswithouthyperglycemia,andriskfactorsassociatedwithocularlesionswereexplored.SubjectsandMeth-ods:Univariateandmultivariateanalyseswereconductedfor1,075subjectswithHbA1C(NGSP)5.6-6.8%butnohistoryofdiabetestreatment.Results:Macularmembrane,hypertensivefunduschanges,ocularhemorrhageandretinalatrophywereoftennoted.Ocularlesionswereseenin15.3%ofsubjectsoverage65,signi.cantlyhigherthanthe7.7%insubjectsaged40-64.Ocularlesionsinthoseaged40-64weresigni.cantlyassociatedwithsystol-icbloodpressure(BP)inunivariateandmultivariateanalysis.Ocularlesionsinthoseover65weresigni.cantlyassociatedwithBMIinunivariateanalysis,andBMIandsystolicBPinmultivariateanalysis.Conclusion:Theprevalenceofocularlesionsincreasedwithage;systolicBPinthoseaged40-64,andbothsystolicBPandBMIinthoseover65wereidenti.edasfactorsassociatedwithanelevatedprevalenceofocularlesions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):274.279,2017〕Keywords:境界型糖尿病,早期糖尿病,眼底病変,リスクファクター.impairedglucosetolerance,earlydiabe-tes,ocularlesions,riskfactors.はじめに2型糖尿病患者の網膜症の発症進展に影響を及ぼすリスクファクターの検討は,日本でも1,2),海外からも3,4)報告されている.しかしながら,いまだ糖尿病に至っていない境界型糖尿病や早期糖尿病の段階における眼底に関する病変や,それらの出現に影響を及ぼすリスクファクターの検討は,海外からの報告がある5)ものの,日本での報告は少ない.境界型糖尿病や早期糖尿病の段階において,眼底病変の出現に影響を及ぼすリスクファクターを同定し,それらのリスクファクターを減らすように管理,治療をすることにより,高血糖の影響が少ない時期から眼底病変の出現を抑制できる可能性が増すと考えられる.今回,筆者らは,糖尿病治療を受けていないHbA1C値(NationalGlycohemoglobinStandardizationProgram:NGSP値)5.6.6.8%の群を対象に,眼底検査を〔別刷請求先〕佐野浩斎:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科Reprintrequests:HironariSano,M.D.,Ph.D.,DivisionofDiabetes,MetabolismandEndocrinology,DepartmentofInternalMedicine,JikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishishinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPAN274(132)実施し,眼底病変の出現に影響を及ぼすリスクファクターを検討した.40歳から65歳未満の群と65歳以上の群に年齢別にも層化して比較検討した.I対象および方法2008年4月.2014年3月に,新潟県津南町のただ一つの病院である町立津南病院の人間ドックや外来を受診した津南町在住の40歳以上の住民のうち,眼底検査を施行され,HbA1C値により糖代謝状態を確認できた40歳以上の1,752名のうち,糖尿病治療を受けておらず,HbA1C値(NGSP値)が5.6.6.8%を示した,1,075名,年齢67.5±11.3歳(平均±標準偏差),男性530名,女性545名を対象とした.年齢別では,40歳以上65歳未満は431名(年齢56.3±5.8歳,男性252名,女性179名),65歳以上は644名(年齢74.9±7.1歳)男性278名/女性366名)であった.町立津南病院では,無散瞳眼底検査を施行し,得られた眼底写真を15年以上の臨床経験がある3名の眼科医が読影し,網膜,黄斑部,網膜血管などについて異常の有無を判定し,眼底病変を外来診療録や人間ドックに関する検査所見記録に記載した.対象者の眼底病変と,リスクファクターの候補として,性別,年齢とともに,bodymassindex(BMI)値,収縮期血圧値,拡張期血圧値,LDL-コレステロール値,中性脂肪値,HDL-コレステロール値を,診療録や検査所見記録から抽出し,眼底病変に対するリスクファクターについてレトロスペクティブに検討した.対象者を,眼底病変を認める群と認めない群に分けて,各因子を比較検討した.比較検討には,c2検定とFisherの直接確率検定もしくはt-検定を用いた.また,各因子の眼底病変の出現に及ぼす影響を検討するため,眼底病変を目的変数,各因子を説明変数として,重回帰分析およびロジスティック回帰分析を用いて解析した.年齢に関しては,40.65歳未満の群と65歳以上の群のそれぞれで検討した.目的変数は眼底病変を認める群と認めない群の2群に層化して投入した.説明変数は,性別,BMI値,収縮期血圧値,拡張期血圧値,LDL-コレステロール値,中性脂肪値,HDL-コレステロール値とした.性別はダミー変数を用い,男性を1,女性を2として投入した.連続変数に関しては,重回帰分析では,各因子の実数値を投入し,ロジスティック回帰分析では,各因子の実数値を投入し,さらに,各因子を2群に層化して投入した.BMI値を22以上と22未満に,収縮期血圧値を130mmHg以上と130mmHg未満に,拡張期血圧値を85mmHg以上と85mmHg未満に,LDL-コレステロール値を140mg/dl以上と140mg/dl未満に,中性脂肪値を150mg/dl以上と150mg/dl未満に,HDL-コレステロール値を40mg/dl以上と40mg/dl未満に,それぞれ分けた.データは平均±標準偏差で示した.HbA1C値はNGSP値を用いた.統計解析にはstatisticalanalysissystem(SAS)を用いた.本研究は東京慈恵会医科大学の倫理委員会の承認を得て行われた.II結果1.年齢別の眼底病変数40歳以上65歳未満431名のうち眼底検査を施行された428名では,眼底病変は33症例(7.7%)に認められた.65歳以上644名のうち眼底検査を施行された622名では,眼底病変は95症例(15.3%)に認められた.65歳以上での眼底病変は15.3%に認められ,40歳以上65歳未満での眼底病変が7.7%に認められたことに比べると有意に(p<0.01)多かった.2.年齢別の眼底病変40歳以上65歳未満の眼底病変では,高血圧性眼底もしくは高血圧性網膜症9例,黄斑変性8例が多く認められた(表1).65歳以上の眼底病変では,黄斑上膜17例,高血圧性眼底13例,眼底出血13例,網膜萎縮13例が多く認められた(表1).3.眼底病変を認めた症例と眼底病変を認めない症例での各因子の比較検討眼底病変を認めた症例と眼底病変を認めない症例での各因子の比較を40歳以上65歳未満と65歳以上との年齢別に検討した.眼底病変の出現に影響を及ぼした各因子に関する年齢別の検討では,40歳以上65歳未満では収縮期血圧値が眼底病変ありの群のほうがなしの群に比べて有意に(p<0.01)高く(表2),65歳以上ではBMI値が眼底病変ありの群のほうがなしの群に比べて有意に(p<0.05)高かった(表3).4.眼底病変の出現に影響を及ぼす因子の重回帰分析による検討重回帰分析では,40歳以上65歳未満の眼底病変に収縮期血圧値が有意に(p<0.05)関連した(表4).一方,65歳以上の眼底病変にBMI値が有意に(p<0.05)関連し,収縮期血圧値は関連する傾向を示した(表5)(収縮期血圧値:p=0.06).5.眼底病変の出現に影響を及ぼす因子のロジスティック回帰分析による検討ロジスティック回帰分析では,40歳以上65歳未満の眼底病変に収縮期血圧値が有意に(p<0.05)関連した(表6).一方,65歳以上の眼底病変にBMI値が有意に(p<0.01)関連した(表7).各因子を2群に層化して投入したロジスティック回帰分析では,40歳以上65歳未満の眼底病変に有意に関連する因子は抽出されなかった(表8).一方,65歳以上の眼底病変に収縮期血圧値が有意に(p<0.05)関連し,BMI値と拡張期血圧値は関連する傾向を示した(表9)(BMI値:p=0.08,拡張期血圧値:p=0.06).表1眼底病変と年齢別数40歳以上眼底病変全体65歳未満65歳以上黄斑上膜22517高血圧性眼底22913眼底出血16313黄斑変性1688網膜萎縮14113網膜静脈閉塞症1147網膜血管硬化症1037ドルーゼン404黄斑円孔303網膜毛細血管瘤303白斑303網膜.離202単純糖尿病網膜症101網膜動脈閉塞症101計1283395表2各因子における眼底病変の有無での比較(40歳以上65歳未満)因子あり眼底病変(例数)なしp値性別(男/女)22/11(33)228/167(395)NSBMI値23.7±3.2(32)23.5±3.2(390)NS収縮期血圧値(mmHg)131.4±19.8(33)121.4±18.2(394)p<0.01拡張期血圧値(mmHg)84.6±12.6(33)80.7±14.4(394)NSLDL-C値(mg/dl)120.9±38.8(30)130.6±35.1(390)NS中性脂肪値(mg/dl)144.8±110.2(30)120.8±80.8(388)NSHDL-C値(mg/dl)59.5±15.2(30)60.7±14.3(388)NS表3各因子における眼底病変の有無での比較(65歳以上)因子あり眼底病変(例数)なしp値性別(男/女)39/56(95)227/300(527)NSBMI値23.3±2.9(89)22.6±2.9(503)p<0.05収縮期血圧値(mmHg)134.4±19.1(95)131.4±19.3(526)NS拡張期血圧値(mmHg)77.0±10.6(95)77.8±13.2(526)NSLDL-C値(mg/dl)121.3±27.6(78)123.7±31.0(449)NS中性脂肪値(mg/dl)113.1±64.6(74)106.5±58.3(438)NSHDL-C値(mg/dl)56.1±14.4(73)58.4±13.9(436)NS表4眼底病変と各因子との関連(40歳以上65歳未満)重回帰分析結果因子Parameterestimate95%信頼区間p値性別(男/女).0.0332.0.0862.0.0198NSBMI値.0.0044.0.0128.0.0041NS収縮期血圧値(mmHg)0.00160.0001.0.0029p<0.05拡張期血圧値(mmHg)0.0011.0.0007.0.0029NSLDL-C値(mg/dl).0.0004.0.0011.0.0003NS中性脂肪値(mg/dl)0.0002.0.0001.0.0005NSHDL-C値(mg/dl)0.0003.0.0016.0.0023NS表5眼底病変と各因子との関連(65歳以上)重回帰分析結果因子Parameterestimate95%信頼区間p値性別(男/女)0.0323.0.0462.0.1109NSBMI値0.01550.0013.0.0297p<0.05収縮期血圧値(mmHg)0.0021.0.0001.0.00290.06拡張期血圧値(mmHg).0.0015.0.0007.0.0042NSLDL-C値(mg/dl).0.0008.0.0021.0.0004NS中性脂肪値(mg/dl).0.0002.0.0009.0.0005NSHDL-C値(mg/dl).0.0008.0.0038.0.0023NS表6眼底病変と各因子との関連(40歳以上65歳未満)ロジスティック回帰分析結果因子Parameterestimate95%信頼区間p値性別(男/女)0.6264.0.2973.1.5501NSBMI値0.0694.0.0695.0.2083NS収縮期血圧値(mmHg).0.0240.0.0463..0.0017p<0.05拡張期血圧値(mmHg).0.0160.0.0455.0.0135NSLDL-C値(mg/dl)0.0063.0.0058.0.0184NS中性脂肪値(mg/dl).0.0026.0.0065.0.0013NSHDL-C値(mg/dl).0.0042.0.0331.0.0248NS表7眼底病変と各因子との関連(65歳以上)ロジスティック回帰分析結果因子Parameterestimate95%信頼区間p値性別(男/女).0.1094.0.6382.0.4193NSBMI値.0.1359.0.2296.0.0422p<0.01収縮期血圧値(mmHg).0.0110.0.0262.0.0042NS拡張期血圧値(mmHg)0.0129.0.0109.0.0367NSLDL-C値(mg/dl)0.0029.0.0057.0.0115NS中性脂肪値(mg/dl)0.0009.0.0037.0.0056NSHDL-C値(mg/dl)0.0078.0.0135.0.0291NS表8眼底病変と各因子との関連(40歳以上65歳未満)ロジスティック回帰分析結果因子Parameterestimate95%信頼区間p値性別(男/女)0.630.76.4.68NSBMI値(22以上/未満)0.280.56.3.13NS収縮期血圧値(130mmHg以上/未満).0.350.29.1.74NS拡張期血圧値(85mmHg以上/未満).0.750.19.1.18NSLDL-C値(140mg/dl以上/未満)0.760.83.5.51NS中性脂肪値(150mg/dl以上/未満).0.130.35.2.24NSHDL-C値(40mg/dl以上/未満)0.130.22.5.86NS表9眼底病変と各因子との関連(65歳以上)ロジスティック回帰分析結果因子Parameterestimate95%信頼区間p値性別(男/女).0.120.52.1.50NSBMI値(22以上/未満).0.510.34.1.070.08収縮期血圧値(130mmHg以上/未満).0.580.32.0.98p<0.05拡張期血圧値(85mmHg以上/未満)0.640.98.3.630.06LDL-C値(140mg/dl以上/未満)0.110.61.2.03NS中性脂肪値(150mg/dl以上/未満)0.170.57.2.45NSHDL-C値(40mg/dl以上/未満)0.470.62.4.14NSIII考按症例の抽出に関しては,現在糖尿病でなくとも将来糖尿病の発症リスクが高いと考えられるHbA1C値(NGSP値)5.6.5.9%の群,糖尿病の疑いが否定できないHbA1C値(NGSP値)6.0.6.4%の群が含まれるよう考慮し,糖尿病治療を受けていないHbA1C値(NGSP値)5.6.6.8%を対象とした.経口ブドウ糖負荷試験を施行していないが,臨床的に,この群には境界型糖尿病患者や早期の糖尿病患者が多く含まれると考えられる.今回の調査対象となった境界型糖尿病や早期糖尿病の段階を多く含んでいると想定される群の年齢別の検討では,40歳以上65歳未満の群では眼底出血を認める症例以外,単純糖尿病網膜症まで至っている症例を認めなかった.65歳以上の群では単純糖尿病網膜症まで至っている症例を認めたうえに,毛細血管瘤,眼底出血,白斑など糖尿病網膜症の初期の可能性が高い眼底病変も認めたが,増殖糖尿病網膜症まで進展している症例は認めなかった.オランダで50.74歳の626名を対象に糖尿病網膜症の有病率を検討したHoorn研究では,177名の境界型糖尿病の群ばかりではなく,256名の正常糖代謝群にも糖尿病網膜症が認められた5)という.この年齢別の病変数の検討から,眼底病変には加齢が関与していると考えられる.加齢と眼底の関連として,高齢になると硝子体後部と網膜の密接度が緩くなり6),網膜より硝子体に向けての新生血管が増殖しにくくなるという解剖学的な要因が指摘されている.糖尿病増殖網膜症への進行に中心的な役割を演じている7)vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)などの血管新生促進因子の作用の加齢的変化なども想定される.本調査研究では,年齢別の単変量解析や多変量解析の検討において,収縮期高血圧やBMI高値が眼底病変の出現に影響を与えている因子として抽出された.国内外の2型糖尿病患者を対象にした大規模調査研究においても,収縮期血圧やBMIが網膜症の発症や進展に関する因子として抽出されている.イギリスで行われた2型糖尿病患者を追跡したUnit-edKingdomprospectivediabetesstudy(UKPDS)では,網膜症の発症リスクに関して,高血糖と独立して,収縮期高血圧が関連を示した3)ばかりではなく,網膜症の進展に関しても血圧値の管理が重要である4)ことが示された.日本人の2型糖尿病患者を対象としたJapandiabetescomplicationstudy(JDCS)では,糖尿病網膜症の発症に影響する因子として,HbA1C高値,長期罹病期間とともに,収縮期高血圧,BMI高値などが抽出された1).日本人の高齢者糖尿病患者を対象にしたTheJapaneseElderlyInterventionTrial(J-EDIT)では,ベースライン時に網膜症がすでにある群における6年間の追跡調査で,収縮期高血圧が網膜症のステージの進行のリスクファクターであった2)という.オランダで行われたHoorn研究では,本調査研究と同様に,境界型糖尿病群における糖尿病網膜症の有病率が検討され,50.74歳の境界型糖尿病177名における糖尿病網膜症の有病率の上昇は,高血圧,コレステロール高値,中性脂肪高値,BMI高値と関連している可能性が報告された5).本調査結果では,日本人においても,収縮期高血圧やBMI高値が境界型糖尿病の段階から眼底病変の出現に影響を及ぼしている可能性が示唆された.ヒトの網膜血流では解剖生理学的に固有の循環環境が形成されている8)が,網膜血流と全身の血圧の関係においては,網膜血流は,その自動調節能により,全身の血圧の変化の影響を受けにくい9)と考えられている.ラットでは,糖尿病状態と高血圧の環境の組み合わせが網膜の細胞の増殖を著明に減少させることが示されて10)おり,糖尿病が発症し高血糖に陥ると血液網膜関門の破綻などで,その機能が失われ,網膜血管は全身血圧の変化を直接受けるようになることが想定されている.本調査研究の結果から,ヒトの網膜血管においても,境界型糖尿病の段階から,全身血圧の変化を直接受けやすくなっている可能性が示唆された.眼底病変とBMIとの関連に関しては,インスリン抵抗性やnitricoxide(NO)の関与が報告されている.BMI高値とインスリン抵抗性増加は密接に関係している11)という.進行した腎不全を合併していない2型糖尿病患者において,インスリン抵抗性をグルコースクランプ法で定量して検討したところ,多変量解析でインスリン抵抗性が増殖網膜症の独立したマーカーであることが報告され12),2型糖尿病患者における眼底病変とBMI高値やインスリン抵抗性増加との関連が示唆されている.NOは血管内皮細胞から生じ,眼の血行動態を生理的に調整している13).BMIが高値となり,インスリン抵抗性が増加するとNOは有意に低下する14)ことから,NOの低下が眼底に影響を与えている可能性が指摘されている.インスリン抵抗性の増加に伴う凝固線溶系の異常が網膜毛細血管の閉塞や虚血に誘導された毛細血管の形成を促進する15)ことから,凝固線溶系の異常が眼底に影響を与えている可能性も示唆されている.本研究では,境界型糖尿病や早期糖尿病における眼底病変の出現に影響する因子として,加齢,収縮期高血圧,BMI高値が抽出された.境界型糖尿病の段階から眼底病変の発症には,リスクファクターとして,加齢,収縮期高血圧,BMI高値が影響を及ぼしている可能性が示唆された.本研究にあたり,ご協力頂いた町立津南病院眼科の先生方に深謝致します.謝辞ご指導いただきました東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授宇都宮一典先生に心より感謝申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KawasakiR,TanakaS,TanakaSetal:IncidenceandprogressionofdiabeticretinopathyinJapaneseadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabete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