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Preperimetric Glaucomaに対するマイクロペリメーター MP-1 の有用性の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1179.1182,2015cPreperimetricGlaucomaに対するマイクロペリメーターMP-1の有用性の検討福岡秀記*1日野智之*1森和彦*2木下茂*2*1国立長寿医療研究センター先端診療部眼科*2京都府立医科大学眼科UsefulnessoftheMP-1MicroperimeterforPreperimetricGlaucomaHidekiFukuoka1),TomoyukiHino1),KazuhikoMori2)andShigeruKinoshita2)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:Preperimetricglaucoma(PPG)症例に対するマイクロペリメーター(MP-1:NIDEK)の有用性を検討した.対象および方法:網膜神経節細胞複合体(GCC)厚の菲薄化が観察され,Humphrey視野計(HFA)の30-2プログラムで視野異常が不検出であったPPG症例8例8眼(男性3例,女性5例,67±7.7歳).MP-1を用いて同一眼上下および他眼対応部位との網膜感度を比較し,GCC厚と網膜感度の相関についても検討した.結果:1例は固視不良のため解析不能であった.GCC厚菲薄化部位の網膜感度は他眼,同一眼の比較のいずれにおいても6例(86%)で低値を示し,そのうち2例(29%)に有意差があった.他眼との比較の1例(14%),上下との比較の3例(43%)でGCC厚と網膜感度の有意な相関が得られた.結論:一部のPPG症例においてHFAで検出不可能であった視野異常をMP-1で検出可能であった.Purpose:ToexaminetheusefulnessoftheMP-1microperimeter(NIDEK,Co.,Ltd,Gamagori,Japan)forpreperimetricglaucoma(PPG).Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved8patients(3menand5women,meanage:67±7.7years)withPPG.UsingtheMP-1,wecomparedtheretinalsensitivityofthedamagedareawiththatoftheup-and-downoppositesideorthatofthecorrespondingsiteinthehealthyeye.Inaddition,weinvestigatedthecorrelationoftheganglioncellcomplex(GCC)thicknessandretinalsensitivity.Results:Ofthe8patients,1patientwasnotabletobeanalyzedduetopoorfixation.In2patients(29%),asignificantdifferencewasfoundbetweenthedamagedareaandtheup-and-downoppositesideorthecorrespondingsiteinthehealthyeye.StatisticallysignificantcorrelationwasfoundbetweenGCCthicknessandretinasensitivity,respectively,in3cases(43%)comparedwiththatoftheup-and-downoppositeside,andin1case(14%)comparedwiththecorrespondingsiteinthehealthyeye.Conclusion:ThefindingsofthisstudyshowthattheMP-1isabletodetectthefunctionaldamageinsomecasesofPPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1179.1182,2015〕Keywords:極初期緑内障,マイクロペリメーター,神経節細胞複合体,網膜感度.preperimetricglaucoma,microperimeter,ganglioncellcomplex,retinalsensitivity.はじめに近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,めざましい発達を遂げ,正確性・再現性が向上した.それにより網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚の測定が可能になりGCCの菲薄化は認められるが通常の自動静的視野検査では視野欠損が検出できない状態がありpreperimetricglaucoma(PPG)と称し典型的な緑内障とは区別される.緑内障診療ガイドライン(第3版)1)では,「PPGは緑内障の前駆状態もしくは緑内障に類似した所見を示している正常眼もしくは他の疾患の一部が含まれると考えられ,原則的には無治療で慎重に経過観察する.しかしながら,高眼圧や,〔別刷請求先〕福岡秀記:〒474-8511愛知県大府市森岡町7丁目431国立長寿医療研究センター先端診療部眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,7-430,Morioka,Obu474-8511,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(113)1179 強度近視,緑内障家族歴など緑内障発症の危険因子を有している場合や,初期の段階で緑内障性異常が検出できる可能性があるとされるその他の視野検査や眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には,必要最小限の治療を開始することを考慮する.」とされ医師の判断により治療方針や治療開始時期が異なることが予想される.そこで筆者らは,より精密に眼底所見と対応する視野異常が確認できる眼底視野計を使用し,初期視野異常の検出の可能性について検討した.I対象および方法対象は2012年9月.2013年3月に,国立長寿医療研究センター(以下,当院)眼科通院中で光干渉断層計(RS3000:NIDEK)にてGCC厚の菲薄化が観察され,Hum-phrey視野計(HFA)の30-2プログラムで視野異常が検出されなかったPPG症例8例8眼(男性3例,女性5例,67±7.7歳)である.また,これらの症例は,GCCの正常な測定を阻む黄斑上膜や糖尿病網膜症などの網膜疾患のないことを確認したうえで,マイクロペリメーター(MP-1:NIDEK)のThresh.Strategy;4-2-1,Stimulus;GoldmannI,Fixation;singlecross1°,Background;whiteという測定条件を用いてGCC厚菲薄化部位の網膜感度を複数回測定した.同一眼の上下対応部位および他眼対応部位の網膜感度との比較(図1)を行うとともに,GCC厚をマニュアル操作(図2)により測定し,網膜感度との相関についても検討した.網膜感度の測定点とGCC厚の測定点は血管走行,黄斑や視神経の位置を参考にしながら可能な限り一致させた.なお統計的検討には対応のあるt検定とPearsonの積率相関分析を用い,有意水準を5%とした.上下対応部位他眼対応部位MP-1測定部位図1今回測定し比較した同一眼上下対応部位と他眼対応部位の図提示症例においては上下他眼を含め18点での解析であった.図2網膜神経節細胞(GCC)厚のマニュアル操作での測定左図交点でのGCC厚は87μmとわかる.1180あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(114) GCC菲薄部網膜感度の上下・他眼対応部位との比較#2018網膜感度(dB)1614121086420菲薄部上下他眼(#:p<0.01)GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較(左図:菲薄部上下,右図:菲薄部他眼)140140120120相関係数0.64p<0.05GCC厚(μm)相関係数0.42p=0.16GCC厚(μm)1008060401008060402002000510152005101520網膜感度(dB)網膜感度(dB)図3症例呈示上図:GCC菲薄部網膜感度の上下・他眼対応部位との比較,下図:GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較.菲薄部網膜感度の上下との比較で有意差を認め,上下網膜感度とGCC厚との間で有意に相関関係があった.上下対応部位との比較他眼対応部位との比較II結果1例(14%)2例1例(29%)4例(29%)(57%)(14%)2例4例(57%)1例は固視不良のため解析不能となり除外となった.GCC厚菲薄化部位の網膜感度は,他眼との比較,上下との比較のいずれにおいても6例(86%)で低値を示した(図3,症例を示す).また,そのうち2例(29%)に有意差を認めた(図4).GCC厚と網膜感度との関係では他眼との比較では1例(14%),上下との比較では3例(43%)において有意な正の菲薄化部位が対応部位と比較して相関(表1)が得られた.III考按OCTは,丹野直弘2)が1990年に考案した世界初の技術である.当時の機器と比較し測定時間の短縮,分解能や再現性の向上など機能が格段に向上している.最近の報告ではGCC厚を用いた解析で糖尿病(RVO)などの網膜虚血性疾患3),Gaucher病などの網膜変性疾患4)や前部視路疾患5)の診断も有用であるとされ,とくに緑内障領域においては,網膜最内層の3層もしくは4層測定による診断が乳頭周囲網膜神経線維層厚のそれに匹敵する5)ことや,急性緑内障後眼においてGCC厚の菲薄化がみられ僚眼との鑑別に有用6)などの報告もされている.このような機器の進歩により,GCC(115)■低値(有意差あり)■低値■高値図4GCC厚菲薄化部位の平均網膜感度の比較厚の菲薄化という器質的な異常を認めるが,視野欠損という機能的な異常の出現していないPPGをとらえることが可能になった7,8).このとき注意すべきことは,黄斑前膜や網膜浮腫などGCC厚解析を阻害する疾患の存在下ではGCC厚解析が不正確になる可能性があり,今回の症例ではそのような疾患は合併していなかったことを確認した.PPGは上記のごとくOCTの進化によって注目されてきた疾患概念であるが,1991年には同様の所見の報告9)がされている.緑内障の進行過程はWeinrebら10)が提唱するように検出が不可能な時期,無症候性の時期,機能障害の時期にあたらしい眼科Vol.32,No.8,20151181 表1GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較症例ABCDEFGGCC菲薄部(上下)相関係数0.65*0.64*0.120.39*0.530.04.0.44GCC菲薄部(他眼)相関係数0.65*0.420.20.24.0.140.17.0.35*p<0.05分けられる.つまり視野障害出現時にはすでに緑内障性の構れ,今回の結果に影響を及ぼしたと考えられた.造変化が進行した時期であり,自動視野計に.5..10db今後さらなる機器の進化,医療の発展が期待され,PPGの感度低下を示す際,すでにGCCの20.40%が障害されて症例の視野障害をより早期に発見することが可能になるかもいることが明らかとされており11),早期発見が必要である.しれない.今回の一部PPG症例に対しMP-1が臨床的に有そこでshortwavelengthautomatedperimetry(SWAP),用であったことが,さらなる緑内障研究の発展に寄与するこfrequencydoublingtechnology(FDT)などで早期に視野異とを期待したい.常の検出を試み,構造には変化がなくとも視野に異常が出た場合には治療を考慮する必要がある.通常,Humphrey視野計の30-2プログラムで異常が認められない症例では,同利益相反:利益相反公表基準に該当なし装置で可能な10-2プログラムを次に施行することが多いと思われるが,今回の検討では行わなかった.その理由とし文献て,今回の症例には網膜アーケード血管の近傍内側のGCC1)緑内障診療ガイドライン(第3版):http://www.nichigan.厚菲薄化を認める症例が複数例存在し,10-2プログラムでor.jp/member/guideline/glaucoma3.jspは検出が不可能と判断したためである.2)丹野直弘:「光波反射像測定装置」日本特許第2010042号:1990今回8症例中1症例では固視が不良のため解析不能であっ3)AraszkiewiczA,Zozuli.ska-Zio.kiewiczD,MellerMetた.今回対象の平均年齢が60歳代後半と通常の緑内障発見al:Neurodegenerationoftheretinaintype1diabetic年齢よりも高く,高齢者医療に特化した当院特有のバイアスpatients.PolArchMedWewn122:464-470,2012がかかっている可能性が原因かもしれない.またMP-1自4)McNeillA,RobertiG,LascaratosGetal:RetinalthinninginGaucherdiseasepatientsandcarriers:resultsofa体はさまざまな設定条件で測定することができるが,今回のpilotstudy.MolGenetMetab109:221-223,2013検討対象がPPGであったため,厳格な条件を設定したこと5)AggarwalD,TanO,HuangDetal:Patternsofganglionも固視不良で除外された可能性があると考えられた.cellcomplexandnervefiberlayerlossinnonarteriticGCC厚菲薄化部位の網膜感度は,他眼との比較,上下とischemicopticneuropathybyFourier-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:の比較のいずれにおいても7例中6例で低値であることが示4539-4545,2012されたが,有意差があった症例は少なかった.原因として,6)福岡秀記,山中行人:急性原発閉塞隅角緑内障後眼の網膜神PPGはGCC厚菲薄化領域が狭い症例が多く,結果的に菲薄経節複合体厚と僚眼との比較.眼科手術28:280-284,2015化領域の感度が測定できた点数が少なかったことが影響して7)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Profileandpredictorsofnormalganglioncell-innerplexiformlayerいると推測した.MP-1には眼底写真から測定部位を決定でthicknessmeasuredwithfrequency-domainopticalcoherきるマニュアル測定モードがあるが,実際には計画した場所encetomography.InvestOphthalmolVisSci52:7872に照射することはむずかしかった.7879,2011GCC厚と網膜感度の相関では,同一眼上下および他眼対8)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Glaucomadiagnosticaccuracyofganglioncell-innerplexiformlayer応部位との網膜感度を比較し,一部の症例で有意差を認めthickness:comparisonwithnervefiberlayerandopticた.つまりGCC厚が薄いほど網膜感度が低値を示す傾向をnervehead.Ophthalmology119:1151-1158,2012認めた.他眼対応部位よりも同一眼上下との比較のほうが有9)SommerA,KatzJ,QuigleyHAetal:Clinicallydetect意差のある症例が多かったが,両者とも50%に満たなかっablenervefiberatrophyprecedestheonsetofglaucomatousfieldloss.ArchOphthalmol109:77-83,1991た.これには測定点が少なかったことが影響したと考えられ10)WeinrebRN,FriedmanDS,FechtnerRDetal:Riskる.また,日常臨床においてはじめに測定した眼の視野検査assessmentinthemanagementofpatientswithocularは集中力が保たれているのに対し,後に測定した他眼の視野hypertension.AmJOphthalmol138:458-467,2004検査では疲労などにより集中力が保たれない症例に遭遇する11)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR.:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinことがある.同様に左右眼の比較では集中力が異なるのに対humaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453し,同一眼との比較では検査に対する集中力が同じと考えら464,19891182あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(116)