《原著》あたらしい眼科43(8):1030.1035,2026c白内障術後に前房深度が短期間に変動した1例原田拓二*1沼賀二郎*1,2*1秋葉原白内障クリニック*2東海大学医学部眼科CACaseofShort-TermFluctuationinAnteriorChamberDepthafterCataractSurgeryTakujiHarada1)andJiroNumaga1,2)1)AkihabaraCataractClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TokaiUniversitySchoolofMedicineC浅前房の患者(68歳,女性)に対し,急性緑内障発作予防のためカプセルテンションリング(CTR)を用いた水晶体再建術を行ったにもかかわらず術翌日から浅前房をきたした症例を報告する.手術直後,右眼に浅前房と眼内レンズ(IOL)の前方偏位を認めたが眼圧上昇はなく,毛様体ブロック(悪性緑内障)を考慮し,房水産生抑制薬による非外科的治療を開始した.術後約C2週間で浅前房とCIOL前方偏位は改善し,近視の軽減も認められた.これは,aqueousmisdirection(房水動態異常)に対し,房水産生抑制がCIOLへの後方圧力を緩和した結果と推察された.CWeCreportCtheCcaseCofCaC68-year-oldCfemaleCwithCaCpreoperativeCshallowCanteriorchamber(AC)depthCinCwhomCtheCACCdepthConce-againCbecameCshallowC1CdayCafterCundergoingCphacoemulsificationCwithCaCcapsularCten-sionring(CTR)topreventacuteglaucoma.Immediatelyafterundergoingtheprocedure,herrighteyeexhibitedashallowCACCdepthCandCanteriorCdisplacementCofCtheCintraocularlens(IOL)withoutCanyCelevationCinCintraocularCpressure.CConsideringCtheCpossibilityCofCaqueousmisdirection(i.e.,CmalignantCglaucoma),CaCnon-surgicalCtreatmentCwasCinitiatedCusingCaqueousCsuppressants.CAtCapproximatelyC2-weeksCpostoperative,CtheCshallowCACCandCIOLCdis-placementinherrighteyeresolved,accompaniedbyareductioninmyopia,thusinferringthatthesuppressionofaqueoushumorproductionalleviatedtheposteriorpressureontheIOL,effectivelyaddressingtheaqueousmisdi-rection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(8):1030.1035,C2026〕Keywords:浅前房,水晶体再建術,毛様体ブロック,房水異常流入,超音波生体顕微鏡.shallowCanteriorCcham-ber,lensreconstruction,ciliaryblock,aqueousmisdirection,ultrasoundbiomicroscopy(UBM).Cはじめに白内障手術後の合併症としての浅前房の発症機序には,①創口閉鎖不全,②脈絡膜.離,③瞳孔ブロック,④毛様体ブロック(悪性緑内障)などがある.筆者らは術前に浅前房を認め,急性緑内障発作予防のため水晶体再建術を行ったが,術直後,眼圧上昇を伴わずに継続的な浅前房をきたし,その後,前房深度が深くなった症例を経験したので,その臨床経過を報告する.CI症例患者:68歳,女性.初診:2024年5月27日.近医にて両眼の白内障を指摘され,手術目的で秋葉原白内障クリニック(以下,当院)を紹介受診した.白内障以外についての記載はなかった.既往歴および家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2×sph+3.00DCcyl.0.50DAx100°),左眼C0.05p(0.6×sph+1.00D),眼圧は右眼C17mmHg,左眼C17mmHg.両眼とも浅前房で,vanHerick法でGrade2であった(図1).眼軸長は右眼21.84Cmm,左眼C21.93Cmmで,やや短眼軸であった.Penta-cam前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による前房深度は右眼C1.84Cmm,左眼C2.16Cmmであった(図2).水晶体の膨隆は認めず,核硬度はCEmery-Little分類で右眼C2°,左眼C3°,左眼は後.下白内障を伴っていた(図3).〔別刷請求先〕原田拓二:〒C110-0016東京都台東区台東C1-3-5反町商事ビルディングC4F秋葉原白内障クリニックReprintrequests:TakujiHarada,M.D.,AkihabaraCataractClinic,SorimachiShojiBuilding4F,1-3-5Taito,Taito-ku,Tokyo110-0016,JAPAN図1初診時の無散瞳前眼部所見a:右眼.b:左眼.図2Pentacamによる前眼部OCT所見a:右眼.b:左眼.眼底は右眼は正常,左眼は白内障のため透見不良であった右眼からの水晶体再建術を予定した.が,特記すべき所見は認めなかった.トロピカミド+塩酸手術:2024年C7月C12日に右眼の白内障手術を施行した.フェニレフリン散瞳後の眼圧は右眼17mmHg,左眼執刀開始90分前から高張浸透圧薬(グリセオール)500ml16CmmHg,散瞳径は右眼C7.3Cmm,左眼C7.7mmであった.を点滴静注しながら右眼の散瞳・調節麻痺薬を開始.右眼圧眼打撲歴はなく,瞳孔縁に落屑様物質の付着は認めなかっは散瞳前C14CmmHg,散瞳後C17CmmHgであった.耳側角膜た.前房深度の左右差から,急性緑内障発作のリスクを考えにC2Cmmの角膜切開創を作製し,カプセル鑷子にて連続円形図3初診時の散瞳下前眼部所見a:右眼.b:左眼.図4右眼の術翌日前眼部所見切.(continuousCcurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を作製した.CCC作製時に前.に皺襞が観察されたが,プレチョップ法で水晶体を分割して超音波乳化吸引術を行い,問題なく水晶体吸引は終了した.水晶体吸引後にカプセルテンションリング(HOYACCTRC130CA0)を.内に挿入した.その後,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入し,角膜切開創をC10-0ナイロン糸でC1針縫合を行い,合併症はなく手術は終了した.挿入したCIOLはCClareonCPanOptixCToricCCNWTT3+24.5DCYL1.50であった.術後点眼はモキシフロキサシン,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを各C1日C6回,ネパフェナクをC1日C3回右眼で処方した.術後経過:手術翌日,右眼の視力C0.2(1.0C×sph.3.75D),眼圧C19CmmHg,オートレフラクトメータによる屈折値(以下レフ値)値は球面C.2.75D,円柱C.0.25D,軸C15°であった.前房深度は中央と周辺部ともに浅前房を認め(図4),眼内レンズは.内に固定されていたが前方に偏位していた.創口からの房水漏出はなく,散瞳下での眼底所見で網膜.離や脈絡膜.離,脈絡膜出血は認めなかった.術後C2日目,右眼の視力C0.1(1.0C×sph.3.00D),眼圧19mmHg,レフ値球面C.3.00D,円柱C.0.75D,軸C90°.浅前房が継続していたが眼圧はC19CmmHgで上昇はなく,前日と同様に診察で房水漏出はなく瞳孔ブロックも認めなかった.毛様体ブロック(悪性緑内障)を疑ったが,明らかな高眼圧を認めず,また,当院には超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)がないために確定診断に至らなかったため,毛様体弛緩を目的としたアトロピン硫酸塩水和物点眼は処方せず,房水産生抑制目的でC2%カルテオロール塩酸塩点眼薬C1日C2回を開始した.術後C3日目,右眼の視力C0.15(1.2pC×sph.2.75D),眼圧C19CmmHg,レフ値球面C.3.00D,円柱C.0.75D,軸10°.vanHerick法でGrade2で前房深度を含めて所見に変化がなかったため,浅前房に対してアセタゾラミドC250mg内服C2錠分C2を追加した.術後C4日目,右眼の遠方視力C0.15(1.2C×sph.2.00D),近方視力C1.2(n.c.),眼圧C13CmmHg,レフ値球面C.3.25D,円柱.0.25D,軸C170°.前房深度C2.34mmであった.眼圧は下降し,前房深度は手術前より深くなったが,眼内レンズの前方偏位と浅前房の傾向に変化はなかった.その後,徐々に浅前房は改善し,術後C10日目,右眼の視力C0.7(1.2C×sphC.2.00D),眼圧C15mmHg,レフ値球面C.2.00D,円柱C.0.25D,軸C135°,前房深度C2.70mmであった.術後C17日目,右眼の視力C0.9(1.0C×sph.0.50DCcyl.0.50DAx140°),眼圧13mmHg,レフ値球面C.1.50D,円柱.0.50D,軸C140°,前房深度2.82mmであった.眼内レンズの前方偏位と近視の改善を認めた(図5).術後C1カ月,右眼の視力C1.2(矯正不能),眼圧C18CmmHg,(182)図5Pentacamによる右眼の前眼部OCT所見の術後変化a:術後C4日目.Cb:術後C10日目.Cc:術後C17日目.レフ値球面.0.50D,円柱C.0.50D,軸C145°であった.浅前房は改善し,vanHerick法でCGrade4であった(図6).術後C42日目,右眼の視力C1.0(1.2C×sph.0.25DCcyl.0.75DAx120°),眼圧12mmHg,レフ値球面C.0.50D,円柱.0.75D,軸C120°であった.右眼の遠方裸眼視力は1.0に改善した.眼圧の上昇がなかったため,アセタゾラミド250Cmgは中止とした.術後C2カ月,右眼の視力C1.0(1.2C×sph.0.50D),眼圧11mmHgと視力,眼圧は安定しており(図7),浅前房やIOL前方偏位も認めなかった.CII考按術前に浅前房を呈し,水晶体再建術後約C2週間持続したのち,術前よりも深くなった症例を報告した.本症例では術後の浅前房の原因として一般的にあげられる創口閉鎖不全,脈絡膜.離,瞳孔ブロックは術後の診察所見で認めなかった.右眼の眼軸長はC21.84mmの短眼軸であり,これは毛様体ブロックの重要なリスク因子であるため1),鑑別疾患としてあげ,経過観察を行った.緑内障診療ガイドライン(第C5版)において,広義の毛様体ブロック(悪性緑内障)は,硝子体の前方偏位に起因する閉塞隅角緑内障と推定されている2).本症例の術後浅前房のもっとも有力な原因は,術中のCCC時に観察された前.の皺襞から示唆されるCZinn小帯の脆弱性であると考える.房水が硝子体腔へ異常流入(aque-ousmisdirection)が生じ,硝子体圧が上昇することでCIOLが容易に前方へ押し出された病態が推察された3)(図8).当院にはCUBMを設置しておらず虹彩後面や毛様体形状の詳細を観察することができなかったため,毛様体ブロックの確定診断には至らなかった.図6術後1カ月目の右眼の前眼部写真浅前房の改善を認める.視力・眼圧の経時変化1.21.00.8(mmHg)20181614120.61080.4640.220.0眼圧視力術前術翌日術後2日目術後3日目術後4日目術後10日目術後17日目術後1カ月術後42日目術後2カ月裸眼矯正眼圧0.51.2170.21.0190.11.0190.151.2190.151.2130.71.2150.91.0131.21.2181.01.2121.01.2110裸眼矯正眼圧図7術前後の裸眼・矯正視力と眼圧の変化術直後の眼圧はC19CmmHgで上昇していなかったものの,合には,毛様体ブロック(悪性緑内障)の臨床診断に基づき,IOLの前方偏位から毛様体ブロックによる眼圧上昇の可能性アトロピン硫酸塩水和物点眼,Nd:YAGレーザーによる後を考慮し,Cβ遮断薬(2%カルテオロール塩酸塩点眼薬)およ.切開,前部硝子体膜切除,硝子体手術などの外科的介入をび炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド内服)を開始した.検討する必要があったと考えられる4).しかし,本症例では薬物療法で眼圧がコントロールできず,浅前房が悪化する場眼圧は比較的安定しており,侵襲的な治療は行わなかった.図8毛様体ブロック(悪性緑内障)の発生機序房水が硝子体側へ流入し,硝子体圧が上昇.水晶体やCIOL・毛様体・虹彩が前方へ圧排され,浅前房・閉塞隅角が生じ,眼圧が上昇する.(文献C3より引用)Pentacam前眼部COCTによる前房深度の経時的変化は,術後C4日目にC2.34mm,10日目にC2.70mm,17日目に2.82mmと改善が確認された.カルテオロールとアセタゾラミドによる房水産生抑制が硝子体圧を低下させ,IOLが本来の位置へ後退した結果と考えられる.UBMや前眼部COCTは,前房形態やCIOL位置を非接触かつ定量的に評価できるが,UBMは毛様体ブロックに特徴的な毛様体の前方回旋や腫脹の有無を直接観察できるため,診断にきわめて重要である.東らは,右眼の白内障手術直後に術眼だけでなく非術眼である左眼にも浅前房と高眼圧が生じた症例で,UBM所見により毛様体浮腫と虹彩,水晶体.の前方移動を認め,通常の悪性緑内障とは病態が異なっていたことを報告し,UBMの重要性を示唆している5).本症例の非術眼には浅前房や高眼圧は認めなかったが,UBMを設置しておらず,毛様体の詳細な所見は不明であった.堤野らの報告では,UBMが困難な症例でも前眼部COCTで白内障術後の悪性緑内障のフォローアップが可能であり,屈折度数の近視化が浅前房化や閉塞隅角と同様に悪性緑内障を疑う指標になるとされている6).今回,白内障手術直後に浅前房をきたしたが,顕著な眼圧上昇を認めず前眼部COCTによる経過観察が可能であった症例を経験した.UBMを用いていれば,Zinn小帯の断裂や伸展の程度や毛様体形状,IOLと水晶体.の位置関係(.内固定か,.ごとの偏位か)をより正確に評価できた可能性がある.真の悪性緑内障であれば,UBMによる迅速な診断が治療介入の遅れを防ぐうえで有用と思われる6).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)永本敏之:小眼球例の白内障手術.日本白内障学会誌C26:49-51,20142)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20223)医療情報科学研究所(編):病気がみえるCVol.12眼科,p199,株式会社メディックメディア,20214)横山悠,中澤徹:続発緑内障の分類と治療法の基本的な考え方.あたらしい眼科35:1009-1015,20185)東花枝,山田教弘,竹内正樹ほか:片眼の白内障手術後早期に両眼の著明な浅前房と高眼圧をきたしたC1例.臨眼C76:531-538,20226)堤野晃宏,永井遼司,吉田章子ほか:前眼部光干渉断層計で経過を追うことができた白内障術後に生じた悪性緑内障のC1例.臨眼77:626-632,2023***