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複数の点眼剤を使用中に発症した涙囊炎からの涙囊結石を分析した1例

2020年4月30日 木曜日

《第8回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科37(4):471.475,2020c複数の点眼剤を使用中に発症した涙.炎からの涙.結石を分析した1例久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科CACaseofaDacryoliththatDevelopedduetotheUseofMultipleEyeDropsMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospitalC目的:複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症した患者に涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)を施行し,摘出した涙.結石の成分分析と病理検査を行ったので報告する.症例:77歳,女性.30歳から関節リウマチがあり,10年前から近医にて低濃度ステロイド,ヒアルロン酸,レバミピド,オフロキサシンゲルの点眼で加療中に右涙.炎を発症,吹上眼科にてCDCRを施行した.手術時に涙.内より摘出した柔らかい白色結石について,病理検査と成分分析を行った.結果:赤外分光分析法(IR法)で,結石はレバミピドの成分・蛋白質と同様の吸収を認めた.顕微ラマン分析でレバミピド成分を確認し,液体クロマトグラフでレバミピド成分はC20.9%と判定した.原子吸光分析法でホウ酸は検出されず,病理検査で放線菌を認めた.考察:IR法などから,涙.内結石はレバミピド成分がC20.9%であると確認した.レバミピド点眼などの複数点眼を使用する際には,涙.結石に注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofadacryoliththatdevelopedduetotheuseofmultipleeyedrops.Casereport:CThisstudyinvolveda77-year-oldfemalewithdacryocystitisthatdevelopedafterundergoingtherapywithmulti-pleeyedrops,suchasrebamipideandlow-dosesteroids,ando.oxacingel-formingophthalmicsolutionfromthir-ty-yearsCold.CForCtreatment,CdacryocystorhinostomyCwasCperformedCunderClocalCanesthesia,CandCaCdacryolithCwasCobservedCandCremovedCfromCtheClacrimalCsac.CACsmallCportionCofCtheCdacryolithCwasCsentCoutCtoCaClaboratoryCforCpathologicalstudy,withtheremainingportionusedforchemicalanalysis.Results:Chemicalanalysisrevealedthattheprimarycomponentwasrebamipide,similartotheinfraredspectroscopy.ndings.Ourresultsshowedthat20.9%ofthedacryolithcompositionwasrebamipide.Conclusion:The.ndingsinthispresentcaseshowedthat20.9%CofCtheCdacryolithCwasCcomposedCofCtheCproteinCofCrebamipide,CandCrevealedCthatCtheCuseCofCmultipleCeyeCdropsCmaypresenttheriskofdacryolithformation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(4):471.475,C2020〕Keywords:レバミピド点眼,赤外分光光度計,涙.鼻腔吻合術,涙.結石.rebamipide,infraredspectroscopy(IF),dacryocystorhinostomy,dacryolisths.はじめにレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,その涙.炎の治療のため涙.鼻腔吻合術鼻外法(dac-ryocystorhinostomy:DCR)を行った際に,白色の涙.内結石を認めたとの報告がある1,2).しかし,その白色結石にレバミピドの成分を含んでいるかを調べた報告は少ない1,2).筆者らは,レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,手術目的で吹上眼科に紹介となった患者のDCR中に,涙.内結石を認め除去した.この涙.内結石の成分分析を試みたので,結果を報告する.I症例症例はC77歳,女性.30歳から関節リウマチなどの膠原病があり,10年前より近医で上強膜炎,角膜びらん,ドライアイに対し,低濃度ステロイド点眼,ヒアルロン酸点眼,レバミピド点眼,オフロキサシンゲル点眼で加療していた.右〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10-5Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(95)C471涙.炎を発症したため,手術目的で吹上眼科紹介となった.結膜培養を行い,涙.洗浄を行うと,涙.までは入れることができたが涙.以降の閉塞を認めた.CT(computedtomography:コンピュータ断層撮影)にて異常なく,局所麻酔にてCDCRを行った3).涙.切開時に白色のおから状の柔らかい結石(図1)を摘出した.摘出した結石の一部にて病理検査を行い,残りは大塚製薬に分析を依頼し約C3.1C×1.7Cmm白色の結石を取出し,風乾後は淡黄白色で大きさが約C1.1C×2.2Cmmとなったものを結石分析の試料とした.1.IR(infraredspectroscopy)赤外分光分析法による有効成分の比較,2.IRによる蛋白質の比較,図1摘出した白色の結石赤色の円内の結石を分析に用いた.3.顕微ラマン分析装置での分析,4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定,5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定を行った.CII結果結膜培養では,コアグラーゼ陰性CStaphylococcus(CNS)が認められ,放線菌は確認できなかった.DCR術後は涙.炎の再発もなく経過良好で,3カ月後に涙小管チューブを抜去した.抜去後も再閉塞などなく,経過良好で外来観察中である.C1.IRによる有効成分の比較(図2)ムコスタ点眼液の有効成分のレバミピドは,波数①C3,280CcmC-1,C②C1,730Ccm-1,C③C1,644Ccm-1,C④C1,602Ccm-1,⑤C1,540Ccm-1および⑥C760CcmC-1付近に特異吸収があり,今回の結石は①C3,280cmC-1,C②C1,730CcmC-1,C③C1,644CcmC-1,④C1,602Ccm-1,⑤C1,540CcmC-1および⑥C760CcmC-1付近の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.C2.本症例と蛋白質のIRチャート(図3)レバミピドの蛋白質は,波数①C3,270CcmC-1,②C1,640CcmC-1,C③C1,530Ccm-1に吸収があり,今回の結石は同様の位置に吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.C3.顕微ラマン分析装置での分析(図4)本症例では,1,300CcmC-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.図2赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較6カ所の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.図3赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較今回の結石は,3カ所で同様な吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.図4顕微ラマン分析による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較1,300Ccm-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.C4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定ていると考えられた.液体クロマトグラフ(highperformanceliquidchromatog-6.病理検査(図5)raphy:HPLC)でレバミピドの含量測定を行ったところ,グロコット染色で放線菌とみられる菌塊がみられた.中心レバミピドをC20.9%含んでいた.部に濃厚な染色があり,そこから表層部にわたってほぼ均一C5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定な放線菌感染を認めた結石を水C0.2Cmlで抽出し,原子吸光分析法によりホウ酸CIII考察含量の測定を行ったところ,ホウ酸は検出されなかった.よって結石にはレバミピド点眼の蛋白質成分がC20.9%含まれレバミピド点眼は,広くドライアイに用いられ,Sjogren図5グロコット染色バーはC500Cμm.症候群にも多用される点眼薬である1).近年レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,DCR時に白色の涙.結石を発見し,涙.結石中にレバミピドが確認される例や確認されない例が報告されている1,2).しかし,成分分析を具体的および詳細に報告はしている報告は少なく1,2)今回調査・報告した.発症時に,レバミピド点眼以外に,ヒアルロン酸ナトリウム,ジクアホソルナトリウム,オフロキサシンなどの点眼をしていたという症例の報告2)はあるが,オフロキサシンゲル点眼の報告は見つけることはできなかった.レバミピド点眼は滞留性がよく,レバミピドの粒子が涙.の壁に認められたとの報告がある4,5).オフロキサシンゲル点眼は,点眼後は眼表面の温度によりゲル化し,眼軟膏と同様に長時間結膜.内に滞留する6).涙.から鼻涙管に排出されるまでの滞留に関する報告は見当たらなかったが,粘性が高いことや結膜での滞留性が高いことを考慮すると,レバミピド点眼同様に涙.から鼻涙管で滞留することは予想される.また,年齢が高い患者や,Sjogren症候群による分泌低下がある場合は,さらにこれらの点眼の排出に時間がかかり,涙道閉塞および涙.炎の原因となりうると考えられた.今回の症例では,涙.炎および涙.結石の形成にオフロキサシンゲル点眼とレバミピド点眼が,それぞれ単独で関与したか,または相互作用により涙.結石が生じた可能性も考えられたが,以前の報告同様1,2)に明確な原因は不明だった.涙.内結石への細菌感染については,池田らの報告でもC2症例(100%)ともに放線菌感染を認め1),年齢とともに結石への細菌感染は高くなるとの報告7)もあり,今回も,放線菌感染を認め,以前の報告と同様だった.放線菌が確認された部位は,中心部に濃厚な染色が何個かあり,表層部にわたって均一な放線菌感染を認めた.初期の段階から持続的に感染を継続しつつ結石が増大した可能性と,ある程度大きくなった結石に放線菌感染が起こり中心部に拡大していった可能性が考えられた.病理の所見をみると,中心部に濃厚な放線菌感染があり表層に放線菌が薄いため,放線菌感染を濃厚に起こした小さい結石が集結し結石が大きくなり,大きくなった結石にさらに放線菌感染が起こったように思えた.しかし,調べた限りでは現在の結石の形成および感染の機序,順序などは不明だった.今回の症例は,涙.炎発症以前に,涙.内結石や鼻涙管閉塞があったかは不明であるが,推測される病態としては以下が考えられる1).Sjogren症候群および年齢的変化で涙液量が少なく,涙道内にある異物の排泄効率が低下しており,さらにレバミピドの粒子や,粘性の高いオフロキサシンゲル点眼が滞留して小さな涙.結石の核を形成し,一時的な鼻涙管閉塞症および放線菌による涙.炎および涙.結石のへの感染を起こした.放線菌に感染した小さい涙.内結石同士が融合し,機械的な鼻涙管閉塞症を起こす程度まで結石が成長し,大きくなってからも放線菌感染が起きた.初期段階から涙.内結石と涙.炎および放線菌感染が相互に複雑に作用した.今回の症例はC77歳と高齢だった.杉本らの報告2)をみると,涙.炎の発症はC10例中C9例(90%)がC70歳以上と高率だった.また,池田らの報告1)もC70歳以上のC2症例で,涙.炎患者における涙.内結石の発生率は年齢ともに上昇するとの報告7)もあり,高齢が涙.炎および涙.内結石を生じやすい素因と考えられた.今回は,結石中にレバミピド成分がC20.9%含まれていた.池田らの報告1)と杉本らの報告2)を合わせると,IR法でのレバミピド定性については,11例中C6例(54.5%)がありで,4例(36%)がなしだった.3例のレバミピド定量結果は,43.8%,14.4%,11.7%だった.今回の測定ではC20.9%であり,いままでの報告と比較し,定性では多数派であり定量結果では中間に位置した.これ以上については,症例が少ないため詳細不明だった.IR法は,結石の粉末資料に赤外線を照射し,透過光を分光して得られる赤外線吸収スペクトルから結石成分を同定する8).今回の波形と以前の報告8)の波形を比較すると,相違をはっきりと認めた.一方,レバミピド点眼の成分をC20%程度含むことでレバミピド点眼成分の波形に似てくることがわかった.なお,懸濁性点眼液を他の水溶性点眼液と併用する場合は,水溶性点眼液を先に点眼し,5分以上の間隔をあけて点眼することが推奨されている9).また,レバミピド点眼が涙.内で固まらないようにするためにC2.3日間隔をおくことが推奨されている4).以上のことを考えると,通常C1日に数回の点眼回数で,レバミピド点眼以外に粘性の高い点眼をすることは避けるべきと考えられる.高齢患者にレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用する際には,経過観察中は涙道・涙.疾患に注意が必要と考えられた.レバミピド点眼以外には,粘性の点眼を併用することは避け,涙.炎を認めた際には速やかに専門医受診を薦める必要があると考える.文献1)池田毅,平岡美紀,稲富周一郎ほか:量側涙.部に涙石を生じたシェーグレン症候群のC2例.臨眼C71:593-598,C20172)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCR点眼液CUD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討.あたらしい眼科32:1741-1747,C20153)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法C18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,C20054)杉本学,野田佳宏:涙道内視鏡の基本─鼻涙管.眼科手術30:53-58,C20175)MimuraCM,CUekiCM,COkuCHCetal:E.ectCofCrebamipideCophthalmicCsuspensionConCtheCsuccessCofClacrimalCstentCintubation.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC254:385-389.C20166)岡本茂樹,加藤あずさ:オフロキサシンゲル化製剤について教えてください.あたらしい眼科26:197-199,C20097)KuboCM,CSakurabaCT,CWadaR:ClinicopathologicalCfea-turesCofCdacryolithiasisCinCJapanesepatietnts:frequentCassociationwithinfectioninagedpatients.ISRNOphthtal-molC2013,C406153,C20138)久保勝文,櫻庭知己:涙小管結石および涙.結石に対しての結石成分分析.あたらしい眼科35:529-532,C20189)大谷道輝:点眼剤の「実践編」.JINスペシャルC80:170-176,C2007C***

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌涙囊炎の検討

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):561.567,2015cメチシリン耐性黄色ブドウ球菌涙.炎の検討児玉俊夫*1山本康明*1首藤政親*2*1松山赤十字病院眼科*2愛媛大学総合科学研究支援センター重信ステーションAStudyofDacryocystitisDuetoMethicillin-ResistantStaphylococcusaureusToshioKodama1),YasuakiYamamoto1)andMasachikaShudo2)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)DepartmentofBioscience,IntegratedCenterforScience,ShigenobuStation,EhimeUniversity目的:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による涙.炎患者における年齢,手術治療と予後についての検討.方法:2004年4月1日.2014年9月30日に松山赤十字病院眼科において手術を施行したMRSA涙.炎13例と非MRSA涙.炎95例を比較,検討した.さらにMRSA感染症については治療および術後の転帰について検討した.結果:発症年齢を比較すると,MRSA涙.炎では84.2±6.2歳(平均±標準偏差),非MRSA涙.炎では72.1±12.5歳とMRSA感染者は有意に高齢であった(p<0.001).MRSA涙.炎の内訳は男性1例,女性12例,そのうち急性涙.炎は4例,慢性涙.炎は9例で,大多数の症例で抗菌点眼薬が処方されていた.手術は涙.切開1例,涙.摘出1例および涙.鼻腔吻合術(以下,DCR)11例で,DCRは観察期間1カ月.6年4カ月で涙.炎は再発していない.考按:MRSA涙.炎は発症背景として抗菌点眼薬を長期使用していた高齢者があげられるが,治療法としてDCRをはじめ手術治療が必要と考えられる.Purpose:ToreporttheaverageageofdacryocystitispatientsinfectedwithmethicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA)andtheresultsofsurgicaltreatments.PatientsandMethods:Inthisstudy,wereviewed13patientsofdacryocystitisduetoMRSA(MRSAgroup)and95patientsofdacryocystitisduetomicroorganismsotherthanMRSA(non-MRSAgroup)whoweretreatedbetweenApril1,2004andSeptember30,2014attheDepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,Matsuyama,Japan.Inaddition,weanalyzedtheresultsofsurgicaltreatmentsinMRSAgroup.Results:ThemeanpatientageintheMRSAgroup(84.2±6.2years,mean±standarddeviation)wassignificantlygreaterthanthatinthenon-MRSAgroup(72.1±12.5years(p<0.001).TheMRSAgroupconsistedof1maleand12females(4acutedacryocystitiscasesand9chronicdacryocystitiscases),andallpatientshadbeentreatedbylong-termtopicalantibioticinstillation.Surgicaltreatmentsconsistedoflacrimalsacincision(1case),dacryocystectomy(1case),anddacryocystorhinostomy(DCR,11cases).InthecasesthatunderwentDCR,norecurrenceofdacryocystitiswasobservedduringthefollow-upperiodthatrangedfrom1-monthto6-yearsand4-monthspostoperative.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthatMRSAdacryocystitisinelderlypatientsmayhaveinducedbytheprolongeduseofantibioticsandthatDCRisusefulfortreatingdacryocystitis〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):561.567,2015〕Keywords:メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA),涙.炎,涙.結石,バイオフィルム,涙.鼻腔吻合術.methicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA),dacryocystitis,dacryolith,biofilm,dacryocystorhinostomy(DCR).はじめに涙.炎は,鼻涙管閉鎖により涙液が涙.内に貯留して病原微生物が増殖すると涙.壁に炎症を生じて発症する.涙.炎治療の原則は原因微生物の除菌に尽きるが,問題は抗菌薬の局所および全身投与を行っても涙.への移行はわずかであるために病原微生物の排除が困難という点である.さらに抗菌薬を長期間,漫然と投与することは耐性菌を増殖させることにもつながり,慢性涙.炎の起炎菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)の検出例が増加している1.3)ことが問題となっ〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(97)561 ている.MRSAは易感染性宿主において難治性感染症に移行しやすいが,涙.炎においてもMRSAは各種治療薬に抵抗性を示して重症化することが多いといわれている.今回,筆者らはMRSA起炎性涙.炎の治療成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2004年4月1日から2014年9月30日の10年6カ月間に松山赤十字病院眼科(以下,当科)において,涙.切開,涙.摘出および涙.鼻腔吻合術鼻外法(以下,dacryocystorhinostomy:DCR)を施行した108例121側で,その内訳としてDCRは97例110側,涙.摘出3例3側,涙.切開8例8側であった.なお,涙.切開の症例とは,涙.切開のみで寛解したがその後受診しなかったか,全身の重篤な合併症のためにDCRなどが施行できなかった患者である.今回検討したMRSA涙.炎は初診時に涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液よりMRSAが検出された12例と,DCRの術後に再閉塞して経過観察中にMRSAが検出された1例である.なお,非MRSA涙.炎については児玉の報告4)に詳細を記載した.涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液の採取はあらかじめ皮膚をアルコール面で清拭した後,結膜からの菌混入がないように注意した.今回はMRSA涙.炎13例と他の病原微生物による非MRSA涙.炎95例の間に,初診時の年齢に差があるかどうかを検討した.今回の検討においてさらにMRSA涙.炎を急性および慢性涙.炎に分類し,それぞれ前医での治療期間および投与された抗菌点眼薬の種類,当科での手術術式および予後について比較検討した.手術成績については,涙道通水試験において鼻腔への通水が良好なものを手術成功例,通水が認められなかったものを不成功例とした.涙.結石表面の微細構造の解析は,摘出した涙.結石を3%グルタールアルデヒド/リン酸緩衝液で固定後,臨界点乾燥と白金蒸着を行って走査型電子顕微鏡で観察した.涙.内貯留物の細菌分離は当院微生物検査室において通常培養で行い,薬剤感受性検査はCLSI〔ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(臨床検査標準協会)〕が認定した微量液体希釈法によりMicroScanTM(Siemens社)を用いて測定した.薬剤感受性は被検菌の発育阻止最小濃度(MIC)より各薬剤の判定基準に従い,感受性あり(S),中間感受性(I),耐性(R)と判定した.検査薬剤は,ペニシリン系はペニシリンG(PCG),アンピシリン(ABPC),オキサシリン(MPIP),セファロスポリン系はセファゾリン(CEZ),セフォチアム(CTM),セフジニル(CFDM),オキサセフェム系はフロモキセフ(FMOX),カルバペネム系はイミペネム(IPM),アミノグリコシド系はアルベカシン(ABK),ゲンタマイシン(GM),マクロライド系はエリスロマイシン562あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(EM),リンコマイシン系はクリンダマイシン(CLDM),テトラサイクリン系はミノサイクリン(MINO),キノロン系はレボフロキサシン(LVFX),ST合剤はスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST),グリコペプチド系はバンコマイシン(VCM)オキサゾリジノン系はリネゾリド(LZD),その他の抗生物質と(,)してテイコプラニン(TEIC),ホスホマイシン(FOM)である.なお,本論文におけるLVFX以外の抗菌点眼薬名と略語は以下のとおりである.オフロキサシン(OFLX),ガチフロキサシン(GFLX),シソマイシン(SISO),クロラムフェニコール(CP).II症例および結果〔症例1:急性涙.炎の症例〕患者:89歳,女性.数日前より左眼)涙.部を中心とした発赤,腫脹が始まり,近医で処方されたCFDN内服とLVFX頻回点眼で改善せず,増悪してきたため当科を紹介された.初診時所見として左眼)涙.部に発赤して膨隆した腫瘤を認め(図1a),上下涙点より涙管洗浄針を挿入したが涙小管は途中で閉塞していた.眼窩CT撮影を行ったところ,涙.部は混濁して蜂巣炎に進展しており,鼻骨から離れた位置に石灰化陰影を認めた(図1b).即日,涙.切開を行ったところ,排膿が認められ(図1c),CEZ点滴とLVFX頻回点眼を開始した.膿の塗抹標本では白血球に貪食されたグラム陽性球菌が検出された(図2a).第3病日に細菌培養検査で分離された細菌は薬剤感受性検査の結果,MRSAと同定されたためにMRSA急性涙.炎と診断し(表1),全身投与をCEZからLZDに変え,点眼もVCM点眼薬に変更した.MRSAを標的とした薬物治療に変更しても涙.部の蜂巣炎は改善しなかったので第9病日に涙.摘出を施行した.皮下は壊死組織と膿瘍で充満しており,さらに切開を進めると8mmの大きさの涙.結石とその周囲に数個の小結石を認めた(図1d).涙.を含め壊死組織を摘出し,皮膚縫合を行った.摘出組織の病理組織所見として一部に涙.上皮を伴う結合織がみられたものの,大部分は炎症細胞侵潤を伴う肉芽組織であった.小結石は好酸性の無構造な組織(図2b)で,結石の周囲にグラム陽性球菌が認められた(データは非呈示).大きな涙.結石表面の走査電子顕微鏡による観察では,直径0.8.1.0μmの大きさの球菌が結石表面に存在する線維状の物質や微細な沈着物の上に散在していた(図2c,d).左眼)涙.摘出後には同部位の発赤,腫脹は消失して術後7カ月で同部位の蜂巣炎は再発していない.〔症例5:慢性涙.炎の症例〕患者:73歳,女性.13年前より他院にて左眼)涙.炎と診断され,涙.洗浄が続けられていた.最近では涙.部を圧迫しても膿の排出ができなくなったために皮膚側より穿刺して排膿していた.DCRの適応について当科を紹介された.(98) abcdabcd図1症例1(急性涙.炎)a:術前の顔写真.左涙.部の蜂巣炎を認めた.b:眼窩CT撮影.涙.部は混濁しており,鼻骨から離れた位置に石灰化陰影(矢印)を認めた.c:涙.切開を行うと排膿が認められた.d:涙.摘出時,8mmの大きさの涙.結石(矢印)が認められた.患者は他院通院中に数種類の抗菌点眼薬を処方されていたが,最近ではLVFX点眼薬を継続して点眼していた.初診時,左眼涙.部の隆起性病変を認めた(図3a)ために眼窩CT検査を行ったところ,涙.部の隆起病変は比較的低吸収の内容物がみられた(図3b).涙.造影撮影では拡張した涙.が認められた(図3c)が,涙.より下方の鼻涙管は造影されなかった(図3d).涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液よりMRSAが検出されたことより,MRSA慢性涙.炎と診断した(表2).左眼)涙.鼻腔吻合術を施行して術後1年5カ月後に通過を確認している.当科において,涙.切開,涙.摘出およびDCRを施行した非MRSA涙.炎95例の年齢分布は39.98歳であったが,MRSA涙.炎患者は72.93歳と高齢者に多く発症していた(図4).平均年齢を比較すると,MRSA涙.炎患者84.2±6.2歳(平均±標準偏差)で,非MRSA涙.炎では72.1±12.5歳であり,さらにWilcoxonの順位和検定でMRSA涙.炎は非MRSA涙.炎に比較すると有意に高齢であった(p<0.001).MRSA涙.炎の内訳は男性1例,女性12例で,そのうち急性涙.炎は4例,慢性涙.炎は9例であった.MRSA感染による涙.炎のうち,表3に急性涙.炎,表4に慢性涙.表1症例1のMRSAの薬剤感受性MICMIC薬剤(μg/ml)判定薬剤(μg/ml)判定PCG8REM>4RABPC>8RCLDM>2RMPIP>2RMINO<2SCEZ>8RLVFX>4RCTM>8RST<1SCFDN>2RVCM1SFMOX8RLZD<2SIPM2RTEIC<2SABK<1SFOM<4SGM<1S炎の症例を示す.前医の治療では抗菌点眼薬の治療が継続されていた例が12例存在していた.MRSAによる急性涙.炎のうちVCM点滴で寛解し,慢性涙.炎に移行したのは症例3,症例4の2例であった.涙.内に結石を認めた急性涙.炎(症例1)は涙.摘出を行ったが,症例2では涙.切開後,蜂巣炎は軽快したものの消炎には長時間を要した.急性涙.炎の寛解例2例を含む慢性涙.炎11例でDCRを行ったが,観察期間1カ月.6年4カ月で全例において涙.炎は再発しなかった.(99)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015563 ababcd図2症例1の病理組織a:涙.切開時の排膿塗抹標本.グラム染色で白血球に貪食されたグラム陽性球菌(矢印)が認められた.b:摘出した涙.の小結石.ヘマトキシリン・エオジン染色で好酸性の無構造な組織像を示した.バーは100μm.c:涙.結石の走査型電子顕微鏡写真(×4,500).線維素に絡みつくように散在する直径1μmの球菌を認めた.縮尺は10μm.d:涙.結石の走査型電子顕微鏡写真(×13,000).バイオフィルムの表面に球菌が付着していた.縮尺は4μm.表2症例5のMRSAの薬剤感受性MICMIC薬剤(μg/ml)判定薬剤(μg/ml)判定PCG8RGM>8RABPC8REM>4RMPIP>2RCLDM>2RCEZ>16RLVFX>4RCTM>16RST<2SCFDN>2RVCM<2SFMOX>16RLZD<2SIPM>8RTEIC<2SABK2SFOM>16R検出されたMRSA13株の薬剤感受性を調べると,PCG,ABPC,MPIP,CEZ,CTM,FDN,FMOX,IPM,LVFXはすべて100%の耐性率を示していた.逆に薬剤感受性を示していた抗菌薬としては図5に示すように,EMは7%,CLDNは23%,FOMは31%,GMは38%,MINOに対して60%の分離株が感受性を示していた.100%の感受性を示564あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015していたのはABK,TEIC,ST,VCM,LZDの5種類の抗菌薬であった.III考按MRSAと非MRSA涙.炎患者の平均年齢を比較すると,MRSA涙.炎は84.2±6.2歳,非MRSA涙.炎は72.1±12.5歳であり,MRSA涙.炎は非MRSAに比較すると有意に高齢であった(p<0.001).さらにMRSA涙.炎の年齢分布をみると85歳以上の超高齢者は,急性涙.炎では4例中3例,慢性涙.炎では9例中3例であり,免疫力の低下している超高齢者は易感染性宿主と考えられた.MRSA涙.炎の男女比をみると男性1例,女性12例で,ほとんどが女性であった.前報1)で考察したように,その理由として日本人では解剖学的に男性よりも女性のほうが鼻涙管の内径が狭く,鼻涙管と下鼻道のなす角度が小さいために涙.内に涙液が貯留しやすくなるためと考えられる5).MRSA涙.炎患者のうち紹介なしで受診した1例を除き,他院で抗菌点眼薬の(100) abbcdabbcd図3症例5(慢性涙.炎)a:術前の顔写真.左涙.部の隆起性病変を認めた.b:眼窩CT撮影.涙.部は被膜に包まれるように比較的低吸収の内容物(矢印)が認められた.c:涙.造影正面像.拡張した涙.(矢印)を認めた.d:涙.造影側面像.拡張した涙.(矢印)と途絶した鼻涙管が認められた.表3MRSA急性涙.炎の症例症例性別年齢患側前医の治療手術転帰189歳女性左数日前より急性涙.炎LVFX点眼涙.切開後,LZDが奏効せず,涙.摘出涙.摘出後7カ月で涙.周囲炎は認めず293歳女性左3カ月前より急性涙.炎の診断で前医にて涙.切開LVFX点眼涙.切開後,VCMを投与拡張型心筋症のため追加手術不能1年2カ月後は慢性涙.炎373歳女性左10年前から左眼)慢性涙.炎放置していたが,7日前より急性涙.炎で当科に直接受診VCM投与により急性涙.炎が寛解.DCRDCR後,6年6カ月で涙.洗浄にて通水可493歳女性左3カ月前より他院で急性涙.炎LVFX点眼VCM投与により急性涙.炎が寛解.DCRDCR後,3年10カ月で涙.洗浄にて通水可治療が継続されていたことより,長期間の抗菌点眼薬は涙.における常在菌の耐性化をもたらすと考えられた.ただしMRSA感染についは,涙.内で黄色ブドウ球菌が抗菌薬に対して多剤耐性化を獲得したのか,医療機関においてMRSAの二次感染を生じたのかは不明である.最近,一般社会の健常者からもMRSAが分離され,菌の性状をみると院内感染を起こすMRSAとは細菌学的に異なる特徴を有していることから,従来の院内感染型MRSAとは区別して市中感染型MRSAとよばれるようになった.多くの抗菌薬に耐性を有している院内感染型MRSAとは異なり,市中感染型MRSAの多くはマクロライドやフルオロキノロン系抗菌薬などに感受性を示す傾向があり,多剤耐性に至っていないことが特徴である6).市中感染型MRSAによる感染症はおもに皮膚や軟部組織に生じることが多いといわれている.今回検討したMRSA涙.炎のうち,皮膚および皮下に蜂巣炎を生じていた急性涙.炎のMRSA4株について,市中感染型MRSAである可能性について検討した.まず今回検出されたMRSA13株において薬剤感受性を示すかどうかをみたところ,ABK,TEIC,ST,VCM,LZDでは100%,MINOに対しては60%の分離株が感受性を有してい(101)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015565 表4MRSA慢性涙.炎の症例症例年齢性別患側前医の治療手術転帰573歳女性左13年前より左眼)涙.洗浄,最近は皮膚側より穿刺,吸引LVFX点眼DCR術後2年4カ月通水可685歳女性左約10年前より左眼)慢性涙.炎SISO,CP,LVFX点眼DCR術後2年7カ月通水可777歳女性右5年前より右眼)涙.洗浄LVFX点眼DCR術後6カ月通水可877歳女性左3年前より左眼)涙.洗浄LVFX点眼DCR術後3年11カ月通水可986歳女性左10年前より左眼)涙.洗浄GFLX点眼DCR術後3年10カ月通水可1081歳男性左当科にてDCR後,1カ月で閉鎖してMRSA検出.LVFX点眼DCR再手術再手術術後1年6カ月通水可1181歳女性左発症は不明.当科にて右眼)DCR術後,左眼)眼脂を認め,MRSA検出.LVFX点眼DCR術後4年10カ月通水可1288歳女性右3年前より左眼)涙.洗浄OFLX点眼DCR術後6カ月通水可1372歳女性右右眼)上下涙点閉鎖に対して涙点を開放すると慢性涙.炎が判明し,MRSA検出.DCR術後1カ月通水可05101520253035404550~10~20~30~40~50~60~70~80~90~100■:非MRSA■:MRSA症例数(人)年齢(歳)図4涙.炎の年齢分布涙.炎患者の年齢分布として30歳代より発症して70歳代をピークとしていたが,MRSA涙.炎では71歳以上の高齢者のみに発症を認めた.た.さらにEM,CLDN,FOM,GMに対しては7.38%が薬剤感受性を有していたために市中感染型MRSAが含まれている可能性が出てきたが,個々の症例をみると症例1ではGMに感受性を示していたが,EMやLVFXには耐性を示していた.症例2.4も同様にEMやLVFXには耐性を示していたことより,当科のMRSA涙.炎の分離株は市中感染型MRSAとは考えにくく,全例,院内感染型MRSAと考えられた.つぎにMRSAの増殖メカニズムについて考えてみたい.566あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%■:耐性■:感受性ABKSTVCMTEICLZDMINOGMFOMCLDMEM図5MRSA13菌株において抗菌薬に感受性を有する割合MRSAに対して,薬剤感受性を有する抗菌薬としてはEM,CLDN,GM,MINO,FOMがあげられ,7.60%のMRSAが感受性を示していた.100%の感受性を示していたのはABK,TEIC,ST,VCM,LZDの5種類の抗菌薬であった.細菌は液層中でプランクトンとして浮遊するよりも固相に付着,定着して集団として存在しているが,その際に固相─液層界面に形成されるのがバイオフィルムである7).症例1において涙.摘出時に摘出された涙.結石の表面を走査型電子顕微鏡で観察すると,多数のブドウ球菌が線維素や無構造物質から形成されるバイオフィルムに絡みつくように群生していた.涙.結石は内層のムコ蛋白質に石灰沈着を生じると,眼窩CT検査で周囲が高吸収となるために米粒様(ricekernelappearance)とも称される特徴ある画像を呈すると報告(102) されている8,9).すなわち,涙.結石における石灰沈着は細菌がより定着しやすくなるためにバイオフィルムの形成,成熟が容易となる.バイオフィルムの構成成分としては付着する細菌より産生される細胞外多糖類,蛋白質や死滅した細菌より放出された粘性の高いDNAが含まれておりいわゆる細胞外マトリックスとして存在している10).細菌にとってバイオフィルムを形成することは,生体の免疫作用や抗菌薬から逃れることができるためにMRSAをはじめ難治性の慢性感染症となりうる.その具体例として症例1があげられる.MRSAに対して薬物療法が奏効せず涙.を摘出せざるをえなかったのは,表層にバイオフィルムが形成された涙.結石を増殖の場としたことでMRSAは抗菌薬に対する防御が可能になったと思われる.今回は手術として涙.切開(1例),涙.摘出(1例)およびDCR(11例)を行ったが,DCRの手術成績として観察期間1カ月.6年4カ月で涙.炎は再発していない.MRSA涙.炎は発症背景として抗菌点眼薬を長期使用していた高齢者があげられるが,DCRの手術成績は良好であったことより通常の黄色ブドウ球菌感染症と病原性は変わらないと考えられる.いわゆる院内感染型MRSAは健常人ではその感染に対してかなり抵抗性を示すが,免疫機能の低下した高齢者ではMRSA涙.炎を発症すると考えられるために,眼科医を含めて医療スタッフは高齢者に対しMRSAの感染源になる可能性を常に念頭に置く必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)児玉俊夫,宇野敏彦,山西茂喜ほか:乳幼児および成人に発症した涙.炎の検出菌の比較.臨眼64:1269-1275,20102)KuboM,SakurabaT,AraiYetal:Dacryocystorhinostomyfordacryocystitiscausedbymethicillin-resistantStaphylococcusaureus:reportoffourcases.JpnJOphthalmol46:177-182,20023)田中朋子,小堀朗,吉田和代ほか:メチシリン耐性ブドウ球菌による急性涙.炎の2例.眼科手術13:629-632,20004)児玉俊夫:松山赤十字病院における涙.鼻腔吻合術の手術成績.松山日赤誌39:15-20,20145)ShigetaK,TakegoshiH,KikuchiS:Sexandagedifferencesinthebonynasolacrimalcanal.Ananatomicalstudy.ArchOphthalmol125:1677-1681,20076)松本哲哉:MRSA感染症(市中感染型MRSAを含む).最新医学63:1225-1239,20087)米澤英雄,神谷茂:バイオフィルム形成と細胞外マトリックス.臨床と微生物36:411-416,20098)YaziciB,HammadAM,MeyerDR:Lacrimalsacdacryoliths.Ophthalmology108:1308-1312,20019)AsheimJ,SpicklerE:CTdemonstrationofdacryolithiasiscomplicatedbydacryocystitis.AJNRAmJNeuroradiol26:2640-2641,200510)PerryLJP,JakobiecFA,ZakkaFR:Bacterialandmucopeptideconcretionsofthelacrimaldrainagesystem:Ananalysisof30cases.OphthalPlastReconstrSurg28:126133,2012***(103)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015567