‘涙腺’ タグのついている投稿

Sjögren症候群の涙腺における免疫グロブリンの特徴的局在を示した1例

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):575.579,2017cSjogren症候群の涙腺における免疫グロブリンの特徴的局在を示した1例園部秀樹*1小川葉子*1向井慎*1山根みお*1亀山香織*2坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2慶應義塾大学医学部病理診断部ACaseofCharacteristicImmunoglobulinLocalizationintheLacrimalGlandinSjogren’sSyndromeHidekiSonobe1),YokoOgawa1),ShinMukai1),MioYamane1),KaoriKameyama2)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DivisionofDiagnosticPathology,KeioUniversityHospital目的:Sjogren症候群は涙腺・唾液腺のリンパ球浸潤を特徴としドライアイ,ドライマウスをきたす多様な自己抗体の出現が知られている自己免疫疾患である.筆者らは,Sjogren症候群の涙腺小葉および導管周囲に過剰な免疫グロブリンの蓄積を示した1例を経験したので報告する.症例:症例は51歳,女性.41歳時より重症ドライアイを認めた.Sjogren症候群の治療方針の決定のため涙腺生検を施行した残余検体についての病理組織,免疫組織学的検討にて,涙腺にはB細胞および過剰な活性化形質細胞と抗体の間質への蓄積が認められた.結論:罹病歴の長いSjogren症候群による重症ドライアイ症例の涙腺局所では,過剰な抗体産生と蓄積がドライアイに関与していることが示唆された.Purpose:Sjogren’ssyndrome(SS)ischaracterizedbylymphocyticin.ltrationintolacrimalandsalivaryglands,leadingtodryeyeanddrymouth.PeripheralbloodinSSpatientsisreportedtocontainawiderangeofautoantibodies.Weexamineda51-year-oldfemalewhowasalong-termsu.ererofsevereSSdryeye,andhadaGreenspanscoreof4.Ourpathologicalandimmunohistochemicalinvestigationintolacrimalglandsrevealed(1)in.ltrationofalargenumberofBcellsandplasmacellsand(2)excessiveaccumulationofantibodies.Conclusion:Ourcasesuggeststhatinpatientswithalong-standinghistoryofSS,antibodiesareproducedand/oraccumulatedlocallyandabnormallyinlacrimalglands,andmayberelatedtodryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):575.579,2017〕Keywords:Sjogren症候群,涙腺,ドライアイ,自己抗体,抗体産生.Sjogren’ssyndrome,lacrimalgland,dryeye,auto-antibodies,antibodyproduction.はじめにSjogren症候群は,涙腺と唾液腺にリンパ球浸潤が生じ,ドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である1).好発年齢は中高年であり,男女比は1:14と女性に圧倒的に多い.Sjogren症候群の病態には多因子が関与すると考えられ,これまでに遺伝的素因2),EBウイルスなどの微生物感染3),環境要因,免疫異常による組織障害の原因が考えられている.さらにこれまでにSSA,SSB,a-フォドリン,b-フォドリンなどの自己抗原が同定されている.全身的に他の膠原病の合併症のない原発性Sjogren症候群と,全身性エリテマトーデス,強皮症,関節リウマチなどを合併する二次性Sjogren症候群に分類される.今回,筆者らは,診断のための涙腺生検組織において,Sjogren症候群の涙腺小葉および導管周囲に過剰な免疫グロブリンの特徴的な蓄積を示した1例を経験したので報告する.I症例症例は51歳,女性.原発性Sjogren症候群によるドライ〔別刷請求先〕園部秀樹:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HidekiSonobe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANアイ,ドライマウスに対して前医でマイティアとヒアレインのみで治療していたが,症状増悪し,当科紹介受診となった.初診時,自覚症状として眼乾燥感が高度であり,眼表面障害の所見はフルオレセイン染色スコア9点満点中9点,ローズベンガル染色スコア9点満点中7点(それぞれ両眼の平均値),涙液動態の所見は,涙液層破壊時間(BUT)2秒,Schirmer試験0mm(それぞれ両眼の平均値)であった.左涙腺生検前後の所見はフルオレセイン9点満点中7点から9点満点中6.5点,ローズベンガル9点満点中6点から9点満点中2.5点,BUT2秒から2秒であり,ドライアイに悪化は認められなかった.Sjogren症候群の診断と治療方針決定のために得られた組織について残余部分を使用し,透過型電子顕微鏡による超微形態を含めた病理組織学的検討と免疫染色を施行した(倫理表1本研究で用いた抗体抗体クローン名会社名陽性細胞CD452B11+PD7/26DAKO汎白血球細胞CD20L26DAKOB細胞Vs38cVs38cDAKO形質細胞IgAPolyDAKO免疫グロブリンIgMPolyDAKO免疫グロブリンl鎖N10/2DAKO遊離軽鎖k鎖PolyDAKO遊離軽鎖CD45ROUCHL-1DAKOメモリーT細胞CD41F6ニチレイヘルパーT細胞CD8C8/144Bニチレイ細胞障害性T細胞※IgA,IgM,k鎖:ポリクローナル抗体.a:HEb:白血球(CD45)576あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017委員会承認番号20090277).ヘマトキシリン・エオジン染色所見に加えてCD45,CD4,CD8,CD20,IgG,IgA,IgM,l鎖,k鎖について連続切片を用いて免疫組織学的に検討した(表1).免疫染色の方法は,脱パラフィン,エタノール系列で脱水後,2%過酸化水素で室温にて,内因性パーオキシダーゼを除去した.その後リン酸緩衝液生理食塩水(phosphatebu.eredsaline:PBS)で洗浄後,一次抗体をオーバーナイト4℃反応させ洗浄後,PBSで洗浄後二次抗体を45分反応させた(EnVision1;Dakopatts,Glostrup,Denmark).一次抗体は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩(3,3’-diaminobenzi-dinetetrahydrochlorideDAB)にて発色反応を行った.核染色はヘマトキシリンを用いて1秒間行った.すべての反応は湿潤箱内で行った.CD45RO,CD20膜抗原(表1)の抗原賦活化は電子レンジを用いて10分間施行した.電子顕微鏡用検体は2.5%グルタールアルデヒドにて固定後,4酸化オスミウムで後固定しエタノール系列で脱水後,エポン包埋を行った.超薄切片を作製後,クエン酸鉛と酢酸ウラニルを用いて二重染色を行い,透過型電子顕微鏡(model1200EXII;JEOL,Tokyo,Japan)で観察した.涙腺組織のヘマトキシリン・エオジン染色所見では涙腺小葉内間質と主導管周囲に同心円状の線維化と著しいリンパ球,および形質細胞を中心として慢性炎症性細胞浸潤を認めた(図1a左).導管周囲に50個以上の単核球浸潤を認める病巣を1フォーカスとするGreenspan分類4)で3フォーカス以上を認め,グレード4に相当する最重症の所見を認めた(図1a右).主導管周囲にも同心円状の線維化と形質細胞を中心とした慢性炎症性細胞浸潤を認めた(図1a右).涙腺腺図1Sjogren症候群涙腺組織における炎症性細胞の局在涙腺組織の小葉(左)および涙腺中等度の導管周囲の連続切片(右).上段はヘマトキシリン・エオジン染色,下段は汎白血球マーカーCD45.茶色に発色している細胞は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩(DAB)染色陽性細胞を示す.*:炎症性細胞浸潤部位,.:小葉内腺房,D:導管,Scalebar=100μm.a:B細胞系列b:lgAc:lgMd:l鎖e:k鎖図2Sjogren症候群涙腺組織における各B細胞系列細胞の局在(免疫染色組織像と電子顕微鏡所見)a:B細胞系列(B細胞,形質細胞,形質細胞の電子顕微鏡所見a.右電子顕微鏡所見Scalebar=2μmD:導管,.:粗面小胞体,Aci:腺房,Scalebar=100μm.b.e:涙腺組織の小葉および導管周囲の連続切片(図1と同一部位の連続切片)に加えてリンパ濾胞.形質細胞から分泌されるIgA,IgM,形質細胞から産生される抗体のl鎖,k鎖.茶色に発色している細胞は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩)..(DAB)染色陽性細胞を示す.房の萎縮や脱落が認められた(図1a).図1aのそれぞれの部位の連続切片における免疫組織像では,小葉内(図1b左)と導管周囲(図1b右)にCD45陽性細胞の浸潤を認め,その連続切片における小葉内(左列,右列)および導管周囲(中央列)にきわめて高度なB細胞(図2a左),および形質細胞浸潤(図2a中央)を認め,同一症例の涙腺組織における透過型電子顕微鏡像では車軸状の核をもつ形質細胞に粗面小胞体が著明に発達していた(図2a右電子顕微鏡像).同一部位の連続切片における形質細胞から産生されるIgA(図2b),IgG,IgM(図2c),および形質細胞から産生される抗体のl鎖(図2d),k鎖(図2e)の高度な陽性染色像を認めた.CD45陽性細胞(図1b)の涙腺における分布を調べると,T細胞系列(図3a~c)には陽性像が乏しいのに対して,B細胞系列(図2a~e)には高度の炎症性細胞浸潤を認めた.B細胞系列分子の陽性像はCD45陽性細胞の分布にほぼ一致していた(図1b左,図2a,b,c,e左).II考按Sjogren症候群の涙腺病態にはT細胞が主要な役割をはたすという報告と,B細胞が主体とされる報告がありさまざまである.病態初期にはT細胞が関与し5),遷延化した症例にはB細胞が関与すると報告されている6,7).本症例は罹病歴が長く,臨床像はSjogren症候群に特徴的な重症ドライアイを呈し,病理像は汎白血球マーカーであるCD45陽性細胞(図1b)に対して,B細胞系列陽性細胞(CD20,Vs38c)(図2a~e)とT細胞系列陽性細胞(CD45RO,CD4,)を比較すると,B細胞系列陽性細胞の染色c~3a図)(8DC像ときわめて類似していることから,本症例の涙腺に浸潤すa:メモリーT細胞(CD45RO)b:ヘルパーT細胞(CD4)c:細胞障害性T細胞(CD8)図3Sjogren症候群涙腺組織におけるT細胞系列細胞の局在(免疫染色組織像)涙腺組織の小葉(左)および導管周囲(右)の連続切片(図1,2と同一部位の連続切片).メモリーT細胞,ヘルパーT細胞,細胞障害性T細胞の所見を示す.茶色に発色している細胞は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩(DAB)染色陽性細胞を示す.Scalebar=100μm.る炎症細胞はB細胞および形質細胞が主体であることが判明した(図2).本症例の免疫染色所見および電子顕微鏡所見より,成熟形質細胞が過剰に集積しており,小胞体が著明に拡張していることから,涙腺局所において多量の抗体が産生されていると考えられた.これらの所見は,導管周囲に比して小葉内に著明に確認された.このことから,T細胞と相互作用によりB細胞が活性化し形質細胞へと成熟し,過剰な抗体産生がなされたと推察できる.また,間質での形質細胞の著明な増加には,細胞が適切にアポトーシスに陥ることができないアポトーシスの異常が関与している可能性も考えられた.末梢血血清では抗SSA抗体,抗SSB抗体,抗アセチルコリン作動性M3ムスカリン受容体抗体などが報告されている8).涙腺間質においてB細胞から形質細胞浸潤が優位であることは,最近の抗CD20抗体による生物学製剤投与によってSjogren症候群の改善が認められる報告があることからも裏付けられる9).今後,他疾患涙腺との対比が必要であり,1例のみの所見であるが本症例に認められた所見は,Sjogren症候群による涙腺局所での過剰な抗体産生と異常な抗体による組織障害が推察される.本所見は,Sjogren症候群のドライアイにおける病態の一部を示唆する所見であると考えられた.このような涙腺局所の障害により,涙液中に分泌される分泌型IgAやラクトフェリン,リゾチームなどの蛋白にも量的な異常だけでなく,質的な異常も生じている可能性も考えられた.今後の検討課題としたい.文献1)MoutsopoulosHM:Sjogren’ssyndrome:autoimmuneepithelitis.ClinImmunolImmunopathol72:162-165,19942)KangHI,FeiHM,SaioIetal:ComparisonofHLAclassIIgenesinCaucasoid,Chinese,andJapanesepatientswithprimarySjogren’ssyndrome.JImmunol150:3615-3623,19933)FoxRI,PearsonG,VaughanJH.:DetectionofEpstein-Barrvirus-associatedantigensandDNAinsalivaryglandbiopsiesfrompatientswithSjogren’ssyndrome.JImmu-nol137:3162-3168,19864)GreenspanJS,DanielsTE,TalalNetal:Thehistopathol-ogyofSjogren’ssyndromeinlabialsalivaryglandbiop-sies.OralSurgOralMedOralPathol37:217-229,19745)SinghN,CohenPL:TheTcellinSjogren’ssyndrome:forcemajeure,notspectateur.JAutoimmun39:229-233,20126)SerorR,RavaudP,BowmanSJetal:EULARSjogren’syndromediseaseactivityindex:developmentofconsen-ssussystemicdiseaseactivityindexforprimarySjogren’s8)坪井洋人,浅島弘充,住田孝之ほか:シェーグレン症候群:syndrome.AnnRheumDis69:1103-1109,2010抗M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体抗体.分子7)GottenbergJE,CinquettiG,LarrocheCetal:E.cacyofリウマチ治療6:41-44,2013rituximabinsystemicmanifestationsofprimarySjogren’s9)坪井洋人,浅島弘充,高橋広行ほか:シェーグレン症候群:syndrome:resulsin78patientsoftheAutoImmuneandRA以外の膠原病に対する生物学的製剤治療の可能性:炎Rituximabregistry.AnnRheumDis72:1026-1031,2013症と免疫23:159-169,2015***

特異な部位に病変を呈したIgG4関連眼疾患の2例

2014年8月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(8):1219.1223,2014c特異な部位に病変を呈したIgG4関連眼疾患の2例中埜君彦*1,2渡辺彰英*2上田幸典*2木村直子*2木下茂*2*1町田病院眼科*2京都府立医科大学視覚機能再生外科学TwoCasesofIgG4-RelatedOphthalmicDiseasewithUnusualLesionsKimihikoNakano1,2),AkihideWatanabe2),KosukeUeda2),NaokoKimura2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofOphthalmology,MachidaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine背景:IgG4(免疫グロブリンG4)関連眼疾患では,一般的に涙腺部分が大多数を占めるといわれている.今回,涙腺以外の病変を呈した2症例(筋円錐内腫瘤,眼瞼腫瘍の眼窩内浸潤様腫瘤)を経験したので報告する.症例:症例1は69歳,女性,左上眼瞼の腫瘤を主訴に受診.左上眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤様の腫瘤を認めた.症例2は73歳,男性,右眼瞼腫脹,眼球突出を主訴に受診.右眼窩の筋円錐内に腫瘤を認めた.症例1では眼瞼部および眼窩内腫瘤の生検を施行し,症例2では眼窩内腫瘤摘出術を施行した.血液検査および病理組織診断結果よりIgG4関連眼疾患が疑われ,IgG4関連疾患包括診断基準に従い症例1は「疑診群」,症例2は「準確診群」と診断した.症例1はステロイド内服加療にて軽快し,症例2は術後腫瘤が消失したためステロイド治療は施行しなかった.両症例とも画像検査にて全身検査施行したが,他臓器に病変を認めなかった.結論:IgG4関連眼疾患はさまざまな部位にみられる可能性がある.涙腺部以外の眼窩内腫瘤であっても,IgG4関連眼疾患も念頭におく必要がある.Background:ThoughlacrimalglandlesionsofIgG4(immunogloblinG4)-relatedophthalmicdiseasearecommon,eyelidandorbitallesionselsewherethanthelacrimalglandarerare.WereporttwocasesofIgG4-relatedophthalmicdiseasewithorbitallesionsotherthanonthelacrimalgland(onelesionwasinthemusclecone,theotherwasaneyelid-to-orbitlesion).Cases:Case1,a69-year-oldfemale,showedaleftuppereyelid-to-orbitlesionlikeorbitalinfiltrationofmalignanteyelidtumor;case2,a73-year-oldmale,showedrighteyelidswellingandproptosis.Therewasanorbitalmassinthemusclecone.WesuspectedIgG4-relatedophthalmicdisease,basedonbloodtestandbiopsyoftheorbitalandeyelidlesions.OnthebasisofcomprehensivediagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease,wediagnosedcase1aspossible,andcase2asprobable.Case1improvedafteroralcorticosteroidadministration,case2improvedwithoutoralcorticosteroid,becausethelesiondisappearedfollowingsurgery.Inbothcases,therewasnoIgG4-relatedlesionotherthaninorbitandeyelid.Conclusion:IgG4-relatedophthalmicdiseasecanarisefromvariousareas.Weshouldsuspectorbitallesions,exceptingthoseofthelacrimalgrand,ofbeingIgG4-relatedophthalmicdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1219.1223,2014〕Keywords:IgG4関連眼疾患,眼窩内腫瘤,涙腺,生検.IgG4-relatedophthalmicdisease,orbitalmass,lacrimalgland,biopsy.はじめにIgG4(免疫グロブリンG4)関連疾患とは,血清IgG4高値ならびに病変組織へのIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする慢性の全身性疾患である1).全身諸臓器に慢性炎症や線維化がみられ,しばしば腫瘤性病変を形成する.眼科領域に発生した場合,IgG4関連眼疾患といわれている.IgG4関連眼疾患では,一般的に涙腺部分が大多数を占めるといわれている2).今回,筆者らは,涙腺以外の病変を呈した2症例(筋円錐,眼瞼腫瘍からの眼窩内浸潤)を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.〔別刷請求先〕中埜君彦:〒780-0935高知市旭1丁目104町田病院眼科Reprintrequests:KimihikoNakano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MachidaHospital,104Asahi1Chome,Kochi780-0935,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(139)1219 I症例〔症例1〕69歳,女性.2012年3月頃から左上眼瞼に腫瘤を認め,前医にて霰粒腫が疑われ一部切除されたが,徐々に拡大してきたため2013年3月7日に京都府立医科大学病院眼科を紹介受診した.初診時,視力は右眼0.4(1.0×sph.0.50D),左眼0.15(0.5×sph.1.75D),眼圧は右眼17mmHg,左眼12mmHg.前眼部と眼底は特に異常なく,中間透光体では左眼に白内障を認めた.Hess試験では軽度の左眼上下転制限を認めた.左上眼瞼皮膚の炎症性・壊死性変化および上眼瞼内上側の皮下に触れる可動性のない腫瘤を認めた(図1).眼窩magneticresonanceimaging(MRI)では左上眼瞼から眼窩へ進展した18mm×8mmの,境界は前方で不明瞭,内部均一な腫aabb図2症例1の眼窩部MRI左眼窩内に眼瞼から連続した腫瘤性病変を認める.a:T2強調矢状断像,b:造影水平断像.図3症例1の病理生検所見:左上眼瞼部位a:ヘマトキシリンン・エオジン(HE)染色(400倍).線維化,形質細胞,リンパ球浸潤を伴う.b:IgG4免疫染色(400倍).IgG4陽性形質細胞の浸潤を認める.図1症例1の前眼部写真左上眼瞼に炎症性・壊死性変化を認める.1220あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(140) 瘤性病変を認め,涙腺には病変を認めなかった(図2).左上眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤を疑い,当日に左眼窩内腫瘤生検を施行した.病理組織学的所見は,軽度の線維化と形質細胞,リンパ球,好中球浸潤を示し,IgG4/IgG陽性細胞比:38%IgG4陽性形質細胞:>10/HPFであった(図3).生検結果よりIgG4関連眼疾患が疑われ,血液・尿検査を追加した.その結果,IgG:2,139mg/dl,IgG4;172mg/dlで高値であるも,血中gグロブリンは異常なく,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体は陰性,甲状腺ホルモン値は正常,甲状腺自己抗体は陰性だった.生検・血液検査より表1にあるIgG4関連疾患包括診断基準に従い1.腫瘤性病変,2.血清IgG4値(172mg/dl),3.病理所見は線維化を伴うも形質細胞,リンパ球,好中球浸潤を認められ,IgG4陽性形質細胞:>10/HPFであるもIgG4/IgG陽性細胞比が40%未満だったため1.2.を満たし「IgG4関連眼疾患の疑診群」と診断した.画像検査にて全身検査を施行したが,他臓器に病変を認められなかった.治療はプレドニゾロンR40mgから内服開始し,テーパリング治療にて腫瘤の著明な縮小,眼球運動障害の改善を認め,ステロイド治療開始後40日目に投与中止した.〔症例2〕73歳,男性.2012年2月頃,その約1年前から右眼瞼腫脹,眼球突出,流涙症を認めていた.2013年2月18日,前医での眼窩単純computedtomography(CT)検査にて右眼窩内に腫瘤を認め,2月28日に京都府立医科大学病院眼科を紹介受診した.初診時,視力は右眼0.1(1.2×sph+3.00D(cyl.0.25D),左眼0.08(1.0×sph+2.75D),眼圧は右眼14mmHg,左眼17mmHgで右眼瞼腫脹,眼球突出を認めた(図4).前眼部,中間透光体,眼底に特記すべき異常はなかった.Hess試験で右眼に全方向での制限を認めた.眼窩単純CTにて右眼に23mm大の眼窩筋円錐内から眼窩上内側に及ぶ内部均一で境界明瞭な腫瘤を認めた.眼窩MRIでは眼球後方内上側に境界明瞭,内部に均一した腫瘤病変を認め,腫瘤は均一に造影され,内部に血管陰影を認めた(図5).涙腺には病変を認めなかった.2013年3月29日に全身麻酔下に経眼窩縁アプローチにて右眼窩内腫瘤摘出術を施行し,腫瘤を全摘出した.病理組織学的所見は,線維化,形質細胞,リンパ球浸潤を伴い,IgG4/IgG陽性細胞比:47%>10/HPF,IgG4陽性形質細胞:>10/HPFであった(図6).血液・尿検査ではIgE:2,925mg/dlで高値であるも,IgG4:89.9mg/dlで正常,血中gグロブリンも異常なく,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体は陰性,甲状腺ホルモン値は正常,甲状腺自己抗体も陰性だった.生検,血液検査より,表1にあるIgG4関連疾患包括診断基準に従い1.腫瘤性病変,2.血清IgG4値(89.9mg/dl):正常範囲内,3.病理組織学的所見①リンパ球,形質細胞浸潤と線維化,②IgG4/IgG陽性形質細胞比:47%,③IgG4陽(141)性形質細胞:>10/HPFにて,1.3.を満たし,「IgG4関連眼疾患の準確診群」と診断した.画像検査にて全身検査を施行したが,他臓器に病変を認められなかった.術後,眼球突出,眼球運動障害が改善したのでステロイド治療は施行せずに経過観察中である.II考按IgG4関連疾患は,同時性あるいは異時性に全身諸臓器に腫大や結節・肥厚性病変が出現し,血清IgG4高値ならびに組織中へのIgG4陽性形質細胞浸潤を伴う原因不明の疾患である.2001年,Hamanoら3)が血清IgG4高値を示す自己免疫性膵炎をIgG4関連疾患として報告して以来,全身のさまざまな臓器において血清IgG4の関与が示唆された症例の報告が相次いだ1,4).2010年にわが国では,これらをまとめてIgG4関連疾患と病名を統一することで合意がなされた.さらにIgG4関連疾患の診断において,2006年に自己免疫性膵炎,2008年にMikulicz病など各々で診断基準が作成されていたが,2011年梅原班・岡崎班らによるIgG4関連疾患包括診断基準(comprehensivediagnosticcriteriaforIgG4relateddisease(IgG-RD),2011)が表1のごとく公表された1).診断基準は,生検による病理組織検査,血清IgG4などの血液検査,画像検査(CT・MRI)の3つである.3つのなかでもIgG4関連疾患包括診断基準では病理組織を重視している.そのため,臨床的に生検材料が得られにくい臓器病変の感度が必ずしも高くない.たとえばMikulicz病やIgG4関連腎症で感度が70.87%,十分な生検組織が得られない自己免疫性膵炎ではほぼ全例が準確診群または疑診群との報告がある5).本症例においても,症例1が疑診群,症例2が準確診群であった.ゆえに涙腺以外の感度についてはさらなる症例の蓄積が必要であると思われる.IgG4関連眼疾患は一般的に涙腺に病変を認めることが多いが2),今回のように涙腺以外の外眼筋6),眼窩7.9),三叉神経9,10)などに認められた報告がある.症例2では眼球突出を主訴にIgG4関連眼窩病変を筋円錐内に認めたが,Wallaceらが,本症例と同様に眼球突出を主訴に筋円錐内にIgG4関連眼窩病変を認めた報告をしている10).しかし,症例1のように眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤を疑うような,眼瞼から眼窩に及ぶIgG4関連眼疾患に関する報告は現時点ではなかった.症例1,2のような涙腺部以外であっても,眼窩内に腫瘤性病変があれば,IgG4関連眼疾患の可能性も考慮して,画像検査,生検や摘出による病理検査,血清IgG4などの血液検査を必要に応じて施行すべきであると考えられた.IgG4関連眼疾患の治療は,他の臓器と同様にステロイド全身投与であり比較的良好に反応するといわれている11).症例1でもステロイド内服加療による反応は良好だった.しかあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141221 bb図4症例2の前眼部写真右眼の眼瞼腫脹,眼球突出を認める.a図5症例2の眼窩部MRIa:T1強調冠状断像,b:造影水平断像.し,漸減中や投与中止にて再燃することがあり,注意深い経過観察が必要である12).また,症例2のように病変摘出後に病状の再燃なくステロイド治療が不要な場合もある13).ステロイド治療の有無にかかわらず経過観察は必要と思われる.今回,涙腺以外に病変を呈したIgG4関連眼疾患の2症例1222あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014ab図6症例2の病理生検所見:右眼窩内a:ヘマトキシリンン・エオジン(HE)染色(400倍).線維化,形質細胞,リンパ球浸潤を伴う.b:IgG4免疫染色(400倍).IgG4陽性形質細胞の浸潤を認める.表1IgG4関連疾患包括診断基準2011(厚生労働省岡崎班・梅原班)【臨床診断基準】1.臨床的に単一または複数臓器に特徴的なびまん性あるいは限局性腫大,腫瘤,結節,肥厚性病変を認める.2.血液学的に高IgG4血症(135mg/dl以上)を認める.3.病理組織学的に以下の2つを認める.①組織所見:著明なリンパ球,形質細胞の浸潤と線維化を認める.②IgG4陽性形質細胞浸潤:IgG4/IgG陽性細胞比40%以上,かつIgG4陽性形質細胞が10/HPFを超える.上記のうち,1)+2)+3)を満たすものを確定診断群(definite)1)+3)を満たすものを準確診群(probable),1)+2)のみをたすものを疑診群(possible)とする.ただし,できる限り組織診断を加えて,各臓器の悪性腫瘍(癌,悪性リンパ腫など)や類似疾患(Sjogren症候群,原発性硬化性胆管炎,Castleman病,満(,)二次性後腹膜線維症,Wegener肉芽腫,サルコイドーシス,Churg-Strauss症候群など)と鑑別することが重要である.(142) を経験した.IgG4関連眼疾患は涙腺部に病変が多いと報告されているが,筋円錐内や眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤様の腫瘤など,さまざまな部位にみられる可能性がある.涙腺部以外の眼窩内腫瘤を認めた場合,IgG4関連眼疾患も念頭において,生検が可能であれば積極的に施行する必要があると考えられた.文献1)「IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に関する研究班」「新規疾患,IgG4関連多臓器リンパ増殖性疾患(IgG4+MOLPS)の確立のための研究班」:IgG4関連疾患包括診断基準2011.日内会誌101:795-804,20122)TakahiraM,OzawaY,KawanoMetal:ClinicalaspectsofIgG4-relatedinflammationinacaseseriesofocularadnexallymphoproferativedisorders.IntJRheumatol2012:635473,20123)HamanoH,KawaS,HoriuchiAetal:HighserumIgG4concentrationinpatientswithsclerosingpancreatitis.NEnglJMed344:732-738,20014)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:Anovelclinicalentity,IgG4-relateddisease(IgG4RD):generalconceptanddetails.ModRheumatol22:1-14,20125)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:ComprehensivediagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease(IgG4-RD),2011.ModRheumatol22:21-30,20126)HigashiyamaT,NishidaY,UgiSetal:AcaseofextraocularmuscleswellingduetoIgG4-relatedsclerosingdisease.JpnJOphthalmol55:315-317,20117)曽我部由香,小野葵,藤井一弘ほか:眼窩内病変を呈したIgG4関連疾患の2例.眼紀4:675-681,20118)SogabeY,MiyataniK,GotoRetal:PathologicalfindingsofinfraorbitalnerveenlargementinIgG4-relatedophthalmicdesease.JpnJOphthalmol56:511-514,20129)大原有紗,豊田圭子,土屋一洋ほか;当施設で経験した頭頸部領域のIgG4関連疾患.臨床放射線57:442.447,201210)WallaceZS,KhosroshahiA,JakobiecFAetal:IgG4relatedsystemicdiseaseasacauseof“idiopathic”orbitalinflammation,includingorbitalmyositis,andtrigeminalnerveinvolvement.SurvOphthalmol57:26-33,201211)KamisawaT,YoshiikeM,EgawaMetal:Treatingpatientswithautoimmunepancreatitis:resultsfromalong-termfollow-upstudy.Pancreatology5:234-238,200512)YamamotoM,TakahashiH,OharaMetal:AnewconceptualizationforMikulicz’sdiseaseasanIgG4-relatedplasmacyticdisease.ModRheumatol16:335-340,200613)中村洋介,武田憲夫,八代成子ほか:両側涙腺腫脹を生じたIgG4関連涙腺炎の2例.臨眼65:1493-1499,2011***(143)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141223