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シース誘導内視鏡下穿破法施行時にシースが涙道内に迷入した1例

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):747.749,2014cシース誘導内視鏡下穿破法施行時にシースが涙道内に迷入した1例髙嶌祐布子*1加藤久美子*1松永功一*1小林正佳*2近藤峰生*1*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科LossofSheathduringSheath-GuidedEndoscopicProbingofLacrimalDuctYukoTakashima1),KumikoKato1),KoichiMatsunaga1),MasayoshiKobayashi2)andMineoKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOtorhinolararyngology-HeadandNeckSurgery,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine58歳,女性が左涙.炎後の左眼の流涙症治療を希望して三重大学医学部附属病院眼科を受診した.涙管通水試験にて分泌物の逆流を認め,通水しなかった.涙道内視鏡施行時,涙.内に多量の分泌物を認め視認性が低かったため,シース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP)を試みた.鼻涙管開放時にシースの把持が不十分であったためシースが涙道内に迷入したが,鼻咽腔ファイバースコープ下にて下鼻道に突出したシースを確認して無事回収することができた.SEPを行う際は十分な長さのシースを作製し,シースを把持する手技に習熟する必要があると考えた.A58-year-oldfemalewithahistoryofleftdacryocystitispresentedwithepiphoraofherlefteye.Irrigationofthelacrimalductresultedinretrogradeflowoutoftheupperpunctum.Shewasdiagnosedwithlacrimalductobstructionandunderwentdacryoendoscopicprobingofthelacrimalduct.Becausethelacrimalsacappearedhazywithsecretion,sheath-guidedendoscopicprobing(SEP)wasperformed.Duringtheprocedure,wewereabletounblocktheobstruction,butlostthesheath,mostlikelybecausewedidnotholdontoitfirmlyduringtheprobing.Rhinoscopyshowedthesheathintheinferiornasalmeatus;itwasrecoveredwithnocomplications.Werecommendthatwhenthelacrimalductisexploredbyshield-guideddacryoendoscopicprobing,itisimportantthatthesheathbelongenoughtobesecurelygraspedbytheotherhand.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):747.749,2014〕Keywords:涙道内視鏡,鼻涙管閉塞,シース誘導内視鏡下穿破法(SEP),シース迷入.dacryoendoscopy,lacrimalductobstruction,sheath-guidedendoscopicprobing,lostsheath.はじめに涙道閉塞に対し,涙道内視鏡下涙道再建術が広く行われるようになった.涙道内視鏡では内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)が汎用されている1).DEPは涙道内の閉塞部位を観察しながら穿破することができる画期的手法であるが,内視鏡の先端が粘膜に接しているときには穿破する過程を観察することが不可能であった.そのため,2007年杉本は,テフロン製チューブもしくは血管留置用18Gエラスター針を涙道内視鏡の外筒(以下,シース)として装着し,先行したシース先端で閉塞部を開放するシース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP)を報告した2).今回SEP時にシースが涙道内に迷入した症例を経験したので報告する.I症例患者:58歳,女性.主訴:左眼流涙.家族歴:特記事項なし.現病歴:1週間前より左眼周囲の腫脹,発赤を認め,近医受診.左涙.炎と診断され,抗生剤内服,点眼にて涙.炎は〔別刷請求先〕髙嶌祐布子:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:YukoTakashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-shi,Mie-ken514-8507,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)747 治癒したが左眼流涙症が残り,治療目的で三重大学医学部附属病院眼科を紹介され受診した.既往歴:特記事項なし.初診時所見:眼位,眼球運動,対光反応,前眼部,中間透光体,眼底に異常なし.左涙管通水試験では通水せず,涙.洗浄で分泌物の逆流を認めた.検査所見より左鼻涙管閉塞と考え,同日涙道内視鏡下涙道再建術を施行した.涙道内視鏡所見:涙.内に分泌物が多量に認められ視認性が低下していた.DEPを行ったが,涙道内にエアーが入りさらに視認性が低下した.シースを先行させることで視認性を確保しようと考え,SEPを施行した.左手で涙道内視鏡を固定しながら右手でシースを把持してSEPを行っていたが,鼻涙管を開放する際に涙道内視鏡を右手に持ち替えた.その際に左手でシースを把持せずに,右手で涙道内視鏡を操作し鼻涙管を開放した.涙道内視鏡にて鼻涙管が開放されたことを確認した.涙道内視鏡を抜去する際にシースが涙道内視鏡に付いていないことに気づいた.涙点から鑷子でシースを摘出しようと顕微鏡下で涙点を拡大して観察したが,シースを確認することができなかった.その後,シースの位置を確認するために,上涙点から涙道内視鏡を挿入した.シースシース涙.底部鼻涙管にシースが入ってる図1涙道内に迷入したシース涙道内に迷入したシースを上涙点から挿入した涙道内視鏡で観察した.748あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014後端は涙.入口付近に,シース先端は鼻涙管内にあり(図1),涙点からのシース回収は不可能であった.経鼻的にシースを回収することを考え,鼻内視鏡を施行した.シース先端は鼻腔内に露出しており(図2),鼻咽腔ファイバースコープ下に鑷子でシースを回収した.回収したシースの全長を測定したところ48mmであった.シース回収後,チューブの留置を行ったが,チューブ抜去後再閉塞をきたしたため,涙.鼻腔吻合術鼻内法を施行した.現在はチューブ留置中ではあるが,涙管通水試験では通水を認め,経過良好である.II考按本症例では,SEPにて鼻涙管下部の閉塞を開放する際に,涙道内にシースが迷入してしまった.その原因として3点が考えられる.1つ目は,涙道内視鏡施行時に視認性が低下しており,モニターに集中するあまり手元への意識が薄くなったことである.視認性の低下は涙道内の貯留物のためと考えられ,もう一方の涙点から貯留物の逆流を認める場合は,まず内視鏡下で十分に灌流を行い,内容物を除去するなど,視認性を向上させるよう努めるべきであった.2点目は,内視鏡とシースを操作する手を途中で持ち替えたこと,3点目は,シースを把持せずに内視鏡操作を行ったことである.モニターの画像を観察しながら内視鏡を操作する場合でも,シースを必ず把持する手技に習熟する必要がある.また,シースが迷入した場合でも,シースを回収することができるよう十分図2下鼻道に露出したシースシースを矢印で示した.鼻咽頭ファイバースコープにて下鼻道側壁に突き刺さっているシースを確認した.鼻腔が狭いため鼻涙管開口部は確認できなかった.下鼻甲介下鼻道側壁上下右左(122) な長さのシースを作製する必要がある.また,本症例は鼻中隔弯曲および鼻中隔結節を合併しており,後に行ったDCR(涙.鼻腔吻合術)鼻内法では鼻粘膜下組織減量が必要と考えられるほど,鼻腔が狭い症例であった.そのため,涙道内視鏡下涙道再建術時に鼻内視鏡にて鼻涙管開口部は確認できず,本症例で再閉塞した原因として,本来の鼻涙管が開放できていなかった可能性が考えられた.涙道は,涙点から下鼻道の外側壁にある鼻涙管下開口部までをいう3).栗橋は,日本人の成人の涙道の各部の長さは,涙点から内総涙点までが平均11mm,涙.の左右径が平均3mm,涙.の長さは平均10mm,鼻涙管全長は平均17mmと述べている4).これによると,涙道の長さは平均して約38mmとなる.ただ,涙道の長さは個体差が大きく,30.45mmとされている5).井上はSEPの際に18Gエラスター針を用いる際は,迷入を避けるために45mm以上のものを使用することが必要であると述べている6).今回は48mmの長さで作製していたがシースが迷入してしまった.シース先端が鼻腔内に露出していたため経鼻的にシースを回収することが可能であった.しかしながら,鼻内視鏡を用いずに涙道内視鏡を施行している施設も多数あり,その際にはこの長さでは涙道へのシースの迷入,回収不能に陥るケースを防ぐことができない.どのような施設でも安全にSEPを行うためには,さらに長いシースを作製する必要がある.現在筆者らがシース作製に用いている血管内留置針は全長が64mmある(TERUMOR).シースを作製する際に,切り取らず64mmのまま使用することで涙道内へのシース迷入が防げるのではないかと考えた.今回筆者らは,涙道内視鏡下涙道再建術時にシースが涙道内に迷入した1例を経験した.SEPを施行する際には十分な長さのシースを作製することに加え,涙道内視鏡の視認性を低下させないように努めること,モニターに集中しながらも内視鏡のハンドピースやシースを的確に操作する手技に習熟することが重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).眼科手術16:485-491,20032)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20073)宮久保純子:涙道の解剖.あたらしい眼科30:885-889,20134)栗橋克昭:涙.鼻腔吻合術と眼瞼下垂手術I涙.鼻腔吻合術.涙.鼻腔術─涙道疾患,眼瞼下垂症,交感神経過緊張,セロトニン神経─.眼科診療プラクティス80,p1-10,文光堂,20085)後藤英樹,後藤聡:眼付属器疾患とその病理.涙道の解剖.眼科診療クオリファイ10:136-140,20126)井上康:涙道内視鏡による標準的治療.眼科手術24:155-159,2011***(123)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014749

涙道内視鏡が病態の把握に有用であった涙小管乳頭腫の1例

2013年9月30日 月曜日

《第1回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科30(9):1305.1308,2013c涙道内視鏡が病態の把握に有用であった涙小管乳頭腫の1例毛塚由紀子*1堀裕一*1出口雄三*1芦澤純也*1柴友明*1前野貴俊*1蛭田啓之*2*1東邦大学医療センター佐倉病院眼科*2同病理部ACaseofLacrimalCanalicularPapillomaEvaluatedUsingDacryoendoscopyYukikoKezuka1),YuichiHori1),YuzoDeguchi1),JunyaAshizawa1),TomoakiShiba1),TakatoshiMaeno1)andNobuyukiHiruta2)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofPathology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter今回,流涙を主訴とした涙小管を充.した巨大な涙小管乳頭腫を経験し,涙道内視鏡が病態の把握に有用であったので報告する.症例は,58歳,男性,右眼の流涙を主訴に紹介受診となった.右下眼瞼の涙点から突出した下涙点を塞ぐように存在するカリフラワー状腫瘤を認め,流涙の原因と考えられた.涙道内視鏡にて観察したところ,総涙小管を越えたところまで腫瘤が伸びていた.涙小管内に連なった全長約17mmの細長い腫瘤を摘出し,終了時に涙道内視鏡を用いて涙道内に腫瘤の残存がないことを確認した.病理組織学的に乳頭腫と診断された.術後再発予防として0.02%マイトマイシンC点眼を行い,術後12カ月間経過良好である.涙小管乳頭腫は原発が涙小管であるため発見に比較的時間がかかり,大きくなってから流涙を主訴として受診すると考えられる.涙道内視鏡は,本疾患の病態の把握や治療戦略を考えるうえで非常に有用であると思われる.Wereportacaseoflacrimalcanalicularpapillomathatwasevaluatedusingdacryoendoscopy.A58-year-oldmalewasreferredtoourhospitalwithahistoryofepiphoraofafewmonthsduration,andarecurrenttumorintheinnercanthusoftherighteye.Slit-lampexaminationshowedacauliflower-likemassprotrudingfromtherightlowerpunctum,whichwasthoughttobethecauseoftheepiphora.Dacryoendoscopyrevealedthatthemasshadgrownthroughthelowerlacrimalcanaliculusandreachedthecommoncanaliculus.The17-millimeter-longresectedtumorwasdiagnosedasapapilloma.Weapplied0.02%mitomycinCeyedropsfor4weekstopreventarecurrence.Thetumorhasnotrecurredfor12monthssincetheexcision.Dacryoendoscopywasausefuldeviceforevaluatingthelacrimalcanalicularpapilloma,andtheinstillationofmitomycinCeyedropspreventeditsrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(9):1305.1308,2013〕Keywords:涙小管乳頭腫,涙道内視鏡,流涙,マイトマイシンC.lacrimalcanalicularpapilloma,dacryoendoscopy,epiphora,mitomycinC.はじめに涙小管乳頭腫は,Williamsらによると,1818年にDemaiensによって初めて報告された片眼性で流涙を主訴とする再発を繰り返す疾患であり1),国内外の文献的にはその報告はあまり多くはない2.4).涙小管乳頭腫は結膜乳頭腫と異なり,初期のうちは発見されず,涙小管内で発育してから流涙や腫脹に気づくため発見が遅れ,早期からの治療を行うことは困難であると思われる.涙道の閉塞病変に対して涙点から涙道内腔を観察しようとする考え方は,古くは1979年のCohenの研究にはじまる5).わが国では1999年に佐々木が涙道内視鏡を涙道手術に利用することを報告している6).その後,わが国で,鼻涙管閉塞に対して涙道内視鏡を用いた新しい術式が次々と報告され7,8),それまで盲目的に行っていた涙管手術が内視鏡下で〔別刷請求先〕毛塚由紀子:〒285-8741佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:YukikoKezuka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura,Chiba285-8741,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(105)1305 確実に行えるようになった.涙道内視鏡を用いることで洗練された治療が行えるようになり,現在では日常診療で涙道疾患の診断や治療に広く使われている.今回繰り返し発症した涙小管乳頭腫に対して,病態の把握に涙道内視鏡が有用であった1例を経験したので報告する.I症例症例は58歳,男性で,流涙および下涙点周囲の腫瘤のため,精査目的で2011年8月当科紹介受診となった.既往歴としては,右眼流涙を主訴に1年前に近医を受診したところ,右眼下涙点付近に腫瘤を認めたため,切除術を受け(詳細不明),その後一旦流涙は止まったが,数カ月前から流涙が再発したとのことであった.初診時,右眼視力0.07(1.2×.9.50D),右眼眼圧12mmHgと問題なく,前眼部所見では右眼下眼瞼結膜の涙点から突出した腫瘤を認め,その近傍に円形の衛星病変を認めた(図1).角膜・中間透光体・眼底は異常を認めなかったが,涙液メニスカスは左眼に比べ高かった.通水試験では,上涙点からは通水可能であり,下涙点は腫瘤が涙点を塞ぐように存在していたが,腫瘤の脇から通水針で確認したところ,通水は可能であった.涙点周囲および涙小管垂直部には腫瘤の起始部と思われる箇所は通水針で触れることができず,本腫瘤は涙小管水平部から発生したものと考えられたが,通水試験のみでは詳細は不明であった.腫瘤は下涙点を塞ぐように存在しており,流涙の原因と考えられた(図1).治療および精査目的のため,同月,涙道内視鏡検査を施行した.まず病変のない上涙点から涙道内視鏡を挿入して検査したところ,総涙小管付近に下涙小管から伸展する隆起性病変を認めた(図2)ため,下涙点から突出していた腫瘤は,図1初診時の右眼下眼瞼右眼下涙点を塞ぐように突出した腫瘤を認め,下眼瞼結膜に乳頭腫様の衛星病変を認めた(矢印).涙点から下涙小管垂直部および水平部を充満し,総涙小管を越えたあたりまで伸展していると考えられた.つぎに,下涙点からの涙道内視鏡検査においても涙小管内に腫瘤が存在し,総涙小管を越えたあたりまで続いていることは確認できたが,涙小管水平部にあると思われた腫瘤の起始部は確認できなかった.涙点切開後,腫瘤を鑷子にて把持し,涙点から少しずつ引っ張り出していったところ,全長約17mmの細長い腫瘤を摘出することができた(図3).腫瘤の涙小管への付着部(起始部)は,切開した涙点から剪刃を挿入して切除し,詳細な計測は不可能であったが,剪刃で切除した長さから推測すると1.2mm程度であったと考えられた.また,眼瞼結膜にあった衛星病変も切除した.最後に涙道内視鏡を用いて涙小管,涙.に腫瘤の残存がないことを確認して手術を終了した.その後の病理組織学的検査にて,涙小管から摘出した腫瘤図2右眼上涙点からの涙道内視鏡映像病変のない上涙点から内視鏡を挿入し観察したところ,総涙小管から涙.に入った付近において下涙小管から伸展する腫瘤を思わせる隆起性病変(矢印)を認めた.図3摘出した涙小管に充満した腫瘤全長約17mmであった.1306あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(106) 200μm50μm200μm50μm図4摘出した涙小管腫瘤組織のHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色重層扁平上皮の不整な肥厚がみられ,線維,血管性の樹枝状間質を中心とした乳頭状増生が認められ,乳頭腫と診断された.および結膜の衛星病変ともに,重層扁平上皮の不整な肥厚,線維および血管性の樹枝状間質を中心とした乳頭状増生が認められ,摘出した腫瘤は,乳頭腫と診断された(図4).腫瘤の起始部が涙小管であったことより本疾患は涙小管乳頭腫と診断した.今回の病理組織学的検査からはヒトパピローマウイルス(HPV)に関連すると思われる核封入体は認められず,PCR(polymerasechainreaction)検査でもHPVは陰性であった.術後は,レボフロキサシン点眼および0.1%フルオロメトロン点眼(1日4回)に加え,再発予防のためにShieldsらのプロトコールに従って0.02%マイトマイシンC(MMC)点眼を1週間ごとに投薬と休薬を繰り返し合計4週間投与した9).術後1週間の再診時には,流涙は消失し,通水可能であった.術後2カ月の再診時において細隙灯顕微鏡上では再発を認めず,通水を認め,通水針による確認でも腫瘤の存在は否定的と思われ,すべての点眼を中止した.今回の投与期間中,MMC点眼による角膜障害や涙小管の狭小化は認められなかった.患者には,涙小管および涙.内の再発の有無の確認のため,再度涙道内視鏡検査を受けることを勧めたが,(107)同意は得られず,そのまま外来にて経過観察となった.術後12カ月の時点においても流涙は認められず,細隙灯顕微鏡検査でも再発を認めていない.II考按今回,流涙を主訴として受診し,涙点から突出して総涙小管から涙.付近まで細長く連なった巨大な涙小管乳頭腫の1例を経験した.摘出前に涙道内視鏡検査を施行することで,腫瘤の大きさを把握することができ,本症例に対しては涙道内視鏡が治療に有用であったと考えられた.術後再発予防のため0.02%MMC点眼を隔週で4週間投与し,副作用もみられず術後12カ月において再発を認めなかった.本症例では,涙点から突出していた腫瘤の大きさよりもはるかに大きい腫瘤が涙小管に伸展しており,術前には細隙灯顕微鏡下では,腫瘤の大きさの予測ができなかった.涙道内視鏡は,涙小管,涙.内の観察を直接行うことができるため,本疾患のような涙小管における腫瘤の病態の把握に非常に有用だと考えられる.結膜乳頭腫の治療にMMC局所投与が有効であると以前から報告されている9.11).北野らは,再発する涙小管乳頭腫に対して切除後0.04%MMC点眼併用が有用であったと報告している3).本症例に対しても術後再発予防としてMMC点眼を用いた.MMC点眼の濃度については,筆者らは以前に結膜乳頭腫に対する0.04%MMC点眼により角膜障害の事例を経験しており11),今回は0.02%の濃度のものを使用した.MMC点眼に関しては,乳頭腫の治療には有効であるといわれているが,角膜上皮障害や涙点狭窄などの重篤な合併症をきたす可能性があり,使用の際には十分な注意が必要と考える.今回の症例を経験して,いくつか気づいた点および反省点がある.一つ目は,今回,下涙点からの涙道内視鏡の挿入で,腫瘤の存在は確認できたものの,乳頭腫の涙小管起始部の位置は確認できなかった.私見としては,もう少し涙道内視鏡の解像度が良ければという印象であった.今後,涙道腫瘍の診断や病態把握に涙道内視鏡を応用していくには,内視鏡の解像度や操作性をさらに改良していく必要があると考えられた.二つ目は,今回の症例のように涙小管に対する手術においては,術後の涙小管の良好な再生を促し,MMC点眼による涙小管狭窄の予防のため,涙管チューブを術後に留置すべきという議論がある.本症例では,当科においてこのように巨大な涙小管腫瘍が初めての経験であり,もともとこのような巨大な腫瘍であることを予測していなかった.術前にCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)も撮っておらず,悪性腫瘍の否定もできていなかったために切除のみで涙管チューブを入れずに手術を終了したが,術中迅速診断などで良性の涙小管乳頭腫と確認するなどの方法をとってあたらしい眼科Vol.30,No.9,20131307 いれば,安心して涙管チューブ留置に踏み切れたのではと考えた.また,インプレッションサイトロジーなどを行ってあらかじめ細胞をとり,悪性,良性の判定をする方法も考えられ,今後の検討課題にしたい.三つ目は,本疾患は,再発を繰り返すことが多く,今後の再発の有無を早期から発見するためには,術後に定期的な涙道内視鏡検査が必要であると考える.しかしながら,本症例においては患者の同意が得られず,細隙灯顕微鏡のみの経過観察となっている.これは,筆者らの術前における患者への説明が不十分であったためであると考え,今回の反省点としたい.涙小管乳頭腫は,原発が涙小管であるために発見に時間がかかり,流涙などを主訴として受診する際には,本症例のように非常に大きくなっていることが多いと考える.病態の把握および再発の確認には,涙道内視鏡が有用であると思われ,今後このような疾患に対しては必須の検査になりうると考える.さらに発展させて,腹腔鏡手術のように双手法などで,病態の把握から切除まですべての操作を涙道内視鏡下で行うことが可能となるような器具や術式の改良が望まれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WilliamsR,IlsarM,WelhamRAN:Lacrimalcanalicularpapillomatosis.BrJOphthalmol69:464-467,19852)SladeCS,KatzNN,WhitmorePVetal:Conjunctivalandcanalicularpapillomasandichthyosisvulgaris.AnnOphthalmol20:251-255,19883)高橋美智子,渡部環,塩野貴ほか:涙小管乳頭腫の1例.臨眼44:978-979,19904)北野愛,中井敦子,雑賀司珠也:涙小管に発育した乳頭腫の1例.臨眼63:1533-1536,20095)CohenSW,PrescottR,ShermanMetal:Dacryoscopy.OphthalmicSurg10:57-63,19796)佐々木次壽:涙道内視鏡所見による涙道形態の観察と涙道内視鏡併用シリコーンチューブ挿入術.眼科41:15871591,19997)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).眼科手術16:485-491,20038)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20079)ShieldsCL,ShieldsJA:Tumorsoftheconjunctivaandcornea.SurvOphthalmol49:3-24,200410)Frucht-PeryJ,RozenmanY:MitomycinCtherapyforcornealintraepithelialneoplasia.AmJOphthalmol117:164-168,199411)森本裕子,堀裕一,井上智之ほか:マイトマイシンC点眼が有効であった角結膜腫瘍の6例.眼臨紀3:556-561,2010***1308あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(108)