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液垂れを低減する点眼ノズルの形状の開発

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1611.1616,2023c液垂れを低減する点眼ノズルの形状の開発藤本高志山口正純大久保宏哉高見勇人千寿製薬株式会社DevelopmentofanEyeDropNozzleShapethatReducestheAdhesionofLiquidTakashiFujimoto,MasazumiYamaguchi,HiroyaOkuboandHayatoTakamiSenjuPharmaceuticalCo,.Ltd点眼容器のノズル形状および薬液の物性によっては,点眼するときの角度によりノズル側面に薬液が垂れる現象である「液垂れ」が生じることがある.この液垂れを低減することを目的とした点眼ノズルを開発した.自社の従来のノズル形状では滴下する角度が45°以下から徐々に液垂れが認められた.一方,液垂れの低減を目的としたノズル形状は,表面張力40.9mN/m以上および粘度45.0mPa・s以下の物性の薬液であれば,20°で滴下させても液垂れは認められなかった.液垂れはノズル先端の半径(R)が影響しており,Rが小さいほうが液垂れは起こりにくかった.したがって,開発したノズル形状はノズル先端のRが小さく,自社の従来のノズル形状より液垂れを低減する効果があった.Dependingontheshapeofthenozzleofaneye-dropcontainerandthephysicalpropertiesofthedrugsolu-tion,“adhesionofliquid”(aphenomenoninwhichthedrugsolutionadheresanddripsfromthesideofthenozzle)canoccurduetotheangleatwhichtheeye-dropsareinstilled.Hereinwereportthedevelopmentofanophthal-micnozzlethatreducestheadhesionofliquid.Usinganeyedropcontainerwithaconventionalnozzleshape,adhe-sionofliquidwasobservedwhenthedropswereinstilledatanangleofbelow45°.However,usingacontainerwithournewnozzleshapedesignedtoreducetheadhesionofliquid,noadhesionwasobservedatthedroppedangleof20°foradrugsolutionwithasurfacetensionofover40.9mN/mandaviscosityofunder45.0mPa・s.Our.ndingsrevealedthattheradius(R)ofthenozzletipa.ectedtheadhesionofliquid(i.e.,adhesionwaslesslikelytooccurwhentheRwassmall),andthatcomparedtotheconventionalnozzleshape,ournewlydevelopednozzleshapewithasmallerRnozzletipwasmoree.ectiveinreducingtheadhesionofliquidanddrips.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(12):1611.1616,2023〕Keywords:点眼容器,ノズル,液垂れ,表面張力,滴下角度.eyedropcontainer,nozzle,adhesionofliquid,sur-facetension,dropangle.はじめに点眼容器で点眼する際に,斜めに薬液を滴下するとノズル形状によっては,薬液がノズル側面に垂れる現象,つまり「液垂れ」が生じることがある.点眼剤は,繰り返し使用する無菌製剤である.とくにノズル先端に液が垂れた状態でキャップの開閉を繰り返すと,内溶液が微生物に汚染される原因になる.これ以外の問題点として,①ノズル先端(側面)が濡れることで,液が漏れているように見える.②点眼するときに不衛生である.③点眼時に必要な総液滴数が減り,点眼期間が短くなることがあげられる.これらのことから「液垂れしない」もしくは「液垂れしにくい」ノズルの開発が求められている.点眼時に液垂れが生じる要因として,ノズルの先端形状に起因することが大きいと考えられる.さらに,ノズル先端部の表面状態(濡れやすさ,あるいは濡れにくさ)および薬液の物性(表面張力および粘性)も影響する1,2).近年,液垂れを防止する,あるいは低減することを目的としたノズル形状として,ノズル先端をきのこ状に半円に突出させたような形状3)が用いられている.また,ノズル先端に微細な溝を入れた形状4)も研究されている.しかし,ノズル先端をきのこ状に半円に突出させた形状や溝がある形状にした場合,その形状がきれいに成型されないと液垂れを防止,もしくは低減す〔別刷請求先〕山口正純:〒679-2215兵庫県神崎郡福崎町西治767-7千寿製薬株式会社生産本部生産企画部Reprintrequests:MasazumiYamaguchi,Ph.D.,ProductionDivision,ProductionPlanningDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,767-7Saiji,Fukusaki-machi,Kanzaki-gun,Hyogo672-2215,JAPAN形状特徴対照ノズル一般的な円錐形のノズル形状で,ノズル先端から側面にかけて大きな曲線(以下,R)になっている形状評価ノズルノズル先端を細く円筒形にし,ノズル先端のRが小さい形状図1ノズル形状とその特徴対照ノズル:通常のノズル形状(材質:PE),評価ノズル:液垂れの低減を目的としたノズル形状(材質:PE).る効果を発揮することはむずかしい.その形状をきれいに成型するには,シンプルなノズル形状が求められる.通常のノズル形状と同様にシンプルなノズル形状で,かつ液垂れを防止,あるいは低減できるノズル形状にすることが望ましい.眼科薬メーカーなどのホームページで正しい点眼方法が紹介5,6)されている.しかし,点眼するときの点眼ノズルの角度を何度まで傾けてよいかなどの情報は紹介されていない.患者ごとに点眼しやすい角度で点眼が行われ,点眼時のノズルの角度(滴下角度)は患者によってさまざまである.そこで,想定される点眼時の滴下角度の範囲内で液垂れを低減させること,また従来のノズルと同様にシンプルなノズル形状であることをコンセプトとしたノズル形状を開発した.通常のノズル形状と開発したノズル形状を比較し,液垂れに対する開発したノズルの効果を評価した.また,薬液の物性(表面張力および粘性)は液垂れに影響を及ぼすことから,液垂れが生じやすい薬液物性の点眼剤を用いて評価を行った.I試験材料1.容器ノズル(材質:ポリエチレン(PE)は,通常の千寿製薬で使用しているノズル形状(以下,対照ノズル)と,液垂れの低減を目的として開発したノズル形状(以下,評価ノズル)の2形状を用いて評価した.それぞれのノズル形状および特徴を図1に示す.キャップ(材質:ポリプロピレン(PP))は千寿製薬製を用いた.2.薬液千寿製薬の点眼液のなかで液垂れがしやすいと考えられる薬液物性の点眼液(表面張力40.9mN/m,粘度45.0mPa・s,以下,評価薬液),比較対照の点眼液(表面張力36.7mN/m,粘度1.0mPa・s,以下,比較薬液),コントロールとして精製水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s,以下,水)を用いた.図2滴下角度滴下角度を60°,45°,30°および20°で評価.図3液垂れなしと液垂れあり液垂れなし:ノズル先端に液が留まっている状態.液垂れあり:ノズル先端から側面に液が付着している状態.II方法1.滴下角度の違いによる液垂れの有無図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴ずつ2滴を滴下(1眼1滴として両眼で2滴を滴下することを想定)したときの液垂れの有無を目視で確認した.液垂れの有無を確認した後,使用時を想定して滴下後にキャップをトルクメータ(日本電産シンポ社,TNX-5)にて19±1N・cmで巻き締めた.評価薬液では1試料につき10回繰り返し,16試料(160回)での液垂れ回数を確認した(2滴滴下後の液垂れ回数).比較薬液および水では1試料につき10回繰り返し,5試料(50回)での液垂れの有無を確認した(2滴滴下後の液垂れの回数).液垂れが生じた場合は,そのつど,キムワイプでノズル先端を清拭してからキャップを巻き締めた.測定は23℃±2℃の環境下で行った.液垂れの有無の定義は,ノズル先端のR部(ノズル先端吐出穴から側面にかけて付加された曲線)に液が付着もしくは,液が留まっ図4先端のRを変えたときのノズル形状3Dプリンターでノズル先端のRを変えたものを3種類造形した(材質:アクリルライク,3Dプリンター:DWS社,XFAB2500).50対照ノズルおよび評価ノズル(n=16)107471500000対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)403000000100液垂れ回数(回)液垂れ回数(回)40302010060°45°30°20°滴下角度対照ノズル評価ノズル図5評価薬液における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移表面張力:40.9mN/m,粘度:45.0mPa・s.対照ノズルおよび評価ノズル:16試料×10回(計160回)で液垂れした回数をカウントした.ている状態を「液垂れなし」とし,ノズル側面までに液が垂れて付着している状態を「液垂れあり」とした(図3).2.滴下角度の違いによる液垂れ量の測定図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴を滴下し,電子天秤(ザルトリウス社,MSA225P-000-DI)で容器質量を測定した.ノズル先端をキムワイプで清拭した後,再び電子天秤で容器質量(ノズル清拭前の質量とノズル清拭後の質量の差)を測定した.評価薬液では1試料につき10回繰り返し,16試料の平均値(160回測定した平均値),比較薬液および水では1試料につき10回繰り返し,5試料(50回測定した平均値)をノズル先端への液残り量とした.測定は室温23℃±2℃の環境下で実施し,電子天秤は感量0.0001g表示とした.3.ノズル先端のRを変えたときの滴下角度の違いによる液残り量の測定ノズル先端のR(R=半径)の大きさを2mm,1.5mmおよび1mm(以下,R2mm,R1.5mmおよびR1mm)にした形状3種類を3Dプリンター(DWS社,XFAB2500)で造60°45°30°20°滴下角度対照ノズル評価ノズル図6比較薬液における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移表面張力:36.7mN/m,粘度:1mPa・s.対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)で液垂れした回数をカウントした.形(図4)し,図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴を滴下し,電子天秤で容器質量を測定した.ノズル先端をキムワイプで清拭した後,再び電子天秤で容器質量を測定した.1試料につき10回繰り返し,3試料の平均値(30回測定した平均値)をノズル先端への液残り量とした.測定は室温23℃±2℃の環境下で実施し,電子天秤は感量0.0001g表示とした.III結果1.滴下角度の違いによる液垂れの有無滴下角度の違いによる液垂れの有無の確認として,評価薬液,比較薬液および水で,液が垂れた回数を評価した(図5~7).その結果,評価薬液の場合,対照ノズルは滴下角度60°の滴下では,液垂れは認められなかった.しかし,滴下角度45°から徐々に角度が小さくなるに従い,液垂れする回数が増加した.一方,評価ノズルは,滴下角度60°.20°で液垂れは認められなかった.また,比較薬液では対照ノズルは,滴下角度60°.45°までは液垂れは認められなかった.1.200.80対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)00000000対照ノズルおよび評価ノズル(n=16)液垂れ回数(回)液残り量(mg)0.600.400.200.0060°45°30°20°60°45°30°20°滴下角度滴下角度対照ノズル評価ノズル対照ノズル評価ノズル図7水における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移図8評価薬液における滴下角度違いによる液残り量対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)で液垂対照ノズルおよび評価ノズル:16試料×10回(計160回)の液れした回数をカウントした.残り量の平均値をmg換算した.表1評価薬液における対照ノズルの各滴下角度における液垂れ回数の内訳単位=回実施回数1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目9回目10回目合計60°0000000000045°00000133261530°0616411211244720°0151410121012101410107n数=各16×10,160回確認したときの液垂れ回数.対照ノズルの各滴下角度で液垂れした回数を確認した結果,滴下角度が小さくなるに従い液垂れする回数が増加した.表2比較薬液における対照ノズルの各滴下角度における液垂れ回数の内訳単位=回実施回数1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目9回目10回目合計60°0000000000045°0000000000030°0000001110320°044455445540n数=各5×10,50回確認したときの液垂れ回数.対照ノズルの各滴下角度での液垂れした回数を確認した結果,滴下角度20°で液垂れ回数が増加した.しかし,滴下角度30°でわずかに液垂れが認められ,滴下角おける滴下角度の違いによる液垂れ回数の内訳(表2)を確度20°ではほぼ全数に液垂れが認められた.評価ノズルは,認すると,滴下角度30°は7回目以降から液垂れが認められ滴下角度20°でも液垂れは認められなかった.た.また,滴下角度20°では,1回目では液垂れは認められ評価薬液での対照ノズルの滴下角度の違いによる液垂れ回なかったが,2回目以降はほぼすべてに液垂れが認められた.数の内訳(表1)を確認すると,どの滴下角度でも1回目でこれらのことから,キャップの巻き締めを繰り返すことで,は液垂れは認められなかった.しかし,45°では6回目,30°ノズル先端に残った薬液が徐々にキャップ天面に蓄積され,からは2回目以降に液垂れが認められた.また,比較薬液にキャップ天面に付着した薬液によりノズル側面に濡れが生1.00対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)液残り量(mg)液残り量(mg)0.600.400.800.600.400.200.200.000.0060°45°30°20°60°45°30°20°滴下角度滴下角度対照ノズル評価ノズル評価ノズル対照ノズル図9比較薬液における滴下角度違いによる液残り量図10水における滴下角度違いによる液残り量対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)の液残対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)の液残り量の平均値をmg換算した.り量の平均値をmg換算した.4.00ていると考えられる.対照ノズルは,円錐形でノズル先端に(n=3)3.002.001.000.0060°45°30°20°滴下角度先端R2先端R1.5先端R1大きなR(R2mm)が付加された形状である.評価ノズルは,円筒形でノズル先端の吐出口から側面までがフラットであり,ノズル先端に小さなR(R0.3mm)が付加された形状である.つまり,ノズル先端のRが大きいと液切れが悪く,ノズル先端に残る液量が多くなる.ノズル先端のRが小さいと液切れがよくなり,ノズル先端に残る液量が少なくなると考えられる.このことは,薬液の物性からもわかるように,評価薬液の物性は表面張力40.9mN/m,粘度45.0mPa・sであり,比較薬液(表面張力36.7mN/m,粘度1.0mPa・s)よりも粘度が高い.また,コントロールとした水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s)は,評価薬液より表面張力は高く,粘度が低いが液垂れはしなかった.つまり,表面張力以外に粘度が液垂れに大きく影響していることがわかる.以上のことから,表面張力が低く,粘度が高い薬液のほうが,液垂れがしやすい薬液であると考えられる.したがって,評価薬液は液垂れしやすい薬液であると考えられた.3.ノズル先端のRを変えたときの滴下角度の違いによる液残り量の測定ノズル先端のRが小さいほうが液残り量は少なると考え,ノズル先端のRの大きさ(R2mm,R1.5mmおよびR1mm)を変えて,滴下角度の違いによる液残り量を評価した(図11).ノズル先端のRが小さいほど,滴下角度が小さくなっても,液残り量はノズル先端のRが大きいもの(R2mm)よりも減少した.このことから,対照ノズルと評価ノズルでの滴下角度の違いによる液残り量は,ノズル先端のRが影響していることが裏づけられた.IV考察健常人を用いた点眼容器の操作角度を調査した結果7)で液残り量(mg)図11ノズルの先端Rを変えたときの滴下角度違いによる液残り量造形3試料×10回(計30回)の液残り量の平均値をmg換算した.じ,液垂れがしやすくなったと考えられた.2.滴下角度の違いによる液残り量の測定評価薬液,比較薬液および水での滴下角度の違いによるノズル先端への液残り量を測定した(図8~10).その結果,評価薬液では,対照ノズルの滴下角度が小さくなる(60°→20°)に従い,液残り量が増加した.一方,評価ノズルは,滴下角度が小さく(60°→20°)なっても,角度差による液残り量に大きな差は認められなかった.また,比較薬液では,対照ノズルの滴下角度30°.20°で液残り量が増加した.評価ノズルでは,滴下角度が小さく(60°→20°)なっても液残り量はなかった.なお,水では対照ノズルおよび評価ノズルのどちらも,どの滴下角度においても液残り量はなかった.このことから,評価ノズルはノズル先端への液残り量を低減する効果があることがわかった.以上の結果から,液垂れにはノズル先端形状,とくにノズル先端のRが大きく影響しは,点眼時の角度が60°.69°が33.3%,50°.59°が23.3%と被験者全体の約60%を占めている.ついで40°.49°が20%であり,一般的な点眼時の滴下角度は90°.45°であるとされている.このことから,液垂れの要因として,45°以下で点眼されている可能性が考えられた.今回,45°以下の角度として,30°および20°の滴下角度を追加し,60°.20°の範囲で液垂れを評価した結果,対照ノズルは滴下角度が小さく(60°→20°)なるに従い,ノズル先端に残る量が多くなった.一方,評価ノズルでは,滴下角度が小さくなってもノズル先端に残る液量はほぼなかった.このことは,使用時を想定してキャップを繰り返し嵌合したときの滴下角度の違いによる液残り回数にも表れている.対照ノズルは,滴下角度が小さくなるに従い,液垂れがしやすくなり回数も増加する傾向にある.これは,キャップを巻き締めることにより,ノズル先端に残った薬液がキャップ天面に付着し,付着する薬液が徐々に蓄積されたと考えられる.キャップの開閉を繰り返すといずれは,ノズル側面にも濡れが生じる.ノズル側面が濡れると滴下する際に,濡れ面を伝いノズル側面まで薬液が流れ,液垂れが生じると考えられる.評価ノズルは液切れがよいため,ノズル先端の液残り量がなく,キャップの開閉を繰り返してもキャップ天面への薬液の付着が少ない.したがって,ノズル側面が濡れるまで至らず,結果的に液垂れが生じなかったと考えられる.以上のことより,ノズル先端に残る液残り量が多いほど,液垂れがしやすくなる.したがって,液垂れを低減もしくは防止する場合,滴下角度が小さくてもノズル先端に残る液残り量をできるだけ少なくできるノズル形状にする必要がある.つまり,ノズル先端のRを極力小さくすることが望ましい.このことはすでに述べたように,3Dプリンターで造形したノズル先端のRの大きさの違いで角度を変えて滴下した結果(図11)からも示唆されている.液切れをよくする方法として,ノズル先端を直角(エッジ形状)にするほうがよいが,点眼時にエッジが角膜に接触したときの危険性を考慮すると,少なくともRを付加する必要がある.また,ノズル形状以外では,ノズル先端の濡れ性(接触角度)を大きくすることも重要である.今回の評価には評価薬液に表面張力が40.9mN/mおよび粘度が45.0mPa・sのもの,比較薬液として表面張力が36.7mN/mおよび粘度が1.0mPa・sのもの,コントロールに精製水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s)を用いた.表面張力が低いと濡れやすく液体が付着したときの接触角度は鋭角になり,高いと濡れにくく接触角度は鈍角になる.また,粘度が高いと流れにくく,低いと流れやすい.このことから,評価薬液は表面張力が低く,粘度が高いため,液垂れがしやすい物性の薬液であるといえる.このような薬液でも,評価ノズルは滴下角度20°でも液垂れが起こりにくかった.V結論今回,液垂れを低減することを目的とし,ノズル形状が円筒形でノズル先端のRを小さくした形状(評価ノズル)を評価した.円錐形でノズル先端のRが大きい自社の従来のノズル形状(対照ノズル)と比較した結果,評価ノズルは自社の従来のノズル形状より液垂れを低減する効果が認められた.評価ノズルは,滴下角度90°.20°の範囲内であれば,患者がその範囲内で点眼しても,十分に液垂れを抑えることができると考えられる.評価ノズルでは,表面張力40.9mN/m以上および粘度45.0mPa・s以下の物性の薬液であれば,液垂れを低減することは可能であると考えられる.このような液垂れを低減するノズルを開発できたことにより,液垂れによる諸問題が改善され,患者にとっても使いやすく点眼療法に貢献できるノズルとして普及することが期待される.今後も患者に寄り添った優しい点眼容器をめざして,さらなる技術開発を続けていきたい.文献1)大矢勝:横浜国立大学教育人間科学部界面活性剤の作用【2】:表面張力とぬれの関係Ver.1.00,11.20,20042)高田保之:九州大学ぬれ性と表面張力伝熱学・熱流体力学における「のどの小骨」を流し込む.jour.HTSJ:43,43-48,20043)ロート製薬株式会社ジー|ロート製薬:商品情報サイト(https://jp.rohto.com/zi/)4)横山真男,瀬田洋平,矢川元基:容器口に刻んだ溝による液だれ防止の効果.日本機械学会論文集83:856,1-10,20175)千寿製薬株式会社目薬の正しい使い方|Eyeノート|一般生活者・患者のみなさま|千寿製薬株式会社(https://www.senju.co.jp/consumer/note/usage.html)6)日本眼科医会監修:医療関係者向け資料「点眼剤の適正使用のハンドブック-Q&A-」,20117)高橋佳子,樋上智子,倉本美佳ほか:兵庫医科大学病院薬剤部点眼剤容器の操作性に関する評価1滴滴下に及ぼす点在容器角度の影響.医療薬学30:475-482,2004***