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マイトマイシンC 点眼治療を行った異型性を伴う原発性後天性メラノーシスの1例

2020年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科37(9):1166.1170,2020cマイトマイシンC点眼治療を行った異型性を伴う原発性後天性メラノーシスの1例宇都宮寛高村浩公立置賜総合病院眼科CACaseofPrimaryAcquiredMelanosiswithAtypiaTreatedwithTopicalMitomycinCTherapyHiroshiUtsunomiyaandHiroshiTakamuraCDepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospitalCマイトマイシンCC(MMC)点眼治療で寛解が得られたと考えられたが,その後悪性黒色腫を発症した異型性を伴う原発性後天性メラノーシス(PAMwithatypia)のC1例を経験した.症例はC63歳,女性で,左眼球結膜の茶褐色の色素性病変を主訴に受診した.生検によりCPAMwithatypiaと診断し,MMC点眼による治療を施行したところ色素性病変の消退がみられた.治療終了からC2年C4カ月後に出血を伴う黒色の隆起性病変が出現した.病理診断にて悪性黒色腫と診断され,腫瘍切除術,冷凍凝固術,術後にCMMC点眼・インターフェロンCa-2b点眼治療を行った.治療後C1年C3カ月の時点で再発や転移は認められていない.CPurpose:Toreportacaseofprimaryacquiredmelanosis(PAM)withatypiatreatedwithtopicalmitomycinC(MMC)therapy.CCase:AC63-year-oldCfemaleCpresentedCwithCaCpigmentedClesionCinCtheCbulbarCconjunctivaCofCherlefteye.HistopathologicalexaminationrevealedPAMwithatypia,andshewastreatedwithtopicalMMCeye-droptherapy,whichdiminishedthelesion.However,at2yearsand4monthsposttreatment,aconjunctivalmalig-nantmelanomaappearedinthesameeye,andshewastreatedwithtumorresection,cryocoagulation,andtopicalMMCCandCinterferonCa-2bCtherapy.CConclusion:TreatmentCwithCtopicalCMMCCwasCe.ective,CwithCnoCrecurrenceCormetastasisobservedat1yearand3monthsposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(9):1166.1170,C2020〕Keywords:異型性を伴う原発性後天性メラノーシス,結膜悪性黒色腫,マイトマイシンCC点眼.primaryCac-quiredmelanosiswithatypia,conjunctivalmalignantmelanoma,topicalmitomycinC.Cはじめに結膜の原発性後天性メラノーシス(primaryacquiredmel-anosis:PAM)は後天性の扁平で無痛性の結膜の色素性病変で,通常は片眼性に生じる1).病変を構成するメラノサイトに異型性がみられないものをCPAMwithoutatypia,異型性を伴うものをCPAMwithatypiaと呼称する.PAMwithatypiaは悪性黒色腫に進展する可能性があるとされる2,3).CPAMCwithatypiaに対する治療法としてマイトマイシンC(mitomycinC:MMC)4)やインターフェロン(interferon:IFN)点眼治療があり,その有効性が報告されている4).今回,筆者らはCMMC点眼治療で局所コントロールが得られたと考えられたが,その後に悪性黒色腫を発症したPAMwithatypiaの症例を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.初診:2013年C9月.既往歴:神経線維腫症,脳出血後.現病歴:2011年頃から,左眼の球結膜に黒色病変が出現し,徐々に増大してきたため,精査目的に公立置賜総合病院眼科(以下,当科)に紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.2(1.2),左眼C0.3(1.0),眼圧〔別刷請求先〕宇都宮寛:〒992-0601山形県東置賜郡川西町大字西大塚C2000公立置賜総合病院眼科Reprintrequests:HiroshiUtsunomiya,DepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospital,2000Nishiotsuka,Kawanishi-machi,Higashiokitama-gun,Yamagata992-0601,JAPAN(126)C11660910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼の前眼部所見球結膜の鼻側上方を除くC3象限に隆起を伴わない茶褐色の色素性病変がみられる.また,下瞼結膜および瞼縁にも茶褐色の病変がみられる.図2生検による病理組織学的所見結膜上皮内に色素を伴うメラノサイトの増生がみられる.核の大小不同や異型性,核周囲の空胞化が認められる.上皮下のメラニン色素を伴う細胞はCmelanophageである(ヘマトキシリン-エオジン染色).は右眼C17,左眼C15CmmHgであった.左眼の球結膜の鼻側眼治療などを後療法として提示したが,患者が希望せず経過上方を除くC3象限に茶褐色の色素性病変が認められた.ま観察となった.た,下瞼結膜および瞼縁にも茶褐色の病変がみられた(図生検してC1年C7カ月後,病変が軽快しないと訴え再診したC1).両眼とも中間透光体から眼底にとくに異常所見はなかっので,MMC点眼治療を開始した.0.04%CMMC点眼治療はた.1週間1日4回投与,1週間休薬を1クールとし,約3カ月経過:生検はとくに色素が豊富な下方の病変に対して,1間にC7クール施行した.視診上,PAMはほぼ消失した.一%エピネフリン入りリドカインをCTenon.下に注入して,方,左眼の角膜に混濁がみられた(図3).病変を浮き上がらせた状態でC5Cmm大に剪刀で切除した.病MMC点眼治療終了後C2年C4カ月の時点で,左眼に出血を理組織学的に結膜基底層の上部に色素を伴うメラノサイトの伴う黒色の隆起性病変の出現がみられた(図4).病変は上瞼増生がみられた.核の大小不同や異型性,核周囲の空胞化が結膜から有茎性に発症していた.生検は球結膜側に垂れ下が認められ,PAMwithatypiaと診断された(図2).MMC点っている部位をオキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシール)図3PAMwithatypiaに対するMMC点眼治療2年後の左眼の前眼部所見a~c:初診時にみられた広範囲の球結膜のCPAMwithatypiaは消失している.Cd:角膜には混濁がみられる.図4PAMwithatypiaに対するMMC点眼治療2年4カ月後の左眼の前眼部所見a:耳側上方の眼瞼下に出血を伴う隆起性の黒色病変がみられる.Cb:腫瘍の根元の部位.病変は瞼結膜から有茎性に増殖している.点眼麻酔のうえ,剪刀で切断した.病理組織学的に,結膜上皮下にメラニン色素を有し,核の大小不同,mitosisを呈する異型細胞がシート状に増殖している像がみられた(図5).免疫組織化学的に,腫瘍細胞はCHMB-45,S-100蛋白,Vimentinに陽性を示し,悪性黒色腫と診断された.そこで,結膜腫瘍を切除し,術中に冷凍凝固およびCMMC浸漬を施行し,術後にCMMC点眼治療をC2クール,その後,IFN点眼治療を連日C3カ月間施行した.その結果,1年C3カ月後の時点で局所再発や頸部リンパ節,肝臓などへの遠隔転移はみられていない(図6).CII考按PAMは結膜良性腫瘍のなかではC4%程度のまれな疾患である5),.PAMwithoutatypiaは病理組織学的に結膜の基底層にメラニン色素が沈着しており,メラノサイトの異型性はみられない.それに対してCPAMwithatypiaは核が大きく,図5MMC点眼治療2年4カ月後の結膜腫瘍の病理組織学所見シート状に増殖した腫瘍細胞は,メラニン色素を有し,核の大小不同・異型がみられ,密に増殖している(ヘマトキシリン-エオジン染色).図6悪性黒色腫治療1年3カ月後の左眼の前眼部所見a:上瞼結膜の耳側にあった悪性黒色腫は消失している.Cb~d:初診時にみられた広範囲の球結膜のCPAMwithatypiaの再発はみられない.角膜には混濁がみられる.核形やクロマチンパターンに多彩性(heterochromasia)や大きな核小体がみられ,細胞質に顆粒状のメラニンを含み,細胞質の退縮(retraction)のため核周囲が抜けてみえるなどのメラノサイトに異型がみられる.PAMCwithatypiaは前癌状態とされ,ShieldsらはそのC13%2)が,FolbergらはC46.4%3)が悪性黒色腫へ進展すると報告している.木村らは結膜悪性黒色腫の先行病変としてCPAMは最多と報告している6).PAMに対する治療としてはまず経過観察とし,病変が拡大・増殖が認められた場合に治療を始めるとされる.本症例は当初患者が治療を希望しなかったこともあり,生検からC1年C7カ月後から治療を開始した.PAMCwithatypiaに対してCMMC点眼治療が有効であるという報告4)に基づいて本症例に対してもC7クールのCMMC点眼治療を行った.その結果,球結膜のC3象限にわたるCPAMwithatypiaの病変はほぼ消退した.一方,角膜に混濁をきたした.MMC点眼治療の副作用として一時的な眼痛や結膜充血,眼瞼の発赤・腫脹から永続的な角膜混濁,角膜の結膜上皮化,輪部機能不全などがある.MMCの細胞障害作用により,正常細胞も障害されるためである.MMC点眼治療のほかには免疫賦活作用による腫瘍増殖抑制効果があるCIFN点眼治療があり7),副作用も少なくて有効である.一方,MMC点眼もCIFN点眼治療も保険適用外使用であるので,当科で投与した時点では当院の院内倫理委員会の承認を得て使用した.その後,MMCは自主回収され,IFN(イントロン)は製造・販売が終了したため,2019年C12月の時点では日本国内でも海外でも使用困難となっている.それらの代替としてC5-フルオロウラシル(5-FU)点眼治療の可能性も考えられるが,5-FUも保険適用外使用であり,使用する場合は倫理審査が必要である.本症例ではCPAMwithatypiaに対するCMMC点眼治療は有効であると考えられた.しかし,MMC点眼治療C2年C4カ月後に悪性黒色腫が発症した.結膜悪性黒色腫の治療としてもCMMC点眼治療は行われるが8),PAMCwithatypiaから悪性黒色腫への悪性転化の予防としてのCMMC点眼治療の効果は不十分なのか,MMC点眼治療から期間が経つと予防効果が減弱するのか,あるいはCPAMwithatypiaの悪性転化のCpotentialは非常に強いのかなどについて,今後,検討が必要と思われた.いずれにしても長期間の経過観察が必要であると考えられた.文献1)AlzahraniYA,KumarS,AzizHAetal:Primaryacquiredmelanosis:Clinical,ChistopathologicCandCopticalCcoherenceCtomographicCcorrelation.COculCOncolCPatholC2:123-127,20162)ShieldsCJA,CShieldsCCL,CMashayekhiCACetal:PrimaryCacquiredCmelanosisCofCtheconjunctiva:experienceCwithC311eyes.TransAmOphthalmolSocC105:61-72,C20073)FolbergR,McLeanIW,ZimmermanLE:Primaryacquiredmelanosisoftheconjunctiva.HumanPatholC16:129-135,C19854)DemirciCH,CMcCormickCSA,CFingerPT:TopicalCmitomy-cinCchemotherapyCforCconjunctivalCmalignantCmelanomaCandprimaryacquiredmelanosiswithatypia.Clinicalexpe-rienceCwithhistopathologicobservations.ArchOphthalmolC118:885-891,C20005)小幡博人:角結膜腫瘍総論A疫学的事項.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),p67-68,医学書院,C20156)木村圭介,臼井嘉彦,後藤浩:結膜悪性黒色腫C11例の臨床像と治療予後.日眼会誌116:503-509,C20127)加瀬諭,石嶋漢,野田実香ほか:インターフェロンCa-2b点眼液を補助療法として使用した結膜悪性黒色腫のC2例.日眼会誌115:1043-1047,C20118)平松彩子,四倉次郎,山本修一:結膜悪性黒色腫のC1例.臨眼58:1295-1298,C2004***