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梅毒による強膜炎の2 例

2022年5月31日 火曜日

《第54回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科39(5):649.654,2022c梅毒による強膜炎の2例播谷美紀伊沢英知南貴紘曽我拓嗣田中理恵東京大学医学部附属病院眼科CTwoCasesofBilateralSyphiliticScleritisTreatedbyIntravenousPenicillinGandTopicalBetamethasoneMikiHariya,HidetomoIzawa,TakahiroMinami,HirotsuguSogaandRieTanakaCDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC梅毒によるびまん性強膜炎をC2例経験したので報告する.症例C1はC65歳,男性.ステロイド点眼で症状が改善せずに東京大学医学部附属病院(以後,当院)を紹介受診した.両眼のびまん性強膜炎を認め,血液検査で梅毒血清反応(STS)定量C512倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜炎と考えられた.髄液検査で神経梅毒の合併と診断された.ペニシリンCG点滴治療,ベタメタゾンC0.1点眼を右眼C3回,左眼C2回で開始し強膜炎は改善した.症例C2は65歳,男性.9カ月前に発症した両眼の充血の増悪と前房内炎症があり,当院を紹介受診した.両眼のびまん性強膜炎と強膜菲薄化,前房内細胞C1+,硝子体混濁,眼底に多発する黄白色の斑状病変を認めた.血液検査でCSTS定量C256倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜ぶどう膜炎と考えられた.髄液検査で神経梅毒の合併と診断された.ペニシリンCG2点滴,ベタメタゾンC0.1点眼をC6回開始後,強膜ぶどう膜炎は改善した.CPurpose:Toreporttwocasesofsyphilis-relatedbilateraldi.usescleritisthatweretreatedbyadministrationofintravenouspenicillinGandbetamethasoneeyedrops.CaseReports:Case1involveda65-year-oldmalewhowasCreferredCtoCtheCUniversityCofCTokyoCHospitalCdueCtoChyperemia.CUponCexamination,CbilateralCdi.useCscleritisCwasCobserved,CandCtheC.ndingsCofCaCserologicCtestCforsyphilis(STS)andCaCtreponemaCpallidumChemagglutinationassay(TPHA)testCwereCbothCpositive.CCerebrospinalC.uidCexaminationCresultedCinCaCdiagnosisCofCneurosyphilis.CIntravenouspenicillinGandbetamethasoneeyedropswereadministered,andthescleritissubsequentlyimproved.Case2involveda65-year-oldmalewhowasreferredtoourhospitalduetohyperemia.Uponexamination,bilater-aldi.usescleritis,scleralthinning,andanteriorchambercellswereobserved.Fundusexaminationrevealedvitre-ousCopaci.cationCandCyellowishCspottyClesions,CandCSTSCandCTPHACtestCresultsCwereCbothCpositive.CCerebrospinalC.uidCexaminationCresultedCinCaCdiagnosisCofCneurosyphilis.CIntravenousCpenicillinCGCandCbetamethasoneCeyeCdropsCwereCadministered,CandCtheCscleritisCsubsequentlyCimproved.CConclusion:WeCexperiencedCtwoCcasesCofCsyphiliticCdi.usescleritisthatweree.ectivelytreatedviatheadministrationofintravenouspenicillinGandbetamethasoneeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):649.654,C2022〕Keywords:梅毒,強膜炎,眼梅毒,神経梅毒,駆梅療法.syphilis,scleritis,ocularsyphilis,neurosyphilis,syphi-listreatment.Cはじめに梅毒の眼症状は多彩であり,ぶどう膜炎,網膜炎,乳頭炎,視神経炎,視神経萎縮,結膜炎,上強膜炎,強膜炎などがみられる1,2).前部ぶどう膜炎はC6.1%,中間部ぶどう膜炎はC8.4%,後部ぶどう膜炎はC76.2%,汎ぶどう膜炎はC8.4%,強膜炎はC0.9%3)と報告されており,眼梅毒のなかで強膜炎は比較的まれである.一方,強膜炎の原因としては,関節リウマチ,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎,再発性軟骨炎などが多い4.6).強膜炎のC4.6.18%は感染症が原因である3,7,8)が,そ〔別刷請求先〕播谷美紀:〒113-8655東京都文京区本郷C7C-3-1東京大学医学部附属病院眼科医局Reprintrequests:MikiHariya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo,Tokyo113-8655,JAPANCのなかでもっとも多い原因はヘルペスウイルス感染4,6,9)と報告されている.強膜炎の原因としても梅毒はまれである.今回,梅毒による強膜炎と診断した症例C2例を経験し,臨床像を検討した.CI症例提示〔症例1〕65歳,男性.主訴:両眼充血.現病歴:17カ月前に上記主訴にて近医を受診し,上強膜炎と診断された.14カ月前に両眼の白内障手術が施行され,術後のステロイド点眼で強膜充血は改善しなかった.9カ月前に眼圧上昇がみられ緑内障点眼を開始された.7カ月前に緑内障点眼下で両眼C30CmmHg以上の高眼圧となり,ステロイド性高眼圧が疑われたため,リンデロン(0.1%)点眼は中止された.その後眼圧はC15CmmHg以下に低下したものの,フルオロメトロン(0.1%)点眼では充血は改善せず,プレドニゾロンC10Cmgが開始された.症状が改善しないため,本人の希望で当院紹介受診となった.既往歴・家族歴に特記すべきものはなかった.初診時,右眼C1.0Cp(1.2C×cyl.0.75DAx70°),左眼C0.2(0.6pC×sph+1.25D(cyl.2.25DAx80°)で,眼圧は右眼C22CmmHg,左眼C16CmmHgであった.両眼にびまん性強膜炎を認めた(図1)が,前房内炎症は認めなかった.左眼の眼底に分層黄斑円孔を認めたが,両眼ともに明らかな網膜病変や硝子体混濁は認めなかった.血液検査を行ったところ,C反応性蛋白(CRP)0.90Cmg/dl,赤血球沈降速度C40Cmm,リウマチ因子C5CIU/ml以下,抗核抗体陽性,抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)0.5CIU/ml以下,抗好中球細胞質抗体(PR3-ANCA)0.5CIU/ml以下,抗シトルリン化ペプチド抗体C0.6CU/ml未満,梅毒血清反応(serologicCtestCforsyphilis:STS)定量512倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜炎を疑った.本人が遠方在住のため,近医総合病院内科へ紹介し,髄液検査で髄液細胞数がC152/μlと上昇,STS定量C4倍であり神経梅毒の合併と診断された.また,性感染症のスクリーニングも施行され,尿中クラミジア・トラコマティスPCRが陽性となりアジスロマイシン内服治療が開始された.その他CHBs抗原,HCV抗体,HIV抗体,淋菌は陰性だった.アモキシシリンC3,000CmgとプロベネシドC750CmgをC3週間内服したのち,ペニシリンCG2,400万単位/日をC12日間点滴治療され,眼局所治療としてはベタメタゾンC0.1%点眼図1症例1の前眼部写真a,b:初診時の前眼部写真(Ca:右眼,Cb:左眼).びまん性強膜炎を認める.Cc,d:ペニシリンCG点滴開始後C2週間の前眼部写真(Cc:右眼,d:左眼).強膜充血は消失した.図2症例2の前眼部写真a,b:症例C2の初診時の前眼部写真(Ca:右眼,Cb:左眼).びまん性強膜炎を認める.一部強膜は菲薄化している.Cc,d:ペニシリンCG点滴開始後C2週間の前眼部写真(Cc:右眼,Cd:左眼).強膜充血は消失した.強膜菲薄化によりぶどう膜が透見される.を右眼C3回,左眼C2回で開始した.その後,STS定量はC4倍からC1倍へと改善し,両眼のびまん性強膜炎はアモキシシリン開始後約C1週間で軽快した.両眼のびまん性強膜炎の軽快に伴い,ベタメタゾン点眼を中止したが,その後C3カ月間再発なく当科は終診となった.〔症例2〕65歳,男性.主訴:両眼充血.現病歴:9カ月前に両眼充血で近医眼科を受診するも改善せず,3カ月前に別の眼科を受診し,強膜炎を指摘され,ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C4回が開始となった.2週間前に両眼の充血の増悪と前房内細胞を認めたため精査加療目的に当科紹介となった.既往歴は高血圧とCC型肝炎治療後であった.初診時の矯正視力右眼C0.3(1.0CpC×cyl.3.00DCAx90°),左眼C0.3Cp(0.6C×sph.0.50D(cyl.2.50DAx105°),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C13CmmHgであった.両眼のびまん性強膜充血と一部に強膜菲薄化を認めた(図2).両眼の前房内細胞C1+で,左眼には微細角膜後面沈着物を認めた.両眼の眼底にびまん性硝子体混濁C1+,左眼眼底優位に多発する黄白色の斑状病変を認めた(図3).斑状病変は,光干渉断層計検査にて網膜色素上皮の結節状の隆起と,ellipsoidzoneの不明瞭化を認めた(図4).蛍光眼底造影検査では,両眼に早期から後期にかけて点状の組織染,一部過蛍光領域を認めた(図5).また,早期から後期にかけて視神経乳頭の蛍光増強を認めた.血液検査では,CRP0.41Cmg/dl,赤血球沈降速度36mm,リウマチ因子5IU/ml以下,抗核抗体陰性,MPO-ANCA0.5CIU/ml以下,PR3-ANCA0.6CIU/ml,抗シトルリン化ペプチド抗体C0.6CU/ml未満,STS定量C256倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜ぶどう膜炎を疑った.当院感染症内科へ紹介し,髄液検査にて髄液細胞数がC76/μlと上昇,STS16倍であり神経梅毒の合併と診断された.またCHCV抗体は陽性,その他のCHBs抗原,HBs抗体,HIV検査は陰性だった.治療としてペニシリンCG2,400万単位/日をC14日間点滴,ベタメタゾンC0.1%を両眼C6回で開始し,両眼充血は約C2週間で消失,両眼の硝子体混濁はC1カ月でほぼなくなり,眼底の黄白色病変も軽快した.ベタメタゾン点眼は漸減し,治療開始後C4カ月で当院終診となった.図3症例2の眼底写真両眼に硝子体混濁C1+,眼底に多発する黄白色の斑状病変を認めた.図4症例2の左眼眼底に認めた黄白色斑状病変の光干渉断層像網膜色素上皮の結節状の隆起と,ellipsoidzoneの不明瞭化を認めた.II考按今回の症例は,ステロイド点眼で長期間改善しない両眼充血を主訴に紹介受診となったC2症例で,どちらも両眼性にびまん性強膜炎を認めた.血液検査で梅毒が原因として疑われ,髄液検査にて神経梅毒の合併も認めた.ペニシリン全身投与による駆梅療法が施行され,びまん性強膜炎はC2週間ほどで改善し,その後の強膜炎の再発もなかったことから梅毒性強膜炎であったと推測される.梅毒は梅毒トレポネーマによる感染症である.2000年代から世界中でその感染数が再増加3)しており,とくに男性間での接触感染,ドラッグ使用者によるもの,HIV感染の合併例が多いとされる2).眼梅毒も再増加が指摘されており3),眼痛,視野欠損,飛蚊症,光視症,眼圧変動,羞明といったさまざまな症状が生じる1).ほぼすべての眼構造が影響を受けるため,角膜実質炎,中間部ぶどう膜炎,網脈絡膜炎,網膜血管炎,網膜炎,神経周囲炎,乳頭炎,球後視神経炎,視神経萎縮,視神経ゴム腫などが認められる13).梅毒のどの病期でも眼病変は生じうるが,とくに第C2期,第C3期梅毒の眼梅毒が多い10).そのなかで梅毒性強膜炎はまれであり1,3),強膜炎のタイプとしても結節性強膜炎が多い10.14)とされるが,今回のC2症例はびまん性強膜炎であった.また,症例C2は梅毒性強膜ぶどう膜炎であり,梅毒の多彩な病変がうかがえる.梅毒のおもな感染経路は性行為による接触感染である.症例C1の感染経路については,他院内科で治療されており,詳細不明である.症例C2については不特定多数の異性との性的接触が原因として考えられる.既報では梅毒第C2期の患者約C25%に中枢神経系障害が起こりうるとされる13).両症例とも神経梅毒の合併を認めたた図5症例2の蛍光造影検査両眼性に早期から後期にかけて点状の組織染,staining,一部過蛍光領域を認めた.また早期から後期にかけて視神経乳頭の蛍光増強を認めた.め,それぞれの症例の病期について考察した.症例C1は両眼充血が生じてから当科初診までC17カ月,症例C2については両眼充血が生じてからC9カ月経過していた.両症例とも皮膚症状などの他症状はあまりみられず全身状態は良好であった.神経梅毒と眼梅毒ともにどの病期でも起こりうるが,第2期の潜伏期か第C3期の可能性が高いと考えられた.また,眼梅毒であるC68人の患者のC46%が髄液検査を施行され,そのC1/4で神経梅毒が明らかになった2)ことから,眼梅毒と診断した場合には髄液検査による神経梅毒の精査が重要である.神経梅毒合併時の治療はペニシリン全身投与によりC1カ月以内で改善する10,11,13,14)とされ,今回のC2症例とも両眼強膜炎はC2週間程度で速やかに改善し,神経梅毒も改善がみられ有効であったと考える.眼病変に対する局所治療については,局所のみのステロイド使用例では改善と再発を繰り返したという報告14)があり,筆者らの症例でも前医でステロイド点眼が開始されていたものの改善がみられず当科に紹介となっていた.強膜炎を認めた場合,梅毒も鑑別疾患の一つとして考え,全身検査を施行する必要がある.そして梅毒と診断された場合は,ペニシリン全身投与による全身治療が必要である.今回,筆者らは血液検査により梅毒が原因として疑われ,駆梅療法で速やかに改善し,梅毒による強膜炎と診断したC2例を経験した.既報では結節性強膜炎の報告が多いが,2例ともびまん性強膜炎であった.強膜炎の原因疾患としては梅毒の頻度は高くないが,梅毒も強膜炎の鑑別疾患の一つとして忘れてはならない.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DuttaMajumderP,ChenEJ,ShahJetal:Ocularsyphi-lis:AnCupdate.COculCImmunolCIn.ammC27:117-125,C20192)MargoCE,HamedLM:Ocularsyphilis.SurvOphthalmolC37:203-220,C19923)FurtadoCJM,CArantesCTE,CNascimentoCHCetal:ClinicalCmanifestationsandophthalmicoutcomesofocularsyphilisatCaCtimeCofCre-emergenceCofCtheCsystemicCinfection.CSciCRepC8:12071,C20184)TanakaCR,CKaburakiCT,COhtomoCKCetal:ClinicalCcharac-teristicsandocularcomplicationsofpatientswithscleritisinJapanese.JpnJOphthalmolC62:517-524,C20185)WieringaCWG,CWieringaCJE,CtenCDam-vanCLoonCNHCetal:Visualoutcome,treatmentresults,andprognosticfac-torsCinCpatientsCwithCscleritis.COphthalmologyC120:379-386,C20136)SainzCdeClaCMazaCM,CMolinaCN,CGonzalez-GonzalezCLACetal:Scleritistherapy.OphthalmologyC119:51-58,C20127)HemadyCR,CSainzCdeClaCMazaCM,CRaizmanCMBCetal:SixCcasesofscleritisassociatedwithsystemicinfection,AmJOphthalmologyC114:55-62,C19928)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepiscleritis.CBrJOphthalmolC60:163-191,C19769)MurthyCSI,CSabhapanditCS,CBalamuruganCSCetal:Scleritis:Di.erentiatingCinfectiousCfromCnon-infectiousCentities,IndianJOphthalmolC68:1818-1828,C202010)CaseyCR,CFlowersCCM,CJonesCDDCetal:AnteriorCnodularCscleritisCsecondaryCtoCsyphilis.CArchCOphthalmolC114:C1015-1016,C199611)WilhelmusCKR,CYokohamaCM:SyphiliticCepiscleritisCandCscleritis.AmJOphthalmolC104:595-597,C198712)EscottCSM,CPyatetskyD:UnilateralCnodularCscleritisCsec-ondarytolatentsyphilis.ClinMedResC13:94-95,C201513)ShaikhCSI,CBiswasCJ,CRishiP:NodularCsyphiliticCscleritisCmasqueradingCasCanCocularCtumor.CJCOphthalmicCIn.ammCInfectC5:8,C201514)GoelCS,CDesaiCA,CSahayCPCetal:BilateralCnodularCsclero-keratitisCsecondaryCtoCsyphilis-ACcaseCreport.CIndianCJCOphthalmolC68:1990-1993,C2020***