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Behçet 病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績とその安全性の検討

2011年5月31日 火曜日

696(94あ)たらしい眼科Vol.28,No.5,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第44回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科28(5):696.701,2011cはじめにBehcet病は,口腔内再発性アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍,結節性紅斑などの皮膚症状,眼症状を4主症状とする全身性炎症性疾患である1).本症は若年発症が多いこと,失明率が高いこと,それに一部のBehcet病にみられる中枢神経系,血管系,胃腸管系(消化器系)などの病変による死亡例もあることから厚生労働省の「特定疾患治療研究事業」の対象疾患とされている.Behcet病の眼症状は,虹彩毛様体炎と網膜ぶどう膜炎であり,眼発作をくり返すことにより眼組織の器質的障害が進行し,最終的には失明に至ることもある.眼症状の治療として,これまでにコルヒチンあるいはシクロスポリンの全身投与が行われてきた2)が眼発作を抑制できない〔別刷請求先〕岡村知世子:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野Reprintrequests:ChiyokoOkamura,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryou-chou,Aoba-ku,Sendai,Miyagi980-8574,JAPANBehcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績とその安全性の検討岡村知世子*1大友孝昭*1布施昇男*1阿部俊明*2*1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野*2同附属創生応用医学研究センター細胞治療開発分野Medium-TermEfficacyandSafetyofInfliximabinBehcet’sDiseasewithRefractoryUveitisChiyokoOkamura1),TakaakiOtomo1),NobuoFuse1),ToshiakiAbe2)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,2)DivisionofClinicalCellTherapy,TranslationalandAdvancedAnimalResearch,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績とその安全性について検討した.対象および方法:東北大学病院眼科でインフリキシマブ療法を12カ月間以上継続できたBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎患者10例18眼を対象とし,導入前を含め6カ月間ごとの期間における眼発作回数,視力,副作用の有無を検討した.結果:眼発作回数は導入前6カ月間の平均3.1回に対し,導入後6カ月間は平均0.2回,7~12カ月までは平均0.6回,13~18カ月までの平均0.8回と有意に抑制され,19~24カ月までは0.6回であった.導入後の視力は向上・維持され,低下は認めなかった.有害事象として可能性があるものは17件認めたが,投与中断を迫られるような重篤なものはなかった.結論:Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績は良好であり,重篤な副作用は認められなかった.Purpose:Toevaluate,fromamedium-termstandpoint,theefficacyandsafetyofinfliximabadministrationinrefractoryuveoretinitisinBehcet’sdisease(BD).Methods:In18eyesof10BDpatientswithrefractoryuveoretinitistreatedwithinfliximab,withaminimumfollowupof12months,wedeterminedthenumberofocularattacks,sideeffectsandbest-correctedvisualacuitybeforeandevery6monthsaftertreatment,toevaluatetheefficacyandsafetyofinfliximab.Results:Ocularattacksoccurred3.1timesinthe6monthsbeforeinfliximabtreatment,whereastheincidencewas0.2,0.6and0.8at0-6months,7-12monthsand13-18monthsaftertreatment,respectively.Best-correctedvisualacuitywasimprovedandstableaftertreatment.Althoughvariousadverseeffectswereobservedin17patients,nonewereserious.Conclusions:InfliximabiseffectiveforthetreatmentofrefractoryuveitisinBDpatients,withoutserioussideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):696.701,2011〕Keywords:Behcet病,網膜ぶどう膜炎,インフリキシマブ,眼炎症発作.Behcet’sdisease,uveoretinitis,infliximab,ocularinflammatoryattack.(95)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011697症例も少なくはない.近年,分子生物学の進歩により眼炎症疾患に対しても種々の生物学的製剤が用いられるようになり3),2007年Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎患者に対して抗TNF(腫瘍壊死因子)a抗体製剤であるインフリキシマブ(レミケードR)の投与が日本で承認された.2007年1月の保険認可以降の使用成績調査(全例調査)の中間報告では,投与患者の約9割に効果を認めたとされ,短期的には有効であることが示された.しかし,これまで中期,長期の治療成績についての報告4~6)は少なく不明な点も多い.今回筆者らは,東北大学病院眼科においてインフリキシマブ療法を行ったBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対する中期成績とその安全性について検討したので報告する.I対象および方法対象は東北大学病院眼科において2007年9月から2009年2月までにインフリキシマブ療法を導入し,1年以上継続できた完全型または不全型Behcet病の症例10例18眼とした.方法は対象者の診療録を2010年6月まで調査する後ろ向き調査で行った.調査項目は眼発作回数,視力経過,副作用の3項目とした.視力は視力表を用いて得られた少数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力に変換して測定した.インフリキシマブ療法の適応,用法・用量は,インフリキシマブ治療プロトコールに従い行った.すなわち,適応はBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎と診断された患者で,従来の免疫抑制薬では効果が不十分,あるいは副作用で治療が困難な症例とした.インフリキシマブ療法導入するにあたり,すべての症例に感染症を含む血液検査(血算,血液像,総ビリルビン,アルカリホスファターゼ,トランスアミナーゼ,乳酸脱水素酵素,尿素窒素,クレアチニン,尿酸,総蛋白,アルブミン,ナトリウム,カリウム,クロール,中性脂肪,総コレステロール,C反応性蛋白定量,HBs(B型肝炎ウイルス)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体価,梅毒定性,b-d-グルカン),ツベルクリン反応検査,胸部X線撮影,胸部単純CT撮影(コンピュータ断層撮影)を施行した.そして呼吸器内科専門医の診察を受け,活動性結核を含む重篤な感染症のリスクがある例,悪性腫瘍,脱髄疾患,うっ血性心不全,妊娠または授乳中の患者は除外した.神経Behcet病治療のために副腎皮質ステロイド薬を使用していた症例2を除き,インフリキシマブ療法導入前の内服治療薬は原則中止とし,副腎皮質ステロイド薬は漸減中止とした.副腎皮質ステロイド薬の点眼薬は継続とし,眼発作を認めた場合は必要に応じて副腎皮質ステロイド薬の結膜下注射を用いた.当院眼科では原則全例に前投薬として,投与の1週間前から抗ヒスタミン薬を内服,ならびに投与当日朝に非ステロイド系抗炎症薬の内服を行った.さらに投与当日に眼科検査,診察を行い最終的な投与の可否を判断した.用法・用量は,初回投与後,2週,6週,以後は原則8週間隔にて,体重1kg当たり5mgを1回の投与量とし2時間以上かけて点滴静注した.2007年9月から2009年4月までは眼科外来処置室にて眼科外来の医師,看護師の観察下で投与し,看護師が投与前,投与後15分,30分,1時間,2時間,投与終了後30分間経過観察を行った後の抜針時に血圧,脈拍,体温,酸素飽和度の測定を行い,投与時反応の有無を本人に確認した.2009年5月からは当院化学療法センターでの投与が可能となり,投与前後の血圧,脈拍,酸素飽和度の測定と投与時反応の有無の確認を行った.患者には帰宅後から次回外来受診時までに何らかの病的変化,些細な体調の変化など有害事象が疑われるものすべてを主治医に確認するように説明した.本研究は,ヘルシンキ宣言に従って行われ,インフォームド・コンセントの得られた患者に対して行われた.II結果1.患者背景対象となった全症例の背景(年齢,性別,罹病期間,導入前の内服治療薬,導入理由,観察期間,転帰)を表1にまとめた.平均年齢は39±5.8歳,男性9例,女性1例,罹病期間は平均98.1±76.6カ月であった.インフリキシマブ療法導入前の内服治療薬はシクロスポリン単独が2例,コルヒチン単独が3例,コルヒチンと副腎皮質ステロイド薬の併用が2例,シクロスポリンと副腎皮質ステロイド薬の併用が1例であった.症例4はシクロスポリン,コルヒチンともに副作用が出現したため導入直前の内服は行わず,発作に対しては副腎皮質ステロイド薬の結膜下注射を行った.症例1はCT検査で陳旧性肺結核を認めたため呼吸器内科受診後,症例7はツベルクリン反応強陽性であり結核感染歴を否定できないため抗結核薬の予防内服を行った.インフリキシマブ療法の導入された理由は,前治療無効と判断されたものが8例(80%)であった.前治療無効と判断されたもののうち1例(症例3)は前治療(シクロスポリン)の副作用も重なっていた.症例3・5・8はそれぞれシクロスポリンの副作用(神経症状,下痢,横紋筋融解症),コルヒチンの副作用(体調不良)が変更理由であった.期間は平均23.2±7.4カ月,期間内に投与中止となる症例はなかった.2.インフリキシマブの眼発作に対する効果インフリキシマブ導入前6カ月間の眼発作回数と導入後6カ月ごとの発作回数を症例ごとに比較すると,全例とも眼発作回数の減少を認めた(表2).全10症例の導入前6カ月間における眼発作回数は平均3.1±2.0回であり,導入後の各期間における症例を合わせた平均眼発作回数との比較(図1)698あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(96)では,導入後6カ月間は0.2±0.4回(対象数10例,投与前3.1±2.0回,p=0.001),7~12カ月の期間は0.6±0.9回(対象数10例,投与前3.1±2.0回,p=0.001),13~18カ月の期間は0.6±0.7回(対象数10例,投与前2.8±1.2回,p=0.0004),19~24カ月の期間は0.6±0.5回(対象数6例,投与前3±1.4回,p=0.0098)と有意に抑制された.25~30カ月の期間は0.3±0.5回(対象数4例,投与前3.6±1.5回),31~33カ月の期間は0回(対象数2例,投与前3.5±2.1回)であった.3.各症例の効果判定各症例の眼発作に対する効果を以下の3段階評価を用いて判定した(表2).評価は,著効:インフリキシマブ導入後に一度も眼発作が認められなかったもの.有効:以下のいずれかに該当するもの.(a)インフリキシマブ導入後にも眼発作は認めたが,その頻度が軽減したもの.(b)インフリキシマブの投与間隔を表1各症例の背景症例投与開始時年齢性別罹病期間投与開始年月日投与直前内服薬INH併用の有無1234567891049413452425145453839男性男性男性男性男性男性女性男性男性男性2年11カ月12年8カ月4年2カ月24年5カ月7年5カ月7年11カ月4年2カ月4年6カ月5年10カ月3年9カ月2007/9/192007/9/262007/12/122008/2/272008/7/302008/7/302008/11/192008/12/242009/1/92009/2/25CsA200mgCsA250mgCsA50mgCsA90mgCol1.0mgCol0.5mgCol1.0mgCol1.0mgCol1.0mgCol1.0mgPSL15mgPSL3mgPSL10mg有無無無無無有無無無平均±標準偏差39±5.8(歳)98.1±76.6(カ月)症例インフリキシマブ投与理由投与期間投与間隔の変更投与後の内服薬転帰12345678910前治療無効前治療無効前治療無効,CsAで神経症状前治療無効CsAで下痢,Colで体調不良前治療無効前治療無効CsAで横紋筋融解前治療無効前治療無効2年9カ月2年9カ月2年6カ月2年4カ月1年11カ月1年11カ月1年7カ月1年6カ月1年5カ月1年4カ月なし8カ月で7週に変更1年8カ月で7週に変更なしなしなしなしなしなしなし中止中止PSL3mgCol0.5mg継続中止中止中止中止中止中止中止継続継続継続継続継続継続継続継続継続継続平均±標準偏差23.2±7.4(カ月)CsA:シクロスポリン,PSL:副腎皮質ステロイド薬,Col:コルヒチン,INH:イソニアジド.表2インフリキシマブ投与前6カ月と投与開始後6カ月ごとの眼発作回数症例投与前6カ月インフリキシマブ開始後(カ月)投与開始後の6カ月当たりの平均発作回数有効性1~67~1213~1819~2425~3031~33121020100.8有効250201000.6有効32021101有効42000000著効5400110.5有効6310000.3有効720000著効810000著効960001有効1070200著効(97)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011699短縮することで眼発作が認められなくなったもの.無効:インフリキシマブ導入後も眼発作が以前と同様に生じたもの,の3段階を用いた.上記の眼発作に対する効果判定基準で著効は10例中4例,有効は6例,無効例はなかった.有効のうち2例(症例2・3)は,インフリキシマブの投与間隔が8週間隔では眼発作を抑制できず,7週間隔へ短縮したところ眼発作の抑制ができた症例である.なお,この2例においては投与間隔の短縮が眼発作の抑制に有効であると担当医師が判断し,かつリスクを十分に説明のうえ,文書と口頭による同意が得られた患者であった.4.インフリキシマブ療法の視力への効果インフリキシマブ療法導入後に白内障手術を施行した6眼を除く12眼を対象とした.導入前,導入6カ月後,期間終了時の各時期における寛解期矯正視力をlogMAR視力にて比較し,0.2以上の改善,0.2未満の不変,0.2以上の悪化として検討した.導入前と導入6カ月後との比較では,視力向上3眼,不変9眼,視力低下はなかった(図2).導入前と期間終了時との比較では,視力向上6眼,不変6眼,視力低下はなかった.視力向上の割合は導入後6カ月のよりも期間終了時のほうが高かった(図3).インフリキシマブ導入後,全12眼において硝子体混濁の軽快もしくは改善を認めた.12眼中,インフリキシマブ導入前に黄斑浮腫を認めたものは2眼,黄斑浮腫を認めなかったものは9眼,インフリキシマブ導入前は眼底透見不能であったが,インフリキシマブ導入6カ月後に硝子体混濁が軽快し,黄斑浮腫が確認されたものが1眼であった.全期間中に黄斑浮腫を認めた3眼中3眼において期間終了時に黄斑浮腫の軽快もしくは改善を認めた.5.インフリキシマブ療法の安全性今回の検討では期間内に認めたすべての病的変化やその疑いを含めて有害事象として報告する.したがって軽度の訴えや自覚症状を伴わない検査異常値なども含めて10例中9例に全17件認められた.いずれもインフリキシマブとの因果関係は不明であったが期間内に生じたものをすべて列挙すると,肝機能検査異常値3件,皮膚症状3件(両眼周囲の発赤・掻痒感・乾燥1件,大腿内側の爛れ1件,挫瘡1件),3.532.521.510.50投与前6カ月(n=10)投与後1~6カ月(n=10)7~12カ月(n=10)13~18カ月(n=10)19~24カ月(n=6)25~30カ月(n=4)31~33カ月(n=2)平均眼発作回数************図1インフリキシマブ投与前後の平均眼発作回数の比較インフリキシマブ治療開始後の期間を6カ月ごとに区切り,6カ月当たりの平均眼発作回数を投与前6カ月間と比較した.インフリキシマブ治療開始後の期間が長くなるとともに症例数(n)は減少するため,投与前の平均眼発作回数は調査期間により異なる.各調査期間における有意差をp値(Student’spairedt-test)で示した(****:p<0.0005,***:p<0.005,**:p<0.01).3210-1123456投与後6カ月後の矯正視力(logMAR)0インフリキシマブ投与前矯正視力(logMAR)図2インフリキシマブ投与前と治療開始6カ月後の寛解期視力の変化インフリキシマブ投与前と治療開始後6カ月の寛解期矯正視力を比較.◆:logMAR視力で0.2未満の変化(12眼中9眼),■:logMARで0.2以上の改善(12眼中3眼).3210-101234インフリキシマブ投与前矯正視力(logMAR)投与開始後最終矯正視力(logMAR)図3インフリキシマブ投与前と期間終了時の寛解期視力の変化インフリキシマブ投与前と期間終了時の寛解期視力の変化(12カ月後2例,18カ月後2例,24カ月後3例,30カ月後3例,33カ月後2例)の寛解期矯正視力を比較.◆:logMAR視力で0.2未満の変化(12眼中6眼),■:logMAR視力で0.2以上の改善(12眼中6眼).700あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(98)発熱2件,上気道症状2件,左手関節痛1件,左耳介部感染1件,その他に軽度の投与時反応が5件(血圧上昇2件,発汗1件,前腕の刺入部の血管炎様発赤1件,頭痛1件)であった.いずれも期間内に一時的に認められたものであり投与中断などを迫られるような重篤なものはなく,経過観察にて軽快した.III考按Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎患者に対してインフリキシマブの使用が国内で認可されて以降,本治療は多くのBehcet病患者に福音をもたらしている.疾患の特性上,長期にわたって有効であり,かつ安全であることが治療を継続するうえで必須条件となるが,その中期・長期成績に関しては報告が少なく不明な点もあった.今回,筆者らはBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対し,インフリキシマブ療法を導入し,1年以上継続できた10例18眼において,その治療成績を総括した.インフリキシマブ療法導入により眼発作が完全になくなった著効は4例,眼発作が著明に軽減,あるいはインフリキシマブ投与間隔を短縮することにより眼発作を抑えた有効も6例,とすべての症例において眼発作抑制効果を認めた.投与間隔を短縮した2例は,導入当初8週間隔で眼発作が抑制されていたが,徐々に7週過ぎに眼発作を認めるようになり,効果減弱つまり二次無効例7)と考えた.インフリキシマブに対する抗体産生の可能性8)もあり,二次無効例に対する対応は今後も議論を深めるべき事項であるが,たとえば免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬などの併用治療薬の再開・増量,インフリキシマブ投与量の増量や投与間隔の短縮,インフリキシマブ投与直前に水溶性プレドニゾロン20~40mgを静注するなどの方法があり8),何らかの工夫が必要であろう.今回の2例に関しては投与後7週過ぎに規則的に認める眼発作であったため,投与間隔の短縮という方法をとり,結果が良好であった.今後症例数と調査期間を延ばし再度検討を要するが,2例とも良好な成績であり二次無効例に対する選択肢の一つになると思われた.視力の推移では,インフリキシマブ導入後にすべての症例で寛解期矯正視力は向上もしくは維持され,低下する症例はなかった.硝子体混濁や黄斑浮腫の改善9)が視力向上の一因になっていると考えられた.投与後6カ月での視力向上は3眼であったのに対し,期間終了時では6眼と増加しており,視力低下をひき起こす何らかの慢性炎症までをも抑制されたために,より長く導入されている期間終了時で視力向上が増加したと思われた.安全性については,期間内に認めたすべての病的変化やその疑いを含めて有害事象としたため10例中9例に全17件認められた.いずれも期間内に一時的に認められたものであり,経過観察にて速やかに軽快した.投与時反応を含め,同一患者に同様の有害事象をくり返すといった傾向は認められず,インフリキシマブとの因果関係も不明であった.したがって,当科における10例18眼を対象にしたインフリキシマブ療法では重篤な副作用はなく,比較的安全に行うことができた.しかしながら,使用成績調査(全例調査)の中間報告において,重篤な副作用は報告されており(発現率4.3%),その多くが感染症であったことからも,インフリキシマブ導入前に特に感染症のリスクを念頭においたスクリーニング検査ならびに導入後の慎重な経過観察が大切である.さらに,投与時反応への対応を確立することがより高い安全性につながると考え,筆者らはCheifetzら10)の投与時反応発現時の対応を基に救急マニュアルを作成し,クリニカルパスにて運用した.今回の検討結果からインフリキシマブ療法は中期においても眼発作抑制,視力向上・維持,安全性において非常に有効であると思われた.現時点でインフリキシマブ治療の適応は従来の治療法に抵抗性の難治例とされているが,他の疾患では初期から投与することで良好な予後が得られているとの報告もあり11,12),投与前の全身精査を的確に行い,有害事象発現時の体制を整え,用法・用量を工夫することで,インフリキシマブ療法のさらなる安全かつ有効利用を探求していく必要があると思われた.文献1)SakaneT,TakenoM,SuzukiNetal:Behcet’sdisease.NEnglJMed341:1284-1291,19992)MasudaK,NakajimaA,UrayamaAetal:DoublemaskedtrialofcyclosporinversuscolchicineandlongtermopenstudyofcyclosporininBehcet’sdisease.Lancet8647:1093-1095,19893)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Efficacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheumatol31:1362-1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