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関西医大附属病院におけるEales病の臨床像の検討

2017年6月30日 金曜日

《第50回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科34(6):868.873,2017c関西医大附属病院におけるEales病の臨床像の検討加賀郁子山田晴彦中道悠太星野健髙橋寛二関西医科大学眼科学講座ClinicalFeaturesofRecentCasesofEales’DiseaseIkukoKaga,HaruhikoYamada,YutaNakamichi,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity目的:両眼網膜静脈周囲炎を伴い再発性硝子体出血をきたすEales病について,当院での臨床像を検討した.方法:2007.2015年に当院を受診し,1年以上経過を追うことのできた6例11眼(男性5例,女性1例)の治療内容と経過を,診療録から後ろ向きに検討した.結果:初診時平均年齢は40歳,平均経過観察期間は53カ月であった.両眼性5例,片眼性1例で,両眼性の1例で初診時に血管新生緑内障(NVG)を認めた.全例にフルオレセイン蛍光眼底造影を行い,網膜周辺部の無灌流領域(NPA)に光凝固を施行した.7眼に硝子体手術を施行し,初診時NVGを認めた1例2眼でNPAの拡大から黄斑変性に至り低視力を生じたが,それ以外の症例では治療により病状は安定した.平均logMAR視力は初診0.36から最終0.89と有意差はなかった(p=0.34).結論:Eales病は適切な時期に十分な光凝固あるいは硝子体手術を施行することで,比較的良好な視力が維持できる.進行性にNPAの拡大を呈する症例は,NVGのほか,黄斑部まで拡大進行したNPAによる網膜変性も呈し,予後不良となると考えられた.WeretrospectivelyanalyzedthecharacteristicsofpatientswithEales’disease,using11eyesof6Eales’patientswhohadconsultedKansaiMedicalUniversityduring2007to2015.Patientmeanagewas40years;thediseasewasbilateralin5patientsandunilateralin1.Allpatientsunderwentfundus.uoresceinangiography;laserphotocoagulationwasappliedinthenon-perfusionareatopreventthedevelopmentofnewvessels.Parspla-navitrectomywasperformedin7eyesandyieldedfairvisualoutcome,exceptin2eyesof1patientthatdevel-opedextensiveischemiainvolvingthemacula.Therewasnosigni.cantdi.erenceinmeanvisualacuitybetweenbaseline(0.36)andlastvisit(0.89)(p=0.3369).Adequatephotocoagulationand/orvitrectomyattheappropriatetimeprovidessatisfactoryvisualresultsinEales’disease.Progressionofneovascularglaucomaisthoughttobeamostimportantfactorinpoorprognosis,whichcanresultinmacularischemiaandbringpoorvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):868.873,2017〕Keywords:Eales病,光凝固,硝子体出血,硝子体手術,血管新生緑内障.Eales’disease,photocoagulation,vit-reoushemorrhage,vitrectomy,neovascularglaucoma.はじめにEales病は,特発性の周辺部網膜静脈周囲炎から網膜無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)が形成され再発性網膜硝子体出血をきたす疾患として,1880年にEalesによって報告された.Eales病の病因に関しては,近年でも結核菌の関与を示唆する報告があり1.3),現在においてその疾患名称の使用については議論がある.若年性再発性硝子体出血とも表現されるが,いまだ確定的な診断基準がないため,本疾患の診断は網膜静脈周囲炎を起こしうる他疾患を除外したうえで成立する.治療としては,虚血網膜に対するレーザー光凝固や抗結核薬の投与の報告1,4)のほか,再発性硝子体出血に対しては硝子体手術が施行され,その視力予後は一般的に良好とされている4.7).しかし,牽引性網膜.離や血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)を併発し,予後不良な症例の報告も散見される8,9).今回,関西医大附属病院(以下,当院)にて最近8年間に〔別刷請求先〕加賀郁子:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学講座Reprintrequests:IkukoKaga,M.D.,DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1ShinmachiHirakata573-1191,JAPAN868(110)表1全症例の詳細症例年齢性別病変初発症状*病期初診/最終初診視力STTA**/内服手術加療観察期間(月)最終視力178男R飛蚊,視力低下2b/3b0.01+/.PC,PEA+IOL+PPV67.00.03L視力低下2b/2b0.03+/.PC,PEA+IOL67.00.6246男R無症状3a/3b1.2+/+PC,PEA+IOL+PPV89.50.02L飛蚊,視力低下2b/4b1.5+/+PC,cryoPEA+IOL+PPV+SO89.520cmCF347男R飛蚊,視力低下2a/3b2+/.PC,PPV23.11447女R視力低下2b/4a0.4+/.PC,PPV2回(t-RD)99.40.6L飛蚊3b/4a1./.PC,PPV99.41.2521女R無症状2b/2b1.2./.PC16.01.2L視力低下3b/3b1./.PC,PPV16.01632男R無症状2b/2b1.5./.PC23.61.5L視力低下2b/2b0.2./.PC23.60.2PC:レーザー光凝固,PEA+IOL:超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入,PPV:硝子体手術,SO:シリコーンオイル注入術,cryo:網膜冷凍凝固術,t-RD:牽引性網膜.離,CF:指数弁.*病期分類は表2を用いた.**STTA:ステロイドTenon.下注射.Eales病と診断され,1年以上経過を追うことのできた症例につき,その臨床像を検討した.なお,最近では結核菌感染に付随するぶどう膜炎に対しては結核性ぶどう膜炎の呼称を使用することが多くなっているが1),本研究においては全身的に結核を生じ続発性にぶどう膜炎を生じた症例は除外したため,旧知のEales病としての名称を使用した.I対象2007.2015年に当院を受診し,眼所見および全身検査から他疾患を除外し,Eales病と診断できた症例のうち,1年以上経過を追うことのできた症例について,診療録から後ろ向きに検討した.症例は6例11眼(男性5例,女性1例)で,両眼性の症例が5例,片眼性の症例が1例であった.平均年齢は39.7±19.3歳(15.73歳).平均経過観察期間は53.1±36.9カ月(16.99カ月)であった.全症例の詳細を表1に示す.II結果1.初診時所見初診時の自覚症状は視力低下が7眼(63.6%),飛蚊症が4眼(36.4%)にみられたが,無症状も3眼(27.3%)あった.初診時眼底所見では網膜血管の白線化が全例にみられた.硝子体出血を3眼(27.3%)に認め,そのうち1眼(9.1%)では網膜前に線維血管組織の増殖を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)を行ったところ,血管壁からの血管外漏出や血管壁の組織染などの静脈炎所見,および網膜周辺部の無灌流領域(non-perfusionarea:NPA)を全例で認めた.網膜新生血管は3眼(27.3%),seafan様のloop状血管増殖は2眼(18.2%)にみられた.2.治.療.内.容ツベルクリン反応を施行できた症例のうち2例でツベルクリン反応強陽性を認めた(表1,症例4,6).この症例については呼吸器内科へ紹介し,クオンティフェロンで全身の顕性結核感染がないことを確認したが,抗結核薬による治療の要否について検討してもらったところ,全身に結核の活動性病巣はないため抗結核薬の投与は行われなかった.NPAに対しては全例でレーザー光凝固が施行され,そのうち4眼はレーザー光凝固のみで病態は安定した.血管炎および血管炎に伴う黄斑浮腫を生じた6眼(54.5%)で,デポ・メドロールRTenon.下注射を行った(表1,症例1.4).また,経過中に増殖性変化を呈した1例でステロイドの全身投与(プレドニゾロン30mgより漸減)を併用した(表1,症例2).最終的に硝子体手術を施行した症例は5例7眼で,手術の理由として遷延する硝子体出血が5眼(45.5%),経過中病状が進行し牽引性網膜.離をきたした症例が2眼(18.2%)で,牽引性網膜.離を認めた1眼でシリコーンオイル注入を要した(表1,症例2左眼).全症例の平均手術回数は1.7回で,5例5眼で再手術を要した.再手術の理由として,術後の白内障進行に伴う超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入(phacoemulsi.cationandaspiration+intraocularlensimplantation:PEA+IOL)を行ったもの2眼(18.2%),術後再出血,術後の牽引性網膜.離の非復位,シリコーンオイ44図1全症例の視力変化ほとんどの症例で初診時と最終受診時で視力の変化はなかったが,症例2の2眼で最終受診時に0.02と指数弁と著しい視力低下きたした.ル抜去の目的で硝子体手術を行ったものが各1眼であった.3.視.力.経.過全症例の初診時と最終受診時の視力変化を図1に示す.ほとんどの症例で視力は維持されたが,3眼で著しい視力低下をきたした.このうち2眼は同一症例の両眼で(表1,症例2),治療途中までの経過は教室の舘野らが報告した10)が,その後に通院の自己中断により虚血性変化の著しい進行を認め,最終視力は光覚弁,指数弁まで低下した症例であった.全症例での平均logMAR視力は初診時0.36,最終診察時0.89で有意差はなかった(pairedt-test:p=0.3369).以下にとくに予後が不良であった症例を提示する.III症例〔症例1〕72歳,男性(表1,症例1).初診:2010年5月25日.主訴:両眼視力低下.家族歴:特記事項なし.既往歴:糖尿病(投薬加療中),ラクナ梗塞,高血圧,高脂血症.現病歴:2010年5月20日に右眼飛蚊症,視力低下を自覚.2日後に両眼に同症状を認めたため前医を受診し,精査目的で紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.01(n.c.),左眼0.03(n.c.).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHgであった.前眼部は両眼に炎症細胞(2+)を認めたが,虹彩新生血管はなかった.両眼に豚脂様角膜後面沈着物(2+)とDescemet膜皺襞(+)を認めた.両眼ともに成熟白内障のため眼底は不明瞭にしか観察できなかったが,周辺網膜に出血を認めた.経過:前房内炎症が強く,また高齢であったことより,当初はEales病以外のぶどう膜炎を考え,血液生化学検査を施行したうえで,前眼部炎症を抑える目的で両眼にデキサメサゾン結膜下注射を施行した.採血結果では貧血と糖尿病を認めたが,その他の生化学検査の異常値はみられず,CRPや赤沈など炎症反応も陰性で,自己免疫疾患も否定された.ステロイドの局所治療により前眼部炎症は軽減したが,成熟白内障により眼底の詳細な観察ができず,FAを行っても撮影不能であったため,デポメドロールRのTenon.下注射を術前に行い十分な消炎を行ったうえで,同年8月に両眼PEA+IOLを施行した.術後,両眼の眼底が観察できるようになると,周辺部網膜に静脈白線化と出血を認めた.右眼では視神経が萎縮し乳頭陥凹も皿状に拡大して蒼白となっており,当院での経過中に眼圧高値は認めなかったため,既存の緑内障による視神経障害の合併が示唆された.FAでは両眼周辺部網膜にNPAを認めたが,網膜新生血管や増殖膜の形成は認めなかった.全身検査にて血管閉塞をきたす全身性疾患を認めず,FAでは糖尿病網膜症でみられる微小血管瘤を認めなかったことからEales病と診断し,両眼のNPAに対しレーザー光凝固術を施行した.2011年5月より右眼に繰り返す硝子体出血を認めFAで再評価をしたところ,十分な光凝固を施行したにもかかわらず後極へのNPAの拡大を認めたため,さらに光凝固を追加した.その後も右眼に硝子体出血を繰り返すため2012年8月に右眼硝子体手術を施行した.術後,右眼白線化血管を広範囲に認めたが黄斑部虚血は認めず,視神経は蒼白萎縮となっていたため術後視力は0.03にとどまった.〔症例2〕40歳,男性(表1,症例2).初診:2008年7月17日.主訴:左眼霧視.家族歴,既往歴:特記事項なし.現病歴:2008年6月頃より左眼の霧視を自覚したが自然に軽快したために放置していた.同年7月中旬から左眼霧視および充血と眼痛を自覚し近医眼科を受診したところ,左眼の前房出血を指摘され,精査目的で当院紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.9(1.2×sph.0.75D),左眼0.2(1.5×sph.1.0D(cyl.1.5DAx80°),眼圧は右眼10mmHg,左眼30mmHgであった.右眼は前眼部,中間透光体に異常を認めなかったが,左眼前房内に細胞(2+)を認めた.左眼虹彩と隅角に新生血管を認めたが周辺虹彩前癒着は生じておらず,水晶体は両眼とも透明であった.眼底は両眼とも眼底周辺部の網膜静脈の白鞘化がみられ,視神経乳頭近傍の動静脈交差部の網膜に限局性の浮腫と硬性白斑を認めた(図2).FAを行ったところ,両眼ともに広範囲なNPAと網膜血管吻合を認め,右眼には健常部とNPA部の境界に網膜新生血管を認めた(図3,4).経過:NPAに伴う網膜虚血が原因と考えられるNVGを右眼左眼図2初診時カラー眼底写真(症例2)両眼ともに後極の静脈拡張と乳頭近傍に硬性白斑を認め,左眼でとくに顕著であった.図3初診時FA(症例2右眼)周辺部に広範な網膜血管の閉塞,無血管領域を認め,境界部には血管吻合と網膜新生血管を認めた.図4初診時FA(症例2左眼)左眼は右眼よりも広範囲な無血管領域を認め,明瞭な血管吻合もみられたが,網膜新生血管は認めなかった.発症していたため,血液検査,ツベルクリン反応のほか,内科に依頼し全身検索を行ったが,循環器,呼吸器,血液系には異常は認めず,自己免疫疾患や膠原病も否定された.左眼はNVGを伴ったEales病と診断し,両眼のNPAに汎網膜光凝固を開始した.左眼眼圧上昇に対しては緑内障点眼および炭酸脱水酵素阻害薬の内服による治療を行ったが,眼圧下降は図れず,隅角新生血管が消失しなかった.広範囲な網膜周辺部の虚血を改善する目的で2008年11月19日に左眼網膜冷凍凝固術を施行した.術後左眼隅角血管は退縮し,点眼での眼圧コントロールが可能となった.2009年3月に左眼に続発性網膜上膜の形成を認め,左眼視力は0.7に低下した.その後,患者の受診が途絶えたが,2010年5月に両眼視力低下を主訴に再来した.再診時には両眼ともに網膜静脈炎の再燃を認めていた.矯正視力は右眼0.6,左眼0.05まで低下しており,左眼は虹彩新生血管の再燃と周辺虹彩前癒着の増加により23mmHgと眼圧再上昇を認めた.デポ・メドロールRTenon.下注射およびステロイド内服(プレドニゾロン30mg)による消炎とレーザー光凝固術の追加を行ったが,経過中に左眼は硝子体出血をきたしたため,同年11月にPEA+IOL併用硝子体手術+シリコーンオイル注入を行った.術中所見で左眼の網膜血管はほぼ全域で白線化しており,術後左眼の矯正視力は0.06と改善はみられなかった.その後再度受診が途絶え,2013年右眼の硝子体出血による視力低下を主訴に再来した.右眼は硝子体炎および硝子体出血を繰り返していたようで,再診時には視力は0.1を下回っていた.左眼はIOL後方に厚い増殖膜形成を認めていたが病態は鎮静化していたため,2013年8月にシリコーンオイル抜去術を行ったが,左眼視神経は蒼白となっており,術後視力は指数弁であった.その後右眼の繰り返す硝子体出血と併発白内障の進行により眼底透見が不能となったため,2015年7月にPEA+IOL併用硝子体手術を行ったが,黄斑部虚血により最終受診時の右眼矯正視力は0.02となった.IV考按Eales病は若年者にみられる網膜静脈周囲炎を伴う再発性硝子体出血をきたす疾患である.その病因については,結核菌およびその菌蛋白に対するアレルギー性反応という説が有力とされているが1.3),本疾患は先進国における報告が少なく,多数症例の報告は公衆衛生がやや不良とされるアジア地域からの報告が多いため4,5),いまだ病因は確定的ではない.本疾患の診断において,ツベルクリン皮内反応は他のぶどう膜炎の補助診断としても簡便に行える検査であり,本研究では3例(50%)でツベルクリン皮内反応を確認した.そのうち2例が強陽性,1例は陰性の結果であった.わが国ではBCG接種が義務づけられていた時期もあるため,検査結果のみで結核感染を証明するには不十分である.今回のツベルクリン反応強陽性を示した2症例については,呼吸器内科にて画像診断やクオンティフェロンを施行し,結果的には活動性のある眼外結核病巣は否定されたため,抗結核薬の投与は保険診療ガイドラインに則して行われなかった.近年,Eales病は結核関連ぶどう膜炎の一症状としてとらえられ1),レーザー光凝固による局所治療のほかに,炎症に対するステロイド治療,および結核菌に対する抗菌治療の三者併用療法が試みられるようになっている1,4).当院では,従来積極的な抗結核療法は行っていないが,今後,本疾患を疑った場合には眼外病巣がなくても抗結核薬の投与を検討していく必要があると考えられた.本疾患の長期経過については,これまでの報告では8割の症例で何らかの侵襲的治療を要するが,6割で視力は維持され予後は比較的良好とされる.今回の検討ではレーザー光凝固のみで病態が安定した症例が4眼(36.4%),硝子体手術を要したが経過が良好であった症例が4眼(36.4%)であり,7割を超える症例で治療による病態の安定を認めた.しかし,本疾患の予後については,早期にレーザー光凝固を施行すれば永続的に鎮静化する症例もある一方で,遷延する硝子体出血や増殖性変化により視力低下をきたし硝子体手術を要する症例もある.また,硝子体手術の術後成績も症例によってさまざまであり,NVGの合併例は頻度が0.9.1.7%と低いがその予後はきわめて不良とされ8),術前の牽引性網膜.離合併例は,治療を行っても3%が失明に至る予後不良因子とされている8,9).本研究でも3眼(27.2%)では複数回の治療にもかかわらず視力が不良であった.1眼は治療前から認めた視神経萎縮,1例2眼は術前からのNVGおよび進行性の網膜灌流障害による黄斑虚血のため,いずれも極度の視力低下をきたしたものであった.症例2については拡大するNPAに対し十分なレーザー光凝固の施行を行い,炎症に対してはステロイドの局所投与と,全身投与を行ったにもかかわらず不良な視力にとどまった.この症例に関しては,虹彩および隅角に新生血管をきたす著しい眼虚血状態であったにもかかわらず,通院の自己中断で悪化する病態に対し治療できなかった時期があったことも,予後不良の一因と考えられる.SaxenaらはEales病について,網膜出血を伴う静脈周囲炎を認めるstage1,NPAや網膜新生血管を認めるstage2,線維血管増殖や硝子体出血を認めるstage3,牽引性網膜.離およびNVGを認めるstage4の4型に病期を分類している(表28)).そのなかでstage4の症例と黄斑部を含んだ病変の進行を予後不良因子にあげている.報告のなかで,初期には黄斑病変を認めず,速やかに治療を開始した症例でも,2.71%で最終的に黄斑虚血に至ったとしており,本研究の症例2も同様の経過をたどったものと考えられた.症例2の経過のように,本疾患が若年者にみられることや,硝子体出血が自然に寛解して自覚症状が一時的に改善することもあるため,就労などの都合で定期受診から脱落することがある.しかし,再診時には病状が進行しており,治療時期を逸することもあるため,早期治療のタイミングを逃さないことと,定期的通院の必要性を強く患者に指導することも重要と考えら表2Eales病の病期分類stage特徴stage1aPeriphlebitisofsmallcalibervesselswithsuper.cialretinalhemorrhagesstage1bPeriphlebitisoflargecalibervesselswithsuper.cialretinalhemorrhagesstage2aPeripheralcapillarynon-perfusionstage2bNeovascularizationelsewhere/neovascularizationofthediscstage3aFibrovascularproliferationstage3bVitreoushemorrhagestage4aTraction/combinedrhegmatogenousdetachmentstage4bRubeosisiridis,neovascularglaucoma,complicatedcataract,andopticatorophy(文献8より引用)れた.海外では,本疾患に硝子体出血を併発した症例に対し,抗VEGF薬の硝子体注射の報告がある11,12).抗VEGF薬の治療の有無を無作為に割り付けた結果,抗VEGF薬注射の有無で術後視力予後には差はなく,むしろ抗VEGF薬注射群の30%に牽引性網膜.離をきたし,視力予後が不良であったと報告している11).わが国ではEales病に対する抗VEGF薬は適用外使用であり,今のところ治療成績の報告はみられないが,症例2の治療抵抗性の閉塞性血管炎により黄斑部まで冒されるような症例においては,増殖組織が生じる前のタイミングでレーザー光凝固の補助治療として,消炎および血管新生抑制の効果を期待して,試験的に抗VEGF療法を施行してみても良いのではないかと考えられた.わが国において結核は,昨今,再興感染症として注意が必要な疾患であり,若年患者での再発を繰り返す硝子体出血や血管炎を呈する眼疾患として,結核との関連が示唆されるEales病についても念頭に置いて全身検索を行う必要があると考えられた.また,適切な時期に十分な網膜光凝固あるいは硝子体手術を行うことで比較的良好な視力が維持できるが,黄斑部にまで進行する炎症性虚血をきたす予後不良例もあるため,必要に応じて治療法の検討を要すると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BiswasJ,RaviRK,NaryanasamyAetal:Eales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