‘磁気共鳴画像’ タグのついている投稿

頭部MRI にて構造的異常を認めた視索症候群の1 例

2023年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(4):569.573,2023c頭部MRIにて構造的異常を認めた視索症候群の1例土橋一生*1原ルミ子*1槃木悠人*1中井駿一朗*1安田絵里子*1前田祥史*1中村誠*2*1加古川中央市民病院眼科*2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CACaseofOpticTractSyndromeinwhichStructuralAbnormalityWasRevealedbyMagneticResonanceImagingKazukiTsuchihashi1),RumikoHara1),YutoIwaki1),ShunichiroNakai1),ErikoYasuda1),YoshifumiMaeda1)andMakotoNakamura2)1)DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,2)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:磁気共鳴画像(MRI)で構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告する.症例:52歳,女性.1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医を受診.光干渉断層計(OCT)で網膜神経線維層の菲薄化および視野異常が認められたため,当院紹介受診となった.矯正視力は両眼ともC1.2と良好であったが,右眼の相対的求心路瞳孔障害が陽性であり,両眼の視神経乳頭に部分的蒼白を認めた.OCTで右眼は耳鼻側の乳頭周囲神経線維層厚と鼻側黄斑網膜の菲薄化,左眼は耳上下側の乳頭周囲神経線維層厚と耳側黄斑網膜の菲薄化があり,視野検査では右側の非調和性同名半盲を呈していた.MRIで左側視索の萎縮像があり,左視索症候群と診断した.結論:MRIで構造的異常を確認しえた貴重な視索症候群のC1例である.CPurpose:Toreportacaseofoptictractsyndromeinwhichstructuralabnormalitywasrevealedbymagneticresonanceimaging(MRI)C.Casereport:A52-year-oldfemalepatientwhowasbeingseenatanotherhospitalduetoCaC1-yearChistoryCofCvisualClossCinCherCleftCeyeCwasCreferredCtoCourChospitalCafterCopticalCcoherenceCtomography(OCT)revealedathinningoftheretinalnerve.berlayerandvisual.elddefect.Uponexamination,hercorrectedvisualacuitywas1.2inbotheyes,relativea.erentpupillarydefect(RAPD)waspresentintherighteye,andbothopticCdiscsCwereCpartiallyCpaleCinCcolor.COCTCrevealedCreductionCofCcircumperipapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness(cpRNFLT)ofthetemporalandnasalsegmentsintherighteyeandthesuperior-andinferior-temporalsegmentinthelefteye.Visual.eldexaminationdemonstratedarightincongruoushomonymoushemianopsia,andMRIrevealedaleftoptictractatrophy,whichledtothediagnosisofoptictractsyndrome.Conclusion:WereportararecaseofoptictractsyndromeinwhichanatomicalabnormalitieswererevealedbyMRI.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(4):569.573,C2023〕Keywords:視索症候群,磁気共鳴画像.optictractsyndrome,magneticresonanceimaging.Cはじめに視索症候群は病変の反対側の非調和性同名半盲,相対的求心路瞳孔障害(relativeCa.erentCpapillarydefect:RAPD)および特徴的な視神経萎縮を呈する片眼性の視索機能異常である.近年では光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)の発達により定量的な乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness:cpRNFLT)の計測や黄斑部解析が可能となり,その特徴的な所見などから視索症候群の診断が比較的容易になってきているが,多くは臨床的診断であり,実際に磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)で責任病巣が確認できた報告は少ない.今回,MRIで視索の構造的異常を認めた患者を経験したので報告する.CI症例患者:52歳,女性.〔別刷請求先〕土橋一生:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:KazukiTsuchihashi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Honmachi,Kakogawacho,KakogawaCity,Hyogo675-8611,JAPANC図1眼底写真上段:初診時の眼底所見.下段:視神経乳頭拡大写真.主訴:左眼の視力低下.現病歴:1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診.OCTで網膜神経線維層の菲薄化や静的視野検査での右同名半盲があったため,精査目的に加古川中央市民病院紹介受診となった.既往歴:12年前に交通事故による頭部外傷.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph+1.25D),左眼C0.9(1.2C×sph+1.25D),眼圧は右眼C16.0mmHg,左眼C14.7mmHg,眼位は正位で眼球運動に異常はなかった.限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)は右眼C37CHz,左眼C37CHzで左右差なく,対光反射も両眼とも迅速かつ十分であったが,右眼のCRAPDは陽性であった.前眼部・中間透光体に異常所見はなかった.視神経乳頭は右眼で耳鼻側が蒼白化し,いわゆる帯状萎縮を呈していた.一方,左眼は耳上下方向に蒼白化し,砂時計状萎縮を呈していた(図1).また,それに一致してCOCT(Heidelberg社製CSpectralis)のcpRNFLTマップでは右眼は鼻側と耳側の菲薄化があり(図2),左眼は耳上側・耳下側が菲薄化していた.黄斑部網膜厚のカラーマップでも右眼は乳頭黄斑線維束領域が相対的に菲薄化し,左眼は上下の弓状線維領域が菲薄化していた.これらの形態的異常に一致してCHumphrey視野検査(図3)では右同名半盲,Goldmann視野検査(図4)では右非調和性同名半盲を認めた.以上の所見から左視索症候群を疑い,頭部MRIを施行したところ,T1強調画像で左視索に明らかな萎縮性変化を認め(図5),左視索症候群と診断した.ほかに動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などを認めず,頭部外傷の既往があったことから以前の外傷が原因と考えた.CII考按視索症候群は先天性あるいは外傷や動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などの後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,反対側の非調和性同名半盲と健側のCRAPD陽性,半盲様視神経乳頭萎縮の三つを特徴とする疾患である.その診断においてはこれa右眼bら三徴からの臨床的所見に基づいたものが主体であり,実際に視索の構造的変化を明らかにした既報は少ない1).近年COCTの飛躍的な発展に伴い,視神経疾患の分野でもCmultimodalimagingによる診断が普及し,視索症候群の診断においてもその有用性が報告されている2).視神経線維は視交叉部で交叉性線維と非交叉性線維に分かれるが,一側の視索障害では,反対側の交叉性線維と同側の非交叉性線維が障害されるため反対側の同名半盲となる.また,交叉性神経線維は鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であり,これらの神経線維は視神経乳頭のおもに鼻耳側に投射することから,反対側(健眼)では鼻耳側のCcpRNFLが菲薄化し,検眼鏡的に視神経乳頭は帯状萎縮を呈する.一方,非交叉性神経線維は耳側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であるため,同側(患眼)の視神経乳頭においてとくに上下弓状線維が萎縮し,視神経乳頭は上下の砂時計状萎縮を呈する.これらの所見は視索障害に特徴的である.また,視索障害では,反対側のCRAPDが陽性となり,その理由として交叉線維が非交叉線維よりも多いためとした報告も多いが,そのあたりはまだ議論の余地がある3).本症例は視力低下を契機に眼科受診となったが,視力低下の原因は屈折異常によるものであり,たまたま施行したCOCTで異常があったため視索症候群を疑うきっかけとなった.反対側図3Humphrey視野検査(右)の非調和性同名半盲と右眼のCRAPD陽性,特徴的な視神経萎縮といったC3徴に加え,OCTでもCcpRNFLTならびに黄斑網膜マップにおいてそれぞれの神経線維障害に一致した菲薄化が証明され,左側の視索症候群を強く疑う根拠となった.通常視索症候群は,前述のような後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,他の神経学的異常があれば発症原因や発症時期を容易に推測することが可能であるが,本症例のように他の神経学的異常がなく,本人の自覚症状もない場合にはたまたま眼科受診をした際に発見されることも珍しくないと思われる.過去の外傷歴があっても,すでにその記憶がない場合もある.同名半盲性の視神経萎縮は通常視索障害後C6週以図2OCT所見a:乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFLT)マップ.Cb:黄斑部網膜厚のカラーマップ.左眼右眼図4Goldmann視野検査図5MRI所見a:頭部CMRI(T1強調画像).b:視索拡大像.左視索(.)に萎縮性変化を認める.内に発症するといわれており1),その診断においてCOCTは非常に有用であるが,MRIで構造的変化をとらえた報告は少なく,実際に構造的変化が生じているのかどうかは十分に解明されていない.本症例ではC12年前の事故と,既報に比べ発症までの経過は長い.視路病変のなかにはアクアポリン4やアクアポリンC9の異常値を示す病変もあるが4),上記所見により診断がついており,いまなお視力良好であることから,検査の意義が乏しかったために測定しなかった.Tat-sumiら5)は外傷性視索症候群のC1例において,受傷C1カ月のCMRIには異常所見はみられなかったとも述べている一方,Bruceら6)は一連の外傷性同名半盲症例を調べ,そのC10%に視索障害が起こるとしているが,MRIで異常を証明するのは神経放射線科医でも困難だと述べており,視索症候群におけるCMRIを用いた局在診断のむずかしさがうかがわれる.わが国で視索の器質的異常を証明した報告はCHayashiら1)の小児期てんかん既往のある視索症候群のC1症例しか見当たらず,その原因として胎生期または出生早期に生じた頭蓋内病変が原因と推測している.今回,本症例ではCT1強調画像で構造的変化を認めたため,それ以上の画像検査は行っていないが,NaghamらはCMRIの拡散テンソル画像(DTI)が外傷性視索症候群を診断するのに有用だと述べている7).拡散テンソル画像は拡散強調画像をもとに一定の方向に向かって連続する神経線維を画像化したもので,視索症候群において萎縮した視索が明瞭に描出されている.一般的なCMRIで原因の局在が判明しない場合には試してみてもよいかもしれない.今回筆者らはCOCT・視野検査でその特徴的な所見から視索症候群が疑われ,MRIにて視索に構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HayashiCK,CIshiiN:MorphologicalCchangesCofCtheCopticCtractinacaseofoptictractsyndrome.JpnJOphthalmolC69:231-236,C20152)金森章泰:視交叉部・視索疾患のOCT.神経眼科C31:175-180,C20143)KupferC,ChumbleyL,DownerJetal:Quantitativehis-tologyCofCopticCnerve,CopticCtractCandClateralCgeniculateCnucleusinman.JAnatC101:393-401,C19674)根木昭:視神経疾患の新しい展開.日眼会誌C117:187-210,C20135)TatsumiY,KanamoriA,KusuharaAetal:Retinalnerve.berClayerCthicknessCinCopticCtractCsyndrome.CJpnCJCOpthalmolC49:294-296,C20056)BruceCBB,CZhangCX,CKedarCSCetal:TraumaticChomony-moushemianopia.JNeurolNeurosurgPsychiatryC77:986-988,C20067)NaghamCA,CWaseemCA,CSteveCHCetal:Di.usionCtensorCimagingCinCtraumaticCopticCtractCsyndrome.CJCNeuro-OpthamolC34:95-104,C2014***

上斜筋萎縮の定量的判定基準値の検討

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):295.298,2014c上斜筋萎縮の定量的判定基準値の検討河野玲華*1,2大月洋*3*1岡山大学医学部眼科学*2河野眼科*3岡山済生会総合病院眼科EvaluatingQuantitativeAssesment,viaMagneticResonanceImaging,ofSuperiorObliqueMuscleAtrophyReikaKono1,2)andHiroshiOhtsuki3)1)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityMedicalSchool,2)KonoEyeClinic,3)DivisionofOphthalmology,OkayamaSaiseikaiGeneralHospital目的:上斜筋萎縮・低形成(萎縮)の判定基準を定量化し,上斜筋麻痺に占める上斜筋萎縮の割合を解析する.対象および方法:片眼上斜筋麻痺17例と正常被験者14例を対象に磁気共鳴画像から上斜筋筋腹の最大断面積を算出し,正常被験者の上斜筋筋腹の最大断面積の二変量正規楕円(95%)から逸脱する症例を上斜筋萎縮と判定した.健側に対する患側上斜筋の断面積比を求め,上斜筋萎縮(+)と判定する基準断面積比を算出した.結果:8例(47%)に萎縮を認めた.萎縮(+)の平均(レンジ)断面積比は,0.49(0.0.75)であった.一方,萎縮(.)では,0.98(0.86.1.14)で,正常被験者と有意差がなかった.結論:断面積比(患側/健側)が0.75以下は,萎縮(+)と判定され,片眼性の上斜筋麻痺の約50%に上斜筋の萎縮を認めた.Purpose:Toevaluatethequantitativeassessment,viamagneticresonanceimaging(MRI),ofsuperiorobliquemuscle(SO)atrophy/hypoplasia(abbreviateatrophy)andthefrequencyofSOatrophyinpatientswithunilateralSOpalsy.SubjectsandMethods:Weexamined17patientswithunilateralSOpalsyand14normalsubjects,usingorbitalMRI.Maximumcross-sectionsofbilateralSO(SOareas)weremeasuredontheimages.SOatrophywasdeterminedwhenSOareasdeviatedfromthe95%bi-variantnormalellipse,ascomputedfromnormalsubjectSOareas.SOatrophywasdefinedintermsofipsilesional/contralesionalSOarearatio.Results:SOatrophywasdeterminedin8patients(47%).Themeanratiowas0.49(range,0.0.75)inpatientswithSOatrophy.Conclusions:SOatrophycouldbedefinedquantitativelyasaratioof0.75orless.Approximately50%ofpatientsexhibitedSOatrophyintheimages.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):295.298,2014〕Keywords:上斜筋麻痺,磁気共鳴画像,上斜筋萎縮,上斜筋低形成,断面積比.superiorobliquepalsy,magneticresonanceimaging,superiorobliquemuscleatrophy,superiorobliquemusclehypoplasia.はじめに9方向むき眼位の眼球偏位に加えて頭部傾斜試験の結果を参考にするのが上斜筋麻痺の標準的な診断方法である.しかし,磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)をはじめとする画像検査の導入は診断レベルをより正確なものに変えつつあり,画像検査により上斜筋麻痺の病態が次第に明らかにされてきている.具体的には上斜筋の筋腹萎縮や低形成(萎縮),上斜筋腱・滑車の形態異常の症例が報告されるようになり,画像検査の重要性が増している.Hortonらによって,MRI画像を用いた上斜筋萎縮の報告1)をはじめとして,上斜筋はおもに定性的に評価されてきた.そこで,上斜筋萎縮を定量化する方法を確立し,上斜筋麻痺に占める萎縮の頻度を検討したので報告する.I対象および方法岡山大学病院眼科外来を受診し,インフォームド・コンセントが得られた30例の片眼性上斜筋麻痺を対象に,眼窩MRIを撮像し,上斜筋萎縮の定量的評価法と上斜筋麻痺に占める上斜筋の萎縮の割合を病型別に検討した.撮像にはMRI(GeneralElectricSignaHorizon1.5T,〔別刷請求先〕河野玲華:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学医学部眼科学Reprintrequests:ReikaKono,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityMedicalSchool,2-5-1Shikata-cho,Kita-ku,Okayama700-8558,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(135)295 SignaExcite3T)を使用した.T1強調像で,1.5Tの使用では検査眼の眼前にサーフェイスコイルを装着させ,3Tの使用時にはヘッドコイルを用いて撮像した.解剖学的眼窩軸と直交する冠状断撮像を,1.5T使用時は,スライス厚2mm,マトリックスサイズ256×256,撮像領域80×80mm,撮像時間211秒,繰り返し時間400msec,エコー時間13msec,加算回数2の撮像条件で,3T使用時は,スライス厚3mm,マトリックスサイズ256×256,撮像領域120×120mm,撮像時間104秒,繰り返し時間750msec,エコー時間11.6msec,加算回数1の撮像条件でそれぞれ撮像した.病歴から先天性,あるいは遅発性(代償不全型)の片眼性上斜筋麻痺と臨床診断した17例を対象2)に,MRI撮像画像をNIHImage(RasbandWS,U.S.NationalInstituteofHealth,Bethesda,MD,http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いて,両側上斜筋最大断面積を計測2.4)し,正常被験者(正常群)14例3)の左右の上斜筋最大断面積の二変量正規楕円(95%)から逸脱する症例を上斜筋萎縮と規定した.つぎに,健側に対する患側の上斜筋最大断面積の比(正常群については,右側に対する左側の上斜筋最大断面積比)を計算し,最大断面積比を上斜筋萎縮,非萎縮,正常の3群間で比較した.このような手順を踏んで上斜筋萎縮と判定する上斜筋最大面積比(患側/健側)の基準値を算出した.基準値の算出に用いた17例とは別に,13例の片眼性上斜筋麻痺を対象に,ImageJ(RasbandWS,U.S.NationalInstituteofHealth,Bethesda,MD,http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いて,上斜筋最大面積比(患側/健側)から,先に算出した基準に従い上斜筋萎縮の有無を判別した.そののち,30y=1.00x+0.01,r2=0.892520151050051015202530右側上斜筋最大面積(mm2)図1左右の上斜筋最大断面積の関係実線楕円は14例の正常被験者の上斜筋最大面積(×)における95%二変量正規楕円,点線は直線回帰(p<0.0001)を示す.上斜筋麻痺(●)は,二変量正規楕円(95%)にほぼ含まれる9例を上斜筋非萎縮群,二変量正規楕円(95%)を明らかにはずれる8例を上斜筋萎縮群に分類した.左側上斜筋最大面積(mm2)13例に先の17例を加えた片眼性上斜筋麻痺30例を対象に,病歴から先天性,遅発性(代償不全型),後天性の3群に病型を分類して,各病型における上斜筋萎縮の占める割合を解析した.具体的には,病歴を参考に幼少期から頭位異常や眼位異常を認めるものを先天性,発症時期や病因が明確に特定できず複視や眼精疲労などの代償不全症状が出現した時点で診断されるものを遅発性(代償不全型),外傷など原因が特定できるものを後天性として分類した.II結果図1に,17例の片眼性上斜筋麻痺と14例の正常被験者の両側の上斜筋最大断面積を示す.正常被験者の平均年齢(標準偏差)は,34.3(15.4)歳(レンジ,21.73歳),上斜筋麻痺のそれは46.4(17.9)歳(レンジ,17.83歳)であった3).正常被験者(正常群)の両側の上斜筋最大断面積の二変量正規楕円(95%)から逸脱する症例を上斜筋萎縮と規定したところ,17例中8例を萎縮あり(上斜筋萎縮群),9例を萎縮なし(上斜筋非萎縮群)と判定した.17例の両側上斜筋最大断面積をもとに患側/健側上斜筋最大面積の比を計算し,前述の判定に基づいて分類された萎縮群,非萎縮群,正常被験者の各群間における,上斜筋最大断面積比の平均,95%信頼区間,中央値,最小値,最大値を求めた(表1).萎縮群の8例の患側の上斜筋最大断面積比は,平均で0.49であり,最大で0.75であった.一方,非萎縮群の9例の上斜筋最大断面積比は,正常被験者のそれと平均値,最大値,最小値は類似し,統計学的にも両者の間には有意差を認めなかった.以上より,片眼性上斜筋麻痺における萎縮の判定基準を,健表1患側.健側上斜筋最大面積の比上斜筋萎縮群上斜筋非萎縮群正常群患側/健側(8例)患側/健側(9例)左側/右側(14例)平均(標準偏差)0.49(0.24)0.98(0.09)1.00(0.07)95%信頼区間0.28.0.690.90.1.050.96.1.04中央値0.580.980.99最小値.最大値0.0.750.86.1.140.86.1.12上斜筋萎縮群vs上斜筋非萎縮群,p<0.0001;上斜筋萎縮群vs正常群,p<0.0001;上斜筋非萎縮群vs正常群,p=0.98(Tukey-KramerのHSD検定,a=0.05).表2片眼性上斜筋麻痺の病型別の上斜筋萎縮の頻度病型上斜筋萎縮例(%)先天性(7例)5(71.4%)遅発性(代償不全型)(16例)7(43.8%)後天性(7例)3(42.9%)計(30例)15(50.0%)296あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(136) 右左上斜筋上斜筋図2眼窩MRI冠状断:左眼遅発性上斜筋麻痺(52歳,女性)左眼の上斜筋萎縮を認める.健側に対する患側の上斜筋最大断面積比は約50%.側に対する患側の上斜筋最大断面積比(患側/健眼)が0.75以下とした.先の17例を含む30例の片眼性上斜筋麻痺を病歴から3病型に分類したところ,先天性7例,遅発性16例,後天性7例であった.各症例の上斜筋最大断面積比を算出し,萎縮の判定基準を上斜筋最大断面積比0.75以下として,萎縮の有無を判定した.表2に,片眼性上斜筋麻痺の病型別の上斜筋萎縮の頻度を示す.3病型に占める萎縮の頻度は,それぞれ先天性71.4%,遅発性43.8%,後天性42.9%,全体では50.0%であった.病型別の萎縮の頻度には統計学的に有意差を認めなかった.III考按Satoら5)は,上斜筋麻痺の上斜筋体積の左右の比を計測し,75%以上を非萎縮,50.75%を軽度,25.50%を中等度,25%以下を重度と分類して,萎縮度を評価している.正常コントロールを用いず,一個体内で上斜筋体積の左右の比を計測するこの方法は比較的簡便であり臨床で用いやすいという利点があるものの,両側性の症例には応用できないという欠点がある.筆者らは2,3),正常者の左右の上斜筋最大断面積の二変量正規楕円(95%)を外れるものを上斜筋萎縮と規定し,片眼性上斜筋麻痺と臨床診断された症例の上斜筋萎縮の判定を行った結果をこれまで報告している.この解析方法は,症例によっては両側性の萎縮の判定も可能であるものの,解析が煩雑であるという欠点があった.他方,今回採用した解析方法は上斜筋最大面積の測定のみであり上斜筋体積の測定と比較しても簡便であり,片眼性のみに限られるが,臨床上有用と思われる.加えて,Clarkら6)は,上斜筋萎縮を認めた上斜筋麻痺の上斜筋最大面積と上斜筋体積を計(137)測し,いずれも正常者の約50%であることを報告しており,このことからも上斜筋萎縮の判定は上斜筋最大面積,上斜筋体積のいずれにも応用が可能と思われる.今回の検討結果を含めた,これまでの解析結果を総合的に考慮すれば,健側に対する患側の上斜筋の最大断面積,あるいは体積が75%以下であれば,上斜筋萎縮と判定するのが妥当と判断される.臨床経験からも,軽度の萎縮と判定できる症例,明らかな萎縮と判定できる症例(図2)では,それぞれ75%,50%程度の萎縮があると推察される.今回,新たに採用した解析方法で上斜筋麻痺の50%に上斜筋萎縮を認めた.Demerら7)も,臨床診断された上斜筋麻痺の47%に上斜筋萎縮と収縮力の低下を認めたと報告している.逆にいえば上斜筋麻痺と臨床診断されるものの上斜筋形態異常を認めない症例が半数あるということであり,これらの症例においては,上斜筋異常以外の病因も探る必要があるのではないだろうか.筆者らの解析では,上斜筋萎縮の占める割合は先天性が最も多かったが,病型の間には有意差はなかった.他方,Ozkanら8)は,先天性と後天性の間に上斜筋萎縮の程度には差がないことを報告している.しかし,今回の解析とSatoら5)が行った病型分類(遅発性を後天性に含める)の方法は異なるものの,Satoらも,先天性の75.9%,後天性の55.6%に萎縮を認めたと報告し,今回の解析結果と同様,上斜筋萎縮の割合が病型で異なることを指摘している.Ozkanらは上斜筋萎縮の明らかな症例を対象としており,上斜筋萎縮を認める症例であればその程度には病因による差を認めないのかもしれない.上斜筋形態異常の評価については,患側の上斜筋最大面積あるいは体積が健側の75%以下で上斜筋萎縮と判定するのあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014297 が適当と思われる.今回採用した判定基準では,上斜筋麻痺と臨床診断された約50%に上斜筋形態異常を認めたことを報告した.この論文は,第66回日本臨床眼科学会(2012)で発表した内容を一部修正・追加したものであり,文部科学省科学研究費補助金(20592044,22591964)の援助を受けた.文献1)HortonJC,TsaiRK,TruwitCLetal:Magneticresonanceimagingofsuperiorobliquemuscleatrophyinacquiredtrochlearnervepalsy.AmJOphthalmol110:315-316,19902)KonoR,OkanobuH,OhtsukiHetal:AbsenceofrelationshipbetweenobliquemusclesizeandBielschowskyheadtiltphenomenoninclinicallydiagnosedsuperiorobliquepalsy.InvestOphthalmolVisSci50:175-179,20093)KonoR,OkanobuH,OhtsukiHetal:Displacementoftherectusmusclepulleyssimulationgsuperiorobliquepalsy.JpnJOphthalmol52:36-43,20084)KonoR,DemerJL:Magneticresonanceimagingofthefunctionalanatomyoftheinferiorobliquemuscleinsuperiorobliquepalsy.Ophthalmology110:1219-1229,20035)SatoM,YagasakiT,KoraTetal:Comparisonofmusclevolumebetweencongenitalandacquiredsuperiorobliquepalsiesbymagneticresonanceimaging.JpnJOphthalmol42:466-470,19986)ClarkRA,DemerJL:Enhancedverticalcontractilitymagneticresonanceimaginginsuperiorobliquepalsy.ArchOphthalmol129:904-908,20117)DemerJL,MillerMJ,KooEYetal:Trueversusmasqueradingsuperiorobliquepalsies:Musclemechanismsrevealedbymagneticresonanceimaging.UpdateonStrabismus&PediatricOphthalmology(LennerstrandG),p303-306,CRCPress,BocaRaton,19958)OzkanS,AribalME,SenerECetal:Magneticresonanceimaginginevaluationofcongenitalandacquiredsuperiorobliquepalsy.JPediatrOphthalmolStrabismus34:29-34,1997***298あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(138)