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結節性硬化症に難治性の裂孔原性網膜剝離を合併した1例

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1781.1783,2017c結節性硬化症に難治性の裂孔原性網膜.離を合併した1例平井和奈*1青木悠*1佐藤圭悟*2井田洋輔*2伊藤格*2渡部恵*1大黒浩*1*1札幌医科大学眼科学講座*2市立室蘭総合病院眼科CACaseofRefractoryRetinalDetachmentinaPatientwithTuberousSclerosisKazunaHirai1),HarukaAoki1),KeigoSato2),YousukeIda2),KakuIto2),MegumiWatanabe1)andHiroshiOoguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,MuroranCityGeneralHospital目的:今回筆者らは結節性硬化症患者に難治性の裂孔原性網膜.離を合併したC1例を経験したので報告する.症例:18歳,男性.平成C28年C1月より右眼の視力低下を自覚し近医を受診.眼底に結節性硬化症による網膜過誤腫および硝子体出血を伴う網膜.離を認め,札幌医科大学附属病院紹介となった.初診時に周辺部に多発する網膜過誤腫および鼻側上方に裂孔を認め,同年C4月に網膜輪状締結術を施行した.しかし,網膜復位を得ることができず,右眼硝子体手術,六フッ化硫黄ガス(sulferhexa.uoride:SCF6)置換を施行.その後網膜復位を得ることができたが,経過観察中に再.離を認めたため,同年C5月に右眼硝子体手術,シリコーンオイル置換を施行し現在まで再.離なく経過している.結論:本症例では周辺部網膜に多発した網膜過誤腫により硝子体の牽引や網膜収縮が生じ,これらの要因が網膜.離の復位を困難にさせた可能性が示唆された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCrefractoryCretinalCdetachmentCinCan18-year-oldCmaleCwithCtuberousCsclerosis.CCasereport:Thepatientvisitedanophthalmologicclinicbecauseofvisuallossinhisrighteye.Hamartomaandvitreoushaemorrhagerelatedwithtuberoussclerosiswerefoundintheeye,andhewasreferredtoSapporoMedi-calCUniversityCHospital.CRetinalCdetachmentCwithCmultipleChamartomaCwasCobservedCinCtheCeye.CInitialCsurgeryCemployedtheencirclingprocedure,butretinopexycouldnotbeattained.TheeyewasthenoperatedbyPPVwithgastamponade,andretinopexywasachieveded.Duringfollow-up,retinaldetachmentwasagainfoundintheeye,whichthenunderwentPPV+PEA+IOL+siliconeoiltamponade.Retinopexyhasbeenmaintainedthusfar.Conclu-sion:Retinalmultiplehamartomamaycausevitreoustractionandretinalshrinkage,resultinginrefractoryretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1781.1783,C2017〕Keywords:結節性硬化症,過誤腫,網膜.離.tuberoussclerosis.hamartoma,retinaldetachment.はじめに結節性硬化症は全身の諸臓器に過誤腫や白斑を認め,精神発達障害や行動異常などさまざまな症状を呈する疾患である1).眼合併症として網膜過誤腫および無色素斑を認めることが多い2)が裂孔原性網膜.離を合併した報告例は少ない.今回筆者らは結節性硬化症に合併した網膜.離で治療に難渋した症例を経験したので報告する.CI症例患者:18歳,男性.主訴:右眼の視力低下.既往歴および家族歴:0歳:結節性硬化症,3歳:てんかん発作(1度のみ),9歳,17歳:脳腫瘍で手術.現病歴:平成C28年C1月,右眼視力低下を自覚し近医を受診.網膜.離の精査目的に市立室蘭総合病院紹介となり,右眼眼底に結節性硬化症による網膜過誤腫と硝子体出血を伴う裂孔原性網膜.離が認められ,手術目的にC4月C12日札幌医科大学附属病院(以下,当院)紹介となった.初診時視力右眼C0.02(n.c.),左眼C0.3(1.0C×.2.75D(cyl.1.00DCAx25°),眼圧右眼C10.0CmmHg,左眼C11.0CmmHg,前眼部および中間〔別刷請求先〕平井和奈:〒060-8543札幌市中央区南C1条西C16丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:KazunaHirai,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,S.1,W.16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(143)C1781図1入院時右眼眼底所見右眼C1時方向に原因裂孔,11.2時にかけて網膜.離を認め,周辺部に器質化した硝子体出血を伴っていた.図3退院時右眼眼底所見シリコーンオイル下にて再.離なし.透光体に特記すべき異常なし.右眼C1時方向に裂孔を認め,11.2時方向に網膜.離を認め,周辺部に器質化した硝子体出血およびC2,9,11時方向に多発する網膜過誤腫を認めた(図1).硝子体出血減少後の眼底検査や眼底写真では網膜.離は黄斑部までは達していなかったが,硝子体出血のため黄斑部COCTは描出不良だった.CII経過平成C28年C4月C13日に右眼網膜.離に対し全身麻酔下で右眼網膜輪状締結術を施行した.術式は,原因裂孔に対して冷凍凝固を行い,網膜下液の排液はせず,2,4,7,10時に輪部からC13Cmmの位置に強膜トンネルを作製し,厚さC0.6図2術後所見網膜復位を得ることができた.mm,幅C2.5Cmmのシリコーンバンド(#240,MIRA社)で輪状締結を行った.網膜下液は減少したが,裂孔の閉鎖を得ることができずC11.7時方向の網膜.離が残存したため,4月25日全身麻酔下で水晶体温存のC25ゲージ硝子体切除術を施行し,SFC6ガス置換をして終了となった.その後は網膜復位し退院となり,市立室蘭総合病院通院となった(図2).5月C19日に再.離を認めC5月C20日当院に再入院となった.入院時視力右眼手動弁C30Ccm,前眼部および中間透光体に特記すべき異常なし.右眼眼底にC11時方向に原因裂孔を認め,ほぼ全周にわたる網膜.離で黄斑.離を伴っていた.5月23日に全身麻酔下で右眼水晶体再建術,眼内レンズ挿入術,25ゲージ硝子体切除術,シリコーンオイル置換を行った.術中は輪状締結周囲の硝子体皮質の癒着が認められ,鉗子を用いて丁寧に癒着を解除する必要があった.その後は網膜復位を得ることができ,退院時視力右眼(0.2)で現在まで良好な経過をたどっている.現在オイル下での網膜復位を得ることができており,今後シリコーンオイル抜去を行う予定となっている.CIII考按結節性硬化症はCtuberousCsclerosisCcomplex1(TSC1),tuberoussclerosiscomplex2(TSC2)のいずれか一方に生じた遺伝子変化により遺伝子の発現が低下もしくは抑制され,遺伝子にコードされる腫瘍抑制因子の発現が低下することで全身の諸臓器に局所性の形成異常や過誤腫を発生する疾患として知られている2).約C50%に眼病変を合併するといわれており3),眼病変の多くが網膜過誤腫や無色素斑で,網膜.離の症例報告は少ない4).現在,結節性硬化症のさまざまな病1782あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(144)変に関する発生メカニズムが解明されてきているが,まだ具体的なメカニズムが明らかになっていない病態も多い.過去に,結節性硬化症患者が網膜過誤腫により漿液性網膜.離や硝子体出血を引き起こした症例が複数認められているが,これらの症例では自然軽快を認める例も多く,外科的な治療を要する例は少ない5).裂孔原性網膜.離に関しては,網膜過誤腫により硝子体牽引を引き起こした症例が報告されている6,7).本症例は初回手術では若年で周辺側に単一の裂孔があったことから強膜内陥術を施行した.初診時には硝子体出血を認めていたが,.離は黄斑部まで達しておらず視力低下は器質化した硝子体出血の影響が考えられた.また,裂孔の径が小さかったことから,眼球運動障害の出にくいシリコーンバンドのみでの輪状締結術としたが,裂孔の閉鎖を得ることができず,硝子体の牽引が強く輪状締結のみでは網膜下液が引き切らなかったため硝子体切除術を施行した.1回目の硝子体切除術では水晶体温存で行ったが,本症例のような若年者の場合,人工レンズ挿入術を行うことで近見障害を惹起し,術後の視機能が劣化するため,有水晶体眼の状態で硝子体切除術を行った.それにより硝子体牽引は解除し,いったんは復位したが,若年者の完全な硝子体の郭清の困難さに加え,網膜過誤腫による硝子体癒着が影響し,再.離を起こしたものと考えられた.したがって,結節性硬化症に伴う裂孔原性網膜.離は,硝子体牽引や網膜収縮を引き起こし再.離を引き起こす可能性があると考えられた.今回筆者らは結節性硬化症に難渋した裂孔原性網膜.離を合併した症例を経験した.多発する網膜過誤腫は硝子体牽引や網膜収縮を引き起こし治療を困難にさせる可能性があるため手術を行う際は,輪状締結併用硝子体手術や周辺まで徹底した硝子体郭清など慎重に治療方針を検討する必要があると考えられた.文献1)NorthrupH,KruegerDA;InternationalTuberousSclero-sisCComplexCConsensusCGroup:TuberousCsclerosisCcom-plexCdiagnosticCcriteriaCupdate:recommendationsCofCtheC2012CInternationalTuberousCSclerosisCComplexCConsensusConference.PediatrNeurol49:243-254,C20132)金田眞里,吉田雄一,久保田由美子ほか:結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン.日皮会誌C118:1667-1676,C20083)RowleyS,O’CallaghanF,OsborneJ:Ophthalmicmanifes-tationsCofCtuberousCsclerosis:aCpopulationCbasedCstudy.CBrJOphthalmolC85:420-423,C20014)MennelCS,CMeyerCCH,CPeterCSCetCal:CurrentCtreatmentCmodalitiesforexudativeretinalhamartomassecondarytotuberoussclerosis:reviewoftheliterature.ActaOphthalC-molScandC85:127-132,C20075)DuttaJ:Ararecaseofvisuallossduetoserousdetach-mentassociatedwithretinal“mulberry”hamartomainacaseoftuberoussclerosis.JOculBiolDisInforC5:51-53,C20136)GoelCN,CPangteyCB,CBhushanCGCetCal:Spectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCofCastrocyticChamartomasCintuberoussclerosis.IntOphthalmolC32:491-493,C20127)ShieldsCCL,CBenevidesCR,CMaterinCMACetCal:OpticalCcoherencetomographyofretinalastrocytichamartomain15cases.OphthalmologyC113:1553-1557,C2006***(145)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1783