‘結膜縫合’ タグのついている投稿

線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):493?496,2020?線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例相原佑亮陳進輝木嶋理紀大口剛司新明康弘石田晋北海道大学大学院医学研究院眼科学教室ThreeCasesthatRequiredSurgicalBlebRevisiontoResolveaLeakingBlebafterTrabeculectomyYusukeAihara,ShinkiChin,RikiKijima,TakeshiOhguchi,YasuhiroShinmeiandSusumuIshidaDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversityはじめにマイトマイシンC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)後早期の房水漏出は,低眼圧のみならず,感染症や脈絡膜?離,低眼圧黄斑症,角膜内皮障害などさまざまな合併症の原因となるため,積極的な処置が必要となる.対処法として,自己血清点眼などの保存的療法のほか,結膜縫合などさまざまな観血的治療法が報告されている.術後早期の房水漏出に関しては,術直後で漏出量がごくわずかな自然治癒が期待される症例を除き,結膜縫合による観血的処置を行うことが基本である1).〔別刷請求先〕陳進輝:〒060-8648北海道札幌市北区北14条西5丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:ShinkiChin,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,N-14,W-5,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8648,JAPAN図1濾過胞再建術と結膜縫合の併用法症例1に行ったシューレース縫合であるが,症例2と症例3にはブロック縫合を行った.針を用いて行った場合には,①の部位の結膜を穿刺して2%キシロカインを結膜下注射しながら?離していったが,癒着が強く?離できなかった場合には以下のように行った.まず輪部から離れた結膜部を小さく切開し(①),癒着した濾過胞部周囲を円蓋部側までスプリング剪刀で?離した(②),最後は輪部の結膜を10-0ナイロン丸針で結膜縫合を行った(③).しかしながら,術後早期に限局性の濾過胞となって房水漏出がみられる場合,房水を十分に吸収できる機能的な濾過胞とならないためか,単純な結膜縫合のみでは改善せずに治療に苦慮することがある.今回筆者らは,円蓋部基底切開によるLEC術後早期に生じた限局性濾過胞の輪部付近から房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで漏出を止めることに成功した3例4眼を経験したので報告する.I症例〔症例1〕37歳,男性.4年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行ったが視野障害が進行してきたため,手術目的に北海道大学病院眼科(以下,当院)に紹介となった.入院時視力は右眼0.01(0.5×sph?10.50D(cyl?1.00DAx165°),左眼0.01(0.1×sph?10.25D(cyl?1.75DAx180°),眼圧は右眼21mmHg,左眼19mmHg.視野はHumphrey30-2SITA-standard(Humphrey30-2)にて,右眼が重度視野欠損(MD値?17.16dB),左眼も重度視野欠損(MD値?18.35dB)であった.眼圧日内変動検査にて,右眼19?25mmHg,左眼19?26mmHgと両眼の眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後6日目より濾過胞が限局化し,輪部側に虚血性の濾過胞が出現した.術後8日目に輪部から房水漏出がみられたため,同日輪部の結膜を縫合し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム1日6回点眼を開始.術後12日目に0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を自己血清点眼に変更したが,房水漏出は消失しなかった.術後14日目にはabcd図2限局性濾過胞と輪部からの房水漏出の経過aは症例1の左眼.LEC術後19日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.bは症例1の右眼.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.cは症例2.LEC術後18日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.dは症例3.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,その後は房水漏出の再発はなかった(術後4日目のoozingによる房水漏出は,輪部から離れたブレブの中央部分であり,図から省いた).図3症例1の右眼の濾過胞再建術併用結膜縫合術前の濾過胞(a)と術後1日目の濾過胞(b)濾過胞再建術併用結膜縫合術前には,虚血部を伴う限局性の濾過胞を認め,周囲の結膜は充血し,輪部結膜からの房水漏出を認めた.術後はびまん性の濾過胞が形成され房水漏出は消失した.輪部に縫合を追加したが房水漏出は改善しなかった.術後19日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部の結膜縫合を行ったところ(図1),びまん性の濾過胞が形成され,房水漏出は停止した(図2a).右眼は左眼と同様な経過をたどり,LEC後7日目より,輪部に接する部分に虚血部を伴う限局性の濾過胞となった.術後13日目には輪部結膜から房水漏出が出現したため自己血清点眼1日6回を開始した(図3).しかしながら,術後14日目になっても房水漏出に改善がみられず,眼圧も18mmHgに上昇したため,スプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成して虚血部位は消失し,房水漏出は消失した(図2b,3).〔症例2〕63歳,男性.6年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断されて点眼治療が行われていたが,右眼の視野進行を認めたため,手術目的にて紹介となった.入院時視力は,右眼0.04(0.5×sph?6.50D(cyl?1.00DAx155°),左眼0.09(0.3×sph?1.50D(cyl?3.00DAx90°),眼圧は右眼20mmHg,左眼20mmHg.視野はHumphrey30-2にて右眼は重度視野欠損(MD値?13.73),左眼は早期視野欠損(MD値?5.88)がみられた.眼圧日内変動検査にて,右眼17?20mmHg,左眼17?19mmHgであったが,右眼は重度視野欠損であり,かつ視野進行が認められたため,LECを行った.LEC後12日目に輪部に接した部分が虚血性となって濾過胞が限局化し,輪部側からの房水漏出がみられた.房水漏出は軽微であったため,0.1%ベタメタゾン点眼を中止して0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を1日6回開始した.術後13日目になっても房水漏出に改善がないため,自己血清点眼1日6回に変更した.術後15日目も房水漏出が続いていたため,輪部結膜に縫合を行い,0.1%ベタメタゾン点眼右眼1日6回を再開,自己血清点眼を終了した.しかし,術後17日目になって,輪部結膜からの房水漏出が再発したため,術後18日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞が形成され,虚血部位が消失して房水漏出もなくなった(図2c).〔症例3〕78歳,女性.両眼の原発開放隅角緑内障の診断で約20年前から点眼治療が開始され,7年前に右眼のLECが施行されていた.今回は右眼視野が進行したため,手術目的にて当院紹介となった.視力は右眼0.2(0.2×sph+0.25D(cyl?1.00DAx110°),左眼0.01(0.02×sph+2.00D).眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg.Goldmann動的視野検査にて,右眼は湖崎分類III-b,左眼は湖崎分類V-bであった.眼圧日内変動検査にて右眼15?22mmHg,左眼16?27mmHgと両眼とも眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後とくに問題なく経過した.右眼のLECは,前回行われた上耳側を避けて上鼻側に行った.LEC術後4日目に角膜輪部から離れたブレブ中央の菲薄部分からoozingが出現したため,1日4回点眼していた0.1%ベタメタゾンを中止し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムを1日6回開始したところ,翌日には房水漏出は停止した.術後6日目には0.1%ベタメタゾン点眼を1日4回で再開した.術後12日目に限局性となった濾過胞の輪部側から房水漏出が出現したため,結膜縫合を行った.翌日には房水漏出は停止し0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を中止としたが,術後14日目に再び輪部より房水漏出が出現したため,25G鋭針を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成し,房水漏出は停止した.(図2d).II考按一般に,円蓋部基底結膜切開によるLECの早期合併症の一つとして輪部付近からの房水漏出があり2),輪部結膜切開創に対するさまざまな縫合法が考案されてきた1,3).LEC術後,濾過胞周囲に癒着が生じるのに伴い,局所的な濾過胞となって濾過機能を失い,眼圧上昇を伴う場合がある4).このような濾過胞に対し行う濾過胞再建術として,鋭針やナイフなどを用いて結膜?強膜間の瘢痕癒着を解除し,結膜下腔への房水の流れを回復させる手法があり4),さらなる緑内障手術を回避するために有効な手段とされる5).LEC術後早期の段階で限局性の濾過胞となってしまい,輪部結膜からの房水漏出が生じた際に,通常の結膜縫合だけでは改善せず,房水漏出を繰り返す症例をしばしば経験する.このような症例では,濾過胞が限局化したことにより,濾過胞内の前房水による圧力負荷が高くなっているものと推察される.その結果として結膜が伸展され,圧力の低い結膜の細血管や毛細血管が虚脱2),虚血性の濾過胞様の所見になっているのではないかと考えられる6).今回筆者らは,結膜縫合のみでは房水漏出を止められなかった症例に対して,濾過胞再建術を併用することで房水漏出を止めることに成功した.癒着が強く,針では解除できない症例に対しては,先端の細いスプリング剪刀を用いて行った.房水漏出直前の平均眼圧は7.0±2.5mmHg(4?11mmHg)であり,眼圧が上昇しはじめた頃に漏出が起こっている(図2).漏出が起こったのは術後平均11.3±1.6日目(8?13日)であり,いずれも濾過胞の限局化が生じてから1週間以内に発生していた.このことから,創傷治癒に伴う限局化によって起こる濾過胞機能低下と濾過胞内圧の上昇が,漏出に関与している可能性が示唆された.また,漏出が止まったときの平均眼圧は10.0±3.5mmHg(3?16mmHg)であり,症例2を除き,縫合前より上昇した症例はみられなかった.これは結膜縫合に併用した濾過胞再建による機能性濾過効果と考えられる.さらに,この眼圧下降に加え,濾過胞周囲の癒着を?離したことにより,限局化して輪部方向へ集中していた水圧が減圧され,その結果,水圧によって生じていた縫合不全が起こらず,創部は上皮化され房水漏出の停止に至ったと考えられた.症例2で濾過胞再建術併用後の眼圧下降が小さかったのは(図2c),外見上びまん性の機能性濾過胞様にみえても,内部の瘢痕化や肉芽形成などにより機能性濾過胞効果が低下7)していた可能性がある.また,濾過胞再建術併用後に濾過胞の虚血部位が消失した理由としては,前述のような濾過胞内圧の上昇によって一過性に虚脱した結膜の細血管や毛細血管が,濾過胞再建によってびまん性の濾過胞となり,局所性にかかる圧力が低下したことによって結膜血管が復元した結果と推測された.今回,術後早期の限局化した濾過胞の輪部からの房水漏出に対して濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行った結果,房水漏出を止めることができた.一方,症例1の右眼に関しては,房水漏出を繰り返した左眼と同様の経過をたどり房水漏出に至ったため,結膜縫合を単独で行うことなく初めから濾過胞再建術を併用し,良好な結果を得た.術後早期の限局化した濾過胞からの房水漏出で,濾過胞内の圧力負荷がその一因と疑われる症例では,結膜縫合を縫合する際に,初めから濾過胞内圧を下げる濾過胞再建術を併用した結膜縫合をすべきであると考えられた.文献1)陳進輝:トラベクレクトミー術後の房水漏出について.FrontiersinGlaucoma54:172-176,20172)相原一:線維柱帯切除術における切開部位と創傷治癒の検討.FrontiersinGlaucoma7:226-232,20063)庄司信行:結膜切開方法による違いは?緑内障(根木昭,相原一編),眼手術学6,97-99,文光堂,20124)LinS,BylesD,SmithM:Long-termoutcomeofmitomy-cinC-augmentedneedlerevisionoftrabeculectomyblebsforlatetrabeculectomyfailure.Eye(Lond)32:1893-1899,20185)AminiH,EsmailiA,ZareiRetal:O?ce-basedslit-lampneedlerevisionwithadjunctivemitomycin-Cforlatefailedorencapsulated?lteringblebs.MiddleEastAfrJOphthal-mol19:216-221,20126)HirookaK,MizoteM,BabaTetal:Riskfactorsfordevel-opingavascular?lteringblebafterfornix-basedtrabecu-lectomywithmitomycinC.JGlaucoma18:301-304,20097)金本尚志:濾過胞維持─増殖・瘢痕抑制のための試み.眼科手術21:179-184,2008◆**